東京・台東借地借家人組合1

土地・建物を借りている賃借人の居住と営業の権利を守るために、自主的に組織された借地借家人のための組合です。

地主が大阪の地上げ屋に土地を売却 (東京・大田区) 

2012年03月16日 | 弁済供託

 大田区南馬込地域に約30坪を借地しているAさんの地主は契約期間満了を2年後に控えた一昨年3月に、底地を大阪市の建設業者に売却した。

 新たな賃貸人の建設業者は想定通り代理人を介して、借地権を売却を求めてきたが、Aさんは住み慣れた居住地であり、他に移転する意思はないと拒否する。今度は例の如く土地の買取を求められたが、Aさんはいずれの請求にも毅然とした態度で丁寧に断った。

 さらに、Aさんは地代の支払いについて、前賃貸人同様に銀行口座を開設し振込みによる支払い方法を求めたが回答はなく、改めて建設業者に書面にて回答がない場合は、やむを得ず地代を供託すると通告するが、回答はなかった。

 東京法務局での供託を考えて、地代の支払い方法に関して誠意ある回答ない状況なので、前賃貸人は地方に居住のために、賃借人の居住地の銀行口座に振り込みをしていたことを説明して相談。法務局の見解は、民法の規定により債権者の現在の住所において供託せよとのことだった(註)。

 大阪法務局への供託手続きは用紙の送付に供託金の送金と手間と経費がかかるが、Aさんは頑張って手続きをしている。

 

東京借地借家人新聞より


 ここからは、東京・台東借地借家人組合。 

 弁済供託することができる法律要件(民法494条)は、
①債権者が弁済の受領を拒絶、
②債権者が受領不能(不在、住所不明、行方不明等)、
③過失なくして誰が債権者か確知することができないとき(相続があって誰が相続したか不明の場合、または、相続人は判明しているが、相続の分割割合が判らない場合等)、
以上の3つの場合である。これらに該当しない場合は無効の供託になる。

 弁済供託が出来る場合の典型は、賃借人が口頭で賃料を現実に提供したのに、賃貸人がその受領を実際に拒絶した場合である。賃料の提供は原則として、現実の提供をなすべきであるが、債権者が予め受領を拒むときは、債務者は現実の提供を必要とせず、口頭の提供(弁済の準備をしたことを通知してその受領を催告すること)をするだけでもよい(民法493条)。

 底地を買った建設業者の所有権移転登記が完了していなければ、最高裁の判例では登記簿上の土地所有者(従前の地主)に賃料を提供するのが正解とされている。即ち、「所有権移転登記をしない限り賃借人に対して所有権の取得、賃貸人たる地位の承継を主張することが出来ない。譲受人の移転登記がない場合には賃料請求をすることが出来ない最高裁1974(昭和49)年3月 19日判決)とされている。また、「登記簿上の所有名義人は反証のない限り当該不動産を所有するものと推定される」(最高裁1959(昭和34)年1月8日判決)。

 供託要件の②であれば勿論それを理由に弁済供託している筈である。以後、この記事に書かれていることが、当然、登記簿謄本で、建設業者の所有権移転登記が完了し、建設業者が土地所有者であることを確認していることを前提として論ずる。

 上記のAさんの場合、口座振込の依頼に対する回答がなかった場合は弁済供託すると建設業者に通告した。それに対する建設業者からの回答がなかったことを理由に賃料を弁済供託するというのは無謀である。

 口座振込依頼請求に回答しないことが賃料の受領拒否という理由にはならない。また、賃料支払の現実の提供をしていないから、Aさんの弁済供託は供託要件を満たしていないので、無効の弁済供託になる(大審院明治45年7月3日判決)。このままでは、賃料不払(債務不履行)で契約解除される恐れがあり、危険である。

 Aさんは先ず、現実に賃料の提供をしなければならない。大阪の建設業者(債権者)に賃料を現金書留で送る。そのまま受取れば、次回も同様にして提供する。建設業者(債権者)が提供賃料を送り返してきたら、それは受領拒否ということになるので、そのときは大阪法務局へ弁済供託の手続きを採ればいい。

 【地代・家賃を弁済供託する場合の供託書の記載例】はこちらを参照

 なお、賃料の提供は、現金のほか、銀行振出小切手(個人振り出しの小切手は不可)、郵便為替でも可(最高裁昭和37年9月21日判決) 。


(註)民法495条1項 「供託は債務の履行地の供託所にしなければならない」

 

東京・台東借地借家人組合

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