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最高裁判例
賃貸建物の新旧所有者が賃貸人の地位を旧所有者に留保する旨の合意をしても、賃貸人の地位が新所有者に移転しない特段の事情があるとはいえないとされた事例
(最高裁平成11年3月25日判決 裁判集民事192号607頁、判例時報1674号61頁)
主 文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理 由
上告代理人工藤舜達、同林太郎の上告理由第2点、同坂井芳雄の上告理由第1点、及び同原秋彦、同洞雉敏夫、同牧山嘉道、同若林昌博の上告理由第2点について
一 本件は、建物所有者から建物を賃借していた被上告人が、賃貸借契約を解除し右建物から退去したとして、右建物の信託による譲渡を受けた上告人に対し、保証金の名称で右建物所有者に交付していた敷金の返還を求めるものである。
二 自己の所有建物を他に賃貸して引き渡した者が右建物を第三者に譲渡して所有権を移転した場合には、特段の事情のない限り、賃貸人の地位もこれに伴って当然に右第三者に移転し、賃借人から交付されていた敷金に関する権利義務関係も右第三者に承継されると解すべきであり(最高裁昭和35年(オ)第596号同39年8月28日判決・民集18巻7号1354頁、最高裁昭和43年(オ)第483号同44年7月17日判決・民集13巻8号1610頁参照)、右の場合に、新旧所有者間において、従前からの賃貸借契約における賃貸人の地位を旧所有者に留保す旨を合意したとしても、これをもって直ちに前記特段の事情があるものということはできない。何故なら、右の新旧所有者間の合意に従った法律関係が生ずることを認めると、賃借人は、建物所有者との間で賃貸借契約を締結 したにもかかわらず、新旧所有者間の合意のみによって、建物所有権を有しない転貸人との間の転貸借契約における転借人と同様の地位に立たされることとな り、旧所有者がその責めに帰すべき事由によって右建物を使用管理する等の権原を失い、右建物を賃借人に賃貸することができなくなった場合には、その地位を 失うに至ることもあり得るなど、不測の損害を被るおそれがあるからである。もっとも、新所有者のみが敷金返還債務を履行すべきものとすると、新所有者が無 資力となった場合などには、賃借人が不利益を被ることになりかねないが、右のような場合に旧所有者に対して敷金返還債務の履行を請求することができるかどうかは、右の賃貸人の地位の移転とは別に検討されるべき問題である。
三 これを本件についてみるに、原審が適法に確定したところによれば、
(一)被上告人は、本件ビル(鉄骨・鉄骨鉄筋コンクリート造陸屋根地下2階付10階建事務所店舗) を所有していたアーバネット株式会社(以下「アーバネット」という。)から、本件ビルのうちの6階から8階部分(以下「本件建物部分」という。)を賃借し (以下、本件建物部分の賃貸借契約を「本件賃貸借契約」という。)、アーバネットに対して敷金の性質を有する本件保証金を交付した、
(二)本件ビルにつき、平成2年3月27日、(1)売主をアーバネット、買主を中里三男外38名(以下「持分権者ら」という。)とする売買契約、
(2)譲渡人を持分権者ら、 譲受人を上告人とする信託譲渡契約、
(3)賃貸人を上告人、賃借人を芙蓉総合リース株式会社(以下「芙蓉総合」という。)とする賃貸借契約、
(4)賃貸人 を芙蓉総合、賃借人をアーバネットとする賃貸借契約、がそれぞれ締結されたが、右の売買契約及び信託譲渡契約の締結に際し、本件賃貸借契約における賃貸人の地位をアーバネットに留保する旨合意された、
(三)被上告人は、平成3年9月12日にアーバネットが破産宣告を受けるまで、右(二)の売買契約等が締結 されたことを知らず、アーバネットに対して賃料を支払い、この間、アーバネット以外の者が被上告人に対して本件賃貸借契約における賃貸人としての権利を主 張したことはなかった、
(四)被上告人は、右(二)の売買契約等が締結されたことを知った後、本件賃貸借契約における賃貸人の地位が上告人に移転したと主張したが、上告人がこれを認めなかったことから、平成4年9月16日、上告人に対し、上告人が本件賃貸借契約における賃貸人の地位を否定するので信頼関係が破壊されたとして、本件賃貸借契約を解除する旨の意思表示をし、その後、本件建物部分から退去した、というのであるが、前記説示のとおり、右(二)の合 意をもって直ちに前記特段の事情があるものと解することはできない。そして、他に前記特段の事情のあることがうかがわれない本件においては、本件賃貸借契 約における賃貸人の地位は、本件ビルの所有権の移転に伴ってアーバネットから持分権者らを経て上告人に移転したものと解すべきである。以上によれば、被上 告人の上告人に対する本件保証金返還請求を認容すべきものとした原審の判断は、正当として是認できる。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用できない。
その余の上告理由について
所論の点に関する原審の認定判断は,原判決挙示の証拠関係に照らして是認することができ、その過程に所論の違法はない。所論引用の各判例は、案を異にし本件に適切でない。論旨は、違憲をいう点を含め、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は独自の見解に基づいて原判決の法令違背をいうものにすぎず、採用できない。
よって、裁判官藤井正雄の反対意見(略)があるほか、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
最高裁裁判長裁判官大出峻郎、裁判官小野幹雄、同遠藤光男、同井嶋一友、同藤井正雄
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大規模災害で建物が滅失してしまった場合
借地権と再築はどうなるのか
(問) 借地上の建物が地震による倒壊・焼失、また津波による流失等の大災害により滅失した場合、或いは、大規模火災で焼失した借地人の権利はどうなるのか。
(答) 借地契約が借地借家法施行(1992(平成4)年8月1日)前に設定された借地権(建物滅失後の建物築造)に関しては借地法7条が適用される(借地借家法附則7条)。
借地権の存続期間が終了する前に地震・火事・台風等による災害によって借地上の建物が滅失した場合は借地権自体は消滅しない。借地法7条は建物が滅失しても建物を再築することが出来ることを規定している。
仮に、借地法7条の規定に反して再築をを禁止する特約があったとしても、判例上、借地法11条の規定によって借地権者に不利益なものとして無効とされる(最高裁1958(昭和33)年1月23日判決・民集12巻1号72頁)。
他の判例でも「建物を新築する時は、地主の承諾を得る旨の特約があるとしても、この特約は消失した建物を再築する際にも地主の承諾が必要である趣旨ではない」(東京高裁1958(昭和33)年2月12日判決)としている。従って災害による滅失の場合は増改築を制限する特約があっても地主の承諾は不要と言うことになる。
問題は、借地人の建物が滅失している間(例えば建物の再築が資金繰等で長引いている場合)に、地主が第三者に土地を売却してしまった場合である。
本来、借地人は借地上の建物を登記しておけば土地所有者が代っても新所有者に対して自分の借地権を対抗(主張)することが出来、借地の明渡しを求められることはない。
しかし、建物が滅失している間に土地を取得した新所有者に対しては原則的には借地権を主張することは出来ないのが原則である。
「借地借家法」は借地人の救済の措置として、建物の滅失の原因を問わずに借地人が建物を特定する事項・建物の滅失の日・建物建築予定等を掲示することによって建物が無くても旧建物の滅失の日から2年に限って新所有者に対抗することが出来る(借地借家法10条2項)という救済規定を定めている。但し、対抗力の維持は滅失建物が登記されていたことが条件になる。
以前は大規模災害があった場合、政令で適用地域を定めて罹災都市借地借家臨時処理法が適用された。1995(平成7)年1月17日の阪神大震災の場合は20日後に処理法が指定された。
罹災都市法は、災害時にも適用され、これまで30回程度にわたって適用事例がある。平成7年に発生した阪神・淡路大震災にも適用されたが、戦後の臨時立法当時の法体系と現代の借地借家の実情に整合しないなど様々な問題点が指摘され、罹災都市借地借家臨時処理法は、2013(平成25)年に廃止された。
新たに施行された「大規模な災害の被災地における借地借家に関する特別措置法」(2013(平成25)年6月26日法律第61号)では、
大規模な災害の被災地において、災害により借地上の建物が滅失した場合における借地人の保護等を図るための特別措置を定めた法律で借地借家法に優先する。当該災害を「特定大規模災害」として政令で指定され、適用すべき措置及び地区が指定される。(第2条)
建物滅失後の借地権対抗力
借地権の対抗力の特例では、借地借家法第10条第1項の場合において建物の滅失があっても、その滅失が特定大規模災害によるものであるときは、政令の日から6か月間は第3者に対抗することができる。
なお、6か月が経過した後は、借地権者がその建物を特定するために必要な事項等を土地の上の見やすい場所に掲示する時は、政令の日から起算して3年間は借地権を第3者に対抗することができることになった。(第4条)
なお、借地借家法10条2項は第三者に2年間対抗できるとなっている。
地主が借地権の譲渡又は転貸に反対している場合
特定大規模災害で建物が滅失していても借地権を譲渡又は転貸することができるようになった。ただし政令施行から1年以内借地人は裁判所に申し立てを行なえば、地主が譲渡・転貸に反対していても、裁判所が地主に変わって朱諾する規定が設けられた。(第5条)
従前借家人への通知制度
特定大規模災害で借家人が借りている建物が滅失した場合、従前の賃貸人がその敷地上に新たに建物を築造し、または築造しようとする場合、政令施行の日から3年以内にその建物の賃貸借契約の締結を勧誘しようとするときは、賃貸人は従前の賃借人のうち知れている者に対し、遅滞なくその旨を通知する義務が生まれる(第8条)。
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最高裁判例
賃借人の債務不履行による賃貸借の解除と賃貸人の承諾のある転貸借
(最高裁平成9年2月25日判決 民集51巻2号398頁)
主 文
原判決中、上告人ら敗訴の部分を破棄し、同部分につき第1審判決を取り消す。
前項の部分に係る被上告人の請求をいずれも棄却する。
訴訟の総費用は被上告人の負担とする。
理 由
上告代理人須藤英章、同関根稔の上告理由について
一 被上告人の本訴請求は、上告人らに対し、(一) 主位的に本件建物の転貸借契約に基づいて昭和63年12月1日から平成3年10月15日までの転借料合計1億3110万円の支払を求め、(二) 予備的に不当利得を原因として同額の支払を求めるものであるところ、原審の適法に確定した事実関係は、次のと おりである。
1 被上告人は、本件建物を所有者である訴外有限会社田中一商事から賃借し、同会社の承諾を得て、これを上告人キング・スイミング株式会社に転貸していた。上告人株式会社コマスポーツは、上告人キング・スイミング株式会社と共同して本件建物でスイミングスクールを営業していたが、その後、同会社と実質的に一体化して本件建物の転借人となった。
2 被上告人(賃借人)が訴外会社(賃貸人)に対する昭和61年5月分以降の賃料の支払を怠ったため、訴外会社は、被上告人に対し、昭和62年1月31日までに未払賃料を支払うよう催告するとともに、同日までに支払のないときは賃貸借契約を解除する旨の意思表示をした。然るに、被上告人が同日までに未払賃料を支払わなかったので、賃貸借契約は同日限り解除により終了した。
3 訴外会社は、昭和62年2月25日、上告人ら(転借人)及び被上告人(貸借人)に対して本件建物の明渡し等を求める訴訟を提起した。
4 上告人らは、昭和63年12月1日以降、被上告人に対して本件建物の転借料の支払をしなかった。
5 平成3年6月12日、前記訴訟につき訴外会社の上告人ら及び被上告人に対する本件建物の明渡請求を認容する旨の第1審判決が言い渡され、右判決のうち上告人らに関する部分は、控訴がなく確定した。
訴外会社は平成3年10月15日、右確定判決に基づく強制執行により上告人らから本件建物の明渡しを受けた。
二 原審は、右事実関係の下において、訴外会社と被上告人との間の賃貸借契約が被上告人の債務不履行により解除されても、被上告人と上告人らとの間の転貸借は終了せず、上告人らは現に本件建物の使用収益を継続している限り転借料の支払義務を免れないとして、主位的請求に係る転借料債権の発生を認め、上告人らの相殺の抗弁を一部認めて、被上告人の主位的請求を右相殺後の残額の限度で認容した。
三 しかし、主位的請求に係る転借料債権の発生を認めた原審の判断は、是認できない。その理由は、次のとおりである。
賃貸人の承諾のある転貸借においては、転借人が目的物の使用収益につき賃貸人に対抗し得る権原(転借権)を有することが重要であり、転貸人が、自らの債 務不履行により賃貸借契約を解除され、転借人が転借権を賃貸人に対抗し得ない事態を招くことは、転借人に対して目的物を使用収益させる債務の履行を怠るものにほかならない。そして、賃貸借契約が転貸人の債務不履行を理由とする解除により終了した場合において、賃貸人が転借人に対して直接目的物の返還を請求 したときは、転借人は賃貸人に対し、目的物の返還義務を負うとともに、遅くとも右返還請求を受けた時点から返還義務を履行するまでの間の目的物の使用収益 について、不法行為による損害賠償義務又は不当利得返還義務を免れないこととなる。他方、賃貸人が転借人に直接目的物の返還を請求するに至った以上、転貸人が賃貸人との間で再び賃貸借契約を締結するなどして、転借人が賃貸人に転借権を対抗し得る状態を回復することは、もはや期待し得ないものというほかはなく、転貸人の転借人に対する債務は、社会通念及び取引観念に照らして履行不能というべきである。従って、賃貸借契約が転貸人の債務不履行を理由とする解除により終了した場合、賃貸人の承諾のある転貸借は、原則として、賃貸人が転借人に対して目的物の返還を請求した時に、転貸人の転借人に対する債務の履行不能により終了すると解するのが相当である。
これを本件についてみると、前記事実関 係によれば、訴外会社と被上告人との間の賃貸借契約は昭和62年1月31日、被上告人の債務不履行を理由とする解除により終了し、訴外会社は同年2月25 日、訴訟を提起して上告人らに対して本件建物の明渡しを請求したというのであるから、被上告人と上告人らとの間の転貸借は、昭和63年12月1日の時点では、既に被上告人の債務の履行不能により終了していたことが明らかであり、同日以降の転借料の支払を求める被上告人の主位的請求は、上告人らの相殺の抗弁につき判断するまでもなく、失当というべきである。右と異なる原審の判断には、賃貸借契約が転貸人の債務不履行を理由とする解除により終了した場合の転貸 借の帰趨につき法律の解釈適用を誤った違法があり、右違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。この点をいう論旨は理由があり、原判決中、上告人ら敗訴の部分は破棄を免れず、右部分につき第1審判決を取り消して、被上告人の主位的請求を棄却すべきである。また、前記事実関係の下においては、不当利得を原因とする被上告人の予備的請求も理由のないことが明らかであるから、失当として棄却すべきである。よって、民訴法408条、396条、386条、96条、89条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
最高裁裁判長裁判官可部恒雄、裁判官園部逸夫、裁判官大野正男、裁判官千種秀夫、裁判官尾崎行信
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土地賃貸借の合意解除は地上建物の賃借人に対抗できるとされた事例(最高裁 昭和38年2月21日判決 民集17巻1号219頁)
主 文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理 由
上告代理人松井久市の上告理由第1点について。
しかし、原判決の確定した事実によれば、本件建物は、杉皮葺板壁平屋建1棟建坪43坪8合のものであって、訴外丁の建築したものを、昭和30年3月被上告人において賃借し、爾来被上告人がこれに居住し、家具製造業を営んで現在に至っているというのであるから、原判決がこれを借地、借家法にいう建物に当ると判示したのは正当である。
所論は、原審の適法にした事実認定を非難し、判示に反する事実を前提として原判決に所論違法ある如く主張するに帰するから、採るを得ない。
同第2点について。
しかし、原判決が、本件借地契約は、借地法9条にいう一時使用のためのものではなく、借地法の適用を受ける建物所有のために設定されたものであること、所論調停条項は、所論の如き趣旨のものではなくて、上告人と訴外丁とが、右の本件借地契約を合意解除してこれを消滅せしめるとの趣旨であるとした判断は、挙示の証拠関係及び事実関係に徴し、首肯できなくはない。
ところで、本件借地契約は、右の如く、調停により地主たる上告人と借地人たる訴外丁との合意によって解除され、消滅に至ったものではあるが、原判決によれば、前叙の如く、右丁は、右借地の上に建物を所有しており、昭和30年3月からは、被上告人がこれを賃借して同建物に居住し、家具製造業を営んで今日に至っているというのであるから、かかる場合においては、たとえ上告人と訴外丁との間で、右借地契約を合意解除し、これを消滅せしめても、特段の事情がない限りは、上告人は、右合意解除の効果を、被上告人に対抗し得ないものと解するのが相当である。
なぜなら、 上告人と被上告人との間には直接に契約上の法律関係がないにもせよ、建物所有を目的とする土地の賃貸借においては、土地賃貸人は、土地賃借人が、その借地上に建物を建築所有して自らこれに居住することばかりでなく、反対の特約がないかぎりは、他にこれを賃貸し、建物賃借人をしてその敷地を占有使用せしめることをも当然に予想し、かつ認容しているものとみるべきであるから、建物賃借人は、当該建物の使用に必要な範囲において、その敷地の使用收益をなす権利を有するとともに、この権利を土地賃貸人に対し主張し得るものというべく、右権利は土地賃借人がその有する借地権を抛棄することによって勝手に消滅せしめ得ないものと解するのを相当とするところ、土地賃貸人とその賃借人との合意をもって賃貸借契約を解除した本件のような場合には賃借人において自らその借地権を抛棄したことになるのであるから、これをもって第三者たる被上告人に対抗し得ないものと解すべきであり、このことは民法398条、538条の法理からも推論することができるし、信義誠実の原則に照しても当然のことだからである。(昭和9年3月7日大審院判決、民集13巻278頁、昭和37年2月1日当裁判所判決、最高裁民事裁判集58巻441頁各参照)。
されば、原審判断は、結局において正当であり、論旨は、ひつきょう原審が適法にした事実認定を非難するか、独自の見解をもって原判決に所論違法ある如く主張するに帰するから、採るを得ない。
なお、論旨後段の、上告人が前記和解において、本件建物を丁所有の他の建物とともに42万円で買い受けることにしたのは、便宜上移転料に代え、取毀し材料として買受けたものである云々の主張は、原審で主張判断を経ていない事実であるから、これをもってする論旨は、採るを得ない。
同第3点について。
所論事実は、原審で主張されていないから、原審がそれにつき判断しなかったのは当然のことであり、論旨は採るを得ない。
よって、民訴401条、95条、89条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
最高裁裁判長裁判官高木常七、裁判官入江俊郎、裁判官下飯坂潤夫、裁判官斎藤朔郎
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最高裁判例
宅地の所有者は、他の土地を経由しなければ、水道事業者の敷設した配水管から当該宅地に給水を受け、その下水を公流、下水道等まで排出することができない場合において、他人の設置した給排水設備を当該宅地の給排水のため使用することが他の方法に比べて合理的であるときは、その使用により当該給排水設備に予定される効用を著しく害するなどの特段の事情のない限り、当該給排水設備を使用することができる。
(最高裁判所第三小法廷 平成14年10月15日判決、 民集 第56巻8号1791頁)
主 文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理 由
上告代理人藤原正廣、同児嶋香里の上告受理申立て理由について
1 原審の適法に確定した事実関係の概要は、次のとおりである。
(1) 被上告人らは、本件造成住宅地内の宅地である本件各土地を所有している。
本件造成住宅地に接する県道には、水道事業者である小野市が水を供給するため管理する配水管と本件造成住宅地内の下水を土地改良区が管理する水路まで排出するための排水管が敷設されている。本件造成住宅地内の通路である本件道路は小野市の所有である。本件各土地から県道までは、相当な距離があり、両者は本件道路及び他人所有の造成区画により隔てられている。
(2) 上告人は、本件道路の下に、県道下にある上記配水管及び排水管と本件造成住宅地内にある各造成区画の給排水設備とを接続するための本件給排水管施設を設置した。
(3) 本件給排水管施設は、現在上告人が所有管理し、他の造成区画の給排水のため現に使用されている。
2 本件は、被上告人らが、上告人に対し、本件各土地の給排水のために、本件給排水管施設の使用の承諾を求める事案である。
3 【要旨】宅地の所有者は、他の土地を経由しなければ、水道事業者の敷設した配水管から当該宅地に給水を受け、その下水を公流又は下水道等まで排出することができない場合において、他人の設置した給排水設備をその給排水のため使用することが他の方法に比べて合理的であるときは、その使用により当該給排水設備に予定される効用を著しく害するなどの特段の事情のない限り、民法220条及び221条の類推適用により、当該給排水設備を使用することができるものと解するのが相当である。その理由は、次のとおりである。
民法220条は、土地の所有者が、浸水地を乾かし、又は余水を排出することは、当該土地を利用する上で基本的な利益に属することから、高地の所有者にこのような目的による低地での通水を認めたものである。同法221条は、高地又は低地の所有者が通水設備を設置した場合に、土地の所有者に当該設備を使用する権利を認めた。その趣旨とするところは、土地の所有者が既存の通水設備を使用することができるのであれば、新たに設備を設けるための無益な費用の支出を避けることができるし、その使用を認めたとしても設備を設置した者には特に不利益がないということにあるものと解される。ところで、現代の社会生活において、いわゆるライフラインである水道により給水を受けることは、衛生的で快適な居住環境を確保する上で不可欠な利益に属するものであり、また、下水の適切な排出が求められる現代社会においては、適切な排水設備がある場合には、相隣関係にある土地の高低差あるいは排水設備の所有者が相隣地の所有者であるか否かにかかわらず、これを使用することが合理的である。したがって、宅地の所有者が、他の土地を経由しなけ れば、水道事業者の敷設した配水管から当該宅地に給水を受け、その下水を公流又は下水道等まで排出することができない場合において、他人の設置した給排水設備をその給排水のため使用することが他の方法に比べて合理的であるときは、宅地所 有者に当該給排水設備の使用を認めるのが相当であり、二重の費用の支出を避けることができ有益である。そして、その使用により当該給排水設備に予定される効用を著しく害するなどの特段の事情のない限り、当該給排水設備の所有者には特に不利益がないし、宅地の所有者に対し別途設備の設置及び保存の費用の分担を求めることができる(民法221条2項)とすれば、当該給排水設備の所有者にも便宜であるといえる。
4 これを本件について見ると、本件各土地と県道との位置関係、本件給排水管施設が設置された経緯、その現況等前記の事実関係の下においては、被上告人らは、他の土地を経由しなければ、本件各土地に前記配水管から給水を受け、本件各土地の下水を前記水路まで排出することができないのであり、その給排水のためには本件給排水管施設を使用することが最も合理的であるというべきである。そして、本件において、被上告人らが本件給排水管施設を使用することにより現にされている給排水に支障を生ずるとは認められず、他に本件給排水管施設に予定された効用を著しく害するような事情をうかがうこともできない。そうすると、上告人は、被上告人らによる本件給排水管施設の使用を受忍すべきである。
5 以上と同旨の見解に基づき、上告人が被上告人らに対して本件給排水管施設の使用を承諾すべき旨を命じた原審の判断は、本件給排水管施設の使用を受忍すべき義務があることを確認する趣旨のものとして、正当として是認することができる。 原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。
よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官上田豊三、 裁判官金谷利廣、 裁判官奥田昌道、 裁判官濱 田邦夫)
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普通建物の所有を目的とする土地の賃貸借契約において期間を3年と定めた場合、存続期間が30年になるとされた事例
(最高裁大法廷昭和44年11月26日判決 民集23巻11号2221頁)
主 文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理 由
上告代理人松本茂三郎の上告理由第1点ないし第3点及び第5点について。
原判決挙示の証拠関係に照らせば、所論の点に関する原審の認定判断は肯認することができる。所論は、畢竟、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するに帰し、原判決には所論の違法はなく、論旨は採用できない。
同第4点について。
借地権の存続期間に関しては、借地法2条1項本文が、石造、土造、煉瓦造またはこれに類する堅固の建物の所有を目的とするものについては60年、その他の建物の所有を目的とするものについては30年とする旨規定し、また、同条2項が、契約をもって堅固の建物について30年以上、その他の建物について20年以上の存続期間を定めたときは、前項の規定にかかわらず、借地権はその期間の満了によって消滅する旨規定している。
思うに、その趣旨は、借地権者を保護するため、法は、借地権の存続期間を堅固の建物については60年、その他の建物については30年と法定するとともに、当事者が、前者につい30年以上、後者について20年以上の存続期間を定めた場合に限り、前記法定の期間にかかわらず、右約定の期間をもって有効なものと認めたものと解するのが、借地権者を保護することを建前とした前記法条の趣旨に照らし、相当である。従って、当事者が、右2項所定の期間より短い存続期間を定めたときは、その存続期間の約定は、同法2条の規定に反する契約条件にして借地権者に不利なものに該当し、同法11条により、これを定めなかったものとみなされ、当該借地権の存続期間は、右2条1項本文所定の法定期間によって律せられることになる。
これを本件につ いてみるに、原審の適法に認定したところによれば、所論転貸借は、契約において期間を3年と定めていたというのであるから、右に説示したところにより、右転貸借の存続期間は、契約の時から30年と解するほかなく、これと同趣旨の原審の判断は正当である。論旨は、右と異なる見地に立って原判決を非難するものであって、採用できない。
よって、民訴法401条、95条、89条に従い、裁判官田中二郎、同大隅健一郎の反対意見(略)があるほか、裁判官全員の一致で主文のとおり判決する。
最高裁裁判長裁判官石田和外、裁判官入江俊郎、同草鹿浅之介、同長部謹吾、同城戸芳彦、同田中二郎、同松田二郎、同岩田誠、同下村三郎、同色川幸太郎、同大隅健一郎、同松本正雄、同飯村義美、同村上朝一、同関根小郷
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最高裁判例
賃借人が公租公課額未満と知りつつ支払う賃料は借地法12条2項の相当賃料とはいえない
(最高裁 平成8年7月12日判決 民集50巻7号1876頁)
主 文
原判決中上告人らの建物収去土地明渡請求及び平成2年3月2日以降月50万円の割合による金員の支払請求に関する部分を破棄する。
前項の部分につき本件を大阪高等裁判所に差し戻す。
上告人らのその余の上告を却下する。
前項の部分に関する上告費用は上告人らの負担とする。
理 由
上告代理人山内良治の上告理由について
一 本件は、第一審判決添付物件目録一記載の土地(以下「本件土地」という。)を被上告人に賃貸している上告人らが、賃料を月額12万円に増額する旨の請求をした後に被上告人が支払い続けた賃料月額6万円は、被上告人が自ら相当と認める額ではなく、公租公課の額にも満たないものであるから、被上告人には賃料債務の不履行があり、これに基づき賃貸借契約が解除されたと主張して、被上告人に対し、同目録2記載の建物(以下「本件建物」という。)を収去して本件土地を明け渡し、右解除前の賃料及び解除から明渡し済みまでの賃料相当損害金を支払うことを求めるものである。
二 原審の確定した事実関係の概要は、次のとおりである。
1 上告人らの父である甲は、昭和40年ころ、その所有する本件土地を被上告人の父である乙に賃貸し、同人は、本件土地上に本件建物を建築した。甲が昭和42年10月31日に死亡したため、上告人らは、それぞれ本件土地の持分4分の1を相続により取得し、賃貸人の地位を承継した。その後、乙が死亡し、被上告人が本件建物の所有権を相続により取得し、賃借人の地位を承継した。
2 本件土地の賃料は、昭和55年8月に月額6万円(年額72万円)に増額されて以来据え置かれてきた。平成元年11月1日現在の本件土地の公租公課の額は年額74万1248円であり、賃料額を上回っていた。
3 上告人らは、平成元年10月18日、被上告人に対し、本件土地の賃料を同年11月1日以降月額12万円に増額する旨の請求をした。
4 昭和55年8月以降本件土地の地価が著しく高騰し、公租公課も増額されたから、平成元年11月1日の時点において従前の賃料額は不相当になっており、当時の本件土地の適正な賃料の額は、月額12万円である。
5 被上告人は、本件賃料増額請求の後も、賃料として月額6万円の支払を続けている。
6 上告人らは、平成2年2月22日、被上告人に対し、1週間以内に増額賃料の支払がない場合には賃貸借契約を解除する旨の意思表示をしたが、被上告人は、右の期間内に催告に係る賃料の支払をしなかった。
三 原審は、右事実関係の下において、次のとおり判断して、上告人らの賃料支払請求を平成元年11月1日から同2年3月1日まで月額6万円の割合による金員(合計24万1935円)の支払を求める限度で認容し、上告人らのその余の請求をすべて棄却すべきものとした。
1 本件賃料増額請求は、全額につきその効力を生じたから、本件土地の賃料は、平成元年11月1日以降月額12万円に増額されたが、被上告人は、賃料として月額6万円を支払ったのみである。従って、平成元年11月1日から同2年3月1日まで月額12万円の割合による賃料の支払を求める請求は、未払額に相当する月額6万円の限度で理由がある。
2 借地法12条2項にいう「相当ト認ムル」 とは賃借人において主観的に相当と認めるとの趣旨であると解するのが相当であるが、賃借人としては従前の賃料額を支払っている限り債務不履行責任を問われることはないとするのが右法条の趣旨であり、被上告人が従前の賃料額を支払う限り、主観的には相当と認める賃料を支払ったものとして債務不履行の責任を問われることはない。従って、本件解除の意思表示は解除原因を欠き無効であるから、賃貸借契約が解除されたことを前提とする建物収去土地明渡請求及び平成2 年3月2日以降の賃料相当損害金の支払請求は、いずれも理由がない。
四 しかし、原審の右三の2の判断は是認できない。その理由は次のとおりである。
1(一) 賃料増額請求につき当事者間に協議が調わず、賃借人が請求額に満たない額を賃料として支払う場合において、賃借人が従前の賃料額を主観的に相当と認めていないときには、従前の賃料額と同額を支払っても、借地法12条2項にいう相当と認める地代又は借賃を支払ったことにはならないと解すべきである。
(二) のみならず、右の場合において、賃借人が主観的に相当と認める額の支払をしたとしても、常に債務の本旨に従った履行をしたことになるわけではない。すなわち、賃借人の支払額が賃貸人の負担すべき目的物の公租公課の額を下回っていても、賃借人がこのことを知らなかったときには、公租公課の額を下回る額を支払ったという一事をもって債務の本旨に従った履行でなかったということはできないが、賃借人が自らの支払額が公租公課の額を下回ることを知っていたときには、賃借人が右の額を主観的に相当と認めていたとしても、特段の事情のない限り、債務の本旨に従った履行をしたということはできない。何故なら、借地法12条2項は、賃料増額の裁判の確定前には適正賃料の額が不分明であることから生じる危険から賃借人を免れさせるとともに、裁判確定後には不足額に年1割の利息を付して支払うべきものとして、当事者間の衡平を図った規定であるところ、有償の双務契約である賃貸借契約においては、特段の事情のない限り、公租公課の額を下回る額が賃料の額として相当でないことは明らかであるから、賃借人が自らの支払額が公租公課の額を下回ることを知っている場合にまで、その賃料の支払を債務の本旨に従った履行に当たるということはできないからである。
2 本件についてこれを見るに、上告人らは、原審において、被上告人はその支払額である月額6万円を主観的に相当とは認めていなかったと主張し、また、原審は、本件賃料増額請求に係る増額の始期である平成元年11月1日現在の本件土地の公租公課の額は年額74万1248円であり、被上告人はその額を下回る月額6万円(年額72万円)の支払を続けた旨の事実を認定したのであるから、原審が、被上告人が自らの支払額を主観的に相当と認めていたか否か及びこれが公租公課の額を下回ることを知っていたか否かについての事実を確定することなく、被上告人は従前の賃料額を支払う限り債務不履行責任を問われることはないと判断した点には、法令の解釈適用を誤った違法があり、右違法が判決に影響を及ぼす。この趣旨をいう論旨は理由があり、原判決中建物収去土地明渡請求及び平成2年3月2日以降月50万円の割合による金員の支払請求を棄却した部分は破棄を免れない。そして、右部分については、被上告人が自らの支払額を主観的に相当と認めていたか否か、また、これが公租公課の額を下回ることを知っていたか否かについての審理を尽くさせる必要があるので(仮に被上告人に賃料債務の不履行があったとされる場合においても、右不履行について信頼関係を破壊すると認めるに足りない特段の事情があるときには解除の意思表示は効力を生じないと解されるから、この場合においては、右信頼関係の破壊の点についても審理を尽くさせる必要がある。)、原審に差し戻す。
五 なお、上告人らは、原判決中賃料支払請求に係る部分について、上告理由を記載した書面を提出しない。
よって、民訴法407条1項、399条ノ3、96条、89条、93条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
最高裁裁判長裁判官河合伸一、裁判官大西勝也、裁判官根岸重治、裁判官福田博
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本件は、賃借人に成年被後見人、被保佐人の申立てや決定があった場合に賃貸人が賃貸借契約を解除できる条項に加えて、賃借人に解散、破産、民事再生、会 社整理、会社更生、競売、仮差押え、仮処分、強制執行等の決定や申立てがあった場合に賃貸人が契約を解除できる条項に関しても消費者契約法10条違反とし て、適格消費者団体による差止請求や契約書のひな形の廃棄請求が認められた事例である(大阪高裁平成25年10月17日判決)。
不動産賃貸業等を営む事業者であるYの使用する賃貸借契約書のひな形には、以下の条項が含まれていた。
これらの条項が消費者契約法(以下、消契法)9条各号*1または消契法10条*2に該当するとして、Xが消契法12条3項(差止請求権)に基づき、同契約書による意思表示の差止め、契約書用紙の廃棄等を求めた事案である。
1審は、上記[1]の条項のうち、「解散、破産、民事再生、会社整理、会社更生、競売、仮差押え、仮処分および強 制執行の決定または申立て」については、賃借人の支払不能状態、経済的破綻(はたん)を表わす事由であり、「賃貸借契約当事者間の信頼関係を破壊する程度 の賃料債務の履行遅滞が確実視される事由ということができる」ため、この場合に、賃貸借契約の解除を認める部分は信義則に反するものではなく、消契法10 条後段に該当しないとした。他方、「成年被後見人および被保佐人の審判開始や申立て」については、「賃借人の資力とは無関係な事由であり、申立てによって 財産の管理が行われることになる」から、むしろ、「賃料債務の履行が確保される事由ということができる」とし、この点については、消契法10条に該当し、 消契法12条3項に基づく差止めが認められるとした。さらに、前記[2]~[4]の条項については、いずれも消契法10条後段に該当しないとした。
そこで、Xは、[1]の条項のうち、賃借人が破産等の決定または申立てを受けた場合に解除を認める部分や、[2]~[4]の条項についてXの請求を棄却した点を不服として控訴した。
賃貸人の損害の填補(てんぽ)(穴埋め)や賃借人の明け渡し義務の履行を促すという観点に照らし、あらかじめ賃料 以上の一定の額を損害賠償額の予定として定めることは、合理性を有しており、賃料の2倍という額は、高額過ぎるとまではいえないため、消契法10条後段に は該当せず、差止めは認められない。
賃貸人は、単に普通郵便で催告するのみでなく、場合によっては、相応の費用を要することもあり、実際に要した費用 が定められた金額を超える場合でも賃借人は定められた金額を支払えば足りるという点では賃借人に有利な面もあること等から、信義則に反して消費者の利益を 一方的に害するとはいえず、消契法10条後段には該当せず、差止めは認められない。
賃借人は[4]の条項に明示されており、それによって負担させられる清掃作業および金額を認識して合意することができ、その金額の程度も過重な負担とはいえず、消契法10条後段には該当せず、差止めは認められない。
本判決は、賃借人に破産、民事再生、競売、仮差押え、仮処分、強制執行、後見保佐等の申立てや決定または審 判開始があった場合に賃貸人に解除権が発生するとの建物賃貸借契約の条項が、消契法10条に該当し無効であるとして、賃貸人が消費者との間で建物賃貸借契 約を締結する際に、このような意思表示を行ってはならないこと、および当該意思表示が記載された契約書ひな形が印刷された契約書用紙を廃棄すること(差止 め)が認められた事例である。
まず、本件解除条項は、同条項に定める事由があった場合には、賃貸人に賃貸借契約の無催告解除を認めるもので、民法541条が適用される場合に比べ、消費者である賃借人の権利を制限し、義務を加重するものであるから、消契法10条前段に該当する。
次に、賃借人に破産、民事再生、競売、仮差押え、仮処分、強制執行の事由がある場合には、賃借人が経済的に破綻 し、賃料支払債務の債務不履行が生ずる可能性が少なくない事態が生じていると考えられるが、賃貸借契約の解除は、賃貸借契約から発生する義務違反があり、 それにより賃貸借契約当事者間の信頼関係が失われたと評価される場合に可能となる。そのため、たとえ賃料債務の不履行が発生していても現実に解除ができる とは限らない。まして、成年被後見人、被保佐人の審判開始または申立てを受けたことは、賃借人の経済的破綻とは無関係であって、上記事由が発生したという 一事をもって直ちに賃貸借契約の解除を認める条項は、信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものであり、消契法10条後段に該当するというべきであ る。
本判決と同様に契約解除の意思表示の差止請求が問題となった事件として、適格消費者団体から、家賃債務保証事業者 に対する契約条項の使用等差止請求事件において、賃貸保証サービス契約書中に記載された「賃借人又はその連帯保証人が成年後見、保佐、補助手続の申立てを 受けたときに、保証事業者が事前求償権を行使できる」旨の条項や、「原契約の解除または解約日の後7日が経過しても建物の明渡しが完了しない場合に、賃借 人は、目的物件内の残置物の所有権を放棄し、賃貸人による処分に異議申立てや損害賠償請求をしない」旨の条項が含まれていても、同条項は効力を有しないも のとして取り扱うことを合意する内容の和解が成立した事例がある(参考判例(1))。
本判決が、原判決と異なり、[1]の条項全体を消契法10条違反とした点は評価できるが、[2]~[4]の条項についても、消費者と事業者の情報・交渉力の構造的格差を踏まえ、消契法10条後段の信義則違反を認め、これらの条項を無効とする可能性もあったと思われる。
国民死活センターHPより
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最高裁判例
借家人の保証人は借家契約の更新後も保証人としての責任を免れないとされた事例
(最判平成9年11月13日裁判集民事186号105頁)
主 文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理 由
上告代理人遠藤實の上告理由について
一 本件は、建物賃借人のために連帯保証人となった上告人が、賃貸人である被上告人に対し、被上告人と賃借人との合意により建物賃貸借契約を更新した後に生じた未払賃料等についての連帯保証債務が存在しないことの確認を求めている事案である。
二 原審が適法に確定した事実関係の概要は、次のとおりである。
1 被上告人は、昭和60年5月31日、上告人の実弟であるαに対し、第1審判決添付物件目録記載の建物(以下「本件マンション」という。)を、期間を同年6月1日から2年間、賃料を月額26万円と定めて賃貸した(以下「本件賃貸借契約」という。)その際、上告人は、被上告人に対し、αが本件賃貸借契約に基づき被上告人に対して負担する一切の債務について、連帯して保証する旨約した(以下「本件保証契約」という。)
2 本件賃貸借契約締結の際に作成された契約書においては、賃貸借期間の定めに付加して「但し、必要あれば当事者合議の上、本契約を更新することも出来 る。」と規定されていたところ、被上告人としては、右賃貸借期間を家賃の更新期間と考えており、右期間満了後も賃貸借関係を継続できることを予定していた。他方、上告人は、本件保証契約締結当時、右規定から本件賃貸借契約が更新されることを十分予測することができたにもかかわらず、その当時αが食品流通 関係の仕事をしていて高額の収入があると認識していたことから、本件保証契約締結後も同人の支払能力について心配しておらず、そのため本件賃貸借の更新についても無関心であった。
3 αと被上告人は、本件賃貸借につき、
(一)昭和62年6月ころ、期間を同年6月1日から2年間と定めて更新する旨合意し、
(二)平成元年8月29日、期間を同年6月1日から2年間、賃料を月額31万円と定めて更新する旨合意し、
(三)平成3年7月20日、期間を同年6月1日から2年間、賃料を月額33万円と定めて更新する旨合意した。
もっとも、右各合意更新の際に作成された賃貸借契約書中の連帯保証人欄には「前回に同じ」と記載されているのみで、上告人による署名押印がされていないし、右合意更新の際に被上告人から上告人に対して保証意思の確認の問い合わせがされたことはなく、上告人がαに対して引き続き連帯保証人となることを明示して了承したこともな かった。
4 αは、前記3(二)の合意更新による期間中の賃料合計75万円及び前記3(三)の合意更新による期間中の賃料等合計759万円を支払わなかったところ、被上告人は、平成4年7月中旬ころ、αに対し、本件賃貸借契約の更新を拒絶する旨通知するとともに、平成5年6月8日ころ、上告人に対し、賃料不払が継続している旨を連絡した。αは、平成5年6月18日、被上告人に対し、本件マンションを明け渡した。
三 被上告人は、上告人に対し、本件保証契約に基づき、前記4の未払賃料等合計834万円及び平成5年6月1日から同月18日までの賃料相当損害金19万8000円についての連帯保証債務履行請求権を有すると主張しており、これに対し、上告人は、本件保証契約の効力が本件賃貸借の合意更新後に生じた未払賃料債務等には及ばない、仮にそうでないとしても、被上告人による右保証債務の履行請求が信義則に反すると主張している。建物の賃貸借は、一時使用のための賃貸借等の場合を除き、期間の定めの有無にかかわらず、本来相当の長期間にわたる存続が予定された継続的な契約関係であり、期間の定めのある建物の賃貸借においても、賃貸人は、自ら建物を使用する必要があるなどの正当事由を具備しなければ、更新を拒絶することができず、賃借人が望む限り、更新により賃貸借関係を継続するのが通常であって、賃借人のために保証人となろうとする者にとっても、右のような賃貸借関係の継続は当然予測できるところであり、また、保証における主たる債務が定期的かつ金額の確定した賃料債務を中心とするものであって、保証人の予期しないような保証責任が一挙に発生することはないのが一般であることなどからすれば、賃貸借の期間が満了した後における保証責任について格別の定めがされていない場合であっても、反対の趣旨をうかがわせるような特段の事情のない限り、更新後の賃貸借から生ずる債務についても保証の責めを負う趣旨で保証契約をしたものと解するのが、当事者の通常の合理的意思に合致するというべきである。もとより、賃借人が継続的に賃料の支払を怠っているにもかかわらず、賃貸人が、保証人にその旨を連絡するようなこともなく、いたずらに契約を更新させているなどの場合に保証債務の 履行を請求することが信義則に反するとして否定されることがあり得ることはいうまでもない。
以上によれば、期間の定めのある建物の賃貸借において、賃借人のために保証人が賃貸人との間で保証契約を締結した場合には、反対の趣旨をうかがわせるような特段の事情のない限り、保証人が更新後の賃貸借から生ずる賃借人の債務についても保証の責めを負う趣旨で合意がされたものと解するのが相当であり、保証人は、賃貸人において保証債務の履行を請求することが信義則に反すると認められる場合を除き、更新後の賃貸借から生ずる賃借人の債務についても保証の責めを免れないというべきである。
四 これを本件についてみるに、前記事実関係によれば、前記特段の事情はうかがわれないから、本件保証契約の効力は、更新後の賃貸借にも及ぶと解すべきであり、被上告人において保証債務の履行を請求することが信義則に反すると認めるべき事情もない本件においては、上告人は、本件賃貸借契約につき合意により更新された後の賃貸借から生じたαの被上告人に対する賃料債務等についても、保証の責めを免れないものといわなければならない。これと同旨の原審の判断は、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。右判断は、所論引用の判例に抵触するものではない。論旨は、右と異なる見解に立って原判決を論難するものであって、採用できない。
よって、民訴法401条、95条、89条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
最高裁裁判長裁判官小野幹雄、裁判官遠藤光男、裁判官井嶋一友、裁判官藤井正雄
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最高裁判例
相続開始から遺産分割までの間に共同相続に係る不動産から生ずる賃料債権は、各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得するとされた事例
(最判平成17年9月8日 民集59巻7号1931頁)
主 文
原判決を破棄する。
本件を大阪高等裁判所に差し戻す。
理 由
上告代理人田中英一、同永井一弘の上告受理申立て理由について
1 原審の確定した事実関係の概要は、次のとおりである。
(1)甲は、平成8年10月13日、死亡した。その法定相続人は、妻である被上告人のほか、子である上告人、乙、丙及び丁(以下、この4名を「上告人ら」という。)である。
(2)甲の遺産には、第1審判決別紙遺産目録1(1)~(17)記載の不動産(以下「本件各不動産」という。)がある。
(3) 被上告人及び上告人らは、本件各不動産から生ずる賃料、管理費等について、遺産分割により本件各不動産の帰属が確定した時点で清算することとし、それまでの期間に支払われる賃料等を管理するための銀行口座(以下「本件口座」という。)を開設し、本件各不動産の賃借人らに賃料を本件口座に振り込ませ、また、 その管理費等を本件口座から支出してきた。
(4)大阪高等裁判所は、平成12年2月 2日、同裁判所平成11年(ラ)第687号遺産分割及び寄与分を定める処分審判に対する抗告事件において、本件各不動産につき遺産分割をする旨の決定(以 下「本件遺産分割決定」という。)をし、本件遺産分割決定は、翌3日、確定した。
(5) 本件口座の残金の清算方法について、被上告人と上告人らとの間に紛争が生じ、被上告人は、本件各不動産から生じた賃料債権は、相続開始の時にさかのぼっ て、本件遺産分割決定により本件各不動産を取得した各相続人にそれぞれ帰属するものとして分配額を算定すべきであると主張し、上告人らは、本件各不動産か ら生じた賃料債権は、本件遺産分割決定確定の日までは法定相続分に従って各相続人に帰属し、本件遺産分割決定確定の日の翌日から本件各不動産を取得した各相続人に帰属するものとして分配額を算定すべきであると主張した。
(6)被上告人と上告人らは、本件口座の残金につき、各自が取得することに争いのない金額の範囲で分配し、争いのある金員を上告人が保管し(以下、この金員を「本件保管金」という。)、の帰属を訴訟で確定することを合意した。
2 本件は、被上告人が、上告人に対し、被上告人主張の計算方法によれば、本件保管金は被上告人の取得すべきものであると主張して、上記合意に基づき、本件保管金及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成13年6月2日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めるものである。
3 原審は、上記事実関係の下で、次のとおり判断し、被上告人の請求を認容すべきものとした。
4 しかし、原審の上記判断は是認できない。その理由は、次のとおりである。
遺産は、相続人が数人あるときは、相続開始から遺産分割までの間、共同相続人の共有に属するものであるから、この間に遺産である賃貸不動産を使用管理した結果生ずる金銭債権たる賃料債権は、遺産とは別個の財産というべきであって、各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得するものと解するのが相当である。遺産分割は、相続開始の時にさかのぼってその効力を生ずるものであるが、各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得した上記賃料債権の帰属は、後にされた遺産分割の影響を受けないものというべきである。
従って、相続開始から本件遺産分割決定が確定するまでの間に本件各不動産から生じた賃料債権は、被上告人及び上告人らがその相続分に応じて分割単独債権として取得したものであり、本件口座の残金は、これを前提として清算されるべきである。
そうすると、上記と異なる見解に立って本件口座の残金の分配額を算定し、被上告人が本件保管金を取得すべきであると判断して、被上告人の請求を認容すべきものとした原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、本件については、更に審理を尽くさせる必要があるから、本件を原審に差し戻す。
よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
最高裁裁判長裁判官才口千晴、裁判官横尾和子、裁判官甲斐中辰夫、裁判官泉徳治、裁判官島田仁郎
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借地契約における増改築禁止の特約に違反したにも拘らず解除が許されないとされた事例
(最高裁 昭和41年4月21日判決 民集21巻4号720頁)
主 文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理 由
上告代理人松井邦夫の上告理由1、2について。
一般に、建物所有を目的とする土地の賃貸借契約中に、賃借人が賃貸人の承諾をえないで賃借地内の建物を増改築するときは、賃貸人は催告を要しないで、賃貸借契約を解除することができる旨の特約(以下で単に建物増改築禁止の特約という。)があるにかかわらず、賃借人が賃貸人の承諾を得ないで増改築をした場合においても、この増改築が借地人の土地の通常の利用上相当であり、土地賃貸人に著しい影響を及ぼさないため、賃貸人に対する信頼関係を破壊するおそれがあると認めるに足りないときは、賃貸人が前記特約に基づき解除権を行使することは、信義誠実の原則上、許されない。
以上の見地に立って、本件を見るに、原判決の認定するところによれば、第1審原告(脱退)橋本ぢんは被上告人に対し建物所有の目的のため土地を賃貸し、両者間に建物増改築禁止の特約が存在し、被上告人が該地上に建設所有する本件建物(2階建住宅)は昭和7年の建築にかかり、従来被上告人の家族のみの居住の用に供していたところ、今回被上告人はその一部の根太および2本の柱を取りかえて本件建物の2階部分(6坪)を拡張して総2階造り(14坪)にし、2階居宅をいずれも壁で仕切った独立室とし、各室ごとに入口および押入を設置し、電気計量器を取り付けたうえ、新たに2階に炊事場、便所を設け、かつ、2階より 直接外部への出入口としての階段を附設し、結局2階の居室全部をアパートとして他人に賃貸するように改造したが、住宅用普通建物であることは前後同一であり、建物の同一性をそこなわないというのであって、右事実は挙示の証拠に照らし、肯認できる。
そして、右の事実関係のもとでは、借地人たる被上告人のした本件建物の増改築は、その土地の通常の利用上相当というべきであり、いまだもって賃貸人たる第1審原告(脱退)橋本ぢんの地位に著しい影響を及ぼさないため、賃貸借における信頼関係を破壊するおそれがあると認めるに足りない事由が主張立証されたものというべく、従って、前記無断増改築禁止の特約違反を理由とする第1審原告(脱退)橋本ぢんの解除権の行使はその効力がないものというべきである。
しからば、賃貸人たる第1審原告(脱退)橋本ぢんが前記特約に基づいてした解除権の行使の効果を認めなかった原審の判断は、結局正当であり、論旨は、畢竟失当として排斥を免れない。
よって、民訴法401条、95条、89条に従い、裁判官の一致で、主文のとおり判決する。
最高裁判所裁判官松田二郎、裁判官入江俊郎、裁判官長部謹吾、裁判官 岩田誠
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最高裁判例
宅地賃貸借契約の法定更新に際し賃借人が賃貸人に対し更新料を支払う旨の商慣習又は事実たる慣習は存在しないとした事例
(最高裁昭和51年10月1日判決 裁判集民事119号9頁)
主 文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理 由
上告代理人小林宏也、同本多藤男、同長谷川武弘の上告理由第1点について
原審が適法に確定した事実関係によれば、被上告人の所論所為をもって、未だ本件賃貸借契約の継続を不可能又は著しく困難ならしめるものとは認めるに足りないとした原審の判断は、正当として是認できる。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用できない。
同第2点について
宅地賃貸借契約における賃貸期間の満了にあたり、賃貸人の請求があれば当然に賃貸人に対する賃借人の更新料支払義務が生ずる旨の商慣習ないし事実たる慣習が存在するものとは認めるに足りないとした原審の認定は、原判決挙示の証拠関係に照らして、是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、畢竟、独自の見解を主張するものであって、採用できない。
同第3点及び第4点について
記録及び原判決事実摘示に照らし、所論の点に関する原審の認定判断は、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、採用できない。
よって、民訴法410条、95条、89条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
最高裁裁判長裁判官大塚喜一郎、裁判官岡原昌男、裁判官吉田豊、裁判官本林譲、裁判官栗本一夫
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最高裁判例
賃借人が個人企業を会社組織に改め賃貸人の承諾なく同会社に賃借家屋を使用させた場合に民法612条の解除権が発生しないとされた事例
(最高裁 昭和39年11月19日判決 民集18巻9号1900頁)
主 文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人らの負担とする。
理 由
上告代理人樫本信雄、同浜本恒哉の上告理由第1点について。
賃借人が賃貸人の承諾を得ないで賃借権の譲渡又は賃借物の転貸をした場合であっても、賃借人の右行為を賃貸人に対する背信行為と認めるに足りない特段の事情のあるときは、賃貸人に民法612条2項による解除権は発生しないものと解するを相当とする(昭和25年(オ)第140号、同28年9月25日判決、民 集7巻9号979頁、昭和28年(オ)第1146号、同30年9月22日判決、民集9巻10号1294頁参照)。
ところで、本件について原審の確定した事実によれば、被上告人は、昭和22年7月の本件家屋の賃借当初から、階下約7坪の店舗でP商会という名称でミシンの個人営業をしていたが、税金対策のため、昭和24年頃株式会社Pミシン商会という商号の会社組織にし、翌25年頃にはこれを解散してSミシン工業株式会社を組織し、昭和30年頃Uミシン工業株式会社と商号を変更したものであって、各会社の株主は被上告人の家族、親族の名を借りたに過ぎず、実際の出資は凡て被上告人がしたものであり、右各会社の実権は凡て被上告人が掌握し、その営業は被上告人の個人企業時代と実質的に何らの変更がなく、その従業員、店舗の使用状況も同一であり、また、被上告人は右Uミシン工業株式会社から転借料の支払を受けたことなく、かえって被上告人は上告人甲らの先代乙に対し本件家屋の賃料を同社名義の小切手で支払っており、被上告人は同会社を自己と別個独立のものと意識していなかったというのである。
されば、個人である被上告人が本件賃借家屋を個人企業と実質を同じくする右Uミシン工業株式会社に使用させたからといって、賃貸人との間の信頼関係を破るものとはいえないから、背信行為と認めるに足りない特段の事情あるものとして、上告人らが主張するような民法612条2項による解除権は発生しないことに帰着するとした原審の判断は正当である。右と異なる見解に立って原判決を非難する論旨は、採用できない。
同第2点について。
上告人甲らの先代丙がその代理人たる丁を通じて本件賃料の増額をしたことにより、右丙は被上告人の本件家屋増築を暗黙に承諾したものである旨の原審の認定判断は、その挙示する証拠関係に照らして首肯できないことはなく、その判断の過程に所論違法は認められない。所論は、畢竟、原審の認定と相容れない事実を前提として、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実認定を非難するに帰し、採用できない。
よって、民訴401条、95条、89条、93条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
最高裁裁判長裁判官長部謹吾、裁判官入江俊郎、裁判官松田二郎、裁判官岩田誠
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鉄道高架下施設の一部分の賃貸借契約に借家法の適用があるとされた事例
(最高裁 平成4年2月6日判決 裁判集民事164号45頁)
主 文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理 由
上告代理人深田源次の上告理由について
原審は、
(一) 本件施設物は、鉄道高架下施設であるが、土地に定着し、周壁を有し、道高架を屋根としており、永続して営業の用に供することが可能なものであるから、借家法にいう建物に当たる、
(二) 本件店舗は、本件施設物の一部を区切ったものであるが、隣の部分とはブロックにベニヤを張った壁によって客観的に区別されていて、独立的、排他的な支配が可能であるから、借家法にいう建物にあたる、
(三) 本件店舗での営業に関する亡大井慶寿と被上告人との間の本件契約は、経営委託契約ではなく、本件店舗及び店舗内備品の賃貸借契約であって、借家法の適用がある、
(四) 本件契約は、期間満了後、期間の定めのない賃貸借として更新されている、
(五) 亡慶寿の相続人として同人の地位を継承した上告人がした本件契約の解約申入れに正当事由はない、として、上告人の本件請求を棄却しているが、原審の右認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。
諭旨は、 畢竟、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は原判決を正解しないで若しくは独自の見解に立ってこれを論難するものにすぎず、採用できない。
よって、民訴法401条、95条、89条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
最高裁裁判長裁判官大内恒夫、裁判官大堀誠一、裁判官橋元四郎平、裁判官味村治
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最高裁判例
建物買取請求権行使によって成立する売買と民法577条の適否と価額
(最高裁 昭和39年2月4日 判決 民集18巻2号233頁)
ア 借地法10条に基づく建物買取請求権行使によって成立する売買と民法577条の適否
イ 同建物に抵当権が設定されている場合と同建物の時価
主 文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理 由
上告代理人名尾良孝の論旨1について。
抵当不動産の買主がその売主に対し滌除権を取得するには、その所有権を取得したことを以って足るのであって、右所有権取得につき登記を経ることを要件としないものと解するを相当とする。従って、被上告人は、原判示の如く、借地法に基づく上告人の買取請求の意思表示によって本件抵当建物の所有権を取得した以上、未だその取得につき登記を経て居らなくても、売主である上告人に対し滌除権を有するものとなすべきである。被上告人が本件抵当建物につき滌除権を有しないとする上告人の主張は、独自の見解であって、正当でない。
又、本件において、上告人が所論買取請求権の行使をしたのは、昭和35年6月24日の原審口頭弁論においてであって、この意思表示により、直ちに、上告人と被上告人との間に、上告人を売主、被上告人を買主とする本件抵当建物の売買が成立し、同時に、その所有権が被上告人に移転したものとなすべきである(大審院昭和6年(オ)第1462号同7年1月26日判決、民集11巻169頁、同院昭和13年(オ)第1780号同14年8月24日判決、民集18巻877頁、当裁判所 昭和28年(オ)第759号、同30年4月5日判決、民集9巻439頁参照)から、右口頭弁論の時において既に、実体的に、被上告人は、右抵当建物につき、所有権と共に滌除権をも取得し了ったものであって、これを訴訟において予備的請求原因として主張したからといって、右権利取得に何等の消長をもきたさないものである。右口頭弁論の時以後においては、何時でも、売主より民法577条但書の滌除の催告をなすことがあり得べく、また、買主において売主の代金支払請求に対し滌除を前提として同条本文の代金支払拒絶を主張することもあり得るとするに何等妨げがない。従って、予備的請求原因として、買取請求権行使 の効果が主張せられる場合に、民法577条の適用は考えられないとすることも亦、独自の見解であって、失当である。
論旨は、結局、すべて、前提において既に失当であって、採るを得ない。
同2について。
借地法に基づく買取請求権行使によって成立する売買の代価は、その行使当時における建物の時価により客観的に定まるものであって、所論の如くに、買主が主観的に算定して定めるものではない。又、論旨が引換給付判決として主文に売買代金額が掲記せられない限り右時価は定まらないとするは、独自の見解に過ぎない。
従って、論旨は、すべて、前提において既に失当に帰するものであって、採るを得ない。
同3について。
論旨は、滌除の制度を以って、不動産の時価が抵当債権を完済し得ない場合にのみ効果を発揮するものであるとし、或は抵当債権額が不動産の時価より少い場合には、その差額についてのみ売主に留置権及び同時履行の抗弁が生ずるものであるとするけれども、いずれも独自の見解に過ぎない。論旨は、結局、これ等独自の見解を前提として、原審が借地法10条に基づく本件買取請求による売買に民法577条を適用すべきものとしたことを非難するにつきる。
論旨は、すべて、前提において既に失当に帰するものであって、採るを得ない。
同4について。
原審が所論建物の時価を530,625円と算定判示したことは、所論の如くに、無意味不必要ではない。そもそも、借地法10条による買取請求の対象となる建物の時価は、その請求権行使につき特別の意思表示のない限り、その建物の上に抵当権の設定があると否とに拘りなく定まって居るものと解するを相当とするから、原審が、本件買取請求権行使当時の本件建物の時価は、所論根抵当権の負担あることを考量に入れない鑑定価格に基づき530,625円である旨認定判示したのは、正当であり、判断についての右の立場を明示する意味においても、原審が右具体的価額を判示したことに意義がある。されば、原審が本件建物の時価を具体的に判示したことを無意味不必要とし、これを前提として本件に民法577条を適用する余地がないとする論旨は、前提において既に失当である。
更に、反対債権たる代金請求権は、当該訴訟における訴訟物とならず、従って、これが引換給付判決の主文に掲記せられて居る場合においても、その存在及び数額について既判力を生ずる余地はないのであるから、原審が判決主文においてこれとの引換給付を命じなかったことが所論代金請求権の存否につき既判力を生ぜしめない結果を招いたとして原審判断を非難する論旨も亦、前提において既に失当である。
その他の点につき論旨は縷々主張するところがあるけれども、原審の認定判示に添わないことを仮定して原審の判断を非難するものであって、上告適法の理由とならない。
論旨は、すべて、採るを得ない。
よって、民訴401条、95条、89条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
最高裁裁判長裁判官石坂修一、裁判官横田正俊、
裁判官河村又介は退官につき署名捺印できない。裁判長裁判官石坂修一
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