なんでも内科診療日誌

とりあえず何でも診ている内科の診療記録

なぜ搬送しなかったか

2016年02月05日 | Weblog

 非結核性抗酸菌症で通院していた80歳女性は病院事務の女性の母親だった。もともとは膠原病でステロイドを内服していた。病院に赴任するずっと以前に定年退職したリウマチ膠原病専門医の診断だった。この後、内科医2名を経て(退職)、私の外来に通院していた。非結核性抗酸菌症は呼吸器科で診ていた。そちらの処方はCAM・EB・LVFXで、RFPは嘔気嘔吐で内服できなかったそうだ。呼吸器科医がいなくなってからは、内科で合わせて処方していた。

 両側肺野全体に陰影があり、細菌性肺炎を併発しても、どこが新たなものか判断しがたかった。通常の細菌性肺炎併発という診断は、市中肺炎用の点滴静注の抗菌薬を使用すると、解熱して炎症反応が改善することからの診断だった。

 時々というか、1か月に1回くらい発熱があるが、全部入院とはできない。患者さんも嫌がっていて、入院するとそのまま死亡すると思っていたらしい。当地の基幹病院呼吸器科に紹介しても、解熱薬のみの処方で入院とはしなかった。入院してもやりようがないということのようだ。それでも何とか回復しているから大したものだ。

 前回は喀痰培養でMRSAが出て、起炎菌かどうかわからなかったが、ファーストシンなどでは効かず、バンコマイシン点滴静注で軽快した。気管支拡張もあり、本当のMRSA肺炎なのだろう。

 この方が先週帰宅で急死した。数日前から調子が悪く、入浴を嫌がっていたという。意識消失・呼吸停止に夫が気づいて、救急要請した。通常は心肺蘇生術をしながら、かかりつけである当院に搬入されるところだ。夜中に亡くなって朝に気づいたというわけではない。直前まで生きていたわけだから。

 ところが、娘さんの話では、救急隊は搬送はしないで、亡くなっていますと言って警察に連絡したそうだ。警察が来て検死となり、家族構成などの事情聴取が始まった。その後警察医(引退して息子に医院を任せた開業医)が呼ばれて、死亡診断書を書いた。髄液(たぶん)を採取して出血があるとうことで、脳出血疑いの病名にした。娘さんは、てっきり病院に搬入になると思っていた。それが警察の事情聴取になったので、不満には思ったが、何も言えなかったそうだ。救急隊として、あまりない対応だった。

 通常通りに心肺蘇生術をしながら、病院の救急室に搬入しても、そこで死亡確認になるだけで、死亡自体は変わらない。変わらないが、少なくとも、警察沙汰にはならない。Autopsy imagingをして、脳出血と確認したかもしれないし(高齢の警察医の処置はちょっと疑問)、肺病変の確認だけで終わって、経過から肺疾患からの急性呼吸不全か心臓死にしたかもしれない。

 娘さんから、死亡診断書は先生に書いてほしかったと言われた。肺病変が悪化して数日の治療で反応せず死亡、という経緯になると思って通院していたはずだった。

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