tnlabo’s blog   「付加価値」概念を基本に経済、経営、労働、環境等についての論評

人間が住む地球環境を、より豊かでより快適なものにするために付加価値をどう創りどう使うか。

日銀の政策に大いに期待します

2024年07月29日 10時35分20秒 | 経済

前回は、冷徹な川柳子の投句を引き合いに、円安の異常な進行に抗った財務省の為替介入を覚めた目で見ている人がいますよという事を書きました。

財務省は国際投機資本のやることが良くないと言いたいのでしょうか、それに抗って、国際的に評判の悪い為替介入をやるようでは、日本政府の経済政策というのははその程度かと思われたのかもしれません。

考えてみれば、日本の一人当たり国民所得が世界のベストテンの常連から40位近くにまで落ちてしまったことへの責任感など微塵もなく、未だに裏金を確保して何とか政権を維持しようとしている自民党政権です。

その政府に何かを期待しようと考えるのは、日本の中の特定の一部の人達という事になってしまっているという現実に、やはり早めに気づかなければ、日本は救われないでしょう。

野党も、言われていますように「俺が、俺が」で、中々頼りになりそうな組織を協力して作るといった努力を好まない人たちのようで、社会には、やり場のない不満が鬱積し、何か日本人の伝統文化になじまない、自分勝手な行動が増えているように感じられます。

何かやろうにも、選挙でも、生活行動でも、どうせダメだろうという閉塞感が強い状態から早く脱出したいというのが、大多数の国民の願いではないでしょうか。

そんな中で当面、国民が望んでいるのは、経済状態がもう少し良くなれば、それなりに安心感が得られるといった経済的な改善への希望でしょう。経済的な安心感は、人のころを多少安らかに出来るものだとはよく言われます。

こうした安心感は、今の政府の補助金を出します、一時金を支給しますでは効果がないのです。一時的な安心感で満足するほど日本人は愚かではありません。必要なことは日本経済を良くすることです。

例えば物価を下げること。これは為替介入で2円ほど円高にしてもダメです。円レートを150円、140円にすることです。日銀短観では企業は140円ほどまでの覚悟はあるようです。

そしてこれが出来るのは日銀だけです。やり方は難しいでしょうが、試行錯誤で試みることが重要です。

もう一つは、積極的な賃金の引き上げをやることです。昔なら経営者に頼むことも選択肢だったでしょう。しかし、今は多くの経営者は、株主の方を向いていますから、これは連合に頼むしかないでしょう。連合に向けた草の根活動、世論喚起が必要でしょう。10%程度の賃上げなら日本経済は十分耐えられるでしょう。

賃金の価格転嫁でインフレが多少進むでしょう。しかしアメリカやヨーロッパほどのインフレにはならないでしょう。その程度なら日本の国際競争力維持は可能でしょう。インフレ対策が必要なら、それは日銀に任せればいいのです。

「漫画・日本経済回復」みたいですが、欧米も、かつての日本も、こうしたことをやって、経済を成長させてきたのです。

これで政治も良くなってくれるといいのですが、それは解りません。


変動相場制の中でより合理的な為替政策を考える

2024年07月28日 21時12分45秒 | 経済

昨日の朝日川柳に

「ふと思う 何だったのか あの介入」というのがありました。

円安が160円台まで進み、さらに進めば日本では輸入インフレが加速して消費者物価上昇の可能性が高くなるなどなど、財務省は種々懸念したのでしょう。

もともと円レートが160円などというのは実体経済とはレベルの違う水準で、国際投機資本がマネーゲーム上の思惑の結果でしょうから、財務省としては「そんな勝手は許さん」という正義感(?)もあったのかもしれません。

結果は2円ほどの円高になり、マスコミでもタイミングの良い介入で明らかに効果があったといった評価が多かったようです。

しかし、介入の効果はせいぜい2~3日で、効果は長く続かいようで、アメリカではイエレン財務長官が、為替介入は多用すべき手段ではないと発言し、日本は為替操作こくといわれることになりました。

それから何日たったでしょうか、先週あたりから急に円高傾向が明らかになり、週末は153円台です。

この円高に驚いて日経平均は暴落という事になっています。

財務省が円安阻止のために、知恵を絞り、何兆円も使い、多大のコストと労力をかけて何日間か2円ほど円高にする努力をしたすぐ後から、アメリカ経済の様子が変わってき近く金利引き下げかという見方が背景が大きいといわれます。

さらに、日本も金利の正常化(引き上げ)の方向という見方もあるわけで、少し長期に見れば、円レートを取り巻く状況は円高傾向が強まる方向への変化の時期を迎えるという認識はどちらかというと一般的です。

冒頭の川柳を投稿された川柳子は、財務省の先見能力に疑義を呈したという事なのでしょう。

言われてみれば確かにその通りですが、それほど国際投機資本によるマネーゲームは予測が難しい世界だという事でもありましょう。

第二次大戦後、絶対的な経済力を持つアメリカは固定相場制を良しとしブレトンウッズ体制を作りましたが、1970年代に至り、国際収支赤字国に転落、窮余の策として変動相場制導入になったことはご承知の通りですが、その後為替の変動が、世界経済の不安定と、マネー資本主義の盛行を生んだことは明らかでしょう。

その中で特に日本は、変動相場制に対する対応に失敗することが多く、経済運営の失敗につながることが多いようです。

ならば、対応の下手な日本はどうしたらいいのかという事になるのです。

という事で考えてみますと、こんな事ではないでしょうか。

基本は、マネーゲームは短期視点、実態経済活動は中・長期視点だという事です。そして、為替レートは中・長期的には実体経済の状態に引き寄せられるのです。

マネーゲームで相場を作るような力はとても持てない日本ですから、出来れば少し長い目で物事を見て、あまり短期の損得や相場の行き過ぎた変動など気にしない事にするのがいいのではないでしょうか。

長期的視点をしっかり持って、確りした経済政策をとっていれば、一見稚拙のように見えて、それが最も賢いことなのではないでしょうか。


アメリカ4~6月GDPは実質2.8%(年率)の上昇に

2024年07月26日 17時25分38秒 | 経済

あまり大きな記事にはなっていませんが、アメリカの4-6月の実質GDP成長率は、2.0%という予想を上回り2.8%になったということです。

日本では今年度の政府経済見通しの実質GDP成長率は1.3となっていますが、そこまでは無理という状況になりそうで、今年度は0.4%、来年度は1.2%(日経新聞社)などと予想されています。

岸田さんの今後6年間の方針は1%以上という事で、アメリカの成長率にはとても及びません。

アメリカの4-6月(年率換算成長率)が高くなった要因は、GDPの7割を占める個人消費が2.3%増えたことが大きく効いているという事で、消費需要に牽引された高成長というのが明らかなようです。

アメリカはインフレが収まらない中で経済活動は活発で、設備投資も実質5.2%の伸びで前四半期の4.4を上回っているようです。

住宅投資は高金利でこのところ不振のようですが、民間消費と設備投資によって牽引されるというのは、いつの場合でも経済成長の促進に必須な条件です。

アメリカ経済は国際収支は万年赤字で財政と双子の赤字と言われ、決して経済全体としては健全ではないのですが、力強く成長する元気があるという事は、経済不振の日本から見れば、羨ましいことです。

日本は万年黒字の国で、借金より貯金が多いという経済全体といては誠に健全な国ですが、そのおカネを積極的に活用し、経済成長を実現するように使っていないのです。

主な使い道は、借金国アメリカの国債を世界で一番沢山持っていたり、国内の経済活動より海外の経済活動に使ったりですから結果は現状のようになっているのです。

何が違うのか、高い成長率を上げているアメリカと比較してみますと最も違うのは日本の消費需要の弱さです。

ではその原因は何かといいますと、これは単純で、賃金の上昇率が物価の上昇率より低いという事にあるようです。

このブログの「実質賃金の上昇に必要な条件は?」でグラフを出していますが、皆様疾うにご承知のように2022年の4月以来、今年5月まで25か月、賃金の上昇は物価の上昇を「下回って」います。実質賃金はっずっと前年より少なくないのです。

これでは実質消費支出を増やせとっても、家計は「無理です」と言うでしょう。そして、これを何か月、何年続けても消費支出が実質GDPを押し上げたり、言葉を換えれば、経済成長の牽引役になったりすることは不可能でしょう。

回答はただ一つ「もう少し賃金を上げたらいかがですか」という事になるのです。日本の企業は結構収益を上げ、自己資本比率も依然に比べればずいぶん高くなり、経営基盤も安定してきました。この春から夏にかけてはそれを評価されて、日経平均は大幅に上がりました。  

にもかかわらず、日本の労働組合は「もっと大幅な賃金の上昇が必要」という賃上げ要求をしません。「日本経済最大の不思議」はこれでしょう。

労働組合のナショナルセンターの連合は「今春闘の賃上げは5%を超え、33年ぶりの高水準と言いますが、毎月勤労統計では賃金水準の上昇は2%弱ほどで、消費者物価の上昇率は下がってきましたが、2%を超えています。6月の統計でも多分同様な状況でしょう。

先日最低賃金の事も取り上げました。中小企業では賃上げは無理という言葉が聞かれます。何故でしょう。価格を上げればいいのです。政府のそれを奨励しています。日本物価は訪日客が驚くほど安いのです。円安のせいだけではありません、賃金上昇率が低く日銀の目標の賃金インフレ2%にも届かないからです。

賃金も物価も上げましょう。国内要因だけならば、賃金上昇より物価上昇の方が高くなることはありまあせん。

賃金水準が今より高くなっても、日本経済が国際競争力を喪失し、経常収支赤字国に転落することは先ずないでしょう。

未だ賃上げの余裕は十分あります。その余裕をしっかり計測し、その余裕を賃金水準の上昇につぎ込むこと政労使が検討すべき経済政策でしょう。

それが出来れば、日本は消費不況から脱出し、消費が経済成長の主役になり、久方ぶりの成長経済に転換していくことになると思うところです。

思い切ってやってみませんか。


ハチの巣を処理しました(ご報告)

2024年07月23日 14時08分59秒 | 経済

7月9日にハチの巣のことを書きました

我が家によく巣を作る蜂は、あしながばちの仲間かと思いますが、小さなおとなしい蜂で、あまり危険を感じたことはありません。

しかし、夏休みに我が家に遊びに来る子供たちの家族、まだ小さい孫やひ孫たちが、ミニ菜園のミニトマトなどを採りたいといって、知らずにハチの巣に近づいて、もし刺されたりすると大変だから、早いうちに撤去した方がいいのではないですかと家内は言います。

「蜂はこちらが攻撃しないと襲ってこないよ」と言っても、「でも新聞などで、遠足の児童がスズメバチに刺されたなんて話もありますよ」などと言います。

「スズメバチに刺されたらそれは大変でしょう、ショック死もあるようだから。でもうちの蜂は小さい蜂で、もし刺されえてもそんなに痛くないよ」と言っても「相手は子供ですよ、あそこは怖いといって遊びに来なくなりますよ。」と駄目押しです。

やっぱり、何とかしなければならないかなと思うのですが、折角一生懸命蜂が巣を作って、卵を産み付け、蜂の子を育てようとしているのに、殺虫剤をシュッとひと吹きではそれこそ蜂が可哀そう・・・、と思っていろいろ考えました。 

という事で、まずミニトマトの収穫をしながら様子を見ました。なるべき刺激しないように巣の正面の辺りの真っ赤な実も、静かに朝夕、食べる分の収穫を繰り返しました。

蜂からは何の反応もありません。小さな蜂は、巣の材料を集めるのかトマトの葉の間を飛んでいます。

これなら孫やひ孫が来ても大丈夫かな、などと思っていましたが、4~5日すると蜂がいなくなったようです。後ろの巣を見ると巣作りをしていた蜂もいません。

本当の理由は蜂に聞かなければ解りませんが、経験から言うと、人間があまり頻繁に来るので、危険と判断して巣作りをやめたという可能性が強いように思われます。

しかし、人が来なくなれば、また巣作りに帰ってくることも考えられますので、やっぱり巣は除去しておいた方がいいかと思い、散水ホースの水を細くして、上からかけてみました。

もし蜂がいれば、「台風でも雨のかからないところに作ったつもりなのに。なんで?」と言うかもしれないなどと思いましたが、蜂はいませんでした。

巣は水に濡れて簡単に下に落ちました。隙間に手を入れて拾い、以前見つけたもう少し大きな巣と並べて、ガラスの割れたフレームの中に並べて「展示?」してあります。


消費者物価、国内物価はほぼ安定へ

2024年07月19日 14時24分24秒 | 経済

今日総務省統計局から2024年6月分の消費者物価指数が発表になりました。

今、消費者物価指数は2つの意味で大変重要です。1つは日銀が金融政策の変更、現状のゼロ金利政策を変更して日本経済を金利が機能する正常な状態に戻す政策に踏み切るための条件として2%インフレ目標を重視しているという点、もう1つは、毎月勤労統計の賃金指数の上昇が、物価の上昇を上回ることが消費不振によるゼロ・低成長経済脱出の必須条件となっているという点からです。

まず前者の点から見ますと、日銀のインフレ目標2%というのは「賃金上昇を伴う消費者物価指数の上昇と言っているところから、日本の国内経済が生み出す消費者物価指数の上昇が2%というのが基本的視点だろうと思われます。

これは消費者物価指数でいえば、「生鮮食品とエネルギーを除く総合」に近い概念だと思われますので、下に掲げるグラフでいえば、緑の線に当たります。

消費者物価主要3指数の推移(総務省「消費者物価指数」)

消費者物価主要3指数の対前年上昇率(%、出所:同上)

図で見ますと、緑の線は、上のグラフ、指数自体では5月、6月は106.6で横ばい、対前年上昇率は下のグラフで見ますと5月2.1%。6月2.2%でほぼ2%になってきています。青の線はエネルギー関係の上昇を反映、赤の線は天候不順による生鮮食品の価格上昇をを反映して多少の上昇基調です。

日銀が、国内経済の基本的な動きを重視しているとすれば、政策金利の正常化(引き上げ)はそろそろ視野に入るということでしょう。

一方、後者の毎月報道されている実質賃金低下傾向につきましては、2022年4月から、この5月まで25か月連続で対前年実質賃金低下という長期にわたる異常事態で、6月の数字が発表される来月上旬が待たれますが、感じでは少し難しいかなです。ボーナスが入る現金給与総額では、ボーナスが良かったようですから可能かもしれませんが。   

ところで、もともと金融政策で賃金を上げることは、日本では難しいのです。黒田前日銀総裁は、アジア開銀におられ、為替が安くなったり輸入インインフレとなれば、たちまち賃上げ圧力が強まり国内インフレに転嫁されるという世界の常識の中で、大幅円安となれば2%インフレは容易に可能、後のインフレ抑制が大事とお考えだったのでしょう。

所が、日本はそうでないのです。日本は、「賃金は経済成長率にリンクすべし」という稀有な認識を労働組合、企業の従業員が持っている国なのです。

この読み違いが今に至っているのですが、連合が本気になって、物価上昇を大幅に上回る賃金獲得に動かなければ実質賃金はなかなか上がらないでしょう。

この辺りを日銀も、企業労使も、もちろん政府も、理解しないと、実質賃金上昇ははかばかしくなく、そのせいで、金融正常化(金利引き上げ)もやりにくいという困った状況が続くのではないかと心配しています。


円レート・金利と実体経済、何が重要か?

2024年07月17日 16時38分23秒 | 経済

円レートが160円と158円の間で揺れ動いているようです。

マスコミは、政府が円高防止のために何兆円かの介入に踏み切ったらしいといった見方を書いています。介入のタイミングが上手いので2円も円高に動いたといった専門的な分析などもあります。

それと同時に、こうした介入による円安は一時的なもので、長続きするものではない、といった評論もあり、事実2~3日するとまた円高に戻ったりしています。

一方ではアメリカの景気が転機に入ったのではないかという意見が多くなり、消費の伸び悩みを指摘する声があります。テレビでは、アメリカの店頭で、買い物客が、物価がずいぶん高くなったので買い控えですと言っているところが映ったりしています。

アメリカが不況になればFRBは政策金利の引き下げに踏み切るだろうという事で、9月の引き下げを予測して円高ドル安という見方も増えています。

日本も物価上昇が2%に近づいたので、本格的な金利引き上げに動くのではないかという観測もあります。

実体経済とそれに即した金利政策から見れば,黙っていても円高になってくるという認識が一般的です。日銀短観によれば、今年度後半の円レートは141円というのが企業の平均的な予測のようですが、こうした実体経済面の認識と、何兆円使って一時的だが2円ほど円高にしたなどという為替介入のニュースがだれにどれほど重要なのかなどとついつい考えてしまいます。

確かに為替介入などのニュースの際に登場する専門家は証券・金融関係のチーフアナリストとかストラテジストといった方々で、マネー取引の分野の方々です。マネー取引は現金や現物を動かすわけではありませんから、実体経済の取引とは比較にならない巨額なカネ(信用)を瞬時に動かし値動きによるキャピタルゲインを中心に考えるのでしょう。

こうした動きは、当面の実体経済の動きを前提に予想されるカネの動きを予測し、短期的な投機心理を読みながら、それに伴うマネーの動きに由来する派生現象(デリバティブズ)を捉えてカネ(信用)そのものを売買するのでしょう。

信用経済(マネー経済)と実体経済では実体経済が、現実の人々の生活に関わる本来の経済で、マネー経済は実体経済がスムーズに動くように潤滑油としての役割といった関係にあるはずだったのです。

然し最近は、金融、証券、為替といったマネー経済の部分が、独自の発展を遂げ、実体経済と異なる基準で活動したり、実体経済をトラブルに巻き込むような存在になったりすることが多くなっています。

リーマンショックの際、その点が大いに反省され、実体経済こそが、人類社会の本来の経済という論調が見られましたが、このところまた、マネー経済の活動の活発化に拍車がかかってきているように感じられます。

マネー経済は基本的に付加価値を生まず、ともに配分の移転が主要な目的になるように設計されてきています。

今の日本経済を考えて見えれば、金利の正常化(引き上げ)が必須であり、併せてアメリカの金利引き下げの可能性が高くなっています。産業界は当面20円ほどの円高を想定しているのです。

アメリカは基軸通貨国ですが、多分に自国中心の政策をとるでしょう。日本は自らの、ここまで落ちた実体経済の状況を十分に弁え、政府、日銀は、産業労使が早期に健全な安定成長経済に戻すために役立つ金利水準、為替水準を、実体経済ベースで策定し、小手先の為替介入などに惑わされない実体経済中心の政策路線を進んでほしいと思っています。


実質賃金の上昇に必要な条件は?

2024年07月12日 14時47分46秒 | 経済

前回は、今の日本経済に必須な実質賃金の上昇について、直接の責任を持たなければならないのは「労使」であることを指摘したうえで、「プラザ合意」以降、円レートが基軸通貨国などの経済政策によって、変化することが一般的になった国際通貨情勢の中で、我が国の経済が安定成長を維持し、国民生活の安定的な向上を維持するためには、政府、日銀そして労使が十分な相互コミュニケーションを持ち、連携した政策の展開が必須であることを示唆してきたつもりです。

 今回は、この25か月連続の対前年実質賃金の低下が、日本経済の成長を大きく阻害している事を前提に、具体的にどうすれば実質賃金の反転上昇が可能になるかという条件をみて行きたいと思います。

まず掲げたのは、上は2022年1月以来の毎月勤労統計賃金総額(名目)の対前年同月上昇率と消費者物価指数の対前年同月上昇率のグラフです。下は、上の図の名目賃金と物価の差、実質賃金の推移です。

 資料:厚労省「毎月勤労時計」総務省「消費者物価指数」  

ご覧のように賃金上昇率が物価上昇率を超えていたのは2022年3月までです。以降つい先々月まで一貫して赤い柱が上回っています。下の図は、その差、実質賃金の低下そのものの推移です(2022年12月は逆ですが、これは現金給与総額を取ったせいで、「きまって支給する給与」が一般的には使われています)。  

2022年の4月から、コロナ禍で値上げできなかった食料品や生活必需品などの一斉値上げの波が起き、それが「2023年1月をピークに2023年10月まで続きました。

これは例月報告しています消費者物価指数の「生鮮とエネルギーを除く総合」いわゆるコアコアの動きで跡付けられますが、それ以降はまた上昇基調になっています。

コアコアの鎮静化は顕著ですが今の上昇は為替要因、主因は円安によるものでしょう。この円安はアメリカの高金利継続を背景に国際投機資本の動きで起きるものです。

円安対策としては、為替介入と日銀の金利引き上げですが為替介入は効果は僅少で一時的、日本は為替操作国に指定されるという不名誉に繋がります。

日銀の利上げについては借金まみれの政府が折悪しく裏金問題の取り込み中で、多分日銀も動きにくいのでしょう。政府の定額減税、補助金継続という誤った政策だけが動いているようです。

一方、賃金の動きの方を見ますと、この4月、5月と33年ぶりといわれる大幅賃上げの効果は出てきているように見えますが、よく見ると5月は昨年5月の上昇率に達していません。

結果的に円安による物価上昇の勢いには及ばず、いまだに1ポイント弱の差(実質賃金低下)があります。

5月は、総理府の「家計調査」の結果では、勤労者世帯の「勤め先収入」は順調な増加が見られますが、6月、7月のボーナス、8月以降の状況が心配されるところです。  

以上みてきましたが、最も自然の形での実質賃金黒字化と言えば、アメリカが早期に0.25%今年中に2回程度、金利を引き下げ、円安が円高方向に反転する。合わせ技で日銀がゼロ金利の完全脱出に踏み切る。消費者物価指数上昇が2%を切る。名目賃金2~3%の上昇で実質賃金は1%程度の上昇に変わる、といった予想でしょうか。

然し客観情勢としては、アメリカ政府はドル高を望んでいそうですし、日本政府は金利の引き上げはできるだけ先延ばしという意向でしょう。

労使の立場からは、連合は、最低賃金も含めて、もう少し高い賃金上昇を望んでいるのではないでしょうか。経営サイドも、満額回答をしたところも含めて経済成長率が高まるのであればボーナス増額、多少の賃金増額調整に必ずしも否定的ではないでしょう。

統計数字の動きを見ながら、出来れば外国の政策を当てにするのではなく、日本の労使、政府、日銀の判断を十分すり合わせ臨機応変の政策を取れば、日本経済の活性化はそれだけ早まるのではないでしょうか。 

労使は、ともに協力し合えば、自分たちの力で日本経済を動かせることを学ぶ良いチャンスではないでしょうか。


実質賃金上昇の必要性の検討

2024年07月11日 15時49分03秒 | 経済

昨日は改めてこれまで25か月続いてきた実質賃金水準の対前年マイナスという状態からの脱出が、日本経済の回復・正常化に必要と指摘し、そのためには、今春闘での賃上げは、33年ぶりの高水準だったとはいえ、必ずしも十分なものではなかったのではないかと指摘しました。

賃金決定というのは労使の専決事項ですから、望ましいのは労使の組織がいかなる賃金決定が今の日本に望ましいのかを検討し議論を重ね、傘下の、企業に周知し、個々の企業はそうしたマクロの情報をベースに自社の経営状況の中で最適な決定をしていくという努力でしょう。

戦後日本の労使は、それぞれに労働側は力ずくの賃上げ闘争、大幅賃上げ要求、経営側は、適正な生活水準、国際競争力維持可能な賃金コスト管理など激突、衝突を繰り返しながら、経営側の生産性基準原理、労働側の経済整合性理論と合理的な賃金決定理論に到達してきました。

しかし、1985年の「プラザ合意」で欧米から「円切り上げ」要求を受けて、そうした賃金決定基準の労使の理論は成立しなくなり、「春闘の終焉」と言われ、その後の賃金決定は,今に至る、漂流状態です。

理由は、経営側の生産性基準原理も労働側の経済整合性理論も、基本的に、固定相場制ないし為替レートの安定を前提にしたものだったからです。

結局、日本は1985年の「プラザ合意」、2008年のリーマンショックという海外発の政策的円高にさらされ、その後、日本初の円安政策である黒田バズーカによる円安、そして今回のアメリカの金利引き上げによる円安という2回の政策的円安を経験しています。

プラザ合意による円高については日本の労使は徹底した賃金水準の引き下げで対応しましたが、それにはバブル期を含め2020年まで15年を要し、その手段が賃金の低い非正規労働者の多用という形だったため、雇用構造や社会情勢に大きな歪みを残しました。

リーマンショックの円高に対しては労使打つ手も失い、結局黒田日銀の異次元金融緩和での解決を待つだけでした。

日銀の金融政策の転換で日本経済は円安(円レートの正常化)を迎えましたが、為替レートが正常状態になったにも拘わらず、日本経済は消費が伸びない消費不況に悩まされ、今に至るデフレ状態(需要不足)で殆んどゼロ成長近傍にとどまっています。

円レートが正常化して($1=120円)、「春闘の復活」は言われましたが、それは政府が賃上げを主唱する「官製春闘」で、労使は殆んど賃上げの正常化についての意見は持ちませんでした。(連合は「定昇+経済成長率」、経団連は企業の賃金支払い能力など)

今回の欧米の金利引き上げによる円安についても、「実質賃金の長期にわたる低下」という異常状態への対応のために賃上げが必要という意見はあっても、永続的な円安の中では、欧米インフレの範囲内、乃至円安による賃金コストの低下の範囲程度の賃上げが必要というような意見は労使からも、残念ながら、アカデミアや担当官庁からも聞かれませんでした。

つまり、円高については人件費抑制→コスト削減という政策目標は明確でしたが、円安になったとき、賃金引上げ→消費需要喚起という逆のサイクルが必要という現実には、労使とも、学会も関係官庁も気づかなかったという事なのでしょう。

前置きが長くなってしまいましたが、こうした立論のもとに、今年の賃上げはもう少し高くてもよかったのではないか。賃上げが足りなければ、労使は秋闘で賃上げ交渉をし、早期に日本経済の活性化に取り組んだろうかという前回の主張につながるのです。

次回は現実の統計を見ながらそのあたりを論じてみたいと思います。


消費主導の日本経済に必要なこと

2024年07月10日 15時25分54秒 | 経済

今春闘の賃上げについては連合も目指した大幅賃上げが実現したと満足のようです。経団連も主要企業の多くが満額回答を出し、中には要求を超える回答をしたところもあって、賃上げの社会的責任を果たしたと胸を張っているのではないでしょうか。

確かに賃上げ率そのものは、33年ぶりの水準などと言われ、バブル崩壊後円高不況で賃下げが必要と叫ばれた時期の水準に戻ったかもしれません。

然しそれが今年度の日本経済にとって適切な賃上げ水準だったのかという検証はやられていないようです。

直接比べることにあまり合理性はありませんが、日経平均のほうは、バブル崩壊直前の38900円を疾うに超えて42000円に近づいています。

多くの人は何か日本経済のアンバランスを感じているようですが,そこに発表になったのが、実質賃金の対前年上昇率がこの5月もマイナスで、そのマイナスは26か月連続という現実です。

毎月勤労統計の賃金指数(5人以上事業所の現金給与総額)と消費者物価指数の総合の数字を並べて見ればわかりますが、2022年1~3月は確かに現金給与総額の対前年同月上昇率が消費者物価指数の上昇率(同)を上回っています、そこに、値上げの遅れた食料品日用品の一斉値上げが起き4月以降は今年5月まで消費者物価指数上昇率が賃金上昇率を上回っています(2022年の12月は資料の取り方で、0.1ポイントのプラスという数字も出ます)。

実質賃金のマイナス幅は23年秋にピークに達し、その後縮小傾向にありますがこの5月も未だ-0.9ポイントと1%近いマイナス幅です。

今春闘で賃金も上がりましたが、円安で物価の上昇の心配も消えません。6月以降の数字がどうなるかですが実質賃金の黒字転換はそう簡単ではないでしょう。

今になって考えてみれば、労使が共に手応えあったと感じた賃金上昇も、現実の経済・物価の動きから見れば決して日本経済に適切なものではなかったようです。

折しもまた別の困った数字が出ました、内閣府からの、日本経済のGDPギャップです。今年の1-3月期の日本経済の需給ギャップが-1.0%から-1.4%に修正されたというのです。

これは潜在供給能力はあるのに、それを利用していない分が1.4%という事で、もし潜在能力を100%利用すればGDPは1.4%分増える、それだけ経済成長率も上がるという事です。

どの部分で潜在能力を使い切っていないかについてはいろいろな見方があるでしょう。しかし、経済活動や需要構造といったものは、相応の弾力性があるものですし、アベノミクス以来日本で不足しているのは消費需要だという事は明らかですから、このギャップを消費需要対応にもっていけば、消費は増え、経済成長率は高まるということになります。

そうした需要供給体制のシフトをスムーズに行っているためにも、詰まりは、日本経済がバランスの取れた経済成長の体質を取り戻すためにも必要なことは消費需要の喚起でしょう。

そしてそのために必要なことは格差の少ない賃金上昇の均霑なのです。

このブログでは合わせて平均消費性向の上昇にも注目していますが、まずは賃金上昇が家計に広く均霑することが基本でしょう。

現状では、日本の労使にその観点は欠落しているようです、円安の進展の中で、日本の賃金コストは異常に低くなり、今や生産性を考えれば途上国に匹敵するのではないでしょうか。

こうした日本経済の非常時に際し、日本の労使は、必要があれば賃金交渉はいつでも出来るぐらいの柔軟性と先見性を持って、まずは実質賃金が前年を下回るようなことは、間違いなく避けるべきという意識で、日本経済の成長路線のへの回帰を牽引する賃金水準の上昇を検討すべきではないでしょうか。

特に円高になった時の賃金抑制と同じ比重で、異常な円安に対応する賃金水準の上昇を考えるのは今や経営者団体、経営者の義務と考えるときではないかと感じるところです。

経営者にその発想がなければ、政府は補助金や定額減税で消費購買力を増やそうとするでしょう。これは日本経済を一層弱体化する愚策で、効果は限られ、日本経済、日本財政のゆがみを大きくするだけでしょう。

今こそ本格的な「政労使」対話を進める時ではないでしょうか。政府がお取込み中であるならば、労使だけでも出来るのではないでしょうか。

第一次石油危機の時の労使の頑張りを思い起こしていただくのもいいのはないかと思います。


5月、平均消費性向急落、要因・今後は?

2024年07月05日 16時02分46秒 | 経済

今朝。総務省統計局から家計調査の2004年5月の「家計収支編」が発表になりました。

5月、6月は新年度の賃上げが家計に反映される月なので、特に 今年は賃上げ幅が大きかったことが労使の調査でも確認されているので、特に勤労者世帯について注目したいと思っていたところです。

統計表で最初に出てくるのは2人以上の全世帯の消費動向ですが、これはマスコミの見出しのように対前年比実質マイナス1.8%で消費支出減速という状況です。

今年の1月は異常な落ち込みでしたが、2月から対前年比マイナス幅を縮小し4月には前年比実質0.5%のプラスでした。

しかし5月は名目で1.4%の伸びでしたから消費者物価指数が生鮮食品を中心2.8%も上がったので残念ながら、実質消費は前年比マイナスに転落です。

実質消費支出のマイナス1.8%に最も大きく寄与しているのは、10大費目の中の食料で0.94のマイナスです、5月には生鮮食品が大きく値上がったことも影響しているのでしょうか。

光熱・水道がマイナス0.77の寄与になっていますが、これは政府の補助金の廃止の影響が出ているものと考えられます。

増加で寄与しているのは交通・通信(+0.54)の中の自動車購入でこれは型式問題で買い急ぎがあったせいでしょうか。

いずれにしても、行政の関係で、自然の経済活動の動きが混乱させられるのは、経済分析にとっては困ったことです。

ところで、勤労者世帯はどんなことになっているのだろう、賃金は順調に上がったのかなと2人以上勤労者世帯について見てみましたら、こちらは少し状況が違いました。

5月は名目可処分所得が対前年8.8%と大幅上昇で、実質可処分取得も同5.3%の増加と賃上げのせいでしょうか予想外の大幅増加です。(配偶者の収入も増えている)

この実質可処分所得の増加が平均消費性向にどんな影響をもたらしたかと「平均消費性向」の数字を見ますと下図です。

   平均消費性向の推移(2人以上勤労世帯)

              料:総務省「家計調査」

平均消費性向は、昨年5月の90.2%から、84.7%へと大幅に下がっています。昨年の5月が些か異常で収入が減り、節約がそれに追いつかなかったという感じの90.2%だったのですが、今年は、賃金上昇率も高めで、その逆の現象のようです。

平均消費性向が上がることで消費需要が増え、消費不振の日本経済が復活するきっかけにしようというのがこのブログの主張ですが、平均消費性向が下がってしまっては消費支出は増えません。

そこでこんな計算をしてみました。去年の5月は100円の収入で90.2円使って生活した。今年の5月は108.8円の収入があった。そしてその84.7%を生活に使った。今年の5月生活に使ったのは何円でしょう? 答えは92円15銭です。

つまり、平均消費性向は下がったけれど消費支出は名目値では増えたという事です。

現実の家計を考えれば収入や可処分所得が増えたからと言ってすぐにその分を消費に回すのではなく、先を見ながら次第に増やしていくといったことでしょう。

さて、6月以降の可処分所得はどう動くのか、そして平均消費性向はどう動くか、日経平均は上がっているようですが、日本経済はどうなうのでしょう、もう少し見ていく必要がありそうです。


公的年金の2024年財政検証の「諸前提」について

2024年07月04日 17時34分48秒 | 経済

公的年金の所得代替率が50%を切らないというのが政府の方針という事で公的年金の財政収支試算が5年ごとに行われています。

今年がその年に当たるという事で、先日厚労省から社会保障審議会の年金部会の検証結果が発表になりました。

結果は4つのケースのシミュレーションの最悪の条件設定のケース(一人当たらいゼロ成)経済)以外は、50%以上の確保が可能という事で、まあ良かったという事になったようです。 

多様な条件を組み合わせてのシミュレーションですから、結果はそれなりのものになるとおもっていますが、最初から気になっていたのは「ケースの設定」のしかたでした。

   2024年年金試算の主な前提(伸び、利回り:%)

                 資料:厚労省 

岸田さんが、今後6年の経済計画を発表した際GDPの実質成長率を1%以上としていたので、このブログでも,それではちょっと低すぎるのではないですか。

もう少し国民に夢を与えるような数字を政府として出してくれないと、と書きましたが、今回の年金収支試算でも表題に書きました「諸前提」があまりにも、これからの日本経済、国民の努力を過小評価するような数字になっているので、試算結果はともかく、前提条件について、国民が「さて頑張るぞ!」という気になるようなケースも出してほしいと思ってしまいます。

という事で、政府が財政検証のために設定した諸条件の主要部分を表にしてみました。ここでは、総体的な判断基準のベースとして実質経済成長率を持ってきていますが、政府の試算では「全要素生産性」を持ってきています。

労働生産性のベースは人数ですが、全要素生産性というのは定義もいろいろあって、人間のやる気だとか、働きやすい環境とか、経営がうまいまずいとか、政府の政策の良し悪しもいれなければなりません。票の成長率の下2段はマイナスですが、全要素生産性ではプラスになっています。

勘ぐれば政府がいろいろ面倒見たが、労働力の働きがそれに応えなかったと見ているのでしょうか。前提の中で、情けないと思うのは、高成長実現ケースのGDP成長率がわずか1.6%だという事です。

成長型でも1.1%、日本人の勤勉さを持ってしても高成長が1%だというのはいかにも情けないですね。

せめて最低を1%としても成長率で2%ケース、3%ケースぐらいに置かないと、これからの日本経済は円高の時代、アベノミクスの失敗の10年から立ち直って、せめて主要国平均プラスなにがしかの水準の経済成長を達成するという意気込みでものを考える必要があるのではないでしょうか。

物価も経済成長が低ければ低いとなっていますが、これからの世界経済の中では物価は国内事情より国際経済との関係で動くでしょう。

円レートについては何も触れていないようですが、プラザ合意のよう経済外交の失敗はもう起こさないという自信があるのでしょうか。実質賃金については実質経済成長率より高めになっていますが、長期に亘ってそういう事が可能とは考えられません。

日本人は実質経済成長率の示す範囲の中で生活をしているのですから、そしてその中で社会保障費などはシェアが増えていく可性が大きいでしょう。年金についてはマクロ経済スライドがつけられても、医療費などではコロナの場合に見るように、今後もいろいろなことが起きるでしょう。

実質運用利益率については、GPIFの腕が問われているのでしょうが、日本経済の中でGPIFの実質利回りが賃金よりも高いという事は、この利回りは海外で稼ぐという事でしょうか。

国際投機資本と張り合うことは容易ではないような気がします。1%程度の実質経済成長率の中で、出来る事は限られています。

政府担当者はこれで所得代替率50%をクリアなどと国民を安心させようというのかもしれませんが、国民、つまりはGDP,国民所得の中で分け合わなければならないということは解っています。

せめて、国民の頑張りに頼らなければならない日本です。国民に安心を押し売りするより、国民に「頑張ってください。よろしくお願いします」と頼んだほうが真面目な態度ではないかと思うところです。

 

 

 

 


アメリカ経済に変調の兆し?

2024年07月03日 15時17分06秒 | 経済

コロナ不況からの回復以来、賃金インフレも経験しながらも一本調子で堅調を維持してきたアメリカ経済ですが、このところ変調の兆しが見えて来たのではないかという意見も出て来たようです。

今、アメリカ経済の先行指標としての主要な判断材料が雇用です。経済学の本来の見方では雇用というのは経済が良くなると、企業がそろそろ人を増やそうかと考えるという事で、景気の遅行指標ということになっているのです。

しかし今のアメリかでは、非農業の雇用者数をしらべて、これが増えるという事は、好況の先行指標という事になっています。

雇用を増やすのは、企業が売り上げを増やそうと考えているという事ですし、多くの企業が採用を増やしますと求人競争で賃金も上げなければなりません。

賃金を上げれば物価も上がりますし、企業にとっては物価が上がれば売り上げも増えるし、利益も増えるという見方になるのでしょう。

こうした見方になるのは、アメリカ経済が内需中心で、生産性が上がりにくい公務や医療、小売業やサービス業が経済を引っ張るという構図だからでしょいう。

日本のように、製造業が重要で、国際競争力が至上命題のような国では、まずコスト(人件費)削減、競争力強化、競争力がついたら、増産で雇用も増やすという国とは違います。

というわけで、アメリカではコロナ明けには求人競争になり、賃金も大幅に上がって、インフレ昂進、FRBが慌てて政策金利引き上げということになりました。

日本では、お蔭で円安になって、いろいろと困ったことが起きるというとばっちりを受けちます。

このアメリカの雇用に、何か翳りが出てきたのではないかという見方がこのところ出始めているようです。

というのは6月の失業率が4.0%と、5月の3.9から上昇に転じたことが一つの契機になっているようです。

アメリカのニュースの中には、雇用の現場で職探しの照会が多くなったとか、現材の仕事をやめて、新しいもっといい仕事に転職をしようという人が少なくなったといった状況が語られることが増えたといった情報聞かれるようです。

公式統計では、雇用の伸びは順調、賃金の伸びも堅調といったことのようで、FRBの政策金利引き引き下げは遅れるといった意見が一般的ですが、パウエルFRB議長が、労働市場は冷え込みつつあるという発言を(国際向けに)したこともあってか、好調な雇用情勢の継続に疑念を持つ向きも出つつあるようです。

公式に発表される統計資料で判断すべきか、現場から聞こえる声がさらにその先行指標なのか、ニュース、情報の判断は難しい所ですが、日本としては、まさに攻防両様の構えで備えをしなければならないのではないでしょうか。


いろいろと「ハラスメント」が気になる日本ですが

2024年06月26日 21時29分25秒 | 経済

最近いろいろなハラスメントが増えてきて、きちんと説明を受けないと中身がわからなようなこともあります。

記憶を辿れば、大分前の話になってしまっていますが最初にデビューしたのは「セクシャル・ハラスメント」だったでしょうか。

それまではジェンダーに関わることでも気軽に口にしていたり、挨拶代わりにポンと異性の肩を叩いたりでしたが、それが相手に不快感を与えれば、それは「セクシャル・ハラスメント」といってこれからは許されなくなるんだそうだなどといわれて、「こりゃ大変な世の中になったかな」と思うと同時に「まあね、親しき中にも礼儀ありだから、気を付けるべきですね」と思ったりしたものでした。

ハラスメントというのはもともと「相手を困らせる」という意味ですから、人間関係の常識として、相手を困られるようなことはしない方がいいのだと考えれば、それでいいのかもしれません。

しかし、その後もいろいろなハラスメントが生まれました。そしてそれらは、意図的に相手を困らせる言動という意味が強くなっているように思われます。

パワハラ=パワー・ハラスメント(権力で威圧)

モラハラ=モラル・ハラスメント(反道徳的な威圧)

マタハラ=マタニティー・ハラスメント(相手の妊娠に関わる不快な言動)

カスハラ=カスタマー・ハラスメント(顧客が店員などを困らせる言動)

などなどです。

こうしてみますと、急造のせいかあまり確り出来ていないものもありますが、いずれにしても相手を困らせる言動だという事は明らかです。

昔から日本人は、人間関係の機微には敏感で、どちらかというと礼儀正しいと言われていたのですが、改めて、カタカナ語で、いかにも日本人は欧米人に比して、他人に(思わざる)迷惑をかけることが多いから気をつけろといったメッセージが必要になったのかと思っています。

おそらく背景には、この所日本社会では、生活に不満感を持ったり、何かと不愉快だったり、いらいらしている人が増えているという事があるのでしょうか。

確かに格差社会化が進んで貧困家庭が増えたり、企業の現場で働き方に余裕がなくなったり、政府不信で、政権党への支持が戦後最低と言われるほど落ちたりという現実があります。

そして、その背後には、世界でもベストテン常連だった日本の一人当たりGDPが40位近くまで落ちたり、この所は月々の実質賃金が2年以上連続で前年を下回ったりという日本国自体の零落が進んでいるという紛れもない経済不振そして政治不信の現実があるわけです。

それと同時に、人権尊重の時代が進むと共に、人々の権利意識が次第に強くなり、しっかり自己主張をするようになると同時に、一部に行き過ぎた権利意識、自己中心意識が強まり、「女に振られりゃ泣きまする」という歌の文句が常識の中で、「女に振られりゃ殺しに行く」という現実が時に報道される時代になっています。(学校教育のせい、家庭教育のせい、それとも・・・)

いずれにしても日本社会の中に、トラブルメーカーが増えてきたという意識が、多様なハラスメント問題の形をとりつつ、「トラブルメーカーになるのはやめましょう」という社会的なメッセージを広めるための動きを見せているように思われてなりません。

このブログでは「トラブルメーカーとトラブルシューター」「加害者と被害者」といった問題も取り上げてきましたが、人間の住む社会が誰にとっても快適なものでなければならないという事を考えれば、トラブルメーカーを出来るだけなくし、トラブルシューターを育てること、加害者をなくし、その結果として被害者をなくするといった気持ちをみんなで持つことが大事というのが人々の希望でしょう。

残念ながら、最近の日本社会が、かつてに比べて、快適な社会、安定した人間関係の面で劣化していることが、上記のような種々のハラスメントについての適切な留意を普遍化させようという機運を生んでいるとすれば、われわれは反省とともに、より良い社会を作っていくために真面目に取り組まなければならないでしょう。 

もともと礼儀正しいと評価されていた日本人です。カタカナ語がお嫌いならば、伝統的日本語で「他人様にご迷惑になることはやめましょう」で、すべてのハラスメントは解決するはずです。

日本社会をより快適にするために、日本人はもうひと頑張りしてもいいのではないでしょうか。


マネー市場の活動に追いつかない経済政策

2024年06月25日 15時11分04秒 | 経済

このブログではこのところ、アメリカの金利政策のおかげで苦労する日本経済の姿に触れてきています。今回は少しはっきりとさせてみようと思います。

アメリカが賃金インフレを起こし、インフレの進行を懸念したFRBが政策金利の引き上げを行いました。政策金利を引き上げますと、マネーは金利の高い所に動きますからドルが買われ、ゼロ金利の日本ではドル債などの投資が増えて、円は売られ円安になります。

アメリカは、これは金融政策の結果で、「為替介入ではない」という立場で、円安は日本の事情と意に介しません。

日本では、輸出産業は円安差益で利益が増えますからいいですし、今まで海外に売れなかったものも競争力がついて、海外に売れるようになるというメリットもありますが、日本は無資源国ですから海外から買う資源や穀物などの値段が上がって、それが消費者物価指数を押し上げます。  

折しも日本では賃金上昇率が低いので、消費者物価指数が上がると国民生活が苦しくなるという事で、政府も国民も心配します。

政府は、ゼロ金利で国債残高には無神経ですから、国債を原資にして、輸入産業には補助金、国民には生活援助金と相変わらずのバラマキ政策で人気取りに走ります。今の日本はこんな状態で、これではでは将来が案じられるという所でしょう。

ここで問題になることが大きく2つあるように思います。①円高差益と円高差損が同時に起きますが、この問題の合理的解決策がない、②基軸通貨国が政策金利を動かしたとき、それによる為替レートの変動を受けた場合どう対処するか政策がない、の2つです。

  • の円レートが変動した場合に、輸出産業と輸入産業で、逆の立場で差益と差損が出るという問題は、企業努力は全く関係がなく、基軸通貨国の都合で起きるのですが、アメリカに文句を言うことはできないでしょうから、国内で解決しなければなりません。

プラザ合意で円高になったときは、政府はバブルを起こして景気を保とうとし、一時的に成功しましたが、バブル崩壊で馬脚が現れ、利益の出ない輸出産業は海外に移転するなど、その調整に30年かかった(30年不況)のが実態でしょう。

  • の実例はリーマンショックでのアメリカのゼロ金利政策で日本の円高($1=80円)と今回のインフレ対応の金利引き上げによる円安($1=160円)でしょう。

リーマンショックの円高では数年遅れて、日本もゼロ金利政策をとって脱出しました。遅れたっ数年間、日本経済は瀕死の状態でした。

今回のアメリカの政策金利引き上げによる急激な円安に対しては、二回ほど為替介入してイエレン財務長官にやんわりと注意されています。日銀はゼロ金利をやめれば即効性があるという事は解っているのでしょうが、借金まみれの政府は金利引き上げにはマッタでしょう。労使にも動きはありません。

第一次石油危機の時は、政府はさておき、労使が立ち上がってインフレからスタグフレーションへの道を遮断し、欧米主要国に先駆けて安定成長路線を確保し、ジャパンアズナンバーワンの名をほしいままにした実績がありますが、誰かが立ち上がらなければならないのではないでしょうか。

客観的に見れば日銀でしょうか。思い切って金利を引き上げれば、円安は止まり、輸入物価の上昇も止まり、物価は安定し実質賃金は上昇に転じ、国民の貯蓄には金利がつくという効果まで期待できます。

輸出部門の円安差益は消えても、輸出産業は頑張っていくでしょう。借金まみれの政府は困るかもしれませんが、バラマキも必要なくなるでしょう。(影の声:バブル崩壊の後に比べれば何てことないですね)

多分日本の労使は、新しい環境に早期に適応し、家計は環境変化を喜ぶでしょう。

本当の「骨太の政策」が必要な時が来ているような気がするところです。


<月曜随想>オーバーツーリズム考

2024年06月24日 14時04分14秒 | 経済

日本では、近年、インバウンド(外国人観光客)の急激な増加の結果、いろいろな議論が起きています。

もともと日本は外国人観光客の誘致には積極的でした。今はインバウンドという言葉が一般的になったので、このブログでも「インバウンドの盛況」といった言い方をしていますが、観光客も含めて外国人が日本に来ることについては、基本的に賛成です。

日本は極東のさらに最東端にあって、かつては行きにくい国だったかもしれません。しかし、日本の伝統的な文化や社会の在り方を知って「日本というのはいい国だね」 と言ってもらうには、実際に来て日本の人や文化、自然に触れてもらうという草の根の交流が最も大事でしょう。ですから今日のようなインバウンドの大盛況は大いに歓迎すべきだと思っています。

もちろんインバウンドの増加は日本経済にも貢献します。我々自身、海外旅行に行くときはそれなりの資金を用意しますが、今や、日本でもインバウンド消費は巨大な外貨収入になっています(昨年は5兆円超:GDPの1%弱)。

アベノミクスのようにこれにカジノがあればもっと増えるという意見もあるでしょうが、これは日本文化とは関係ない金だけの話です。

ところで、ここまでインバウンドが盛況になりますと、オーバーツーリズムという問題が起きてくるようです。これは、観光客が多すぎて、問題がいろいろ起きるという事でしょう。

もちろん観光地に観光客が来過ぎるという問題であれば、それは外国人か日本人かを問わずありうるわけで、インバウンドだけがオーバーツーリズムの原因ではありません(インバウンドは観光客全体の2割)。

これは世界中で既に起きている問題で日本はやっと今始まったという事でしょう。

例えばミラノでダ・ヴィンチの「最後の晩餐」を最初に見た頃は、ぶらりと行って「こんな教会に?」と一人でのんびり見ましたが、後年家内とツアーで行ったときは、囲いができて長蛇の行列でした(バチカンも同様)。

オーバーツーリズムは、いわば贅沢な難題という事でしょう。それだけ日本の文化や観光資源に興味を持っている人が世界に多いという事なのですから、単純に「制限をすれば」などという発想ではなく、これには知恵を絞って、出来るだけ観光客の思いに添いながら、解決する方法を、それぞれの置かれた状況に即応しながら対すべき問題でしょう。

この問題に関連してですが、姫路城の外国人向け入場料の高額設定についての議論があるようです。

といっても外国人が来ると余計なコストがかかると決めつけるのは問題があるでしょう。やはり日本人も同じと考えるべきでしょうし、外国人は金持ち、外国の観光施設の入場料は高いというのは理由にはならないでしょう。

かつてのべトナムで日本人町のあったホイアンにベトナム人と一緒に行ったとき「済みません、日本人の入場料は高いです」といわれ、まだバイクも走っていないべトナムでしたから「気にしないでください」 と言いましたが、途上国の外貨事情を考えれば了解というところでした。途上国ではと理解できても、日本では、合理的な説明は難しいでしょう。

日本はラーメンもカレーも寿司も安いですが。日本に来たら、日本人と同じ気持ちで、というのが草の根交流の原点ではないでしょうか。

それにしても日本は安いですねと言われそうですが、それは実はアメリカが利上げし、日銀がいつまでもゼロ金利だからです。日銀が金利を上げれば(上げると言うだけでも)円高は進むでしょう。日銀も、早く金融の正常化を進めなければと考えているはずです。

円高になればインバウンドは多少減るでしょう。オーバーツーリズムに関わる問題も、日米の金利差の影響を受けた、現時点での現場の苦労の一側面と考えておく必要もあるように思います。