tnlabo’s blog   「付加価値」概念を基本に経済、経営、労働、環境等についての論評

人間が住む地球環境を、より豊かでより快適なものにするために付加価値をどう創りどう使うか。

コロナ後を見据えた経済政策 6

2021年07月05日 22時59分31秒 | 経済
日本型システム:巧まずして社会主義的
前回、戦後の日本経済は、資本主義といいながら現実には理想的な社会主義を実現していたなどと言われているということを書きました。

実はこの問題は、資本主義社会のサステイナビリティー、SDGsの基本である概念と直結する問題をはらんでいます。
理由は、格差化する社会はサステイナビリティーがないという、このシリーズのテーマと合致するからです。

資本主義は社会主義を取り入れることによって(福祉社会化)生き残ることになりました。そして、戦後の日本の経済社会は、まさに、日本的経営(国家も企業も)によって、資本主義とSDGsを共に満足す条件を作り上げ、短期間に世界第二位の経済大国にまで成長したのでしょう。

その辺りを具体的に見てみますと、国はGDPの配分で2つのことを実現していました。一つは、貧富の差を出来るだけ小さくしようという政策、具体的には所得税の累進税率を大きくし、相続税を厳しくしました。

 もう一つは、消費と投資の配分を先進国に比べて投資に大きく消費に小さく(低労働分配率)することが出來ていました。

企業はといいますと、経営者が従業員の身分差別を撤廃(全員が正規労働者)するべしと主張し、賃金は年功給が中心でしたが、初任給の平均と経営者の平均報酬の格差は、税引き前で20倍、税引き後は7~8倍(日経連調べ)というのが普通でした。

今でこそ、経営者を外部からスカウトするといった欧米流の方法が多くなりましたが、当時はほとんどが内部昇進制で、新入社員へのアンケートでは、目標は入社した会社の社長、重役になる事といったのが一般的でした。

ということは、従業員の技能、技術や経営管理能力の取得は、その企業の教育訓練制度によることになっているのが一般的でした。

企業は、技能・技術と経営管理監督の階層別教育システムを、社内教育と外部教育研修利用の組み合わせで、設計し、社内で配置転換をしながら、一人前になるころには適材適所に配置するといった形で、従業員を育てるのが重要な仕事でした。

欧米流の、職務をすぐに遂行できる即戦力を採用するよりも、手間はかかりますが、組織の凝集力が強まることで、長期的視点でそれを克服するという手法でした。
つまり、一旦採用すれば、教育訓練をして誰もが一人前に育つという雇用人事制度だったのです。

これは、どう考えても、能力は認めるが、出来るだけ所得は格差を小さくし、能力の評価はしつつも、雇用と生活の安定を重視する呻吟制度で、もし異常に高い所得を得るような人がいれば、累進課税で、出来るだけ平等に近づける、ということで、まさに理想の社会主義に近い社会・企業制度だったといえそうです。

これは当時の日本でのことで、今の日本にこれを持ち込むのは無理な話でしょう。しかしこの中で、格差を出来るだけ少なくし、社会の中で落ちこぼれを作らないといったSDGsの目的に一致した部分を巧く生かしていくことは、今、かなり傷んだ日本社会、企業文化の修復に、大きな役に立つ面があることも事実ではないでしょうか。

所詮、SGDsというのは社会が壊れず、最低限の安定を保っていなければ不可能な目標ですから、個人主義、能力主義といった面と同時に、社会という人間の集団を安定したものに維持する(これが多分「和」でしょう)ことが必要になってくるのではないでしょうか。    

次回からは、技術開発の問題に入っていきたいと思います。