錦之助ざんまい

時代劇のスーパースター中村錦之助(萬屋錦之介)の出演した映画について、感想や監督・共演者のことなどを書いていきます。

『血斗水滸伝 怒涛の対決』(その1)

2006-10-07 19:14:53 | 旅鴉・やくざ

 『血斗水滸伝 怒涛の対決』(昭和34年)を観た。これはオールスター映画なのだが、ちょっと珍しい作品だった。赤穂浪士でも清水次郎長でも水戸黄門でもなかったからだ。では、何の話かと言えば、タイトルでもお分かりのように、『天保水滸伝』だった。浪曲ファンならさぞや懐かしいことだろう。玉川勝太郎の十八番『天保水滸伝』は、「利根の川風、袂に入れて…」で始まる有名な浪曲である。江戸末期の天保年間、利根川を挟んで、二人のやくざの大親分が縄張り争い。かたや笹川繁蔵、かたや飯岡助五郎、そこに大酒飲みで肺病の浪人平手造酒(ひらてみき)が登場する話。と言っても若い人は知らないかもしれない。三波春夫の大ヒット曲ももう年寄りしか知らなくなってしまった。「利根の、利根の川風…」で始まり、途中で平手造酒の名セリフ「止めてくださるな、妙心殿…」が入る『大利根無情』のことだ。懐かしいなあ。私の祖母が三波春夫の大ファンで、口ずさんでいた歌の一つだった…。
 さて、そんな話はどうでもよい。この映画について語ろう。脚本は高岩肇、監督は佐々木康だった。撮影三木滋人、音楽山田栄一。普通、東映オールスター映画と言えば、監督松田定次、脚本比佐芳武、撮影川崎新太郎のゴールデン・トリオが常連だが、この映画は違っていた。
 オールスター映画だからもちろん、千恵蔵、右太衛門の両御大をはじめ、錦之助も千代之介も橋蔵も大友柳太朗もみんな出演している。月形、大河内、堺駿二、進藤英太郎…。女優陣は、美空ひばり、長谷川裕見子、千原しのぶ、丘さとみ、大川恵子、ベテランの花柳小菊…。こうなると、配役に苦労する。
 主役の親分笹川繁蔵に右太衛門、千恵蔵が国定忠治、両御大を向こうに回す悪役の親分飯岡助五郎は進藤英太郎だった。平手造酒が大友柳太朗で、千代之介は繁蔵の可愛い子分、清滝の佐吉。東映に移籍した若山富三郎が結構良い役で、笹川一家の参謀、勢力(せいりき)の富五郎で、芸妓の美空ひばりの恋人役。橋蔵は旅人やくざで、お尋ね者だったが、悪辣な助五郎を見限り、繁蔵一家の千代之介のために一肌脱ぐというカッコいい役であった。
 この映画は昭和34年のお盆に封切られたものだが、この頃の東映スターの勢力図がよく分かる。両御大の次に目立つ役柄は、男優ではまず錦之助、それに大友柳太朗と千代之介と橋蔵、女優では何と言っても美空ひばりだった。(冒頭の写真をご覧あれ!)
 
 さて、錦之助が問題である。これが、錦ちゃんファンにとっては悩ましい役柄である。洲崎の政吉という男気のあるやくざなのだが、笹川一家ではなく悪親分の飯岡助五郎の子分だったために苦労が絶えない。子分といっても飯岡一家の代貸しだからナンバー・ツー。だが、女房の父親が笹川一家の身内だったために、不幸を招く。助五郎と繁蔵の両親分の板ばさみになって、苦しみ抜き、果ては悲惨な最期となる。この役、錦之助が自分から選んだのであろうか。それにしても、ミジメで可哀想な役柄ではないか。(つづく)




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