読書日記

いろいろな本のレビュー

原発のウソ  小出裕章  扶桑社新書

2011-07-16 21:38:18 | Weblog
 福島原発事故は一向に収束の気配はない。国家的危機の中で総力を挙げてこれに取り組むべきなのに、為政者の無能もあり、もたもたしている印象しか受けない。今回の事故で原発がいかに厄介なものであるかが、はっきりと認識された。事故当時テレビに現れた東大教授たちは楽観論を述べていたが、今はさすがにコメントすることはなくなった。全く信用できないことがわかったからだ。原子力の推進という国策に対して翼賛意見を述べないものは、大学でも東京電力でも出世できないという構造が素人目にも分かったことが今回の最大の収穫であったとは誠に残念至極である。
 本書の著者の小出氏は原発の危険性を訴え続けて40年、60歳を越えて未だに京大原子炉実験所の助教(助手)である。国策の原子力推進に反対する者はこうなるのだという見せしめのようなもので、珍しいことではない。嘗て公害問題でアカデミズムから反対運動を実践した東大の宇井純氏が50代の半ばまで助手のまま昇進を据え置かれたという例があった。彼は最後は沖縄県の私学に招かれやっと教授になれたのだった。小出氏も自己の信念を曲げず「不屈の研究者」としてのスタンスを維持している点は誠に偉大というべきである。原子力のメリットは電気を起こすこと。しかし、メリットよりもリスクのほうがずっと大きいことが説かれている。チェルノブイリに続く新たな「地球被曝」の危険性を改めて認識した。放射能の危険性は世代を越えて継続するので、地球の汚染が科学の発展の末路という古典的なテーマに収斂されて行く。あまりに象徴的と言えばあまりに象徴的だ。SF映画を見ているような感じだが、これが現実なんだよ。その恐怖を背景に巨人・阪神戦に一喜一憂する精神のありようはどう考えればいいのだろう。こんなに極楽トンボでいいのかな。

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