錦之助ざんまい

時代劇のスーパースター中村錦之助(萬屋錦之介)の出演した映画について、感想や監督・共演者のことなどを書いていきます。

錦之助出演のラジオドラマ(1)

2015-10-31 13:55:17 | 【錦之助伝】~スター誕生
 錦之助が初めてラジオ放送劇に声優として出演したのは、映画デビューする前、まだ歌舞伎界にいた頃だった。錦之助の自伝「あげ羽の蝶」の中でこう書いている。

――「新書太閤記」を、日吉丸時代を弟の賀津雄、少し大きくなって僕、壮年期を千秋実さんとそれぞれわけてやったのが初めてですが、この時はさしてあがりもせず、順調でした。

 これは吉川英治原作の「新書太閤記」のラジオドラマであろう。放送時期、放送局などについて調査したいと思うのだが、なにぶん昔のラジオドラマなのでデータが残っていないようだ。インターネットに「配役宝典」というサイトがあって、たまに見ることがあるのだが、豊臣秀吉を調べてみると、ちゃんと出ていた。

 北沢彪 / 中村賀津雄(声)ラジオドラマシリーズ「新書太閤記」(昭和28年)

 錦之助の名前はないが、賀津雄と「新書太閤記」とあるので、このラジオドラマに間違いなかろう。錦之助は、千秋実と書いているが、「配役宝典」では北沢彪である。どちらが正しいのか? 錦之助の記憶違いなのだろうか。それとも千秋実の予定が途中で北沢彪に代わったのだろうか。
 放送局は不明である。NHKかニッポン放送かラジオ東京のいずれか?
 放送期間は、昭和28年のいつごろだったのか、時間帯も不明だ。たぶん夜だと思うが、「新書太閤記」ならば人気番組だったにちがいない。
 それにしても、錦之助が映画デビューする前に、ラジオドラマの声優に挑戦し、若き日の木下藤吉郎に扮していたというのは意外である。
 ところで、昭和28年には東映が「新書太閤記」二部作を製作し、第一部「流転日吉丸」(萩原遼監督)を5月半ばに、第二部「急襲桶狭間」(松田定次監督)を9月末に公開している。ラジオドラマはこの映画の前宣伝のために制作されたのだろうか? あるいは逆に、ラジオドラマをやっていたので、東映がそれに便乗して映画を製作したのであろうか。映画はフィルムが残っているのかどうか不明だが、データによると第一部で日吉丸に扮したのは石井一雄、木下藤吉郎になってからは市川右太衛門である。第一部で織田信長は岡田英次、蜂須賀小六は月形龍之介。第二部で信長は龍崎一郎、前田犬千代が河津清三郎、今川義元が岡譲司。

 錦之助のラジオドラマ出演の2本目が「明玉夕玉」だ。美空ひばりが主役で、錦之助が相手役である。このドラマについては、以前このブログに書いたことあるが、先日You Tubeでいろいろ探していたら、ニッポン放送のラジオ番組のアーカイブがあり、そこにこの「明玉夕玉」のほんの一部が収録されているのを見つけた。
 二部に分けてあり、片方に昭和29年(1954年)7月から始まった「明玉夕玉」があるではないか!! まさかこんな古いラジオ放送が今になって聞けるとは思ってみなかったので、驚く。「明玉夕玉」は、わずか2分かそこらだけだが、貴重な音源である。ひばりの主題歌で始まり、ナレーション(誰か?)のあと、ひばりと錦之助の声でドラマが展開する。ひばりは声優をやってもプロ級でうまい。錦之助はそんなに下手でもないが、ちょっと噛んでしまった言葉が二つあった。このアーカイブには、ほかに「少年探偵団」と「モノマネのど自慢」が入っている。1979年、ニッポン放送が開局25周年記念の時に、野球のナイター中継の合間に流したものだという。奇特な人がいたものだ。カセットテープに録音したものをずっと保存していて、You Tubeにアップしてくれたのだ。

 ラジオドラマ「明玉夕玉」を試聴する(クリック!)

 「明玉夕玉」は、月刊「平凡」誌に昭和29年8月号(6月下旬発売)から始まった連載小説だが、中沢巠夫(みちお)・作、山口将吉郎・画。挿絵が紙芝居のように数多く描かれ、「ラジオで放送する日本で初めての立体絵物語」がキャッチフレーズ。作者の中沢巠夫は当時売れっ子の大衆作家で、山口将吉郎は吉川英治の「神洲天馬俠」の挿絵で有名な画家である。豊後の臼杵(うすき)家に伝わる家宝の真珠・明玉夕玉をめぐって、臼杵家の娘珠姫とその恋人の竜太郎が悪漢たちと争奪戦を繰り広げ、珠姫の父で囚われの身にあった豊後守を救出するといった物語である。
 「明玉夕玉」は、芸能雑誌とラジオドラマがタイアップした最初の試みだったようだが、ラジオドラマの方は、主役の珠姫に美空ひばり、相手役の竜太郎に錦之助が選ばれ、7月第3週からまずニッポン放送で番組が開始された。毎週日曜午後7時からである(のちに7時30分からに変更された)。「平凡」9月号には「明玉夕玉」の第2回が掲載されるが番組の放送日程も書いて宣伝を加え、さらに、10月号からは、挿絵のいくつかにひばりと錦之助の顔写真を配して、物語のイメージを掻き立てた。
 ひばりと錦之助はそれまで映画で3本共演していたが、ラジオドラマでも共演をしたわけである。ただし、声だけの共演である。多忙な二人は、それぞれ別々にスタジオでセリフを録音することがほとんどだったという。
 錦之助の書いた文章を見ると、錦之助はどうも最初からこのラジオドラマの出演には気乗りがしなかったようだ。

――『ふり袖月夜』の撮影中、連続放送劇「明玉夕玉」を頼まれ、イヤだというのに京都から東京に着くとすぐ、その日のうちに脚本をもらってすぐ録音というあわただしい放送の仕事をさせられました。気持は落ち着かず、NGの連続です。