今回ご紹介するのは「DIVE!! 上」(著:森絵都)です。
-----内容-----
高さ10メートルの飛込み台から時速60キロでダイブして、わずか1.4秒の空中演技の正確さと美しさを競う飛込み競技。
その一瞬に魅了された少年たちの通う弱小ダイビングクラブ存続の条件は、なんとオリンピック出場だった!
女コーチのやり方に戸惑い反発しながらも、今、平凡な少年のすべてをかけた、青春の熱い戦いが始まる―。
第52回小学館児童出版文化賞受賞作品。
解説・あさのあつこ。
-----感想-----
この作品は佐藤多佳子さんの「一瞬の風になれ」を読んだ時に興味を持ちました。
ネットで「一瞬の風になれ」を検索した時、
「あさのあつこの『バッテリー』、森絵都の『DIVE!』と並ぶ三大青春スポーツ小説」
という言葉を見かけました。
「一瞬の風になれ」がものすごく面白かったことから、それと並び称される残りの二作についても興味を持ったのでした。
そして今回ついに「DIVE!!」を読んでみることにしました。
まず冒頭のシーンが印象的でした。
海の岬、高さ20メートルはある断崖の絶壁から一人の少年が飛び込んでいます。
そしてそれを見ていた謎の女が「見つけた……まちがいない。この子だわ」と言っています。
この謎のプロローグから物語は始まっていきました。
知季とレイジと陵の三人は、物語のスタート時点では中学一年生。
三人はミズキダイビングクラブ(MDC)に在籍しています。
大手スポーツメーカー「ミズキ」の直営するダイビングクラブで、赤字経営による存続の危機をささやかれながらも、26人の小学生、7人の中学生、1人の高校生ダイバーを抱えています。
26対7対1のこの比率が、飛込みを続けていく難しさをそのまま物語っているとのことです。
なかなか良い選手が育たず、試合も盛り上がらず、テレビや新聞における扱いも地味で、常に華やかな競泳の陰に隠れています。
また、低迷の理由はダイバーだけでなく、日本飛込み界の慢性的な指導者不足にもあるとのことです。
ただこの作品は2000年のシドニーオリンピックを来年の夏に控えた1999年が舞台なので、2014年の現在はもう少し環境が改善されているかも知れません。
ミズキの会長はこの低迷している現状を打開すべく、第一歩としてMDCの創設に踏み切りました。
自身も元飛込み選手だったミズキの会長は日本飛込み界の発展に並々ならぬ熱意を抱いていて、大幅な赤字を覚悟の上で、飛込み界の明日を担うダイバーの育成に乗り出したのです。
しかしミズキの会長が死んでしまい状況が変わります。
会長がいない今、大幅赤字のMDCはミズキにとってただの厄介物になり、一般受けのするスイミングクラブに転業するだとか、閉業するだとかの噂が絶えなくなりました。
MDCには富士谷(ふじたに)要一という天才ダイバーがいます。
元飛込みのオリンピック選手でもありMDCで教えている富士谷コーチの息子です。
要一は高校一年生で、飛込みを志す高校生の多くが集まる桜木高校に籍を置いています。
この高校は飛込み部があり、敷地内に専用の屋外ダイビングプールを持っている唯一の高校とのことです。
また、寒くて屋外プールの使えない冬期、東京近郊に散在するダイバーたちは皆、江東区のあけぼの運河に集まってきます。
そこにある東京辰巳国際水泳場が都内で唯一の屋内ダイビングプールを有する施設だからです。
桜木高校は架空の名称ですがあけぼの運河と東京辰巳国際水泳場は実際にあります。
富士谷コーチがMDCのロビーで若い謎の女と話しています。
女の名前は麻木夏陽子(あさきかよこ)。
コーチとして知季たちを指導し、閉鎖寸前のMDCを守っていくことになる人です。
この場面で知季のフルネームは坂井知季だと分かりました。
物語の主人公です。
知季には弘也という年子の弟がいます。
4月生まれの知季からちょうど一年後の3月に生まれたため学年は同じです。
この弘也との会話から、知季には未羽(みう)という彼女がいることが分かりました。
しかし知季は飛込みの練習でいつも忙しく、未羽と電話で話すのも億劫がっているくらいでした。
必死な未羽と億劫がる知季で、何だか今にも破綻しそうなカップルという印象でした
やがて麻木夏陽子が再び知季たちの前に現れ、MDCの中学生部門のコーチに就任します。
知季たちの指導をするということです。
夏陽子はかなりやり手のコーチで、最初から知季、レイジ、陵の三人にダメ出しをしまくっていました。
ボディ・アライメントという、飛込みをする際の正しい姿勢のことが出てきました。
ボディ・アライメントとは体のあちこちに力を分散させず、全身を一本の棒のように引き締めて演技を行うことを言います。
美しい空中演技やノー・スプラッシュ入水(水しぶきを上げずに入水すること)の基本であり、夏陽子は初日からこれを徹底的に教え直そうとしていました。
夏陽子は特に知季の素質に注目して、知季だけに毎朝の自主トレメニューを渡してきました。
レイジと陵はそこに嫉妬して知季とギクシャクしてしまいます。
夏陽子の考えでは「全ての土台になるのは基礎体力」とのことです。
なので自主トレのメニューは一時間のジョギングから始まりストレッチ、筋力トレーニング、逆立ちによるボディ・アライメントの徹底とハードなものです。
そして夏陽子は知季に「あなたは確実に伸びる」と断言します。
「頂点をめざしなさい。あなたはそれができる子よ。うんと高いところまで上りつめていくのよ」
何もかもが中途半端だった知季が、これをきっかけに徐々に変わっていきます。
ただしそれを快く思わない人もいて、ある日MDCに通う生徒の親が「麻木コーチが特定の生徒にのみ偏った指導をしている」と苦情の電話をしてきました。
特定の生徒とはどう考えても知季のことで、知季はショックを受けます。
ちなみに富士谷コーチの目から見て夏陽子の指導が特に偏っているということはなく、ちゃんと全員に指導しています。
夏陽子は中学生の担当なので、知季、レイジ、陵の三人に。
そうなると親に「特定の生徒にのみ偏った指導をしている」と言い電話をかけさせたのは…とすぐに見当がつくことから、知季は裏切られた心境でショックを受けていました。
また、夏陽子はMDCを閉鎖しようとしていたミズキの役員たちを説き伏せ、条件付きでクラブを存続させてくれた恩人でもあるのですが、その条件が明らかになります。
それは、オリンピック。
「来年のシドニー五輪にうちのクラブから日本代表選手を送りだす。それが、MDC存続の条件だ」
高いハードルに知季たちは挑んでいくことになります。
レイジと陵の二人との心の決別もあり、中学一年生の物語は終わっていきました。
4月になり、知季は中学二年生になります。
未羽と桜の花を見ながら知季は物思いに耽っていました。
スポーツの世界でも、美しい花を咲かせようとすればするほどに、どこかにゆがみが生じるのかもしれない、と知季はこのごろ思う。そのゆがみは選手自身の体だとか、心だとか、周囲との人間関係だとかに反映し、何かを損なわせる。何かを奪い去る。
そんな傷心して落ち込み気味の知季に要一が言います。
「おまえはただ勝っただけだ。麻木夏陽子は陵やレイジよりおまえの飛込みに目をつけた。おまえの素質を買ったんだ。スポーツにはつねにそうした勝ち負けがついてまわる。だれだってそんなの承知でやってんのに、おまえは勝つたびにそうして落ちこむ気か?」
また、要一の口から津軽の沖津飛沫(しぶき)について語られます。
夏陽子がここ数日青森に出かけていて不在なのですが、その青森に出かけた理由を要一は16歳の幻の高校生ダイバー、沖津飛沫を連れてくるためだと予想していました。
そして沖津飛沫が登場します。
坂井知季、富士谷要一とともに物語の中心になる三人目の人物です。
飛沫は要一と同じく桜木高校に通うことになり、桜木高校はじまって以来の飛込み推薦転入生です。
ただ飛沫は故ミズキ会長からの誘いを断り続けて頑として津軽を離れなかったのですが、それが今回なぜ夏陽子の誘いを受けたのかが謎でした。
夏陽子は「約束」、飛沫は「契約」という言葉を使っていました。
ちなみに物語は「一部 前宙返り三回半抱え型」と「二部 スワンダイブ」に分かれていて、一部は主に知季からの視点、二部は主に飛沫からの視点の物語です。
夏陽子からオリンピックへ向けての提案がなされます。
それはこの8月に北京で開かれるアジア合同強化合宿への参加。
そのメンバーを決めるための選考会が7月末に東京辰巳国際水泳場に開かれ、夏陽子は知季たちに国内の大会は捨ててこれに出ないかと提案してきました。
日水連(日本水泳連盟)はこの合宿に参加するメンバーの中からオリンピック選手を育てる方針だと夏陽子は言います。
この合宿のメンバーに入ってオリンピック候補に滑り込む、これこそが夏陽子の狙いです。
夏陽子は知季に「前宙返り三回半」という技を教えます。
歴代の中学生でも数えるほどしか成功させていない難しい技で、これを決めればジャッジは知季に一目置き、その印象は必ず採点にも影響を及ぼすとのことです。
要一が知季に興味深いことを言います。
「うちのおやじが言ってたよ。沖津飛沫の飛込みはたしかにすごいけど、あいつにはダイバーとして致命的な欠陥がある。反対にトモ、おまえには最強の武器があるんだと」
沖津飛沫の欠陥とは何なのか、そして知季の最強の武器とは何なのか、気になるところでした。
その頃、知季は未羽をちっとも大切にせず電話もデートも億劫がっていたので、やはりな事態が起きました。
しかもただ破綻しただけではなく、とある人物に取られてしまいました。
これに予想外な精神的ショックを受け、アジア合同強化合宿の選考会が直前に迫っているというのに知季は無気力状態になってしまいます。
その状態の知季に夏陽子が話して聞かせたことはかなり印象に残りました。
伝説の天才ダイバー沖津白波(しらは)の孫である津軽の沖津飛沫に情熱をかける故ミズキ会長、同じく津軽に行って荒波の寄せる日本海に飛び込む沖津飛沫を見て衝撃を受けた夏陽子の話が出てきました。
そして沖津飛沫にも匹敵する才能の話。
一人は富士谷要一で、もう一人は坂井知季。
夏陽子は最初にMDCに来て一目見た時から知季の才能に気付いていました。
その才能のことを夏陽子は「ダイヤモンドの瞳」と言っていました。
ちなみに知季は彼女を取られた自分の心境について冷静に見つめていました。
うじうじしたところはありますが、これだけ自分のことを冷静に分析しているのは偉いと思いますし、自分の心を客観的に見つめて向き合えているということです。
「こんな日が来るのを、おれ、待ちながら、ビビッてたんだ」
「あいつが本気になる日――眠れる獅子が目覚めるときを、さ」
要一がこんなことを言うくらい、知季の気配が激変、ダイバーとして大きく上昇する時を迎えます。
夏陽子と飛沫の「約束」「契約」が何なのかも分かりました。
飛沫としてもやはり気になることだったようです。
アジア合同強化合宿のメンバーを決めるための選考会で要一が凄い技をやっていました。
リップ・クリーン・エントリーという技で、ノー・スプラッシュより遥かに難しい、微塵も音を立てない闇夜を裂くような入水のことです。
知季も大技「前宙返り三回半」を出しましたし、飛沫も持ち前の豪快さを発揮しました。
選考会が終わった後、飛沫は津軽に戻るのですが、そこに要一と知季も来て三人で話していました。
津軽ののどかな雰囲気の中、飛沫が飛んでいた崖を見に行ったり花火をしたり三人並んで寝ながら語り合ったり、まさに夏の青春の一場面だったなと思います
8月が終わりを向かえ、いよいよ一年後に迫るシドニーオリンピック。
知季、要一、飛沫の物語は続いていきます。
そして何度か名前の出た寺本健一郎という、世界とも互角に戦える桁違いの実力者。
三つあるオリンピック代表枠のひとつは既に彼の指定席と言われていて、この人物が「DIVE!! 下」では出てくるのかも気になるところです。
「DIVE!! 下」でどんな青春が見られるのか、すごく楽しみです
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-----内容-----
高さ10メートルの飛込み台から時速60キロでダイブして、わずか1.4秒の空中演技の正確さと美しさを競う飛込み競技。
その一瞬に魅了された少年たちの通う弱小ダイビングクラブ存続の条件は、なんとオリンピック出場だった!
女コーチのやり方に戸惑い反発しながらも、今、平凡な少年のすべてをかけた、青春の熱い戦いが始まる―。
第52回小学館児童出版文化賞受賞作品。
解説・あさのあつこ。
-----感想-----
この作品は佐藤多佳子さんの「一瞬の風になれ」を読んだ時に興味を持ちました。
ネットで「一瞬の風になれ」を検索した時、
「あさのあつこの『バッテリー』、森絵都の『DIVE!』と並ぶ三大青春スポーツ小説」
という言葉を見かけました。
「一瞬の風になれ」がものすごく面白かったことから、それと並び称される残りの二作についても興味を持ったのでした。
そして今回ついに「DIVE!!」を読んでみることにしました。
まず冒頭のシーンが印象的でした。
海の岬、高さ20メートルはある断崖の絶壁から一人の少年が飛び込んでいます。
そしてそれを見ていた謎の女が「見つけた……まちがいない。この子だわ」と言っています。
この謎のプロローグから物語は始まっていきました。
知季とレイジと陵の三人は、物語のスタート時点では中学一年生。
三人はミズキダイビングクラブ(MDC)に在籍しています。
大手スポーツメーカー「ミズキ」の直営するダイビングクラブで、赤字経営による存続の危機をささやかれながらも、26人の小学生、7人の中学生、1人の高校生ダイバーを抱えています。
26対7対1のこの比率が、飛込みを続けていく難しさをそのまま物語っているとのことです。
なかなか良い選手が育たず、試合も盛り上がらず、テレビや新聞における扱いも地味で、常に華やかな競泳の陰に隠れています。
また、低迷の理由はダイバーだけでなく、日本飛込み界の慢性的な指導者不足にもあるとのことです。
ただこの作品は2000年のシドニーオリンピックを来年の夏に控えた1999年が舞台なので、2014年の現在はもう少し環境が改善されているかも知れません。
ミズキの会長はこの低迷している現状を打開すべく、第一歩としてMDCの創設に踏み切りました。
自身も元飛込み選手だったミズキの会長は日本飛込み界の発展に並々ならぬ熱意を抱いていて、大幅な赤字を覚悟の上で、飛込み界の明日を担うダイバーの育成に乗り出したのです。
しかしミズキの会長が死んでしまい状況が変わります。
会長がいない今、大幅赤字のMDCはミズキにとってただの厄介物になり、一般受けのするスイミングクラブに転業するだとか、閉業するだとかの噂が絶えなくなりました。
MDCには富士谷(ふじたに)要一という天才ダイバーがいます。
元飛込みのオリンピック選手でもありMDCで教えている富士谷コーチの息子です。
要一は高校一年生で、飛込みを志す高校生の多くが集まる桜木高校に籍を置いています。
この高校は飛込み部があり、敷地内に専用の屋外ダイビングプールを持っている唯一の高校とのことです。
また、寒くて屋外プールの使えない冬期、東京近郊に散在するダイバーたちは皆、江東区のあけぼの運河に集まってきます。
そこにある東京辰巳国際水泳場が都内で唯一の屋内ダイビングプールを有する施設だからです。
桜木高校は架空の名称ですがあけぼの運河と東京辰巳国際水泳場は実際にあります。
富士谷コーチがMDCのロビーで若い謎の女と話しています。
女の名前は麻木夏陽子(あさきかよこ)。
コーチとして知季たちを指導し、閉鎖寸前のMDCを守っていくことになる人です。
この場面で知季のフルネームは坂井知季だと分かりました。
物語の主人公です。
知季には弘也という年子の弟がいます。
4月生まれの知季からちょうど一年後の3月に生まれたため学年は同じです。
この弘也との会話から、知季には未羽(みう)という彼女がいることが分かりました。
しかし知季は飛込みの練習でいつも忙しく、未羽と電話で話すのも億劫がっているくらいでした。
必死な未羽と億劫がる知季で、何だか今にも破綻しそうなカップルという印象でした

やがて麻木夏陽子が再び知季たちの前に現れ、MDCの中学生部門のコーチに就任します。
知季たちの指導をするということです。
夏陽子はかなりやり手のコーチで、最初から知季、レイジ、陵の三人にダメ出しをしまくっていました。
ボディ・アライメントという、飛込みをする際の正しい姿勢のことが出てきました。
ボディ・アライメントとは体のあちこちに力を分散させず、全身を一本の棒のように引き締めて演技を行うことを言います。
美しい空中演技やノー・スプラッシュ入水(水しぶきを上げずに入水すること)の基本であり、夏陽子は初日からこれを徹底的に教え直そうとしていました。
夏陽子は特に知季の素質に注目して、知季だけに毎朝の自主トレメニューを渡してきました。
レイジと陵はそこに嫉妬して知季とギクシャクしてしまいます。
夏陽子の考えでは「全ての土台になるのは基礎体力」とのことです。
なので自主トレのメニューは一時間のジョギングから始まりストレッチ、筋力トレーニング、逆立ちによるボディ・アライメントの徹底とハードなものです。
そして夏陽子は知季に「あなたは確実に伸びる」と断言します。
「頂点をめざしなさい。あなたはそれができる子よ。うんと高いところまで上りつめていくのよ」
何もかもが中途半端だった知季が、これをきっかけに徐々に変わっていきます。
ただしそれを快く思わない人もいて、ある日MDCに通う生徒の親が「麻木コーチが特定の生徒にのみ偏った指導をしている」と苦情の電話をしてきました。
特定の生徒とはどう考えても知季のことで、知季はショックを受けます。
ちなみに富士谷コーチの目から見て夏陽子の指導が特に偏っているということはなく、ちゃんと全員に指導しています。
夏陽子は中学生の担当なので、知季、レイジ、陵の三人に。
そうなると親に「特定の生徒にのみ偏った指導をしている」と言い電話をかけさせたのは…とすぐに見当がつくことから、知季は裏切られた心境でショックを受けていました。
また、夏陽子はMDCを閉鎖しようとしていたミズキの役員たちを説き伏せ、条件付きでクラブを存続させてくれた恩人でもあるのですが、その条件が明らかになります。
それは、オリンピック。
「来年のシドニー五輪にうちのクラブから日本代表選手を送りだす。それが、MDC存続の条件だ」
高いハードルに知季たちは挑んでいくことになります。
レイジと陵の二人との心の決別もあり、中学一年生の物語は終わっていきました。
4月になり、知季は中学二年生になります。
未羽と桜の花を見ながら知季は物思いに耽っていました。
スポーツの世界でも、美しい花を咲かせようとすればするほどに、どこかにゆがみが生じるのかもしれない、と知季はこのごろ思う。そのゆがみは選手自身の体だとか、心だとか、周囲との人間関係だとかに反映し、何かを損なわせる。何かを奪い去る。
そんな傷心して落ち込み気味の知季に要一が言います。
「おまえはただ勝っただけだ。麻木夏陽子は陵やレイジよりおまえの飛込みに目をつけた。おまえの素質を買ったんだ。スポーツにはつねにそうした勝ち負けがついてまわる。だれだってそんなの承知でやってんのに、おまえは勝つたびにそうして落ちこむ気か?」
また、要一の口から津軽の沖津飛沫(しぶき)について語られます。
夏陽子がここ数日青森に出かけていて不在なのですが、その青森に出かけた理由を要一は16歳の幻の高校生ダイバー、沖津飛沫を連れてくるためだと予想していました。
そして沖津飛沫が登場します。
坂井知季、富士谷要一とともに物語の中心になる三人目の人物です。
飛沫は要一と同じく桜木高校に通うことになり、桜木高校はじまって以来の飛込み推薦転入生です。
ただ飛沫は故ミズキ会長からの誘いを断り続けて頑として津軽を離れなかったのですが、それが今回なぜ夏陽子の誘いを受けたのかが謎でした。
夏陽子は「約束」、飛沫は「契約」という言葉を使っていました。
ちなみに物語は「一部 前宙返り三回半抱え型」と「二部 スワンダイブ」に分かれていて、一部は主に知季からの視点、二部は主に飛沫からの視点の物語です。
夏陽子からオリンピックへ向けての提案がなされます。
それはこの8月に北京で開かれるアジア合同強化合宿への参加。
そのメンバーを決めるための選考会が7月末に東京辰巳国際水泳場に開かれ、夏陽子は知季たちに国内の大会は捨ててこれに出ないかと提案してきました。
日水連(日本水泳連盟)はこの合宿に参加するメンバーの中からオリンピック選手を育てる方針だと夏陽子は言います。
この合宿のメンバーに入ってオリンピック候補に滑り込む、これこそが夏陽子の狙いです。
夏陽子は知季に「前宙返り三回半」という技を教えます。
歴代の中学生でも数えるほどしか成功させていない難しい技で、これを決めればジャッジは知季に一目置き、その印象は必ず採点にも影響を及ぼすとのことです。
要一が知季に興味深いことを言います。
「うちのおやじが言ってたよ。沖津飛沫の飛込みはたしかにすごいけど、あいつにはダイバーとして致命的な欠陥がある。反対にトモ、おまえには最強の武器があるんだと」
沖津飛沫の欠陥とは何なのか、そして知季の最強の武器とは何なのか、気になるところでした。
その頃、知季は未羽をちっとも大切にせず電話もデートも億劫がっていたので、やはりな事態が起きました。
しかもただ破綻しただけではなく、とある人物に取られてしまいました。
これに予想外な精神的ショックを受け、アジア合同強化合宿の選考会が直前に迫っているというのに知季は無気力状態になってしまいます。
その状態の知季に夏陽子が話して聞かせたことはかなり印象に残りました。
伝説の天才ダイバー沖津白波(しらは)の孫である津軽の沖津飛沫に情熱をかける故ミズキ会長、同じく津軽に行って荒波の寄せる日本海に飛び込む沖津飛沫を見て衝撃を受けた夏陽子の話が出てきました。
そして沖津飛沫にも匹敵する才能の話。
一人は富士谷要一で、もう一人は坂井知季。
夏陽子は最初にMDCに来て一目見た時から知季の才能に気付いていました。
その才能のことを夏陽子は「ダイヤモンドの瞳」と言っていました。
ちなみに知季は彼女を取られた自分の心境について冷静に見つめていました。
うじうじしたところはありますが、これだけ自分のことを冷静に分析しているのは偉いと思いますし、自分の心を客観的に見つめて向き合えているということです。
「こんな日が来るのを、おれ、待ちながら、ビビッてたんだ」
「あいつが本気になる日――眠れる獅子が目覚めるときを、さ」
要一がこんなことを言うくらい、知季の気配が激変、ダイバーとして大きく上昇する時を迎えます。
夏陽子と飛沫の「約束」「契約」が何なのかも分かりました。
飛沫としてもやはり気になることだったようです。
アジア合同強化合宿のメンバーを決めるための選考会で要一が凄い技をやっていました。
リップ・クリーン・エントリーという技で、ノー・スプラッシュより遥かに難しい、微塵も音を立てない闇夜を裂くような入水のことです。
知季も大技「前宙返り三回半」を出しましたし、飛沫も持ち前の豪快さを発揮しました。
選考会が終わった後、飛沫は津軽に戻るのですが、そこに要一と知季も来て三人で話していました。
津軽ののどかな雰囲気の中、飛沫が飛んでいた崖を見に行ったり花火をしたり三人並んで寝ながら語り合ったり、まさに夏の青春の一場面だったなと思います

8月が終わりを向かえ、いよいよ一年後に迫るシドニーオリンピック。
知季、要一、飛沫の物語は続いていきます。
そして何度か名前の出た寺本健一郎という、世界とも互角に戦える桁違いの実力者。
三つあるオリンピック代表枠のひとつは既に彼の指定席と言われていて、この人物が「DIVE!! 下」では出てくるのかも気になるところです。
「DIVE!! 下」でどんな青春が見られるのか、すごく楽しみです

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