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最高裁判例
借地上に居宅が存在し、それに接して別に庭として賃借する土地には「建物保護ニ関スル法律」第1条の対抗力を有しないとされた事例
(最高裁昭和40年6月29日判決 民集19巻4号1027頁)
主 文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理 由
上告代理人高梨克彦の上告理由第1点について。
原審の確定したところによれば、上告人(借地人)は、子のD(原審共同被控訴人)所有のa町b丁目c番のdの土地上に、登記を了した居宅を所有している者であるが、昭和30年1月当時、右土地に隣接するa町b丁目e番宅地(以下「本件土地」と略称する)のうち第一審判決添付図面(イ)(チ)線の生垣以南のA)地(その面積は後掲(B)地とあわせて12坪7合6勺3才)を、前示居宅利用の便益のため、その庭として使用するため、本件土地の所有者である訴外Eから期間の定めなく賃借し、本件土地のうち(B)地も、(A)地に従属する立場にあつたので、あわせて賃借し、右(A)(B)両地を契約の目的に従つて使用していたところ、昭和30年1月3日、被上告人(新地主)は、Eから本件土地を買い受けて所有権を取得し、昭和32年2月15日その旨の登記を経由したというのである。
然るに、原判決によれば、上告人(借地人)の有する本件(A)(B)両地の賃借権について登記が存すること、または、右賃借権が建物所有を目的とするものであり、かつ、地上に上告人が登記した建物を有することについては、なんら主張立証がないというのであるから、上告人(借地人)は本件(A)(B)両地の賃借権をもつて被上告人(新地主)に対抗することはできないといわなければならない。たとい、上告人が本件土地に隣接するc番のdの土地上に登記を了した居宅を所有し、該居宅の庭として使用するため、本件(A)(B)両地を賃借し、現に契約目的に従つて使用しているとしても、その故に、建物保護ニ関スル法律一条の規定により、(A)(B)両地の賃借権を対抗しうると解することは相当でない。けだし、本件(A)(B)両地の賃借権は、当該土地を前示のような庭として使用するための権利であつて、同条にいう「建物ノ所有ヲ目的トスル土地ノ賃借権」に該当せず、また、「土地ノ賃借人ヵ其ノ土地ノ上ニ登記シタル建物ヲ有スル」場合にも当らないから、同条の要件を充足しないのみならず、同条は、地上建物を当該宅地上に存する状態において保全することを根本趣旨とするものであるところ、本件において、(A)(B)両地の賃借権に対抗力を賦与しなくても、上告人の所有居宅の敷地の使用権は、特段の事情がない限り、喪われることはないから、該居宅の保全には毫も欠けるところはなく、このような場合にまで同条の適用を肯定することは、かえつてその立法趣旨を逸脱すると考えられるからである。
されば、叙上と同趣旨に出て、上告人の本件(A)(B)両地の賃借権の対抗力を否定した原審の判断は正当であり、所論は採用できない。
同第2点について。
上告人は、原審において、本訴請求が信義則に違背し、権利の濫用に当るとの点については主張せず、そのため、原審も判断を示さなかつたのである。審理不尽、理由不備をいう所論は失当であり、採用できない。
よつて、民訴法401条、95条、89条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
最高裁判所第三小法廷
最高裁裁判長裁判官五鬼上堅磐、裁判官石坂修一、同横田正俊、同柏原語六、同田中二郎
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地裁判例
更新料支払請求権は客観的に金額を算出できる具体的基準の定めが必要とされた事例
(東京地裁平成23年3月31日判決)
平成22年(ワ)第18362号 更新料請求事件
主 文
1 原告(地主)の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事 実
第1 請 求
被告(借地人)は、原告に対し、393万8170円及びこれに対する平成20年6月13日から支払済みまで年5分の割合(年365日の日割り計算)による金員を支払え
第2 事案の概要
本件は、原告(地主)において、被告(借地人)との間で締結した土地の賃貸借契約を更新するに当たり、約定の更新料及びその遅延損害金の支払いを求めた事案である。
1 前提事実(争いがない事実又は掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易認定することができる事実)
(1)原告(地主)は、昭和31年6月23日、被告の母親であるA(以下「A」という。)との間で、建物所有を目的として、原告(地主)の所有する別紙物件目録記載の土地の一部36.13坪(以下「本件土地」という。)を賃貸する旨の契約(借地契約)を締結した。
(2)原告(地主)とAは、昭和51年6月23日、賃貸期間20年(昭和51(1976)年6月23日~平成8(1996)年6月22日)として、上記(1)の賃貸借契約を更新することに合意した。Aは、この際、更新料として169万円を支払った。
(3)原告(地主)は、昭和63年12月14日、(借地人が建物を建替えるので改めて)被告(借地人)との間で、建物所有を目的として、次の約定により本件土地を賃貸する旨の契約(以下「本件賃貸借契約」という。)を締結した。被告(借地人)は、この際、更新料として350万円を支払った。
ア 賃貸期間 昭和63年12月14日から平成20年12月13日まで
イ 賃料 1か月1万6740円
(4)B(原告訴訟代理人。以下「B弁護士」という。)は、平成21年6月12日ころ、原告(地主)の代理人として、被告(借地人)に対し、書面(甲4)により、本件賃貸借契約の更新料として380万円の支払いを請求した。
2 争 点
被告(借地人)の更新料支払義務の有無
(原告(地主)の主張)
本件賃貸借契約では、契約更新に際し、契約当事者双方が協議の上で、賃貸人に更新料を支払うことが契約の重要な条件とされていた。
(被告(借地人)の主張)
否認ないし争う。本件賃貸借契約のおいて、契約更新に際し更新料を支払う旨の合意が成立したことがない。
第3 当裁判所の判断
1 証拠(甲1~5、8、乙2、原告代表者、被告)及び弁論の全趣旨によれば、
① 本件賃貸借契約締結の際に取り交わされた契約書(甲3)はもとより、前提事実(1)及び(2)の各契約締結の際に取り交わされた契約書(甲1、2)にも、更新料の支払いに関する約定は存在しないこと、
② 前提事実(2)の更新料は、原告(地主)が近隣の不動産業者から更新料の相場につき意見を聴取し、これを参考にして金額を提示し、Aがこれに同意したものであること、
③ 本件賃貸借契約を締結した時点では、前提事実(2)の賃貸契約の賃貸期間が7年以上存在したが、被告(借地人)が本件土地内の建物を建て替えることになったことから、改めて本件賃貸借契約が締結されることになったこと、この際に支払われた更新料も、原告(地主)が近隣の不動産業者からの相場につき意見を聴取し、これを参考にして金額を提示し、被告(借地人)がこれに同意したものであるが、これは本件土地の更地価格の約3パーセントに相当する金額(借地借家人組合註)であったこと、
④ B弁護士は、書面により前提事実(4)の請求をした際、更新料の算出根拠について、本件土地の更地価格(5600万1500円)の7割を借地権価格として算出し、その1割程度を目安にした旨の説明をしていたこと、
⑤ 被告(借地人)は、平成21年6月17日ころ、B弁護士に対し、「借地権価格に1割」の根拠が良く分からないとして、その説明を求め、さらに、被告(借地人)が考えていた金額とはかなりの乖離がある旨記載した書面を送付したこと、
⑥ その後、B弁護士と被告(借地人)は、3回にわたって更新料の額につき交渉し、その中で、被告(借地人)は175万円の支払をする旨の提案をしたこともあったが、結局合意には至らなかったこと、以上の事実が認められる。
以上の認定事実によれば、本件賃貸借契約締結の時点では、被告(借地人)においても、賃貸期間満了時に更新料の支払い及び額について、原告(地主)と協議することを念頭に置いてきたものと認められるものの、これらの事実から、原告(地主)と被告(借地人)との間で、賃貸借契約の更新に当たり、更新料を支払う旨の合意(黙示の合意を含む。)があったとまでは認められず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。
なお、あえて付言するに、仮に、賃貸借契約の当事者間で更新料の支払につき合意がされたとしても、その法的性質についは種々の考え方があり得るところであって、更新料の法的性質からその算出基準ないし算出根拠が一義的に導かれるものではないから(この点で、賃貸借契約における賃料や、請負契約における請負代金等とは異なるといわざるを得ない。)、更新料の支払請求権が具体的権利性を有するためには、少なくとも、更新料支払の合意をする際に、裁判所において客観的更新料の額を算出することができる程度の具体的基準を定めることが必要であって、そのような基準が定められていない合意は、更新料支払請求権の発生原因とはなりえないものと解される。しかるに、原告(地主)と被告(借地人)との間で、更新料の額算出する具体的基準につき合意が成立していたことを窺わせる証拠はないのであるから(むしろ、上記①及び③ないし⑤の事実に照らせば、そのような基準は定められていなかったものと認められる。)、いずれにしても、原告(地主)の請求は理由がないことに帰する。
2 よって、原告(地主)の請求を棄却することとして、主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第41部
裁判官 堂 薗 幹一郎
(借地借家人組合註)借地借家法17条の増改築許可の代諾許可の非訟手続で裁判所が提示する非堅固建物の建替承諾料は更地価格の2~5%の範囲 で決定される。全体の約85%が前記の範囲で立替承諾料は決定され、建て替えが許可される。
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最高裁判例
借地契約の更新拒絶に正当事由がないとされた事例
(最高裁平成6年6月7日判決 裁判集民事172号633頁)
主 文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人らの負担とする。
理 由
第1 上告人周藤末光代理人岡本好司、同鈴木銀治郎、上告人吉良縣子代理人高松薫の上告理由第1、第2について
1 原審の適法に確定した事実関係の概要は、次のとおりである。
(1) 第1審判決添付物件目録《略》(2)及び(3)記載の土地(以下、それぞれ「本件1土地」及び「本件2土地」という。)は、従前は1筆の土地(以下「従前地」という。)であって、根津育英会、次いで国土計画株式会社の所有であった。被上告人らの先代木塚芳次は、従前地を根津育英会から賃借し、その上に同目録(1)冒頭記載の建物(以下「本件建物」という。)を建築し、これを上告人らに賃貸してその賃料収入により生活していた。
(2) 上告人周藤末光は、従前地から分筆された本件1土地を、また上告人吉良縣子は、同じく本件2土地を、いずれも昭和56年3月17日ころ前所有者国土計画株式会社から買い受けて、それぞれその所有権を取得した。なお、上告人らは、芳次の借地権の存在を前提として、本件各土地を更地価格の2割程度の価格で買い受けたものである。
(3) 芳次の借地権は、平成元年6月30日に期間が満了することとなったところ、上告人周藤は昭和63年12月5日付け通知書により、上告人吉良は平成元年8月9日付け通知書により、それぞれ芳次に対し借地契約の更新拒絶の意思表示をした。
(4) 芳次は平成元年8月15日に死亡し、その妻(記録によれば、訴訟承継前の第1審被告であったが、第1審係属中の平成2年1月14日に死亡し、被上告人らがこれを承継したものである。)及びその子又は孫である被上告人らが芳次の本件各土地の借地権を相続したが、同人らが相続税の申告をしたところ、本件各土地の借地権の価格は1億9945万1397円と評価され、右借地権を含む芳次の遺産の相続については、1803万8500円の相続税が課せられることとなった。
(5) その後、被上告人らは、本件各土地の借地権を他に譲渡して前記相続税の支払等に充てることを意図して、東京地方裁判所に本件各土地の賃借権の譲渡許可を求める借地非訟事件の申立てをした。他方、上告人らは、同裁判所に本件建物の収去と本件各土地の明渡しとを求めて本訴を提起した。そして、平成2年8月31日に右借地非訟事件の申立てを認容する決定がされたが、右事件の鑑定委員会は、本件各土地の更地価格は10億8000万円、本件各土地の借地権の価格はその75パーセント程度と評価していた(なお、記録によれば、右決定は、被上告人らが裁判確定の日から3か月以内に、上告人周藤に対し460万4000円、上告人吉良に対し3495万6000円を支払うことを条件として、本件各土地の賃借権を他に譲渡することを許可していることが明らかである。)。
(6) 上告人らは、本件各土地上に隣接地主らと共同で高層建物を建築する計画を有しているのに対し、被上告人らは、前記のとおり、本件各土地の借地権を他に譲渡して前記相続税の支払等に充てる意向を有している。本件建物は、穂に上告人らの店舗、住宅として使用されており、いまだ朽廃の状態に至っているとはいえない。
2 ところで、借地法4条1項ただし書にいう正当の事由の有無は、土地所有者側の事情のみならず借地権者側の事情をも総合的にしんしゃくした上で、これを判断すべきものである(最高裁昭和34年(オ)第502号 同37年6月6日大法廷判決・民集16巻7号1265頁参照)。
これを本件についてみるのに、前示事実関係によれば、本件建物の賃借人である上告人らが、芳次の借地権が存在することを前提として本件各土地を安価で買い受け、芳次に対して借地契約の更新拒絶の意思表示をしたという事情の下で、財産敵価値の高い借地権を相続したことにより多額の相続税の支払をしなければならない状況にある被上告人らが、その借地権を他に譲渡して得られる金銭を右相続税の支払に充てるために、右譲渡許可を求める借地非訟事件の申立てをしたというのであり、また、上告人らは、現に本件建物及びその敷地である本件各土地を自ら使用しているのであって、借地契約を終了させなくとも右の使用自体には支障がなく、本件各土地の借地権が譲渡されたとしても、その後の土地利用計画について譲受人らと協議することが可能であるなどの事情があることが明らかである。そうすると、右のような上告人らと被上告人ら双方の事情を総合的に考慮した上で上告人らの更新拒絶につき正当の事由があるということはできないとした原審の判断は、正当として是認することができ、その課程に所論の違法はない。論旨は採用採用できない。
第2 その余の上告理由について
所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、違憲をいう点を含め、独自の見解に基づき若しくは原判決を正解しないでこれを非難するか、又は原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものにすぎず、採用できない。
よって、民訴法401条、95条、89条、93条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
最高裁裁判長裁判官千種秀夫、裁判官園部逸夫、同可部恒雄、同大野正男、同尾崎行信
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最高裁判例
借地上の建物の譲渡担保権者が建物の引渡しを受けて使用収益をする場合は民法612条の貸借権の譲渡又は転貸であるとした事例
(最高裁平成9年7月17日判決 民集51巻6号2882頁)
主 文
原判決を破棄する。
被上告人(借家人または転借家人)の控訴を棄却する。
控訴費用及び上告費用は被上告人の負担とする。
理 由
上告代理人内山辰雄、同巻嶋健治の上告理由1について
1 原審の適法に確定した事実関係の概要は、次のとおりである。
① 上告人(賃貸人・地主)は、その所有する原判決添付物件目録1記載の土地(以下「本件土地」という。)を甲(賃借人・借地人)に賃貸し、甲は、同土地上に同目録2記載の建物(以下「本件建物」という。)を所有して、これに居住していた。なお、本件建物の登記簿上の所有名義人は、甲の父である乙となっていた。
② 甲(借地人)は、平成元年2月、本件建物を譲渡担保に供して丙から1300万円を借り受けたが、同月21日、乙をして、同建物を譲渡担保として丙に譲渡する旨の譲渡担保権設定契約書及び登記申請書類に署名押印させ、これらを丙に交付した。丙は、同日、甲から交付を受けた右登記申請書類を利用して、本件建物につき、代物弁済予約を原因として丙を権利者とする所有権移転請求権仮登記を経由するとともに、売買を原因として所有名義人を丙の妻である丁とする所有権移転登記を経由した。
③ 甲は、同月、本件建物から退去して転居したが、その後は、上告人に対して何の連絡もせず、丙との間の連絡もなく、行方不明となっている。
④ 被上告人(借家人または転借家人)は、同年6月10日、有限会社和晃商事(不動産業者)の仲介で本件建物を賃借する契約を締結して、それ以後、同建物に居住している。右の賃貸借契約書には、契約書前文に賃貸人として甲と丙の両名が併記され、末尾に「賃貸人甲」「権利者丙」と記載されているが、賃料の振込先として丙の銀行預金口座が記載されており、また、右契約書に添付された重要事項説明書には、本件建物の貸主及び所有者は丙と記載され、和晃商事は丙の代理人と記載されている。
⑤ 本件土地の地代は、従前は甲(借地人)が上告人(地主)方に持参して支払っていたところ、甲が本件建物から退去した後は、同年3月に丙から上告人の銀行預金口座に振り込まれ、これを不審に思った上告人が丙の口座に右振込金を返還すると、同年4月から12月まで丙から甲名義で振り込まれた。
⑥ 上告人は、本件建物につき丁名義への所有権移転登記がされていることを知り、丁に対し、平成2年4月13日到達の内容証明郵便により、同建物を収去して本件土地を明け渡すよう求めたところ、丙は、同年5月14日、丁名義への右所有権移転登記を錯誤を原因として抹消した。
⑦ 上告人(地主)は、甲に対して、平成4年7月16日に到達したとみなされる公示による意思表示により、賃借権の無断譲渡を理由として本件土地の賃貸借契約を解除した。
2 本件請求は、上告人(地主)が、本件土地の所有権に基づき、同土地上の本件建物を占有する被上告人(借家人または転借家人)に対して、同建物から退去して同土地を明け渡すことを求めるものである。被上告人(借家人)は、抗弁として、本件土地の賃借人である甲から本件建物を賃借している旨を主張しているところ、上告人は、再抗弁として、民法612条に基づき甲との間の同土地の賃貸借契約を解除した旨を主張している。
原審は、被上告人(借家人または転借家人)の抗弁について明示の判断を示さないまま、上告人(地主)の本件土地の賃貸借契約の解除の主張につき次のとおり判断し、上告人の請求を棄却した。
① 前記事実関係の下においては、丙は、甲に1300万円を貸し付け、右貸金債権を担保するために本件建物に譲渡担保権の設定を受け、貸金の利息として被上告人(借家人または転借家人)から同建物の賃料を受領している可能性が大きいということができるから、丙が本件建物の所有権を終局的、確定的に取得したものと認めることはできない。
② 甲(借地人)の丙(債権者)に対する右貸金債務は、弁済期が既に経過しているにもかかわらず弁済されていないが、丙が譲渡担保権を実行したと認めるに足りる証拠はないから、本件建物の所有権の確定的譲渡は未だされていない。
③ そうすると、本件土地の賃借権も、丙に終局的、確定的に譲渡されていないから、同土地について、民法612条所定の解除の原因である賃借権の譲渡がされたものとはいえず、上告人の本件賃貸借契約解除の意思表示は、その効力を生じない。
3 しかし、原審の右判断は是認できない。その理由は、次のとおりである。
① 借地人が借地上に所有する建物につき譲渡担保権を設定した場合には、建物所有権の移転は債権担保の趣旨でされたものであって、譲渡担保権者によって担保権が実行されるまでの間は、譲渡担保権設定者は受戻権を行使して建物所有権を回復することができるのであり、譲渡担保権設定者が引き続き建物を使用している限り、右建物の敷地について民法612条にいう賃借権の譲渡又は転貸がされたと解することはできない(最高裁昭和39年(オ)第422号 同40年12月17日判決・民集19巻9号2159頁参照)。しかし、地上建物につき譲渡担保権が設定された場合であっても、譲渡担保権者が建物の引渡しを受けて使用又は収益をするときは、未だ譲渡担保権が実行されておらず、譲渡担保権設定者による受戻権の行使が可能であるとしても、建物の敷地について民法612条にいう賃借権の譲渡又は転貸がされたものと解するのが相当であり、他に賃貸人に対する信頼関係を破壊すると認めるに足りない特段の事情のない限り、賃貸人は同条2項により土地賃貸借契約を解除することができるものというべきである。何故なら、(1) 民法612条は、賃貸借契約における当事者間の信頼関係を重視して、賃借人が第三者に賃借物の使用又は収益をさせるためには賃貸人の承諾を要するものとしているのであって、賃借人が賃借物を無断で第三者に現実に使用又は収益させることが、正に契約当事者間の信頼関係を破壊する行為となるものと解するのが相当であり、(2) 譲渡担保権設定者が従前どおり建物を使用している場合には、賃借物たる敷地の現実の使用方法、占有状態に変更はないから、当事者間の信頼関係が破壊されるということはできないが、(3) 譲渡担保権者が建物の使用収益をする場合には、敷地の使用主体が替わることによって、その使用方法、占有状態に変更を来し、当事者間の信頼関係が破壊されるものといわざるを得ないからである。
② これを本件についてみるに、原審の前記認定事実によれば、丙は、甲から譲渡担保として譲渡を受けた本件建物を被上告人に賃貸することによりこれの使用収益をしているものと解されるから、甲の丙に対する同建物の譲渡に伴い、その敷地である本件土地について民法612条にいう賃借権の譲渡又は転貸がされたものと認めるのが相当である。本件において、仮に、丙が未だ譲渡担保権を実行しておらず、甲が本件建物につき受戻権を行使することが可能であるとしても、右の判断は左右されない。
③ そうすると、特段の事情の認められない本件においては、上告人の本件賃貸借契約解除の意思表示は効力を生じたものというべきであり、これと異なる見解に立って、本件土地の賃貸借について民法612条所定の解除原因があるとはいえないとして、上告人による契約解除の効力を否定した原審の判断には、法令の解釈適用を誤った違法があり、この違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。論旨は理由があり、その余の上告理由について判断するまでもなく、原判決は破棄を免れない。そして、前に説示したところによれば、上告人の再抗弁は理由があるから、上告人の本件請求は、これを認容すべきである。右と結論を同じくする第1審判決は正当であって、被上告人の控訴は棄却すべきものである。
よって、民訴法408条、396条、384条、96条、89条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
最高裁裁判長裁判官藤井正雄、裁判官小野幹雄、同高橋久子、同遠藤光男、同井嶋一友
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小規模閉鎖有限会社における実質的な経営者の交代は民法612条の賃借権の無断譲渡には当たらないとした事例
(最高裁平成8年10月14日判決 民集50巻9号2431頁)
主 文
原判決を破棄する。
本件を東京高等裁判所に差し戻す。
理 由
上告人の上告理由第1点について
(1) 本件は、土地の所有者である被上告人(賃貸人・地主)らが、右土地上に建物を所有して右土地を占有する上告人(賃借人・借地人)に対し、所有権に基づいて建物収去土地明渡しを求め、上告人の土地賃借権の抗弁に対して、賃借権の無断譲渡を理由とする賃貸借契約の解除を再抗弁として主張した事案であるところ、原審の確定した事実関係の概要は、次のとおりである。
1 第1審判決別紙物件目録1ないし3記載の土地(以下「本件土地」という。)は、甲の所有であったが、昭和60年に同人が死亡し、その子である乙が右土地を相続した。
平成3年12月4日、被上告人有限会社山梨重機は、同目録1及び2記載の土地を、同有限会社山梨興業は、同目録3記載の土地を、それぞれ乙から買い受けた。
2 上告人(賃借人)は、昭和45年に甲との間で本件土地につき普通建物の所有を目的とする賃貸借契約(以下「本件賃貸借契約」という。)を締結し、右土地上に前記目録4記載の建物(以下「本件建物」という。)を建築所有して、右土地を占有している。
3 上告人(賃借人)は、貨物自動車運送事業等を目的とする資本金2000万円の有限会社であり、設立時以来の代表取締役である上告補助参加人が経営を担当し、上告人の持分はすべて上告補助参加人及びその家族が所有し、役員も同人らとその親族で占められていた。
上告人は、一般区域貨物自動車運送事業の免許を受け、貨物自動車を保有し、本件建物を車庫として使用して、運送業を営んでいた。
4 上告補助参加人及びその家族は、平成3年9月20日、その所有する上告人の持分全部を個人で運送業を営んでいた丙(上告人の現代表取締役)に売り渡し、同日付けで上告人の役員全員が退任し、丙がその代表取締役に、同人の家族がその他の役員に就任した。
同日以後、丙が中心となって上告人の経営を行い、上告人は、従前からの自動車及び従業員に丙個人が運送業に使用していた自動車及び従業員を加え、本件土地建物を使用して従前と同様の運送業を営んでいる。
5 被上告人(賃貸人)らは、平成4年8月25日の第1審口頭弁論期日において、上告人(賃借人)に対し、賃借権の無断譲渡を理由として本件賃貸借契約を解除する旨の意思表示をした。
(2) 原審は、右事実関係の下において、次のとおり判断して、被上告人らが主張した解除の再抗弁を認め、被上告人らの建物収去土地明渡請求を認容すべきものとした。
1 上告人(賃借人)は、上告補助参加人の経営する個人会社であったところ、上告補助参加人が上告人の経営の一切を新たな経営者である丙に譲渡して上告人の経営から手を引いたものであり、右譲渡の前後を通じて上告人の法人格は形式的には同一性を保持しているとはいえ、小規模な個人会社においては、経営者と土地所有者との個人的な信頼関係に基づいて土地賃貸借契約が締結されるのが通常であり、経営者の交代は、その実質に着眼すれば、旧経営者から新経営者に対する賃借権の譲渡であるから、上告補助参加人から丙に対して本件土地の賃借権が譲渡されたものと解するのが相当である。
2 乙が賃借権の譲渡を承諾した事実を認めることはできず、右譲渡が賃貸人に対する背信行為と認めるに足りない特段の事情があるということもできない。
(3) しかし、原審の右1の判断は是認できない。その理由は次のとおりである。
1 民法612条は、賃借人は賃貸人の承諾がなければ賃借権を譲渡することができず、賃借人がこれに反して賃借物を第三者に使用又は収益させたときは、賃貸人は賃貸借契約を解除することができる旨を定めている。右にいう賃借権の譲渡が賃借人から第三者への賃借権の譲渡を意味することは同条の文理からも明らかであるところ、賃借人が法人である場合において、右法人の構成員や機関に変動が生じても、法人格の同一性が失われるものではないから、賃借権の譲渡には当たらないと解すべきである。そして、右の理は、特定の個人が経営の実権を握り、社員や役員が右個人及びその家族、知人等によって占められているような小規模で閉鎖的な有限会社が賃借人である場合についても基本的に変わるところはないのであり、右のような小規模で閉鎖的な有限会社において、持分の譲渡及び役員の交代により実質的な経営者が交代しても、同条にいう賃借権の譲渡には当たらないと解するのが相当である。賃借人に有限会社としての活動の実体がなく、その法人格が全く形骸化しているような場合はともかくとして、そのような事情が認められないのに右のような経営者の交代の事実をとらえて賃借権の譲渡に当たるとすることは、賃借人の法人格を無視するものであり、正当ではない。賃借人である有限会社の経営者の交代の事実が、賃貸借契約における賃貸人・賃借人間の信頼関係を悪化させるものと評価され、その他の事情と相まって賃貸借契約解除の事由となり得るかどうかは、右事実が賃借権の譲渡に当たるかどうかとは別の問題である。賃貸人としては、有限会社の経営者である個人の資力、信用や同人との信頼関係を重視する場合には、右個人を相手方として賃貸借契約を締結し、あるいは、会社との間で賃貸借契約を締結する際に、賃借人が賃貸人の承諾を得ずに役員や資本構成を変動させたときは契約を解除することができる旨の特約をするなどの措置を講ずることができるのであり、賃借権の譲渡の有無につき右のように解しても、賃貸人の利益を不当に損なうものとはいえない。
2 前記事実関係によれば、上告人(賃借人)は、上告補助参加人が経営する小規模で閉鎖的な有限会社であったところ、持分の譲渡及び役員の交代により上告補助参加人から丙に実質的な経営者が交代したものと認められる。しかし、上告人は、資産及び従業員を保有して運送業を営み、有限会社としての活動の実体を有していたものであり、法人格が全く形骸化していたといえないことは明らかであるから、右のように経営者が交代しても、賃借権の譲渡には当たらないと解すべきである。右と異なり、実質的には上告補助参加人から丙に賃借権が無断譲渡されたものとして被上告人らの契約解除の主張を認めた原審の判断には、民法621条の解釈適用を誤った違法があり、右違法が原判決の結論に影響を及ぼすことは明らかである。この点をいう論旨は理由があり、その余の点につき判断するまでもなく、原判決は破棄を免れない。そして、記録によれば、被上告人らは、本件賃貸借契約につき他の解除事由をも主張していることが認められるから、この点について更に審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻す。
よって、民訴法407条1項に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
最高裁裁判長裁判官根岸重治、裁判官大西勝也、同河合伸一、同福田博
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最高裁判例
借地人の供託した賃料額が借地法12条2項の相当賃料と認められた事例
(最高裁平成5年2月18日判決 裁判集民事167号下129頁)
主 文
原判決中上告人(賃借人)敗訴部分を破棄し、第1審判決中右部分を取り消す。
前項の部分に関する被上告人(賃貸人)の請求を棄却する。
訴訟の総費用は被上告人(賃貸人)の負担とする。
理 由
上告代理人永原憲章、同藤原正廣の上告理由について
(1) 原審の確定した事実関係の概要は、次のとおりである。
1 上告人(賃借人)は、昭和45年5月23日、被上告人(賃貸人)から、第1審判決別紙物件目録1記載の土地(以下「本件土地」という。)を、建物所有を目的として、賃料月額6760円で賃借し、右土地上に同目録2記載の建物(以下「本件建物」という。)を所有している。
2 被上告人(賃貸人)は、上告人(賃借人)に対し、本件土地の賃料を、昭和57年9月13日ころ到達の書面で同年10月1日から月額3万6052円に、昭和61年12月30日到達の書面で昭和62年1月1日から月額4万8821円に、それぞれ増額する旨の意思表示をした後、本件土地の賃料が右各増額の意思表示の時点で増額されたことの確認を求める訴訟を神戸地方裁判所に提起した(同庁昭和62年(ワ)第36号、以下「賃料訴訟」という。)。
3 被上告人は(賃貸人)、上告人(賃借人)に対し、賃料訴訟の係属中の昭和62年7月8日到達の書面で、昭和57年10月1日から同61年12月31日まで月額3万6052円、昭和62年1月1日から同年6月30日まで月額4万6000円による本件土地の賃料合計211万4652円を同年7月13日までに支払うよう催告するとともに、右期間内に支払のないときは改めて通知することなく本件賃貸借契約を解除する旨の意思表示をした。
4 上告人は(賃借人)、被上告人(賃貸人)に対し、従前の月額6760円の賃料を提供したが、受領を拒絶されたため、昭和59年5月12日に同年6月分まで月額6760円、昭和62年1月28日に同59年7月分から同62年6月分まで月額1万140円、昭和62年7月10日に同年7月分から同年12月分まで月額2万3000円を、いずれも上告人(賃借人)において相当と考える賃料として供託した。
5 昭和62年12月15日、賃料訴訟において、本件土地の賃料が昭和57年10月1日から同61年12月31日までは月額3万6052円、昭和62年1月1日以降は月額4万6000円であることを確認する旨の判決がされ、控訴なく確定した。昭和63年3月1日、上告人(賃借人)と被上告人(賃貸人)との間で、賃料訴訟で確認された同62年6月30日までの本件土地の賃料と上告人(賃借人)の供託賃料との差額及びこれに対する法定の年1割の割合による利息を支払って清算する旨の合意が成立し、上告人(賃借人)は右合意に従って清算金を支払った。
6 被上告人(賃貸人)は、上告人(賃借人)に対し、前記の賃料増額の意思表示のほかにも、昭和47年1月から月額2万2533円に、同53年1月から月額2万6288円に、同55年7月から月額3万1546円に各増額する旨の意思表示をその都度したが、上告人(賃借人)はこれに応ぜず、前記のとおり昭和59年6月分まで当初の月額6760円の賃料を供託し続けた。また、上告人(賃借人)は、本件土地の隣地で被上告人(賃貸人)が他の者に賃貸している土地について、昭和45年以降数度にわたって合意の上で賃料が増額されたことの大要を知っていた。
(2) 原審は、被上告人(賃貸人)の本件建物収去本件土地明渡等請求を認容した第1審判決は、賃料相当損害金請求に関する一部を除いて、正当であるとした。
その理由は、次のとおりである。
1 借地法12条2項にいう「相当ト認ムル」賃料とは、客観的に適正である賃料をいうものではなく、賃借人が自ら相当と認める賃料をいうものと解されるが、それは賃借人の恣意を許す趣旨ではなく、賃借人の供託した賃料額が適正な賃料額と余りにもかけ離れている場合には、特段の事情のない限り、債務の本旨に従った履行とはいえず、さらに、そのような供託が長期にわたって漫然と続けられている場合には、もはや賃貸人と賃借人の間の信頼関係は破壊されたとみるべきである。
2 一記載の事実関係の下において、上告人(賃借人)が相当と考えて昭和57年10月1日から同62年30日までの間に供託していた賃料は、賃料訴訟で確認された賃料の約5・3分の1ないし約3・6分の1と著しく低く、上告人(賃借人)は、右供託賃料が本件土地の隣地の賃料に比してもはるかに低額であることを知っていたし、他に特段の事情もないから、上告人(賃借人)の右賃料の供託は債務の本旨に従った履行と認めることはできず、上告人(賃借人)、被上告人(賃貸人)の数回にわたる賃料増額請求にもかかわらず、約12年余の間にわたり当初と同一の月額6760円の賃料を漫然と供託してきた事実を併せ考えると、当事者間の信頼関係が破壊されたと認めるのが相当であり、本件賃貸借契約は昭和62年7月13日の経過をもって賃料不払を理由とする解除により終了した。
(3) しかし、被上告人(賃貸人)の請求は理由があるとした原審の右判断部分は、是認できない。その理由は、次のとおりである。
借地法12条2項は、賃貸人から賃料の増額請求があった場合において、当事者間に協議が調わないときには、賃借人は、増額を相当する裁判が確定するまでは、従前賃料額を下回らず、主観的に相当と認める額の賃料を支払っていれば足りるものとして、適正賃料額の争いが公権的に確定される以前に、賃借人が賃料債務の不履行を理由に契約を解除される危険を免れさせるとともに、増額を確認する裁判が確定したときには不足額に年1割の利息を付して支払うべきものとして、当事者間の利益の均衡を図った規定である。
そして、本件において、上告人は、被上告人(賃貸人)から支払の催告を受ける以前に、昭和57年10月1日から同62年6月30日までの賃料を供託しているが、その供託額は、上告人として被上告人(賃貸人)の主張する適正賃料額を争いながらも、従前賃料額に固執することなく、昭和59年7月1日からは月額1万140円に増額しており、いずれも従前賃料額を下回るものではなく、かつ上告人(賃借人)が主観的に相当と認める額であったことは、原審の確定するところである。そうしてみれば、上告人(賃借人)には被上告人(賃貸人)が本件賃貸借契約解除の理由とする賃料債務の不履行はなく、被上告人(賃貸人)のした解除の意思表示は、その効力がないといわなければならない。
もっとも、賃借人が固定資産税その他当該賃借土地に係る公租公課の額を知りながら、これを下回る額を支払い又は供託しているような場合には、その額は著しく不相当であって、これをもって債務の本旨に従った履行ということはできないともいえようが、本件において、上告人(賃借人)の供託賃料額が後日賃料訴訟で確認された賃料額の約5・3分の1ないし約3・6分の1であるとしても、その額が本件土地の公租公課の額を下回るとの事実は原審の認定していないところであって、未だ著しく不相当なものということはできない。また、上告人(賃借人)においてその供託賃料額が本件土地の隣地の賃料に比べはるかに低額であることを知っていたとしても、それが上告人(賃借人)において主観的に相当と認めた賃料額であったことは原審の確定するところであるから、これをもって被上告人(賃貸人)のした解除の意思表示を有効であるとする余地もない。
(4) そうすると、原判決には借地法12条2項の解釈適用を誤った違法があり、右違法は判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、この点をいう論旨は理由がある。そして、以上によれば、被上告人(賃貸人)の請求は理由がないことに帰するから、原判決中上告人(賃借人)敗訴部分を破棄し、第1審判決中右部分を取り消した上、右部分に係る被上告人(賃貸人)の本訴請求を棄却すべきである。
よって、民訴法408条、396条、386条、96条、89条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
最高裁裁判長裁判官三好達、裁判官大堀誠一、同橋元四郎平、同味村治、同小野幹雄
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最高裁判例
移転料の提供により借家法1条の2の正当の事由の補強条件になるという事例
(最高裁昭和38年3月1日判決 民集17巻2号290頁)
主 文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人(賃借人)の負担とする。
理 由
上告代理人坂上富男の上告理由第1点について。
原審第6回口頭弁論調書によれば、被上告人(賃貸人)は所論訴状訂正の申立書により新たな解約申入をする趣旨であることを明確にしていることが認められ、かつ前解約申入と本解約申入に因る各請求は、その基礎に変更のないこというまでもない。所論は、原判決を正解せずこれに違法がある主張するものであって、採るをえない。
同第2点について。
本件訴訟の経過に照し、期限到来後即時に上告人(賃借人)の履行が期待できないこと明らかであるから、被上告人(賃貸人)は予め請求する必要あるものというべく、この点に関する原判決の判断は正当であって、この判断に到達した具体的理由を判示しなければならないものではない。所論は理由なく、排斥を免れない。
同第3点について。
原判決が、その認定した当時者双方の事情に、被上告人(賃貸人)が上告人(賃借人)に金40万円の移転料を支払うという補強条件を加えることにより、判示解約の申入が正当の事由を具備したと判断したことは相当であって、借家法1条の2の解釈を誤った違法や理由不備の違法は認められない。所論は独自の見解に立脚するものであって、採用しえない。
よって、民訴401条、95条、89条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
最高裁裁判長裁判官池田克、裁判官河村大助、同奥野健一、同山田作之助、同草鹿浅之介
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最高裁判例
借家法1条の2に基づく解約を理由とする家屋の明渡訴訟において当事者の明示の申立額を超える立退料の支払と引換えに明渡請求を認容することを相当と認めた事例
(最高裁昭和46年11月25日判決 民集25巻8号1343頁)
主 文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理 由
上告代理人桂辰夫、同津田雄三郎の上告理由第1について。
原判決は、第1審判決の理由を引用することにより、本件賃貸借契約は、被上告人(原告)が期間満了前適法な更新拒絶の意思表示をしないまま期間が満了したため、右期間満了後は、期間の定めのないものに更新されたと判示しているのであって、所論の点につき、判断を遺脱した違法はない。しかして、借家法2条によって更新された賃貸借が、期間の定めのない賃貸借となると解すべきことは、既に当裁判所の判例とするところである(最高裁昭和27年1月18日判決 民集6巻1号1頁、同28年3月6日判決 民集7巻4号267頁参照)。従って、原判決に所論の違法はなく、論旨は採用できない。
同第2について。
原審は、被上告人(被控訴人)が、本件賃貸借契約の更新後である本訴において、解約申入を原因とする主張を維持していることから推断して、所論の準備書面をもって黙示的に解約申入をしているものと判断しているのであって、右判断は正当である。されば、原判決に所論の違法はなく、所論は原判決を正解せず、これを非難するものであって、採用できない。
同第3について。
被上告人の本件係争店舗の敷地利用計画に関する原審の事実認定は、原判決挙示の証拠によって肯認されえないではなく、この事実を本件賃貸借契約の解約申入に関する正当事由として考慮した原審の判断は正当であって、原判決に所論の違法はない。従って、論旨は採用できない。
同第4について。
原審の確定した諸般の事情のもとにおいては、被上告人(賃貸人)が上告人(賃借人)に対して立退料として300万円もしくはこれと格段の相違のない一定の範囲内で裁判所の決定する金員を支払う旨の意思を表明し、かつその支払と引き換えに本件係争店舗の明渡を求めていることをもって、被上告人の右解約申入につき正当事由を具備したとする原審の判断は相当である。所論は右金額が過少であるというが、右金員の提供は、それのみで正当事由の根拠となるものではなく、他の諸般の事情と綜合考慮され、相互に補充しあって正当事由の判断の基礎となるものであるから、解約の申入が金員の提供を伴うことによりはじめて正当事由を有することになるものと判断される場合であっても、右金員が、明渡によって借家人の被るべき損失のすべてを補償するに足りるものでなければならない理由はないし、また、それがいかにして損失を補償しうるかを具体的に説示しなければならないものでもない。原審が、右の趣旨において500万円と引き換えに本件店舗の明渡請求を認容していることは、原判示に照らして明らかであるから、この点に関する原審の判断は相当であって、原判決に所論の違法は存しない。従って、これと異なる論旨は、採用しえない。
よって、民訴法401条、95条、89条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
最高裁裁判長裁判官藤林益三、裁判官岩田誠、同大隅健一郎、同下田武三、同岸盛一
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建物の賃貸人が解約申入後に提供又は増額を申し出た立退料等の金員を参酌して当該解約申入れの正当事由を判断するとした事例
(最高裁平成3年3月22日判決 民集45巻3号293頁)
主 文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人らの負担とする。
理 由
上告代理人澤邊朝雄、同植原敬一、同藤井司の上告理由第1点の第2について
建物の賃貸人が解約の申入れをした場合において、その申入時に借家法1条ノ2に規定する正当事由が存するときは、申入後6か月を経過することにより当該建物の賃貸借契約は終了するところ、賃貸人が解約申入後に立退料等の金員の提供を申し出た場合又は解約申入時に申し出ていた右金員の増額を申し出た場合において、右の提供又は増額に係る金員を参酌して当初の解約申入れの正当事由を判断することができると解するのが相当である。何故なら、立退料等の金員は、解約申入時における賃貸人及び貸借人双方の事情を比較衡量した結果、建物の明渡しに伴う利害得失を調整するために支払われるものである上、賃貸人は、解約の申入れをするに当たって、無条件に明渡しを求め得るものと考えている場合も少なくないこと、右金員の提供を申し出る場合にも、その額を具体的に判断して申し出ることも困難であること、裁判所が相当とする額の金員の支払により正当事由が具備されるならばこれを提供する用意がある旨の申出も認められていること、立退料等の金員として相当な額が具体的に判明するのは建物明渡請求訴訟の審理を通じてであること、さらに、右金員によって建物の明渡しに伴う賃貸人及び貸借人双方の利害得失が実際に調整されるのは、賃貸人が右金員の提供を申し出た時ではなく、建物の明渡しと引換えに賃借人が右金員の支払を受ける時であることなどに鑑みれば、解約申入後にされた立退料等の金員の提供又は増額の申出であっても、これを当初の解約の申入れの正当事由を判断するに当たって参酌するのが合理的であるからである。
これを本件についてみると、記録によれば、被上告人は、昭和62年5月11日、第1審の第7回口頭弁論期日において、上告人Pとの間の本件賃貸借契約の解約を申し入れ、同時に立退料100万円の支払を申し出ていたところ、原審の第1回口頭弁論期日において、裁判所が相当と認める範囲内で立退料を増額する用意があることを明らかにした上、平成元年7月21日、原審の最終口頭弁論期日において、立退料を300万円に増額する旨を申し出ていることが明らかである。そして、原審の適法に確定した事実関係によれば、被上告人が昭和62年5月11日にした解約の申入れは、立退料300万円によって正当事由を具備するものと認めるのが相当であるから、本件賃貸借契約は、右解約申入れから6か月後の昭和62年11月11日の経過によって終了したものといわなければならない。従って、これと異なり、被上告人が平成元年7月21日に立退料の増額を申し出た時から6か月後の平成2年1月21日の経過をもって本件賃貸借契約が終了するとした原判決には、借家法1条ノ2にいう解約申入れの効力の解釈を誤った違法があるが、平成2年1月22日以後の建物の明渡し及び賃料相当損害金の支払等を命じた原判決を変更して昭和62年11月12日以後の建物の明渡し及び賃料相当損害金の支払等を命ずることは、いわゆる不利益変更禁止の原則により許されない。論旨は、結局、原判決の結論に影響しない部分の違法をいうに帰し、採用できない。
その余の上告理由について
所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものにすぎず、採用できない。
よって、民訴法401条、95条、89条、93条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
最高裁裁判長裁判官香川保一、裁判官藤島昭、同中島敏次郎、同木崎良平
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借家法7条の賃料増額請求の効力発生時期
(最高裁昭和45年6月4日判決 民集24巻6号482頁)
主 文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理 由
上告人の上告理由について。
被上告人が上告人に対してなした本件建物部分の賃料を増額する旨の意思表示が借家法7条に基づく賃料増額の請求であることは、原判決(その引用する第1審判決を含む。以下同じ。)の判文に徴して明らかであるところ、それは形成権の行使であるから、賃料の増額を請求する旨の意思表示が上告人に到達した日に増額の効果が生ずるものと解するのが相当である。本件の場合、民法97条1項にいう「相手方ニ到達シタル時」とは、右の趣旨に解すべきである。従って、被上告人のなした賃料増額の意思表示が上告人に到達した日である昭和37年7月9日から月額20,000円に、同38年12月1日から月額22,000円に増額の効果を生じたとする原審の判断は、正当として是認できる。してみれば、原判決に所論の違法のないことは明らかであり、論旨は採用できない。
よって,民訴法401条、95条、89条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
最高裁裁判長裁判官大隅健一郎、裁判官入江俊郎、同松田二郎、同岩田誠
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土地賃借人が該土地上に長男名義で保存登記をした建物を所有する場合と建物保護ニ関スル法律1条の対抗力の有無
(最高裁昭和41年4月27日判決 民集20巻4号870頁)
主 文
原判決を破棄し、第1審判決を取り消す。
被上告人(賃借人)は上告人(賃貸人)に対し、松山市子町丑番地宅地34坪2合3勺(実測111・1404㎡位)を、その地上に存する家屋番号同所第寅番卯、居宅木造セメント瓦葺2階建、下18坪3合1勺、上7坪2合9勺の建物を収去して明け渡せ。
訴訟の総費用は被上告人の負担とする。
理 由
上告代理人篠原三郎の上告理由について。
建物保護ニ関スル法律(以下建物保護法と略称する。)1条は、建物の所有を目的とする土地の賃借権により賃借人がその土地の上に登記した建物を所有するときは、土地の賃貸借につき登記がなくとも、これを以って第三者に対抗することができる旨を規定している。このように、賃借人が地上に登記した建物を所有することを以って土地賃借権の登記に代わる対抗事由としている所以のものは、当該土地の取引をなす者は、地上建物の登記名義により、その名義者が地上に建物を所有し得る土地賃借権を有することを推知し得るが故である。
従って、地上建物を所有する賃借権者は、自己の名義で登記した建物を有することにより、始めて右賃借権を第三者に対抗し得るものと解すべく、地上建物を所有する賃借権者が、自らの意思に基づき、他人名義で建物の保存登記をしたような場合には、当該賃借権者はその賃借権を第三者に対抗することはできないものといわなければならない。何故なら、他人名義の建物の登記によっては、自己の建物の所有権さえ第三者に対抗できないものであり、自己の建物の所有権を対抗し得る登記あることを前提として、これを以って賃借権の登記に代えんとする建物保護法1条の法意に照し、かかる場合は、同法の保護を受けるに値しないからである。
原判決の確定した事実関係によれば、被上告人(賃借人)は、自らの意思により、長男甲に無断でその名義を以って建物の保存登記をしたものであるというのであって、たとえ右甲が被上告人(賃借人)と氏を同じくする未成年の長男であって、自己と共同で右建物を利用する関係にあり、また、その登記をした動機が原判示の如きものであったとしても、これを以って被上告人(賃借人)名義の保存登記とはいい得ないこと明らかであるから、被上告人(賃借人)が登記ある建物を有するものとして、右建物保護法により土地賃借権を第三者に対抗することは許されない。
元来登記制度は、物権変動の公示方法であり、またこれにより取引上の第三者の利益を保護せんとするものである。すなわち、取引上の第三者は登記簿の記載によりその権利者を推知するのが原則であるから、本件の如く甲名義の登記簿の記載によっては、到底被上告人(賃借人)が建物所有者であることを推知するに由ないのであって、かかる場合まで、被上告人(賃借人)名義の登記と同視して建物保護法による土地賃借権の対抗力を認めることは、取引上の第三者の利益を害するものとして、是認することはできない。また、登記が対抗力をもっためには、その登記が少くとも現在の実質上の権利状態と符号するものでなければならないのであり、実質上の権利者でない他人名義の登記は、実質上の権利と符合しないものであるから、無効の登記であって対抗力を生じない。そして本件事実関係においては、甲を名義人とする登記と真実の権利者である被上告人(賃借人)の登記とは、同一性を認められないのであるから、更正登記によりその瑕疵を治癒せしめることも許されないのである。叙上の理由によれば、本件において、被上告人(賃借人)は、甲名義の建物の保存登記を以って、建物保護法により自己の賃借権を上告人(賃貸人)に対抗することはできない。
なお原判決引用の判例(昭和15年7月11日大審院判決)は、相続人が地上建物について相続登記をしなくても、建物保護法1条の立法の精神から対抗力を与えられる旨判示しているのであるが、被相続人名義の登記が初めから無効の登記でなかった事案であり、しかも家督相続人の相続登記未了の場合であって、本件の如き初めから無効な登記の場合と事情を異にし、これを類推適用することは許されない。
然らば、本件上告は理由があり、原判決には建物保護法1条の解釈を誤った違法があり、右違法は判決に影響を及ぼすこと明らかであるから、原判決は破棄を、第1審判決は取消しを免れない。
原判決の確定した事実によれば、本件土地が上告人(賃貸人)の所有であり、被上告人(賃借人)がその地上に本件建物を所有し、本件土地を占有しているのであり、被上告人(賃借人)の主張する本件土地の賃借権は上告人(賃貸人)に対抗することができないことは前説示のとおりであるから、被上告人(賃借人)は上告人(賃貸人)に対し、本件土地を地上の本件建物を収去して明け渡すべき義務ある。
よって、民訴法408条1号、396条、386条、96条、899条に従い、裁判官横田喜三郎、同入江俊郎、同山田作之助、同長部謹吾、同柏原語六、同田中二郎の反対意見があるほか(略)、裁判官全員一致の意見により、主文のとおり判決する。
最高裁裁判長裁判官横田喜三郎、裁判官入江俊郎、同奥野健一、同山田作之助、同五鬼上堅磐、同横田正俊、同草鹿浅之介、同長部謹吾、同城戸芳彦、同石田和外、同柏原語六、同田中二郎、同松田二郎、同岩田誠、同下村三郎
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最高裁判例
賃貸人の自己使用の必要がある一事によって借家法1条の2の「正当の事由」ありといえるか
(最高裁昭和29年1月22日判決 民集8巻1号207頁)。
主 文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理 由
上告理由について。
借家法1条の2にいわゆる「正当の事由」とは、賃貸借当事者双方の利害関係その他諸般の事情を考慮し、社会通念に照し妥当と認むへき理由をいうのであって所論のように賃貸人が自ら使用することを必要とするとの一事を以て、直ちに右「正当の事由」に該当するものと解することのできないことは既に当裁判所判例の示すところである。その他論旨は「最高裁における民事上告事件の審判の特例に関する法律」(昭和25年5月4日法律138号)1号乃至3号のいずれにも該当せず、又同法にいわゆる「法令の解釈に関する重要な主張を含む」ものと認められない。
よって、民訴401条、95条、89条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
最高裁裁判長裁判官霜山精一、裁判官小谷勝重、同藤田八郎、同谷村唯一郎
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対抗力を具備しない土地賃借権者に対し建物収去・土地明渡を求めることが権利濫用となる場合において、土地占有を理由とする損害賠償を請求することが出来るとした判例
(最高裁昭和43年9月3日判決 民集22巻9号1767頁)
主 文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理 由
上告代理人吉川大二郎、同渡辺彌三次の上告理由一ないし四について。
原審が確定した事実によれば、上告人(賃借人)は、被上告人(賃貸人)が本件(イ)の土地の所有権を取得した日以降、被上告人に対抗しうる権原を有することなく、右土地の仮換地及び換地上に本件建物を所有して、同土地を占有している、というのである。そして、被上告人が上告人の従前同土地について有していた賃借権が対抗力を有しないことを理由として上告人に対し建物収去・土地明渡を請求することが権利の濫用として許されない結果として、上告人が建物収去・土地明渡を拒絶することができる立場にあるとしても、特段の事情のないかぎり、上告人が右の立場にあるということから直ちに、その土地占有が権原に基づく適法な占有となるものでないことはもちろん、その土地占有の違法性が阻却されるものでもないのである。従って、上告人が被上告人に対抗しうる権原を有することなく、右土地を占有していることが被上告人に対する関係において不法行為の要件としての違法性をおびると考えることは、被上告人の本件建物収去・土地明渡請求が権利の濫用として許されないとしたこととなんら矛盾するものではないといわなければならない。されば、上告人が前記土地を占有することにより被上告人の使用を妨害し、被上告人に損害を蒙らせたことを理由に、上告人に対し、損害賠償を命じた原判決は正当である。叙上と異なる見地に立って原判決を攻撃する所論は採用できない。
よって、民訴法396条、384条、95条、89条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
裁判官五鬼上堅磐、同柏原語六は退官して、評議に加わらない。
最高裁裁判長裁判官横田正俊、裁判官田中二郎、同下村三郎
参照 【判例】*対抗力を具備していない借地人に対しての明渡請求が権利の濫用となるとされた事例
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最高裁判例
対抗力を具備しない土地賃借債権者に対し建物収去・土地明渡を求めることが権利の濫用となるとされた事例
(最高裁昭和43年9月3日判決 民集22巻9号1817頁)
主 文
原判決中被上告人IJ物産株式会社に対する損害金請求に関する部分を破棄し、右部分につき本件を大阪高等裁判所に差し戻す。
その余の部分に関する上告人の上告を棄却する。
前項に関する上告費用は、上告人の負担とする。
理 由
上告代理人の上告理由第一点について。
原審は、 所論摘録のとおり、
(一) 上告人(原告)は、 被上告人(被告)甲が訴外乙から本件(イ)の土地を貸借し、同地上に建物を所有して被上告会社(被告会社)名義で洋家具製造販売業を営んでいることを知りながら右土地を買い受けたものであること、
(二) 上告人が本件(イ)(ロ)(ハ)の各土地を買い受けるまでの間の事情及び買受の経過、
(三) 上告人の右買受価格と当時の時価との比較、
(四) 上告人が本訴を提起するに至るまでの経過、
(五) 本件(イ)の土地に対する被上告人甲側の必要事情ならびに明渡による損害、
(六) 上告人が本件(イ)(ロ)(ハ)の土地の明渡を受けることによって獲得する利得、
(七) 本件の民事調停の経過等の事実関係を認定し、認定の事実を総合して考えると、「被控訴人(上告人)は、単に控訴人(被上告人)甲が本件の(イ)の土地を賃借し、同地上に建物を所有して営業している事実を知って本件土地を買受けたものであるに止らず、時価よりも著しく低廉な、しかも賃借権付評価で取得した土地につき、たまたま控訴人(被上告人)甲の賃借権が対抗力を欠如していることを発見し、これを奇貨として予想外の新たな利益を収めようとするものであり、その方法としては事前に何らの交渉もしないで抜打的に本訴を提起し、その反面に、相手方に予期しない不利益を与えるもの、即ち正当な賃借権に基き地上に建物を所有して平穏に営業し来った控訴人(被上告人)甲側の営業ならびに生活に多大の損失と脅威を与えることを意に介せず、敢えて彼我の利益の均衡を破壊して巨利を博する結果を招来せんとするものと認めなければならない」とし、上告人の被上告人甲に対する本件建物収去・土地明渡の請求は権利の濫用として許されないと判断したのである。そして、原判決挙示の証拠によれば、原審の前記事実の認定は是認することができ、当該事実関係のもとにおいては、上告人の被上告人甲に対する本件建物収去・土地明渡の請求を権利の濫用にあたるとした原審の判断は正当である。原審の事実の認定及び法律上の判断に所論の違法はなく、論旨は採用できない。
同第二点について。
原審の認定した事実によれば、被上告人甲は、上告人に対抗しうる権原を有することなく、本件(イ)の土地の換地(換地処分前は仮換地)上に本件建物を所有し、同土地を占有しているが、被上告人IJ物産は、被上告人甲との使用貸借契約に基づいて、本件建物を借り受け、その全部を使用占有しているというのである。ところで、原判決は、上告人の被上告人甲に対する本件建物収去・土地明渡の請求が権利の濫用にあたり、同被上告人において建物収去・土地明渡の義務を負わない以上、被上告人IJ物産の本件建物の占有と上告人が本件(イ)の土地の仮換地及び換地を使用できないこととの間には相当因果関係を認めることができない、との理由により、被上告人IJ物産の土地の不法占有を理由とする上告人の損害賠償請求を棄却すべきものと判断したのである。しかし、本件建物の所有者である被上告人甲は、被上告人IJ物産の代表者であり、実質的には、本件建物の所有者である被上告人甲と占有者である被上告人IJ物産とが一体となって敷地である前記土地を不法に占有し、上告人の使用収益を妨害していることは、原判文から十分うかがうことができるのであり、このような特段の事情があるときは、被上告人IJ物産が本件建物を使用していることと上告人が土地を使用できないこととの間には相当因果関係が存するものと解するのが相当である(最高裁昭和29年(オ)第213号、同31年10月23日判決、民集10巻10号1275頁参照)。そうとすれば、これと見解を異にする原判決は法律の解釈を誤ったものというべく、論旨はこの点において理由があり、原判決は破棄を免れない。
同第三点について。
被上告人IJ物産がいわゆる個人会社であって、実質上、同会社の営業上の損失が被上告人甲個人に帰する関係にあることは原判文上これを窺知できなくはないから、本件土地の明渡による被上告人IJ物産の営業上の損失をもって、被上告人甲に対する明渡請求が権利の濫用になるかどうかの判断の資料とすることは違法とはいえない。また、本件土地の明渡による被上告人IJ物産の営業上の損失を判断の資料に供したからといって、当然に、不法行為上の損害賠償責任につき被上告人甲と同IJ物産とを一律に扱わなければならない筋合ではないから、原判決には理由そごの違法があるとはいえない。論旨は採用できない。
同第四点について。
原判決が被上告人Aに適法を土地占有権原があると判断した趣旨でないことは判文上明らかである。この点を正解しないで理由そごをいう論旨は採用できない。
よって、被上告人IJ物産の土地の不法占有を理由として上告人の請求する損害金の額等について更に審理を尽くさせるため、原判決中破上告人IJ物産に対する損害金請求に関する部分を破棄し、右部分につき本件を大阪高等裁判所に差し戻し、その余の部分につき本件上告を棄却することとし、民訴法407条1項、396条、384条、95条、89条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
裁判官五鬼上堅磐、同柏原語六は退官して、評議に加わらない。
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家屋の譲渡に伴う賃貸人の地位承継があった後は旧賃貸人は賃貸借を解除することができないとされた事例
(最高裁昭和39年8月28日判決 民集18巻7号1354頁)
主 文
原判決を破棄する。
本件を福岡高等裁判所に差し戻す。
理 由
上告代理人香田広一の上告理由第5点について。
所論は、被土告人はすでに昭和34年9月28日本件建物を訴外甲に売り渡してその所有権を失っているのであるから、右売渡後の同年10月5日に同年9月末日までの延滞賃料の催告をなし、右賃料不払に基づいて被上告人のなした本件賃貸借契約解除はその効力を有しない筈であるのに、原審が右解除を有効と判断して被上告人の請求を認容したのは、借家法の解釈を誤まったものであるという。
記録によれば、上告人が昭和35年2月16月午前10時の原審最終口頭弁論期日において、被上告人は昭和34年9月28日本件家屋を訴外甲に売り渡したからその実体的権利はすでに右訴外人に移転し被上告人はこれを失っている旨主張したのに対して、原審は右売却及びこれによる所有権喪失の有無につき被上告人に対して認否を求めないまま弁論を終結したことが明らかであり、原判決が、被上告人の本訴請求は賃貸借の消滅による賃貸物返還請求権に基づくものであるから仮に上告人主張のように被上告人が本件建物の所有権を他に譲渡してもこの事実は右請求権の行使を妨げる理由とはならないとして、被上告人の右請求を認容していることは、論旨のとおりである。
しかし、自己の所有建物を他に賃貸している者が賃貸借継続中に右建物を第三者に譲渡してその所有権を移転した場合には、特段の事情のないかぎり、借家法一条の規定により、賃貸人の地位もこれに伴って右第三者に移転するものと解すべきところ、本件においては、被上告人が上告人に対して自己所有の本件建物を賃貸したものであることが当事者間に争が由ないのであるから、本件賃貸借契約解除権行使の当時被上告人が本件建物を他に売り渡してその所有権を失っていた旨の所論主張につき、もし被上告人がこれを争わないのであれば、被上告人は上告人に対する関係において、右解除権行使当時すでに賃貸人たるの地位を失っていたことになるのであり、右契約解除はその効力を有しなかったものといわざるを得ない。然るに、原審が、叙上の点を顧慮することなく、上告人の所論主張につき、本件建物の所有権移転が本訴請求を妨げる理由にはならないとしてこれを排斥したのは、借家法1条の解釈を誤まったか、もしくは審理不尽の違法があるものというべく、右違法は判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、論旨は理由がある。
従って、上告代理人香田広一のその余の論旨及び上告代理人清水正雄の論旨について判断するまでもなく、原判決は破棄を免れず、なお右の点について審理の必要があるものと認められるから、民訴407条1項に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
最高裁裁判長裁判官奥野健一、裁判官山田作之助、同城戸芳彦、同石田和外
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