読書日和

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「強運の持ち主」瀬尾まいこ

2020-07-27 18:58:57 | 小説


今回ご紹介するのは「強運の持ち主」(著:瀬尾まいこ)です。

-----内容-----
元OLが営業の仕事で鍛えた話術を活かし、ルイーズ吉田という名前の占い師に転身。
ショッピングセンターの片隅で、悩みを抱える人の背中を押す。
父と母のどちらを選ぶべき?という小学生男子や、占いが何度外れても訪れる女子高生、物事のおしまいが見えるという青年……。
じんわり優しく温かい著者の世界が詰まった一冊。

-----感想-----
昨年8月の「そして、バトンは渡された」(著:瀬尾まいこ)以来11ヶ月ぶりという、久しぶりの小説感想記事になりました。
なかなか小説を読む気力が出ずにいましたが、やっと読むことが出来て良かったです
瀬尾まいこさんの作品は文章が穏やかで優しいので、久しぶりに読むならこの人の作品が良いなと思いました。
「強運の持ち主」は占い師を題材にしていて、「ニベア」「ファミリーセンター」「おしまい予言」「強運の持ち主」の4つのお話があります。


「ニベア」
ルイーズ吉田がお客さんを占っているところから物語が始まります。
彼氏ができるかという質問に「素敵な人が出てくる暗示がある」と言い、さらに「気付くかどうかはあなた次第」と言っているのが興味深かったです。
その言い方なら占いが外れても問題ないのが上手いなと思いました

ルイーズ吉田は本名を吉田幸子と言い、3年前に「ジュリエ数術研究所」という占いのお店に入りました。
短大を出て事務用品を扱う会社で営業の仕事を半年してから占い師になったとあるので、「ニベア」の時点ではまだ24歳くらいのようです。
「ジュリエ数術研究所」のドアを叩いた日、所長のジュリエ青柳という50歳過ぎの女性が「結局適当なことを言って、来た人の背中を押してあげるのが仕事なのよ」と言い、吉田幸子はそれを「いかさまのようないかしたことを言う人物」と評し、気に入ります。
ルイーズ吉田という名前も、吉田幸子という一般的な名前の人の言う占いはあまり信憑性がないため付けられたとあり、たしかにそうだなと思いました。
ミステリアスな名前の方がいかにも占いをする人という雰囲気は出ます。
ルイーズ吉田の占いは当たると評判になり、一年前に独立してショッピングセンターの二階奥のスペースを借りて一人で占いをするようになります。

2月の終わり、8歳の一ノ瀬堅二という男の子が占ってほしいと言ってきます。
占いは1回3000円なのでルイーズ吉田は心配しますが、堅二はおばあちゃんに貰った5000円があるから大丈夫だと言います。
堅二はスーパー丸栄とサトヤのどちらで買い物をしたら良いか占ってと言い、ルイーズ吉田はそんなくだらないことに3000円も使うのかと呆れます。
特に占いの知識を発揮することもなく、今朝の新聞チラシに入っていた両方のスーパーのチラシを思い浮かべながらサトヤにしておけと言い、私はインチキ占いだなと思いました。

後日また堅二がやって来て、父親と母親のどちらに付くのが良いか占ってほしいと言い、ルイーズ吉田は離婚の相談だなと見て戸惑います。
もうすぐ小学四年生になり、四年生になる時には父親か母親かを決めておきたいとのことでした。
ルイーズ吉田は断ろうとしますが堅二が食い下がり、その場は引き取ってもらって四年生になるまでには占うと言います。

ルイーズ吉田は堅二の家の近くで張り込みをし、父親と母親のことを調べ始めます。
しかし数日張り込んでも母親の姿はなく、代わりに不思議な光景を目撃することになり戸惑います。
やがて堅二がどちらに付けば良いのかの答えを尋ねに来る日が近付きます。



「ファミリーセンター」
冒頭、ルイーズ吉田が「正論を言うより、星だ運命だと言えば、納得してもらえる」と胸中で語っていて、見も蓋もないですがそれが占いなのかも知れないと思いました。
1ヶ月ほど前に地元情報紙の「よく当たる占いの店」の特集に載って若い子がよく来るようになりました。
占いに来る女の子は持ち物や服装など何か変化を起こせることを提案すると納得するとあり、これもそうかも知れないと思いました。
そして一話目と同じで最初は占いが楽勝のように書かれているのが印象的で、これはこの後問題が起きるのだろうと思いました。

9月、墨田まゆみという17歳の女子高生が「気を引きたい人がいるんですけど、どうしたらいいですか?」と言ってきて、ルイーズ吉田は占いをします。
すると後日、まゆみが占いが外れたと文句を言いにやって来ます。
謝ると次の手を教えてくれと言うので、ルイーズ吉田はまゆみの誕生日から考えられることを元に「とにかくきちんと挨拶をしてみたら」と助言します。

後日またまゆみがやって来て、駄目だったがもう一度占ってくれと言い、意中の人の気を引けるまで延々と来そうな雰囲気でした。
しかし意中の人の特徴を聞くとなぜか曖昧な答えしか返って来ず、ルイーズ吉田は不思議に思います。
今度は「髪を切って印象を変えたらどうか」と提案し、さすがにそれでも駄目ならもうお店には来ないだろうと思っていました。

またもやまゆみがお店にやって来て、やはり駄目だったが次はどうすれば良いと言い、まだ続けることにルイーズ吉田は驚愕します。
諦めることを勧めても引きませんでした。
私は「あの人とうまくやりたい」という言葉が気になり、恋愛ではないのかも知れないと思いました。
ルイーズ吉田は覚悟してまゆみととことん付き合うことにします。
私がここまで彼女を動かしてしまったのだ。きちんと向き合う義務があると言っていて、プロとして誇りがあるなと思いました。
そして雑誌に載っていた、ルイーズ吉田自身は全然信じていなかった人の気を引くための技をしれっと提案していたのが面白かったです。
「どうせやるなら、もっと気楽に楽しく彼の気を引くほうが良い」と胸中で語っていて、本気で向き合いながらも肩の力を抜くのは意外と良いかも知れないと思いました。



「おしまい予言」
11月がもうすぐ終わり冬になろうとしています。
冬前になると気力が出ない、楽しいことが起こらない、物事がうまく行かないという相談が増えるとあり、季節によって相談内容が変わるのが面白いなと思いました。
ルイーズ吉田は「冬はオフシーズンで、本来ならこんな時期は人間だってひっそり冬眠すべきだ」と持論を語っていました。
ただ私は冬にしか見られないもの、冬ならでは催し事もあるので、冬眠ではもったいない気がしました

若い男がやって来て、占いの様子を見て「あんなん、当たり前のことやん」と言い、ルイーズ吉田はムッとします。
男は武田平助という22歳の大学四年生です。

平助には「物事のおしまいが見える」という変わった体質があります。
そしておしまいが見えるのをどうすれば良いかを占えと言いますが、ルイーズ吉田はあまり相手にしません。
しかし平助におしまいが見える能力をどう生かすか勉強するために、給料はいらないからここで働かせてくれと言われ押し切られてしまいます。
平助は関西弁で調子が良く、「まあ、いいからいいから」のように押し切られていました。
ルイーズ吉田が帰宅して同棲している通彦に平助のことを言うと、毎日その子はおしまいの予感だらけで気が休まらないだろうなと言っていて、これは鋭い視点だと思いました。

翌朝、平助は本当にお店に来ていて、しばらくの間ルイーズ吉田の横に座って占いの様子を見ることになります。
その日の昼食は二人でショッピングセンターの社員食堂できつねうどんを食べたのですが、平助は「あげ」が不味いと言っていました。
すると翌日、同じ場所で今度は二人で素うどんを食べる時、平助が家で炊いたあげを持ってきて入れてくれ、ルイーズ吉田は凄く美味しくて驚きます。
この場面も「まあ、いいからいいから」のように話が進んでいて、押しが強いわりにあまり不快にならない雰囲気はいかにも関西らしいなと思いました。

やがてルイーズ吉田が、お客さんに「ましな終わり方」が見えた時はそれを告げてみたらと言い、平助も気乗りしなそうでしたが頷きます。
あなたは間もなく何かが終わりますよと言えば相手は当然戸惑うので、言うのはやはり気乗りしないだろうなと思います。

ある日平助が何とルイーズ吉田に終わりが見えると言い、ルイーズ吉田は同棲相手の通彦との仲が終わると見て動揺します。
どうにかして終わるのを回避しようと手を尽くすルイーズ吉田に対して、通彦の方は一体どうしたんだろうと不思議に見ていて、その差が面白かったです。

この話ではルイーズ吉田が考える占い師の役割が書いてありました。
「その人がさ、よりよくなれるように、踏みとどまってる足を進められるように、ちょっと背中を押すだけ。占いの役割って、そういうことなんだね」
この考えは良いなと思いました。
妙に「こうしなければ駄目です」という態度より、「ちょっと背中を押すだけ」の方が信用できる気がします。



「強運の持ち主」
ルイーズ吉田は竹子というアシスタントを取ります。
その竹子が冒頭、自身が占ったお客さんに絶望的な結果が出たと言い動揺していて、お客さんも動揺していました。
占い師があまり動揺すると、お客さんも「私の未来はどうなってしまうのか」と不安になるのではと思います。

竹子は24歳で4歳の子供が居て離婚をしていて、1ヶ月ほど前にお店で働き始め、2週間前から一人で占いを始めるようになりましたがそれがさっぱりとのことです。
ルイーズ吉田は「誰かと一緒に働くのなんて、百害あって一利なしだ」と胸中で語っていて、アシスタントを取ろうとしていた前話とは言っていることがガラッと変わっていたのが面白かったです。
竹子は占い結果をストレートに伝えたがる特徴があり、対してルイーズ吉田は相手に希望を持たせ背中を押すことを考えていて、そこに差があります。
ルイーズ吉田は竹子とは合わないと感じています。

新年度が近付いたある日、平助がお店にやって来ます。
今でもたまに来ていて、もうすぐ大学を卒業して社会人になるとありました。
この時平助が「回転焼き」という食べ物を持って来ていて、どんな食べ物なのか調べてみたら「今川焼き」のことだと分かりました。
地域によって呼び方が違うのが興味深いです。
そして平助がまたルイーズ吉田に何かが見えると言っていて、何が起こるのか気になりました。

竹子が占いをすると人の不幸ばかり見て落ち込むと言うので、ルイーズ吉田は「強運の持ち主」である通彦を占わせてあげようとします。
かつてルイーズ吉田はお客さんとしてやって来た市役所勤めの通彦を占った時、とてつもない強運の持ち主であることに驚き何としてもこの人と一緒になろうと思い、当時付き合っていた女性とは別れたほうが良いなどとインチキ占いをうそぶいたりして、策略を駆使して付き合うことに成功した経緯があります。
ところが、竹子が占うと通彦に暗闇が迫っていてルイーズ吉田は驚きます。

ルイーズ吉田が通彦に最近何かなかったかを聞くと、もうすぐ市町村合併があることに悩んでいることが分かります。
そして通彦は大きな決断をしようとしていて、どうしたら良いかと聞かれてルイーズ吉田は戸惑います。

竹子が私の人生は息子の健太郎次第と語っていた場面は印象的でした。
言葉が重く聞こえましたが、同時に母親として息子を第一に考えているのが分かり、立派だと思いました。

ルイーズ吉田が通彦のしようとしている「大きな決断」について占うと、決断しても成功しそうだという結果が出ていました。
しかしルイーズ吉田はその占い結果がしっくり来ず違和感を持っていましたが、やがてどうしてそう感じたかの理由が分かります。
占いの結果が絶対ではないことが示されていたのが興味深く、自身の予感を信じた方が良い場合もあるのだと思います。


この作品には食べ物を食べている場面が何度も登場したのが印象的です。
占い師も私達一般の人間と同じで、決して超人的な存在ではないのを暗示しているように見えました。
そしてルイーズ吉田の「背中を押す」という考えは相手と対等な立場に立っている気がして好感が持てました。
もしルイーズ吉田のような人がいれば、占いをして貰うのも良いかも知れないと思いました


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