錦之助ざんまい

時代劇のスーパースター中村錦之助(萬屋錦之介)の出演した映画について、感想や監督・共演者のことなどを書いていきます。

『越後獅子祭り やくざ若衆』

2015-05-12 16:23:34 | 旅鴉・やくざ
 錦之助が初めて演じた長谷川伸の戯曲の主人公は、「越後獅子祭」の片貝の半四郎だった。映画のタイトルは『越後獅子祭り やくざ若衆』。サブタイトルが「越後獅子祭り」で(戯曲は「祭」)、大文字でクレジットされているメインタイトルは「やくざ若衆」である。昭和30年2月13日封切。撮影は同年1月。錦之助初の股旅物映画であり、錦之助が旅人やくざに扮した処女作(!)。錦之助、22歳でした。

 先日、久しぶりにこの映画のビデオを見て、長谷川伸の戯曲を読み、もう一度ビデオを見た。錦之助が若々しく、やくざというよりお坊っちゃんのようで、お品が良く、ミーハー的な見方をすれば、可愛らしかった。錦之助はこういう旅人やくざをやっても、育ちがいいためか、薄汚れた感じや下卑たところがまったくない。晴れやかで颯爽としていた。まるで大店の若旦那が親に勘当されて自由の身になり、旅人さんになっちゃった雰囲気、とでも言おうか、やくざ稼業を楽しんじゃってる印象すらうかがわれた。これは、錦之助が股旅物を初めてやったため、張り切りながらもウキウキとした気持ちが自然とにじみ出てしまったからなのだろう。

 錦之助のあの衣裳も特注の豪華版だったのではなかろうか。着物は前半が格子縞、後半は豆しぼりの2着だったが、京都の老舗で作らせたピカピカの新品のようだ。道中合羽に三度笠、振り分け荷物を肩にかけ、Vの字に開いた着物の胸元からは黒い木綿のTシャツ(いや肌着)が見える。場所が上越街道という設定だし、正月の撮影で寒かったでしょうね。それはともかく、錦之助の登場シーンはサマになっていた。錦ちゃんは、歌舞伎にいた頃もこういう衣裳は着たことがなかったはずで、きっとご満悦だったのではないでしょうか。

 冒頭、三度笠を切られ、錦之助の顔がのぞくカットがいい。股旅映画では主役スターが顔を見せる常套手段だが、こういう登場の仕方も錦ちゃんにとってこの映画が初体験でした。錦ちゃんファンのキャーッと歓声と、「かわいーっ!」というため息が今でも聞こえてきそうな気がします。以後、錦ちゃんは何度もこういう出方をしたかと思うが、あのちょっと恥ずかしげで、照れ笑いをしたような、それでいて自信ありげに「こんちは、どう、俺カッコいい?」とファンに語りかけている表情。これがなんとも言えず魅力的なんだよなァ。
 三度笠が割れて顔を見せるカットのある錦ちゃんの映画では、私の記憶によると、『浅間の暴れん坊』が大変印象深い。しかし、いちばんカッコ良かったのは、『弥太郎笠』。その場面は途中で出てくる。錦ちゃんファンならご存知でしょうね。松井田宿に帰ってきた弥太郎が悪親分の家へ三度笠をかぶって乗り込んでいき、入口の土間で仁義を切るや、確か手下の尾形伸之介さんの長脇差(ドス)で三度笠をバサッと切られ、錦ちゃんが素晴らしい顔を見せる。シビレます。さすがマキノ雅弘のあざやかな演出で、このカットから始まるシーンは、何度見ても惚れ惚れとします。もし私が錦之助名場面集を作るとしたら(いつか編集して作りたい)、絶対に入れるシーンであります。

 話が飛んだが、『やくざ若衆』のファーストシーン。街道を歩いていく男の影が地面に映って、キャメラが上に移動すると、三度笠をかぶって顔は見えないけど、股旅姿の錦之助。ラストシーンも同じで、私は結構、この映画の最初と最後が気に入っています。で、中身の方はどうかと言うと、錦之助以外のキャスティング、監督の演出、シナリオなど文句をつけたいことがたくさんあるんですが……。そんなこと今更書いても仕方がないだろと言われるかもしれないが、次回にちょっとだけ書きます。あと、この映画の裏話なんかも。(つづく)




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1 コメント

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お久しぶりです〓 (伊勢 中川)
2015-05-12 18:40:58
ずっと 記事が なかったので お身体でも 壊されておられるのか?~と思い お手紙でも 出させて頂こうかな~ と 思案しておりました。 お身体は お元気そうで 何よりで ございます。 又 記事を 載せて下さるようですので 楽しみにしております。

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