tnlabo’s blog   「付加価値」概念を基本に経済、経営、労働、環境等についての論評

人間が住む地球環境を、より豊かでより快適なものにするために付加価値をどう創りどう使うか。

蓄電技術の進展、水素社会への動き

2014年10月29日 21時11分08秒 | 経済
蓄電技術の進展、水素社会への動き
 以前「 蓄電技術で世界制覇を」と書かせて頂きましたが、日本の技術革新の力はその実現に向けて着々進んでいる様に感じています。
 伝統的な電池の企業ではない多くの企業が、電池の分野でブレークスルーを果し、次第に台頭してくる様子も見えます。

 私のような技術分野には素人の人間でも、例えば、IHI,住友電工、日本碍子などが電池の分野で着実に進化をはたし実績を上げていることは報道で知ることが出来ます。

 これまでの常識、「電機は貯蔵できない」という壁が次第に崩れて来る様子が見えてくるということは、いわば『電機エネルギー万能』の現代社会に棲んでいる我々としては本当に素晴らしいというのが実感です。
 PHV車や電気自動車の電池の家庭用蓄電装置としての活用はすでに常識でしょうが、電池の性能向上は省エネと利便性向上で経済や日常生活に巨大な貢献となります。

 スーパーやコンビニが、売れ残った生鮮食品などを毎日大量に廃棄しなければならないというニュースを聞くにつけ「勿体ないけど仕方がない」などと考えてしましますが、電気は「貯蔵」出来れば、何時でも「生鮮」ですから、蓄電は素晴らしいのでしょう。

 一方、最近「水素社会」などということが言われます。そろそろ燃料電池車(水素自動車)も走るようですし、既にエネファームという名前で、家庭用燃料電池の普及が進み始めています。
 
 昔のツェッペリン飛行船ではありませんが、水素は爆発しやすく、大変危険という認識が、水素吸着合金などから始まった水素貯蔵技術の進歩で、民生用にまで実用化可能の方向が見えてきたのでしょうか。

 エネファームなどはLNGなどの炭化水素から水素を使い、炭素は廃棄されていますが、水素は水の電気分解でも作ることが出来ます。
 貯蔵の出来ない余剰電気で水を分解し、水素で貯蔵すれば、これも蓄電の一種ですし、再生可能エネルギーを電力企業が買い取るといった今の制度の見直しにつながるかもしれません。鍵はこれら変換に関わる技術の進歩によるコストダウン次第でしょう。

 発電、送電、電力消費の現場あらゆる所でそれに見合った蓄電装置(水素貯蔵なども含め)が安価で併置されるようになれば、電力の社会は大きく変わるでしょう。
 最近では、家庭用防犯灯やクリスマスの電飾は、ソーラーパネルと蓄電池が組み込まれ、コンセント不要です。今後の日本のますますの技術開発が期待されます。
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 因みに我が家では今年1月からエネファームを入れています。結果、1-10月で電力料金は60.8%減、ガス料金は16.8%増でした。量産や技術開発などで機器の価格が下がれば、普及は早いでしょう。

連合の「要求基準」は健全の範囲

2014年10月27日 12時08分12秒 | 経済
連合の「要求基準」は健全の範囲
 連合は、去る10月17日の中央執行委員会で、2015年春闘のベースアップとして2パーセント以上を要求するという基本線を決めたようです。
 ベースアップというのは、賃金テーブルの一律書き替えですから、正規従業員の賃金が一律に2パーセント上がるというのが原則です。

 非正規従業員の賃金も多分金額で 〇〇円以上ということになるのでしょうが、これも、上記の2パーセントを基準にし、格差是正その他の諸事情を勘案したものになるでしょう。

 円安、海外資源価格上昇、消費税増税などによって、消費者物価が3パーセント以上上昇している中で、2パーセント以上という要求基準は、弱腰だとか、遠慮し過ぎなどといった評価もあるでしょう。しかし、日本の労使がその長い経験から学び、ともに理解している「日本経済と賃金決定の整合性」という視点からすると、この要求基準は「合理的」、「健全」という評価の範囲内にあると考えていいのではないでしょうか。

 賃金、ボーナスなどの現金給与と社会保障費などの企業負担を合計したものが、総額人件費になるわけで、ベースアップ2パーセント+定期昇給で、総額人件費がどのくらい増加するか正確な計算は不可能ですが、多く見ても、3~4パーセントの間でしょう。

 定期昇給分のコストは1~2パーセント程度でしょう。このほか、非正規の正規化や格差是正などを自主的におやりになる企業もあるでしょう。
 新卒採用の増加、55歳あるいは60歳での賃金の別体系化など、企業は多様な要因を勘案して総額人件費を計画します。

 一方日本経済(実質GDP)の方はどうでしょうか。年末には政府経済見通しが出ますが、国際機関などでは1パーセント台半ばといった見通しを出しています。
 不評のアベノミクスのお蔭で日本人は何となく萎縮していますが、雇用の安定、格差の是正なども含め、もう少し国民が先行きに期待し元気が出るような「社会的雰囲気」を醸成していけば、真面目で勤勉な日本人は、2パーセント超の成長を達成するでしょう。

 多分そんなところで、コスト上昇(ホームメイド・インフレ)は日銀の見通しのように1.5パーセント前後で健全経済の範囲になるのでしょう。
 問題は、日本が元気で、その能力を十分に発揮する環境をどう作るかにあるようです。

 政府の政策に頼りすぎずに、企業も消費者も元気一杯の活動をしていけば、もともと健全な日本経済にとって安定成長実現はそう難しいことではないと思います。

今なぜ世界経済は不振なのか 5(健全な世界経済実現のために)

2014年10月24日 11時56分22秒 | 経済
今なぜ世界経済は不振なのか 5(健全な世界経済実現のために)
 アメリカの金融正常化の成否については、未だ色々な見方があり、誰にもはっきりとは解らない状態かもしれません。

 確かに短期的には解らない要素がいっぱいです。しかし長期的に見れば、いかにアメリカ経済が見かけ上元気になっても、万年経常赤字が続く限り、また、どこかでブレイクダウンすることは必至でしょう。

 国家でも、企業でも、家計でも、何時までも赤字を続け、借金でやりくる状態を続けることは出来ません。そしてアメリカの経常赤字がなくなる状態を誰も想定してはいないようです。
 
 ならば今の状態は基本的には何も変わりません。石油危機後頑張って経済健全化を実現した日本が円高で「失われた20年」を経験し、ギリシャ、スペイン、イタリアなどが努力して黒字国になり、健全化したユーロ圏が今度はユーロ高でデフレに悩むといったことの繰り返しです。

 この動きに抗する中国が、どこまで抗しおうせるか、何が起こるか、現状では想像もつきませんが、基本的なマネー資本主義の流れは変わらないでしょう。
 超大国、基軸通貨国アメリカに「経常赤字を直しなさい」と猫の首に鈴をつけるネズミはいないようです。

 世界経済が固定相場制で頑張っていた時期、1960年代は、経済発展の黄金期でした。アメリカが赤字国に転落、ニクソンショックがきっかけで世界が変動相場制になり、マネー資本主義が生まれ、進化し、金融工学分野の経済学者がノーベル賞をもらうようになって、実体経済はマネー経済に支配されることになったのです。

 人間を豊かに、幸せにするのは実体経済です、マネー経済は付加価値(GDP)を創らず、富の移転によって格差社会をつくるばかりです。格差社会は、あらゆる紛争の源を準備します。人類社会を不幸にする可能性がきわめて大きいものです。

 望ましい地球経済というのは、先進国経済が確りと黒字を出し、その力で途上国が早期にテイクオフできるために役に立つ技術開発、経済援助などを積極化して、地球全体の豊かさ、地球全体の環境の改善を両立させるような活動を展開することでしょう。

 人類社会の健全な発展のために、進むべき道を誤らないようにしたいものです。

今なぜ世界経済は不振なのか 4

2014年10月23日 10時57分27秒 | 経済
今なぜ世界経済は不振なのか 4
 今、ヨーロッパは、20パーセントほどのユーロ高で、(円高で失われた20年を経験した)日本の二の舞になるなと懸命な努力をしています。
 ECBのマイナス金利政策も、何とかユーロ高を避けたいという願望の表れでしょうが、なかなかうまくはいきません。

 IMFの予測によれば、今後数年、ユーロ圏の経常黒字は、GDPの2~2.5パーセントで推移、日本は2パーセントほどで推移、アメリカはマイナス3.5パーセント程度で推移ということになっています。

 覇権国、基軸通貨国のアメリカが万年赤字であっても、IMFはギリシャやスペインに言ったように「黒字にしなさい」とは言わないようです。
 私には何故だかわかりませんが、その結果は、「懐かしきブレトンウッヅ体制」などで繰り返し書かせて頂きました。

 日本がオイルショックを克服して順調な経済発展を軌道に乗せれば円高で日本経済を潰す、ユーロ圏が健全な経済を取り戻せばユーロ高でデフレ化を強いるというのが今の変動相場制の帰結です。これでは世界経済の成長発展は望みようがありません。

 その一方で、アメリカは「強いドルを望む」などと言いながら、現実にはドル安になり、経常赤字を世界中のカネでファイナンスして消費中心の繁栄を続けるという構図が見えてきます。
 それを支えるのは為替変動を演出(操作?) する国際投機資本で、その理論的ベースは「金融工学」というマネー・テクニークということなのでしょう。

 日本とて、IMFの予測のような経常黒字状態になれば、またいつ円高の陥穽に堕ちるか予断を許しません。

 一国にとって為替レートというのは物理学における「メートル原器」のようなものです。メートル原器が時によって勝手に伸びたり縮んだりしたら、正確な計測や設計が出来ないのと同じように、為替レートが勝手に変動する中では、まともな経済計画などが出来る筈はありません。

 今や巨大な資本力を有する多くの国際投機資本が、様々な思惑で、為替レート、株式市場、資源価格などの世界で、キャピタルゲインの極大化を求めて 跳梁跋扈する「マネー資本主義」こそが、今の世界経済の不振を生み出す「黒子」なのでしょう。
 かつて、マネー資本主義は資本主義の産み落とした「鬼子」と書きましたが、その鬼子が黒子となって、資本主義を、そして世界経済を劣化させているようです。

今なぜ世界経済は不振なのか 3

2014年10月22日 11時22分38秒 | 経済
今なぜ世界経済は不振なのか 3
 前回指摘しましたEU、ユーロ圏の経済不振は矢張り深刻なようです。ECB(欧州中央銀行)が、マイナス金利(加盟国の銀行がECBにカネを預けた場合の金利がマイナス)というウルトラCの金融緩和政策で、何とか経済成長をと努力していますが、なかなか実効は上がらないようです。

 2002年ユーロが流通を開始したころ、1US$は0.9ユーロで買えました。ご祝儀相場と言えばそうかもしれませんが、ユーロの将来を期待して、ユーロの価値は高かったのです。

 しかしユーロ加盟国が広がり、南欧の国々や東欧の国々、地中海の島国などが加盟し、ユーロの高い価値を満喫するようになると事情は変わってきました。
 ラテン系の国々は国民性が陽気ということもあるのでしょうか。国力以上の経済生活をするようになり、経常赤字の国が増えて行きました。
  ユーロの価値が次第に落ち、2008年には1ドルを買うのに1.55ユーロが必要といった状況になっています。

 ギリシャ、スペイン、ポルトガル、イタリアなどの経常赤字が問題になり、大幅黒字国のドイツがそれを補填するといった状態になって、ドイツから苦情が出、日本の新聞なども報道したのは2010年頃です。

 このユーロ安は、EU内部の不協和音にはなりましたが、お陰でユーロは値下がりし、黒字国のドイツの競争力は強まり、日本でも、VW、BMW、ベンツなどが割安になり、ドイツ車が随分増えたなと感じた方は多いと思います。

 その後、ユーロ圏でも論議が重ねられ、IMFの指導などもあって、上記の赤字国は努力を重ね、ほぼ黒字に転換し、ユーロ圏自体は大幅黒字を回復しました。
  ギリシャもスペインも、イタリアも経常赤字が消えて、漸く健全化の方向が見え、一安心という時、マネー資本主義の当然の帰結として「ユーロ高」が起きてきました。
 今は$1=1.27ユーロほどでしょうか。2008年ごろに比べれば2割以上のユーロ高です。

 日本が日銀の政策転換で2割の円安になり、日本経済が息を吹き返したのとちょうど逆です。2割のユーロ高は、ユーロ経済圏のコストと物価を一律に2割高くしたわけですから、ユーロ圏がデフレ状態になる可能性は当然高くなります。

 経常赤字国が生活を切り詰め、経済の健全化を果して、消費と貯蓄→投資のバランスを回復し、経済成長路線を取り戻すことはIMFの指導理念でもある大変結構なことのはずですが、真面目にそれをやると「通貨が切り上がって」経済が「成長」ではなく「デフレ」になるという、経済の本来から言えば全く困ったことが、一般的な経済現象として発生するのが現在のマネー資本主義経済の実状です。

 こんなことで世界経済はいいのでしょうか、何故こんなことになるのでしょうか。長くなるので次回にします。

今なぜ世界経済は不振なのか 2

2014年10月21日 10時10分44秒 | 経済
今なぜ世界経済は不振なのか 2
 ついこの間までは、アメリカ経済は、異次元金融緩和というドーピングが効いて順調に回復基調といった見方が多く、NYダウも上がり、何か明るい雰囲気でした。
 この分なら金融を徐々に正常化しても、アメリカ経済の回復は続くかも、と思ったところ、いよいよ金融正常化の仕上げの段階に来て、矢張り躓きの様相を見せています。

 最近時点での小売売り上げの伸び悩み、卸売物価の下落、製造業の不振など、この所の回復基調に陰が差したようです。この先雇用の伸びがどうなるかに注目が集まるのかもしれませんが、予断を許しません。

 2013年のアメリカのGDP統計では68.5%が個人消費、15.3%が設備投資、政府支出が18.7%となっていますが、設備投資15.3%のうち12.2%が非居住者で居住者分は3.1%に過ぎません。
 それだけ世界中の企業が、アメリカの市場を当てにし、アメリカ国内に直接投資をしているのでしょうが、これはアメリカが世界の金を利用しているという構図でもあります。

 つまりアメリカ経済自体では付加価値(GDP)の分配で消費が先行し、貯蓄(=投資)に適切な分配がされず、投資を外国企業に依存しているといった姿でしょう。
 実体経済の健全な成長のための「付加価値の配分」が出来ていないように思われます。

 アメリカの異次元金融緩和は、世界の金融市場にカネを流し、投機資金を膨らませ、新興国の成長にも貢献しましたが、同時に対米投資でアメリカに還流した部分もあったでしょう。この流れは今、金融正常化で変わろうとしているわけです。

 バーナンキ前FRB議長の主唱した「金融緩和による世界恐慌の回避」という命題は、短期的にはそれなりの効果を持ったかもしれません。しかし、実体経済の形が「経済成長に適した形」にならない限り、本当の経済の健全化にはつながらないでしょう。

  CSRとNGR でも書きましたが、世界一豊かなアメリカが、万年赤字国で、その穴埋めに世界のカネを集めて繁栄するという構図は、矢張り問題があるように思います。

 経済が深刻なのはアメリカだけではありません、EUも経済不振に悩んでいます。折角ギリシャ、スペイン、イタリアなどが経常赤字国から脱し、黒字転換→経済成長達成へ進むときに、「第2の日本になるな」とデフレ警戒論が出ています。
 次回はその点を見てみましょう。

今なぜ世界経済は不振なのか 1

2014年10月20日 10時07分16秒 | 経済
今なぜ世界経済は不振なのか 1
 安倍内閣は混乱していますが、アベノミクスはさておき、今日は此の所弱気だった日本の株式市場も反発し、日本経済の健全さが垣間見えるということではないでしょうか。

 ところで、このブログでは、企業や経済が「成長できる形」について、その基本となる条件を示してきたつもりです。
 だとすれば、今世界経済が不振なのは、今日の世界経済の在り方が、その条件から外れてしまっているからだということが考えられます。

 ということで、その判定基準で、今の世界経済、主要国の経済の様相を見ると、「矢張りこれではダメかな」という感じを強くします。

 企業でも経済でも、成長するためには「投資」が必要です。企業でも一国経済でも、生産した付加価値を「消費」と「投資」に分け、投資で生産を増やし、消費支出で生産物を購入して、バランスのとれた成長をして行くのです(均衡成長路線)。

 もちろんそこでは技術革新が進行していて、生産するものは年々、今までなかったもの、より性能の良いもの、より美しいもの、より美味しいものでなければ消費は伸びません。
 自動車ならカーナビの付いたもの、より燃費の良いハイブリッド、照明なら白熱電球→蛍光灯→LED、衣料なら吸湿発熱、クール速乾、斬新なファッション、食品なら、美味しい低カロリー、健康に良い機能食品、などなど。

 もちろんこうした技術革新も「投資」の結果ですから、投資は成長の基盤として重要ですが、世の中往々にして、経済成長の中で、「人間の欲望肥大の結果」消費が先行して、投資に回す金が足りなくなるのです。

 その結果技術革新が停滞し、生産増加のペースも落ち、需要が先行するので物価が上がり、実質消費は生産増加のペース並みに落ち、GDPの生産と分配を担当する企業の業績は不振となり、税収も増えず、次第に「経済が成長できる形」が崩れてしまうということになるようです。

 今、世界経済は、国別に事情は違いますが、全体としてこの辺りに来ているようです。
 ギリシャやスペインなどは、国民経済として、こうした消費と投資のアンバランスが進行し、借金が出来なくなったところで行き詰まりました。
 結局IMFの指導で消費を切り詰め、投資と消費のバランスを回復させ(GDPは縮小)ました。その結果、経済の成長路線への復帰が可能になったわけです。

 一国経済なら解り易いのですが、では世界経済はどうなのでしょうか。(以下次回)

コダックと富士フィルムの財務と収益を見る

2014年10月17日 09時41分01秒 | 経済
コダックと富士フィルムの財務と収益を見る
 前回、2000年直前に、コダックの売上高を富士フィルムが追い越したと書きました。その時の両社の売上高はほぼ1,500億円弱でした。
 現在はどうでしょうか。
   コダック(2013年通期)   2,400(百万ドル) 約2,400億円
   富士フィルム(2013年度) 24,400億円
                        (各社財務諸表より。以下同じ)

 売上高だけでは中身は解らないので、収益状況と自己資本比率も見ておきましょう。
 コダックの場合は、2013年の4-6月期から2014年の4-6月期まで、5四半期基本的には毎期、課税前利益で50~60億円の赤字ですが、2013年7-9月期のみ2,054億円の黒字です。
 これは資産の部を見ますと有形固定資産が前期の3,487億円から740億円に減っています。減価償却を含むgrossからnetにしたようで、(含みを表に出したのか)いずれにしても会計上の操作によるもののようです。

 自己資本比率は、総資産2,853億円、自己資本525億円で18.4%(2014.年4-6期末)です。1年前の債務超過から何とか一応の改善(財務上のバランスシート調整による)しています。しかし、黒字企業にはなっていません。

 一方、富士フィルムは、売上高営業利益率は5.8%ですし、自己資本比率は総資産32,270(億円)、自己資本20,206(億円)で、62.6%という状況(2013年度)で、極めて健全と言えましょう。

 コダックが破綻し、大量の解雇が行われた時、エクセレント・カンパニーだったコダックを愛する従業員の中に、多くの悲劇があったことも報道されました。

 アメリカでも、IBMのように、肉の秤から、メインフレームコンピュータ、パソコン、ソリューション事業と変身しながら発展している企業もあります。創立者トーマス・ワトソンの企業理念が生きているようです。

 共通に見られるのは、矢張り「人間を大事にする経営」ではないでしょうか。企業は人間集団というという考え方は洋の東西を問わず大事なのではと考えてしまいます。

 職務構成や、機械設備には柔軟性はありません。これらは単なる「コト」や「モノ」です。最も柔軟性があるのは人間です。「コト」や「モノ」は、人間が何かを考え、活用することで初めて動くのです。人間こそが主体であり、創造性を持ち最も柔軟なのです。

 その人間集団を統率し、適切な目標を常に求め、それに向かって人間集団のベクトルがバラバラにならず一致して向かっていくような統率力、リーダーシップが存在するとき、企業は困難をも乗り越え、発展していくように思われます。

イーストマンコダックと富士フィルム

2014年10月16日 10時05分41秒 | 経営
イーストマンコダックと富士フィルム
 前回、欧米の企業は職務中心、日本の企業は人間中心と書きました。欧米のように企業の目的に沿った職務の体系を作り、その職務に適した人間を採用するという形では、新分野の仕事をやろうといった場合には当然M&Aといった形が中心になります。
 しかし日本のように、企業は人間集団で、その人間が目的を理解して活動するといった場合は動きはより柔軟になるようです。
 
 レーヨン・ナイロンの東レは、今や炭素繊維でボーイングのメイン・サプライヤーです。これは繊維と言っても化学の世界でしょう。旭化成はベンベルグ(今はキュプラというようです)もやっていますが、今は住宅・ケミカルなどがメインで、CO2からプラスチックを作るということまでやっています。

 恐らく皆様のご関係の企業も、この10~20年の間に、全く中身は違った企業になったという所も少なくないと思います。

 そんな中でも、私が強い印象を持っているのは富士フィルムです。
 フィルムと言えばなんといっても世界的に有名なのはイーストマン・コダックです。黄色の箱に入ったコダックフィルムを羨望の目で眺めた方も多いと思います。
 小学校の友人のプロの写真家も、かつては「やっぱりフィルムはコダック」と言っていました。

 富士フィルムはコダックを猛追し、品質でも市場でも、コダックに追いついて来ていたのではないでしょうか。1997~8年、両社の売上高は逆転しています。
 丁度その時期、写真の世界は大変革の夜明けを迎えていました。
 カシオ計算機が中心になり、関連主要企業の頭脳を集めて、デジタルカメラの製品化に成功したのです。(私の記憶に誤りがあればお教えください)

 1996年、QV100を購入、翌1997年、訪米の際、ワシントンで使っているとき、QV100の液晶画面を見た女性が“Oh! So neat!”と驚嘆しているのを聞いて、結構いい気分だった事を覚えています。

 話を本筋に戻しますと、富士フィルムはコダックに追いついた時点で、銀塩フィルム中心から決別し、デジタル時代への適応、化学分野への多角化を始めたようです。「折角コダックに追いつき世界一が見えてきたのに」と思ったのは、私だけではないと思います。
 
 改革の断行は2000年にトップになった小森社長によると言われますが、カメラやフィルムの技術、感光材料の研究で積み上げた化学の技術などを応用、デジタルカメラは勿論、医療機器、多様なフィルム材、化学品、医薬品、化粧品と、「関連する」新分野の積極的な開発に邁進しています。最近はエボラ出血熱の薬で世界に名を馳せています。

 こうした大きな変革の中で、企業買収も行っていますが、従業員は再教育、配置転換で温存、人間集団の基盤は確り維持しています。

 次回はその結果のコダックと、富士フィルム(現在は持株会社)の企業業績の現状を見てみましょう。

伝統文化、日本的経営、賃金制度:2

2014年10月14日 09時37分50秒 | 経済
伝統文化、日本的経営、賃金制度:2
 技術革新や産業構造の変化が起こると、衰退企業は大量解雇をし、人材は住み慣れた企業から新しい分野に自由に移動するという方式がいいのか、人材は企業にとどまって、企業自体が新分野の企業に変化していくのがいいか、これを決めるのはやはり人間の考え方でしょう。

 欧米のように、企業は職務の集合体と考えれば、新産業分野に移行するには、職務全体を再編成し、それに合った人材を採用するということになるので、そんなことはほとんど不可能でしょう。だから、大量解雇やM&Aが一般的なのです。

 日本の場合は、「良い人材を採用」して企業内で育成し、長期に雇用しようとします。産業構造が変われば、企業そのものが変化適応して、蓄積した人材がそれを支えます。
 ですから、もちろん採用の時点で企業の中でどの職務を担当するかは決まっていません。企業内で異動しながら、最終的にはどこかに落ち着いていくのが一般的です。

 その間仕事は変わっても、給料は変わりません。新しい部署で、半年、1年習熟期間を要しても、その間「成果がないから賃金を下げる」などとは言いません。
 そうしないと適材適所が実現しません。本人が当初やりたいと思っていた仕事と実際によく出来る仕事が違うことはいくらでもあるのです。

 日本の「人間中心の経営」は「人間集団の力の活用」とい意味も大きいのです。これは、日本では「駅伝」が盛んだったり、団体戦に強かったりという文化的伝統の必然的の帰結でしょう。

 こうした「人間集団としての企業」に適した賃金制度というのはどんなものでしょうか。少なくとも、個人がその場で上げた成果で支払うというものではないでしょう。育成しながら、長い目で見て処遇・賃金を決めるのが一般的です。

 もともと成果主義というのは、「個人に着目」したもの、「その都度」のもので、人間集団や長期雇用の文化には適しません。
 しかも、職務中心の職務給のベースの上なら納得性もありますが、集団で仕事をする日本企業の中では、成果は一人だけの働きの結果ではありません。協力者、支える人がいての結果でしょう。本人分の成果測定などは容易ではないのです。
 今回の青色LEDでノーベル賞を受けた人たちも「皆さんの協力があって」とか「皆さんに支えられて」と言っているのは象徴的です。
 
 さらにこんな面もあります。よく指摘されることですが、成果主義になると、経験やノーハウを他人と共有しなくなるのです。成果につながる仕事のコツは隠すのです。
 QCサークルのように、みんなで知恵を出し合い、知識・経験を皆で共有することが生産性向上につながるという土壌とは相反するものなのです。

 日本に合った賃金制度、わが社に合った賃金制度はどんなものか? 総理大臣や財界トップが何か言ったとしても、わが社の賃金制度は、わが社の労使で決めましょう。

台風19号、十分お気をつけ下さいますよう

2014年10月13日 10時04分52秒 | 台風
台風19号、十分お気をつけ下さいますよう
 成果型賃金制度は次回に送ります。
 列島縦断の台風19号に十分ご注意くださいますよう。
 日本列島は縄文の昔より、台風には悩まされ続けてきたと思います。
 一方で、それが日本人の知恵を育てたのでしょうか。
 皆さんのご留意、ご注意で、被害のないこと、被害の最小限になることを祈念します。
    (tnlabo)

伝統文化、日本的経営、賃金制度:1

2014年10月10日 13時30分05秒 | 経営
伝統文化、日本的経営、賃金制度:1
 ニュースを聞くたびに奇妙な違和感を覚えるのは、安倍総理が、景気対策の一環という意識なのでしょうか「成果主義賃金」を日本の賃金制度の基本にしようと本気で主張していることです。

 本来賃金制度などというものは企業の労使が考えることで、総理大臣が賃金制度に口出しするなどというのは世界でも前代未聞なのではないでしょうか。

 それだけ、アベノミクスの第3の矢が影薄く、景気停滞の様相が気になって焦りが先に出ているということかもしれませんが、やはり一国の総理なら、国民を信頼し、細かいことは国民や労使に任せて、本当に総理でなければできないことをきちんとやって欲しいとつい思ってしまいます。

 ご存知のように、日本文化の原点は「和」の精神で、これは縄文時代からの伝統で、聖徳太子の17条の憲法の第1条「以和為貴」にも率直に表現されています。
 企業経営の歴史で見れば、日本企業は、企業を人間集団として捉え、職務の集合体と考える欧米流とは全く対照的です。

 もう少し現場に即していえば、日本企業は、人を採用するとき「良い人」を採ろうとします。欧米では、担当職務に適切な能力を持った人を採るのが基本です。
 やはり日本は人間中心、欧米は職務中心なのです。これは伝統文化・社会意識の違いによるのでしょう。

 技術革新、経済発展の中で企業のとる行動を見ても違いがあるようです。欧米では賃金の高い産業や企業に従業員が移動していきますが、日本では、企業そのものが、先進分野の企業に変身していきます。
 かつて隆盛を誇った日本の繊維企業は、機能性繊維などの分野も開拓しながら素材産業、化学産業、電子産業、自動車部品産業の企業などに変身しています。

 何がこういう違いを生むのでしょうか。最も基本的なところまで論じていけば、日本的経営の基本理念は「人間中心」であり、欧米企業は、「経済活動は資本が中心」「人間は資本増殖の手段」という所にあるのではないでしょうか。

 今は、経済学者も、経営学者も、金融の専門家も欧米で学んだ人が多いですし、日本の伝統や文化につてはあまり関心を持たない方も多いようですから、欧米は進んでいて、日本は遅れていると思っている人も多いのではないかと危惧します。

 日本の企業や社会を良くするような賃金政策を考えるならば、やはり日本の伝統や文化、日本人の基本にある考え方を踏まえた論議をしなければならないのではないでしょうか。賃金問題のもその応用問題でなければならないと考えます。
 次回、成果主義の問題点について見て行きたいと思います。(以下次回)

ノーベル物理学賞、おめでとうございます!

2014年10月08日 15時53分23秒 | お知らせ
ノーベル物理学賞、おめでとうございます!

 またしても日本人研究者の快挙です。
 赤崎 勇さん、天野 浩さん、中村修二さん、お三方のノーベル物理学賞受賞を、心からお祝い申し上げます。

 「21世紀はLEDによって照らされるでしょう」という選考委員会の言葉も印象的でしたが、この快挙は、日本人の心にLEDより明るい光を灯してくれたのではないでしょうか。

 やはり日本の科学技術は、基礎から応用、実用化まで、世界に冠たるものだという自信を、改めて、日本人みんなが実感し、日本の将来への、新たな希望と意欲を掻き立てて頂けたように思います。

 お三方の素晴らしいご努力と成果に、改めて厚く御礼を申し上げます。 (tnlabo) 

複雑な動きのアメリカ経済

2014年10月06日 14時59分17秒 | 経済
複雑な動きのアメリカ経済
 このところアメリカの株価は暴落したり反発したりを繰り返しています。ドルの動きも微妙です。マーケットというのは大体そういうものだと言ってしまえばそれまでですが、そうした動きが、アメリカの経済成長率、雇用統計、金融政策などの動きに神経質なほどに敏感だと感じる人も多いでしょう。

 今、アメリカ経済は、金融政策の重要な転換点にあります。今までの超金融緩和から何とか抜け出して、いわば、つっかい棒を外しても何とか一人で立って歩けるようになれるかどうか、実験中という所でしょう。

 幸い、経済成長率も基調的には2~3パーセントのプラスを維持している様で、雇用も増加傾向にあり、このまま金融緩和政策からの脱出を続けても、アメリカ経済は何とか持ちこたえるだろうという意見が強いようです。

 しかし、アメリカ経済には基本的な欠陥があります。繰り返しこのブログでは述べていますように、それは経常収支の赤字体質です。

 短期的には、異次元の金融緩和で凌げるかもしれませんが、金融緩和を徐々に絞っていけば、アメリカ以外の国からファイナンスするよりほかに方法はありません。
 今アメリカに安心して金を貸す国があるでしょうか。

 サブプライムローンの証券化で、世界中に大きな迷惑をかけたアメリカです、あの時このブログでは「アメリカ経済への致命傷か」と書きました。
 証券の価値を経済価値の基準に置いていたアメリカの証券が信用を失墜したのです。

 本来なら、アメリカは心を入れ替え、自分のGDPの範囲で生活し、経常赤字を解消するべきだったのですが、それが出来ずに異次元の金融緩和で凌ごうとしました。しかし、いつまでもそれを続けることは出来ません。 

 幸い、経済に元気が出てきたというのでテーパリングで金融の正常化を目指しています。しかし経常赤字体質は基本的に変わりません。
 こうした状態では、いずれにしてもアメリカの経済運営は。極めて神経質なものとなり、株式市場、為替市場はそれを反映して不安定な動きを繰り返すでしょう。

 おりしも、世界情勢はあちらこちらで紛争が発生、世界の警察をもって任ずるアメリカには種々の負担がかかります。
  これからもアメリカ経済関係の統計数字の動き、経済・金融政策の動向からはますます目が離せないようです。

円安と日本経済、そのプラスとマイナス

2014年10月04日 10時00分27秒 | 経済
円安と日本経済、そのプラスとマイナス
 円安になると株価が上がるという現象が見られる一方で、円安が日本経済にマイナスの影響を与えているというマスコミの記事も多いようです。
 円安はプラスなのでしょうか、マイナスなのでしょうか。

 円高の時は「円高で大変だ」と言い、円安になれば「円安のマイナス面が」というのでは、誰もが何か変だと思うのではないでしょうか。もちろん為替レートが無暗に変動するのは好まし事ではありませんが、円高・円安の基本的な影響を見てみましょう。

 円高の場合は、日本国内の物価とコストが(ドル建てで=国際的に見て)円高分だけ上がります。海外の物価は相対的に安くなります。
 円安の場合は、日本国内の物価とコストが(ドル建てで)円安分だけ下がります。海外の物価は相対的に高くなります。

 経済への影響は、円高の時は、海外の製品が競争上有利になり、国産品は競争力が低下、輸出は不利になり、国内にも安価な海外製品が流入し、国産品は、コスト・カット、価格引き下げを迫られ、これがデフレ圧力になります。輸入原材料の価格は円高分、安くなるので、多少助かる面もあります。
 円安の時は、海外製品は競争上不利になり、国産品が円安分だけ有利になり、輸出は増え、輸入品の流入は減り、景気は良くなり、インフレ圧力が生じます。当然、輸入原材料の価格は高くなり、これもインフレ圧力となります。

 今問題と指摘されている主な点は、①円安になったのに輸出が伸びない、②原材料高騰で国内物価が上がる、などの点です。

① の円安なのに輸出が増えないという点に関しては、生産拠点を海外に移したことが主因で、多少時間がかかっても、企業の判断で 対応は進むでしょう。他方、$1=¥80が¥110近くになった(国産品の価格が3割ほど下がった)のですから、国内製品の有利さが次第に明らかになって輸入品から国産品へのシフトも当然起こるでしょう。すでに海外からの買い物ツアーは好調です。
  ただし全体的な調整が行われるのには、円安状態の安定が必要ですし、調整の時間もかかります。円高に苦労して対応したのと逆のプロセスです。

② の国内物価上昇については、円高の時デフレになった事の逆ですから、避けられない面はあります。但し、輸入依存度が1割強であることを考えれば、3割の円高でも、輸入品値上がりによる物価の上昇は、トータルで3パーセント程度で、3年かけて調整すれば年1パーセントで終わりです。
  今そのプロセスが進んでいるところですから、輸入原材料を使うところは、価格転嫁が終わるまで、コスト高で苦しいということになります。これは日本の為替政策の結果ですから、厳密に計算して、正直に価格転嫁すべきものです。

 日本経済トータルで見れば、輸入コストは1割強で、国内コストが9割近いわけですから、円安はコストの1割が上昇、9割が下がるころになり、種々の形で、日本経済の活力にプラスになって来るというのが、基本的な影響です。

 本当に必要なことは、$1=¥100~¥110で為替レートを安定させること。そして、輸入物価上昇の価格転嫁はきちんと行い、国内コスト低下の有利さを出来るだけ生かす経営戦略を確実に選択することでしょう。