東京・台東借地借家人組合1

土地・建物を借りている賃借人の居住と営業の権利を守るために、自主的に組織された借地借家人のための組合です。

【判例紹介】*更新料特約は金額が一義的且つ具体的でない場合は支払義務がない 最高裁判決

2016年05月25日 | 民法・借地借家法・裁判・判例

 判例紹介

 更新料特約を有効と判断した最高裁判例 (平成23(2011年7月15日)年7月15日第2小法廷判決

 これまで地裁・高裁の結論が分かれていた更新料条項について、最高裁判所が有効と判断した事例を紹介します。ただ、この判例は限定的ですので、借地借家人は誤った理解をしないよう注意して下さい。

 【事案の概要
 
こ の事件は、京都市内の共同住宅の1室についての借家契約が問題となった。
①賃借人は平成15年4月1日~平成16年3月31日まで、契約期間1年の借家契約を結んだ。
②賃料月3万8000円、特約で更新の際は更新料として賃料の2か月分7万6000円を支払うことが契約書に記載されていた。
平成16~平成18年までは1年契約で3回、特約の更新料7万6000円を支払って契約を更新した。
③最後の1回は法定更新を主張して更新料7万6000円を支払っていない。
④賃借人が3回の更新の際に支払った合計22万8000円の返還を求めたのに対し、賃貸人が法定更新の際にも更新料を支払うべきと主張して、 法定更新の際の更新料の支払いを求めた。この更新料支払条項が消費者契約法10条に反するかが争点になった。

 本件借家契約書には特約として、更新するときは、法定更新であるか、合意更新であるかにかかわりなく、1年経過するごとに、賃貸人に更新料として賃料の2か月分を支払わなければならないという更新料支払条項がある。

 【最高裁の判断
 
こ の事案に対し、最高裁は、更新料の性質について、更新料は、賃料と共に賃貸人の事業の収益の一部を構成するのが通常であり、その支払により賃借人は円満 に物件の使用を継続することができることからすると、更新料は、一般に、賃料の補充ないし前払い、賃貸借契約を継続するための対価等の趣旨を含む複合的な 性質を有する」としています。その上で、更新料は、民法等の規定に比べて、消費者である賃借人の義務を加重するものとして、消費者契約法10条の特約条項を無効にする要件の一 つに該当すると認定した。

 また、消費者契約法10条は特約を無効にする要件として、民法1条2項の信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものであると規定している。

 しかし、「賃貸借契約書に一義的かつ具体的に記載された更新料条項は、更新 料の額が賃料の額、賃貸借契約が更新される期間等に照らし高額に過ぎるなどの特段の事情がない限り、消費者契約法10条にいう「民法第1条第2項に規定す る基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するもの」には当たらない」として、特約条項を無効にする要件としては認められないと判断した。

 「更新料条項は本件契約書に一義的かつ明確に記載されているところ、その内容は,更新料の額を賃料の2か月分とし,本件賃貸借契約が更新される期間を1年間と するものであって、上記特段の事情が存するとはいえず、これを消費者契約法10条により無効とすることはできない。また、更新料条項を、借地借家法30条にいう同法第3章第1節の規定に反する特約で建物の賃借人に不利なものということもできない。」

結果、賃借人の支払い済みの更新料22万8000円の返還請求は破棄され、賃貸人の未払い更新料請求7万6000円は認められた。

 【注意点
 
この判例の問題点は多々指摘することができるが、最高裁判所の判断なので、今後の借地借家の問題に強い影響を及ぼすことは明らかである。最高裁は、この判決で1年契約で家賃の2か月相当の更新を是認する判断をした。

 一般的に借家契約 では、更新料条項として首都圏では2年ごとに家賃の1~2か月相当の更新料を支払うと金額まで明示されている場合が多く、最高裁の判断からすると2年契約で家賃の1~2か月相当の更新料支払条項を無効とするのは可なり難しくなった。

 つまり、借人と賃貸人との間に更新料の支払に関する明確な合意が成立している場合であって、更新料支払条項が契約書に「一義的かつ具体的に記載」され、更新料の金額が賃料の額と更新される期間等と勘案して高額すぎるなどの特段の事情がない限り、その更新料の合意は消費者契約法に反せず、法定更新を選択した場合でも更新料を支払う義務があるとした。

 他方、借地契約の場合、そもそも契 約書に更新料支払条項がなかったり、更新料支払約束があっても、「更新に際し、世間相場並みの更新料を支払うものとする」、「近隣と同等の更新料を支払う」 等、具体的な金額まで記載されていなかったりする事例が殆どだ。この場合、最高裁が指摘する「一義的かつ具体的」な更新料の金額の合意がないので、従来どおり法律上も慣習上も支払義務のない更新料を支払う必要はない

 「一義的」とは、「意味や結果がただ一種類であること」(岩波国語辞典)、「一つの意味にしか解釈が出来ない様子」(新明解国語辞典)ということである。
  従って、「借地契約は更新料750万円を支払うことで更新される」と具体的な金額が明記されていたり、「更新に際して、坪当たり5万円の更新料を支払うものとする」、「更新時に更新料として国税庁路線価(1㎡当たり)の5%×借地面積相当分の 金額を支払う」というように具体的に金額が算定できる根拠が示されている場合は、支払い義務が発生する危険がある。

 また、最高裁の判断だと、借人と賃貸人との間に更新料の支払に関する明確な合意が成立していない場合、或いは仮に更新料条項が明確に規定されていたとしても、更新料が著しく高額な場合更新料支払特約が無効となる余地がある。この点も注意して下さい。

 

東京・台東借地借家人組合

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