「笛吹き男」とは、ハーメルンに伝わる伝説で、見知らぬ男が町に現れ、笛を吹いてネズミを集め退治するが、住民が約束の報酬を支払わないことに怒り、町中の子供を集めて連れ去る。1284年に実際起こった、子供130人の行方不明事件がもとになっている。本書はこの事件の真相について考察したものであるが、周辺の歴史を検討するだけでも手間のかかる仕事であり、結構めんどくさい。著者はそれを手際よくまとめており、読み物としても楽しめる。
事件に関しては第二章で「子供十字軍説」や「舞踏病説」などが挙げられているが、著者は東方の植民地に農民を入植させたことを指すのではないかという説を唱えている。植民請負人(ロカトール)が交通の要衝であるハーメルンで農民のみならず、六歳から十三歳の子供であれば少し待てば入植地で大きな戦力になるから、連れて行ったのだと。この植民請負人(ロカトール)と契約していたのがドイツ騎士修道会総長であった。ドイツ騎士修道会の使命は、「異教徒」とされていた東欧のヴェンド人やスラブ人をキリスト教化することにあった。彼らは最新の武器で武装した騎馬隊を中心に構成された獰猛な先頭集団で、多くの異教徒を殺戮したキリスト教原理主義の団体であった。このような状況下、北の辺境地域で切り取った広大な占領地はドイツ騎士修道会によって守られ、ここへ農民を入植させるために、植民請負人(ロカトール)と契約を結んで植民を募集したと著者はいう。
この東方植民運動を近現代のナチスの東方植民運動(東方生存権確保)と関連付けたのが本書の眼目で、「笛吹き男」伝説がドイツ史の中で再び甦ることになった。ドイツ騎士修道会に相当するのがナチスの親衛隊(SS)で、これに貢献したんがハインリッヒ・ヒムラーである。ポーランド侵攻とソ連に対するバルバロッサ作戦。第二次世界大戦の悪夢がここに始まる。そして「笛吹き男」に擬せられるのが、ヒトラーである。本書によるとナチスの場合、直接的に笛に相当するのがヒトラーの好んだワグナーの「リエンツイ序曲」だという。この序曲はナチスの党大会でよく演奏された。党大会の照明の光と音楽、そしてヒトラーの演説。身振り手振りよろしく何万人という群衆を扇動していくテクニックは一級品だ。東方植民運動を煽動する植民請負人(ロカトール)そのものと言えよう。
そしてドイツ騎士修道会のキリスト教原理主義は、アーリア人至上主義というおぞましい人種問題に変形していく。その中で生まれたのがレーベンスボルン(生命の泉)というものだ。これは親衛隊(SS)の下部組織で、目的はドイツ民族の「北方化」という人口政策上の目標の促進にあった。「北方系」(金髪・碧眼)の女性たちが意図的に親衛隊員と結婚させられて子供を産ませられる生殖施設である。実際「北方系」の多いスエーデンでかなりの子供が生まれたようだが、その他の占領地でのレーベンスボルンの子供たちを拉致してドイツへ送って養子縁組させるようになった。子供を拉致する、これはまさにハーメルン伝説のアナロジーと言えよう。「歴史は繰り返す」。この言葉の重みをしっかり受け止める必要があろう。まだまだ歴史を学ぶ意味はある。
事件に関しては第二章で「子供十字軍説」や「舞踏病説」などが挙げられているが、著者は東方の植民地に農民を入植させたことを指すのではないかという説を唱えている。植民請負人(ロカトール)が交通の要衝であるハーメルンで農民のみならず、六歳から十三歳の子供であれば少し待てば入植地で大きな戦力になるから、連れて行ったのだと。この植民請負人(ロカトール)と契約していたのがドイツ騎士修道会総長であった。ドイツ騎士修道会の使命は、「異教徒」とされていた東欧のヴェンド人やスラブ人をキリスト教化することにあった。彼らは最新の武器で武装した騎馬隊を中心に構成された獰猛な先頭集団で、多くの異教徒を殺戮したキリスト教原理主義の団体であった。このような状況下、北の辺境地域で切り取った広大な占領地はドイツ騎士修道会によって守られ、ここへ農民を入植させるために、植民請負人(ロカトール)と契約を結んで植民を募集したと著者はいう。
この東方植民運動を近現代のナチスの東方植民運動(東方生存権確保)と関連付けたのが本書の眼目で、「笛吹き男」伝説がドイツ史の中で再び甦ることになった。ドイツ騎士修道会に相当するのがナチスの親衛隊(SS)で、これに貢献したんがハインリッヒ・ヒムラーである。ポーランド侵攻とソ連に対するバルバロッサ作戦。第二次世界大戦の悪夢がここに始まる。そして「笛吹き男」に擬せられるのが、ヒトラーである。本書によるとナチスの場合、直接的に笛に相当するのがヒトラーの好んだワグナーの「リエンツイ序曲」だという。この序曲はナチスの党大会でよく演奏された。党大会の照明の光と音楽、そしてヒトラーの演説。身振り手振りよろしく何万人という群衆を扇動していくテクニックは一級品だ。東方植民運動を煽動する植民請負人(ロカトール)そのものと言えよう。
そしてドイツ騎士修道会のキリスト教原理主義は、アーリア人至上主義というおぞましい人種問題に変形していく。その中で生まれたのがレーベンスボルン(生命の泉)というものだ。これは親衛隊(SS)の下部組織で、目的はドイツ民族の「北方化」という人口政策上の目標の促進にあった。「北方系」(金髪・碧眼)の女性たちが意図的に親衛隊員と結婚させられて子供を産ませられる生殖施設である。実際「北方系」の多いスエーデンでかなりの子供が生まれたようだが、その他の占領地でのレーベンスボルンの子供たちを拉致してドイツへ送って養子縁組させるようになった。子供を拉致する、これはまさにハーメルン伝説のアナロジーと言えよう。「歴史は繰り返す」。この言葉の重みをしっかり受け止める必要があろう。まだまだ歴史を学ぶ意味はある。