タマルさんはナツメヤシ

タマルは女性の名。ナツメヤシの意味で多産を象徴。聖書には約束の地カナンは、蜜(ナツメヤシ)と乳(ヤギ)の流れる地とある。

帝王切開するならどこで?

2021-10-01 20:46:26 | 産科
緊急事態宣言が解除されるというので、昨日は一足早く保育園のお迎えに行ってきましたよ。
これが小さな幸せなわけです。

さて、前々回の続きになります。
私が20年以上前に開業する前は、兵庫県立塚口病院に勤務していましたから、
そのまま居れば、今頃は県立尼崎総合医療センターの部長になっていたことでしょう。
部長ってね、年齢が来れば誰でもなれるのですよ。
言っては何ですが、地方の部長は、中央から左遷されてきてなるものです。
まるで自民党の選挙戦のようなものなのです。
まあ、ですがそんな権力闘争に興味は無く、日本のお産が変化してきていることに危機感を覚えたための開業だったのです。

当時も今も日本でのお産の半分は診療所で、半分は病院で行われています。
そして診療所でのお産は帝王切開がすごく少ないのに、病院でのお産は1/3が帝王切開なのです。
私の師匠は、「帝王切開なら外科医で十分」と言っていましたからね。
産婦人科たるもの、赤ちゃんを産ませてあげなくてはならないという使命のもと、開業したというわけです。

20年前のタマル産では、さかごのお産も、ほぼ皆さん経膣的に産んでもらっていましたよ。
それが当たり前の時代だったからです。
ですがその頃から病院では、さかごと言えば帝王切開となり、今ではお母さんたちも帝王切開が当たり前と考えられるようになりました。
それで今ではチャレンジしたいというお母さんも無くなってきました。

そこで私は外回転術で、頭位に直してから経膣分娩するということもしてきたのですが、
やはり初産婦さんでは直らないことも多く、帝王切開を希望されるのですよね。
そんな事情で、今回初めて、帝王切開を県立病院にお願いしました。
今まではさかごの帝王切開はタマル産でしてきたのですが、時代も変わったので、どうせ帝王切開なら次も帝王切開ですし、
病院を紹介する方針に変えたというわけです。

そこで1つだけ問題なのが、いつ紹介するかということです。
というのも、妊娠中期はさかごって多いのですが、たいていは何もしなくても36週ごろまでには自然に頭位に直ります。
先日も36週の健診で自然に直っていたお母さんが居られましたし、
人によっては陣痛が来てから回転して直ることも有るのですよ。
それで今回は36週になっても治らなかった初産婦さんを紹介することにしたというわけです。

ただし結果は、県立病院の部長が嫌がるのですよ。
県立病院なのにね。
もっと早い時期に紹介しろと言われます。ですがさかごが直るかどうかぎりぎりのところまで診ないと、
帝王切開するかどうかも判断できませんし、子宮の出口の状態では、経膣分娩の方が良いことも有りますからね。
だいたい開業医の悪口まで言われる始末ですよ。
開業医は楽して儲かるとでも思われているのでしょうね。
まったくその逆なのですけれど。

それで今後はどうするかですが、やはりタマル産で帝王切開しましょうか。
それともなるべく経膣分娩を勧めましょうか。

タマル産では帝王切開率はわずか2%弱です。
病院なら丹波市でも西脇市でも30%ほどですよ。
ただしさかごを事前に紹介すれば1%も切るでしょう。
どうしてこんなに方針が違うのかと、ふしぎに思われませんか?

私は若い頃に20箇所以上の病院で働きましたが、自分で言うのもはばかれますが、
こんなに帝王切開率が低いところは有りませんよ。世界的に見てもです。
1つだけ、綾部の夏山先生だけは1%を達成しておられましたけれど。
ですが時代が違いますからね。
今は裁判が多いですから無理はできない時代です。
なるべく事故にならないように、しかも帝王切開にもならないように、
そして帝王切開が減れば輸血する患者さんも減ります。
その方がお母さんにとっても、安全だと思うのですが。
何も大きな病院で産むことだけが安全だとは思いません。

ですが、なかなか理解してもらえない世の中になってきたものです。