錦之助ざんまい

時代劇のスーパースター中村錦之助(萬屋錦之介)の出演した映画について、感想や監督・共演者のことなどを書いていきます。

『待ち伏せ』

2006-10-02 16:58:30 | 美剣士・侍

 『待ち伏せ』(昭和45年)は、一応最後まで投げずに観られる娯楽時代劇だったが、二度、三度と繰り返し観たいと思うほど出来の良い映画ではなかった。いろいろな点で不満が残る映画だったと言える。それは、キャスティングの点にもあったし、映画の内容の点にもあった。

 まず、内容について言えば、洋画ではしばしば用いられるグランド・ホテル形式(特定の場所に登場人物たちが集まってドラマを展開し、その人間模様を描く映画の表現形式)を時代劇に取り入れようとしたアイディアそのものは良かったと思う。この映画は時代劇だから、もちろん設定した場所はホテルではなく、峠の茶屋だった。また、そこでどんな事件が起こるか分からないまま、話を進めて行ったことも観客にサスペンスを感じさせ、面白味があった。だから、前半までは飽きずに観ていられたのであろう。
 が、途中からストーリーの運び方にこじつけの多さを感じるようになり、ドラマが展開しないこともあって、もどかしさを覚えた。と同時に、この映画はダメだなと思った。後半は支離滅裂になりそうなストーリーをようやくまとめた印象を受け、映画の狙いも分からずじまい、ラストシーンの派手な殺陣で誤魔化されてしまった。アイディアは不発、人間模様が十分描けていない未完成な脚本のまま映画を作ってしまったとしか私には思えなかった。

 あらすじはこうだ。どこかの大藩の黒幕が腕の立つ浪人(三船敏郎)を金で雇う。浪人は、重大な事件が起こる場所へ行き、指示があるまで待機するよう命ぜられる。この浪人は、途中で、亭主に虐待されていた女(浅丘ルリ子)を救い出し、この女を連れて峠の茶屋にやって来る。ここは、爺さん(有島一郎)と孫娘の二人がやっているさびれた茶屋なのだが、浪人と女のほかに、何人か人物が現れる。旅鴉のやくざ(石原裕次郎)、むさくるしい風采の医者(勝新太郎)、そして、傷を負った奉行所の役人(中村錦之助)と捕らえた盗人がなだれ込んで、ストーリーが展開していく。
 前半は、登場人物の性格描写があったり、浪人と女、旅鴉と茶屋の娘の間に恋心の芽生えがあったりして、結構面白いのだが、祭りの太鼓を練習している若者達がどっと茶屋に詰め掛けるあたりから、訳が分からなくなった。後半で、盗人を奪い返そうと、悪党の一味が茶屋を占拠し、医者(勝新)がその首領だったことが判明、浪人の三船もこちらに加担して、話が変な方向に進んでしまう。御用金を運んで来る行列をここで襲撃するという目的が明らかになるや、裏切ったり裏切られたりで斬殺場面が増えていき、もう私は話について行けなくなってしまった。登場人物のドラマなどどこかへ吹っ飛んでしまい、まるで茶番劇みたいになったと思った。
 
 この映画は、ある意味で、「昔の名前で出ています」といった元映画スターの競演(単に共演でも良い)だけが見どころの映画でもあった。三船敏郎、石原裕次郎、勝新太郎、中村錦之助、そして浅丘ルリ子の五人が一堂に会して、丁々発止わたり合う時代劇であると言えば、それだけで凄いと思う映画ファンもいたかもしれない。しかし、戦後映画の全盛期、五社協定の厳しかった昭和30年代なら夢のような競演だったとしても、大手映画会社が凋落し、スターも輝きを失いつつあった当時 (1970年)を振り返えれば、五大スターの出演作と言ってもそれほど驚くべきことではなかった気がする。映画スターが専属会社を次々に辞め、いわゆるスター・プロを設立して、看板スター同士が助け合い精神を発揮していたのもこの頃である。観客は、すでにこうしたスターの競演にも慣れっこになっていたと思う。そして、スターばかり揃えて独立プロが製作したこの種の大作映画も、宣伝ばかり大袈裟で、実際映画館に足を運んで観てみると、映画自体の内容の空疎さにうんざりしていたことも事実である。昔の東映オールスター映画の方がずっと面白かったのだ。
 この映画、正直言って、三船敏郎だけをそのままにして、あとの配役はイメージに合いそうな俳優なら誰でも良かったような気がする。勝新太郎と浅丘ルリ子はこの役のままでも良いと思うが、旅人やくざがまったく似合わない石原裕次郎はご愛嬌で出演したに過ぎず、他の俳優が演じてもちっとも構わなかった。貧乏くじを引いて一番ひどかったのは錦之助である。錦之助が、なぜこんな詰まらない役をやらなければならないかと、強い疑問を抱いたファンも多かったにちがいない。私もその一人で、錦之助の演じたドモリの役人は、脇役みたいなもので、こんな役を演じなければならなかった錦之助に憐れすら感じるほどだった。錦之助が三船プロ製作の映画に出演した三本(ほかに『風林火山』と『新選組』がある)の中では、これは最悪の役柄だったと思う。

 『待ち伏せ』は、三船プロ製作、東宝配給の映画で、監督は稲垣浩だった。『風林火山』の大ヒットにあやかって、もう一度、稲垣浩を担ぎ出したまでは良かったが、それほどヒットせずに終わったのも、映画の出来ばえからして当然だったと思う。この映画が、稲垣浩の遺作になってしまったのは残念である。脚本は稲垣浩、小国英雄、高岩肇、宮川一郎の四人による共同執筆だったが、船頭多くして船山に登るとも言える作品になっていたと思う。




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