歌番号一四〇八
原文 於奈之止之乃安幾
読下 同じ年の秋
原文 者留可美乃安曾无乃无寸女
読下 玄上朝臣女(藤原玄上朝臣女)
原文 毛呂止毛尓越幾為之安幾乃川由者可利加々良无毛乃止於毛日可个幾也
和歌 もろともに おきゐしあきの つゆはかり かからむものと おもひかけきや
読下 もろともにおきゐし秋の露ばかりかからん物と思ひかけきや
解釈 先坊と一緒に起居していた去年の秋には、露ほどにも、先坊が亡くなられると言う、このようなことになるとは思いもよりませんでした。
歌番号一四〇九
原文 幾与多々加比和乃本以万宇知幾三乃以美尓己毛利天
者部利个留尓川可八之个留
読下 清正が枇杷大臣の忌みに籠もりて
侍りけるにつかはしける
原文 布知八良乃毛利布三
読下 藤原守文
原文 与乃奈可乃加奈之幾己止遠幾久乃宇部尓遠久之良川由曽奈美多奈利个留
和歌 よのなかの かなしきことを きくのうへに おくしらつゆそ なみたなりける
読下 世の中の悲しき事を菊の上に置く白露ぞ涙なりける
解釈 世の中の悲しい出来事を聞く、その言葉の響きではありませんが、菊の花の上に置く白露、それは悲しい出来事を聞いて流した涙だったのですね。
歌番号一四一〇
原文 加部之
読下 返し
原文 幾与多々
読下 きよたた(藤原清正)
原文 幾久尓多尓川由个可留良无飛止乃与遠女尓見之曽天遠於毛比也良奈无
和歌 きくにたに つゆけかるらむ ひとのよを めにみしそてを おもひやらなむ
読下 きくにだに露けかるらん人の世を目に見し袖を思ひやらなん
解釈 菊の花でも置く露、その言葉の響きではありませんが、悲しい出来事を聞くだけでも涙で袖が露に濡れたようになるという、その人の世の様を目にした、この私の袖の様子を想像してください。
歌番号一四一一
原文 加祢寸个乃安曾无奈久奈利天乃知止左乃久尓与利
万可利乃本利天加乃安者多乃以部尓天
読下 兼輔朝臣亡くなりて後、土左の国より
まかり上りて、かの粟田の家にて
原文 従良由幾
読下 つらゆき(紀貫之)
原文 飛幾宇部之布多八乃万川八安利奈可良幾美可知止世乃奈幾曽可奈良之幾
和歌 ひきうゑし ふたはのまつは ありなから きみかちとせの なきそかなしき
読下 引き植ゑし双葉の松は有りながら君が千歳のなきぞ悲しき
解釈 根を引き抜いて植えた双葉の松は、今もここに生えていますが、貴方の千歳を祈って植えた松があるのに、貴方が千歳を得られなかったことが悲しいことです。
歌番号一四一二
原文 幾曽乃川以天尓加之己奈留飛止
読下 そのついでに、かしこなる人
原文 与美飛止之良寸
読下 詠み人知らす
原文 幾美万佐天止之者部奴礼止布留左止尓川幾世奴毛乃者奈良美多奈利个利
和歌 きみまさて としはへぬれと ふるさとに つきせぬものは なみたなりけり
読下 君まさで年は経ぬれどふるさとに尽きせぬ物は涙なりけり
解釈 兼輔朝臣の御方が亡くなってから年月は立ちますが、住み慣れた場所で、尽きないものは、命ではなく、悲しみの涙なのでしょう。
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