豆の育種のマメな話

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水資源を考える

2011-07-09 16:29:57 | 恵庭散歩<本のまち、私の本づくり>

北海道に,財団法人北農会が出版する季刊の農業技術情報誌「北農」があります。その783号編集後記から引用します。

◆東日本大震災ではテレビの映像を通して,国民の誰もが津波の恐ろしさを目に焼き付けた。同時に,水エネルギーの壮絶な力に驚愕したことだろう。私達が水エネルギーを体感するのは,子供の頃に,川の急流や海辺の波に足を攫われたことぐらいであるのだから。だが,私達は,水エネルギーが発電に利用され,冷却など熱交換に活用されることを知っている。

 

◆津波や台風などの水エネルギーは大きな災害を引き起こし,歴史の為政者達は治水をもって民を統治してきた。メソポタミア,エジプト,古代ローマ,中国黄河文明,江戸幕府においてしかりである。水はエネルギー以外に,飲料水,生活用水,農業用水,工業用水,環境保全水などとして使われ,人類にとって欠くことの出来ない資源であるが,この地球上で今「ウオーター・クライシス」が叫ばれている。「水の惑星」と呼ばれる地球上に水は約14km3 あるが,海水や氷河,地下水を除くと,利用できるのは僅か0.01%に過ぎず,しかも地球上に偏在している。年々水不足は深刻化して世界紛争の種になり,メジャー企業は水事業に参画し始めている。

 

◆ここでは農業場面に限定しよう。IPCCの第4次評価報告書によれば,中緯度及び乾燥地帯の降水量は21世紀の半ばまでに1030%減少し,異常気象がゲリラ降雨を起こすと指摘する。また,予想される人口増加に対する食糧増産は,アメリカやオーストラリア,南米の灌漑農業によって支えられてきたが,地下帯水層が枯渇危機にあり,塩害問題も指摘される。さらに,国連環境計画の発表では全陸地面積の約7.2%で砂漠化が進んでいるという。確かに,南米大豆栽培では2年に1度の干ばつを経験したし,アメリカやオーストラリアでは土壌劣化の話を聞いた。中国からは干ばつ,厳しい水不足のニュースが伝わってくる。

 

◆北海道では「干ばつに凶作なし」といわれ,冷湿害がむしろ課題であった。土壌の排水対策や耐湿性に関する技術は進展したが,水不足に対する認識は低い。しかし,地球規模で考えれば農業生産は干ばつとの戦いであるとも言えよう。ロンドン大学アラン教授や東京大学の沖教授グループは,「バーチャル・ウオーター」(仮想水)の概念を提唱した。この概念によれば,小麦1トン生産するのに2,000トン,大豆2,500トン,とうもろこし1,900トン,牛肉では26,000トンの水が必要で,日本が輸入する主要穀物5種と畜産物3種の合計で年間640億トンを超えるバーチャル・ウオーターを輸入している計算になるという。世界の水問題が日本の食卓に直結するということだ。北海道でも,温暖化による積雪量の減少が予測されることを考え合わせると,世界の水不足は身近になってくる。

 

◆井戸を掘り,木を植え,汚水を浄化する技術だけでは,増加する世界の人口を養うのは難しい。世界のプロジェクトは,干ばつ耐性品種の作出や生理研究に軸足を移しているように見える。


参照:土屋武彦2011「編集後記」北農78365

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