tnlabo’s blog   「付加価値」概念を基本に経済、経営、労働、環境等についての論評

人間が住む地球環境を、より豊かでより快適なものにするために付加価値をどう創りどう使うか。

モノづくりと人づくり <その2>人材の活用

2008年01月29日 11時10分03秒 | 経営
モノづくりと人づくり <その2>人材の活用

 今日の世界の人材活用には大きく2つの種類があるように思われてなりません。一つは、かつて日本で一般的だったもので、従業員を教育訓練して人材に育てて活用しようという種類です。もう一つは、欧米で一般的なもので外部労働市場を見渡して、良い人材がいたらヘッドハントで自社の人材を増やそう種類です。

 人材の育成中心か、人材の獲得中心かということですが、「人材育成」のコストを負担する気があるかないかがこの差を生み出すことになるのでしょう。あるいは人材というのはあるだけしかいないもので、育てることなどは本来不可能と考えればヘッドハンティング中心になり、人材は育成が可能ということになれば、コストをかけても育成しようという気がわいてくるということでしょうか。

 でも、双方に共通の目的は、良い人材を活用して、企業を発展させ、社会の役に立とう(あるいはより大きな利益を上げよう)ということですから、問題はどちらがより適切なアプローチかということでしょう。

 ヘッドハント型の人材活用の場合には、ヘッドハントの対象となるようないい人材がいないとどうにもなりません。そして、ヘッドハントの対象となる人材は、たいてい人材育成型の企業が育てた人たちです。その意味ではヘッドハント型の人材活用は、人材育成型の企業の存在を前提にして成り立つということでしょう。

 ヘッドハント型の企業だけでしたら、産業界の人材はなかなか増えません。限られた人材の争奪戦になれば、限られた人材の給与が上がるだけで、人材不足と格差拡大が一般的になりましょう。人材が増えなければ企業や経済の発展も厚みを増しません。やはり人材を増やす「人材育成型企業」が経済発展ベースなのでしょう。


モノづくりと人づくり <その1>モノづくり

2008年01月29日 10時59分19秒 | 経営
モノづくりと人づくり <その1>モノづくり

 今日の世界の資本主義には大きく2つの種類があるように思われてなりません。一つは、日本やアジア中心のモノづくりで経済を成長させようという種類です。もう一つは、典型的にはアメリカのM&A型の資本主義で、お金を使ってお金を生み出し、それで豊かな生活をしようという種類です。
 「資本主義」という名前からすれば、アメリカ型の資本を使って資本を生み出すほうが本当の資本主義かもしれません。他方、モノづくりを中心にする資本主義は、人間が資本を使って良いモノ(最近はサービスも取り込んだモノが多い)を作り出すという意味では本当は「人間資本主義」(人本主義?)というべきかもしれません。

 でも、双方に共通の目的は、社会をより豊かに快適にするということでしょうから、問題はどちらがより適切なアプローチかということでしょう。

 M&A型の資本主義を考えますと、M&Aの対象となるような良い企業がないとどうにもなりません。そして、M&Aの対象となるような企業は、たいてい「モノやサービスづくり」で優れた企業です。その意味ではM&A型の資本主義は、モノ作り型の企業の存在を前提にして成り立つということでしょう。

 モノづくりのできる企業がないことには、M&A型の企業だけでは経済発展はありません。中世の黄金伝説のように、あるだけの黄金の争奪戦になってしまいます。やはり黄金を増やす企業(モノづくり型企業)が経済発展のベースなのでしょう。


アメリカ緊急経済対策の効果

2008年01月23日 10時21分23秒 | 経済
アメリカ緊急経済対策の効果
 サブプライム住宅ローン問題の発生で、アメリカ流の、いわゆる「高度な金融工学」も馬脚を現した形ですが、アメリカ経済運営そのものも馬脚を現すことになるのか心配されます。

 もともとアメリカは「100生産して105食べている」といわれる経済構造で、個人はそのギャップを住宅価格の値上がりによる担保融資の増加(いわゆるcash-out refinance)で確保し、国全体としては、収入に対する支出の超過部分が、年々数千億ドルの経常収支赤字になってきていることは皆様ご承知のとおりです。そしてその赤字分については黒字国からキャッシュフローとして還流させ、総合収支では辻褄を合わせていたわけです。その還流を順調にするための金融工学だったということなのかも知れません。

 しかし、如何に金融工学を駆使しても、不良債権は優良債権にはなりません。サブプライムローンで世界に迷惑をかけ、迷惑をかけた国の金融機関などに奉加帳をまわしてお金を集めよとしましたが、これは当然上手くいきません。

 もうひとつ、アメリカを好況にすれば、資金が流入してくると考えて、今、大幅な金利引き下げを筆頭に総力を挙げて景気対策を打っています。金融業界は評価するかもしれませんが、アメリカの消費者は、住宅価格が持ち直さない限り消費に回す金がないのではないでしょうか。消費が7割のアメリカ経済です。これは大きな痛手です。

 まともな経済理論で考えれば、これをきっかけにアメリカが、次第に「100生産して100か98食べる国」になっていくということでしょう。これは健全化の道ですが、当然そのプロセスで不況を伴います。

 アメリカは遮二無二不況を回避しようとするでしょう。成功の確率はそう大きくないと思います。そしてもし成功したとしても、つまりは問題をさらに大きくして先送りするということになるだけではないでしょうか。

付加価値率の数字

2008年01月19日 14時46分54秒 | 経営
付加価値率の数字
 昨年12月に「高付加価値経営と付加価値率 」というテーマで書かせていただきましたが、少し具体性がないとと思い、財務省の「法人企業統計年報」から、業種別などの付加価値率を拾って見ました。
 この統計では、売上高は消費税などを差し引いた純売上高、付加価値の定義は、付加価値=営業純益(営業利益-支払利息等)+役員給与+従業員給与+福利厚生費+支払利息等+動産不動産賃借料+租税公課です。

 統計での最近時点、平成18年度の数字で見ますと
     全産業     18.6%
     製造業     19.8%
     卸売業      7.1%
     小売業     16.2%
     運輸業     34.7%
     サービス業   24.8% (うち教育・学習支援   55.8%)
などとなっていて、業態によって大きく違 うことが解ります。
 卸売りと小売の違いはマージンの違いを考えれば理解できますし、商品や原材料の仕入れのないサービス関連の業種の付加価値率が高いのも理解できます。また、同じ法人企業統計で、製造業の中で企業規模別に見ますと、規模の小さいほうが付加価値率が高いことがわかります(ここでは数字は示していません)。これは大手ほど、完成度の高い高価な材料・部品を仕入れるアセンブリー型の企業が多ために、売り上げ占める原材料費の比率が高くなるいことの結果と思われます。また、個別主要企業の付加価値率が見られる三菱総研の「企業経営の分析」で見ますと、たとえば大手自動車メーカーの平均は15%ぐらいです。しかしロボットメーカで有名なファナックは、上場企業の中で自己資本比率が最も高い(91%)ことでも有名ですが、付加価値率も49%と驚異的な高付加価値率です。

 このように、付加価値率は、業種・業態によって、それぞれ異なりますので、他社(同業・同規模のであっても)の数字はあくまで参考にとどめ、わが社の付加価値率を如何に高めていくかを考えるのが現実的といえます。



中国のインフレを読む

2008年01月13日 17時12分25秒 | 経済
中国のインフレを読む
 このところ中国はインフレを認める政策を採っているように思われます。 最低賃金の大幅引き上げもそうですし、かつて90年代後半から2000年代初頭にかけての物価安定政策時代とは様変わりの物価上昇の容認姿勢です。

 低コストを武器に世界の工場となり、最近では携帯電話に見るように世界の需要をリードするまでに発展してきた中国が、北京オリンピック、上海万博を前にして直面する大きな問題は、アメリカ、ヨーロッパからの「人民元の切り上げ要求」です。かつてのプラザ合意後の日本と違って、中国はこれに大変なしたたかさで対抗し、人民元の切上げ幅を最小限に抑えています。

 おそらく中国は、人民元の大幅切り上げが、その後の中国の経済にどんなに悪影響を与えるかを理解しているのではないでしょか。その教科書となったのは、おそらくプラザ合意で円レートを2年間で2倍に切り上げることになった日本の経験でしょう。物価もコストも2倍になった日本は、その後、製造業の空洞化と長期のデフレに呻吟しました。失われた10年、15年といわれる期間、そしてその後遺症はいまだに格差社会などの形で続いています。

 中国は、逆手を考えているのではないでしょうか。インフレにすれば、それだけ人民元への切り上げ圧力は減少するはずです。しかも、インフレの時は不況感より好況感が強く、デフレよりも対応策がとりやすい(社会主義の要素が残っている中国ですから)といったことも考えられます。

 中国の政策に対して、こんな勘繰りをする方はあまりいないようですが、日本と全く逆の中国の対応が、今後どのような結果をもたらすか、巨大な経済学の実験としてみていくのも面白いのではないでしょうか。

 

アメリカ経済への致命傷か

2008年01月10日 10時43分36秒 | 経済
アメリカ経済への致命傷か
 アメリカのサブプライムローン問題は、当初楽観的に報じられた金融問題を通り越し、実体経済に大きな影を落とすことになり、さらにはそれを越えてアメリカの基本的経済思想というと大げさかも知れませんが、アメリカの経済の理念にまで深い傷を負わせてしまったのではないかといった気がします。

 昨年11月9日の ブログで触れましたように、経済価値のベースが、ヨーロッパでは伝統的に「金」、日本では「土地」に傾斜しているのに対し、アメリカでは経済価値のベースは「証券」だといわれていました。つまり、アメリカでは、企業や金融機関などがその価値を担保する各種の証券が「世界から信用される」経済的価値を持っていたからでしょう。そして、格付け機関などが、それに客観的な評価を与え、それなりの裏付けとなっていたのではないでしょうか。

 今回のサブプライムローン事件は、世界中で「アメリカの証券の価値」に対する信用を大きく毀損することになってしまいました。同時に格付け機関の信用も失墜しました。信用といいうのは築くのに大変な時間と努力が必要ですが壊すのは簡単だといわれます。

 アメリカは今後も住宅バブル崩壊の後処理に懸命の努力を続けるでしょう。関連業界は大幅な金利引き下げなどを要請しています。時間がたてば、それなりの結果は出てくるでしょう。しかし、そうなったとしても、「アメリカの証券」に対する信用が、従来のように回復できるかはなかなか難しいのではないでしょうか。背後には、こうしたすべてをもたらしている様に思われるアメリカ経済の累積赤字の年々の拡大という事実もあります。

高付加価値経営と付加価値率

2008年01月04日 12時41分49秒 | 経営
高付加価値経営と付加価値率
 「人件費水準の低いアジア企業との競争がますます激しくなる中では、日本企業は高付加価値経営でなければやっていけない」といった発言は良く聞かれるところです。確かにそうだと私も思います。

 高付加価値経営というのは、端的にいえば、「使う原材料は同じでも、出来た製品の機能・性能は格段に優れている」といったことで、優れた創造性や技術力によるものということが出来ましょう。

 では具体的に、高付加価値経営を示す指標は何かといえば、それは「付加価値率」ということになるのでしょう。付加価値率の定義は、

   付加価値率 = 付加価値/売上高×100  (100をかけるのは%表示にするため)

ということになっています。上の式の右項のうち、「売上高」はすぐわかりますが、「付加価値」は解りにくいと仰る方もあるかもしれません。付加価値は、その企業が外から買ってきたものやサービスの値段(外部からの購入費用)にその企業の活動によって「付け加えた価値」で、「外部からの購入費用」と「付加価値」を足せば売上高(100%)になります。ですから、そのうち付加価値の分が何%かが「付加価値率 」です。

 因みに付加価値の標準的な定義は

   付加価値 = 人件費+課税前利益(or経常利益)+ 金融費用+賃借料+租税公課

で、売り上げの中から、その企業に組織されている人間と資本が生み出した(したがって受け取る)部分ということになっています。

 付加価値率はその企業の活力の指標だといわれます。付加価値率が上昇傾向の企業は元気に発展する企業、元気のない企業は、付加価値率が下がりがちになります。

 あなたの会社は如何でしょうか。ここ数年の動きをグラフにしてみれば、何か得るもの、感じるものがあると思います。