あるくみるきく_瀬戸内シーカヤック日記

瀬戸内を中心とした、『旅するシーカヤック』の記録

『芸予ブルー』_テーマカラー of 印象派_”瀬戸内シーカヤック日記”

瀬戸内シーカヤック日記: 宮本常一写真講座

2009年09月27日 | 旅するロードスター/アテンザ
2009年9月19日(土) 周防大島にある東和総合センターで、第3回宮本常一写真講座が開かれる日。
午後2時から4時までの予定で、講演は今回のメインゲストである民俗写真家の芳賀日出男さん、トークセッションの聞き手は森本孝さんとなっている。

このうち森本孝さんは、観光文化研究所が発行していた幻の雑誌、『あるくみるきく』の元編集長でもあり、『舟と港のある風景(日本の漁村・あるくみるきく)』の著者でもある。 というわけで、『あるくみるきく_旅するシーカヤック』を標榜する私にとっては、お会いした事こそないけれど、漁村をメインに『あるくみるきく』を実践されてきた尊敬すべき大先輩。
これは行かねばなるまい。
 
↑ 『舟と港のある風景(日本の漁村・あるくみるきく)』 、 私が所蔵している『あるくみるきく』
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お昼ご飯は、周防大島で最近お気に入りのカフェで、500円のワンコインランチ。 いつもながら、シンプルだが素材の良さが活かされており、おいしいランチである。 食後は+150円のコーヒーを飲みながら、森本孝さんが編集された一冊、『あるくみるきく_糸満の海』を再読。 うーん、やっぱりええなあ。
 
***
まだ時間があるので、車を置いて久賀の町中を散策すると、『パンの店』の看板が目に飛び込んで来た。 覗き込むと、時代を重ねた良い雰囲気のショーケースにパンがきれいに並べられている。 おー、ストライクゾーンど真ん中!
これは、是非とも入ってみねばなるまい。
 
お店に入ると、『いらっしゃい』とおばちゃんが出てこられた。 『こんにちは。 このパンは、ここで作ってるんですか?』
『そうなんよ。 昔はいろいろと卸しよったからたくさん作りよったけど、いまは少しだけじゃけどね』

『いろいろありますねえ。 これは何ですか?』 『これはカレーパン。 こっちはバタークリーム』
『これは?』 『これはねえ、半分アズキ餡で、もう半分はクリームが入っとるんよ』 『じゃあ、カレーパンと、これと、これください』

『はい、じゃあ240円』 そう、パンは一つ80円なのである。 安いなあ!
 
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『久賀というたら、昔は大島の中心だったそうですね』 『そうよ、この前の道もバスが走りよったんじゃけん。 それが、今じゃあ海沿いの新しい道を車が走るようになって、ここらは素通り』 『前は賑やかじゃったんですか?』 『ええ、そりゃあ店も多かったし、映画館もそこにあったんよ。 最近じゃあ、日曜日は店を閉める。 そしたら人が外に買い物に行く。 客が減って店をやめる。 悪循環じゃねえ』

『ここは、いつ頃からやっとられるんですか?』 『そうじゃねえ、70年位前かねえ。 私しゃあ、大島でも別の所からきたんじゃけど、じいさんの代からやっとるんよ』
『やっぱり、地の人が買いに来てんですか?』 『それがねえ、岩国や柳井から買いにくる人が多いんよ。 一度買うてみたら、懐かしいパンの味じゃいうて、口コミでいろんな所から買いにきてじゃねえ。 まあ、そがに言うてもたくさん売れるわけじゃないけどねえ』

『ほんまですね。 パンの袋や雰囲気も、私らが子供の頃に食べよったパンを思い出します。 明日の朝に食べるんが楽しみですよ』 『ほうねえ。 ありがとう』 『じゃあ、また寄りますけん。 ありがとうございました』
***
午後1時過ぎに、東和総合センターへ。
『あるくみるきく』を読みながら開場を待っていると、『こちらが森本先生』という声が聞こえてきた。
振り向くと、写真で拝見したお顔が。 その方々とのお話が終わるのを待ち、立ち上がってご挨拶。

『森本さんですか? 初めまして。 「瀬戸内シーカヤック日記」のカヤッカーです』 『あー、あの。 豊島の事とか書いておられる』 『はい! 先日は、ブログにコメントいただきましてありがとうございました』

しばし横に座らせていただき、海洋大学での集中講義や東北芸術工科大学でのフィールドワーク手法の継承を含む最近の先生の活動や、瀬戸内の家舟の事、あるくみるきくの事など、しばしお話しさせていただいた。
『もう会場にも入れるようですから、今日はゆっくり楽しんでいってください』 『はい、ありがとうございます』
 
***
午後2時。 講演会がスタート。 芳賀さんが、初めて宮本常一と歩いた九州旅行の写真と、その時のエピソードが話される。
熊本駅で落ち合い、宮本の希望で最初に向かったのが通潤橋。
 
なんという偶然であろう。 この春に妻と出かけた九州ドライブ旅行で偶然最初に訪れた場所が『通潤橋』なのである。 この時は、ナビの誘導に従って予定外のルートで走っていたとき、偶然見つけて立ち寄ったのが通潤橋。 たまたまそこで出会った地元のおばちゃんに、宮本常一が芳賀さんに話して聞かせたと言う通潤橋の建設に関わる言い伝えを聞いたのである。

まるで、これまでの旅で何度もあった、偶然を装った必然である!

1時間の講演の後は、森本さんも加わってのトークセッション。


*** 以下、芳賀さんの講演、およびトークセッションより ***

『旅をして珍しいものを探すのではなく、あたり前の、ごく普通のものを見つける事が、宮本常一の凄いところ』 『見ようとして歩く事が大切だ』

『私ら写真家は、撮った写真をどこかに発表しようと言う気持ちがあるが、宮本常一の写真は、記録するための写真。 自分では覚えきれないからカメラに覚えさせる。 脳細胞の一部としてカメラを活用していたという事』 『普通ならフィルムがもったいなくてあんな使い方はできないが、オリンパスペンが出てきて、ハーフサイズになったから、あのような使い方ができるようになった。 オリンパスペンのペンは書くPenの事。 まさに、あのカメラのコンセプトが、宮本常一の使い方にピッタリであった』

『一眼レフが出てきてオリンパスペンが製造中止になったのは、偶然にも宮本常一が無くなった年であった』

『宮本常一の庶民精神は凄い。 どこかに飲みにいこうかと言われた時に、普通は鰻が食べたいとか、何が良いとか言うものだが、宮本常一は違った。 「気楽なところにしてくれ」と言うのだ。 気楽なところということで、その人の行き付けの店に行く事になる。 この、気楽なところにしてくれ、というのは本当に良い返事だ』

***

『宮本常一の知識は、本で勉強したものではなく、実際に旅をして学び、深めたものだから、その凄さが違う』

『宮本常一は普通のおじさんだ。 だが、同じものを見ても聞いても、宮本常一と言うフィルターを通して出てくるものが素晴らしい』

『宮本常一は、組織の中ではなく、一人で事を成し遂げる人』

『宮本常一の写真は、知識を持って撮った写真。 その知識があるからこそ、ごく普通のものの中から、意味のある、価値のあるものを撮ることができた』

*** 以上、引用終わり ***

あっという間の2時間が過ぎ、写真講座はお開き。 うん、良いイベントだった。 今回が3回目という事だが、機会があればまたぜひ参加したいものである。 森本さんにご挨拶をして、会場を後にした。

夜は、地元にあるお気に入りの居酒屋で一人で一杯飲り、海沿いの駐車場で車中泊。 なかなか充実した一日であった。
***
それにしても、数年前に宮本常一関連のイベントでお会いした香月先生と言い、森本先生と言い、観光文化研究所出身の民俗学者の方々は、皆さん気さくで話しやすい方々ばかり。
やはり、知らない土地に行って、初めて出会った地元の方々と親しくなり、着飾らない貴重な話を聞き取り、調査してまとめていくという仕事をするには、そういうキャラクターが必須なんだろうなあ。 良い勉強になった。

*追記: 帰りに道の駅で、周防大島名物のサツマイモ、『東和きんとき』を一パック買って帰った。 家に帰ってパッケージをよく見ると、そこには『宮本農園』の記載が。。。 ということは、あの宮本農園で作られた”東和きんとき”ということである。 偶然とは言え、これにも驚いた。

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