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パラグアイにおける大豆品種国内連絡試験,育成品種の適応性を知る

2011-07-06 18:39:25 | 海外技術協力<アルゼンチン・パラグアイ大豆育種>

パラグアイにおける大豆品種国内連絡試

  

はじめに

パラグアイにおける大豆栽培地域は,南部のイタプア県(南緯28度)から北部のアマンバイ県(南緯22度)まで広がり,気象及び土壌条件の異なる地域が含まれる。パラグアイ国大豆研究プログラムでは,それぞれの地域においていかなる品種が適応し,生産者がどのような品種を選択したらよいかの情報を提供するために,また種子会社がパラグアイ国内で品種登録するために必要な情報を得ることを目的に,国内6ヶ所で連絡試験を実施している。

本報告書は,2005/06年及び2006/07年の試験結果を解析したものである。本試験の結果から,それぞれの地域において多収を示した品種を知ることができる。同時に,それらの品種の農業特性(熟期,草丈,粒大,播種期など)に関する情報を得ることができる。さらに,2005/06年は旱魃による被害が大きかった年,2006/07年は多収年であったので,各品種の気象反応を知ることも出来るだろう。

なお,この試験は,大豆研究プログラムが各地域の試験担当者の協力を得て実施し,地域農業研究センター(CRIA)が取りまとめたものであり,試験結果は農牧省研究局に提出されている。

1. 目的パラグアイ国内の異なる気象環境及び土壌条件における大豆品種特性の情報を得る。

2. 試験方法

(1)供試材料:2005/06年は85品種及び系統,2006/07年は112品種及び系統。これらの中には,商業品種,育成系統,比較品種が含まれる。

(2)試験場所:Capitan Miranda(Itapúa県)は南緯27度17分,西経55度49分で海抜231m(GPSによる。以下同じ),Tomas.R.Pereira(Itapúa県)は南緯26度42分,西経55度15分で海抜330m,Yguazú(Alto Paraná県)は南緯25度30分,西経55度02分で海抜270m,Yjhovy(Canindeyúá県)は南緯24度15分,西経55度60分で海抜405m,Chore(San Pedro県)は南緯24度01分,西経55度10分で海抜250mに位置する。なお,2005/06年のN.Talavera(Guaira県)は降水量が少なく試験遂行が不可能になったので,成績のとりまとめを中止した。2006/07年は,J. Eulogio Estigarribia(Caaguazú県,南緯25度24分,西経55度33分で海抜297m)で実施した。

(3)試験設計:各試験地とも熟期群に分け,乱塊法3反復で実施した。試験区の畦長は5m,畦幅は0.45m,1区4畦である。

3. 試験成績

(1)2005/06年の成績(5ヶ所平均)

5試験地の平均生育日数から4熟期群に分類し,早生群を表2,中生の早群を表3,中生群を表4,晩生群を表5(省略)に示した。早生群で多収を示したのはCD-202, Rafaela 58, NA 66R, NK3363, GUARANII,中生の早群ではLCM-177, BRS-260, BRS-244, CM9808等が多収であった。また,中生群ではBRS-245, BRS-247, BRS-261等が多収を示し,晩生群ではNA-8010, LCM-178, XP-7857等が多収であった。

Itapúa県南部及びCaninndeyú県等では降水量が少なく,Cap. Miranda及びYjhovyの早生群は極端に低収となった。なお,各地の個別の成績については付表(省略)に示した。

(2)2006/07年の成績(6ヶ所平均)

2006/07年は降水量に恵まれ,概して高収量年であった。しかし,生育後半にはダイズさび病が多発し,晩生品種では減収が著しかった。早生群30品種の6ヶ所平均収量は3,499kg/haと高く,中でもNB 3363, CD-202, S-1005, Tis 2049等が多収であった。中生の早群ではIGRA 518, IGRA 728, BRS-260, CD 208等,中生群ではBR01-11854, BRS- 232, BRS-258, BRS-261等,中生の晩群ではA-7118, A-7636,晩生群ではA-9000が多収であった(成績表省略)。なお,各地の個別の成績は付表(省略)に示した。

(3)2年間供試された品種の成績

2年間共通して試験された56品種について,地域及び年次を込みにした成績を,熟期群別に示した。生育期間が120日以下の早生群では,NB 3363, NA-5543 RG, DALIA 700, CRIA-3 (GUARANII)等が多収をしめした。生育期間が121~130日の中生の早群では,CD-202, BRS-260, IGRA-518, IGRA-516等が多収であった。生育期間が131~140日の中生群では,BRS-258, IGRA-728, BRS-261, BRS-244 RR等が高い収量を示した。また,生育日数が141日以上の晩生群では,BRS-Pampa RR, A-7005, BRS-Valiosa RR, LCM-164等が多収であった(成績表省略)。

4. 考察

(1)年次間差異

2005/06年の生育日数と収量の散布図(省略)について,試験地5ヶ所の平均で示した。収量は,全品種平均で2,385kg/ha,多くは2,000-3,000kg/haの間に分布した。特に生育日数の短い早生品種ほど低収の傾向があったが,これは生育前半の旱魃が影響したものと考えられる。

また,2006/07年の生育日数と収量の散布図(省略)について,試験地6ヶ所の平均で示した。収量は,全品種平均で2,953kg/ha,多くの品種が3,000kg/haを超えており高水準であった。なお,本年は早生品種が多収の傾向にあり,晩生品種の収量が低かった。晩生品種にダイズさび病の被害が多く,粒大が減少したため減収したものと考えられる。

(2)熟期群別の多収品種 

先に示したとおり国内全試験の平均では,早生品種ではNB 3363. NA-5543 RG, DALIA 700, CRIA-3 (GUARANII)等,中生の早品種ではCD-202, BRS-260, IGRA-518, IGRA-516等,中生品種ではBRS-258, IGRA-728, BRS-261, BRS-244 RR等,晩生品種ではBRS-Pampa RR, A-7005, BRS-Valiosa RR, LCM-164等が多収であった。

しかし,各地の気象条件,土壌条件が異なるので,付表(省略)に示したように成績は試験地で差異がある。降水量の多少,病害虫の発生などを考慮して,地域ごとに適品種を選択する必要があろう。

5. 留意事項

(1)2005/06年は降水量が少なく,旱魃の被害を受けた地域が多かった。また,2006/07年は降雨に恵まれ多収であったが,ダイズさび病が生育後半に大発生した。品種選択に当たっては,これらの背景を考慮すること。

(2)本成績は,病害虫抵抗性,子実品質などのデータを示していないので,品種選択にあたっては他の農業特性も含め総合的に判断すること。

6. 謝辞

各試験地の管理,調査及び成績取りまとめには次の方々の協力を得た。Ing. Agr. Claus Gross(CRIA), Ing. Agr. Mercedes Molinas, Agr. Ever Javier Benitez(CETRP), Ings. Agrs. Yoshiro Seki, Manuel Mayereyer, Akio Nakamura(CETAPAR), Ing. Agr. Armindo Basstiani(CEYH), Ing. Agr. Carlos Federico Schulz(CECH), Ing. Agr. Fernando Espinoza(CECA), Ing.Agr. Ramon Lopez (SEM-AGRO)。また,本試験を実施するに当り,大豆研究プログラム調整官Ing. Agr. Wilfrido Morel Paiva, CRIA場長Ing. Agr. Manuel Santiago Paniaguaには多大な便宜を図って頂いた。感謝申し上げる。

著者:Agr. Anibal Morel Yurenka, Ing. Agr. Héctor Montiel,  Agr. Antonio Altamirano, Agr. Casiano Altamirano,Sr. Rubén Morel, Dr. Takehiko Tsuchiya

参照:土屋武彦2007「パラグアイにおける大豆品種国内連絡試験の解析2005/06-2006/07」専門家技術情報5号,JICA-MAG

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