大御心
神国の中核となっているのが現人信仰である。
日本民族の祖先神のうち、もっとも重要視され、信仰の中心になっているのが、天照大御神。
これは 古代における太陽信仰と偉大な祖先神と 合体した人格神であるが、
この太陽信仰こそ、農耕民族である日本人の民族性の核心を成すものである。
この太陽神と祖先神の合体した人格者である天照大御神の、
直系の子孫が天皇であるというのが現人神信仰なのである。
天皇を現人神または現御神 アキツミカミ と称するのは、
天皇が神であるという意味でなく、
天照大御神と それにつづく祖先神の神霊を体現して国民に臨む、
つまり神と同一の心境、
純粋無私の精神で君臨するという意味である。
・・・大御心 「 罪あらば我を咎めよ天つ神 民は我が身のうみし子なれば 」
大御心
罪あらば我を咎めよ天つ神
民は我が身のうみし子なれば
目次
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1 秩父宮と天皇
先般、不幸にして勃發いたしました陸海軍將校の、首相暗殺事件につき、
聖上陛下にはいかに御宸念遊ばされましたことか、洵に恐懼の至りに堪えぬところでございます。
しかし乍ら今回の事件は偶發的に起こったものでなく、
その根底には國家の現狀と將來を深憂する多數の皇軍將校と、愛國靑年群が存在いたします。
政黨政治は國家百年の大計を捨てて、目前の党利党略に抗爭を事とし、
財界は皇恩を忘れて私利私欲の追求に餘念がありません。
近年の經濟不況によって、一億國民の大多數は塗炭の苦境に呻吟いたしております。
洵に餓民天下に満つと申しても過言ではありません。
天下萬民の仁父慈母に存します聖上陛下におかせられましては、
この國民の困窮を救うため、速やかに昭和維新の大詔を渙發あらせられ、
内は百僚有司の襟を正さしめ、財界の猛省を促し、上下一體となって國利民福の實をあげ、
外に向っては國交の親善を増進して、大いに皇威を發揚し、
以て帝國興隆の基を築かれんことを、
草莽の微臣、闕下にひれ伏して、謹んで奏上仕ります。
・・・西田税 秩父宮に託した天皇陛下への建白書
・・・紫の袱紗包み 「 明後日参内して、陛下にさし上げよう 」
陛下、現實は建白書にある通りです。
『 餓民天下に満つ 』 これですよ !
世界恐慌で繭の価格が下がり、飯米も買えない農家が娘を賣る。
『 途端の苦境に呻吟』
陛下はどれだけ國民が窮乏しているかご存知ないでしょう。
政治家はなにもしない。
『 國家百年の大計を捨てて、目前の党利党略に抗爭を事とし 』
その通り !
政友会と民政党は交互に政權に就くたびに、相手方の汚職事件を暴くことに血眼になっている。
財閥は 『 私利私欲の追及に 』 巨利をむさぼる。ドル買いがいい例です。
陛下 これが現實ですよ ! 判りますか。
政治を變えなくてはならない。それには天皇大權を發動して、
憲政の正道を一時外れてでも非常措置をとるべきです。
・ 昭和天皇と秩父宮 1
・ 昭和天皇と秩父宮 2
當時は満洲事變勃發に伴ひ、国内の空氣自然殺氣を帯び、十月事件の發生を見る等
特に軍部靑年將校の意氣熱調を呈し來れる折柄、 或日、
秩父宮殿下參内 陛下に御對談遊ばされ、
切りに 陛下の御親政の必要を説かれ、
要すれば憲法の停止も亦止むを得ずと激せられ、
陛下との間に相當の激論あらせられし趣なるが、
後にて 陛下は、 侍從長に、
祖宗の威徳を傷つくるが如きことは自分の到底同意し得ざる処、
親政と云ふも自分は憲法の命ずる処に拠り、
現に大綱を把持して大政を総攬せり。
之れ以上何を爲すべき。
又 憲法の停止の如きは明治大帝の創成せられたる処のものを破壊するものにして、
斷じて不可なりと信ずる
と 漏らされたりと。 誠に恐懼の次第なり。
・ 本庄日記 ・ 大御心 「 陛下と秩父宮、天皇親政の是非を論す 」
陛下は、
憲法第四條 天皇は 「 國家の元首 」 云々は即ち機關説なり、
之が改正をも要求するとせば憲法を改正せざるべからざることとなるべし、
又 伊藤の憲法義解には 「 天皇は 國家に臨御し 」 云々の説明あり。
と 仰せらる。
・ 本庄日記 ・ 大御心 「 國家立前云々は即ち機關説なり 」
「 立憲國の天皇は、憲法の枠の中にその言動を制約せられる。
この枠を勝手に外して、任意の言動にでることは許されない半面、
同じ憲法には國務大臣についての規定があって、
大臣は平素より大なる權限を委ねられ、重い責任を負わされている。
この大臣の憲法による權限、責任の範囲内には、天皇は勝手に容赦し、干渉することは許されない。
それゆえに、内政、外交、軍事のある一事につき、
これを管掌する官庁において、衆智を傾けて愼重に審議した上、
この成果をわたしの前に持ってきて裁可を請うといわれた場合、
合法的の手續きをつくしてここまでとり運んだ場合には、
たとえそのことがわたしとしては甚だ好ましからざることであっても、裁可するのほかはない。
立憲國の天皇の執るべき唯一の途である。
もし、かかる場合 私がそのときの考えで脚下したとしたら、どういうことになるか。
憲法に立脚して合法的に運んだことでも、
天皇のそのときの考え一つで裁可となるか、脚下せられるか判らないということでは、
責任の位置にいることはできない。
このことは、とりもなおさず天皇が憲法を破壊したということになる。
立憲國の天皇として執るべからざる態度である。
断じて許されないことである 」
・ 大御心・「合法手續ならば裁可する、其れが立憲國の天皇の執るべき唯一の途である」
2 農民亦自ら樂天地あり
・ 天皇と農民
將校等、殊に下士卒に最も近似するものが農村の悲境に同情し、
關心を持するは止むを得ずとするも、之に趣味を持ち過ぐる時は、却て害ありとの仰せあり。
之に就き、餘儀なく關心を持するに止まり、
決して趣味を持ち、積極的に働きかくる意味にあらざる次第を反復奉答せり。
陛下は此時
農村の窮狀に同情するは固より、必要なるも、
而も農民亦自ら樂天地あり、
貴族の地位にあるもの必ずしも常に幸福なりと云ふを得ず、
自分の如き欧州を巡りて、自由の氣分に移りたるならんも心境の愉快は、
又其自由の氣分に成り得る間にあり。・・と
・・・ 本庄日記 ・ 大御心 「 農民亦自ら楽天地あり 」
・・・これを読んで、秩父宮殿下の如く
實際に兵の家庭の事情に触れられた方とはお考えが違うと思った。
農村で娘の身賣りをしなければならない者に樂天地などあったであろうか。
陛下は政治に御熱心で
側近の人々から様々な情報を御聴取遊ばされておられたようであるが、
私は側近の人々の氣持が分らない。
陛下のお側近く仕える人々は、すべて名門の出である。
これ等の人々は 當時の逼迫した大陸の情勢や國内の農村の窮狀、勞働者の生活状態を見て、
靑年將校がどんな心情を抱いていたかなど 全く理解していなかったのではないかとしみじみ思った。
まさに陛下は雲の上におわしめたのである。
・・・大御心 『 まさに陛下は雲の上におわしめたのである 』
3 天皇親政
一君萬民、國民一體の境地、
大君と共に喜び大君と共に悲しみ、
日本の國民がほんとうに、天皇の下に一體となり
建國の理想に嚮って前進することである
・・・青年将校運動とは何か から
・・・天皇と青年将校のあいだ 1 一君万民、君臣一界の境地
軍人勅諭 「朕は汝等軍人の大元帥なるぞ」
朕は汝等軍人の大元帥なるぞ。
されば朕は汝等を股肱と頼み、汝等は朕を頭首と仰ぎてぞ、
其親は特に深かるべき。
教育勅語
相澤中佐事件は、
わが建國以來の歴史や、軍人への勅諭、敎育勅語、大日本帝國憲法 等によつて、
眞面目に敎育を受けた軍人が敢行した事件である。
當時の將兵が軍隊敎育によつて敎えられていたのは、
わが國柄が萬邦に優れた所以は、天皇の御親政にある ということであつた。
天皇の御親政とは、心理即應の政治ということであり、
造物主の意思そのままの政治ということである。
しからば、その眞理とか造物主の意思とかいうのは、何を意味するのかといえば、
それは、
「 総てのものの間に大調和あらしめて、万人をしてその生存の意義を全うせしめる道 」
を いうのである。
・・・ 注目すべき鵜沢博士の所論
・・・天皇の大御心にも副う所以であると考えてやつたのである
「 敎育勅語に國憲を重んじ、國法に遵い、とあります。自分はこの勅語を重んじ、從うものであります 」
「 それでは、被告は国法の大切なことは知っているが、今回の決行はそれよりも大切なことだと信じたのか 」
「 そうであります。 大悟徹底の境地に達したのであります 」
・・・ 所謂 神懸かり問答 「 大悟徹底の境地に達したのであります 」
相澤事件
《昭和10年》 八月十二日
此日午前九時過、永田軍務局長、中佐相澤三郎の為、局長室にて斬殺さる、
午後一時二十分 人事局課員 御用邸に三代、
右永田局長を中将に進級内奏を請ひしに因り 直に伝奏せし処、
陛下には、
「 陸軍に如此珍事ありしは 誠に遺憾なり。更に詳しく聽聴取し上奏すべく 」
仰せられ、
尚ほ
「 此儘水泳に出て差閊なきや 」
と 御下問あらせらる。
之に対し繁は、誠に申譯なき出來事にして、今後特別の波瀾あるべしとは想はざるも、
充分注意すべき旨、奉答し、
且つ 御運動は御豫定通り遊ばされ度旨御願ひせり。
眞に恐懼の次第なり。
・ 本庄日記 ・ 大御心 「 陸軍に如此珍事ありしは 誠に遺憾なり 」
・・・次頁 大御心 「 朕が憾みとするところなり 」 に 續く