豆の育種のマメな話

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マレー半島,遺伝資源探索の旅で何をしたか?

2011-05-28 15:30:17 | 北海道の豆<豆の育種のマメな話>

古い話になるが・・・マレーシアを約1か月間,豆類遺伝資源(在来種など)探索行した時のメモ

 

近代的な農業の発展とともに在来種が姿を消しつつあり,また地球規模での開発が野生植物を消滅させている。生物の多様性を守ることは世界の優先課題である。そのためにも,遺伝資源の収集及び保存は極めて重要で,農林水産省はジーンバンク事業を展開し,筑波に20万点を超える遺伝資源を保存している。また,北海道でも植物遺伝資源センターを中心に約3万点を保存している。さらに,国際機関が有する遺伝資源は60万点,世界的な總点数は600万点と言われる。

 

これら遺伝資源は育種場面に活用され,有用な新品種が数多く開発されている。例えば,北海道におけるマメ育種の例で拾ってみると,道内在来種から耐冷性を導入した「カリカチ」や「トヨコマチ」,中国品種から線虫抵抗性やわい化病抵抗性を導入した「スズヒメ」や「ツルコガネ」,アメリカやタイ国の品種から難裂莢性を導入した「カリユタカ」や「ハヤヒカリ」,韓国品種から落葉病抵抗性を導入した「ハツネショウズ」や「アケノワセ」,アメリカ品種から有限伸育性と耐冷性を導入した「姫手亡」,ヨーロッパ品種から炭素病抵抗性を導入した「雪手亡」など,導入遺伝資源活用の事例は多い。このように,遺伝資源の収集とその利用は品種開発を進める上で大きな原動力になっている。

 

ここでは,1991年にマレーシアで実施した豆類遺伝資源収集の事例から,「遺伝資源探索のために何をしたか」整理して置こうと思う。この探索事業は,わが国の農業生物資源研究所とマレーシアの農業開発研究所との共同研究として実施された。この旅では,長野県中信農業試験場の大豆育種家YK氏と一緒に行動し,マレーシア側の責任者ラムリ博士を初め多くのマメ研究者とマメについて語り合った。

 

計画立案

遺伝資源収集は,何を収集するか,目標地域を何処にするか,ルートの選定,収集の時期と期間について検討することから始まる。さらに,現地での収集の可能性や安全性等も考慮される。1992年に生物の多様性に関する条約が発表され,遺伝資源に関する主権的権利が保護されるようになったため,遺伝資源収集に当たっては保有国との事前協議が必要になっている。このような遺伝資源ナショナリズムの台頭に対しては,開発途上国の未開発遺伝資源をその国の活用に役立てることを第一義にして,共同探索を実施するなどのシステムが整いつつある。

 

事前調査と旅行計画

効果的な探索を行うためには,現地機関への連絡と事前打合せ,事前情報の収集など綿密な事前調査が大事である。事前調査のために6か月から1年間の余裕が欲しい。旅行計画は,探索チームの編成,準備会の開催と役割分担,植物防疫所への連絡を行う。探索チームの編成は,造詣の深い専門家と次の派遣チームの中心となるべき若い研究者がペアを組むなど,単独より2名の方が何かと都合がよい。準備会では,派遣組織の関係者と派遣専門家が一堂に会して,調査隊の名称,役割分担,調査時期及び期間,調査予定地域,調査手段,相手国の機関及び責任者,国内本部及び連絡網,調査計画,未解決事項とその処置などを協議する。植物遺伝資源の導入を円滑に行うためには,輸入予定日の2か月前までに遺伝資源導入計画書を提出する。

 

装備と収集行動の準備

収集品収納袋は,乾燥子実用の紙袋と未乾燥の草本用に網袋を用意する。採集記録野帳は収集品個表と収集品現地総括表を準備し,ノート,地図,ロードマップ,ナイフ,ハサミ,ステプラーなども役立つ。調査用具としては,高度計,距離計を用意し収集地の情報を記録する。また,カメラ,メジャー,虫眼鏡,種子クリーニング用品等を用意し,収集品の特性調査とその環境を記録する。収集品は病虫害の発生に特に注意し,場合によっては消毒する。

 

行動は朝日とともに出発し,夕方は早めに切り上げるのが望ましい。収集品の整理と記録はその日のうちに完結させねばならないので,その分の時間を前もって考慮に入れておくと良い。宿泊は個室を準備し,連泊できるルート設定が望ましい。運転手など現地の雇用者との人間関係が大事である。温度変化に対応できる服装で,帽子と雨具は必需品。靴は野山を歩けるものと訪問先で失礼にならないもの。胃腸薬,風邪薬,防虫剤など医薬品を用意する。

 

収集品の整理,取り扱い

収集品の整理,野帳への記入は,収集当日に行うことを基本とする。宿舎に戻ってから,収集品をクリーニングし,相手国に残す分を分割し,調査個表の確認と現地総括表を作成する。記録は,調査隊2人のメモを確認しながら実施する。

 

現地での報告会では,共同研究に対する謝意を表すとともに,現地で作成した報告書(英文)を提出する。報告書には,収集の日程,収集の場所,収集品のリストなど成果を記録し,今後の取り扱いについて述べる。収集した遺伝資源は2等分し,片方を相手国に残し一部を日本に持ち帰ることを確認する。さらに,遺伝資源収集を初め情報交換の協力を約束した。

 

帰国後の整理 

収集した遺伝資源は,パスポートデータとともに農業生物資源研究所生物遺伝資源管理施設に保管する。その後,専門場所で特性調査を実施し,情報の公開と活用が図られることになる。

 

参照:1) 土屋武彦2000「豆の育種のマメな話」北海道協同組合通信社,詳細については, 2) 土屋武彦・矢ヶ埼和弘・Ramli Bin Mohdnor 1991「マレーシアにおける豆類遺伝資源の探索1991年」植物遺伝資源探索導入調査報告書 7,177-204.   3) 土屋武彦 1991「海外植物遺伝資源収集報告書,マレーシアにおける豆類遺伝資源の探索1991年」北海道立十勝農業試験場.

 

 

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