自民党の裏金が大きな政治問題になっています。パーティー券などで裏金をつくる脱法的手法も問題ですが、さらに注視すべきは、その裏金が誰に何のために使われたかです。
その点で特に注目されるのは幹事長だった二階俊博氏(写真中)の裏金です。
自民党が13日公表した「82人の裏金」で金額が最も多かったのは二階氏の3526万円です。二階事務所は、「3年間で書籍代3472万円を支出…購入したのは17種類、計2万7700冊」と説明しています(15日付朝日新聞デジタル)。常識では考えられない額と冊数です。
その多くは、二階氏自身をPRする本ですが、異彩を放っているのが、二階氏の本でないにもかかわらず購入金額が3番目に多かった『小池百合子の大義と共感』(大下英治著、発行・エムディエヌコーポレーション、2020年=写真右)です。3千冊、396万円が裏金から支出されました。
16日の記者会見でこの問題を追及された小池氏は、「それは把握しておりませんでした」「著者は大下さん。(私の)直接の本ではない」(16日付朝日新聞デジタル、写真左)と述べ、“無関係”を装いました。しかしそうはいきません。
同書は文字通り、小池百合子PR本です。たとえばこうです。
「小池知事は、政治家としてメッセージを打ち出す際、「大義」と「共感」の二つを強く意識している」「果たして、小池は、今回の知事選の勝利に限らず、さらに、女性初の総理大臣になる野望を秘めているのだろうか…」
そして同書が繰り返し言及しているのが、「小池百合子東京都知事と自民党の二階俊博幹事長との付き合いは長い」「二階と小池は、たびたび面会をし、意見交換をする仲でもある」という両氏の親密な関係です。
小池氏が「二階先生には、折にふれ、政治の本質について色々教わり、今もご指導いただいています」と言えば、二階氏も「小池さんは、衆院議員の頃から、非常に先見性があり、勇気と度胸もあり、政治家としての高い資質を持っていました」と応えています。
強調されているのは、「二階は一貫して自民党内で小池の都知事選再選を訴え続けている」ことです。
注目すべきは、この本が出版されたのが2020年7月、都知事選(7月5日)の真最中だったことです。1カ月前の6月12日、小池氏は知事選に出馬して再選を目指すと発表しました。
自民党内、とりわけ東京都連の中には、自民党から飛び出して新党を結成した小池氏に対する根深い不信・批判があります。知事選でも自民党は当初の独自候補を模索していました。それを抑えて候補者を断念させたのも二階氏でした。
その二階氏が小池氏を都知事にふさわしいと絶賛する同書は、事実上、小池氏の知事選PR本であり、自民党都連を小池支持でまとめる政治的狙いがあったことは明白です。
小池氏の都知事再選のための事実上の広告費が、二階氏の裏金から396万円流用されたと言って過言ではありません。
裏金問題は、それを作って政治戦略に使った自民党が責められるのは当然ですが、それによって利益を得た側の責任も厳しく問われなければなりません。