読書日記

いろいろな本のレビュー

未完のフアシズム 片山杜秀 新潮選書

2013-01-12 13:24:31 | Weblog
 一億玉砕は成らなかったが、 二発の原爆投下で太平洋戦争は終わった。「持たざる国」日本が「持てる国」アメリカに戦争をしかけることは最初から無謀だとわかっていたのにどうして、そのような愚かしい戦争に向かって行ったのか。
 著者は日本のフアシズムの歴史を主に日本陸軍のエリートたちに照準を合わせて描いていく。第一次世界大戦は戦力・物資の豊かな「持てる国」が逆の「持たざる国」を圧倒したことで、「持たざる国」が今後「持てる国」相手に戦争していく場合、どうすべきかということが日本の軍人の大きな課題となった。このような状況下で、彼らはタンネンベルクの戦いを例に挙げて、兵力は少なくても大軍に勝利するチャンスはあると考えるようになった。タンネンベルクの戦いとは第一次世界大戦初期、ドイツ軍がロシア軍を破った戦いで、この時ロシア軍はドイツ軍の二倍以上の兵力を持ちながら敗れた。陸軍のエリートたちはこの地を訪れて、兵力は少なくても作戦の立て方によって勝利できると、事例としては稀有なものを一般化することで、軍国主義を推し進めて行った。その結果表れたのが「戦陣訓」であり、戦場で捕虜になるくらいなら自決せよという教えが兵士たちに重くのしかかって行った。
 その典型がアッツ島玉砕で、そこで採られたられた戦法が「バンザイ突撃」だ。陣地に籠って敵に抗するのではなく、動ける全兵力で勇猛果敢に突撃した。結果はほぼ全滅。この戦法は陸軍の「皇道派」の小畑敏四郎らによって推奨されたものだった。山崎大佐は「バンザイ突撃」にあたって次のように訓示したという。「弾が尽きたら銃剣を以て突撃せよ。銃剣が折れたら、鉄拳を以て躍りかかれ、鉄拳が砕けたら、歯を以て敵兵を噛み殺せ。一人でも多く敵を倒すのだ。一兵でも多く殺してアメリカを撃砕せよ。身体が砕け、心臓が止まったら、魂魄を以て敵中に突撃せよ。全身、全霊をあげて栄誉ある皇軍の真髄を顕現せよ」。これぞ精神主義の極致。これが神風特攻隊、一億玉砕へとつながる。
 著者はこのようなフアナティックな精神主義の由来を、わかりやすく述べている。精神主義の強調は時代の悪化と正比例する。運動クラブの体罰も軍隊の支配・被支配の関係の変形だと思うのだが、どうだろう。

最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。