tnlabo’s blog   「付加価値」概念を基本に経済、経営、労働、環境等についての論評

人間が住む地球環境を、より豊かでより快適なものにするために付加価値をどう創りどう使うか。

経営者と政治家

2014年04月28日 14時34分53秒 | 経済
経営者と政治家
 4月26日、連合主催のメーデーに安倍総理がゲスト出演し、アベノミクスの一環として労使に賃上げを推奨したことを自画自賛したようでした。

 昨年このブログで、「賃上げさせたい男たち」(2013/10/15付)というのを書かせて頂きました。2014春闘では多分ある程度の賃上げが実現するでしょうが、それは基本的には、あくまで「労使の判断によるもの」ですから、安倍政権は決して『それは俺の業績だ』などと言わないでほしいと言いたかったからです。

 しかし結局は安倍さんもポピュリズムに毒された今時の政治家の一人だという事でしょうか、あからさまに「俺が賃上げしろと言ったから」とは言わないにしても、アベノミクスの成果の一環として誇示したかったのでしょう。

 それに引き換え、思い出されるのは第一次オイルショックの後の日経連会長桜田武の行動と発言です。

 第一次オイルショックで、原油の価格が4倍になり、単に値上がりだけでなく、日本として原油確保が難しくなるという恐怖感から消費者物価が20パーセント以上も急上昇し、毎日の生活必需品である「トイレットペーパー」と「洗剤」が多少大げさに言えば「瞬く間に」店頭から消えてしまったあのパニックをご記憶の方も多いと思います。

 第一次オイルショックの発生が1973年10月でした。「トイレットペーパー・洗剤パニック」も含めてのピークで26パーセントという急激な消費者物価上昇を受けて、1974年の春闘賃上げは32.9パーセントに達し、まさに輸入インフレの賃金コストプッシュインフレへの転嫁が始まろうとしていました。

 当時、労使問題の専管団体である日経連の桜田武会長は「こんなインフレが継続したら、数年にして日本は国際競争力を完全に喪失し、日本経済は壊滅に瀕する」との危機感を強め、原油価格上昇による輸入インフレの賃金インフレへの転嫁を阻止すべく日経連内に「大幅賃上げの行方研究委員会」を設置、高橋亀吉、金森久雄はどのエコノミストをアドバイザーにその年の12月には「報告書」を発表し、有名な「賃上げガイドポスト」の「来春闘は15パーセント以下、再来年度以降一桁」を打ち出しました。

 これが、今では古典となった「大幅賃上げの行方研究委員会報告」で、今の経団連が毎年出す「経労委報告」の正に第1号です。
 桜田武は、この危機感を日本人全体が共有することが大事と全国中央、・地域の労使代表、労使関係機関の責任者、ジャーナリスト、政治家、学者等オピニオンリーダー等に送付し、さらに自ら主要経済団体等に赴き、理事会などで報告書の趣旨を説明、日経連の全国組織を指揮、強力な全国キャンペーンを張っています。
 国民の関心も強くこの「報告書」は十数万部を売ったそうです。

 さらにその上に、当時春闘のパタンセッターだった鉄鋼業界のリーダー新日鉄の稲山嘉寛(当時日経連、経団連の副会長兼務)とも十分に諮り賃上げ正常化に奔走しました。
 そしてその結果、1950年春闘の賃上げは13.1パーセントに下がり、その年の消費者物価上昇率は10.4と落ち着き、賃金インフレの止まらない欧米諸国から「日本の奇跡」と評されることになりました。

 この経験は、第二次オイルショックでは十分に生かされ、日本経済は第二次オイルショックを完璧に乗り切って、エズラ・ボーゲルをして「ジャパンアズナンバーワン」を書かしめたというのは、皆様ご承知の通りです。

 ところで、1950年の日経連総会で、桜田武は春闘総括として「労使の良識の発揮により賃金上昇は安定、日本経済は健全性を取り戻した」と語っただけでした。

 これは、経営者と政治家の違いでしょうか、それとも何の違いによるものでしょうか。

背伸びしたままではジャンプできないⅡ

2014年04月27日 09時30分26秒 | 経済
背伸びしたままではジャンプできないⅡ
 今アメリカはテーパリング(異次元の金融緩和の修正)をびくびくしながらやっています。世界の種々のマーケットが心配しながらそれを見守っています。

 基軸通貨国アメリカは長期の下痢症状(経常赤字)で体力を消耗しています。異次元の金融緩和はドーピングのようなものです。ドーピングで体力をつければ、病気(下痢症状)も治ってくれるのではないか、というのが、バーナンキ→イエレンの主導するFRBの政策です。
 かつても同じ表題でブログを書きましたが(2012/5/8)、基本は何も変わっていません。

 家計でも国でも、赤字を治すのには、もっと稼ぐか、支出を切り詰めるかしかありません。アメリカは金融緩和というドーピングで、もっと稼ぐアメリカを実現しようとしているのです。
 もっと稼ぐアメリカになってきているかどうかは「アメリカ人がより多く働く状態(雇用増)になったかどうか」で解る、そして「雇用が増えれば消費も増える」ということで、アメリカの雇用指標の動きは世界の経済指標の中でも注目の的です。

 これで済めば大変ラッキーということですが、まともな医者ならば「矢っ張り下痢の原因を治さないといけませんね」と言うでしょう。
 そしてアメリカの赤字(下痢)の原因は「ついつい収入より余計使ってしまう」という「心の病気(浪費癖)」なのです。

 その原因は、覇権国家としての体面を保たなければならないという気持であったり、アメリカンドリームに囚われた「実力以上の生活への願望」かもしれません。
 しかし「身の丈以上に背伸びしたまま更にジャンプしたい」と言っても無理でしょう。

 ジャンプのためには一度膝と腰を屈しなければなりません。経済で言えば、一旦支出を抑えて、黒字を出し、それを投資して成長の力にするというプロセスです。
 アメリカは覇権国で、基軸通貨国で、世界最大のマーケットの1つだから、アメリカが支出を抑えたら、対米輸出の減少など世界中が大変だ、という意見もあるでしょう。
 
 しかしそれをしないと、とめどないドルの切り下げやサブプライム・リーマンショックのような事態、異次元の金融緩和やその巻き戻しのテーパリングで世界経済にバブルやその破裂など無用な混乱を起こし続ける可能性が極めと大きいのはご経験の通りです。

 ちょっと長くなりますが、アメリカ以外ではこういう場合、どんな治療をしているのでしょうか。

 日本の場合、戦後復興の中で起きたこうした状態に対しアメリカはデトロイト銀行頭取のドッジ氏を派遣し政府はその助言を受けてドッジラインという緊縮政策を取り、日本経済はドッジ不況(安定恐慌)を経て健全性を取り戻しました。

 近くは韓国がアメリカのヘッジファンドが引き起こしたアジア通貨危機の中でデフォルトの危機に瀕し、IMFからの救済融資を受け、その結果IMF管理になり、1997~2000年の間、国民は耐乏生活を強いられました。

 さらに近くは、EU,ユーロ問題におけるギリシャ、スペインなどの例でしょう。当初は反政府デモや投石などの混乱もありましたが、いずれの国も2年前後の耐乏生活、GDPの縮小を経て赤字国から黒字に転換、経済再生の道を歩み始めています。(残念ながらフランスの経常赤字は改善が見られません。いつかは問題化するでしょう。)

 赤字国が黒字国に転換し、経済を健全化するには「国民の意識」を変えなければならないのです。
 さて、アメリカだけは例外なのでしょうか、それとも・・・・。

アメリカの赤字と世界経済の安定と平和の関係

2014年04月25日 11時18分27秒 | 経済
アメリカの赤字と世界経済の安定と平和の関係
 前回、このブログで「基軸通貨国が数十年に亘り赤字を垂れ流す状態」を根治することが、世界経済の安定と平和のためにいかに大事であるか・・・、と書きました。
 ご理解頂いた方も多いかと思いますが、些か飛躍があるので、私なりの説明をしておくべきかと思います。

 アメリカの経常収支の赤字1970年以前から出始めました。
 戦後、第二次大戦を勝ち抜くために働いたアメリカ国民が、その強大になった経済力を生かし、当時「バターも大砲も」などといわれたように、軍備も民政も十分賄える経済力を謳歌し、電化製品や自動車でAmerican way of life は世界の憧れとなり、当時ドルは弱体化した英国ポンドに代わって盤石の基軸通貨でした。
 
 しかし、国民は繁栄を謳歌しすぎ、生活水準は生産性の上昇を越えて上がり、一方ベトナム戦争などで大きな支出をしたため1960年代後半には赤字が目立つようになりました。
 家計でも、収入が多いからと言ってどんどん生活水準を上げ、他人の揉め事にまで首を突っ込んで金を使えば家計収支はすぐに赤字になります。

 戦後、ブレトンウッズ協定で、金は1オンス35ドルと決められ、ドル価値の裏付けになっていましたが、経常国際収支が赤字続きのアメリカのドルは次第に価値が下がり、フランスなどを筆頭に価値の下がらない金をアメリカから大量に買う国が多くなり、アメリカの金準備はじり貧になり、とうとう1971年、いいわゆるニクソンショックでドルの金兌換をやめました。

 その後もアメリカの経常赤字は止まらず、今では金は1オンス1300ドル近くです。基軸通貨ドルの価値は暴落したのです。
 赤字のアメリカは、赤字の家計が借金を重ね、遂にはサラ金に手を出すように、世界中(主には日本、中国)から借金を重ねることになります。

 日本に対しては「お前がアメリカに輸出し過ぎるからだ」といって、日米繊維交渉から鉄鋼交渉、自動車交渉、半導体交渉などで圧力を掛け、さらには、プラザ合意で円を2倍に切り上げさせ、それでも赤字は解消せず、遂にはサブプライムローンの証券化などのリスク証券をトリプルAの格付けで世界中に売り、挙句の果てにその暴落で世界中の銀行のバランスシートに大穴を開け、自らも返り血でリーマンショック。円はそのトバッチリで$1=¥80、日本は失われた20年の苦難でした。

 サブプライム問題で信用を失った米国の債券や証券は、もう買う人は少なく、残った手段は「異次元の金融緩和」で資金繰りをつけるだけ。しかしいつまでも続けるわけにはいかないので、テーパ―リングを試みていますが、これがまた世界中の経済に悪影響です。

 こうした問題はすべて1つの原因「基軸通貨国アメリカが経常赤字を解消できない」ということから発生しているのです。
 言い換えれば、アメリカの経常赤字がなくなれば、アメリカは借金をする必要も、異次元の金融緩和の必要もはなくなり、基軸通貨ドルの価値は安定、世界経済は安定し、経済の安定は政治の安定、国際的には平和の基礎につながるということです。

 では何故アメリカは経常収支の改善が出来ないのでしょうか、戦後には日本も、かつては韓国も、最近では、ギリシャもスペインもやっています。
繰り返し見て来ているところですが、その辺りは次回にします。

日米、大人の関係を

2014年04月24日 11時03分36秒 | 国際政治
日米大人の関係を
 オバマ大統領の来日を心から歓迎したいと思います。両国間の良い関係の構築は、首脳の相互訪問、相互理解からでしょう。

 今回のオバマ大統領のアジア歴訪は、経済問題もさることながら主題は政治問題のように思われます。TPPなどは多分副次的な事ではないでしょうか。

 世界で地域紛争がなかなか収まらない中で、アジアだけは平和と安定を維持して欲しいというのは、アメリカ、日本だけでなく、アジアのすべての国、さらには世界の本当の気持ちでしょう。

 アメリカにしてみれば、将来の米中の、力によらない、良識ある安定した関係が何よりも望ましいことでしょうし、そのためには、日本をはじめ、アジア諸国が、賢明な中国関係を選択し、アメリカに余計な面倒を掛けないでほしいというのが本音でしょう。

 折しも日本の この所の大人気ない行動が日中関係をとげとげしいものにし、当然のことながら、日本は最後にアメリカに頼る姿勢を明確にしています。
 アメリカにしてみれば、口頭で日米関係は強固だというのはいくらでもいうが、具体的なトラブルに巻き込まれるようなことは絶対にしてほしくないと思うのは当然です。
 おそらくアメリカは、日本に自制を要求するでしょう。

 時に「ナショナリストなどと評される」安倍総理が、どこまで多くの日本国民が思っている良識を把握して、どう応えるか解りませんが、この辺りは是非突っ込んだ話をしてほしい所です。

 一方、日本にしてみれば「対米追随などと評されてきた」状況から、「世界の経済発展と平和のために積極的に貢献する日本」という立場を明確にするためにも、アメリカの根本的な病理「基軸通貨国が数十年に亘り赤字を垂れ流す状態」を根治することが、世界経済の安定と平和のためにいかに大事であるかを、率直にアメリカに説くべきでしょう。

 こうした事が出来てこそ、日米の「大人の関係」の構築が可能になるのでしょうし、それが日米同盟の目的である「日米が協力しての世界経済の安定と平和への貢献」を具体化していく王道ということではないでしょうか。

 今回のオバマ大統領の来日を、最大限に生かすためにも、「日米の大人の関係」を確立するための第一歩を踏み出すような率直な対話を期待したいと思います。

インフレを正確に理解しましょう:4 インフレ理解の纏め

2014年04月19日 09時31分38秒 | 経済
インフレを正確に理解しましょう:4 インフレ理解の纏め
 デフレはまともな経済活動が成立たない深刻なものです(2009年11月23日付「デフレ3悪」参照)。
 インフレは1~2パーセントのマイルドなものならば、経済活動を活発にし、経済成長を促進すると考えられています。

 その理由は多分こういう事でしょう。
 デフレの時はモノを持っていると値下がりで損、借金の負担は重くなる。一方、カネを持っていると物価が下がる分だけ購買力が増える。
 インフレの時は、モノを持っていると値上がりで得、借金の負担は軽くなる。一方、貯金はインフレで目減りする。稼がないとじり貧。

 つまり、デフレの時は守りが一番、インフレの時は攻めないとじり貧、ということで、インフレの時の方が、経済活動を積極的にやらざるを得ないのです。マイルドなインフレは、経済活動を活発にし、その結果所得も増え、雇用も増えて、働けば働くほどよい結果が出ます。
 
 では、インフレが全ていいのかというと、インフレもマイルドなものならいいのですが、経験的にはインフレは加速する傾向があり、急速なインフレ、いわゆるハイパーインフレは、正常な経済活動を困難にします。朝には昨日より、午後には午前より物価が上がったり・・・、ドイツでは物価が1兆倍になったりした経験もあります。

 ということで、経済活動に良いと考えられる緩やかなインフレを安定的に維持するためには「賃金・物価・生産性の関係」を政策当局はもちろん、労使も国民も良く理解して、インフレが行き過ぎないようにすることが大事です(前回参照)。

 日本はこれを守って1980年代前半までは「ジャパンアズナンバーワン」といわれ欧米の羨む 良い経済のパフォーマンスを実現しました(ミザリーインデックス=インフレ率+失業率が最低)。
 しかし、その日本経済を「失われた20年」という地獄に落としたのは、プラザ合意、リ-マンショックによる円高です。(2009/2/6「為替レートとゴルフのハンディ」参照)

 御承知のように中国は、欧米から人民元を切り上げるべきだと言われても、人民元の価値を決めるのは中国自身だと言って頑として聞き入れません。私の会った中国の経営者は、「我々は日本の失敗から学んでいます」とか「日本の経験は他山の石」「前車の轍を踏まず」などと言います。

 このように、「賃金、物価、生産性、そして『為替レート』」の関係は、一国経済を決定的に動かす要因です。これらの内、賃金、物価、生産性は、その国の人々が努力すればよい関係を維持できるもの、まさに自助努力の産物です。しかし為替レートは、跳梁する国際投機資本の思惑の中にあります。

 最も気を付けるべきは、為替レートの変更で一国経済をインフレにもデフレにもできるという現状の国際経済システムです。
 ここまで来ると、問題は、今の資本主義(マネー資本主義化)が正常なものかどうかという、正に今、世界経済が直面する深刻な問題にたどり着きます。
 IMFも世界銀行も、基軸通貨国アメリカもG20も、未だこの問題にキチンと対応して(出来て)いません。

インフレを正確に理解しましょう:3 永続的なインフレとは

2014年04月16日 20時24分53秒 | 経済
インフレを正確に理解しましょう:3 永続的なインフレとは
 政府・日銀が、年率2パーセントのインフレを経済運営の目標(インフレターゲット)にしていますが、これは一過性のインフレではありません。毎年コンスタントに2パーセント程度のインフレがあるという経済状態を目指しているのです。

 前々回見て来ましたように、消費税増税をしたり、円安にしたり、資源価格が高騰したりしても、それを毎年コンスタントに続けることは出来ません。全く別のインフレの原因がなければなりません。

 結論から言ってしまえばそれは「賃金コストプッシュインフレ」しかありません。賃金は日本経済のコストの7割強を占めていますから、賃金が上がればコストが上がり、コストが上がれば物価に転嫁されます。一方賃金が上がれば消費者の購買力も増えますから、多少物価が上がっても消費者は買ってくれます。

 「なんだ、賃金が2パーセント上がって、物価も2パーセント上がったのでは何の意味もない」ということになりそうですが、そこには生産性が上がるという前提があるのです。
 国全体の生産性(国民経済生産性)は働く人1人当たりの実質GDPです。2パーセント賃金が上がっても2パーセント生産性が上がればコストは上がりません。当然物価も上がりません。2パーセントの賃金上昇は、消費増税などがなければ、そのまま生活向上になるわけです。

 政府・日銀が目指しているのはこうした状態です。そして、デフレでもなく大幅インフレでもなく、2パーセントぐらいのインフレが、そうした状況を作り出すのに「一番適している」というが政府・日銀の認識だという事でしょう。

 しかし、こうした状況を「安定的に作り出す」のは、そう簡単なことではありません。どこの国でも労働組合は景気が良くなれば、より高い賃上げを要求します。原油価格が上がったりして一過性のインフレがあれば、その補填分だと言って、さらに高い賃上げを要求します。こうしてインフレ率はだんだん上がり(賃金と物価のスパイラル)、その国の国際競争力は弱まり、輸入品に負けます。
 「値上げは出来ない、コスト上がる」で企業利益がなくなり、雇用に影響が出るのが「スタグフレーション」です。かつて欧米主要国はこれで苦しみました

 日本の場合、労使は過去の経験に学び、合理的な賃金決定を踏み外さないように行動することが出来ます。はしゃいでいるのは政府ぐらいで、労使は賢明に、誤りない道を模索しています。これはこのブログが、日本経済はこれから伸びる(4月3日付)としている理由の1つでもあります。(次回は纏めです)

NPDI外相会議と夢物語

2014年04月14日 10時13分17秒 | 国際政治
NPDI外相会議と夢物語
 インフレの問題を一回中断、NPDI外相会議(核兵器を持たない国の外相会議)の報道があったので、漱石の「夢十夜」ではありませんが「こんな夢を見た」と書いておきたいと思います。
 
 平成22年、日本とオーストラリアのイニシアティブによって、この会合が始まりました。今年4月11、12日と広島で開かれた会合は第8回、こうした人類の将来を明るくしようとする活動が、もっともっと拡大し、世界の関心の中でも、最もメジャーなものになっていくことを望む人は多いと思います。

 現実世界は違います。メジャーな国々というのは核兵器を持ち、その力を背景に国際関係場裏で優位を確保することが、現状では最も大事だと考えているようです。
 核兵器の保有がメジャーな国になることの条件だと考えて、何とか無理をしてでも核兵器を持とうとする国も当然出てきます。

 昔、日本は侍は刀を持ち、町人は丸腰で、「町人の風情で侍に無礼を働くとは」と手打ちになっても文句はいえなかったようです。泣き寝入りしかない町民は落語の「たがや」などでうっぷんを晴らしていたのでしょう。

 今は、ピストルや刀を持っているのは暴力団か何かで、市民は銃砲刀剣等不法所持が常識です。武器不所持がメジャーで、武器や凶器を持っているからメジャーなんてことは考えられません。凶器は政府が管理するのは常識です。歴史の流れがそれだけの変化を齎したのです。

 そうであってみれば、地球人類の世界も、きっと何百年かの将来にはそんな風になっているのではないでしょうか。個々の国がそれぞれに核兵器やや高度な武器を持つことがメジャーの条件などという『野蛮な時代』はいつかは終わるのでしょうし、そうした世界を早く作ろうという活動こそがまともな活動と考えるべきでしょう。

 「人類社会にとって国連とはなにか」「武器は国連管理が常識になる日がいつ来るのか」といった論議もそこから始まることを期待したいと思います。

 NPDI外相会議が「我々こそが人類の将来にとってもメジャーな活動をやっているのだ」と誇りを持ち、力を頼む国々は「本当はそうですね」と肩をすくめ、NPDIを尊敬するような意識が生まれるのはいつの事でしょうか。

インフレを正確に理解しましょう:2 一過性のインフレ

2014年04月13日 10時01分37秒 | 経済
インフレを正確に理解しましょう:2 一過性のインフレ
 インフレには原因によって、一過性のものと、永続性のものがあります。そして、大抵のインフレは一過性です。
 ということで、先ず一過性のインフレの原因について見てみましょう。

 今年の日本経済はある程度のインフレ(物価上昇)は避けられないでしょう。複数の原因が併存しているからです。

 第一の原因は消費税の増税です。消費税が5パーセントから8パーセントに3パーセントポイント上がります。理論的には完全に正確に価格転嫁されれば、消費者物価は3パーセント(正確には108/105=1.02857ですから2.857パーセント)上昇することになります。

 もちろん端数処理や、遣り繰り・合理化で吸収して少しでも安くしようという工夫がされたり、場合によっては便乗値上げで少し余計に上げたりなどいろいろあって、結果的には多分2~3パーセントの間ぐらいになるのでしょう。

 しかしこの物価上昇は一過性です。消費増税の価格転嫁が終わればそれ以上は上がりません。今度上がるのは消費税が10パーセントなった時です。
 政府・日銀のいう「毎年2パーセントぐらい物価が上がる」という「2パーセントインフレターゲット」とは違います。

 この間もガソリンの値段が上がりました。上がった理由は、ガソリンスタンドが儲けたわけではありません。海外で原油価格が上がっているのと、円安になって円換算の原油輸入価格が上がったことの両方が原因のようです。

 我々にはデータがないので計算できませんが、業界団体などがきちんとやれば、どちらの理由でそれぞれ何円というある程度の推計は出来るのでしょう。

 食用、飼料用の輸入穀物などが値上がりして、パンやうどんや豆腐が値上がりするというのも国際的に穀物が値上がりしているのと、円安による輸入価格上昇の両方によるものです。

 小麦、大豆、ソバなど、国産と混ぜて使っていたりすると、どれがどれだけ店頭の値上げにつながったかの計算は容易でないでしょう。

 これらの理由による上昇も一過性です。かつてオイルショックなどもありましたが、海外物価の値上がりが一段落すれば、値上がりは止まりますし、円安による分も、毎年円安になるわけではないので一過性です。

 ただ、ここで注意しておきたいのは、円安による物価上昇は日本だけで起きるものですが、海外資源価格の上昇による物価上昇は世界中で同じように起きるので、両者の国際経済関係に与える影響は異なることです。

 以上見て来ましたように、インフレの原因の多くは一過性です。常態的に毎年ある程度のインフレになるというのはどういう場合に起きることなのでしょうか。2パーセントのインフレターゲットというのはどういうことなのでしょうか。
 次回はその点を見てみましょう。

インフレを正確に理解しましょう

2014年04月10日 12時02分04秒 | 経済
インフレを正確に理解しましょう
 最近インフレについて様々な議論があります。

 ・政府・日銀が2パーセントインフレターゲットを言い出し、何か健全な経済というのは2パーセントのインフレを伴うものという意識が蔓延。
 ・円安になったのは良いが、輸入品の値上がりでインフレになり、一方賃金は上がらないのでこれは悪いインフレである。
 ・賃金も上がって、インフレ2パーセントというのなら、これは良いインフレである。
 ・原油や食料価格が世界的に上がってガソリンや毎日の食料品も上がっている、賃金が上がらなければ、景気が回復しても、生活は苦しくなるばかりだ。
 ・消費税が上がれば、さらに物価が上がり生活を圧迫する。消費税10パーセントになればさらに大変になる。
などなど・・・・。

 「良いインフレ」「悪いインフレ」などという奇妙な表現も加わって、様々なインフレ論が飛び交うという状態は、皆んながインフレに関心を持つという点では良いのかもしれませんが、インフレについての知識が正確に整理されないと、無駄な論議と混乱だけになる可能性もあります。

 日本経済の現状は、デフレからインフレへの過渡期のようなところにありますが、まだデフレの残っている部分もあり、物価上昇の原因にも、様々なものが混在しつつ、少しづつインフレ率が上がりそう、といったところでしょう。

 そんな時期ですから、今の多少の物価上昇、デフレからインフレへの転換については、矢張り、インフレについての正確な分析と理解をしたうえで、きちんと整理し、何がよくて何が悪いのか、何は対策があり、何は対策がない(インフレを認める)のか、だからこれからどうなるか、どうすべきかを誤りなく判断していくことが最も大切なように思われます。

 そんな認識を持ちながら、錯綜するインフレ論議を少し整理しておきたいと思います。

 先ず、何故日本経済がデフレからインフレに転換してきたのかです。
 これはもうとうに皆様ごご理解の事と思いますが、最大の理由は、昨年4月の$1=¥80から$1=¥100への20円幅の円安です。

 もともと日本が世界で唯一、大変長期のデフレを経験した原因は「円高」です。プラザ合意で1ドルが240円から120円になり、日本は物価も賃金も世界一高い国になりました。世界経済はグローバル化が進んできていますから、日本には世界中から安い品物が入ってくるようになり、スーパーもコンビニも、量販店も100円ショップも、「メイドイン途上国」の商品がどんどん増えていきました。

 日本の企業も、潰れるわけにはいきませんからあらゆる合理化をしてさらに賃金を下げ、人減らしをし、減らせないところは正規社員を非正規に切り替えて平均賃金を下げ、価格を下げて対抗することになります。それでも2倍になったコストも物価も容易には下がりません。これが長期デフレの実態です。
 
 何とかそろそろ国際価格並みにまで下げられたかなという迄に20年近くかかりました。しかし一息ついた「いざなぎ越え」もつかの間、今度はリーマンショックで$1=¥120が$1=¥80円に、またサバイバルの努力を続け(長期不況の続き)、「$1=¥70~50になって日本は潰れる」などというエコノミストもいる中で、やっと日銀の政策転換、昨年4月、20円幅の円安実現で、デフレ脱出となったのです。

 実のところは、まだ国際価格より高い部分(デフレ部分)と、品質から見れば高いとは言わせないという部分が混在しますが、円安でデフレを脱した部分が増えて全体ではインフレ傾向に移行してきたというのが今日の状態でしょう。

 そこでいろいろなことが起こります。そろそろ長くなるので次回にします。

黒田総裁の胸の内は?

2014年04月07日 12時58分05秒 | 経済
黒田総裁の胸の内は?
 経済だけでない諸々の問題も孕みながら、前回も書きましたように、日本経済は新しい展開を模索しています。その力の源泉である企業も新卒採用を大幅に増やす企業が続出しているとの報道がありますように、経営に積極さを増しているようです。

 その背後にあるのは、円高の恐れが薄らいでいるという認識ではないでしょうか。
 きっかけになったのは、黒田日銀総裁による日銀の政策転換でインフレ2パーセントを目指すという目標を提示しての超金融緩和、それによる20円幅の円安の実現だったことは、すでに異論のない所でしょう。

 問題は此の異次元といわれる金融緩和による円安によって生じたウィンドフォールプロフィットを日本経済がどう消化するかでした。
 これまでのところ、日本経済は円安への対応を誤りなくやってきているように思います。

 予期せぬ金が入ったと浮かれて使ってしまう可能性もあります(諺に例えれば「悪銭身につかず」)。しかしそうはならなかったようです。折角入った金だ、ムダ使いせず将来のために生かそう(諺に例えれば「奇貨居くべし」)としているように感じられます。

 経済活動をする主体は、消費者と労使、そして政策当局が舵取りをするということになりますが、はしゃいでいる政府が「賃上げをしましょう」などと言いましたが、労使は極めて冷静に対応しています。消費者の行動も明るさは増しましたが、節度あるものです。

 もともと日本のような大きな経済は、そう急には動けませんが、経済成長は現状の1パーセント台から、徐々に2パーセント台へ(実質)、技術開発も含めてバランスが回復すれば、恐らく3パーセント台も可能でしょう。

 現状、消費も、賃金水準も、1パーセントの経済成長にほぼ対応したものになっているように思いますが、投資(固定資本形成)だけが4パーセント前後の伸びを示しているようです。
 消費水準、賃金水準といった経常経済活動に対応したものは経済成長見合いで、円安による思わざる収入は無駄遣いせず投資に振り向けるというのはまさに賢明な対応(奇貨居くべし)ではないでしょうか。

 さて、そうした中で、今日、明日、日銀の政策決定会合が行われます。おそらく国際投機資本の手の内も良くご存じの黒田総裁、2パーセントのインフレ目標もにらみながらの対応という事でしょうか。

 折しも、経常収支の赤字が史上最高といった信号も見えています。アメリカがテーパリングに苦しむような状況は日本経済には起こることは多分ないでしょうが、株式・金融市場は神経質に反応するでしょう。
 そうした反応をしり目に、マネー経済学の一枚上手を行くような日銀の政策を期待したいものです。

日本の景気の現状はまだ若い

2014年04月03日 11時02分53秒 | 経済
日本の景気の現状はまだ若い
 2008年の9月25日付で>「季節も景気も秋?」と書かせて頂きました。
 丁度その10日前の9月15日、リーマンブラザーズが破綻し、アメリカ発のサブプライムローンの証券化問題の帰結が改めて明確になったようでした。

 日本の金融機関の損害はそれほど大きくないなどといわれましたが、既に円はじり高の状況になっていました。
 プラザ合意の円高の時はG5で一応の挨拶があってのことですが、この時は挨拶などはなく、国際投機資本が、円は比較的安全と読んでの円高でした。これでまた円高デフレで日本経済は当分苦しむな、というのが「季節も景気も秋?」と書いた理由でした。

 結局円は$1=¥120から80円になり、「いざなぎ越え」などといわれた状況は吹っ飛び、日本経済は、1昨年まで、足掛け5年、塗炭の苦しみにノタ打つことになりました。
 昨年4月の日銀の方針変更による20円幅の円安で、何とかデフレ脱出に目処が立ち、株価も上昇、雇用も改善、消費増税も予定通り出来る状態にまで来ました。

 しかし、客観情勢を見れば、アメリカの異次元金融緩和の巻き戻し(テーパリング)、アジアの経済・政情の不安など種々問題含みです。一方日本は、異次元の金融緩和継続の姿勢です。円安で改善するかと思われた貿易収支は赤字が拡大、経常収支まで赤字計上となる状況です。

 これを日本の競争力の低下と読むか、復興援助その他の政府の大盤振る舞いで、GDPの使い残しがなくなったためと見るか、意見は分かれましょうが、国際投機資本にとってはこれまでより「円は安全通貨」と見にくくなっているかもしれません。

 そうであれば、よほどの政策失敗がない限り「円高にはなりにくい」状況が続き、それを前提にすれば、今後、日本の経済活動は昨年のように急速ではないにしても次第に活発になっていくと考えられるのではないでしょうか。

 円高基調が残っていた「いざなぎ越え」の時期でも、日本企業は、技術開発とコストダウンの努力で、収益を改善してきました。今回はもう少し状況はいいようです。
 労使も春闘をやる元気が出、雇用情勢も改善が明確で、国民の気持ちも何となく明るくなってきているように感じられます。

 政府も、多少自画自賛の気味はありますが経済は回復基調と読んでいます。消費税増税で多少の揺れはあるかもしれませんが、そんなに大きくはないような気がしています。現状、「日本の景気はまだ若い」と言っていいように思えます。

 問題は、政策当局が、能くこの基調的な条件を壊さずに維持改善できるかどうかにかかっているのではないでしょうか。
 経済予測は、天気予報とは違います。こうすればこうなるという政策との因果関係はかなりはっきりしたものです。政経分離といっても、中国、韓国との関係が示すように悪口を言い合いながら、ビジネスは別だというわけにはなかなかいきません。

 経済的な条件は整ってきました。日本の景気はこれから伸びるという若い状態にあるようです。現状民間は企業労使も、消費者もより良い明日を目指して頑張っています。
 政府の誤りない舵取りを願いたいものです。


新入社員の皆さんへ

2014年04月01日 09時46分19秒 | 経営
新入社員の皆さんへ
 新入社員のみなさん、入社おめでとうございます。

 今まで学費を払って勉強していた皆さんが、今後は仕事をして給料を貰うのですから、経済学でいえば、全く逆の立場になるわけです。当然意識も生活も変わるでしょう。

 ということで、これから長いサラリーマン生活が始まります。誰しも人生の大半はサラリーマン生活です。私もサラリーマン生活を卒業して10年以上になりますが、サラリーマン生活は「いろいろあったけれど、やっぱり振り返れば面白かった」というのが実感です。

 ところで、昔、私の勤めていた関係の所で、よく新入社員のための本を出していました。その中で今でも印象に残っていることがあります。

 その本は、当時のオピニオンリーダーの方々が、新入社員のために役立つような経験や意見を、心をこめて書いたものです。
 記憶に残っているのはジャーナリスト出身の扇谷正造という人のもので、
「サラリーマンになって給料を貰ったら、お金が入ったと喜んで、全部消費に使ってしまうのではいけません、よく考えて、その一部を必ず自分の将来のために役立つ「投資」に使いましょう。」
という趣旨のものでした。

 一部を貯金しましょうというのはよく言われますが、「自分の成長のための投資に使いましょう」というのが、大変重要と思われて、印象に残ったのでしょう。

 実は、これは個人でも、企業でも、全く同じでなのす。企業は給料の代わりに「付加価値」(国の場合はGDP)を得ます。得た付加価値は、従業員の給料と利益(国の場合は雇用者報酬と営業余剰)に分配されます。これはサラリーマンで言えば、消費と貯蓄です。そして企業では貯蓄は投資に回ります。

 投資は、基礎研究、新製品開発、生産設備高度化、市場開拓、などなどいろいろな分野で行われます。
 これはサラリーマンで言えば、知識教養を広める、専門書を読む、専門分野で資格を取る、好きな分野の勉強を深める、社会人講座に通う、良き友人を得る(飲み会も可!)などなどでしょう。

 企業では(実は一国経済でも)、付加価値のより多くの部分を適切な投資に振り向けた企業(国)が成長するのです。投資なくして企業の成長(国の経済成長)はありません。
 サラリーマンの成長も、給料の内どのくらいの割合を適切な自己成長(自己啓発)に投資したかで、将来が決まる可能性は大きいようです。

 私は、企業の成長は(一国の成長も)生産した付加価値の内どれだけを投資に回すことが出来たかによって決まってくる、という説明をするとき、いつも身近な例として扇谷正造さんの「サラリーマンの給料の使い方」の話をお借りしています。