パラグアイで日本人が開発にかかわった,大豆品種の話をしよう(その5)
パラグアイの大豆生産は近年増加を続け,2005年には栽培面積190万ヘクタール,生産量は350万トンに達した。同国経済にとって大豆は今や最も重要な農作物である。栽培地域は,主産地のアルトパラナ県,イタプア県,カニンデジュ県に加え,カアサパ県,カアグアス県,ミシオネス県等主産地とは環境の異なる地域でも新たに栽培が増加したことから,それぞれの地域に適応する能力の高い品種の開発が求められている。
地域農業研究センター(CRIA)では,これまでUniala及びAurora(1997),CRIA-2(Don Rufo)及びCRIA-3(Pua-é)(2001)を開発し,普及してきたが,このたび新たにCRIA-4(Guaraní)及びCRIA-5(Marangatú)の2品種を育成した。これら新品種はカンクロ病(Diaporthe Phaseolorum f.sp. meridionalis)抵抗性を有する早生の多収品種として,生産者の期待に沿うものと考える。本稿ではCRIA-5 (Marangatú)の育成経過と特性の概要について紹介する。
なお,CRIA-5(Marangatú)は,パラグアイと日本の技術協力プロジェクト(大豆生産技術強化計画1997-2002)で選抜が行われ,プロジェクト終了後の2004年4月14日農牧省に対し種苗登録申請を行い,2005年7月3日商業品種として登録された。ちなみに、Marangatúとはガラニー語で、神聖な・気高い・誠実な・良好な・・・の意味を表す。
1. 来歴及び育成経過
大豆品種CRIA-5(Marangatú)は,CRIAの育成系統であるLCM114を母,ブラジルから導入したFT-Cometaを父として1994年に人工交配し,以降選抜固定を図ったもので,2003/04年にはF11代にあたる。なお,LCM114は,Paraná とBossierの交配後代から選抜した系統で,草型が良く良質・多収であったが,カンクロ病抵抗性がなかった。
F5代までSSD法により世代を進め,1997/98年にF5集団から草型良好な個体を選抜し,冬季にカンクロ病抵抗性に関する検定を実施し,翌1998/99年には32系統を系統選抜に供試した。なお,この間 1997年には冬季温室で2世代(F3-F4)の世代促進栽培を実施した。
1998/99年(F6),1999/00年(F7)及び2000/01年(F8)に系統選抜を続け, 2000/01年に実施した生産力検定予備試験の結果を参考にして,有望系統CM9412-10-4-2-1にLCM151の系統番号を付した。2001/02年から2002/03年にかけて,LCM151の系統名で生産力検定試験及び地域連絡試験を実施するとともに,特性検定試験を実施した。カンクロ病抵抗性検定は、1998/99年及び2001/02年の冬期に実施した。
2. 特性概要
(1)形態的特性
伸育型は有限,胚軸色は緑,小葉の形は円葉,花色は白,毛茸色は褐色,莢色は褐色,頂部花梗の莢つき良好。種皮色は黄色で,臍色は暗褐色を呈し,概観品質はよい。
(2)生態的特性
3か所2か年の成績によると,開花まで日数は60日でBR16よりも3日短く,生育日数は133日でBR16の131日より2日長い早生種に属する。主茎長は90cmでBR16より長く,最下着莢位置は16cmでBR16と同等。百粒重は13.3gでBR16より小さい。収量は3,187kg/haで,BR16より2%高い値を示した。倒伏抵抗性は強,裂莢性は難。子実の外観品質は良好で,蛋白及び脂肪含有率はそれぞれ40.8%, 21.9%である。
(3)病虫害抵抗性
病害虫抵抗性については,カンクロ病抵抗性は強,斑点病,うどん粉病の被害は少ない。さび病には感受性である。
(4)収量性
試験を実施した4か所のうち,旱魃の被害が著しかった1か所を除く3か所平均収量は3,187kg/haで,BR16と同等の多収であった。
3. 試験成績(具体的数値は省略)
(1)CRIA, Cap. Miranda(Itapúa県):2001/02年は旱魃の影響を受け収量水準は低かったが,BR16よりやや多収であった。2か年平均では,生育期間はBR16より2日短く収量はBR16並であった。(2)San Juan Batista(Misiones県):1年のみの試験であるが,旱魃の影響で極めて低収であった。(3)CETAPAR, Yguazú(Alto Paraná県):生育期間はBR16より5日長く,収量はBR16並の多収であった。草丈がBR16より約30cm長い。(4)Yjhovy(Canindeyú県):生育期間はBR16に比較し2日長いが,収量はBR16より9%高かった。
4.考察
分枝及び莢数が多く,草型良好な早生種である。また,子実の概観品質も優れる多収品種である。早播から晩播まで播種期の適応幅が広く,収量は安定している。
5. 栽培上の留意点
(1)早生種である。適期播種のほか早播や晩播にも適応する。
(2)栽植密度は畦幅40cmから45cm,1m当たり10から13個体になるよう播種する。
6. 育成者など
Ing.Antonio Schapovaloff, Dr.Eduardo Rodrigues, Ing.Carlos Chavez, Ing.Dario Pino, Ing.David Bigler, Agr.Anibal Morel, Ing.Michitaka Komeichi, Ing.Hide Sawahata y Dr.Takehiko Tsuchiya.
Ayudantes Campo: Bta.Antonio Altamirano, Bta.Casiano Altamirano y Bta.Oscar Diaz.
Institucion Vinculada: Ing.Yoshio Seki y Ing.Manuel Mayeregaer.
参照:土屋武彦2006「大豆新品種CRIA-4(Guaraní)とCRIA-5(Marangatú)の育成」専門家技術情報 第1号,MAG-JICA