なんでも内科診療日誌

とりあえず何でも診ている内科の診療記録

夫の前立腺癌

2023年03月09日 | Weblog

 糖尿病・高血圧症で内科外来に通院している70歳女性は、数年前にうつ病になった。食欲不振・体重減少・気力低下が出現して、不眠症(入眠障害、中途覚醒)もあった。

 希望もあって入院した。特に膵癌などの悪性腫瘍も認めなかった。症状としてはうつ病と思われたので、入院当初から抗うつ薬(セルトラリン)を開始していた。

 少しずつ症状が軽減して、セルトラリン50mg/日で外来通院に戻った。市内の精神科病院への通院は希望しなかったので、そのまま診ていた。

 そのうち家族(娘)がいっしょに外来を受診して、専門の精神科病院に紹介してほしいと希望された。住居のある町の隣町にある病院がいいという。精神科病院への紹介は望むところなので、診療情報提供書を書いて紹介した。(家族による車での送り迎えが必要)

 

 外来を受診した時に、薬手帳を見せてもらって、病状を訊いていた。見たところはあまり変わりないようだが、セルトラリンが75mg/日に増量となっていた(睡眠薬としてブロチゾラム併用)。

 ご本人は精神科というのが引っかかるようで、通院は乗り気ではなかった。1年くらい通院したころに訊くと、もう行っていないと言われた。相変わらず不眠を訴えて、中止してもいいとは思えない。内服を嫌がったが、初期量のセルトラリン25mg/日は継続してもらうことにした(本当は増量したい)。

 この患者さんがうつ病になったきっかけは、夫の病気にあった。前立腺癌で当院泌尿器科に通院していたが、がんセンターに紹介になった時期に発症している。

 

 夫は7年前(2016年)に腰痛・下肢痛で市内の整形外科クリニックを受診した。腰部神経根症として、当院の放射線科に腰椎MRI検査を依頼された。検査の結果は、脊椎・骨盤への「転移性骨腫瘍」と診断された。

 当院外科外来に、転移性骨腫瘍の精査依頼で紹介された。外科医は腫瘍マーカーとして血清PSAを測定して、1936ng/mlと著明な上昇を認めた。(大抵は腫瘍マーカーを複数出すと思うが、PSAだけのピンポイント検査で当たり)

 胸腹部造影CT、骨シンチを予約して、泌尿器科外来に紹介した。(骨シンチは当時は施行できたが、その後は経済的な理由でシンチ検査そのものが中止)

 造影CTでは前立腺内に2個の結節が造影で描出された。腹部大動脈左近傍にリンパ節らしい腫瘤もあった。骨シンチでは肋骨・脊椎・骨盤に多発性転移巣を認める。

 CAB(combined androgen blockade:複合アンドロゲン遮断療法)が開始された。(抗アンドロゲン薬+LH-RHアナログ製剤)血清PSAは19ng/ml程度まで低下して症状も軽減していた。

 その後、ホルモン療法を工夫されていたが、2020年に腰痛・下肢痛の悪化があり、CRPC(castration-resistant prostate cancer:去勢抵抗性前立腺癌)としてがんセンター紹介となった。

 現在は、がんセンターよりも自宅に近い地域の基幹病院の泌尿器科に通院している。(当院の泌尿器科は非常勤のみとなった)どんな具合ですかと訊くと、夫は現在も農作業も行ってそれなりのADLを保っているそうだ。

 

 患者さん自身は、食欲低下があった時期にはDPP4阻害薬+メトホルミン少量でHbA1cが6.5%前後だったが、食欲が戻ってからは体重も戻り、+SGLT2阻害薬でもHbA1cが7.2~4%で推移している。

 

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