パラグアイ北部カニンデジュ県のイホヴイという田舎にある実験農場で,ダイズシストセンチュウ抵抗性の選抜試験を実施していたため,この農場はエンカルナシオンから約1,000kmの道程であったが,車を駆って何回も通った。
いつも仕事を終えると,農場の中庭でマテ茶を廻しながら火照った身体を冷やすのが習いとなっていた。そして,夜はアサードにしようかと言うことになるのだが,その日は頭上がいやに賑やかであった。
見上げれば,樹の枝に鳥の巣がぶら下がり(写真),夕刻が近づいているため鳥たちが群れを成して巣に戻っている最中である。季節は春(2006年11月),巣立ちを迎えた時期だったのだろう。
カメラを向けると,隣のインヘニエロ(技師)が薀蓄を語る。
「あれは,ツリスドリ(Icterus icterus,Troupial)だ。スズメ目,ムクドリモドキ科,ムクドリモドキ属,ムクドリモドキ(ツリスドリ)・・・,ベネズエラの国鳥だ。別の鳥がこの巣に卵を産み孵化させることもある」
当地の技師の中には博識な連中が多い。
「ああ,托卵のことだね。日本でも,郭公が他の巣に卵を託すことがある」
僅かばかりの知識で答える。
だが,実際の会話はこれほどスムーズではない。何しろ,「托卵」なんて言うスペイン語は知らない。あれやこれやと話して互いに納得し,
「じゃあ,肉を買いに行くか」と言うことになるのだ。
ツリスドリを最初に見たのは(実は巣だけ),30年ほど前のイグアスだった。アルゼンチン側のシェラトン・インターナショナルに宿泊し,滝に向かって下った所で子供が地面に落ちた鳥の巣を見つけた(写真)。見上げると椰子の葉に巣が多数ぶら下がっている。
「鳥の巣だろうね」
そう言ったものの,見るのは初めてだった。精巧なものだと感じた。鳥の姿は見えず,どの巣も空(から)のようだった。
吊り巣に群がる黒い鳥を,イホヴイ農場で初めて観察したことになる。
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