なんでも内科診療日誌

とりあえず何でも診ている内科の診療記録

コロナ後の死亡

2023年03月11日 | Weblog

 月曜日に入院していた99歳女性が亡くなった。入院したのは1月17日で、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)だった。

 介護施設に入所していたが、施設内でCOVID-19のクラスターが発生した。1月15日に発熱があり、施設内の検査でCOVID-19 と診断された。

 施設内でクラスターが発生した時は、原則施設内で経過をみることになる。発熱の持続・食欲不振・酸素飽和度低下がある入所者だけ入院調整される。

 この方は99歳という年齢の問題もあり、食事摂取できないので、発症3日目には保健所から入院依頼が来た。その日のうちに感染病棟に入院した。

 胸部CTで左胸水があるが、おそらく以前からあるのだろう。淡いすりガラス陰影が散在しているように見える。レムデシビル点滴静注と点滴で治療を開始した。1月20日には解熱した。

 開眼はしているが、ほとんど発語はない。経口摂取は困難だった。1月27日に隔離解除となり、一般病棟に転棟となった。聴覚言語療法士(ST)介入で嚥下訓練を行ったが、経口摂取は難しかった。

 

 家族と相談したが、高カロリー輸液や経管栄養は希望されなかった(こちらとしてもお勧めし難い)。そのまま末梢静脈からの点滴で経過をみることになった。(血管が持たないかと思ったが、アミノ酸製剤も点滴できた。)約1か月くらいの経過で亡くなった時は、「老衰」と記載するするようになる。

 家族としては、せっかくここまで生きたので、切りのいいところで?100歳まで生かしたいとも言っていた。半年以上あるのでちょっと遠いですね、となった。

 2月10日に高熱があり、胸部X線(ポータブル)で下肺野に肺炎があるようだ。これで亡くなられたら「誤嚥性肺炎」と記載することになる。幸いに抗菌薬を開始すると、3日で解熱して1週間で抗菌薬を中止できた。

 しばらく安定していたので、これで次第に下降線をたどれば、「老衰」になるかと思われた。

 3月になってすぐに高熱が出現して、酸素飽和度が低下した。誤嚥性肺炎として再度抗菌薬を開始して、解熱傾向だったが、結局亡くなられた。酸素飽和度低下は死亡するほどではないので、全身状態の悪化なのだろう。

 

 病棟の看護師長さんに、「コロナで亡くなったことになりますか」と訊かれた。コロナとしては軽快治癒している。きっかけはそうだったかもしれないが(全身状態のレベルが一段階落ちた)、直接死因としては誤嚥性肺炎とした。

 毎日のようにコロナでの死亡者が発表されるが、あれは発症後1週間~10日以内の死亡なのだろうか。80歳以上の高齢者だと、症状が治まっても経口摂取ができない動けないとして入院継続しているうちに、細菌性肺炎になったり心不全になる。

 発症から1か月以上経過して悪化していれば、コロナによる死亡とはし難いと思う(コロナ関連死?)。すでに一般病棟にいて、家族の面会も許可しているので。

 

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1型糖尿病

2023年03月10日 | Weblog

 水曜日に医療センターから、髄膜腫術後の67歳女性がリハビリ病棟に転院してきた。脳神経内科が担当になるが、1型糖尿病があり、血糖コントロールを依頼された。

 

 この患者さんは隣町在住だが、車に乗っていた時に嘔気・嘔吐と一過性意識消失があり、当院の救急外来を受診した。担当は外科医(大学病院からバイト)だった。

 受診も嘔吐があり、名前は言えるが、見当識障害があった。頭部CTで腫瘍があり、頭部MRIで見ると案外周囲との境界は明瞭だった。対側の大脳を圧排している。

 地域の基幹病院の脳外科に連絡したが、脳腫瘍ということで、医療センターの脳外科に救急搬送となった。

 1型糖尿病で通院していて、インスリン強化療法を受けていた。血糖コントロールを行ってから、12月6日に腫瘍栄養動脈塞栓術、12月7日に頭蓋内腫瘍摘出術が行われた。診断は右蝶形骨縁髄膜腫。

 手術翌日の頭部CTで脳出血を認めて、意識障害が遷延したとある。その後、意識障害は回復したが、左半身麻痺がある。

 

 血糖コントロールは内分泌代謝の専門医が行っていて、超速効型インスリン(7-6-7-0)単位、持効型インスリン(0-0-0-12)単位皮下注となっていた。とりあえずは同じ治療で経過をみて、血糖測定の結果で微調整する。

 病室に患者さんを診に行った。その場での会話はできるが、通院していた医療機関を訊くと、住所(町の名前)は出てきたが、医院の名前は出てこなかった。インスリン自己注射は継続できるのだろうか。

 

 小児期や若い時の発症ではないそうだが、正確な発症年齢はわからない(30歳代?と訊いても?だった)。発症は急激でかなりの体重減少があったそうだ。入院した病院は覚えていて名前が出てきた(県内有数の市立病院)。

 1型のうちでは急性発症1型だと思われる。脳神経内科医が、患者さんが10年前?と言ったので、そんな年齢(50歳代)で発症するのか、と言っていた。 

 1型糖尿病は急性発症、劇症、緩徐進行型がある。急性発症1型糖尿病は当然小児期~若年期が多いが、中高年はどのくらいの%なのだろうか。これまで扱った中では、40歳代で発症した急性発症1型糖尿病が最高齢だった。

 

 

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夫の前立腺癌

2023年03月09日 | Weblog

 糖尿病・高血圧症で内科外来に通院している70歳女性は、数年前にうつ病になった。食欲不振・体重減少・気力低下が出現して、不眠症(入眠障害、中途覚醒)もあった。

 希望もあって入院した。特に膵癌などの悪性腫瘍も認めなかった。症状としてはうつ病と思われたので、入院当初から抗うつ薬(セルトラリン)を開始していた。

 少しずつ症状が軽減して、セルトラリン50mg/日で外来通院に戻った。市内の精神科病院への通院は希望しなかったので、そのまま診ていた。

 そのうち家族(娘)がいっしょに外来を受診して、専門の精神科病院に紹介してほしいと希望された。住居のある町の隣町にある病院がいいという。精神科病院への紹介は望むところなので、診療情報提供書を書いて紹介した。(家族による車での送り迎えが必要)

 

 外来を受診した時に、薬手帳を見せてもらって、病状を訊いていた。見たところはあまり変わりないようだが、セルトラリンが75mg/日に増量となっていた(睡眠薬としてブロチゾラム併用)。

 ご本人は精神科というのが引っかかるようで、通院は乗り気ではなかった。1年くらい通院したころに訊くと、もう行っていないと言われた。相変わらず不眠を訴えて、中止してもいいとは思えない。内服を嫌がったが、初期量のセルトラリン25mg/日は継続してもらうことにした(本当は増量したい)。

 この患者さんがうつ病になったきっかけは、夫の病気にあった。前立腺癌で当院泌尿器科に通院していたが、がんセンターに紹介になった時期に発症している。

 

 夫は7年前(2016年)に腰痛・下肢痛で市内の整形外科クリニックを受診した。腰部神経根症として、当院の放射線科に腰椎MRI検査を依頼された。検査の結果は、脊椎・骨盤への「転移性骨腫瘍」と診断された。

 当院外科外来に、転移性骨腫瘍の精査依頼で紹介された。外科医は腫瘍マーカーとして血清PSAを測定して、1936ng/mlと著明な上昇を認めた。(大抵は腫瘍マーカーを複数出すと思うが、PSAだけのピンポイント検査で当たり)

 胸腹部造影CT、骨シンチを予約して、泌尿器科外来に紹介した。(骨シンチは当時は施行できたが、その後は経済的な理由でシンチ検査そのものが中止)

 造影CTでは前立腺内に2個の結節が造影で描出された。腹部大動脈左近傍にリンパ節らしい腫瘤もあった。骨シンチでは肋骨・脊椎・骨盤に多発性転移巣を認める。

 CAB(combined androgen blockade:複合アンドロゲン遮断療法)が開始された。(抗アンドロゲン薬+LH-RHアナログ製剤)血清PSAは19ng/ml程度まで低下して症状も軽減していた。

 その後、ホルモン療法を工夫されていたが、2020年に腰痛・下肢痛の悪化があり、CRPC(castration-resistant prostate cancer:去勢抵抗性前立腺癌)としてがんセンター紹介となった。

 現在は、がんセンターよりも自宅に近い地域の基幹病院の泌尿器科に通院している。(当院の泌尿器科は非常勤のみとなった)どんな具合ですかと訊くと、夫は現在も農作業も行ってそれなりのADLを保っているそうだ。

 

 患者さん自身は、食欲低下があった時期にはDPP4阻害薬+メトホルミン少量でHbA1cが6.5%前後だったが、食欲が戻ってからは体重も戻り、+SGLT2阻害薬でもHbA1cが7.2~4%で推移している。

 

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小脳梗塞

2023年03月08日 | Weblog

 月曜日の当直は皮膚科医だった。当直終わりの火曜日の午前7時過ぎに、自宅で動けなくなったという86歳女性の救急搬入を受けていた。一通りの検査を行って、火曜日午前中の救急当番だった当方に、後はよろしくと連絡が来た。

 

 当院の整形外科で両側膝関節の人工関節置換術を受けていた。(現在は外科系手術自体ができないが、当時膝関節専門の整形外科医を招いての手術)。娘夫婦と同居していて、ふだんは室内はなんとか自力歩行できていたそうだ。

 市内のクリニックに通院していて、高血圧症・糖尿病・高脂血症・心房細動(DOACのリクシアナ)・心不全(アゾセミド・スピロノラクトン)で処方されている。(心房細動は心電図で確認した)

 

 前日は右膝が痛いと言って湿布をしていたが、それ以外は特に変わりがなかった。その日の午前5時半ごろに自室でうなっているのを娘の夫が気づいた。行ってみると、いざるようにしてトイレに行こうとして動いていたが、尿失禁していた。

 娘さんの話では、呂律が回らないようだという。意識は清明で会話は確かに少し呂律が回らないようにも聞こえる。ふだん接している人が言うのだからあるのだろう。

 両下肢の挙上と両手の挙上は稚拙だができる。運動失調はどうかというと(結果的にはあるはずだが)ふだんがわからないので、有りと決められない。

 右膝に熱感があり、軽度に腫脹もある。炎症反応の上昇があるが、胸部X線で肺炎像はなく、尿混濁もなかった。関節炎でのADL低下も考えられた。胸部CTでも肺炎はない。

 頭部CTで出血はなく、脳梗塞は指摘し難い。MRI担当の技師さんに訊くと、MRIは11時になら入れられるという。オンコールで入れて、臨時で入れた上部消化管内視鏡検査などを行ったり、施設入所者(退院1週間後)の発熱の対応をしていた。

 

 放射線科の技師さんから連絡が来て、頭部MRIで小脳梗塞を認めるという。画像を確認すると、左小脳に広範囲の梗塞があり、虫部と右小脳にも梗塞がある。右後頭葉にもラクナ梗塞様の小梗塞があった。FLAIRでも描出されていたので、昨夜就寝後には発症していたのだろう。

 MRAでは両側椎骨動脈~脳底動脈~両側後大脳動脈は描出されている(左後大脳動脈は狭窄あり)。小脳動脈はよくわからない。

 椎骨脳底動脈系への血栓塞栓症が疑われる。小脳梗塞として範囲が広いので、急性期は専門医に依頼することにした。地域の基幹病院脳神経内科に連絡すると、受けてくれたので救急搬送した。

 

 通常は急性期後に回復期リハビリ病棟で受ける。3月で脳神経内科が閉科になり、リハビリ病棟の運営も未定という事情がある。一般病棟で内科で受けるようになるかもしれない。

 

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Cぺプチドが低値

2023年03月07日 | Weblog

 2月27日に地域の基幹病院脳神経内科から当院回復期リハビリ病棟に、81歳女性が転院してきた。1月27日に発症(左片麻痺・半側空間無視)して救急搬入されていた。

 MRI・MRAで右中大脳動脈が途絶して同領域の脳梗塞を認めていた。(頭部CTでも低濃度を呈し始めていた)経鼻胃管からの経管栄養を開始していたが、その後嚥下訓練を行って、経口摂取が可能になっている。

 糖尿病・高血圧症・高脂血症で内科医院(糖尿病専門医)に通院していた。GLP1受容体作動薬(週1回製剤)・SU薬(グリメピリド1.5mg/日)・メトホルミン1000mg/日で、HbA1cが7.8%だった。

 

 先方では糖尿病科に血糖コントロールが依頼されて、インスリン強化療法を行っていた。ヒューマリンR3回と持効型(グラルギン)を使用していたが、まだ血糖は高かった。(ヒューマリンRを使用しているくらいで、まだ治療調整途中)

 担当の脳神経内科医から血糖コントロールを依頼されて、インスリンを調整することになった。(3月で当院の脳神経内科は閉科)経口血糖降下薬は処方されていなかったので、DPP4阻害薬とメトホルミンを追加して、先方のやり方で数日みてから変更することにした。

 2月初めにCペプチドと抗GAD抗体が検査されていた。Cペプチド(空腹時)は0.81ng/mlと低下していて、抗GAD抗体は陰性だった。Cペプチドが低いのは2型糖尿病で経過が長い患者さんとしての値かもしれないと思った。

 当院転院時の検査では、HbA1cが8.4%とむしろ上昇していた。Cペプチド(空腹時)も外注検査に提出したが、0.22ng/mlとさらに低下していた。<0.6ng/mlなので、完全にインスリン依存性になってしまう。Cペプチドは比較的安定した値を呈するはずだが、1か月の間隔でそんなに変わるのだろうか。

 ヒューマリンR皮下注は看護師さんの手間がかかるので、普通の超速効型(ヒューマログ)にして、持効型はトレシーバに変更した。(グラルギンBSだと効果が1日持たないのと、若干のピークをつくる。ランタスXRはトレシーバと同等だが、院内にはない。)

 経口血糖降下薬と持効型インスリン増量で調整して、超速効型は中止してBOT(経口血糖降下薬+持効型インスリン1回)にする予定だったが、難しいかもしれない。

 

 この患者さんは心電図は洞調律で心房細動はない。先方では脳梗塞の機序はアテローム血栓性の可能性が高いが、深部静脈血栓症があり、血栓増大を避けることを期待して抗凝固薬(DOAC)投与にしたそうだ。

 

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救急×緩和ケア

2023年03月06日 | Weblog

 CareNeTVで、癌に限らず、あらゆる疾患で求められる、患者さんや家族とのコミュニケーションについて講演されている。

 どこまで治療するかについては、共感的パターナリズム(Informed Assent)医療者が大部分の負担を背負う協働意思決定、がお勧めというのはとても参考になる。

 「このような場合は、こうするのが良いかと思いますが、いかがでしょうか」、と医療者側が選択の責任を引き受けた上で、家族の希望・意思を聞いて決定する、というのものだ。

 予後については、1)Trajectory(トラジェクトリー=軌跡)今現在、疾患の経過のどこにいるのか、2)Best Case Worst Caseシナリオ 一番良い経過だと…(Best)、一番悪い経過だと…(Worst)、私の経験ではおそらく…(Most likely)のような経過になりそうです、を提示する。

 

CarerNeTV

ケアネットライブGT
第6回救急×緩和ケア どこまで治療する?の考え方・伝え方
飯塚病院緩和ケア科 
石上雄一郎先生

患者・家族の気持
 患者
 ・できるだけのことはして欲しい、治るなら治療はやって欲しい                           ⇒しかし、植物状態にはなりたくない、延命はして欲しくない、最後は辛くないようにして欲しい                                                        
 家族
 ・長生きして欲しい⇒しかし、治らないならそこまで辛い治療はしないでいい
 ●患者・家族もCureとCareの両方を望んでいる

 

🔷緩和ケアとは 
 
急性期のSerious illnessも例外ではない
 緩和ケアとは、生命を脅かす病に関連する問題に直面している患者とその家族のQOLを、痛みや身体的・心理社会的・スピリチュアルな問題を曽木に見出し的確に評価を行い対応することで苦痛を予防し和らげることを通して向上させるアプローチである
症状緩和患者家族のQOL向上
    緩和ケアの定義(WHO 2002年)

緩和ケア科の仕事
 ・症状緩和
 ・コミュニケーション
 ・社会資源の調整
  ⇒患者・家族のQOL向上

 慢性期・急性期・終末期は連続している
 ここからは終末期、ここからはICUなど分断することは不可能

以前の緩和ケアの概念
 疾患の治療➡緩和ケア
 終末期にホスピスでがん患者をお看取りするイメージ                                    

現在の緩和ケアの概念
 急性期でも場所を問わず(ER/ICUも)がん以外の患者にも緩和ケアを提供

基本的緩和ケアと専門的緩和ケア
●基本的緩和ケア
・身体的苦痛の緩和
・心理・社会的苦痛の緩和
・予後の共有
・ケアのゴールの話し合い
・コードステータスの話し合い
●専門的緩和ケア
・難治性身体苦痛の緩和
・複雑性の高い心理的苦痛の緩和
・グリーフケア
・スピリチュアルペインの緩和
・コンフリクトマネジメント
・無益性の議論のアドバイス


🔷どこまで治療をするべきか?

どこまで治療をすればいいのだろう?
どのように話せばいいのだろう?

コミュニケーションは手術に似ている
NEJMの手技のビデオ集
 「家族面談の仕方」もとりあげられている

コミュニケーションも準備が8割
①適応(面談の目的)
 家族面談前に医療チームで集まり面談の目的を共有する
 予後と提案する手技について確認する
②必要となる物品
 面談中の役割を決める
 ティッシュ、静かな部屋
③禁忌/注意を要する状態
 家族のアセスメント・家族関係をあらかじめ共有する
④合併症とその対応
 感情的な対応。落とし所を考えておく

コミュニケーションは手技(スキル)である
生まれつき(センス)ではなく準備と練習と振り返りをすれば上達する

どこまで治療をするべきか?
 ケアのゴールの話し合い(3 stage protocol)

こんな聞き方を聞いたことはありませんか?
・全ての治療をしてほしいですか?
・ご家族はできるだけの治療を希望されますが?
・延命治療を希望されますか?
・1分1秒でも頑張りたいと思われますか?
・少しでも長生きしたいですか?
 
○○を希望しますか?”Want”で聞いてはいけない

ケアのゴール(Goal of care)が決まってから
どんな治療をする(Procedure)が決まる

”want ○○を希望しますか?”と聞いてはいけない
 ”もし○○さんが今のお話しを聞いているとしたら、○○さんはこの状況について何と言われるでしょうか?”
 ”○○さんはこの状況についてどう思われるでしょうか?”
 ”希望する”ではなく””言う””考える””思う”を使う
 家族は本人の価値観を考えて
 患者さんの過去の言葉やどんな経験をしてきたかについて語ることができる

Three-Stage Protocol
 Stage1 医学知識を共有する
 Stage2 ケアのゴールを明確にする
 Stage3 治療の選択肢を話し合う

Stage 1:医学知識を共有する
 スタートラインに立つ
(認識のgapを埋める)
   ↓
Stage 2:ケアのゴールを明確にする
 行き先を決める
(患者の価値観を探る)
   ↓
Stage 3:治療の選択肢を話し合う
 行き先を考える
(治療方針を決める)

Stage 1:医学知識を共有する
1.事前準備
2.Invitation(招待する)
3.医学的状況を簡潔に伝える
4.予後を共有する
5.感情表出を予想し、それに対応する

なぜ感情に対応することが必要?

コミュニケーション=情報と感情のやりとり
・相手が説明をどのように受け取ったかがコミュニケーションの成否を決める
・情報を渡しただけでは一方通行
・相手の感情にも配慮して双方向性を意識

コミュニケーション=情報と感情のやりとり
・医師はEmotional data(感情データ)を無視しがち
・患者の感情が適切に対処され感情の嵐が過ぎ去ってはじめて情報(認知データ)が頭に入る
・適切に情報を伝えるために感情の対応が必要

より良い意思決定のため感情への対応は不可欠

Stage 2:ケアのゴールを明確にする
1.患者や家族の価値観、目標、子のみ、気がかりを引き出す
・「何が一番大切ですか?」「どんなことが一番心配or不安ですか?」
・「もし患者さんがこの話を聞いていたら、なんて言うと思いますか?」
2.ケアのゴールを設定する
・お話を伺うとあなたにとって、○○が最も大切なことのように思います。いかがですか?」

Stage 3:治療の選択肢を話し合う
 1.治療介入の選択肢のメリット、デメリットを比べる
 ・※Yes/Noの形で質問しない!
 ・例)「心肺蘇生を希望しますか?」「化学療法を希望しますか」
 2.ケアのゴールの内容に基づいて、おすすめを提案する
 ・「あなたの○○したいという意向を踏まえると、心肺停止時の蘇生行為や化学療法はお勧めしません」

~大原則~
 Stageを1つずつクリアしていくべし!

うまくいかない時は
ステージがクリアされてない
 Stage 1 病状認識(予後)がずれている
  Bad news×(伝わっていない)
  感情の対応が×
 Stage 2 価値観が明確じゃない
 本人-家族の意見の対立 
 家族に伝えていない
 Stage  3 判断を求める
 Stage2を飛ばす
 医療者間の意見の対立

患者家族に方針を決めてもらわなくていいの?

3種類の意思決定 これまで
 1.パターナリズム
  =過去の経験や最新の知見に基づき、医療者が意思決定する
 2.Informed Consentインフォームドコンセント
 =医療者が患者に選択肢・情報を提示し、患者が自己責任で意思決定する
 3.Shared Decision Making(SDM)共同意思決定
 =医療者からの情報と共に患者からの情報を含めて患者のニーズに基づき話し合いを重ねて医療者と患者が協働で意思決定する

心停止時にCPRをするかどうかを聞くとき
医師:心臓が止まった時に心臓マッサージをいうのがあるんですが
家族:聞いたことがあります。それでよくなるんですか?やった方がいいんですか?
医師:心臓マッサージをすうると肋骨が折れて、植物状態になって、最悪退院できなくなるんんです。子家族がどうしてもというならやりますが、それでいいですか?
家族:できるならやってください。後悔したくないです。私は決めきれません。
医師:え?やるんですか?!あれだけ説明したのに家族がやって欲しいって。理解が悪い家族だなあ。家族が決めきれないんで仕方ない。本人のためにはならないけどやるしかないでしょ。
家族:家族を殺すことはできない。やらなかったら死ぬんでしょ?
患者側にとって負担が大きい。

共感的パターナリズム(Informed Assent)がおすすめ
 医療者が大部分の負担を背負う協働意思決定
 ○○さんのお気持ちを聞いていると○○な治療が一番い良いと思いますがいかがでしょうか?
 (じゃあそれで…)そうさせてもらいますね
 この状況だと○○をしない範囲での治療が一番○○さんのとって良いと思います
 本人の負担のならないような治療は続けます
 辛くないように最大限サポートさせていただきます

そんなゆったり話してる時間ないよ!

例)90歳代女性が重症肺炎で救急搬入
 挿管するかどうかの話し方
Stage 1
・何を知っているか尋ねる
「こんにちは。私は医師の○○です。こんな形でのご挨拶で失礼します。今日患者さんの何が起こったか聞いていますか?びっくりされましたようね。」
・悪いニュースを伝える
「Warning out:あまりいいお話しではありませんが今の状況をお話しさせてもらってもよろしいでしょうか。」
「Headline:△△さんは重症の肺炎で呼吸が苦しい状態です。このまま亡くなる可能性を心配しています。(2分ルール)
・緊急で話す準備をする
「私たちは彼女のケアのために早急に一番いい治療を一緒に決めないといけません。」
・元々の身体機能ADLを確認する
「一番△△さんにとっていい治療を考える上で△△さんのことをもって知る必要があります。この病気になる前はどういう風に生活されていましたか?(ADL/認知機能/症状/日常生活支援)
Stage 2
・患者の価値観、ケアのゴールを探る(Explore)
「<事前指示書がある場合>前回入院時に本人さんは挿管しないと死んでしまう状況でもそうかはしたくないと言っていたようです。今も同じ事を言うと思いますか?」
「<事前指示書がない時>お間までの延命治療のことを考えたことや話あったことはありますか?周りでそういう人がいたとか。この治療はしたくない・こんな状態なら生きていたくないなど話し合ったことはありますか?」
「△△さんが仮にこの話を聞いたらどうおっしゃると思いますか?」
・要約する
「お話しをお聞きしていると○○が大切で○○のような状態は避けたいと考えてらっしゃるように感じましたがいかがでしょうか?」
Stage 3
・おすすめを提示する(Recommend)
「私たちは△△さんがこの病気から回復するためにできることは最大限やっていきます。△△さんのとって治療は○○が一番大事だと思われます。私たちは○○はしますが○○はしない範囲で治療したいと思います。」

とはいえ予後は不確実
現場でどう対応するか?

 

🔷予後が不確実な中でどうするか?
1. Trajectory
2 .Best Case Worst Caseシナリオ

1. Trajectory
予後予測にはTrajectoryを使用する
機能予後を考える

Trajectoryトラジェクトリー(軌跡)
病気の進み方にもパターンがある
図を書くことで病状説明に使える
 
予後予測:がんの病状の進み方
 寸前まで元気
 1-3か月(短い月単位)で、食事が減る・病院へ通えない・風呂に入れない・食事がとれない・トイレに行けない・動けない・寝ている時間が多い・混乱することあり・死亡

予後予測
 Trajectoryのどこにいるか?
 予後を規定するメインの病気は
 何かを考える
 ・突然死(急変)
 ・悪性腫瘍(途中から悪化)
 ・臓器不全(徐々に悪化)
 ・認知症(緩やかに悪化)

患者・家族と医療者は認識のギャップがあるかもしれない
”心の準備” 
 悪性腫瘍
  急な変化でびっくり、何も準備してない
 臓器不全
  入院したら良くなる大丈夫
 認知症
  毎回死ぬかもって言われるけど大丈夫

Stage1病気の状況 2種類の予後
・生命予後
 あとどのくらい生きられるか
・機能予後
 今後どんな生活になるのか?
 ADL・認知機能・症状・日常生活支援
 予後を知ることで優先順位・選択が変わる

とはいえ予後は不確実
手術してみないとわかりませんはダメ

病状説明の時に具体的な数字・%は使わない
 ①90%の死亡率
 →10%は完全元通りでいつもの生活に戻ると錯覚
 ②手術の死亡率は50%です
 →手術中の死亡率が50%と錯覚する
  手術後のICU死亡を患者家族は想定していない
 ③感情的な状況では確率を無視し解釈してしまう
  1%でもいいからその可能性にかけたい
 →1人の命を救うために99人失敗する

家族は予後を楽観的に捉えたい
 楽観的に捉えてしまう理由
 ①医師は患者の強みを知らないと信じる
  教科書と違う
  私は患者の強さを知っている
 ②家族は患者のため希望を持ち続けなけれなならない
 ③医者が悲観的な性格であると考える

2. Best Case Worst Caseシナリオ

 Hope for the Best
 Prepare for the Worst

I wish- I worry希望と心配を伝える
患者さんの希望に沿い(I wish)
心配していることを伝える(I worry)

もちろん(気持ちとしてはご家族さんと同じで)治療がうまくいくことが一番でそうなってくれたらいいなと思っています同時に、(一方で)うまくいかなかった時に、患者さんご家族さんがこんなはずじゃなかったと後悔しないか心配しています(医師としては最悪のことも考えておかなければなりません)

正確な予測は難しいですが
一番良い経過だと…(Best)
一番悪い経過だと…(Worst)
私の経験では
おそらく…(Most likely)
のような経過になりそうです

ベストケースワーストケースシナリオ(BC/WC)
 確率ではなく
 シナリオプランニングをうまく使う

手技をするか迷った時
頭の整理と病状説明に使える!

Best Case/Worst Caseシナリオ
 Best Case(BC):治療が上手くいくとどうなるか
 Most Likely:最も予想されるコース
 Worst Case(WC):治療が上手くいかない時どうなるか
患者がどのような体験をするかエビデンスと経験に基づいて
ベストケース、ワーストケース、最も予測されるコースのStory

~Storyに盛り込むできこと~
状況は良いかor悪いか?
・入院期間
・手術や大きな治療の必要性
・認知機能・身体機能の回復具合
・医療依存度(透析/人工呼吸)
・介護サービス(リハビリ)
・長期的な療養場所
・どんな最期になるのか?

Best Case/Worst Caseシナリオ
 ○○は手術・透析・人工栄養など

○○する
・Best Case
 ○○して全て順調な時の最善のStory
・Most Likely
 ○○した時の最も予想されるStory
・Worst Case
 ○○したがよくない時の差悪のStory
 
○○しない
・Best Case
 ○○しなかったが順調な時の最善のStory
・Most Case
 ○○しない時の最も予想されるStory
・Worst Case
 ○○しない時の最悪のStory

例)
手術する
・Best Case
 長時間の手術、術後ICU1-3週、リハビリに数か月、施設に行く
・Most Likely
 元の様に歩けない、車いす、術後ICU2-6週、気管切開必要
・Worst Case
 長時間の手術、術後ICUで合併症、人工呼吸器・透析、ICUで死亡、最後家族と話せない

手術しない
・Best Case
 痛みコントロール、自宅に帰れる、話すことは可能、楽しみ程度の食事
・Most Likely
 痛みコントロール、話すことは可能、退院する前に悪化
・Worst Case
 非常に短い予後、日単位で亡くなる、家族付き添い可
患者の価値観・好み
 話すことが好き。管にはつながれたくない。

例)
透析する
・Best Case
 週3回透析、年単位で生きる、症状は楽
・Most Likely
 週3回透析、時々入院、脳梗塞などきつい人もいる
・Worst Case
 透析の合併症、心筋梗塞・腸管壊死などで病院で死亡

透析しない
・Best Case
 予後は長い月~年単位、外来通う、食事は制限
・Most Likely
 予後は週~月単位、家に帰れる。食事の制限は緩め、症状は薬で抑えるが全ては取れない
・Worst Case
 予後は週単位、混乱したりかゆみが出る。病院で突然死ぬ。
患者の価値観・好み
 毎年行ってた旅行に行くたい。透析をして症状が楽になるならやりたい。

CureとCareの両立を目指す
救急:Cure sometimes
緩和:Treat often  Comfort always

 

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薬剤性低ナトリウム血症(SIADH)

2023年03月05日 | Weblog

 自治医大出身の若い先生の、内科専門医の症例を評価している(J-OSLER)。所属は医療センターだが、勤務している病院の指導医(8年目の先生なので、実際のところ当方はただの同僚)が評価するようになる。

 自治医大卒業生同志が結婚しているので、それぞれの所属県で半分ずつ義務年限を過ごす。配偶者の出身県では総合診療専門医のコースしかとれないそうで、当県に来てから内科専門医のコースを行っている。総合診療専門医の時の症例も使えるので、当院での症例と混じっている。

 

 症例の中に、高齢者でSSRIによる薬剤性低ナトリウム血症(SIADH)があった。血清ナトリウムが110台まで低下して意識障害などを呈したが、原因薬剤中止と輸液で改善したとある。 

 SIADHの原因として、薬剤性の中に確かにSSRIは記載されているが、あまり意識していなかった。というか、薬剤性SIADH自体をあまり意識していなかった。

 普段はループ利尿薬の影響とか、輸液成分くらいしか意識していない。血清ナトリウムが130前後だと見逃しているかもしれない。今後は薬剤性SIADHの可能性を考慮することにしよう。(診断の手引きの検査所見を、全部検査したりはしないが)

 

 下記の原因薬物の表だけだとピンとこないが、SSRIもSNRIも全部SIADHの原因になり、副作用の項目に記載されている。

 また三環系抗うつ薬(トリプタノールなど)、抗精神薬(フェノチアジン系のクロルプロマジン、ブチロフェノン系のハロペリドールなど)、抗てんかん薬(カルバマゼピン、バルプロ酸など)もSIADHの原因になる。

 

 

バソプレシン分泌過剰症(SIADH)の原因
  中枢神経系疾患
              髄膜炎
              脳炎
              頭部外傷
              くも膜下出血
              脳梗塞・脳出血
              脳腫瘍
              ギラン・バレー症候群
  肺疾患
              肺腫瘍
              肺炎
              肺結核
              肺アスペルギルス症
              気管支喘息
              陽圧呼吸
  異所性バソプレシン産生腫瘍
              肺小細胞癌
              膵癌
  薬剤
              ビンクリスチン
              クロフィブレート
              カルバマゼピン
              アミトリプチン
              イミプラミン
              SSRI

 

バソプレシン分泌過剰症(SIADH)の診断の手引き
I.主症候
 脱水の所見を認めない
II.検査所見
 1.血清ナトリウム濃度は 135 mEq/l を下回る
 2.血漿浸透圧は 280 mOsm/kg を下回る
 3.低ナトリウム血症、低浸透圧血症にもかかわらず、血漿バソプレシン濃度が抑制されていない
 4.尿浸透圧は 100 mOsm/kg を上回る
 5.尿中ナトリウム濃度は 20 mEq/l 以上である
 6.腎機能正常
 7.副腎皮質機能正常
III.参考所見
 1.倦怠感、食欲低下、意識障害などの低ナトリウム血症の症状を呈することがある。
 2.原疾患(表 1)の診断が確定していることが診断上の参考となる。
 3.血漿レニン活性は 5 ng/ml/h 以下であることが多い。
 4.血清尿酸値は 5 mg/dl 以下であることが多い。
 5.水分摂取を制限すると脱水が進行することなく低ナトリウム血症が改善する。
IV.鑑別診断
 低ナトリウム血症を来す次のものを除外する。
 1.細胞外液量の過剰な低ナトリウム血症:心不全、肝硬変の腹水貯留時、ネフローゼ症候群
 2.ナトリウム漏出が著明な細胞外液量の減少する低ナトリウム血症:原発性副腎皮質機能低下症、
塩類喪失性腎症、中枢性塩類喪失症候群、下痢、嘔吐、利尿剤の使用
 3.細胞外液量のほぼ正常な低ナトリウム血症:続発性副腎皮質機能低下症(下垂体前葉機能低下症)
[診断基準]
 確実例:I および II のすべてを満たすもの。

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総胆管結石でした

2023年03月04日 | Weblog

 高血圧症・脂質異常症で通院している89歳女性は、軽度の脂肪肝と胆嚢結石(小結石)もあった。ALTとγ-GTPが軽度に上昇している。

 地域医療連携室から、この患者さんが消化器センターのある専門病院で治療を受けて、3月の予約日に診療情報提供書を持って受診する、と報告があった。

 2月14日に前夜からの腹痛で救急外来を受診して、他の内科の先生が診察していた。血液検査で炎症反応の上昇・肝機能障害の悪化(AST・ALT200前後で・γ-GTP1530・総ビリルビン3.5)があり、さらに血清アミラーゼも上昇していた。

 腹部単純CTで総胆管末端に結石があり、胆道系の拡張を呈していた。

 地域の基幹病院消化器内科は受け入れ困難で、遠方になるが消化器センターのある専門病院に搬送していた。内視鏡処置が必要な患者さんに関しては受けていただける。

 診療情報提供書に内視鏡検査・処置の結果が入っていた。十二指腸到達2分、総胆管への挿入1分とあり、砕石と摘出まで30分で終了していた。見事なものだ。

 

 12月の採血の結果を見返すと、いつもよりALTとγ-GTPが少し上がっていた。腹痛などの症状はなかったが、腹部エコーやCTで確認すれば、総胆管内に結石があったのだろう。その時画像検査をしていれば、結石が嵌頓する前に診断できた。(処置の対象にならない?)

 

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98歳の心不全

2023年03月03日 | Weblog

 1月末に98歳女性が新型コロナウイルス感染症(COVID-19)で当院感染病棟に入院していた。

 地域の基幹病院循環器内科に通院していた。心不全で入退院を繰り返していたそうだ。胸部CTでコロナとしても肺炎ははっきりしなかったが、胸水貯留を軽度に認めた。

 コロナそれ自体としてはあまり問題なさそうだったが、心不全も悪化が危惧された。入院時から血圧が70~90mmHgと低めで推移した。循環器内科からは、Ca拮抗薬(ベニジピンとベラパミル)、ARB(カンデサルタン)、利尿薬(アゾセミド60mg)が処方されていた。

 ベニジピンを休止したが、血圧は低く、カンデサルタンも休止した(後で減量で再開)。ベラパミルも減量したが(3錠から2錠/日へ)、洞調律から心房細動になって戻した。

 心房細動が続き、抗凝固薬(慢性腎臓病もありワーファリン)を開始して、1.5mg/日でいい感じのPT-INRになった。ベラパミルが処方されてので、発作性心房細動があったようだが、抗凝固薬は処方されていなかった。

 なんとか隔離期間を過ぎて、自宅退院になった。処方を調整したことを診療情報提供書に記載して、次回受診時に持参してもらうことにした。

 

 その後、救急隊(隣の隣の町)からこの患者さんの搬入依頼が来た。急に呼吸困難を訴えて、要請があったという。コロナは治癒しており、循環器内科に通院しているので、そちらに依頼して下さいと伝えた。

 すると、もう基幹病院には連絡していて、受け入れできなかったという。コロナになったばかりということが引っかかったのか、入院ベットがないということかわからない。

 まず心不全の悪化だが、98歳だと遠方の循環器専門病院へ当たって下さいとも言い難い。当院に来てもらうことにした。

 画像では肺水腫・うっ血、胸水貯留があって、心不全の悪化で間違いなかった。ただ心電図は心房細動に加えて、それまでなかった完全左脚ブロックになっていた。ST-T変化が判読し難い。

 BNP5799.8は予想を大きく上回ったが、想定はできた。トロポニンIが22722.0と著明に上昇していた。CK(-MB)・AST・LDHの心原性酵素も上昇している。急性心筋梗塞を発症した可能性がある。

 家族と相談したが、当院でできる範囲でということで、そのまま診ることにした(病状悪化時はDNAR)。フロセミド静注とフロセミド点滴静注を行った。血圧は80~90mmHg台を保ったので(その後90~100mmHg)、ドブタミンは投与しないで経過をみた。

 初日に十分な尿量が出たが、2日目3日は思ったほどでなくて心配したが、その後は尿量が確保できた。胸部X線で胸水はまだあるが減少して、浮腫もとれて皺が見られるようになった。

 心エコーで診てもらうと、左室全体がhypokinesisで、EF(Ejection fraction)は正確には出せないが25%程度となっていた。以前の状態がわからないが、三枝のどれかが閉塞したのではなく、全体的に心筋障害が起きたのだろうか。

 今のところ、古典的な治療(年齢に合っている?)でもなんとかなりそうだが、専門病院だとどういう最新の治療になるのだろうか。

 

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アルツハイマー病の治療薬

2023年03月02日 | Weblog

 「ゼロから始める認知症診療」(文光堂)川上忠孝著を読み返した。一般医が認知症の本を一冊だけ持つとしたらこの本がいいと思う。(同著者の「ゼロから始めるパーキンソン病診療」もわかりやすい)

 認知症とは、認知症の病型診断、認知症の治療、認知症の合併疾患、さらには認知症と社会資源(主治医意見書の書き方)までわかりやすく書かれている。(認知症の画像は別の本で補う)

ゼロから始める 認知症診療

 

 アルツハイマー病の治療薬は、コリンエステラーゼ阻害薬(ドネペジル、リバスチグミン、ガランタミン)とNMDA受容体阻害薬(メマンチン)がある。

 

 ①コリンエステラーゼ阻害薬

 アルツハイマー病では脳内アセチルコリン系ニューロンの減少が認知症の主たる原因の一つとされるが(コリン仮説)、アセチルコリン自体を補充するという治療法はない。代わりにコリンエステラーゼ阻害薬で、脳内アセチルコリンの分解を抑制して、アセチルコリン量を増加させたのと同様の効果を期待する。

 ドネペジル(アリセプトⓇ)

 最高血中濃度到達時間(Tmax)は3.0時間、血中半減期(T1/2)は90時間(4日間)で2週間で定常状態になる。血中半減期がかなり長く、副作用発現時に中止しても効果が切れるまでしばらく時間がかかる。

 3mg/日(3mg錠1錠分1)から投与開始。1~2週後に5mg(5mg錠1錠分1)に増量。高度アルツハイマー病に対しては10mg/日(10mg錠1錠分1)まで増量可能。

 効果は「落ち込んでいる・意欲低下」の状態から引き上げるようなイメージ。抑うつ・無為・不安に対して効果がある。気分が高揚したり、興奮しやすくなったりすることも(減量~中止も考慮)。

 副作用は、下痢、嘔気・嘔吐などの胃腸症状、イライラ・不穏などの精神症状。出現率は1%前後のまれだが、高度徐脈を呈することも(経験あり、中止で軽快)。

 リバスチグミン(イクセロンⓇパッチ、リバスタッチⓇパッチ)

 アセチルコリンエステラーゼの阻害作用に加えて、ブチルコリンエステラーゼの阻害作用もある。ドネペジルよりも効果が大きい可能性があるが、ブチルコリンエステラーゼと認知症の関連はよくわかっていない。

 最高血中濃度到達時間(Tmax)は8時間、血中半減期(T1/2)は3.3時間とかなり短いが、貼付剤なので1日1回貼付で長時間にわたり経皮的に吸入する。

 適応は軽度~中等度のアルツハイマー病(重度を除く)。4.5mg/日1日1回から開始して、4週ごとに9mg/日→13.5mg/日→18mg/日に増量。早めの増量を行いたい症例に対しては、9mg/日で開始して4週後に18mg/日へ増量、も許可された。

 効果は、食欲低下に対しても効果があり、意欲低下+食欲低下が目立つ症例で試してみる。

 副作用は、下痢、嘔気・嘔吐。剥がせば、比較的速やかに副作用は軽減~消失。局所症状としての皮膚発赤がしばしば目立つので、剥離した部位と翌日貼る予定の部位に保湿剤(ヒルドイド)を塗布する。

 ガランタミン(レミニールⓇ)

 アセチルコリンエステラーゼ阻害作用に加えて、ニコチン性アセチルコリン受容体に結合してアセチルコリンに対する受容体の感受性を高める。

 最高血中濃度到達時間(Tmax)は1.0~1.5時間、血中半減期(T1/2)は8.0~9.43時間で、半減期が比較的短いため1日2回投与。

 ガランタミンは意欲低下などの陰性BPSDに加え、易興奮性などの陽性BPSDにも同時に効果が期待できる。「普段は何もせずボーッとしてばかりだけど、ちょっと何か言うと急に怒り出してしまう」ような症例が適応として合う。

 8mg/日(1回4mg1日2回)から開始して、4週後に16mg/日に増量。症状に応じて24mg/日まで増量可。(4mg錠、8㎎錠、6mg錠がある)

 

 ②NMDA受容体作動薬

 アルツハイマー病では異常なグルタミン酸放出による神経細胞へのノイズが認知機能障害の原因と考えられている(グルタミン仮説)。グルタミン酸による過剰な神経細胞への刺激を抑制し、認知症の諸症状を改善する。

 メマンチン(メマリーⓇ)

 中等症~高度アルツハイマー病が適応。コリンエステラーゼ阻害薬との併用ができる。(コリンエステラーゼ阻害薬で副作用が出たため中止した症例では単独投与されることはある。著者の経験として、軽度アルツハイマー病でも、陽性BPSDが目立つ時には単独投与を行うことはありえる。)

 陽性BPSD(易興奮性、暴言、徘徊など)に対する効果が期待できる。症例により過鎮静になることもあり、減量を考慮する。

 1日1回5mgから開始、1週間に5mgずつ増量。維持量は20mg/日。(5mg錠、10mg錠、20mg錠がある)高齢者で腎機能障害(Ccr<30)があるときは10mg/日で維持。必ずしも朝食後に投与する必要はない。(日中は陰性BPSD、夜は陽性BPSDのときは、朝にドネペジル、夕にメマンチン投与

 血中半減期(T1/2)は55.3~71.3時間と比較的長い。投与量によっては過鎮静だけでなく、めまい・ふらつき、眠気、食欲不振が出現する。

 

 使用しているのは、ドネペジルとメマンチンが主で、メマンチン単独投与もある。ガランタミンは1例しか使用したことがない。リバスチグミンは投与されている患者さんの入院時に継続使用(持ち込み分)で継続したくらい。(院内にはドネペジルとメマンチンしかない)

 

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