今回は、ついでにと言っては何だが、田代百合子について語ってみたい。以前は、錦之助の共演女優の記事を書いたこともあったのだが、ずっとお休みしていた。ここらで、そうした記事を復活させるのも良いかもしれない。映画論ばかりだと、読んでいる皆さんも飽きてくるし、書いている私の方も、筆が進まず、記事が滞りがちになる。本当は共演男優についても書かなければならないと思うのだが、男である私は、当然のことながら女優の方に数倍の興味がある。お許し願いたい。
田代百合子は、『濡れ髪二刀流』で錦之助との共演が最後になった。その後すぐに東映を辞めてしまったからだ。東映を退社してからは大映や松竹の映画に出ていたらしいが、私が覚えているのは、小津安二郎の『秋日和』で誰かの娘役をやっていた田代百合子だけである。
思えば、『笛吹童子』以来三年間、田代百合子は錦之助の相手役を何度も務めてきた。『里見八犬伝』『お坊主天狗』『新選組鬼隊長』『海の若人』『あばれ振袖』『赤穂浪士』『紅だすき素浪人』『ヒマラヤの魔王』などが錦之助との共演作である。
『笛吹童子』で彼女が演じた桔梗という娘は、錦之助の菊丸に思いは寄せていたものの、その思いはかなえらずに終わってしまう。桔梗は、満月城の家老・上月左門の娘で、菊丸は城主の遺児だった。身分の違いがあった上に、菊丸には中国(明の国)に婚約まで交わした女がいた。所詮、かなわぬ恋だったのだろう。
『お坊主天狗』では、小染(錦之助)に惚れる乙女のような娘役を演じた。片岡千恵蔵の妹役だったと思う。初めは、錦之助のことを美しい女だと思って惚れるレズビアン的な関係が面白かった。錦之助が凛々しい若侍に変身すると、そこでまた惚れ直す。要するに錦之助のすべてが好きなミーハーのファンみたいな役柄だった。
『新選組鬼隊長』では、沖田総司(錦之助)の恋人役を演じた。胸を病んで床についた錦之助を甲斐甲斐しく世話する田代百合子が幸せそうで良かった。
『海の若人』での田代百合子の役は、それまでの生一本な純情娘とは違って、港町の年増芸者だった。この役はなかなか魅力的だった。田代百合子はいわくありげな田舎芸者で(といっても静岡のどこかの街の芸者である)、商船学校の若い学生(錦之助)を可愛がる。錦之助には美空ひばり(女子高校生)の恋人がいるのだが、この芸者との関係が学校の噂になって大問題となる。田代百合子が酔漢に教われて足を挫き、錦之助におんぶしてもらうシーンが印象的だった。彼女がいかにも重そうだったからだ。
話はちょっと脱線するが、錦之助はしばしば相手役の女優をおんぶしてきた。おんぶの場面があると、錦ちゃんの女性ファンたちは抗議の手紙を錦之助に送ったそうだ。錦之助は若い頃の著書『あげ羽の蝶』の中で、ファンの方は僕が女の人を背負うことをとてもきらっているようだ、なぜだかわからないが、止めてくれと言われる、と書いている。錦之助は、ドラマで必然性があれば女の人をおんぶするのも仕方がないといった意味のことを書いて弁解しているが、女性ファンがいやがる理由ははっきりしている。女のオッパイや太ももが錦チャンの体に当たるのがいやだったのだ。話はさらに脱線するが、映画の中で錦之助がおんぶした歴代女優を挙げておこう。古い順である。美空ひばり(『ふり袖月夜』)、高千穂ひづる(『満月狸ばやし』)、千原しのぶ(『獅子丸一平』『晴姿一番纏』)、田代百合子(『海の若人』『紅だすき素浪人』)、大川恵子(『紅顔無双流』)、ざっとこんなところか。丘さとみ、桜町弘子、中原ひとみは、私の記憶ではおぶったシーンが思い浮かばない。忘れていた。『瞼の母』の中で、名も知らぬお婆さんをおぶっていた。それと、だっこした女優は、岩崎加根子(『反逆児』)、浪花千栄子(『宮本武蔵』)といったところか。
話を戻そう。オールスター映画の『赤穂浪士』でも田代百合子は錦之助の恋人役だった。錦之助は、小山田庄左衛門という若い浪士で、さち(田代百合子)という娘にすがりつかれて、討ち入りを断念することになってしまう。
『紅だすき素浪人』では、世津という娘で、江戸へ旅している途中、危ないところを中山安兵衛(錦之助)に救われ、道中を共にしている間に相思相愛になる。この映画の配役と登場人物の設定は、『濡れ髪二刀流』と似ていた。田代百合子は、武家の娘で、江戸に行って消息不明になった許婚(この役がまた片岡栄二郎)を探し求めていたのだが、この許婚が不良浪人になり果てていた。田代百合子は、切り傷を負い、床に伏せていたが、最後は錦之助に見取られ死んでしまう。悲しい女の役だった。(了)
田代百合子は、『濡れ髪二刀流』で錦之助との共演が最後になった。その後すぐに東映を辞めてしまったからだ。東映を退社してからは大映や松竹の映画に出ていたらしいが、私が覚えているのは、小津安二郎の『秋日和』で誰かの娘役をやっていた田代百合子だけである。
思えば、『笛吹童子』以来三年間、田代百合子は錦之助の相手役を何度も務めてきた。『里見八犬伝』『お坊主天狗』『新選組鬼隊長』『海の若人』『あばれ振袖』『赤穂浪士』『紅だすき素浪人』『ヒマラヤの魔王』などが錦之助との共演作である。
『笛吹童子』で彼女が演じた桔梗という娘は、錦之助の菊丸に思いは寄せていたものの、その思いはかなえらずに終わってしまう。桔梗は、満月城の家老・上月左門の娘で、菊丸は城主の遺児だった。身分の違いがあった上に、菊丸には中国(明の国)に婚約まで交わした女がいた。所詮、かなわぬ恋だったのだろう。
『お坊主天狗』では、小染(錦之助)に惚れる乙女のような娘役を演じた。片岡千恵蔵の妹役だったと思う。初めは、錦之助のことを美しい女だと思って惚れるレズビアン的な関係が面白かった。錦之助が凛々しい若侍に変身すると、そこでまた惚れ直す。要するに錦之助のすべてが好きなミーハーのファンみたいな役柄だった。
『新選組鬼隊長』では、沖田総司(錦之助)の恋人役を演じた。胸を病んで床についた錦之助を甲斐甲斐しく世話する田代百合子が幸せそうで良かった。
『海の若人』での田代百合子の役は、それまでの生一本な純情娘とは違って、港町の年増芸者だった。この役はなかなか魅力的だった。田代百合子はいわくありげな田舎芸者で(といっても静岡のどこかの街の芸者である)、商船学校の若い学生(錦之助)を可愛がる。錦之助には美空ひばり(女子高校生)の恋人がいるのだが、この芸者との関係が学校の噂になって大問題となる。田代百合子が酔漢に教われて足を挫き、錦之助におんぶしてもらうシーンが印象的だった。彼女がいかにも重そうだったからだ。
話はちょっと脱線するが、錦之助はしばしば相手役の女優をおんぶしてきた。おんぶの場面があると、錦ちゃんの女性ファンたちは抗議の手紙を錦之助に送ったそうだ。錦之助は若い頃の著書『あげ羽の蝶』の中で、ファンの方は僕が女の人を背負うことをとてもきらっているようだ、なぜだかわからないが、止めてくれと言われる、と書いている。錦之助は、ドラマで必然性があれば女の人をおんぶするのも仕方がないといった意味のことを書いて弁解しているが、女性ファンがいやがる理由ははっきりしている。女のオッパイや太ももが錦チャンの体に当たるのがいやだったのだ。話はさらに脱線するが、映画の中で錦之助がおんぶした歴代女優を挙げておこう。古い順である。美空ひばり(『ふり袖月夜』)、高千穂ひづる(『満月狸ばやし』)、千原しのぶ(『獅子丸一平』『晴姿一番纏』)、田代百合子(『海の若人』『紅だすき素浪人』)、大川恵子(『紅顔無双流』)、ざっとこんなところか。丘さとみ、桜町弘子、中原ひとみは、私の記憶ではおぶったシーンが思い浮かばない。忘れていた。『瞼の母』の中で、名も知らぬお婆さんをおぶっていた。それと、だっこした女優は、岩崎加根子(『反逆児』)、浪花千栄子(『宮本武蔵』)といったところか。
話を戻そう。オールスター映画の『赤穂浪士』でも田代百合子は錦之助の恋人役だった。錦之助は、小山田庄左衛門という若い浪士で、さち(田代百合子)という娘にすがりつかれて、討ち入りを断念することになってしまう。
『紅だすき素浪人』では、世津という娘で、江戸へ旅している途中、危ないところを中山安兵衛(錦之助)に救われ、道中を共にしている間に相思相愛になる。この映画の配役と登場人物の設定は、『濡れ髪二刀流』と似ていた。田代百合子は、武家の娘で、江戸に行って消息不明になった許婚(この役がまた片岡栄二郎)を探し求めていたのだが、この許婚が不良浪人になり果てていた。田代百合子は、切り傷を負い、床に伏せていたが、最後は錦之助に見取られ死んでしまう。悲しい女の役だった。(了)
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