アリの一言 

天皇制、朝鮮半島、沖縄の現実と歴史などから、
  人権・平和・民主主義・生き方を考える。
   

歴史の教訓無視し差別助長するする感染症法改悪案

2021年01月23日 | コロナ禍と政治・社会

    

 菅義偉政権は22日、コロナ特措法と感染症法の「改正」案を閣議決定しました。特措法「改正」は、休業や時間短縮を事業者に命令し、従わないと店名を公表したり行政罰を科すもの。感染症法「改正」は、入院や調査を拒否した人に懲役・罰金の刑事罰を科すもの。いずれも憲法が保障する基本的人権を踏みにじる改悪で、絶対に容認することはできません。

 日本弁護士連合会(荒中会長)は22日、「感染症法・特措法の改正法案に反対する会長声明」を出し、「本来保護の対象となるべき感染者や事業者に対し、罰則の威嚇をもってその権利を制約し、義務を課すにもかかわらず、その前提となる基本的人権の擁護や適正手続の保障に欠け感染者等に対する差別偏見が一層助長され、極めて深刻な人権を招来するおそれがある」とし、「抜本的な見直しがなされない限り、強く反対する」と表明しました(写真中)。

 これより先、医学専門家集団の日本医学会連合(門田守人会長)は14日、「緊急声明」を出し、感染症法の「前文」、第2条(「国及び地方公共団体が講ずる施策は…感染症の患者等が置かれている状況を深く認識し、これらの者の人権を尊重しつつ、総合的かつ計画的に推進されることを基本理念とする」)を引用し、次のように指摘して「人権への最大限の配慮」を求めました(写真右)。

 「罰則を伴う強制は国民に恐怖や不安・差別を惹起することにもつながり、感染症対策をはじめとする公衆衛生施策において不可欠な、国民の主体的で積極的な参加と協力を得ることを著しく妨げる恐れがあります。刑事罰・罰則が科されることになると、それを恐れるあまり、検査を受けない、あるいは検査結果を隠蔽する可能性があります。結果、感染の抑止が困難になることが想定されます

 感染症法は、日本がかつて結核やハンセン病などで患者・感染者を強制収容する著しい人権侵害をおこない、ハンセン病の元患者・家族などをいまも苦しめ続けている苦い教訓に立ち、1998年に伝染病予防法を廃して制定されたものです。その前文には法の趣旨が明確に示されています。それはまるで現在のコロナ禍を予想していたかのようでもあります。以下、前文を全文転記します。

<人類は、これまで、疾病、とりわけ感染症により、多大の苦難を経験してきた。ペスト、痘そう、コレラ等の感染症の流行は、時には文明を存亡の危機に追いやり、感染症を根絶することは、正に人類の悲願と言えるものである。
 医学医療の進歩や衛生水準の著しい向上により、多くの感染症が克服されてきたが、新たな感染症の出現や既知の感染症の再興により、また、国際交流の進展等に伴い、感染症は、新たな形で、今なお人類に脅威を与えている。
 一方、我が国においては、過去にハンセン病、後天性免疫不全症候群等の感染症の患者等に対するいわれのない差別や偏見が存在したという事実を重く受け止め、これを教訓として今後に生かすことが必要である
 このような感染症をめぐる状況の変化や感染症の患者等が置かれてきた状況を踏まえ、感染症の患者等の人権を尊重しつつ、これらの者に対する良質かつ適切な医療の提供を確保し、感染症に迅速かつ適確に対応することが求められている。
 ここに、このような視点に立って、これまでの感染症の予防に関する施策を抜本的に見直し、感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する総合的な施策の推進を図るため、この法律を制定する。>

 菅政権が行おうとしている感染症法改悪は、こうした医学・法律の専門家の抗議・反対を無視し、歴史の歯車を逆に回して患者の人権を踏みにじり、差別・偏見を助長し、感染対策にも逆行する、まさに最悪の愚行と言わねばなりません。

 立憲民主党など野党は、「刑が重すぎる」としていますが、これは刑の軽重という量の問題ではありません。患者に刑事罰を科すという質的な暴挙です。「刑の軽減」などの「修正」で容認できるものではないことを野党側も肝に銘じる必要があります。


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