アリの一言 

天皇制、朝鮮半島、沖縄の現実と歴史などから、
  人権・平和・民主主義・生き方を考える。
   

「政治家」の「謝罪」とは何か

2016年02月15日 | 安倍政権

  

 甘利明経済再生相(当時)、島尻安伊子沖縄・北方担当相、丸川珠代環境相、そして宮崎謙介衆院議員・・・。安倍政権・自民党の相次ぐ不祥事・失態は、この政権・党の腐敗・無能ぶりをあらためて白日の下にさらしています。

 彼らをはじめ問題が露呈した「政治家」が共通して行うのが記者会見や国会での「謝罪」です。
 たとえば宮崎氏は12日の記者会見で「私の不適切な行為で多大なるご迷惑をお掛けし、心からおわびします」と述べました(写真中)。しかし、彼の不倫で、「迷惑」が掛かったのは、妻を除けば、参院選への影響を懸念する安倍・自民党くらいでしょう。国民に「謝罪」して議員を辞めるのは筋違いというものです。

 「政治家」の「謝罪」とはいったい何でしょうか。

 それを考える上で興味深い論稿が、中国新聞(13日付)に載りました。筆者は文芸評論家の斎藤美奈子さんです。タイトルは「消費される謝罪」。「宮崎問題」が表面化する前に書かれたと思われます。

 斎藤さんはまず、SMAPやタレント・ベッキーの記者会見での「謝罪」を例に、「著名人が私的な不祥事を起こすたびに、公の場で謝罪会見や釈明会見が開かれてきた」理由は、2つあると指摘します。

 ①「区切り」・・・「非があってもなくても、とにかく謝る。日本はこのような謝罪パフォーマンスをやらないと、先に進めない社会なのだ。『みそぎ』の効果ともいえるだろう

 ②「みせしめ」・・・「公開処刑と言い換えてもいい。不祥事を起こした者は・・・苦痛を味わっていただきたい。そんな大衆の要求に応えることが求められる。もっと言うと謝罪は一種の娯楽として消費される

  「なぜ犯罪者でもない著名人が謝罪しなければならないのか。・・・よく聞くのが『世間をお騒がせして申し訳ありませんでした』というフレーズである。ここに見え隠れするのは集団的な調和を重んじる日本的なムラ社会の構図である。つまり彼らは『集団の和を乱してごめんなさい』と言っているわけだ」

 「こうした謝罪の作法はときに謝罪そのものを形骸化させる。社会的な責任のある企業人や政治家の会見を思い出そう」といって、斎藤さんは、甘利氏の「退任会見」(1月28日=写真左)を取り上げます。
 「私どもの不祥事により、世間をお騒がせし、皆さんに大変なご迷惑をお掛けして、本当に申し訳なく思っています」と述べた甘利氏に対し、「甘利氏は決定的な間違いを犯している」として斎藤さんはこう指摘します。

 「第一に甘利氏の責任が問われているのは『世間を騒がせた=集団の和を乱した』ことではなく、政治資金規正法やあっせん利得処罰法という法律に触れるかどうかの疑惑である

 「第二に甘利氏の謝罪の相手はやじ馬としての大衆ではなく、主権者である国民だ。つまりこれは当事者(選挙で選ばれた政治家)が、もう一方の当事者(彼に国政を託した有権者)に説明しなければならない問題であって、著名人の醜聞とは性質が異なるのだ

 そして斎藤さんはこう結びます。「私たちはもう一度考えてみるべきだろう。謝罪が娯楽として消費される社会が健全なのかどうか。たたきやすい相手を徹底的にたたくことに、鬱憤晴らし以上のどんな意味があるのかと

 謝罪する必要のないタレントなどの、「区切り」「みそぎ」としての「謝罪」と、謝罪しなければならない内容・相手をはき違えている(意図的に)甘利氏など「政治家」の「謝罪」と、一見正反対のようですが、実はメダルの表と裏です。いずれも、本来の謝罪の意味から逸脱した「消費される謝罪」だということです。

 ここで思い出されるのが、元「慰安婦」(性奴隷)問題での「日韓合意」(2015年12月28日)です。
 この中で安倍首相は「心からのおわびと反省」を表明しました。しかしその「おわび」とは、謝罪すべき当の元「慰安婦」たちに直接向けられたものではなく(「謝罪」の相手)、また、元「慰安婦」たちが求めている日本政府の国家的法的責任を認めたものでもありません(「謝罪」の内容)。アメリカの意図に基づく日韓政府間の政治的産物にすぎなかったことが明らかになっています。

 安倍首相の「おわび」も、それを「区切り」「みそぎ」として「先に進」もうとする「謝罪パフォーマンス」以外の何ものでもないのです。

 「政治家」の「パフォーマンス」や「みせしめ」ではなく、誰に、何を、どう謝るのかを明確にした、ほんとうの謝罪がおこなわれる社会。それは「日本的なムラ社会」を超えた社会でもあるでしょう。
 身近な生活から国家間の関係まで、そんな謝罪が行われる社会をつくりたいものです。


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