中南米山麓地帯が原産
インゲンマメ(隠元豆,菜豆,サヤインゲン,Phaseolus vulgaris L.)は中南米の山麓地帯が原産とされ(中央アメリカおよび南アメリカアンデス地域のそれぞれの地域起源説と,小粒種は中央アメリカ,大粒種は南アメリカアンデス地域で独立して栽培化されたとする多起源説があり,多起源説が有力),今から一万年前に栽培化されたと考えられる。16世紀コロンブスの大陸発見以降ヨーロッパにもたらされ,やがてアジアやアフリカにも広まった。日本へは17世紀に中国から隠元禅師によって導入されたとされる。
昔の民間育成品種には育成者の名前を付けたものがあったが,作物名に名前を残す事例は珍しい。
隠元禅師の名前を頂いたインゲンマメ
インゲンマメの名前は,隠元禅師(黄檗宗の開祖,承応3年(1654)日本からの度重なる招請に応じて来朝した。黄檗山萬福寺創建)に由来する。しかし,隠元が持参したのは実はフジマメだったという説が有力だ。「関西ではフジマメをインゲンマメと呼んでいた」ことに、起因するのだろう。今となっては確かめようがない。
因みに,フジマメ(扁豆,Lablab purpureus (L.) Sweet,花が藤の花穂と似ているためこの名が付いた)はインゲンマメとは別種である。アフリカ,アジアが原産地で,古くからアフリカ,地中海沿岸,アジア南部などで栽培され,日本には9世紀以降に導入された。農業全書(宮崎1696)には「ふじまめ」を「隠元ささげ」とも言うとある。一方,インゲンマメは「三度豆」「唐ささげ」「三度ささげ」等と呼ばれ,東北地方でも一般にササゲと呼ばれている例が多いという(参照:筑波常治「農業博物誌」玉川選書89,1978)。
呼び名はかなり混乱している。
インゲンマメとササゲは別種
ササゲ(豇豆,Vigna sinensis SAVI.et HASSK. 莢が上向きに着き,ものを捧げ持ったように見えることから名前が付いた)はアフリカ原産(アフリカ中西部ナイジェリア付近)で,古くからアフリカ,地中海沿岸,アジア南部に分布していた。わが国では古事記にも記録があり,9世紀以前には日本に導入されたと考えられている(星川 1981)。ササゲが馴染みの野菜であり,どちらも若莢を利用するなど似た野菜であることから混同が起こったのだろう。江戸時代に新しく導入されたインゲンマメがササゲと呼ばれたとしても想像に難くない。後から来たものの弱みだ。
インゲンマメとササゲの違いについて,成河智明は「西貞夫監修,野菜種類・品種名考,農業技術協会1986」の中で,「・・・インゲンマメとササゲの違いは,前者の花が下を向いて咲き,色は白,ピンク,紫などであるのに,後者の花は上を向いて咲き,多くは黄(白,紫もないことはない)である。軟莢は前者が太く,後者が細く長い。子実の臍部(目)は前者が細く小さいのに,後者は太く大きい・・・」と述べている。
参照 1) 成河智明:西貞夫監修,野菜種類・品種名考,農業技術協会1986,2) 筑波常治:農業博物誌,玉川選書89,1978,3) 前田和美:マメと人間,その一万年の歴史,古今書院1987,4) 星川清親 :ササゲ 「新編食用作物」,養賢堂1981
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