東京・台東借地借家人組合1

土地・建物を借りている賃借人の居住と営業の権利を守るために、自主的に組織された借地借家人のための組合です。

【Q&A】 地代の増額請求に時効はあるのか 

2005年06月29日 | 地代の減額(増額)

  13年前に地代の値上げを請求されたが
     地代の増額請求に時効はないのか

 (問) 平成2年4月地主から大幅な地代(5月分から)の値上げを要求され、以来、地代を供託している。ところが、平成13年10月、地代の再値上げを通告され、加えて、平成2年5月分からの差額地代についても請求された。地代の増額請求に時効はないのでしょうか。


 (答) 増額請求権は形成権であるから貸主の増額する旨の一方的意思表示(増額の申入れ)が借主に到達した時に以後相当額に増額されたことになる(最高裁判昭36年2月24日判決

 地代家賃の増減請求権(借地借家法11条・32条)は、建物買取請求権、取消権、解除権等と同じく、請求権者が相手方に対して地代等を増減する旨の意思表示をすれば、相手方が承諾しなくても、値上げ値下げの効果が発生する権利である。

 形成権は権利者の一方的な意思表示によって法律関係の変動(発生・変更・消滅)を生じさせる権利であるという。形成権は一旦権利が行使されれば法律関係の変動生じ、それ自体消滅してしまう権利である。従って、権利の行使による中断ということは有り得ない。

 ところが、民法126条は、「取消権は、追認をすることができる時から5年間行使しないときは、時効によって消滅する」と書かれている。学説の多数は、形成権の期間制限の規定は時効期間ではなく除斥期間を定めているものとしている。

 除斥期間といのは、法律上、権利の行使や存続のために定められた一定期間をいう。権利行使期間という意味では、消滅時効期間と似ている。異なる点は、除斥期間の場合には当事者の援用を必要としない。もう1点は除斥期間には中断という制度がないことである。

 従って、裁判所は、除斥期間を過ぎていれば、当事者の援用がなくても、その権利は消滅したものとして裁判が出来る。

 地代・家賃の増減請求権は、条文上期間の制限がない。期間の定めのない形成権については、それぞれの権利の性質に応じた除斥期間に服するとされている。地代家賃等の賃借料は民法169条(定期給付債権の短期消滅時効)(註1)により5年で消滅時効になるので、増減請求権の除斥期間は5年となる。 即ち、貸主の値上げ請求の増加額分の請求権は5年で消滅する。

 (註1) 民法169条「年またはこれより短い時期によって定めた金銭その他のもの物の給付を目的とする債権は、5年間行使しないときは、消滅する。」

 このように賃料増減請求権の行使に時間的な制限を加えて期間の限定を設ける。これによって、権利を有しながら長期間無為に行使しない「権利の上に眠る」貸主に、請求権行使に5年という枠を嵌め、裁判制度を使って短期に問題解決の決断を促すという点ではメリットがある。

 しかし、最高裁の判例は形成権にも消滅時効は成立するとしている。形成権に関して、裁判例は期間5年を除斥期間ではなく、消滅時効期間という取扱いをしている。ここでは裁判例に従って消滅時効という見解で回答する。

 月払いの地代は民法169条にいう5年の短期消滅時効にかかりかつ、地代値上げ請求にかかる増加額についても所定の弁済期から消滅時効は進行を始める東京地裁昭和60年10月15日判決、判例時報1210号61頁以下)。 

 弁済期が定められた債権の消滅時効は弁済期が起算点になる(註2)。平成17年1月時点を例にすれば、賃料の支払いが後払いの毎月末日払いの場合、弁済期はその月の末日である。例えば、1月であれば、1月31日である。この場合の起算点は平成17年1月31日である。

 但し、民法上の期間を算定するとき(日、週、月又は年によって期間を定めた場合)は初日を算入しない(民法140条)ということであるから、平成17年2月1日(起算日)から時効は進行する。このように請求されている地代の増額分は、毎月、毎月5年前の分が次々と時効で消滅していく。

 (註2) 民法144条「時効の効力は、その起算日にさかのぼる。」、民法166条「消滅時効は、権利を行使することができる時から進行する。」 

  結論、判例によれば、質問者の増額地代の差額分は平成13年10月の時点では、平成8年10月以前の分に関しては既に消滅時効が完成している。賃料債権は消滅したことになり、支払う必要はない。

 なお、時効の利益を受ける者は、消滅時効が成立したと主張する必要がある(註3)。これを時効の援用という。勿論、黙っていたのでは時効の利益を受けられない。そこで、証拠に残すためにも、内容証明郵便で時効の援用をする。内容は、「増額請求権は民法169条の短期消滅時効により平成8年10月以前の分に関しては既に消滅時効が完成し、賃料債権は消滅している。従って、消滅時効部分の支払請求には応じられない」という趣旨のことを書き、配達証明付きにして地主に送り届けておく。これで時効の援用と増額請求の支払拒否の通知は終了である。

 (註3) 民法145条「時効は、当事者が援用しなければ、裁判所がこれによって裁判をすることができない。」

 援用の時期は何時までにしなければ、援用権が無くなるということはないが、要は債権者から請求があったときに援用すればいい訳である。勿論、裁判との関係で最終期限はある。第2審の口頭弁論終結までに時効を援用しなければならない(大審院大正7年7月6日判決)。


 (*)賃料増減請求権は5年で消滅時効が成立する大阪地裁平成12年9月20日判決東京地裁昭和60年10月15日判決名古屋地裁昭和59年5月15日判決)と各々の地裁が判決している。

 

東京・台東借地借家人組合

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