読書日記

いろいろな本のレビュー

ユニクロ帝国の光と影  横田増生  文藝春秋

2011-06-12 16:07:53 | Weblog
 ユニクロは低価格で品質も良いので結構利用している。ただカッターシャツやポロシャツは同じ模様・デザインのものが多いので、外で同じものを着ている人と遭遇するのが嫌で、あまり買わないが。店員のマナーも結構良いので、そんなに悪い印象はない。最近ジャズのブルーノートのLPジャケットの図柄をプリントしたTシャツを売りだした。リード・マイルス製作のジャケットは秀逸で1950~1960年代のブルーノートレコードの象徴だったものだ。こういうアイデアはちょっと思いつかないが、ユニクロにはこういうことを販売の戦略として考える人間がいるということで、これもいい感じだ。特別価格一枚790円とあったので、10枚まとめ買いしてしまった。今は夏が待ち遠しい状態である。
 本書はユニクロの社長・柳井正氏の素顔と経歴を核に、会社の経営の内幕をレポしたもの。曰く、◎役員からアルバイトまで、柳井の鉄の規律が浸透。◎社長職を任された玉塚元一は、たった半期の減益を理由に更迭。◎買い取り、安売り、単品管理、ユニクロ商法の根幹は父が始めた小郡商事にある。◎日本のマスコミに取材させる際は、守秘義務契約を結ばせて中国の工場名を秘匿。◎その秘匿された協力工場を現地で特定。◎柳井がライバルにあげるスペインのZARA。売り上げはユニクロの1,5倍で、正社員率は8割。そこに、ユニクロが到達しえないグローバル企業の別解がある。以上腰巻の裏の惹句をそのまま引用したが、表には「柳井正、非情の経営」とある。冷酷無比の経営者が社員を酷使して、暴利を貪っているとんでもない会社だというラインで書いているつもりが、却ってユニクロの経営戦略の正統性を世間にアピールした結果になっている感じがする。
 社長の柳井氏は地元(山口県宇部市)ではやり手で有名だった父の等氏の洋品店を引き継いで今日に至ったのであるが、父親の存在があまりに大きかったために幼少時代から大変な苦労をしたようだ。彼の人生は父の桎梏から逃れることに費やされたと言っても過言ではない。彼の神経質で内向的な表情からは、やり手の経営者というイメージは湧いて来ない。マニュアル重視の社員管理にしても中国の工場の取材を極力秘密にするのも、ミスを犯したくないという彼の性格が表れているのだろう。「非情の経営」とはきちんとやりたいということの裏返しであろう。
 折も折、先日、新聞に、ユニクロが本書の出版元の文芸春秋を相手取り、発行差し止めや計2億2千万円の損害賠償を求める訴訟を東京地裁に起こしたというニュースが載っていた。朝日の記事は以下の通り、{訴状でユニクロ側は、中国の生産工場や国内の店で、従業員らに低賃金で長時間の労働を強いているという記述は虚偽だと指摘。「ユニクロは働く者の苦痛のうえに一人暴利をむさぼる会社だという印象を与え、ブランド価値を傷つけた」と主張している。}先ほども述べたが、本書をよく読むと、ユニクロの悪口を書いているつもりで、結果的には宣伝してくれている内容なので、肝っ玉の太い社長なら訴訟までは考えないだろう。ところが、柳井氏は即座に過剰反応してしまった。神経質な性格が出ていると言わざるを得ない。この訴訟がユニクロのけちのつき始めにならないことを祈る。

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