読書日和

お気に入りの小説やマンガをご紹介。
好きな小説は青春もの。
日々のできごとやフォトギャラリーなどもお届けします。

「一瞬の風になれ 1 イチニツイテ」佐藤多佳子

2014-05-25 18:06:28 | 小説
今回ご紹介するのは「一瞬の風になれ 1 イチニツイテ」(著:佐藤多佳子)です。

-----内容-----
主人公である新二の周りには、2人の天才がいる。
サッカー選手の兄・健一と、短距離走者の親友・連だ。
新二は兄への複雑な想いからサッカーを諦めるが、連の美しい走りに導かれ、スプリンターの道を歩むことになる。
夢は、ひとつ。
どこまでも速くなること。
信じ合える仲間、強力なライバル、気になる異性。
神奈川県の高校陸上部を舞台に、新二の新たな挑戦が始まった――。
第28回吉川英治文学新人賞、第4回本屋大賞受賞作。

-----感想-----
過去何度か触れたことがある2007年の本屋大賞。
3位には三浦しをんさんの「風が強く吹いている」、2位には森見登美彦さんの「夜は短し歩けよ乙女」
両作品とも素晴らしい良作でした
しかし3位と2位ということは上にさらにあと1作品あるということで、それがこの「一瞬の風になれ」です。
ついに1位の作品(大賞受賞作)を読むことになりました

主人公は神谷新二。
神奈川県の相模原市に住んでいます。
小説スタートの時点では、新二は中学三年生でサッカーをやっていました
しかし正真正銘の天才サッカー選手でありユースの日本代表候補にもなった兄と違い、自分の才能のなさを痛感していた新二はサッカーを続けることを諦めます。
高校はサッカーの強い私立校ではなく、家から近い公立高校を選びました。

その高校には、幼馴染の一ノ瀬連も入学しました。
連は天才的な運動神経を持ち、中学では陸上部で二年の夏には全国大会に出て100mで7位に入ったほどの実力者です。
ただしやる気はなく、いつもだるそうにしている感じの人です。
そんな連を新二は体育の授業の50m走でやる気にさせ、走ることの楽しさを感じさせ、そして二人揃って春野台高校陸上部に入部することになりました。

顧問の三輪先生からのインターハイについての説明は結構ワクワクしました。
高校陸上最大のイベントで総体とも呼ばれ、総体予選には三つの大会があります。
まず各地区の予選があって、次が県大会です。
県大会でベスト6に入ると関東大会に進め、関東は南と北に分かれていて、神奈川は南関東です。
この南関東大会がインターハイの最終予選で、ここで6位以内に入ると、全国大会のインターハイ出場が決まります。
全国への道のりはなかなかに険しいなと思います。

新二や連が走るのはショート・スプリントと呼ばれる100m、200m、4×100mリレー(4継)です。
同じく新入部員の根岸康行は100mも走りますがロング・スプリントと呼ばれる400mを得意とするようです。

日々練習をしていき、やがてインターハイ予選の日がやってきます。
地区予選と県総体(県大会)は小田原の城山競技場で行われます。
これが新二が初めて目にする「試合」だったのですが、4×100mリレーの描写がすごくドキドキしました
「何位ですか?」
「3位だ」
「もっと声出せ、バカ」
「浦木先輩、ファイトー!」
「春高、ファイトー!」
何だか声援を送る姿がリアルに思い浮かんでくるほど臨場感たっぷりで良い描写でした

そして青春スポーツ小説らしく、強力なライバルも登場。
鷲谷(わしや)高校の仙波一也です。
新二と同い年で、中学校時代に連が全国7位になった大会で戦ったことがあり、その時は連に負けています。
しかし今は状況が違います。
その全国大会の後に陸上を離れていた連と違って、仙波は日々練習に励んでいました。
今や「一年生では県下No.1、神奈川で陸上をやっていれば名を知らない者がないという仙波一也」とまで言われています。
連が陸上を離れていた間に、実力的には逆転されてしまったようです。

ちなみに、中二で全国大会の100mの決勝に残るのは、超エリートということらしいです。
三年生がいる中で勝ち残ったということですからね。
ではなぜ連は、その後陸上をやめてしまったのか?
この謎は明らかにならないまま、第一部は終わってしまいました。

これまた青春スポーツ小説らしく、夏の合宿もありました
富士見高原にある合宿所で、神奈川の十の高校が集まる合同合宿です。
この合宿では、連のやる気のなさが目立っていました。
そして新二や根岸のなかなか真剣に練習をしない連への憤りが顕著になっていきました。

「俺は、おまえがみっともないのはイヤなんだっ!」

「神様にもらったものを粗末にするな。もらえなかったヤツらのことを一度でもいいから考えてみろ」

天才なのに、努力をしない連。
努力をするが、天才ではない新二や根岸。
新二は春野台高校では先輩達が居る中でも連の次に速い実力を持っていますが、連とはだいぶ差を感じています。
自分よりだいぶ速いのに、エースとしてチームを引っ張っていくべきなのに、ちっともやる気を見せない連にはやり切れない思いがあるようです。

この合宿の後は、国体予選を兼ねた県記録会というのが三ツ沢競技場で行われます。
そこに向けての大事な時期、やる気のなさからさらにとんでもないトラブルを起こしてしまった連には、

あの馬鹿野郎。いらねえなら、その才能、俺にくれ。

と一層憤っていました。
あまりに勝手すぎる連に、チームにも不協和音が生じます。
間もなく秋の新人戦が始まるというのにこんな状態で試合に勝てるのか、すごく心配でした。
それでも、そんな状態でもチームワークが大事なリレーを走ります。
そして、わだかまりを乗り越えて、次の戦い、新人戦の県大会へと進んでいきます。
そこでのリレーのバトンが渡る瞬間の描写は読んでいてゾクゾクしました
一年生、始まったばかりの新二や連の青春、次への期待が持てる終わり方だったなと思います。
第二部がどうなっていくのか、凄く楽しみです


※第二部のレビューをご覧になる方はこちらをどうぞ。
※第三部のレビューをご覧になる方はこちらをどうぞ。

※図書レビュー館を見る方はこちらをどうぞ。

※図書ランキングはこちらをどうぞ。

コメント (4)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 「第二音楽室」佐藤多佳子 | トップ | 「一瞬の風になれ 2 ヨウ... »
最新の画像もっと見る

4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (ビオラ)
2014-05-26 22:19:04
神奈川県の相模原市とは、えらく具体的な地域名が出て来て、びっくりしました^^
著者と何か関係があるのかな?

典型的な青春ものですね^^
この時期ありがちな心の揺れが読み応えありそう^^
スポーツ部って、素敵な友情が芽生えたりするんですよね。良き友達であり、そして良きライバルであり。そして
しんどい中で、挫折や落ち込む事も時にはあったりね。
そういう色々な経験の中で、大きく成長して行くんだと思います。

そう言えば、はまかぜさんって陸上部だった?

情景も浮かんできそうな読みやすそうな小説ですね^^

第二部が楽しみですね♪
返信する
ビオラさんへ (はまかぜ)
2014-05-27 22:17:18
ビオラさんは同じ神奈川県ですしね^^
ちなみに相模原市にある麻溝台高校の陸上部がモデルになっているとのことです。
作者が3年近くかけて取材したとのことで、すごい情熱だなと思います

私は弓道部でした。
ジャンルは違えど練習めっちゃ頑張ったり合宿したりは通じるものがあります^^

第二部は今読んでいるのですが、主人公たちは二年生になっています。
かなり面白くて、今日寝る前に残りを全部読んでしまいたいなと思います
そして三年生になる第三部に突入していきたいです
返信する
Unknown (ビオラ)
2014-05-27 23:29:09
やっぱりそうだったんだ・・・、公立高校で春野台で陸上部・・・、相模原市って具体的に出しているところから、きっとモデルになっている高校を名前変えてるんだろうなと思った。それで○○台の「台」に着眼して、もしかしたら、公立で「台」がつく、相模原市の高校だから、麻溝台をモデルにしているのかなって思った。
麻溝台の陸上は、活躍しているイメージあるしね。

そうか、はまかぜさんって弓道部だったの・・・。和風ですね^^集中力とか必要とされそうですね。

以前何かで、はまかぜさんは、足が早いって言うのを記憶していたので、陸上だったかなと・・・。足早いほうでしたよね?違ってる?
返信する
ビオラさんへ (はまかぜ)
2014-05-28 00:03:34
なるほど、予想がついていたのですね。
そして麻溝台の陸上は活躍しているイメージがあるのですか
きっと小説のように日々自己ベスト更新目指して練習に励んでいるんだろうなと思います^^

弓道部は集中力が必要です。
心技体の三位一体が出来ていないと綺麗な形を作れず、ちょっとしたきっかけでスランプになることもあり、大変な競技でした。

足が速いって。。。どこかで記事にしましたっけ
そんなに速くはないのですが(笑)
しいて言えば、歩くスピードは速いです。
この小説みたいに全力で走るのは最近はやっていないので、たまには爽快に走ってみたいなとも思いました。
返信する

コメントを投稿