豆の育種のマメな話

◇北海道と南米大陸に夢を描いた育種家の落穂ひろい「豆の話」
◇伊豆だより ◇恵庭散歩 ◇さすらい考
 

パラグアイの大豆,多収な新品種CRIA-5(Marangatú),グアラニー語で神聖な・気高い

2011-07-16 15:02:31 | 海外技術協力<アルゼンチン・パラグアイ大豆育種>

パラグアイで日本人が開発にかかわった,大豆品種の話をしよう(その5

パラグアイの大豆生産は近年増加を続け,2005年には栽培面積190万ヘクタール,生産量は350万トンに達した。同国経済にとって大豆は今や最も重要な農作物である。栽培地域は,主産地のアルトパラナ県,イタプア県,カニンデジュ県に加え,カアサパ県,カアグアス県,ミシオネス県等主産地とは環境の異なる地域でも新たに栽培が増加したことから,それぞれの地域に適応する能力の高い品種の開発が求められている。

 

地域農業研究センター(CRIA)では,これまでUniala及びAurora1997CRIA-2Don Rufo及びCRIA-3Pua-é)(2001を開発し,普及してきたが,このたび新たにCRIA-4Guaraní及びCRIA-5Marangatú2品種を育成した。これら新品種はカンクロ病Diaporthe Phaseolorum f.sp. meridionalis抵抗性を有する早生多収品種として,生産者の期待に沿うものと考える。本稿ではCRIA-5 (Marangatú)の育成経過と特性の概要について紹介する。

 

なお,CRIA-5Marangatúは,パラグアイと日本の技術協力プロジェクト(大豆生産技術強化計画1997-2002)で選抜が行われ,プロジェクト終了後の2004414日農牧省に対し種苗登録申請を行い,200573日商業品種として登録された。ちなみに、Marangatúとはガラニー語で、神聖な・気高い・誠実な・良好な・・・の意味を表す。

 

1. 来歴及び育成経過

大豆品種CRIA-5Marangatúは,CRIAの育成系統であるLCM114を母,ブラジルから導入したFT-Cometaを父として1994年に人工交配し,以降選抜固定を図ったもので,2003/04年にはF11代にあたる。なお,LCM114は,Paraná Bossierの交配後代から選抜した系統で,草型が良く良質・多収であったが,カンクロ病抵抗性がなかった。

 

F5代までSSD法により世代を進め,1997/98年にF5集団から草型良好な個体を選抜し,冬季にカンクロ病抵抗性に関する検定を実施し,翌1998/99年には32系統を系統選抜に供試した。なお,この間 1997年には冬季温室で2世代(F3-F4)の世代促進栽培を実施した。

 

1998/99年(F6),1999/00年(F7)及び2000/01年(F8)に系統選抜を続け, 2000/01年に実施した生産力検定予備試験の結果を参考にして,有望系統CM9412-10-4-2-1LCM151の系統番号を付した。2001/02年から2002/03年にかけて,LCM151の系統名で生産力検定試験及び地域連絡試験を実施するとともに,特性検定試験を実施した。カンクロ病抵抗性検定は、1998/99年及び2001/02年の冬期に実施した。

 

2. 特性概要

1)形態的特性

伸育型は有限,胚軸色は緑,小葉の形は円葉,花色は白,毛茸色は褐色,莢色は褐色,頂部花梗の莢つき良好。種皮色は黄色で,臍色は暗褐色を呈し,概観品質はよい。

 

2)生態的特性

3か所2か年の成績によると,開花まで日数は60日でBR16よりも3日短く,生育日数は133日でBR16131日より2日長い早生種に属する。主茎長は90cmBR16より長く,最下着莢位置は16cmBR16と同等。百粒重は13.3gBR16より小さい。収量は3,187kg/haで,BR16より2%高い値を示した。倒伏抵抗性は強,裂莢性は難。子実の外観品質は良好で,蛋白及び脂肪含有率はそれぞれ40.8%, 21.9%である。

 

3)病虫害抵抗性

病害虫抵抗性については,カンクロ病抵抗性は強,斑点病,うどん粉病の被害は少ない。さび病には感受性である。

 

4)収量性

試験を実施した4か所のうち,旱魃の被害が著しかった1か所を除く3か所平均収量は3,187kg/haで,BR16と同等の多収であった。

 

3. 試験成績(具体的数値は省略)

1CRIA, Cap. MirandaItapúa県):2001/02年は旱魃の影響を受け収量水準は低かったが,BR16よりやや多収であった。2か年平均では,生育期間はBR16より2日短く収量はBR16並であった。2San Juan BatistaMisiones):1年のみの試験であるが,旱魃の影響で極めて低収であった。3CETAPAR, YguazúAlto Paraná):生育期間はBR16より5日長く,収量はBR16並の多収であった。草丈がBR16より約30cm長い。(4YjhovyCanindeyú県):生育期間はBR16に比較し2日長いが,収量はBR16より9%高かった。

 

4.考察

分枝及び莢数が多く,草型良好な早生種である。また,子実の概観品質も優れる多収品種である。早播から晩播まで播種期の適応幅が広く,収量は安定している。

 

5. 栽培上の留意点

1)早生種である。適期播種のほか早播や晩播にも適応する。

2)栽植密度は畦幅40cmから45cm1m当たり10から13個体になるよう播種する。

 

6. 育成者など

Ing.Antonio Schapovaloff, Dr.Eduardo Rodrigues, Ing.Carlos Chavez, Ing.Dario Pino, Ing.David Bigler, Agr.Anibal Morel, Ing.Michitaka Komeichi, Ing.Hide Sawahata y Dr.Takehiko Tsuchiya.

Ayudantes Campo: Bta.Antonio Altamirano, Bta.Casiano Altamirano y Bta.Oscar Diaz.

Institucion Vinculada: Ing.Yoshio Seki y Ing.Manuel Mayeregaer.

 

参照:土屋武彦2006「大豆新品種CRIA-4GuaraníCRIA-5Marangatúの育成」専門家技術情報 第1MAG-JICA

 

 

Img055web

 04web_2

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

パラグアイの大豆,4粒莢の多い早生品種CRIA-4(Guaraní)

2011-07-16 10:47:37 | 海外技術協力<アルゼンチン・パラグアイ大豆育種>

パラグアイで日本人が開発にかかわった,大豆品種の話をしよう(その3

パラグアイの大豆生産は近年増加を続け,2005年には栽培面積190万ヘクタール,生産量は350万トンに達した。同国経済にとって,大豆は今や最も重要な農作物である。栽培地域は,主産地のアルトパラナ県,イタプア県,カニンデジュ県に加え,カアサパ県,カアグアス県,ミシオネス県等主産地とは環境の異なる地域でも新たに栽培が増加したことから,それぞれの地域に適応する能力の高い品種の開発が求められている。

地域農業研究センター(CRIA)では,これまでUniala及びAurora1997),CRIA-2Don Rufo)及びCRIA-3Pua-é)(2001)を開発し,普及してきたが,このたび新たにCRIA-4Guaraní)及びCRIA-5Marangatú)の2品種を育成した。これら新品種はカンクロ病Diaporthe Phaseolorum f.sp. meridionalis抵抗性を有する早生多収品種として,生産者の期待に沿うものである。本稿では CRIA-4Guaraníの育成経過と特性の概要について紹介する。

なお,CRIA-4Guaraní)は,パラグアイと日本の技術協力プロジェクト(大豆生産技術強化計画1997-2002)で選抜が行われ,プロジェクト終了後の2004414日農牧省に対し種苗登録申請を行い,200573日商業品種として登録された。

1. 来歴及び育成経過

大豆品種CRIA-4Guaraní)は,地域農業研究センター(CRIA)において,アメリカ合衆国から導入したSRF300を母,ブラジルから導入したBR38を父として1992/93年に人工交配し,以降選抜固定を図ったもので,2003/04年にはF12代にあたる。

F4代までSSD法により世代を進め,1995/96年にF4集団の2,300個体から草型良好な104個体を選抜した。なお,この間 1994/95年(F3代)には冬季温室での世代促進栽培を実施した。1995/96年(F4代)には冬季温室でカンクロ病抵抗性検定試験を実施した。

1996/97年(F5),1997/98年(F6)及び1998/99年(F7)に系統選抜を続け, 1998/99年に実施した生産力検定予備試験の結果を参考にして,早生,長葉,倒伏抵抗性の有望系統CM9201-9-4-5LCM142の系統番号を付した。

1999/00年から2002/03年までの4年間は,LCM142の系統名で生産力検定試験及び地域連絡試験を実施するとともに,特性検定試験を実施した。1999/00年冬期にはカンクロ病抵抗性を確認した。

2. 特性概要

1)形態的特性

伸育型は有限,胚軸色は緑,小葉の形は長葉,花色は白,毛茸色は褐色,莢色は暗褐色,種皮色は黄色で光沢があり,臍色は黒色を呈する。

2)生態的特性

育成場所(CRIA)における4年間の成績によると,開花まで日数は55日でPua-éよりも6日短く,生育日数は125日でPua-é134日より9日短い早生種に属する。主茎長は71cmPua-éと同等かやや短く,最下着莢位置は17cmPua-éと同等。百粒重は16.1gPua-éと同等。4粒莢が多い。収量は4か年平均3,250kg/haで,Pua-éより9%高い値を示した。倒伏抵抗性は強,裂莢性は難。子実の外観品質は良好で,蛋白及び脂肪含有率はそれぞれ41.9%, 21.5%で,蛋白含有率が高い。

地域連絡試験を行った3か所平均では,生育期間が116日でPua-éより7日早い早生種,収量は3,393kg/haPua-éと同等であった。

3)病虫害抵抗性

病害虫抵抗性については,カンクロ病抵抗性は強,炭そ病,斑点病,うどん粉病の被害は少ない。さび病,葉焼病には感受性である。

4)収量性(具体的数値は省略)

試験を実施した4か所のうち,適応地域と考えられる3か所平均収量は3,393kg/haの収量で,Pua-

と同等であった。生育期間が3か所平均で116日であり,Pua-éより7日短い早生種であることを考慮すると,収量性は高いと判断される。

3. 試験成績(具体的数値は省略)

1CRIA, Cap. MirandaItapúa県):2001/02年及び2002/03年は旱魃の影響を受け,草丈が短く,特に2001/02年は低収となった。4年間の平均では生育期間がPua-éに比較し9日短いが,収量は9%高かった。

2San IgnacioMisiones県):旱魃の影響で2001/02年は極めて低収量であった。Pua-éに比較し,生育期間は2日短く,収量は同程度であった。

3CETAPAR, YguazúAlto Paraná県):3年間とも収量水準は高かった。Pua-éに比較し,生育期間が8日短いが,収量は同等かやや多収を示した。

4YjhovyCanindeyú県):生育期間は短いが,概して収量水準は高かった。Pua-éに比較し,生育期間が4日短く,収量は2年が同等で2年が低かった。

4. 考察

早生で草丈が低く,倒伏抵抗性の長葉品種であることから,密植栽培で能力を発揮する。また,肥沃度の低い土壌より高い土壌での栽培に適している。

5. 栽培上の留意点

1)早生種である。後作トウモロコシとの輪作用に有効である。(2)土壌肥沃度が中から高い土壌で能力を発揮する。(3)播種適期は1020日から1115日である。(4)イタプア県北部,アルトパラナ県,カニンデジュ県,アマンバイ県が適応地域である。(5)栽植密度は畦幅25cmから30cm1m当たり12から15個体になるよう播種する。

6. 育成者など

Ing.Antonio Schapovaloff, Dr..Eduardo Rodrigues, Ing.Carlos Chavez, Ing.Dario Pino, Ing.David Bigler, Agr.Anibal Morel, Ing.Michitaka Komeichi, IngHide Sawahata y Dr.Takehiko Tsuchiya.

Ayudantes Campo: Bata.Antonio Altamirano, Bta.Casiano Altamirano y BtaOscar Diaz.

Institucion Vinculada: Ing.Yoshio Seki y Ing.Manuel Mayeregaer.

参照:土屋武彦2006「大豆新品種CRIA-4Guaraní)とCRIA-5Marangatú)の育成」専門家技術情報 第1号,MAG-JICA

Img053web

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする