東京・台東借地借家人組合1

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【Q&A】 契約解除権は10年で消滅時効になる

2016年06月23日 | 民法・借地借家法・裁判・判例

土地の無断転貸を理由に明渡請求
    契約解除権は10年で滅時効になる

  (問) 15年前に借地の一部を地主の承諾を得て隣の食品会社に転貸した。会社はそこに軽量鉄骨造りの倉庫を建てて現在も使用している。
 ところが今回地主が死亡して相続人から地代の大幅値上げを請求された。その請求を断ると、無断転貸を理由に契約解除・土地明渡請求が内容証明郵便で送られて来た。どうしたらいいのか。
 相続人に承諾の証拠を示せない。こんなことになるのであれば、文書での承諾を得ておけばよかったと悔やまれる。


  (答) 相談者の場合は先代の地主から承諾を得て食品会社に転貸していた。だから過去に地主との間に転貸でのトラブルがなかった訳である。相続人の無断転貸の主張は言掛かりに過ぎない。しかし、賃借人は転貸承諾を文書化していなかったので、言掛かりに対する立証が難しい。

 民法では、「賃借人は賃貸人の承諾が無ければ賃借権を他人に譲渡したり、賃借物を転貸することが出来ない。賃借人がこれに反し転貸した時は、賃貸人は契約を解除することが出来ると定めている(民法612条)。

 長期間契約を解除しないで放置していた場合、解除権は消滅時効にかかるのかという問題である。
消滅時効は、一定期間権利が行使されなかったことによってその権利が消滅するものである。

 最高裁は「賃貸土地の無断転貸を理由とする賃貸借契約の解除権は、賃借人の無断転貸という契約義務違反事由の発生を原因として、賃借人を相手方とする賃貸人の一方的な意 思表示により賃貸借契約関係を終止させることができる形成権であるから、その消滅時効については、債権に準ずるものとして、民法167条1項が適用され、その権利を行使することができる時から10年を経過したときは時効によって消滅する(1987(昭和62)年10月8日判決)としている。

 消滅時効の起算点については、転貸借契約が結ばれて転借人が土地について使用収益を開始した時から消滅時効は進行するとしている(1987(昭和62)年10月8日判決)

 「時効による権利消滅の効果は、時効期間の経過とともに確定的に生ずるものではなく、時効が援用されたときにはじめて確定的に生ずるもの」(最高裁1986(昭和61)年3月17日判決)として援用を停止条件としている。

 これは時効によって利益を受ける者が時効の成立したことを主張しなければならない。この主張を援用と いう。時効期間が経過することによって権利の得喪は生じるが、未だ確定的ではなく、援用によって初めて権利が確定する。換言すると、10年が経過しても借 地人は消滅時効を、転借人は取得時効を援用しない限り、地主は無断転貸を理由とした明渡請求が出来ることを意味している。

 難癖であろうと降り懸かる災難は取除かなければならない。承諾の有無を相続人と争うよりも、消滅時効で片を付けた方が解決が速い。

 結論、談者の場合は既に10年の時効期間を満たしている。消滅時効の起算点は、食品会社との賃貸借契約で15年経過していることは証明できる。従って地主に対して配達証明付き内容証明郵便で「解除権は既に時効である」と《時効の援用》をすれば、消滅時効は完成する。


(*) 民法612条(賃借権の譲渡および転貸の制限)「①賃借人は、賃貸人の承諾を得なければ、その賃借権を譲り渡し、または賃借物転貸することができない。② 賃借人が前項の規定に違反して第三者に賃借物の使用または収益をさせたときは、賃貸人は、契約の解除することができる。」

(*)民法167条1項(債権等の消滅時効)「債権は、10年間行使しないときは、消滅する。」

 

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