東京・台東借地借家人組合1

土地・建物を借りている賃借人の居住と営業の権利を守るために、自主的に組織された借地借家人のための組合です。

【判例紹介】 家賃の一部(内金)として受領する旨の回答が受領拒絶に当たるとされた事例

2011年10月17日 | 弁済供託

 判例紹介

 家賃増額請求され、従前の賃料を提供したところ、家主が賃料に一部として受領する旨回答したことが受領拒絶に当たるとされた事例 (東京高裁昭和61(1986)年1月29日判決、判例時報1183号88頁)

(事案)
 家主が借家人に対し、昭和57年4月家賃1ヶ月1万2500円に値上げした後、同年7月再度1ヶ月1万5000円に値上げ請求した。

 借家人は、同年9月上旬、同年8月分の家賃として、従前額を持参した。ところが、家主は、借家人に対し、さらに同年10月から1ヶ月2万5000円に値上げ要求する旨通告した上、「持参した家賃は、値上げされた家賃の一部として受け取る」と述べた。

 借家人は、提供した家賃の受取を拒否されたものと考え、従前の家賃額で供託した。

 家主は供託は無効であると主張して、家賃不払を理由として借家契約を解除し、建物の明け渡しを求めた。

 借家人は、家主が持参された家賃をその一部としてなら受領する旨述べたことは、、借家人が家賃の値上げを争い、従前額による家賃を相当と認めて提供したものであり、借家法7条2項の趣旨からすれば、家主は不足分があることを借家人の押し付けるような趣旨で受け取ることは許されないというべであるから、家主の申出は受領拒絶の態度を示したというべきであると反論した。

(判旨)
 「家主が、家賃の弁済の提供を受けた際、内金としての受領する旨述べたことは、特段の事情のない以上、家賃の全額の弁済として提供されるのであればその受理を拒絶する趣旨を含むものと解すべきである。したがって、家主は、借家人が債務の本旨に従った弁済の提供に対し、その受領を拒絶し、その後も受領しない意思を示したものいわなければならない。そうすると、本供託は、家主の受領拒否によりなされた適法な供託であり、これによって右家賃債務が消滅したことになるから、家主がなした家賃の催告および条件付解除の意思表示は、効力を生ずる理由がない」

(短評)
 賃料の増額請求がされた場合、賃借人が相当賃料として従前額を提供し、賃貸人がこれを賃料の内金として受領しようとする事例が多い。この場合の賃貸人の態度が受領拒絶に当たるかが問題となる。最高裁昭和50年4月8日判決は、受領拒否に当たらないとする。また従前額の供託金について、一部弁済として受領する旨留保して供託金の還付を受けることも認められている。本件判決は、右最高裁判決と相反するものであるが本件では家主の増額請求に相当無理な点があるという特殊なケースであり、われわれとしては、安易に本判決の理屈付けを利用せず、従来どおり支払った上、賃料全額であることを通告する方式を堅持していきたい。

 

(1986.07.)

(東借連常任弁護団)

東京借地借家人新聞より


【Q&A】 賃料を内金として受領すると言われた場合どうするか 

 

東京・台東借地借家人組合

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