CareNeTVで、癌に限らず、あらゆる疾患で求められる、患者さんや家族とのコミュニケーションについて講演されている。
どこまで治療するかについては、共感的パターナリズム(Informed Assent)=医療者が大部分の負担を背負う協働意思決定、がお勧めというのはとても参考になる。
「このような場合は、こうするのが良いかと思いますが、いかがでしょうか」、と医療者側が選択の責任を引き受けた上で、家族の希望・意思を聞いて決定する、というのものだ。
予後については、1)Trajectory(トラジェクトリー=軌跡)今現在、疾患の経過のどこにいるのか、2)Best Case Worst Caseシナリオ 一番良い経過だと…(Best)、一番悪い経過だと…(Worst)、私の経験ではおそらく…(Most likely)のような経過になりそうです、を提示する。
CarerNeTV
ケアネットライブGT
第6回救急×緩和ケア どこまで治療する?の考え方・伝え方
飯塚病院緩和ケア科
石上雄一郎先生
患者・家族の気持
患者
・できるだけのことはして欲しい、治るなら治療はやって欲しい ⇒しかし、植物状態にはなりたくない、延命はして欲しくない、最後は辛くないようにして欲しい
家族
・長生きして欲しい⇒しかし、治らないならそこまで辛い治療はしないでいい
●患者・家族もCureとCareの両方を望んでいる
🔷緩和ケアとは
急性期のSerious illnessも例外ではない
緩和ケアとは、生命を脅かす病に関連する問題に直面している患者とその家族のQOLを、痛みや身体的・心理社会的・スピリチュアルな問題を曽木に見出し的確に評価を行い対応することで苦痛を予防し和らげることを通して向上させるアプローチである
⇒症状緩和+患者家族のQOL向上
緩和ケアの定義(WHO 2002年)
緩和ケア科の仕事
・症状緩和
・コミュニケーション
・社会資源の調整
⇒患者・家族のQOL向上
慢性期・急性期・終末期は連続している
ここからは終末期、ここからはICUなど分断することは不可能
以前の緩和ケアの概念
疾患の治療➡緩和ケア
終末期にホスピスでがん患者をお看取りするイメージ
現在の緩和ケアの概念
急性期でも場所を問わず(ER/ICUも)がん以外の患者にも緩和ケアを提供
基本的緩和ケアと専門的緩和ケア
●基本的緩和ケア
・身体的苦痛の緩和
・心理・社会的苦痛の緩和
・予後の共有
・ケアのゴールの話し合い
・コードステータスの話し合い
●専門的緩和ケア
・難治性身体苦痛の緩和
・複雑性の高い心理的苦痛の緩和
・グリーフケア
・スピリチュアルペインの緩和
・コンフリクトマネジメント
・無益性の議論のアドバイス
🔷どこまで治療をするべきか?
どこまで治療をすればいいのだろう?
どのように話せばいいのだろう?
コミュニケーションは手術に似ている
NEJMの手技のビデオ集
「家族面談の仕方」もとりあげられている
コミュニケーションも準備が8割
①適応(面談の目的)
家族面談前に医療チームで集まり面談の目的を共有する
予後と提案する手技について確認する
②必要となる物品
面談中の役割を決める
ティッシュ、静かな部屋
③禁忌/注意を要する状態
家族のアセスメント・家族関係をあらかじめ共有する
④合併症とその対応
感情的な対応。落とし所を考えておく
コミュニケーションは手技(スキル)である
生まれつき(センス)ではなく準備と練習と振り返りをすれば上達する
どこまで治療をするべきか?
ケアのゴールの話し合い(3 stage protocol)
こんな聞き方を聞いたことはありませんか?
・全ての治療をしてほしいですか?
・ご家族はできるだけの治療を希望されますが?
・延命治療を希望されますか?
・1分1秒でも頑張りたいと思われますか?
・少しでも長生きしたいですか?
○○を希望しますか?”Want”で聞いてはいけない
ケアのゴール(Goal of care)が決まってから
どんな治療をする(Procedure)が決まる
”want ○○を希望しますか?”と聞いてはいけない
”もし○○さんが今のお話しを聞いているとしたら、○○さんはこの状況について何と言われるでしょうか?”
”○○さんはこの状況についてどう思われるでしょうか?”
”希望する”ではなく””言う””考える””思う”を使う
家族は本人の価値観を考えて
患者さんの過去の言葉やどんな経験をしてきたかについて語ることができる
Three-Stage Protocol
Stage1 医学知識を共有する
Stage2 ケアのゴールを明確にする
Stage3 治療の選択肢を話し合う
Stage 1:医学知識を共有する
スタートラインに立つ
(認識のgapを埋める)
↓
Stage 2:ケアのゴールを明確にする
行き先を決める
(患者の価値観を探る)
↓
Stage 3:治療の選択肢を話し合う
行き先を考える
(治療方針を決める)
Stage 1:医学知識を共有する
1.事前準備
2.Invitation(招待する)
3.医学的状況を簡潔に伝える
4.予後を共有する
5.感情表出を予想し、それに対応する
なぜ感情に対応することが必要?
コミュニケーション=情報と感情のやりとり
・相手が説明をどのように受け取ったかがコミュニケーションの成否を決める
・情報を渡しただけでは一方通行
・相手の感情にも配慮して双方向性を意識
コミュニケーション=情報と感情のやりとり
・医師はEmotional data(感情データ)を無視しがち
・患者の感情が適切に対処され感情の嵐が過ぎ去ってはじめて情報(認知データ)が頭に入る
・適切に情報を伝えるために感情の対応が必要
より良い意思決定のため感情への対応は不可欠
Stage 2:ケアのゴールを明確にする
1.患者や家族の価値観、目標、子のみ、気がかりを引き出す
・「何が一番大切ですか?」「どんなことが一番心配or不安ですか?」
・「もし患者さんがこの話を聞いていたら、なんて言うと思いますか?」
2.ケアのゴールを設定する
・お話を伺うとあなたにとって、○○が最も大切なことのように思います。いかがですか?」
Stage 3:治療の選択肢を話し合う
1.治療介入の選択肢のメリット、デメリットを比べる
・※Yes/Noの形で質問しない!
・例)「心肺蘇生を希望しますか?」「化学療法を希望しますか」
2.ケアのゴールの内容に基づいて、おすすめを提案する
・「あなたの○○したいという意向を踏まえると、心肺停止時の蘇生行為や化学療法はお勧めしません」
~大原則~
Stageを1つずつクリアしていくべし!
うまくいかない時は
ステージがクリアされてない
Stage 1 病状認識(予後)がずれている
Bad news×(伝わっていない)
感情の対応が×
Stage 2 価値観が明確じゃない
本人-家族の意見の対立
家族に伝えていない
Stage 3 判断を求める
Stage2を飛ばす
医療者間の意見の対立
患者家族に方針を決めてもらわなくていいの?
3種類の意思決定 これまで
1.パターナリズム
=過去の経験や最新の知見に基づき、医療者が意思決定する
2.Informed Consentインフォームドコンセント
=医療者が患者に選択肢・情報を提示し、患者が自己責任で意思決定する
3.Shared Decision Making(SDM)共同意思決定
=医療者からの情報と共に患者からの情報を含めて患者のニーズに基づき話し合いを重ねて医療者と患者が協働で意思決定する
心停止時にCPRをするかどうかを聞くとき
医師:心臓が止まった時に心臓マッサージをいうのがあるんですが
家族:聞いたことがあります。それでよくなるんですか?やった方がいいんですか?
医師:心臓マッサージをすうると肋骨が折れて、植物状態になって、最悪退院できなくなるんんです。子家族がどうしてもというならやりますが、それでいいですか?
家族:できるならやってください。後悔したくないです。私は決めきれません。
医師:え?やるんですか?!あれだけ説明したのに家族がやって欲しいって。理解が悪い家族だなあ。家族が決めきれないんで仕方ない。本人のためにはならないけどやるしかないでしょ。
家族:家族を殺すことはできない。やらなかったら死ぬんでしょ?
患者側にとって負担が大きい。
共感的パターナリズム(Informed Assent)がおすすめ
医療者が大部分の負担を背負う協働意思決定
○○さんのお気持ちを聞いていると○○な治療が一番い良いと思いますがいかがでしょうか?
(じゃあそれで…)そうさせてもらいますね
この状況だと○○をしない範囲での治療が一番○○さんのとって良いと思います
本人の負担のならないような治療は続けます
辛くないように最大限サポートさせていただきます
そんなゆったり話してる時間ないよ!
例)90歳代女性が重症肺炎で救急搬入
挿管するかどうかの話し方
Stage 1
・何を知っているか尋ねる
「こんにちは。私は医師の○○です。こんな形でのご挨拶で失礼します。今日患者さんの何が起こったか聞いていますか?びっくりされましたようね。」
・悪いニュースを伝える
「Warning out:あまりいいお話しではありませんが今の状況をお話しさせてもらってもよろしいでしょうか。」
「Headline:△△さんは重症の肺炎で呼吸が苦しい状態です。このまま亡くなる可能性を心配しています。(2分ルール)
・緊急で話す準備をする
「私たちは彼女のケアのために早急に一番いい治療を一緒に決めないといけません。」
・元々の身体機能ADLを確認する
「一番△△さんにとっていい治療を考える上で△△さんのことをもって知る必要があります。この病気になる前はどういう風に生活されていましたか?(ADL/認知機能/症状/日常生活支援)
Stage 2
・患者の価値観、ケアのゴールを探る(Explore)
「<事前指示書がある場合>前回入院時に本人さんは挿管しないと死んでしまう状況でもそうかはしたくないと言っていたようです。今も同じ事を言うと思いますか?」
「<事前指示書がない時>お間までの延命治療のことを考えたことや話あったことはありますか?周りでそういう人がいたとか。この治療はしたくない・こんな状態なら生きていたくないなど話し合ったことはありますか?」
「△△さんが仮にこの話を聞いたらどうおっしゃると思いますか?」
・要約する
「お話しをお聞きしていると○○が大切で○○のような状態は避けたいと考えてらっしゃるように感じましたがいかがでしょうか?」
Stage 3
・おすすめを提示する(Recommend)
「私たちは△△さんがこの病気から回復するためにできることは最大限やっていきます。△△さんのとって治療は○○が一番大事だと思われます。私たちは○○はしますが○○はしない範囲で治療したいと思います。」
とはいえ予後は不確実
現場でどう対応するか?
🔷予後が不確実な中でどうするか?
1. Trajectory
2 .Best Case Worst Caseシナリオ
1. Trajectory
予後予測にはTrajectoryを使用する
機能予後を考える
Trajectoryトラジェクトリー(軌跡)
病気の進み方にもパターンがある
図を書くことで病状説明に使える
予後予測:がんの病状の進み方
寸前まで元気
1-3か月(短い月単位)で、食事が減る・病院へ通えない・風呂に入れない・食事がとれない・トイレに行けない・動けない・寝ている時間が多い・混乱することあり・死亡
予後予測
Trajectoryのどこにいるか?
予後を規定するメインの病気は
何かを考える
・突然死(急変)
・悪性腫瘍(途中から悪化)
・臓器不全(徐々に悪化)
・認知症(緩やかに悪化)
患者・家族と医療者は認識のギャップがあるかもしれない
”心の準備”
悪性腫瘍
急な変化でびっくり、何も準備してない
臓器不全
入院したら良くなる大丈夫
認知症
毎回死ぬかもって言われるけど大丈夫
Stage1病気の状況 2種類の予後
・生命予後
あとどのくらい生きられるか
・機能予後
今後どんな生活になるのか?
ADL・認知機能・症状・日常生活支援
予後を知ることで優先順位・選択が変わる
とはいえ予後は不確実
手術してみないとわかりませんはダメ
病状説明の時に具体的な数字・%は使わない
①90%の死亡率
→10%は完全元通りでいつもの生活に戻ると錯覚
②手術の死亡率は50%です
→手術中の死亡率が50%と錯覚する
手術後のICU死亡を患者家族は想定していない
③感情的な状況では確率を無視し解釈してしまう
1%でもいいからその可能性にかけたい
→1人の命を救うために99人失敗する
家族は予後を楽観的に捉えたい
楽観的に捉えてしまう理由
①医師は患者の強みを知らないと信じる
教科書と違う
私は患者の強さを知っている
②家族は患者のため希望を持ち続けなけれなならない
③医者が悲観的な性格であると考える
2. Best Case Worst Caseシナリオ
Hope for the Best
Prepare for the Worst
I wish- I worry希望と心配を伝える
患者さんの希望に沿い(I wish)
心配していることを伝える(I worry)
もちろん(気持ちとしてはご家族さんと同じで)治療がうまくいくことが一番でそうなってくれたらいいなと思っています同時に、(一方で)うまくいかなかった時に、患者さんご家族さんがこんなはずじゃなかったと後悔しないか心配しています(医師としては最悪のことも考えておかなければなりません)
正確な予測は難しいですが
一番良い経過だと…(Best)
一番悪い経過だと…(Worst)
私の経験では
おそらく…(Most likely)
のような経過になりそうです
ベストケースワーストケースシナリオ(BC/WC)
確率ではなく
シナリオプランニングをうまく使う
手技をするか迷った時
頭の整理と病状説明に使える!
Best Case/Worst Caseシナリオ
Best Case(BC):治療が上手くいくとどうなるか
Most Likely:最も予想されるコース
Worst Case(WC):治療が上手くいかない時どうなるか
患者がどのような体験をするかエビデンスと経験に基づいて
ベストケース、ワーストケース、最も予測されるコースのStory
~Storyに盛り込むできこと~
状況は良いかor悪いか?
・入院期間
・手術や大きな治療の必要性
・認知機能・身体機能の回復具合
・医療依存度(透析/人工呼吸)
・介護サービス(リハビリ)
・長期的な療養場所
・どんな最期になるのか?
Best Case/Worst Caseシナリオ
○○は手術・透析・人工栄養など
○○する
・Best Case
○○して全て順調な時の最善のStory
・Most Likely
○○した時の最も予想されるStory
・Worst Case
○○したがよくない時の差悪のStory
○○しない
・Best Case
○○しなかったが順調な時の最善のStory
・Most Case
○○しない時の最も予想されるStory
・Worst Case
○○しない時の最悪のStory
例)
手術する
・Best Case
長時間の手術、術後ICU1-3週、リハビリに数か月、施設に行く
・Most Likely
元の様に歩けない、車いす、術後ICU2-6週、気管切開必要
・Worst Case
長時間の手術、術後ICUで合併症、人工呼吸器・透析、ICUで死亡、最後家族と話せない
手術しない
・Best Case
痛みコントロール、自宅に帰れる、話すことは可能、楽しみ程度の食事
・Most Likely
痛みコントロール、話すことは可能、退院する前に悪化
・Worst Case
非常に短い予後、日単位で亡くなる、家族付き添い可
患者の価値観・好み
話すことが好き。管にはつながれたくない。
例)
透析する
・Best Case
週3回透析、年単位で生きる、症状は楽
・Most Likely
週3回透析、時々入院、脳梗塞などきつい人もいる
・Worst Case
透析の合併症、心筋梗塞・腸管壊死などで病院で死亡
透析しない
・Best Case
予後は長い月~年単位、外来通う、食事は制限
・Most Likely
予後は週~月単位、家に帰れる。食事の制限は緩め、症状は薬で抑えるが全ては取れない
・Worst Case
予後は週単位、混乱したりかゆみが出る。病院で突然死ぬ。
患者の価値観・好み
毎年行ってた旅行に行くたい。透析をして症状が楽になるならやりたい。
CureとCareの両立を目指す
救急:Cure sometimes
緩和:Treat often Comfort always