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パラグアイの大豆,交配による最初の育成品種「CRIA-2,Don Rufo」「CRIA-3,Puaé」

2011-07-15 09:49:37 | 海外技術協力<アルゼンチン・パラグアイ大豆育種>

パラグアイで日本人が開発にかかわった,大豆品種の話をしよう(その2

 

1980年代後半から1990年代初めにかけて,パラグアイでは新病害のカンクロ病Diaporthe phaseolorum var. caulivora)が大発生し,猛威を振るった。当時の主要栽培品種であったParaná及びBraggはこの病害に対し感受性であるため次第に姿を消し,最近は抵抗性を有するBR16BR4Embrapa48CD201Aurora等が栽培されている。

 

しかし,これらの品種は,熟期が「中生の早」に属し,収穫時期が重なるため,収穫作業に支障をきたしている。収穫期の幅を広げ生産を安定させるために,カンクロ病抵抗性の早生品種開発が強く望まれている。今回開発されたDon Rufo及びPuaé,前述の要望に応えるものである。2000823日農牧庁に対し種苗登録申請を行い,2001226日新品種として登録認可され,227日には一般公開(ランサミエント)された。

 

なお,本品種の開発は,JICAがパラグアイ国で実施した2つのプロジェクトによって推進された。すなわち,「主要穀物生産強化計画」で交配・選抜を進め「大豆生産技術研究計画」で選抜・評価を行った。また本品種は,収集した遺伝資源の中から交配親を選定して,人工交配技術により遺伝変異を作出し雑種集団の中から有望個体を選抜,更に遺伝的固定を図り農業特性を評価するという,組織化された高度な育種体制の中で開発された。両品種はパラグイ国における最初の交配育成品種として,同国の大豆育種研究史上にその名を留めるだろう。

 

1. 来歴及び育成経過

(1)Don Rufo

Don Rufoは,1991/1992CRIAにおいて,ブラジルから導入したカクロ病抵抗性のPrimaveraを母,アメリカ合衆国から導入したHood75を父として人工交配し,以降選抜固定を図ったもので,2000/2001年には F13代にあたる。

1994/1995年にF3集団から優良個体を選抜し,冬期にカンクロ病抵抗性を検定した。

1995/1996年(F4及び1996/1997年(F5)に系統選抜を実施し,有望な系統(CM9101-66-5)について冬期間2回の世代促進栽培を実施した。

1997/1998年に生産力検定予備試験を実施するとともに,LCM140の系統名で生産力検定試験及び地域連絡試験に供試した。1997/1998年冬期間には,試験用種子の増殖をかねて2回の世代促進栽培を行った。1998/1999及び1999/2000年は,生産力検定試験及び地域連絡試験を継続するとともに,特性検定試験を実施した。

 

(2)Puaé

Puaéは,1992/1993年CRIAにおいて,アメリカ合衆国から導入したSRF300を母,ブラジルEMBRAPAが育成したBR38を父として人工交配し,以降選抜固定を図ったもので,2000/2001年には F13代にあたる。

1994/1995年の冬期温室にF3集団を播種し世代促進を図り,1995/1996年にF4集団から草姿の優れた個体を選抜した。さらに同年,冬期温室においてカンクロ病抵抗性で選抜を加えた。1996/1997年にはF5代系統選抜を実施し,有望な系統(CM9201-103)について冬期間2回の世代促進栽培を実施した。

1997/1998年に生産力検定予備試験を実施するとともに,LCM141の系統名で生産力検定試験及び地域連絡試験に供試した。1997/1998年冬期間には,試験用種子の増殖をかねて2回の世代促進栽培を行った。1998/1999年及び1999/2000年は,生産力検定試験及び地域連絡試験を継続するとともに,特性検定試験を実施した。

 

2. 特性概要

(1)形態的特性

Don Rufo:伸育型は有限,胚軸色は紫,小葉の形は円葉,花色は紫,毛茸色は灰白,莢色は淡褐,種皮色は黄で光沢が有り,臍色は淡褐を呈する。Puaé:伸育型は有限,胚軸色は緑,小葉の形は円葉,花色は白,毛茸色は褐,莢色は暗褐,種皮色は黄白,臍色は褐を呈する。両品種は,花色,毛茸色,臍色などで区別できる。

 

(2)生態的特性(具体的数値は省略)

Don Rufo:育成場所(CRIA)の成績によると,開花まで日数は60日で,Paranáと同等でBR16より5日短い。生育日数は130日で,Paranáと同等でBR16より11日短い早生種に属する。主茎長は79cmでParanáと同等かやや短い。最下着莢位置は21cmでParanáと同等である。百粒重は17gでParanáよりやや大きい。収量性は,3か年平均3,755kg/haでParanáより6%高く,BR16より4%低い。耐倒伏性は強,裂莢性は難である。子実の外観品質は良好で,脂肪及び蛋白含有率はそれぞれ23.3%,40.0%である。

カンクロ病抵抗性は,Paraná,Braggの弱に対して強である。その他,葉焼病,斑点細菌病,ベト病,褐紋病,紫斑病,輪紋病,白絹病に対する抵抗性は中程度である。カメムシ等害虫に対する抗性はない。

Puaé:育成場所(CRIA)の成績によると,開花まで日数は60日でParanáと同等でBR16より5日短い。生育日数は128日でParanáより2日短く,BR16に比べると13日短い早生種に属する。主茎長は85cmでParanáと同等かやや長い。最下着莢位置は20cmでParanáと同等である。百粒は15gでParanáとほぼ同じである。収量性は,CRIAにおける3か年平均が3543kg/haで,Paranáと同等である。 耐倒伏性は強,耐裂莢性は強である。子実の外観品質は良好で,脂肪及び蛋白含有率それぞれ22.5%,40.3%である。

カンクロ病抵抗性は,Paraná,Braggの弱に対して強である。その他,葉焼病,斑点細菌病,ベト病,褐紋病,紫斑病,輪紋病に対して中程度の抵抗性を示す。カメムシなど害虫に対する抵抗性はない。

 

(3)収量性

試験を実施した4地域の平均では,Don Rufo及びPuaéの収量は3,223kh/ha,3,340kg/haで,同熟期のParanáに比べ勝り,中生種のBR16に比べても同等の多収性を示した。 

 

3. 栽培上の留意事項

(1)イタプア県における播種適期は11月中旬,アルトパラナ県では11月初めである。早播きや晩播は,草丈が短くなり収量が低下するので,避けること。(2)Don Rufoの播種量は,65-75kg/haが望ましい。35万~40万本/haの栽植密度になるよう管理する。Puaéは茎長がやや長いので,播種量を65-70kg/ha,栽植密度が33万~37万本/haになるよう管理する。(3)良好な出芽,株立て本数を確保するために,正しい方法で貯蔵された発芽率80%以上の良質種子を使用すること。(4)生育初期の病害発生を防ぐために,殺菌剤による種子予措が望ましい。(5)肥料の種類と施肥量を決めるために,土壌分析を実施すること。(6)播種に当たっては,発芽障害を起こさないよう,種子が肥料に接するのを避けること。

 

4. 育成従事者一覧

Ing.Agr. Antonio Schapovaloff,Ing.Agr. Eduardo Rodriguez,Ing.Agr. Carlos Chavez,Ing.Agr. Dario Pino, Bach.Agr. Anibal Morel,古明地通孝,沢畑秀,土屋武彦。他にAgr.Antonio Altamirano, Agr.Casiano Altamirano, Agr.Mario Diazらが育種事業を支えた。

 

5. Don Rufo,Puaé育成に係わる考察 

Don Rufo及びPuaéの開発は,当時パラグアイで大問題となっていたカンクロ病害に対処するため,緊急かつ重点テーマとして育種プログラムで取り上げられた。すなわち,Don Rufoの場合は,抵抗性品種Primaveraをブラジルから導入し,良質多収品種Hood 75と人工交配するとから始まった。また,Puaéの場合は,アメリカ合衆国から導入した抵抗性品種SRF300とEMBRAPA育成の中程度の抵抗性を有するBR38を人工交配した。

これらの交雑後代は,冬期温室を利用して,幼苗接種検定によりF3またはF4世代の抵抗性個体を選抜した。さらに,カンクロ病抵抗性については,その後もF8,F11,F12世代で接種検定を繰り返し,抵抗性を確認した。爪楊枝接種よる効率的なこの検定方法は,JICA派遣の病理専門家による指導,病理研究分野の協力があってなし得たものである。

 

さらにDon Rufo及びPuaé育成の特徴的な点は,中~後期世代の4世代に及ぶ世代促進(ビールハウスを利用した冬期栽培)である。新品種を求める生産者の声に少しでも早く応えようと,育種効率化を積極的に進めた結果,通常の育種年限より3~4年早く新品種誕生をみるに至った。また,地域適応性評価の段階では,CETAPAR等関係機関の協力を得た。

 

両品種の誕生は,前プロジェクトから現在のプロジェクトへと,育種材料と育技術が順調に受け継がれた成果である。そして,生産現場の期待に応えようと,炎天下で調査に没頭しパラグアイ国研究者及びJICA派遣専門家達の汗の結晶である。ランサミエントの挨拶で農牧大臣が言及したように,多くの分野の連携協力によって成果はもたらされた。

 

[品種名の由来] 

Don Rufo:CRIAの前身である実験農場時代から大豆の試験研究に携わり,現在の大豆育種研究室創以降も加えると計41年間大豆の試験研究に従事した,故Don Rufino Morel Farina(1928-1996)の偉業を称え品種名とした。CRIAにおける大豆試験研究創始期の技術者Rufinoの名前は,パラグアイ国で最初に誕生した交配育成品種の名前として,まさに相応しい。

Puaéスペイン語の precoz(早生)またはrapido(速い)と同意義のガラニー語。この品種の早生(育日数128日)の特性に因んで名付けた。Puaéの名称を付し,パラグアイ国における早生の実用品種としての普及を期待している。

 

参照:土屋武彦2001「大豆新品種の解説CRIA-2(Don Rufo)及びCRIA-3(Pua-e)」,専門家技術情報第2号,MAG-JICA

 

 

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