tnlabo’s blog   「付加価値」概念を基本に経済、経営、労働、環境等についての論評

人間が住む地球環境を、より豊かでより快適なものにするために付加価値をどう創りどう使うか。

正常な段階に移行する日本経済

2015年04月30日 09時41分08秒 | 経済
正常な段階に移行する日本経済
 アベノミクスによる日本経済の回復の本質は何だったのでしょうか。第1の矢:金融政策、第2の矢:財政政策、第3の矢:構造改革などとしていますが、本当に有効だったのは「金融緩和」だけだったような気がしています。

 それほど金融政策の影響が大きかったということでしょうが、それには当然理由があります。だいたい日本経済が「失われた20年」を経験したのは何のせいだったのでしょうか。多くの方が実感しておられるように、それは1ドルが240円から120円になり、更に80円になるという円高のせいでした。

 現に「プラザ合意」までは日本経済は「ジャパンアズナンバーワン」でした。世界でも超健全で高パフォーマンスの日本経済を地獄の苦しみに落としたのは「円高」でした。
 であってみれば、円レートが正常に戻れば、日本経済は自然に「世界でも最も優れたパフォーマンス」の経済に戻るはずです。

 勿論失われた20年は日本経済・社会に様々な歪みをもたらしましたが、それも、為替レートが正常に戻れば、次第に復元していくでしょう。
 繰り返しますが、長かった日本経済の不振は、日本経済に原因があったのではなく、強いられた円高に原因があったのです。

 そして日銀の政策変更で、円レートは正常な状態に戻りました。私が日本経済の今後を(対外関係さえ安定していればという条件付きで)楽観している理由です。

 ただ、最近言われる「株価はバブルか?」といった問題との関連で言えば、この2年間は、2度にわたる日銀の金融緩和で企業は奇貨(windfall profit)を得たということです。

 円安は、輸出入部門にプラス/マイナス影響を齎すよりずっと大きなマグニチュードで「日本国内の全てのコスト」(同時に物価も)を下げる(勿論ドル建て)という効果で、日本経済の競争力を強化する効果を持つからです。

 この効果による企業収益の増加(典型的には円安差益)が証券市場の活況をもたらしたとすれば、今後、企業収益は正常な営業取引によって生まれるものが中心となり、株式市場も円安による大幅増益で株価上昇といったことはなくなり、正常に戻るでしょう。

 しかし一方では、この2年の過程で、日本企業は財務体質を改善し、強化された競争力は、豊かな資金による技術開発でさらに磨きがかかるかもしれません。
 円安バブルはもう期待すべきではありません。これからは、企業が実力で勝負し、高収益を上げられる体制に磨きがかけられるか、それが試される時期になるようです。

新入社員、仕事優先は半数切る

2015年04月28日 09時58分48秒 | 労働
新入社員、仕事優先は半数切る
 就職情報会社「マイナビ」の調査によれば、今年の新入社員は、「仕事優先の生活を送りたい」、「どちらかといえば仕事優先の生活を送りたい」の合計が、はじめて50パーセントを切ったそうです。

 ということで、増えたのは「プライベート優先」、「どちらかといえばプライベート優先」で、 両者の合計が昨年より4.6パーセント増えて53.3パーセントになったと報告されています。
 プライベート優先派は、今までも年々増えて来ていましたから、いつかは過半数というのは当然予想されたことですが、今年は増え方も大きかったようです。

 欧米ではもともとプライベート優先で、有給休暇完全消化が常識、日本のように有給休暇取得率が半分以下などいうことは想像もつかないという事のようですが、これも、それぞれの伝統文化、宗教の影響などといわれて来ました。

 日本人は働くことは良いこと、働くことは人間を成長させることと考え、「勤労」を貴んできましたが、失われた20年の中で、(それをいいことに)「無理な働き方」の強制が随分あったことなども、仕事優先減少の背景にあるような気もします。

 いずれにしても、自分の時間を「仕事」と「プライベート」に「どのように配分するか」を自分の判断で決めていけるようになる事は人間として大変大事なことでしょう。
 政府は有給休暇の取得を法律で強制するなどということまで考えているようですが、そんなことの必要ない社会になって来るようです。

 こうした調査では「仕事」「プライベート」の二元論にならざるを得ないのですが、現実の生活を考えてみれば、その間にはどちらか解らない領域も沢山あります。そうした多様な生活の中で、それぞれが自分で、自分の「ワーク・ライフバランス」を設計できるような「自主性の確立」がなされ、それを前提にした「社会構造」が出来るように考えるのが自然ではないでしょうか。

 そうした自主性の確立した社会の中で、日本人が、「働くということ」にいかなる意義付けをしていくかが今後本格的に問われることのような気がします。

ホンダジェット羽田に飛来

2015年04月24日 11時28分38秒 | 科学技術
ホンダジェット羽田に飛来
 また一つ日本のモノづくりの夢が形になったようです。
 昨4月23日、小さくてスマートで高性能なホンダジェットが本拠地のアメリカから羽田に飛来しました。

 飛行機の製造はホンダの創業者本田宗一郎氏の夢だったのだそうです。本田さんの初期の著作「俺の考え」には飛行機の事まで書いてあったかどうか忘れましたが、航空機の制作は日本のモノづくり産業の悲願でもあったように感じています。

 YS-11の製造が中止されてから、海外の主要航空機メーカーに主要部品を供給しながらも、完成品の無かった日本企業に(新明和あの飛行艇が一人気を吐いていました)、突如ホンダジェットという完成品が登場したのです。
 のびのびになっているMRJの完成も近いようです。いよいよ日本の飛行機が、世界の空をまさに雄飛する日が近くなったということでしょう。

 二輪車、自動車で築き上げた日本の乗り物の技術、これから飛行機でも世界に実証されていくでしょう。軽い、広い、燃費が良い、機能にマッチした素晴らしいデザイン、これからが楽しみです。

 昭和30年代の終わりだったでしょか、主要自動車メーカーの調査部の方に質問したことがありました。
「カメラでも、オートバイでも日本のメーカーは世界を席巻しつつあります。この次は自動車ではないでしょうか?」

 その方は、アメリカ、ヨーロッパの自動車文化の伝統を説いて、「自動車はそうはいかないでしょう」と謙遜しておられました。しかし、既に結果は出されています。
 次は飛行機とは言わないまでも、日本企業の作る飛行機の性能は客観的に見ても大変優れたものと言える様です。
 
 これからの日本の航空機産業には期して待つべきものがあるように感じています。

総資本利益率vs.自己資本利益率

2015年04月23日 10時44分34秒 | 経営
総資本利益率vs.自己資本利益率
 戦後の高度成長期、日本の企業は自己資本が十分でなく借金経営でした。法人企業統計年報の全産業・規模計の自己資本比率は戦後から一貫して下がり続けでした。一体どこまで下がるのだろうと思っていました。

 高度成長時代の終焉は突如来ました。1973年の第一次オイルショックで日本経済はゼロ成長に転落、1975年の小康状態を挟んで、1978~9年の第二次オイルショックを乗り切るまで日本経済は苦難の連続でした。

 この不況を克服して日本は「ジャパンアズナンバーワン」といわれたのですが、この間企業は、借金経営(自己資本比率の低い経営)の辛さを十分に味わったようで、1976年の13.7パーセントを底に、法人企業統計年報の自己資本比率は上昇に転じました。

 当時、外国の企業やアナリスト、学者などから「あんな低い自己資本比率で経営できるのは異常」などと言われましたが、その背景には、地価上昇(地価神話)とメインバンク制度があったわけです。

 しかし、その後の自己資本比率の上昇もデフレの影響で遅々でした。日本企業の本格的な自己資本比率上昇に向かったのは、バブル崩壊から10年、1999年からで、それまでは19パーセント台でした。

 その後「いざなぎ越え」の時期などを通じて、日本企業は自己資本の充実に努め1913年度の法人企業統計では(最新、全産業・全規模)では37.4パーセント、製造業では43.9パーセントまで上昇、著名企業で日米逆転が見られたことはかつて報告した通りです。

 ところで標記の「総資本利益率(ROA)vs.自己資本利益率(ROE)」ですが、上の流れで言えば、日本企業は総資本利益率重視、アメリカ企業は自己資本利益率重視という全く反対の方向に動いてきたような気がします。

 日本一自己資本比率の高い企業ファナックが、「モノ言う株主」から「90パーセントなどという高い自己資本比率は自己資本を活用していない証拠」といわれ、積極経営の動きを示したことで株価が上昇、などという最近の事象は、アメリカ型経営の反映でしょう。

 この伝で言えば、自己資本比率13パーセント時代の日本企業は小さな自己資本で借金を最大限に活用、自己資本利益率(ROE)を何とか高めようと必死に効率をあげる積極経営ということになりますが、こんな危険なことは前述のように、地価上昇とメインバンク制度があってこそで、通常なら数年前のGMのようになる可能性も大きいのです。

 昔から、会計学では自己資本比率は「50パーセントが基準」などといわれ、経営は「半分は自己資本で」というのが伝統的な保守主義の会計の原則でした。

 世の中往々にして振れすぎる事がありますが、自己資本中心の堅実経営か(ROA主義)、借金を加えて仕事を拡大し、リスクを取って儲けを大きくするか(ROE主義)、論議はあるようですが、長期に繁栄している企業の社是社訓などを見ると、日本は本来ROA主義のような気がしています。

ワシントンG20とアメリカを見る目

2015年04月20日 09時44分48秒 | 国際経済
ワシントンG20とアメリカを見る目
 18日に閉幕したワシントンG20 についての報道の中では、「AIIBが存在感」などという見出しが躍りまし。
未だ形も見えていないAIIBが存在感を示したというのはどういう事でしょうか。

 中国が一人頑張ってみてもG20で存在感を示すことは不可能でしょう。存在感という言葉の裏には、参加国、参加者の多くが、AIIBに何か意義を見出し、それに期待する意識があって始めて存在感が出て来るのでしょう。
 まだ実体がないものに期待するということは、今あるものが期待外れだからということにほかなりません。

 現状はブレトンウッヅ体制に基づくIMF・世界銀行体制の延長ですが、経済力の付いてきている新興国は、IMFに対する出資を増やし、発言権も高めたいと考えるのは当然で、それに対してアメリカが、アメリカ議会の承認が共和党の反対で得られないという形で、事実上の拒否権発動となっているのは報道のとおりでしょう。

 AIIBについては「中国が拒否権を持つべきではない」と言っているアメリカの事ですから、常識的には、自分ならいいが中国なら駄目といった些かわがまま、あるいはあからさまな中国批判ということになります。

 確かにブレトンウッヅ体制は、アメリカ主導で世界経済発展のための高い志を持って出発し、日本もかつては、GATTの11条国、IMFの8条国を目指して、経済建設に努めた経験があります。

 しかし、アメリカが万年経常赤字国に転落、ドルをペーパーマネーにしたニクソンショック以降、ドル切り下げで経済の行き詰まりを回避し、真面目に努力をした日本には円の大幅切り上げをさせ、遂には、サブプライムローンの証券化で世界中の金融機関に大穴を開け、自らも返り血でリーマンショック、その処理に未だ目鼻がつかないのです。

 この間多様な形で、多くの国に 迷惑をかけたわけですから、国際金融はアメリカが主導する、アメリカは公平で透明だと言っても、説得力はあまりないでしょう。
 中国にはいろいろ問題はあるが、これまでのアメリカにも問題が多すぎる、というのが多くの国の意見ではないでしょうか。

 サラリーマンの世界に例えれば、今多くの国は、アメリカという上司の行動に問題を感じ、新しい上司が来ればいいと思っているのかもしれません。しかし、サラリーマンの世界によくあるように、次に来る上司がいい上司とは限りません。
 その中で日本の政府は何をすればいいのか、是は是、非は非として、日本として持つべき「志」を国民にも、世界にも語ってほしいと思います。

バブルなのか、バブルでないのか

2015年04月19日 10時52分25秒 | 経済
バブルなのか、バブルでないのか
 株価が上がっています。日経平均が20,000円を超えて、市場関係者の多くが利食い、利益確定に動いたようで、此の所は利食い売りに押され、多少下押し模様で、小幅な値動きですが、少し休んでまた上げると読んでいる投資家が多いようです。

 政府が焦りに焦っても実体経済の回復は遅々です。ということで「株だけ上がってバブルじゃないの」などいう声も聞かれます。

 バブルの苦い経験をお持ちの方も多いと思います。土地バブルの時に失敗したり、アメリカのラブプライムローン関連(アメリカの住宅バブル)で痛手を受けたり、最近では石油バブルと暴落で世界中が影響を受けています。確かにバブルは要注意です。

 バブルだということが人より先に解ればいいなと思う人は多いようです。ということで、バブルかどうか判断の基準は「あるのか」という問題です。

 基準が「あるのか」「ないのか」解らないからこそバブルが起きて、破裂するわけですから「わからない」というのが正解かもしれません。
 しかし、それでもまた困るので、何か考えてみるのはどうでしょうか。

 かつて、このブログで、「 2種類の物価」というのを書かせて頂きました。
 それに従えば、利用を目的にした売買が主体の時はバブルではなくて、転売して鞘を稼ぐことを目的として取引が中心になるとバブルになる、というのも一つの基準でしょう。

 日本人の生活は、日本経済の規模(GDPの大きさ)によって決まって来るのだから、日本経済の実質的の拡大(実質経済成長率)国民生活の最終的な基準になる、ならば、経済成長率を基準にして、それを大幅に上回って上げり続ける価格があったら、それはバブルではないかと疑う、というのも一つの基準かもしれません。

 株価20,000円はどうかということになると、配当利回りや株主優待に魅力を感じて買える様な値段の株ならバブルではなく、その会社の将来を応援しようと買うのもバブルとは無縁でしょう。しかし、値上がりを見込んで買う取引が増えれば増えるほど、バブル臭いと考えたり、経済・経営実態に比べて上昇テンポが速すぎる、と感じればバブルの範囲に入ると判断するのもまた基準でしょう。

 現に今、日経平均は「上がり過ぎか」ということで下押しています。しかしそうした判断が生きているうちは、大したバブルではないでしょう。
 必ず上がるから「イケイケどんどん」という人が増えると危ないことは確かです。

 バブルに乗って(時には演出して)儲けようというのが投機家の本来ですからプロは匂いを嗅ぎ分けるかもしれません。
 素人は(自称玄人でも)「もうは未だなり、未だはもうなり」などといいながら、失敗も多いようです。
 ギャンブルには基準はないのでしょう。

中国の「ニュー・ノーマル」

2015年04月17日 10時10分37秒 | 政治
中国の「ニュー・ノーマル」
 歴史的に見ても、世界最古とも言われる文字文明を持つ中国だけに、物事の名づけ方はなかなか巧いような気がします。

 10パーセント成長時代から7パーセント成長時代へ。「これは経済不振、成長減速ということではなく、新段階の成長の時代に入ったのだ」ということで、「新常態」とは巧く名付けたものだと感心します。
 
 13億の多様な人間が共存する中国ですから、国民全体の意識を変えていくのは大変な事でしょう。それには先ずみんなが不安などを持たず、納得する「言葉」が必要です。
 国際的に見れば、7パーセントは超高度成長でしょう。新常態へ巧く移行出来れば本音でご同慶の至りです。

 世界で最も小さい方の国シンガポールと世界最大の国中国は共に漢民族中心の多民族国家です。両国はともに高度成長を果し、短期間に先進国に上り詰めていくのでしょうか。シンガポールは先発の実験国家で、中国は超大規模でそれをなぞっていくのでしょうか。

 先日逝去されたリークアンユー首相の初期、シンガポールに行くと毎年「礼儀正しくしましょう」とか「標準語を使いましょう。方言は駄目」などといった横断幕が街中(国中)到る所に懸っていて、新しい国づくりに邁進しているなと実感したことを覚えています。 

 現地の友人は「われわれは日本を見ている」と繰り返していましたが、今、シンガポールは日本に対し「守破離」のプロセスを通過し、小さいながら押しも押されもせぬ一流の先進国です。

 シンガポールの成功を「啓蒙専制君主(enlightened tyrant)」の偉業という人もいますが、中国も共産党一党独裁の体制を取りながら、歴代のリーダーがその役割を果して行くのでしょうか。
 清朝末期、「開明専制論」が戦わされた歴史がありますから、中国のリーダーたちは、多分、その認識はお持ちなのではないでしょうか。

 中国という世界の超大国が脱皮を繰り返し、進化していくそのプロセスで、日本は何か貢献できることはないのでしょうか。それは、かつて中国から多くのことを学んだ日本の恩返しかもしれません。
 そのくらいの気持ちで、中国とお付き合い出来るといいな、などと感じるところです。

AIIB、中国、アメリカ、日本

2015年04月16日 15時30分13秒 | 国際経済
AIIB、中国、アメリカ、日本
 AIIBも57か国で参加国が決定となり、次の段階に進むのでしょうか。
 主要国で参加していないのはアメリカと日本ということですが、アメリカはすでにアメリカとしての積極的意思表明をしたようです。

 「世界銀行との連携を」というのがアメリカのメッセージということのようですが、アメリカはアメリカなりに、金融の国際秩序の問題も含めAIIBにどう対応するか前向きな方針を考えていることは明らかなようです。

 AIIBに最も近接した立場にあるのはアジア開発銀行でしょう。日本は、アジア開銀の歴代総裁を出すリーダー国ですが、日本の財務大臣などが発言したのは、報道されている所では、AIIB、あるいは中国についてのネガティブな発言ばかりで、AIIBが動き出すことを前提に、アジア開銀との関係なども含め、アジアの経済的開発をいかに進めていくかといった前向きの視点のものはありませんでした。

 その結果、いつでも入れる、様子を見る、動きを見定めてからでも遅くはない、などという全く主体性も積極的判断もない、全く腰の引けた様子見の態度に終始して来ています。

 日本と同様に健全経済を維持し、今やヨーロッパのリーダー役を背負わされているドイツのメルケル首相からの勧誘にどう答えたのかは知りませんが、ドイツも健全な経済や金融についての考えを共有できる、しかもアジアの国である日本に入ってもらいたかったのではないでしょうか。

 何を考えて、何を配慮して、日本としてのきちんとした前向きの発言をしないのか、主体的意思の持てない国なのか。数々の確りした経済・社会的な実績を上げて来ている日本がなぜに建設的な発言をしないのか、国民である我々が不審に思うのですから、多分世界中の国々もそう思うのではないでしょうか。

 やることは一人前だが、世界の問題に積極的な発言をするのを何故かためらっているような日本、などという見方が一般化しないように、政府には少し「日本としてはこうあるべきだと思う」と「インパクトのある発言」をして頂くように頑張ってもらいたい気がします。

 

セキュラー・スタグネーション

2015年04月15日 16時14分52秒 | 経済
セキュラー・スタグネーション
経済学を学んだ覚えのある方なら、何となくこんな言葉も記憶しておられると思います。
 セキュラー(secular)というのは「俗世間とか世俗的」とかいう意味だと思っていたら、secular stagnation で「長期不況」だというので何となく違和感を感じられた方も多いかと思います。

 ものの本によれば、secularには「いつまで続くか先が見えない」という意味のあるそうで、第一次大戦後の世界不況の時期に A.ハンセンが唱えたことで有名なった言葉のようです。
 
 最近、バーナンキvsサマーズ論争で、サマーズが使ったので、「あ、そんな言葉もあった・・・!」と思い出された方も多いかと思います。
 金融重視のバーナンキと財政重視のサマーズという形のこの論争は別として、経済政策が金融と財政だけでは「道具不足」と考えていますが、この辺りは「なぜ今世界経済は不振なのか」のシリーズで昨年10月に書かせて頂きました。

 ところで、これからの日本経済ですが、セキュラー スタグネーションとは無関係な道を辿りたいと思いますし、それは十分可能と思っています。
 理由は今まで何度も述べて来た、日本人の真面目さ、勤勉さ、何かやらないと気が済まないエネルギーレベルの高さ、等など、日本人の特質にあるのではないでしょうか。

 顧みれば、第二次大戦後、焦土と化した狭隘な、資源の無い国土で再出発し、世界に類を見舞い高度成長を成し遂げた日本です。
 それまで世界が考えていた、経済発展のためには領土を広げ、資源を確保することが必要という思い込みを粉砕(未だにそう思っている国もありますが)し、経済を発展させるのは、国民の働き、という真実を実践して見せた日本です。

 今、ドイツも「インダストリー4」の掛け声で同様な実験を始めています。ヨーロッパを背負うドイツです、この試みも成功するでしょう。
 日本も負けてはいられません、そして多分負けないでしょう。

 Secular stagnation の現実化などという論争が、実は国民の働き次第でどうにでもなるのが一国の経済、というまともな論議に進化していくように、もう一度日本の力で、世界を驚かせてみませんか。
 それが現実になれば、日本は否応なしに世界から一目置かれる国になるでしょう。

平均消費性向に注目の必要が・・・

2015年04月10日 12時15分13秒 | 経済
平均消費性向に注目の必要が・・・
 御存じのように、消費性向というのは、一般的には所得のうち何パーセントを消費支出したかです。
 統計として使われる数字は総務省の「家計調査」で、「平均消費性向=可処分所得に占める消費支出の割合」です。可処分所得というのは、いわゆる「手取り」で、実収入(給料など所帯で稼いだ金額合計)から天引きされる社会保険料など(非消費支出)を差し引いたものです。

 要するに、手取り収入のうち、何パーセントを所費支出に使ったかという数字で、残った分は黒字率(平均消費性向+黒字率=100%)です。

 代表的な平均消費性向の数字は「家計調査」の「2人以上の勤労者所帯」で、1980年代から最近までの数字を見ますと、70~80パーセントの幅の中に納まっています。
 大まかな傾向は1980年代から2000年直前までは下がり、2000年代からは、リーマンショック、消費増税などでギクシャクはありますが、上がって来ています。

 理由となりそうなものを探せば、1997~8年までは「実質可処分所得」(可処分所得から消費者物価上昇率を引いたもの)が僅かでも増加傾向だったのですが、2000年以降は逆転して減少傾向になっていることでしょうか。
 収入が減っても支出はなかなか減らせないのが現実ということでしょう。

 同時に言えることは、収入が少しでも増加傾向のときの方が、収入が減少傾向の時より平均消費性向は高いということです。
 例えば、年々所得が増加中の1987年と減少中の2012年では実質可処分所得は425千円程度(上記所帯)でほぼ同じですが、平均消費性向は1987年は76.4%、2012年は73.9%で、2.5%ポイント低くなっています。
 先行き不安の時は、消費を抑えて貯蓄に回して将来に備える家計の知恵でしょう。

 政府は、賃上げを推奨し、それで消費が増えれば景気回復といっていますが、将来不安からそれが消費に繋がらず、貯蓄に回るようでは目的は達成されません。

 将来不安の解消には「収入の安定」が最も重要なことは明らかで、それは雇用の安定に支えられています。確かに雇用の増加は進んではいますが、非正規雇用の増加は続いているようです。安定した雇用、雇用も量から質に注目していく必要があるようです。
 その他、年金問題や格差の拡大、国際摩擦など内外の不安要素を克明に取り除いていくことが、消費の安定的な増加にも、ますます重要のような気がします。

生産と消費のバランスに適切な舵取りを

2015年04月08日 17時35分59秒 | 経済
生産と消費のバランスに適切な舵取りを 
 前回、これからが生産性( 国民経済生産性)向上の本番と書かせて頂きました。経済というのは、より良いモノやサービスがより効率的に生産され、そうした新しい魅力的なモノやサービスが消費者に利用(購入)されて、生産と消費がバランス良く循環して経済の均衡成長が可能になります。

 生産性の向上を支えるのは技術革新です、つまり人間の知恵と努力です。それによって生産の効率は上がります。 効率(生産性)が上がれば、コストは下がり、足りないものはより多く生産され、同じ生産なら労働時間が短くなります。
 豊かになり、余暇が増えます。

 それを目指して人間は知恵と努力を注ぎ込み、社会をより「豊かで快適」なものにしていきます。労働時間の短縮、余暇の増加は、人間に新たな自由な活動の時間を齎し、多分それは新しいモノやサービスの需要を生むでしょう。そしてそれに応えるような生産活動を誘発するのです。経済成長の循環プロセスです。

 今、日本では経済成長が思うように実現しないということで政府・日銀も心配しています。少し時間を掛ければ次第にうまくいくと私は考えていますが、それを少しでも早めるためには、技術革新、生産性向上に加えて、消費がバランスよく増えなければなりません。
 ということで、政府は「賃上げ、賃上げ」というのでしょう。

 経済の基本で言えば、賃金は経済の成長に従って増えるのです。経済が成長せずに賃金だけ上げても、インフレか スタグフレーションになるだけです。
 この2年ほどは、円安で差益が出ましたからそれで賃上げをという意見もあるようですが、賃金論から言えば、それは「ボーナスに反映」というのが正しいのでしょう。

 現実には、雇用が順調に増えています。先ず量的に増え、次第に質的な改善も進むでしょう。これは出来れば積極的に進めるべきでしょう。経験的には、人間は、生活が安定すれば、勤労意欲も消費意欲も共に増加するようです。特に日本人の場合、これが顕著のように思います。

 但し、失われた20年で、日本人は防衛的になり、出来るだけ消費を抑えるような生活の癖がついたようです。その結果が、此の所の経常収支の黒字の増大に現れています。生産した GDPを使い残して余らせているのです。これはいろいろな意味で危険です。

 これから日本の経済社会は順調な発展が期待できる条件を備えて来ています。消費の活発化も含め、如何にして日本人がそうした自信を取り戻すことが出来るか、考える必要があるようです。

日本経済、今後の安定成長に必要なもの

2015年04月06日 07時27分54秒 | 経済
日本経済、今後の安定成長に必要なもの
 アベノミクスを喧伝する政府ですが、現在の日本経済は、ちょっとした成長の踊り場にあるのかもしれません。

 この2年ほどの円安で、日本経済は様変わりに変わりました。輸出関連と輸入関連の損得の問題はありますが、日本経済トータルとしては、円安は、その分だけ賃金を含む国内コストを下げ、同じだけ国産品(含サービス)の価格を下げました。

 もちろんこれはドル建ての話ですから、国内(円建て)では、賃金も物価も変わりません。しかし日本の国際競争力は強くなり、輸出部門では為替差益が出、そうした事が原因で株価が上がり、好況になりました。これは円高になった時との正反対の現象です。

 しかしこれ以上の円安は多分ないでしょう。また、ない方が健全でしょう。
ということですと、80円から120円になった円安過程に伴う好景気はおしまいです。あとはまともな経済成長への努力だけが日本経済を押し上げます。
 円高というアゲインストの風が円安というフォローの風に代わり、今その風も止んで、ゴルフで言えば、まともな飛距離の時代に入ったのです。

 これから飛距離は自分の努力で伸ばすしかありません。通貨政策で出来ることは限りがあります。無理に続ければそのうちバブルになり、その破裂で痛い目に遭うだけです。安倍さんの言う第三の矢は、企業と国民が頑張れば、それだけの結果は出るということで、政府は皆さんが頑張り易くなるように努力しますということなのです。
 
 その意味では、これからは政府や日銀が更なるフォローの風を送ってくれるなどと考えない方がいいでしょう。日本の社会全体、そして産業人が如何に頑張ったかがそのまま結果として出て来るということになるのでしょう。

 ではその「頑張り」とは何でしょうか。結論はハッキリしています。それは「生産性の向上」です。経済活動の成果は「実質付加価値生産性」で測られ、それが、人間生活、社会生活に豊かさと快適さを齎すのです。

 賃金の上昇も、生活の安全や快適さも、高齢者の福祉充実も、保育や教育の改善も、「国民経済生産性の向上」によって可能になるのです。
 そしてそれは日本人があらゆる持ち場で、頑張って生産性向上を実現することの集大成です。
 これからが、いよいよ生産性向上活動の本番です。

改めて日本経済の立ち位置は

2015年04月04日 10時54分29秒 | 経済
改めて日本経済の立ち位置は
 位置を示すには縦横の座標が必要です。
 縦の位置は、日本経済の時系列推移、横の位置は、現状の世界経済情勢ということになるでしょう。

 ということで縦の位置から見て来ますと、丁度2年前の日銀による異次元金融緩和により待望の円安が実現し、デフレ不況の「失われた20年」時代は終了、さらに昨年の更なる金融緩和で$1=¥120円がらみということになり、日本の物価は国際比較しても高くないという状態に入り、アジアからの観光客の爆買いなどという現象まで出ました。
 
 輸出産業は為替差益で大幅増益、輸入サイドは輸入品の価格高騰、しかし価格転嫁はままならずでした。加えて消費増税という波乱もあって、混乱した国内経済も、漸く、価格転嫁はすべきという政府の意向も出され、多少便乗気味の(デフレ時代の価格の下げ過ぎの反動)値上げも次第に普遍化し、新年度からは消費増税の影響は一巡で消失、日本経済は正常化の道を進みつつあるようです。

 横の位置を見ますと、異次元金融緩和で先行したアメリカが出口を前にモタモタし、それを真似た日本に続いて、ヨーロッパンもアジア諸国も金融緩和に倣い始め、一時的には景気を保たせながら、実体経済の再建に努力中です。最も大変なのは、経常赤字の消えないアメリカと、自由経済に向けて構造改革途上の中国ではないでしょうか。

 日本はそうした中で、政府の債務過剰という問題はありますが、どちらかといえば、順調は実体経済の成長路線に進みつつあると言えるでしょう。
 日銀はインフレターゲットを口実(?)に金融緩和を続けていますが、「日本経済安定の基本は為替レートの安定」ということは十分ご承知でしょう。

 消費不振が言われる日本ですが、消費は雇用と高い相関がありますから、雇用改善で次第に回復するでしょう。あとは日本企業が、いかに消費者に魅力ある製品・商品を開発・提供できるかです。それが出来れば当然海外市場にも通じます。
 企業の開発力が最も問われているのが「今」ではないでしょうか。

 政府はその邪魔になるようなことをやらないこと、さらには国民に徒に不信や不満、不安を齎すような動きをしないことです。
 国民が安心してより良い明日を信じられるようにすることも、景気の先行き、実体経済の前進に必須の条件のようです。

平成14年度(2014年度)下半期のテーマ

2015年04月02日 10時48分17秒 | お知らせ
平成26年度(2014年度)下半期のテーマ
(タイトルをカーソルでグーグルバーに入れて頂くと「多分」検索できます。)

平成27年 3月
平成26年度(2014年度)下半期のテーマ 「自衛隊も軍隊」と言いたい人たち   新年度、新入社員の皆様へ:人間も企業も投資で成長   新年度、新入社員の皆様へ:就職とともに始まるキャリア開発   新年度、新入社員の皆様へ: 仕事を楽しく   鳥の巣箱は今年もスズメ   ベースアップ雑感   アメリカの金利引き上げは仕切り直し   NHK会長国会論議の怪   賃金・物価・消費税   アメリカ経済のジレンマ   安倍談話、意地を張ると窮屈に   賃金交渉進行中   アメリカ:金融緩和の出口は?   何の木でしょう   要注意の国際収支動向   格差問題: 日本の場合 

平成27年2月
格差の拡大:マルクスの時代、ピケティの時代 2   格差の拡大:マルクスの時代、ピケティの時代 1   賃金問題の理解に必要な2側面   日本経済に落とし穴があるとすれば   良好な日本経済の実体、株価はおまけ   ギリシャ問題の行方   重要な1人当たり人件費の上昇(個別企業の対応)   2パーセント賃上げ要求と日本経済   2015春闘:賃金は中期的に安定上昇がいい   2015春闘:経済成長に役立つ賃上げとは   今春闘、どんな賃上げをすればいいのか   日本化を心配するEU,ジレンマの原因   国連の役割ではないのか   春闘の問題点、何を基準に賃上げを決めるのか?   

平成27年1月
本格化する賃上げ論争、定昇とベアの問題   日本の実体経済、その強さと弱さ4<全体的見地から>  日本の実体経済、その強さと弱さ 3 <健全な発展のために>   日本の実体経済、その強さと弱さ 2 <2つのバランスとは>   日本の実体経済、その強さと弱さ 1   株式市場の乱高下と実体経済   国連の役割に期待したい   前回の「付加価値率を見よう」の追補   わが社の付加価値率を見よう   日本経済、今年は成長路線へ   家計貯蓄率赤字化と日本人の行動予測   2013年度、家計貯蓄率マイナスに   本年の日本経済、楽観しつつ、締めるところはきちんと   新年明けましてお芽出とうございます。今年は良い年に

平成26年12月      
成果主義と年功賃金 補論   成果主義と年功賃金 5 <職能資格給、仕事給(職務給)、成果給> 前回より   成果主義と年功賃金 4 <職能資格給、仕事給(職務給)、成果給>   成果主義と年功賃金 3 <年功賃金の長所と欠点>   成果主義と年功賃金 2 <年功賃金成立の要件>   成果主義と年功賃金 1 <職能資格給>   アメリカの良識とその盲点   先ず賃上げ、この道しかない?   FCV(燃料電池車)第1号 MIRAI   選挙結果とこれからの日本経済   トリクルダウン理論 vs.所得税制   円安なのに輸出が増えない、貿易赤字が心配?   物価は上がる、賃金は上がらない、消費不況?   円安で輸出企業・輸入企業の明暗への合理的な対処法   円安とインフレを正確に理解しよう   「機能性」製品は日本に似合う   皇帝ダリア満開   「社会保障と税の一体改革」とGDP

平成26年11月
非正規雇用vs. 日本的経営・人材育成   金融緩和第二弾と財政の健全化   感想、アベノミクス   KAITEKI(快適)   2014年7-9月期GDP速報   解散総選挙と日本経済   改めて最近の物価問題を考える   「雇用」の果たすべき役割と改正派遣法   値上げの秋   重荷を背負うGPIF:半分真面目な笑い話   ECB追加緩和示唆、ユーロ急落   日銀の金融緩和と日本経済   日銀の金融緩和と2%インフレ目標   日銀の金融追加緩和の功罪   無邪気な国会のGPIF論議  

平成26年10月
蓄電技術の進展、水素社会への動き   連合の「要求基準」は健全の範囲   今なぜ世界経済は不振なのか 5(健全な世界経済実現のために)   今なぜ世界経済は不振なのか 4   今なぜ世界経済は不振なのか 3   今なぜ世界経済は不振なのか 2   今なぜ世界経済は不振なのか 1   コダックと富士フィルムの財務と収益を見る   イーストマンコダックと富士フィルム   伝統文化、日本的経営、賃金制度:2   台風19号、十分お気をつけ下さいますよう  伝統文化、日本的経営、賃金制度:1   ノーベル物理学賞、おめでとうございます!   複雑な動きのアメリカ経済   円安と日本経済、そのプラスとマイナス   平成26年度(2014年度)上半期のテーマ   日本経済の現状:こんな所にいるのでは・・・