日本改造法案大綱

日本改造法案大綱
( 北一輝 )
目次

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一　日本改造法案大綱 (1) 凡例 

二　日本改造法案大綱 (2) 第三回の公刊頒布に際して告ぐ 

三　日本改造法案大綱 (3) 目次 
緒言
巻一　國民ノ天皇
憲法停止----天皇ノ原義----華族制廢止----普通選擧----國民自由ノ恢復
----國家改造内閣----國家改造議會----皇室財産ノ國家下附
巻二　私有財産限度
私有財産限度----改造後ノ私有財産限度超過者----在郷軍人團體會議
巻三　土地處分三則
私有地限度----私有地限度ヲ超過セル土地ノ國納----土地徴集機關----將來ノ私有地限度超過者
----徴集地ノ民有制----都市ノ土地市有制----國有タルベキ土地
巻四　大資本ノ國家統一
私人生産業限度----私人生産業限度を超過セル生産業ノ國有----資本徴集機関
----改造後私人生産業限度ヲ超過セル者----國家ノ生産的組織----其一銀行省
----其二航海省----其三鉱業省----其四農業省----其五工業省----其六商業省
----其七鐡道省----莫大ナル國庫収入
巻五　勞働者ノ權利
勞働者ノ任務----勞働賃銀----勞働時間----勞働者ノ利益配当----勞働的株主制ノ立法
----借地農業者ノ擁護----幼年勞働ノ禁止----婦人勞働
巻六　國民ノ生活權利
児童ノ權利----國家扶養ノ義務----國民教育ノ權利----婦人人權ノ擁護
----國民人權ノ擁護----勲功者ノ權利----私有財産ノ權利
巻七　朝鮮其ノ他現在及將來ノ領土ノ改造方針
朝鮮ノ郡県制----朝鮮人ノ參政權----三原則ノ拡張----現在領土ノ改造順序
----改造組織ノ全部施行セラルベキ新領土
巻八　國家ノ權利
徴兵制ノ維持----開戰ノ積極的權利
結言

四　日本改造法案大綱 (4) 緒言 
緒言
今ヤ大日本帝國ハ内憂外患竝ビ到ラントスル有史未曾有ノ國難ニ臨メリ。
國民ノ大多數ハ生活ノ不安ニ襲ハレテ一ニ欧州諸國破壊ノ跡ヲ學バントシ、
政權軍權財權ヲ私セル者ハ只竜袖ニ陰レテ惶々其不義ヲ維持セントス。
而シテ外、英米獨露悉ク信ヲ傷ケザルモノナク、
日露戰爭ヲ以テ漸クようやく保全ヲ与ヘタル隣邦支那スラ酬ユルニ却テ排侮ヲ以テス。
眞ニ東海栗島ノ孤立。
一歩ヲ誤ラバ宗祖ノ建國ヲ一空セシメ危機誠ニ幕末維新ノ内憂外患ヲ再現シ來レリ。
只天佑六千萬同胞ノ上ニ炳あきらかタリ。
日本國民ハ須ラク國家存立ノ大義ト國民平等ノ人權トニ深甚ナル理解ヲ把握シ、
内外思想ノ清濁ヲ判別採捨スルニ一點ノ過誤ナカルベシ。
欧州諸國ノ大戰ハ天其ノ驕侈亂論ヲ罰スルニ 「ノア」 ノ洪水ヲ以テシタルモノ。
大破壊ノ後ニ狂亂狼狽スル者ニ完備セル建築圖ヲ求ム可ラザルハ勿論ノ事。
之ト相反シテ、我ガ日本ハ彼ニ於テ破壊ノ五ケ年ヲ充實ノ五ケ年トシテ惠マレタリ。
彼ハ再建ヲ云フベク我ハ改造ニ進ムベシ。
全日本國民ハ心ヲ冷カニシテ天ノ賞罰斯クノ如ク異ナル所以ノ根本ヨリ考察シテ、
如何ニ大日本帝國ヲ改造スベキカノ大本ヲ確立シ、擧國一人ノ非議ナキ國論ヲ定メ、
全日本國民ノ大同團結ヲ以テ終ニ天皇大權ノ發動ヲ奏請シ、
天皇ヲ奉ジテ速ヤカニ國家改造ノ根基ヲ完ウセザルベカラズ。
支那印度七億ノ同胞は實ニ我ガ扶導擁護ヲ外ニシテ自立ノ途ナシ。
我ガ日本亦五十年間ニ二倍セシ人口
増加率ニヨリテ百年後少ナクモ二億四千五百万人ヲ養フベキ大領土ヲ餘儀ナクセラレル。
國家ノ百年ハ一人ノ百日ニ等シ。
此ノ餘儀ナキ明日ヲ憂ヒ彼ノ褄惨タル隣邦ヲ悲シム者、如何ゾ直譯社會主義者流ノ巾幗的平和論ニ安ンズルヲ得ベキ。
階級闘爭ニヨル社會進化ハ敢テ之ヲ否マズ。
而モ人類歴史アリテ以來ノ民族競爭國家競爭ニ眼ヲ蔽ヒテ何ノ所謂科學的ゾ。
欧米革命論ノ權威等悉ク其ノ浅薄皮相ノ哲学ニ立脚シテ終ニ 「 劔ノ福音 」 ヲ悟得スル能ハザル時、
高速ナル亜細亜文明ノ希臘きろうハ率先其レ自ラノ精神ニ築カレタル國家改造ヲ終ルト共ニ、
亜細亜聯盟ノ義旗を飜ひるがえシテ眞個到來スベキ世界聯邦ノ牛耳を把り、
以テ四海同胞皆是佛子ノ天道ヲ宣布シテ東西ニ其ノ範ヲ垂ルベシ。
國家ノ武装ヲ忌いまわしム者ノ如キ其智見終ニ幼童ノ類ノミ。

五　日本改造法案大綱 (5) 巻一 國民ノ天皇 
巻一　國民ノ天皇
憲法停止。
天皇ハ全日本國民ト共ニ國家改造ノ根基ヲ定メシガ爲ニ天皇大權ノ發動ニヨリテ
三年間憲法ヲ停止シ両院ヲ解散シテ全國ニ戒嚴令ヲ布ク。
天皇ノ原義。
天皇ハ國民ノ總代表タリ、國家ノ根柱タルノ原理主義ヲ明カニス。
此ノ理義ヲ明カニセンガ爲ニ神武國祖ノ創業、明治大帝ノ革命ニ則リテ宮中ノ一新ヲ圖リ、
現時ノ樞密顧問官其他ノ官吏ヲ罷免シ以テ天皇ヲ補佐スベキ顧問院ヲ設ク。
顧問院議員ハ天皇ニ任命セラレ其ノ人員ヲ五十名トス。
華族制度廢止。
華族制ヲ廢止シ、天皇ト國民トヲ阻隔シ來レル藩屏ヲ撤去シテ明治維新ノ精神ヲ明ニス。
貴族院ヲ廢止シテ審議院ヲ置キ衆議院ノ決議ヲ審議セシム。
審議院ハ一回ヲ限リトシテ衆議院ノ決議ヲ拒否スルヲ得。
審議院議員ハ各種ノ勲功者間ノ互選及勅選ニヨル。
普通選擧。
二十五歳以上ノ男子ハ大日本國民タル權利ニ於テ平等普通ニ衆議院議員ノ被選擧權及ビ選擧權ヲ有ス。
地方自治會亦之ニ同ジ。  女子ハ參政權ヲ有セズ。
國民自由ノ恢復。
從來國民ノ自由ヲ拘束シテ憲法ノ精神ヲ毀損きそんセル諸法律ヲ廃廢
國家改造内閣
戒嚴令施行中現時ノ各省ノ外ニ下掲ノ生産的各省ヲ設ケ更ニ無任所大臣數名ヲ置キテ改造内閣ヲ組織ス。
改造内閣員ハ從來ノ軍閥、吏閥、財閥、黨閥ノ人々ヲ斥しりぞケテ全國ヨリ廣ク偉器ヲ選ビテ此ノ任ニ當ラシム。
各地方長官ヲ一律ニ罷免シ國家改造知事ヲ任命ス。
選任ノ方針右ニ同ジ。
國家改造議會
戒嚴令施行中普通選擧ニ依ル國家改造議會ヲ招集シ改造ヲ協議セシム。
國家改造議會ハ天皇ノ宣布シタル國家改造ノ根本方針ヲ討論スルコトヲ得ズ。
天皇財産ノ國家下附
天皇ハ自ラ範ヲ示シテ皇室所有ノ土地山林株券等ヲ國家ニ下附ス。
皇室費ヲ年約三千萬圓トシ、國庫ヨリ支出セシム。
但シ、時勢ノ必要ニ應ジ議會ノ協賛ヲ經テ増額スルコトヲ得。

六　日本改造法案大綱 (6) 巻二 私有財産限度 
巻二　私有財産限度
私有財産限度。
日本國民一家ノ所有シ得ベキ財産限度ヲ壱百萬圓トス。
海外ニ財産ヲ有スル日本國民亦同ジ。
此ノ限度ヲ破ル目的ヲ以テ財産ヲ血族其他ニ贈与シ又ハ何等カノ手段ニヨリテ所有セシムルヲ得ズ。
私有財産限度超過額ノ國有。
改造後ノ私有財産超過者。
在郷軍人團會議
天皇ハ戒嚴令施行中、在郷軍人團ヲ以テ改造内閣ニ直属シタル機關トシ、
以テ國家改造中ノ秩序ヲ維持スルト共ニ、各地方ノ私有財産限度超過者ヲ調査シ、其ノ徴集ニ當ラシム。
在郷軍人團ハ在郷軍人ノ平等普通ノ互選ニヨル在郷軍人團會議ヲ開キテ此ノ調査徴集ニ當ル常設機關トナス。

七　日本改造法案大綱 (7) 巻三 土地處分三則 
巻三　土地處分三則
私有地限度。
私有地限度を超過セル土地ノ國納。
將來ノ私有地限度超過者。
徴集地ノ民有制。
國有地タルベキ土地。

八　日本改造法案大綱 (8) 巻四 大資本ノ國家統一 
巻四　大資本ノ國家統一
私人生産業限度。
私人生産業限度ヲ超過セル生産業ノ國有。
資本徴集機關。
改造後私人生産業限度ヲ超過セル者。
國家ノ生産的組織。
莫大ナル國庫収入。
生産的各省
遺産相續税

九　日本改造法案大綱 (9) 巻五 勞働者ノ權利 
巻五　勞働者ノ權利
勞働省ノ任務。
内閣ニ勞働省ヲ設ケ國家生産及ビ個人生産ニ雇傭サルル一切勞働者ノ權利ヲ保護スルヲ任務トス。
勞働爭議ハ別ニ法律ノ定ムル所ニヨリテ勞働省之ヲ裁決ス。
此裁決ハ生産的各省個人生産者及ビ勞働者ノ一律ニ服從スベキ者ナリ。
勞働賃金。
勞働賃金ハ自由契約ヲ原則トス。  其爭議ハ前掲ノ法律ノ下ニ勞働者之ヲ決定ス。
勞働時間。
勞働時間ハ一律ニ八時間制トシ日曜祭日ヲ休業シテ賃銀ヲ支拂フベシ。
農業勞働者ハ農期繁忙中労働時間ノ延長ニ應ジテ賃銀ヲ加算スベシ。
勞働者ノ利益配當。
勞動的株主制ノ立法。
借地農業者ノ擁護。
私有地限度内ノ小自負シニ對シテ土地ヲ借耕スル小作人ヲ擁護スル爲メニ、
國家ハ別個國民人權ノ基本ニ立テル法律ヲ制定スベシ。
幼年勞働ノ禁止。
満十六歳以下ノ幼年勞働ヲ禁止ス。
之ニ違反シテ雇傭シタル者ハ重大ナル罰金又ハ體刑ニ処ス。
尊属保護ノ下ニ尊属ノ家庭ニ於テ勞働スル者ハ此限リニ非ズ。
婦人勞働。
婦人ノ勞働ハ男子ト共ニ自由ニシテ平等ナリ。
但シ改造後ノ大方針トシテ國家ハ終ニ婦人ニ勞働ヲ負荷セシメザル國是ヲ決定シテ施設スベシ。
國家非常ノ際ニ処シ婦人ガ男子ノ勞働ニ代ハリ得ベキ爲メニ男子ト平等ナル國民教育ヲ受ケシム。

十　日本改造法案大綱 (10) 巻六 國民ノ生活權利 
巻六　國民ノ生活權利
児童ノ權利。
満十五歳未満ノ父母又ハ父ナキ児童ハ、國家ノ児童タル權利ニ於テ、一律ニ國家ノ教育及ビ教育ヲ受クベシ。
國家ハ其ノ費用ヲ児童ノ保護者ヲ經テ給付附亦同ジ。
但シ此ノ場合ニ於テ國家ハ別途其ノ父ニ對シテ賠償ヲ命ジ、從ハザルモノハ勞働を課シテ賠償ニ充テシム。
父母ノ遺産ヲ相續セル児童、又ハ母ノ資産或ハ特種能力ニ於テ教養セラレ得ル児童ハ、
國家ト協議ノ上此ノ權利ヲ放棄セシメラルベシ。
國家扶養ノ義務。
貧困ニシテ實男子又養男子ナキ六十歳以上ノ男女、及ビ父又ハ男子ナクシテ貧困且ツ
労働ニ堪ヘザル不具廃疾ハ國家之レガ扶養ノ義務ヲ負フ。
國民教育ノ權利。
國民教育ノ機關を、満六歳ヨリ満十六歳マデノ十ケ年間トシ、男女ヲ同一ニ教育ス。
学制ヲ基本的ニ改革シテ、十年間ヲ一貫セシメ、日本精華ニ基ク世界的常識ヲ養成シ、
國民個々ノ心身ヲ充実具足セシメテ、各其ノ天賦ヲ發揮シ得ベキ基本ヲ作ル。
婦人々權ノ擁護。
其ノ夫又ハ其子ガ自己ノ労働ヲ重複シテ婦人ノ文科的労働ヲ侮辱スル言動ハ之レヲ婦人々權ノ蹂躙ト認ム。　
婦人ハ之レヲ告訴シテ其ノ權利ヲ保護セラルル法律ヲ得ベシ。
國民人權ノ擁護。
日本國民ハ平等自由ノ國民タル人權ヲ保障セラル。
勲功者ノ權利。
私有財産ノ權利。
平等分配ノ遺産相續制。

十一　日本改造法案大綱 (11) 巻七 朝鮮其他現在及ビ將來ノ領土ノ改造方針 
巻七　朝鮮其他現在及ビ將來ノ領土ノ改造方針
朝鮮ノ郡県制。
朝鮮ヲ日本内地ト同一ナル行政法ノ下ニ置ク。
朝鮮ハ日本ノ属邦ニ非ズ又日本人ノ植民地ニ非ズ。
日韓合併ノ本旨ニ照シテ日本帝國ノ一部タリ一行政區タル大本ヲ明ラカニス。
朝鮮人ノ參政權。
約二十年後ヲ期し朝鮮人ニ日本人ト同一ナル參政權ヲ得セシム。
此ノ準備ノ爲メニ約十年後ヨリ地方自治制ヲ實施シテ參政權ノ運用ニ慣習セシム。
三原則ノ拡張。
現在領土ノ改造順序。
改造組織ノ全部執行セラルベキ新領土。

十二　日本改造法案大綱 (12) 巻八 國家ノ權利 
巻八　國家ノ權利
徴兵制ノ維持。
國家ハ國際間ニ於ケル國家ノ生存及ビ發達ノ權利トシテ現時ノ徴兵制ヲ永久ニ亙わたリテ維持ス。
徴兵猶餘一年志願等ハ之ヲ廃止ス。
現役兵ニ對シテ國家ハ俸給ヲ給附ス。
兵営又ハ軍艦内ニ於テハ階級的表章以外ノ物質的生活ノ階級ヲ廢止ス。
現在オヨビ將來ノ領土内ニ於ケル異民族ニ對シテハ義勇兵制ヲ採用スル者アルベシ。
開戰ノ積極的權利。
國家ハ自己防衛ノ外ニ不義ノ鞏力ニ抑圧サルル他ノ國家又ハ民族ノ爲メニ戰爭ヲ開始スルノ權利ヲ有ス。
( 即チ當面ノ現實問題トシテ印度ノ獨立及ビ支那ノ保全ノ爲メニ開戰スル如キハ國家ノ權利ナリ )。
國家ハ又國家自身ノ發達ノ結果
他ニ不法ノ大領土ヲ獨占シテ人類共存ノ天道ヲ無視スル者ニ對シテ戰爭を開始スルノ權利ヲ有ス。
( 即チ當面ノ現實問題トシテ豪州又ハ極東西比利亜ヲ取得センガタメニ其ノ僚友者ニ向テ開戰スル如キハ國家ノ權利ナリ )。

十三　日本改造法案大綱 (13) 結言 
結言
歴史ハ進歩ス。
進歩ニ階梯アリ。
東西ヲ通ジタル歴史的進歩ニ於テ各々其ノ戰國時代ニ亜ギテ封建國家ノ集合的統一ヲ見タル如ク、
現時マデノ國際的戰國時代ニ亜ギテ來ルベキ可能ナル世界ノ平和ハ、
必ズ世界ノ大小國家ノ上ニ君臨スル最鞏ナル國家ノ出現ニヨリテ維持サルル封建的平和ナラザルベカラズ。
國境ヲ撤去シタル世界ノ平和ヲ考フル各種ノ主義ハ其ノ理想ノ設定ニ於テ、
是レヲ可能ナラシムル幾多ノ根本的条件則チ人類ガ更ニ重大ナル科學的発明ト神性的躍進トヲ得タル後ナルベキコトヲ無視シタル者。
全世界ニ与ヘラレタル現實ノ理想ハ何ノ國家何ノ民族ガ豊臣徳川タリ神聖皇帝タルカノ一事アルノミ。
日本民族ハ主權ノ原始的意義、統治權ノ上ノ最高ノ統治權ガ國際的ニ復活シテ、
「 各國家ヲ統治スル最高國家 」 ノ出現ヲ覺悟すベシ。
「 神ノ國ハ凡テ謎ヲ以テ語ラル。」
甞テ土耳古ノ弦月旗アリキ。
「 ヴエルサイユ 」 宮殿ノ會議ガ世界ノ暗夜ナリシコトハ其レヲ主裁シタル米國ノ星旗ガ黙示ス。
英國ヲ破リテ土古舌ヲ復活セシメ、印度ヲ獨立セシメ、支那ヲ自立セシメタル後ハ、
日本ノ旭日旗ガ全人類ニ天日ノ光ヲ与フベシ。
世界ノ各地ニ豫言サレツツアル其督ノ再現トハ實に 「 マホメット 」 ノ形ヲ以テスル日本民族ノ經典ト劍ナリ。
日本國民ハ速カニ此ノ日本改造法案大綱ニ基キテ國家ノ政治的經濟的組織ヲ改造シ
以テ來ルベキ史上未曽有ノ國難ニ面スベシ。
日本ハ亜細亜文明ノ希臘トシテ己ニ強露波斯ヲ 「 サラスミ 」 の海戰ニ砕破シタリ。
支那印度七億民ノ覺醒實ニ此ノ時ヲ以テ始マル。
戰ナキ平和ハ天國ノ道ニ非ズ。
大正八年八月稿於上海
北一輝
無数千万衆　　欲過此険道----時有一導師
鞏識有知慧　　明了心決定　　在険済衆難----
----慰衆言勿懼　　汝等入此城　　各可随所楽
( 妙法蓮華經化城喩品 )

十四　日本改造法案大綱 (14) 普及版の刊行に際して 
普及版の刊行に際して
日本改造法案の普及は吾等多年の期望であつたが、何事も思ふにまかせぬことばかりであつた。
斯の版は同志田中操君の努力によりて刊行せらるゝものである。
田中君は一下級船員である。
本書を天下に普及せんと慾するが爲めに同君は五年間僅かなる賃銀を摘んで此度の出版費を提供された。
吾等は、君の深甚なる志願と不斷不屈の努力に対して無限の感激敬意を献ぐる者である。
三年前、編集者は著者の意をうけて第三回の公刊頒布をしたことがあるが、
田中君の普及版は其れに同じいものである。
只異なる悦ぶべき点は、六年前公判の時に当局から伏字にせられた改造行程の手段手法の部が、
此度其の大部分を解除されたことである。
この事は別に隠れたる同志増田一悦君の努力によるものである。
併せて玆に感謝の意を表する次第である。
昭和三年十月　　
編集者　西田税

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日本改造法案大綱 (1) 凡例

日本改造法案大綱　　　( 北一輝 )
凡例
一。
此ノ改造法案ハ世界大戰終了ノ後、大正八年八月上海ニ於テ起草セル者ナリ。
「 極秘 」 ヲ 印シ謄冩ニ附シテ 未ダ公刊ニ至ラザル時、九年一月發賣頒布はんぷヲ禁ゼラル。
書中 「 何行削除 」 ト　アルハ今回ノ公刊ニ際シ官憲ノ削除シタル所、
行數は謄冩本ノ行數ナリ。
二。
固ヨリ削除セラレタル一行一句ト雖モ日本ノ法律ニ違反セル文字ニ非ルハ論ナシ。
恐クハ單ナル行政上ノ目的ニ出デシト信ズ。
從ツテ何等カ不穏矯激ナル者ノ伏在セルカニ感ジテ草案者ニ質問照會スル等ノナカラムコトヲ望ム。
ニ三枝ヲ折ルモ大樹ハ損傷サルルコトナシ。
三。
奈翁ﾅﾎﾟﾚｵﾝ 戰争ガ十八世紀ト十九世紀トヲ劃かくセル如ク、
十九世紀ノ終焉二十世紀ノ初頭ハ眞ニ世界大戰ノ一大段落ヲ以テ限ラルベシ。
( 世紀ノ更新ヲ十進數ニ依リテ思考スベカラズ。)
天ノ命、二十世紀ノ第一年ヲ以テ此ノ法案ヲ起草セシメタルヲ拝謝ス。
從テ前世紀ニ続出シタル旧キ哲人等ノ誤謬ごびゅう多キ革命理論ヲ準縄トシテ
此ノ法案ヲ批判スル者ヲ歓ブ能ハズ。
時代錯誤トハ是レナリ。
昔者娘ヲシテ其ノ母ニ背カシメンガ爲メニ來レリト云ヘル者アリ。
二十世紀ニ命ジテ十九世紀ニ背クヲ禁ズル革命論ノ多キヲ不審ナリトス。
四。
「 註 」 ハ 固ヨリ説明解釋ヲ目的トセルモ、語辭悉ク簡單明瞭、時ニハ只結論ノミヲ綴リシ者アリ。
第二十世紀ノ人類ハ聡明ト情意ヲ増進シテ 「 然リ然リ 」 「 否ナ否ナ 」 ニテ足ル者ナラザルベカラズ。
現代世界ヲ展開セシメタル三大發明ノ中火薬ガ人類ヲ殺スヨリモ甚シク、
印刷術ノ害毒全世界ノ頭脳朽蝕 ( 腐爛 ) シ盡セリ。
爲メニ簡明ナル一事一物ヲモ迀漫ナル愚論ナクシテ解悟スル能ハザル穉態ちのうハ阿片中毒者ト語ル如シ。
日本改造法案ノ起草者ハ當然ニ革命的大帝國建設ノ一實行者タラザルヲ得ズ。
從テ其レガ左傾スルニセヨ右傾スルニセヨ
前世紀的頭脳ヲヨリスル是非善悪ニ對シテ應答ヲ免除サレンコトヲ期ス。
恐ラクハ閑暇ナシ。
大正十二年五月    北一輝

註
大正十二年・・1923年

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日本改造法案大綱 (2) 第三回の公刊頒布に際して

第三回の公刊頒布に際して告ぐ

日本改造法案の第一回の頒布は 猶存社同人の謄冩版に依りて數百部程秘密に手より手に交附されたものである。
そして九年の一月發行頒布を禁止された。
第二回のものは 書肆改造社の賈本として多少世間に弘められたが、
改造行程の手段方法の一端を示した部分等を削除することに依りて公表を許可されたものである。
これが十二年の五月であつた。
今第三回の印刷頒布に同意して西田税君の勞に委ねた。
二回目の賈本の時に、特に凡例の三と四とに於て批評にも應ぜず質問にも答へない所以を
注意して置いたにも係らず、稀に批評を見　又　質問に接した。
來て問ふ者にも多く答へず、
書簡質疑等に対しては一律に書簡其儘を封入して返戻するを例とした。
然り々々 否な々々 にて足れりとは其節注意した通り今も同じである。
西田君は鞍馬帯剣の年少々尉である。
武に養はれたるが故に克く文を解し得るのであらうか。
特に此の書冊は法案である。
法案なるが故に終に法典として國家を組み立つべきものである。
君及び君等の劍頭鏃尖を以てのみ羅馬の十二銅柱に如意輪堂の鐡扉に刻み彫らるべきものである。
二回目の時と同じく勿論官憲に毀傷されたまゝの者ではあるが、氣運の熟成、行路の進展、
終に君及び君等の鐡血を中心時代とするに至れる象徴として、今回の印刷頒布を悦ぶこと甚深なる者がある。
右、誠に無遠慮なる申分なるが故に序でに有りのまゝを告白する。
眞實此の法案を上海の一病室に横はつて起草するに至るまでに四十幾日かの斷食をした。
參考論文に収めてある  『 ヴエルサイユ會議に對する最高判決 』 の書簡は實に斷食中の物で、
而して其れを投函して歸れる岩田富美夫君が 雲霞怒涛の如き排日の群集に包囲されて居るのを眼前に見た。
全世界の是認に抗して一人の否認が着々事實に擧證せられた智見をのみ値する勿れ。
其の否認を現實に米國其者からの否認とウヰルソン其人の堕落とを以て 『 皆是眞實』 に示さんが爲めには、
實に我が神々及び全世界のサタン等の前に一身を投げ出したる不惜身命の禱いのり)あるのだ。
日蓮は日本國なりと云ひ朕即ち國家なにりと云ふ。
ヴエルサイユから全世界に漲なぎるる排日熱、支那全土を洗ひ流がす排日運動の中に在りて、
----三千年の生命と六千萬人とを一人格に具體化せる皇帝其人の冩像が口にすべからざる
侮辱を蒙りて各國監視の街頭に晒された時、--苟いやしくも 『 唯我一人能爲救護 』 の大責任感を有する者、
日本國に對する排侮を日蓮自らの排侮に感じ、皇帝の蒙りたる恥辱を唯我一人の恥辱に受取るのは當然の事である。
自分は十有余年間の支那革命に与かれる生活を一抛いつほうして日本に歸る決意を固めた。
十數年間に特に加速度的に腐敗堕落した本國をあのまゝにして置いては、
對世界策も對支策も本國其者も明かに破滅であると見た。
清末革命の頃、即ち民國及び大正元年の前後の年頃には、危ないと思ひつゝ、
其れは間違ひだと争ひつゝ、而して固より常に抑へ付けられつゝ、
而も未だ嘗て万事休すとまで絶望はしなかつたのである。
----さうだ、日本に歸らう。
日本の魂のドン底から覆へして日本自らの革命に當らう。
其れには雑多に存在し行動して居る本國の革命的指導者にだけなりとも、
革命帝國の骨格構成の略圖をでも提供する必要があらう。
然り、全亜細亜の七億萬人を防衛すべき 『 最後の封建城廓 』 は太平洋岸の群島に築かるべき革命大帝國であると。
斯くして此の法案を起草し始めたのである。
斯んな煩悶懊悩に一箇月。
執筆に一箇月。
----而も此の期間に於て眼前に見る排日運動の陣頭に立ちて指揮し鼓吹し叱咤して居る者が、
悉く十年の涙痕血史を共にせる刎頸ふんけいの同志其人々である大矛盾をどうする。
敢て大戰参加の第一歩の誤に遡さかのぼらずとも、兎に角其れに參加した日本山東攻略に對して、
同一なる參加を要求して來た支那を拒んだならば其れで宜しいではないか。
これ尠少せんしょうの實力をも供せずして山東の發言權を獲得せんとしたからの者である。
然るに三年後に米國が支那を誘引した時には、米國と寵めぐみを爭ふかの如く支那の參加に努力した。
是れ支那の出席すべきを拒んだ日本某者の手を以て、
後年ヴエルサイユに於ける支那の大踏濶歩の爲めに門を開いたのである。
----日本といふ大馬鹿者に貼ってやる膏薬を後の外交史の編者に残して置く。
----米国が 『 海洋の自由 』の 爲めに獨逸との國交斷絶に至らうとも、
海洋にジャンク一隻の通商をも有せざる支那が國交を絶つべき道連れにならう理由も必要もない。
自分が日本から海を渡って一年たゝぬ間に、
日本の内閣會議の卓に列べる眼玉が皆猫の眼玉に代って居たことを知らなんだ。
（ 誰か一帝國の政策が朝夕にグルグル代はる者だと考へてかゝる者があらう ）
實に六年二月十一日、神武建國の其日に於て、
不肖北一輝なればこそ斷乎として支那の對獨斷交に參加すべき理由なきを彼等に指示し、
故譚人鳳章大災の獅子吼一声を鳴鏑として殆ど米國と当時の聯合國の所爲を打破するに垂んとしたのである。
----北一輝が悪いか日本帝國が惡いかは皇祖皇宗の前に出て戴いて貰はうではないか。
----勿論此の事を最初の且つ凡ての動因として支那は内亂を勃發し幾年間の南北交戰を繼續した。
而も僅かに半年以前袁世凱の頓死によりて第三革命を中止し
各省の兵車悉く當時の排置のま々であつたが故に、
革命の徹底によりてのみ支那を救ひ得る者に取りては
此の國家的題目を捉へて兵を動かさんとしたのは亦當然ではないか。
超憲法的に大總統黎氏をして内閣總理段公を免職せしめた者がある。
勿ち段の一督軍が長江の一角に拠りて兵を擧げる。
無作法な復辟の狂言師が登場して黎總統其人に議會を解散せしめる。
『 黎さん 』 亦泣虫の本性を暴はして日本公使館に逃げ込む。
帝政袁世凱の兩腕を働いた段祺瑞は天津から、馮國漳は南京から、
民主政治の擁護者に早変わりして張勲の三日天下を討伐する。
對世界戰の參否の本目的から横道に外れて、故孫逸仙君等は廣東に護法政府なるものを組織する。
終に獨支國交斷絶が聯合軍參加となるに至って、
廣東の議會萬能主義者は亦長い者に巻かれたる戰爭參加を宣言する。
而して隣國の大馬鹿者は 『參戰軍 』 なる者を支那に組織せしむると稱して
莫大なる戰費と兵器とを馮段の同盟的勢力に貸附けた。( 元も子も返らぬ一億五千兩の西原借款である )
大戰參加に抗議せんが爲めに北京の政局を打破し長江の戰雲を動かした諸友同志は、
北京政府を通ぜる日本の兵器と軍費に依りて常に江の南岸に壓迫せられ全敗を免るゝことに天佑を求めた。
彼の參戰軍なる者苦力の輸出以外一兵と雖も欧州の土に送らるゝことなくして
徒らに革命的同胞の殺戮に用いられたのである。
革命的勢力は終に馮段の間隙に乗じて其の勢力を二分し、馮系合縦連衡して段を北京から退けた。
日本に國を賈る者であるとして彼が落されたならば、國を買った日本を侵略者となし、
漸くようやく死を免れたる戰場からの喚声を擧げて日本の萬惡を數ふる時、
尋常一様なる排日運動に終らざるは言ふまでもない。
北京は馮系が廣東は排日革命系が占有して居る。
両者の握手に依りて段系を覆滅せる餘威を以て日本に臨み、
而して兩者の握手せる前代表が米國からヴエルサイユに飛舞跳躍した時、
----米國の誘引したる引出物が 『 支那に還附する目的 』 なりし山東省の横取であつた事實を
始めて鼻頭につきつけられた時----日本の阿呆鳥共は朝野一整に國難來と烏号したのである。
泣きもされぬ大悲劇は往々喜劇の一齣を挟んで人天の侮弄を逞うする者である。
（ 序でに更に言はうか。支那の南北政府からの全權代表が、
 米國に於てヴエルサイユに於て叩きつけた紙幣束撒き散らした銀行券が西原借款中の數百萬圓であったのだぞ！
馮系と段系に交附された通貨は廣東系と馮系が支那に於て段を倒し日本を傷くる政治費として流通し、
其二者が南北政府として講話政府に當つた時には外交費となつて流通したのだ。
通貨である。支那自身の租税は一弗と雖も革命後國庫に納入されたことなく、
五國借款以後一回の外債成立なく、
而して世界大戰中英米仏獨露の對支投資國は只支那以外の戰場に砲彈を投じて居たのだ。
仮りにも一億五千萬圓である。其中の一千數百萬圓が支那に於て討段排日の政治費となり、
三五百萬圓が米佛の外交舞台な於ける宣伝費買収費となつたことはどうだ！
其れを日本に於ける對米國士等は逆に米國の出費と信じ、倒まに支那が米人に買収されたかと考へて居る。
凡て、爲ることも、言ふことも考へることも、角兵衛獅子の逆施倒行である ）
自分は革命帝國の法案を考へた。
此の法案は秋毫しゅうごうも冷静厳粛を紊みだされてはならない。
而も自分は閑かなる書齋の代りに、
この全世界から起り全支那に渦巻く排日運動の鬨こうの聲の中に身を縛られて居た。
一冊の參考書を許されざる代わりに----御前の主張に依りて戈ほこを執り御前の本國に依りて
殺されたるものゝ瞑せざるを見ようとして　----参戰軍に銃殺されたる同志の忘片見を与へられた。
附紐の附いた日本の單衣を着て、小さい下駄をはいて父よ々々と慕ひ抱かれる。
而も涙の眼を轉ずれば、
ヴエランダの下は見渡す限り此の児の同胞が故國日本を怒り憎みて叫び狂ふ群衆の大怒濤である。
地上に生を享けたるものゝ多く会せざる矛盾、大矛盾ではないか。
泣いて悲しみが和らぎ怒りて當たるところあらば地獄ではない。
地獄、焦熱地獄の火災に身を焼かるゝ悶へに日々水を吸ふこと幾十瓶。
豪侠岩田の鐡腕さへ□びるゝ力を以て、岑々しんしんと時には轟々と鳴り痛む腦骨を打ち叩かせつゝ、
( 御前には常に御世話になつたこと謝する )。眞に気息庵々として筆を動かしたものである。
ニ三行にして枕し、五六行にして横はり。
故に自分は信ずる。
後十年秋、故朝日平吾君が一資本閥を刺して自らを屠りし時の遺言狀が
此の法案の精神を基本としたからとて聊かいささか失當ではないと。
死を以てする者と、死に優る生を貪る者むさぼるものとの間には其の根底に於て一脈相通ずる或者があるのだ。
自分が勿論足下を教へた者でない如くに、
足下の魂を天上に召した偉いなる者が自分を召して地上に之れを書かしめたのである。
從て猿から僅かに進化した理論に甘んずる頭脳の人々、
虚僞飾善の時代に適者生存の名誉を負へる國士志士学者人格者三角者の如きが、
或は追随したり或は背叛したりしようとも一願する氣にもなれない筈であると思ふ。
當時は眞に死の易きに比せらるゝ生の痛惨悲愁を嘗なめた。
而も今にして回顧すれば、
かの火の海の書齋と涙の冊子とは自分を書かしめし者が其の書記生に惠まれた者であつたのだ。
拝跪稽首して告ぐ。
此の文字が諸子を導くところあらば、諸子の感謝すべきものはあめつちに満つる我が神及び諸子の神々である。
參考論文に収めてある 『 支那革命外史 』 の序文は十年秋公刊の機會に於て書いたもので、
本分は四年末五年春第三革命中或る餘儀なき必要の爲めに限定部數の印刷配布のものである。
當時全然捨てゝ居た筆を執るに當って、
『 國體論及純正社会主義 』 の明治三十九年から十年の歳月を經たのを回顧して感慨多少のものがあつた。
『 國體論 』 の出版及び同時の發行禁止から其年の冬直ちに支那の革命者の一團の中に生活せしめられて居た。
幸徳秋水事件等の外に神蔭しの如く置かれたる冥々の加護を今更の如く考へしめられることもあり、
眞實の革命の本義と革命運動とは決して書冊や歴史では解することの出來ない境地であることも悟られて來た。
同時に、人間生活の殆ど凡ての窮乏も、屈辱も、成功らしきことも、
失敗其者の至重至大なる異議も----特に腸の千切れる悲しみや血の涙といふもの、
天人共に怒ると云ふ憤怒の如きもの、----此等の體験と其中に起伏する一糸紊れざる法則も多少は悟ることも出來た。
特に革命的中心人物は凡ての歴史に於て似而非なる同一戰列の鍍金者流
( 名誉權力、我見邪慢の地金に外部周囲から革命的光輝を塗られた似而非者 ）
によりて終滅せしめらるゝ事實と其の天意とに就きて深く心得ることも出來たつもりで居る。
而して此の二著の序文だけにても収録した理由は、理論として二十三歳の青年の主張論弁したこしも、
實行者として隣國に多少の足跡を印したことも、而して此の改造法案に表れたことも、
二十年間嘗て大體根柢の義に於て一点一畫の訂正なしと云ふ根本事の諒解を欲するからである。
思想は進歩するなんど云ふ遁辞とんじを以て五年十年、甚しきは一年半年に於て自己を打消して
恬然てんぜん恥なき如きは、----政治家や思想家や教師や文書家は其れでも宜ろしいが、
----革命者として時代を區劃くかくし、
幾百年の信念と制度とを一変すべき使命に於て生れたる者の許すべきことではない。
純粋の理論を論説して居た二十台の青年だらうが、
千差萬別の事情勢力の過流に揉みくちゃにされて一定の航路を曲げ易い三十台だらうが、
己に社會や國家に對して現説をなし行動を取った以上は
年齢や思想如何を以て免除さるべからざる責任を感ずべき筈と思ふ。
一貫不惑である。
故に同じき参考論文に収めて在る 『 ヨツフエ君に訓ふる公開狀 』 は其れ自身の価値、
即ち露西亜の革命が百年後れたる仏蘭西革命の繼續であつて社會主義の實現に非ざることや、
國際債務の否認が主義の理論でなくて獨逸皇帝との降伏同盟から生じたことや、
國際法学上の承認とは領土繼承權の承認以外は何もないと云ふことやの価値は今も鮮やかなる論證として存する。
又この論文の數万部を以て、且つこの論文からの満三個月を以て、
彼を自分の領土から逐出した實力の行動を承知してる者も多からう。
而しながら其論調が所謂 『 戰場言葉 』 であつたが爲めに、
----自分が現説をする時は即ち行動の一部であるが故に、----
反動主義者でないかと愕いたおどろいた昏迷者は二十年前の 『 國體論及純正社會主義 』 の序文を見るがよろしい。
非戰論に雷同せざるものは革命主義者に非ずとされた當時の世界風潮に於て
『 万國社會党大會の決議を以てすとも著者の自由を拘束する能はず 』 と大書特筆して日露戰爭を是認してある。
( 彼れの凡てを無視せよ、彼れの一貫不惑なる二十年の生活を信頼せよ )
然り。
日露戰爭によりて、一島國の黄人が白人の大陸帝國を單獨に打破したることに依りて、
支那に革命精神の勃興となり、
印度に獨立運動の萌芽を見たのだとせば其れを非認して革命者を自任した人々の如き
今更支那や印度や亜細亜の革命を語り解放を言ふは社會に對し自己に對しても恥無きわざではなからうか。
『 國體論及純正社會主義 』 は當時の印刷で一千頁ほどのものであり且つ二十年前の禁止本であるが故に、
一讀を希望することは誠に無理であるが、其機会を有せらるゝ諸子は 『 國體の解説 』 の部分だけ理解を願ひたい。
右傾とか左傾とか相爭ふことの多くは日本人自らが日本の國體を正當に理解して居らぬからであると思ふ。
この著者はそれを閲讀した故板垣老伯が著者の童顔を眺めて、御前の生れ方が遅かった、
この著述が二十年早かったならば我が自由黨の運動は別の方向を取って居ったと遺憾がられたことがある。
同時に保守黨の鎮臺と目されて居た故谷干城氏は別の意味に於て著者を過分に論評して居た記事を見た記憶がある。
坦々たる長安の大道を何が故に泥酔者の如く右傾し左傾して歩するのか。
現在の革命的指導者諸子に影響した点の多いのは多く此の著である。
( 當時の啓蒙時代に於て福田徳三氏が世界的大著述となし、
 社會主義研究者の爲めに列擧したる各國の代表的著述中に日本を代表せる唯一の者としてあつた如き、
 此著に亦 學術的価値もあるのであらうか。)
『 支那革命外史 』 は序文だけで本分を見らるゝを慾しない。絶版でもある。
大石良雄を行動する者と浪花節語りとを混同する現代日本人から劇的興味を以て視らるゝことは不快此上もない。
自分は芝居を見ることを欲せず歴史も其の大部分は忘却の屑籠くずかごに投げ込んで居る。
文字と所作業に感戟する程度のものは敵でも味方でも御免を蒙りたい。
小さき賛美と群盲象評の是非より離るゝことを祈る。
大正五年一月よりの満十年間の見佛の生活に於て 『 柔和質直者則皆見我身 』 を身讀したる如く、
----其れ以前の十年間の 『 國體論 』 時代より 『 雖近而不見 』 の冥々の愛護を今更のやうに願想して拝謝し得る如く、
----今後恐らくは眞に波瀾重畳なるべき人生無限の航路に於て等しき指導愛護を垂れ給はんことを祈る。
見と不見との二十年間を幸ひにして一貫せし者惑はざりし者を、必ず決定して故國日本の嚴上に築かんことを祈る。
而して若し余あらば、----何ぞ命の余れると足らざるとを言はんや。
大正十五年一月三日
北一輝

次頁 (3) 目次 に 続く　

日本改造法案大綱 (3) 目次

日本改造方案大綱目次

緒言
巻一　國民ノ天皇
憲法停止----天皇ノ原義----華族制廢止----普通選擧----國民自由ノ恢復
----國家改造内閣----國家改造議會----皇室財産ノ國家下附
巻二　私有財産限度
私有財産限度----改造後ノ私有財産限度超過者----在郷軍人團體會議
巻三　土地處分三則
私有地限度----私有地限度ヲ超過セル土地ノ國納----土地徴集機關----將來ノ私有地限度超過者
----徴集地ノ民有制----都市ノ土地市有制----國有タルベキ土地
巻四　大資本ノ國家統一
私人生産業限度----私人生産業限度を超過セル生産業ノ國有----資本徴集機関
----改造後私人生産業限度ヲ超過セル者----國家ノ生産的組織----其一銀行省
----其二航海省----其三鉱業省----其四農業省----其五工業省----其六商業省
----其七鐡道省----莫大ナル國庫収入
巻五　勞働者ノ權利
勞働者ノ任務----勞働賃銀----勞働時間----勞働者ノ利益配当----勞働的株主制ノ立法
----借地農業者ノ擁護----幼年勞働ノ禁止----婦人勞働
巻六　國民ノ生活權利
児童ノ権利----國家扶養ノ義務----國民教育ノ權利----婦人人權ノ擁護
----國民人權ノ擁護----勲功者ノ權利----私有財産ノ權利
巻七　朝鮮其ノ他現在及將來ノ領土ノ改造方針
朝鮮ノ郡県制----朝鮮人ノ參政權----三原則ノ拡張----現在領土ノ改造順序
----改造組織ノ全部施行セラルベキ新領土
巻八　國家ノ權利
徴兵制ノ維持----開戰ノ積極的權利
結言

次頁 (4) 緒言 に 続く

日本改造法案大綱 (4) 緒言

緒言

今ヤ大日本帝國ハ内憂外患 竝ビ到ラントスル有史未曾有ノ國難ニ臨メリ。
國民ノ大多數ハ生活ノ不安ニ襲ハレテ 一ニ欧州諸國破壊ノ跡ヲ學バントシ、
政權 軍權 財權 ヲ私セル者ハ只竜袖ニ陰レテ惶々其不義ヲ維持セントス。
而シテ外、英米獨露 悉ク信ヲ傷ケザルモノナク、
日露戰爭ヲ以テ漸クようやく保全ヲ与ヘタル隣邦支那スラ酬ユルニ却テ排侮ヲ以テス。
眞ニ東海栗島ノ孤立。
一歩ヲ誤ラバ宗祖ノ建國ヲ一空セシメ危機誠ニ幕末維新ノ内憂外患ヲ再現シ來レリ。
只天佑六千萬同胞ノ上ニ炳あきらかタリ。
日本國民ハ須ラク國家存立ノ大義ト國民平等ノ人權トニ深甚ナル理解ヲ把握シ、
内外思想ノ清濁ヲ判別採捨スルニ一點ノ過誤ナカルベシ。
欧州諸國ノ大戰ハ天其ノ驕侈亂論ヲ罰スルニ 「ノア」 ノ洪水ヲ以テシタルモノ。
大破壊ノ後ニ狂亂狼狽スル者ニ完備セル建築圖ヲ求ム可ラザルハ勿論ノ事。
之ト相反シテ、我ガ日本ハ彼ニ於テ破壊ノ五ケ年ヲ充實ノ五ケ年トシテ惠マレタリ。
彼ハ再建ヲ云フベク我ハ改造ニ進ムベシ。
全日本國民ハ心ヲ冷カニシテ天ノ賞罰斯クノ如ク異ナル所以ノ根本ヨリ考察シテ、
如何ニ大日本帝國ヲ改造スベキカノ大本ヲ確立シ、擧國一人ノ非議ナキ國論ヲ定メ、
全日本國民ノ大同團結ヲ以テ終ニ天皇大權ノ發動ヲ奏請シ、
天皇ヲ奉ジテ速ヤカニ國家改造ノ根基ヲ完ウセザルベカラズ。
支那印度七億ノ同胞は實ニ我ガ扶導擁護ヲ外ニシテ自立ノ途ナシ。
我ガ日本亦五十年間ニ二倍セシ人口
増加率ニヨリテ百年後少ナクモ二億四千五百萬人ヲ養フベキ大領土ヲ餘儀ナクセラレル。
國家ノ百年ハ一人ノ百日ニ等シ。
此ノ餘儀ナキ明日ヲ憂ヒ彼ノ褄惨タル隣邦ヲ悲シム者、
如何ゾ直譯社會主義者流ノ巾幗的平和論ニ安ンズルヲ得ベキ。
階級闘爭ニヨル社會進化ハ敢テ之ヲ否マズ。
而モ人類歴史アリテ以來ノ民族競爭國家競爭ニ眼ヲ蔽ヒテ何ノ所謂科學的ゾ。
欧米革命論ノ權威等悉ク其ノ浅薄皮相ノ哲學ニ立脚シテ終ニ 「 劔ノ福音 」 ヲ悟得スル能ハザル時、
高速ナル亜細亜文明ノ希臘きろうハ率先其レ自ラノ精神ニ築カレタル國家改造ヲ終ルト共ニ、
亜細亜聯盟ノ義旗を飜ひるがえシテ眞個到來スベキ世界聯邦ノ牛耳を把り、
以テ四海同胞皆是佛子ノ天道ヲ宣布シテ東西ニ其ノ範ヲ垂ルベシ。
國家ノ武装ヲ忌いまわしム者ノ如キ其智見終ニ幼童ノ類ノミ。

次頁 (5) 巻一 國民の天皇 に 続く

日本改造法案大綱 (5) 巻一 國民ノ天皇

巻一　国民ノ天皇

憲法停止。
天皇ハ全日本國民ト共ニ國家改造ノ根基ヲ定メシガ爲ニ
天皇大權ノ發動ニヨリテ三年間憲法ヲ停止シ
兩院ヲ解散シテ全國ニ戒嚴令ヲ布ク。

註一。
權力ガ非常ノ場合有害ナル言論又ハ投票ヲ無視シ得ルハ論ナシ。
如何ナル憲法ヲモ議會ヲモ絶對視スルハ英米ノ教權的 「 デモクラシー 」 ノ直譯ナリ。
是レ 「 デモクラシー 」 ノ本面目ヲ蔽フ保守頑迷ノ者、
其ノ笑フベキ程度ニ於テ日本ノ國體ヲ説明スルニ高天ヶ原的論法ヲ以テスル者アルト同ジ。
海軍拡張案ノ討議ニ於テ東郷大将ノ一票ガ醜惡代議士ノ三票ヨリ価値ナク、
社會政策ノ裁決ニ於テ 「 カルル ・マルクス 」 ノ一票ガ大倉喜八郎ノ七票ヨリ不義ナリト云フ能ハズ。
由來投票政治ハ數ニ對ノ価値ヲ附シテ
質ガ其レ以上ニ価値ヲ認メラレルベキ者ナルヲ無視シタル旧時代ノ制度ヲ伝統的ニ維持セルニ過ギズ。

註二。
「 クーデター 」 ヲ保守専制ノ爲メノ權力濫用ト速斷スル者ハ歴史ヲ無視スル者ナリ。
奈翁 ﾅﾎﾟﾚｵﾝガ保守的分子ト妥協セザリシ純革命的時代ニ於テ
「 クーデター 」 ハ議會ト新聞ノ大多數ガ王朝政治ヲ復活セントスル分子ニ満チタルヲ以テ
革命遂行ノ唯一道程トシテ行ヒタル者。
又 現時露國革命ニ於テ
「 レニン 」 ガ機關銃ヲ向ケテ妨害的勢力ノ充満スル議會ヲ解散シタル事例ニ見ルモ
「 クーデター 」 ヲ保守的權力ノ所爲ト考フルハ甚シキ俗見ナリ。

註三。
「 クーデター 」 ハ國家權力 即チ 社會意志ノ直接的發動ト見ルベシ。
其ノ進歩的ナル者ニ就キテ見ルモ國民ノ團集ソノ者ラ現ハルクリカエシコトアリ。
日本ノ改造ニ於テハ必ズ國民ノ團集ト元首トノ合體ニヨル權力發動タラザルベカラズ。

註四。
兩院ヲ解散スルノ必要ハ
其レニ拠ル貴族ト富豪階級ガ此ノ改造決行ニ於テ、天皇及國民ト兩立セザルヲ以テナリ。
憲法ヲ停止スルノ必要ハ
彼等ガ其ノ保護ヲ将ニ一掃セントスル現行法律ニ求ムルヲ以テナリ。
戒嚴令ヲ布ク必要ハ
彼等ノ反抗的行動ヲ彈壓スルニ最モ拘束サレザル國家ノ自由ヲ要スルヲ以テナリ。
而シテ無智半解ノ革命論ヲ直譯シテ此ノ改造ヲ妨グル言動ヲナス者ノ彈壓ヲモ含ム。

天皇ノ原義。
天皇ハ國民ノ總代表タリ、
國家ノ根柱タルノ原理主義ヲ明カニス。
此ノ理義ヲ明カニセンガ爲ニ神武國祖ノ創業、明治大帝ノ革命ニ則リテ宮中ノ一新ヲ圖リ、
現時ノ樞密顧問官其他ノ官吏ヲ罷免シ以テ天皇ヲ補佐スベキ顧問院ヲ設ク。
顧問院議員ハ天皇ニ任命セラレ其ノ人員ヲ五十名トス。

註一。
日本ノ國體ハ三段ノ進化ヲナセルヲ以テ天皇ノ意義又三段ノ進化ヲナセリ。
第一期ハ
藤原氏ヨリ平氏ノ過渡期ニ至ル専制君主時代ナリ。
此間理論上天皇ハ凡テノ土地ト人民トヲ私有財産トシテ所有シ生殺与奪ノ權ヲ有シタリ。
第二期ハ
源氏ヨリ 徳川氏ニ至ルマデノ貴族國時代ナリ。
此間ハ各地ノ群雄又ハ諸侯ガ各其範囲ニ於テ土地ト人民トヲ私有シ
其上ニ君臨シタル幾多ノ小國家小君子トシテ交戰シ聯盟シタル者ナリ。
從テ天皇ハ第一期ノ意義ニ代フルニ、
此等小君主ノ盟主タル幕府ニ光榮ヲ加冠スル羅馬法主トシテ、
國民信仰ノ伝統的中心トシテノ意義ヲ以テシタリ。
此進化ハ欧州中世史ノ諸侯國神聖皇帝羅馬法主ト符節ヲ合スル如シ。
第三期ハ
武士ト人民トノ人格的覺醒ニヨリテ
各其ノ君主タル將軍又ハ諸侯ノ私有ヨリ解放サレントシタル維新革命ニ始マレル民主國時代ナリ。
此時ヨリノ天皇ハ純然タル政治的中心ノ意義ヲ有シ、
此ノ國民運動ノ指揮者タリシ以來 現代民主國ノ總代表トシテ國家ヲ代表スル者ナリ。
即チ維新革命以來ノ日本ハ天皇ヲ政治的中心トシタル近代的民主國ナリ。
何ゾ我ニ乏シキ者ナルカノ如ク彼ノ 「 デモクラシー 」 ノ直譯輸入ノ要アランヤ。
此ノ歴史ト現代トヲ理解セザル頑迷國體論者ト欧米崇拝者トノ爭闘ハ
實ニ非常ナル不祥ヲ天皇ト國民トノ間ニ爆發セシムル者ナリ。
兩者ノ救フベカラザル迷妄ヲ戒シム。

註二。
國民ノ總代者ガ投票當選者タル制度ノ國家ガ或ル特異ナル一人タル制度ノ邦ヨリ
優越ナリト考フル 「 デモクラシー 」 ハ全ク科學的根拠ナシ。
國家ハ各々其國民精神ト建國歴史ヲ異ニス。
民國八年マデノ支那ガ前者タル理由ニヨリテ後者タル白耳義ヨリ合理的ナリト言フ能ハズ。
米人ノ 「 デモクラシー 」 トハ社會ハ個人ノ自由意志ニヨル自由契約ニ成ルト云ヒシ
當時ノ幼稚極マル時代思想ニヨリテ、各欧州本國ヨリ離脱シタル個々人ガ村落的結合ヲナシテ國を建テタル者ナリ。
其ノ投票神權説ハ當時ノ帝王神權説ヲ反對方向ヨリ表現シタル低能哲学ナリ。
日本ハ斯ル建國ニモ非ズ、又斯ル低能哲学ニ支配サレタル時代モナシ。
國家ノ元首ガ賣名的多弁ヲ弄シ下級俳優ノ如キ身振ヲ晒シテ當選ヲ爭ウ制度ハ、
沈黙ハ金ナリヲ信条トシ 謙遜ノ美徳ヲ教養セラレタル日本民族ニ取リテハ
一ニ奇異ナル風俗トシテ傍観スレバ足ル。

註三。
現代宮中ハ中世的弊習ヲ復活シタル上ニ欧州ノ皇室ニ残存セル別個ノ其等ヲ加ヘテ、
實ニ國祖建國ノ精神タル平等ノ國民ノ上ノ總司令者ヲ遠ザカルコト甚シ。
明治大帝ノ革命ハ此ノ精神ヲ再現シテ近代化セル者。
從テ同時ニ宮中ノ廓清ヲ決行シタリ。
此レヲ再ビスル必要ハ
國家組織ヲ根本的ニ改造スル時獨リ宮中ノ建築ヲノミ傾柱壊壁ノママニ委スル能ハザレバナリ。

註四。
顧問院議員ガ内閣又ハ議會ノ決議ニヨリテ彈劾セラルヽ制度ノ必要ハ、
天皇ノ補佐ヲ任トスル理由ヨリテ専恣ヲ働ク者多キ現狀ニ鑑ミテナリ。
樞密院諸氏ノ頑迷ト専恣トハ革命前ノ露國宮廷ト大差ナシ。
天皇ヲ累スルモノハ凡テ此ノ徒ナリ。

華族制度廃止。
華族制ヲ廢止シ、天皇ト國民トヲ阻隔シ來レル藩屏ヲ撤去シテ明治維新ノ精神ヲ明ニス。
貴族院ヲ廢止シテ審議院ヲ置キ衆議院ノ決議ヲ審議セシム。
審議院ハ一回ヲ限リトシテ衆議院ノ決議ヲ拒否スルヲ得。
審議院議員ハ各種ノ勲功者間ノ互選及勅選ニヨル。

註一。
貴族政治ヲ覆滅シタル維新革命ハ徹底的ニ遂行セラレテ貴族ノ領地ヲモ解決シタルコト、
當時ノ一佛國を例外トシタル欧州ノ各國ガ依然中世的領土ヲ處分スル能ハザリシヨリモ百歩ヲ進メタルモノナリキ。
然ルニ大西郷等革命精神ノ體現者世ヲ去ルト共ニ單ニ附随的ニ行動シタル伊藤博文等ハ、
進ミタル我ヲ解セズシテ後レタル彼等ノ貴族的中世的特權ノ残存セルモノヲ模倣シテ輸入シタリ。
華族制ヲ廢止スルハ欧州ノ直譯制度ヲ棄テテ維新革命ノ本來ニ返ヘル者。
我ノ短所ナリト考ヘテ新ナル長ヲ學ブ者ト速斷スベカラズ。
既ニ彼等ノ或者ヨリ進ミタル民主國ナリ。

註二。
二院制ノ一院制ヨリ過誤少ナキ所以ハ興論ガ甚ダ多クノ場合ニ於テ感情的雷同的瞬間的ナルヲ以テナリ。
上院ガ中世的遺物ヲ以テセズ各方面ノ勲功者ヲ以テ組織セラルル所以。

普通選挙。
二十五歳以上ノ男子ハ大日本國民タル權利ニ於テ
平等普通ニ衆議院議員ノ被選擧權及ビ選擧權ヲ有ス。
地方自治會亦之ニ同ジ。
女子は參政權ヲ有セズ。

註一。
納税資格ガ選擧權ノ有無ヲ決セル各國ノ制度ハ、
議會ノ濫觴ガ皇室ノ徴税ニ對シテ其ノ費途ヲ監視セントシタル英國ニ發スト雖モ、
日本國自身ノ原則トシテハ國民タル權利ノ上ニ立テザルベカラズ。
則チ如何ナル國民モ間接税ノ負担者ナラザルハナシト云フ
納税資格ノ拡張セラレタル普通選擧ノ義ニ非ズ。
徴兵ガ 「 國民ノ義務 」 ナリト云フ意義ニ於テ選擧ハ 「 國民の權利 」 なり。

註二。
國家ヲ防護スル國民ノ義務ハ國政ヲ共治スル國民ノ權利ト一個不可分ノ者ナリ。
日本國民タル人權ノ本質ニ於テ、羅馬ノ奴隷ノ如ク、
又昇殿ヲモ許サレザル王朝時代ノ犬馬ノ如ク、
純乎タル被治者トシテ或ル治者階級ノ命令ノ下ニ其ノ生死ヲ委スベキ理ナシ。
此ノ權利ト此ノ義務トハ一切ノ条件ニ依リテ干犯サルルコトヲ許サズ。
從テ仮令國外出征中ノ現役將卒ト雖モ何等ノ制度無ク投票シ且ツ投票セラルベシ。

註三。
女子ノ參政權ヲ有セズト明示セル所以ハ日本現存ノ女子ガ覺醒ニ至ラズト云フ意味ニ非ズ。
欧州ノ中世史ニ於ケル騎士ガ婦人ヲ崇拝シ其眷願ヲ全ウスルヲ士ノ礼トセルニ反シ、
日本中世史ノ武士ハ婦人ノ人格ヲ彼ト同一程度ニ尊重シツツ
婦人ノ側ヨリ男子ヲ崇拝シ 男子ノ眷願ヲ全ウスルヲ婦道トスル礼ニ發達シ來レリ。
コノ全然正反對ナル發達ハ社會生活ノ凡テニ於ケル分科的發達トナリテ近代史ニ聯ナリ、
彼ニ於テ婦人參政運動トナレリ者我ニ於テ良妻賢母主義トナレリ。
政治ハ人生ノ活動ニ於ケル一小部分ナリ。
國民ノ母 國民ノ妻タル權利ヲ擁護シ得ル制度ノ改造ヲナサバ日本ノ婦人問題ノ凡テハ解決セラル。
婦人ヲ口舌ノ闘爭ニ慣習セシムルハ其天性ヲ残賊スルコト之ヲ戰場ニ用フルヨリモ甚シ。
欧米婦人ノ愚昧ナル多弁、支那婦人間ノ鞏奸ナル口論ヲ見タル者ハ
日本婦人ノ正道ニ發達シツツアルニ感謝セン。
善キ傾向ニ發達シタル者ハ惡シキ發達ノ者ヲシテ學バシムル所アルベシ。
コノ故ニ現代ヲ以テ東西文明ノ融合時代ト云フ。
直譯ノ醜ハ特ニ婦人參政權問題ニ見ル。 ( 國民の生活權利参照 )。

國民自由ノ恢復。
從來國民ノ自由ヲ拘束シテ憲法ノ精神ヲ毀損きそんセル諸法律ヲ廢止ス。
文官任用令。
治安警察法。
新聞紙條例。
出版法等。

註。
周知ノ道理。只各種閥族等ノ維持ニ努ムルノミ。

國家改造内閣
戒嚴令施行中現時ノ各省ノ外ニ
下掲ノ生産的各省ヲ設ケ更ニ無任所大臣數名ヲ置キテ改造内閣を組織ス。
改造内閣員ハ從來ノ軍閥、吏閥、財閥、黨閥ノ人々ヲ斥しりぞケテ全國ヨリ廣ク偉器ヲ選ビテ此ノ任ニ當ラシム。
各地方長官ヲ一律ニ罷免シ國家改造知事ヲ任命ス。
選任ノ方針右ニ同ジ。

註。
徳川ノ君臣ヲ以テ維新革命ヲナス能ハザル同一理由。
但シ革命ハ必ズシモ流血ノ多少ニヨリテ価値ヲ決スルモノニ非ズ。
恰モ外科手術ニ於テ流血多量ナル理由ヲ以テ少量ナル者ヲ不徹底ナリト云フ能ハザルガ如シ。
要ハ手術者ノ力量ト手術セラルベキ患者ノ體質如何ニ在リ。
現時ノ日本ハ充實鞏健ナル壮者ナリ、露西亜支那ノ如キハ全身腐肉朽骨ノ老癈患者ナリ。
古今ヲ達観シ東西ニ卓出セル手術者ノアラバ日本ノ改造ノ如キ談笑ノ間ニ成ルベシ。　　

國家改造議會
戒嚴令施行中普通選擧ニ依ル國家改造議會ヲ招集シ改造ヲ協議セシム。
國家改造議會ハ天皇ノ宣布シタル國家改造ノ根本方針ヲ討論スルコトヲ得ズ。

註一。
コレ國民ガ本隊ニシテ天皇ガ號令者ナル所以。
權力濫用ノ 「 クーデター 」 ニ非ズシテ國民ト共ニ國家ノ意志ヲ發動スル所以。
　
註二。
是レ法理論ニ非ズシテ事實論ナリ。
露獨ノ皇帝モ斯カル權限ヲ有スベシト云フ學究談論ニ非ズシテ。
日本天皇陛下ニノミ期待スル國民ノ神格的信任ナリ。

註三。
現時ノ資本萬能官僚制ノ間ニ普通選擧ノミヲ行フモ選出サルル議員ノ多數又ハ少數ハ
改造ニ反對スル者及反對スル者ヨリ選擧費ヲ得タル當選者ナルヲ以テナリ。
但戒嚴令中ノ議員擧タリ議會開會ナルヲ以テ有害ナル候補者又ハ議員ノ權利ヲ停止スベキヲ得ルハ論ナシ。

註四。
斯カル神格者ヲ天皇トシタルコトノミニ依リテ
維新革命ハ佛國革命ヨリモ悲惨ト動亂ナクシテ而モ徹底的ニ成就シタリ。
再ビ斯カル神格的天皇ニ依リテ
日本ノ國家改造ハ露西亜革命ノ虐殺兵亂ナク、
獨乙革命ノ痴純ナル徐行ヲ經過セズシテ整然タル秩序ノ下ニ貫徹スベシ。

天皇財産ノ國家下附
天皇ハ自ラ範ヲ示シテ
皇室所有ノ土地山林株券等ヲコク家ニ下附ス。
皇室費ヲ年約三千萬圓トシ、國庫ヨリ支出セシム。
但シ、時勢ノ必要ニ應ジ議會ノ協賛ヲ經テ増額スルコトヲ得。

註。
現時ノ皇室財産ハ徳川氏ノ其レヲ繼承セルコトニ始マリテ、
天皇ノ原義ニ照スモ斯カル中世的財政ヲトルハ矛盾ナリ。
國民ノ天皇ハ其ノ經濟亦悉ク國家ノ負担タルハ自明ノ理也。

次頁 (6) 巻二 私有財産限度 に 続く

日本改造法案大綱 (6) 巻二 私有財産限度

巻二　私有財産限度

私有財産限度。
日本國民一家ノ所有シ得ベキ財産限度ヲ壱百萬圓トス。
海外ニ財産ヲ有スル日本國民亦同ジ。
此ノ限度ヲ破ル目的ヲ以テ財産ヲ血族其他ニ贈与シ
又ハ何等カノ手段ニヨリテ所有セシムルヲ得ズ。

註一。
一家トハ父妻子女及ビ直系ノ尊卑属ヲ一括シテ云フ。

註二。
限度ヲ設ケテ壱百萬圓以下ノ私有財産ヲ認ムルハ、
一切ノ其レヲ許サザランコトヲ終局ノ目的トスル諸種ノ社會革命説ト
社會及人性ノ理解ヲ根本ヨリ異ニスルヲ以テナリ。
個人ノ自由ナル活動又ハ享楽ハ之レヲ其ノ私有財産ニ求メザルベカラズ。
貧富ヲ無視シタル劃一的平等ヲ考フルコトハ誠ニ社会萬能説ニ出發スルモノニシテ、
此非難ニ對抗センガ爲メニ個人ノ名誉的不平等ヲ認ムル制度ヲ以テセント云フモ、コハ価値ナキ別問題ナリ。
人ハ物質的享楽又ハ物質的活動其者ニ就キテ劃一的ナル能ハザレバナリ。
自由ノ物質的基本ヲ保證ス。

註三。
外國ニ財産ヲ有スル國民ニ此限度ノ及ブハ法律上當然ナリ。
之ヲ明示シタル所以ハ此限度ヨリ免カルル目的ヲ以テスル外國ノ財産ヲ禁ズルヲ明カニシタル者。
佛蘭西革命ノ時ノ亡命貴族ノ例。
租界ニ逃居シテ財産ノ安固ヲ計ル現時支那官僚富家ノ例。

註四。
社會主義ガ
私有財産ノ確立セル近代革命ノ個人主義民主主義ノ進化ヲ繼承セル者ナリトハ此ノ故ナリ。
民主的個人ヲ以テ組織サレザル社會ハ奴隷的社会萬能ノ中世時代ナリ。
而シテ民主的個人ノ人格的基礎ハ則チ其ノ私有財産ナリ。
私有財産ヲ尊重セザル社會主義ハ、
如何ナル議論ヲ長論大著ニ構成スルニセヨ、要スルニ原始的共産時代ノ回顧ノミ。

私有財産限度超過額ノ國有。
私有財産限度超過額ハ凡テ無償ヲ以テ國家ニ納附セシム。
此ノ納附ヲ拒ム目的ヲ以テ現行法律ニ保護ヲ求ムルヲ得ズ。
若シ是ニ違反シタル者ハ天皇ノ範ヲ蔑ニシ、國家改造ノ根基ヲ危クスルモノト認メ、
戒嚴令施行中ハ天皇ニ危害ヲ加フル罪及國家ニ對スル内亂ノ罪ヲ適用シテ之ヲ死刑ニ処ス。

註一。
經濟的組織ヨリ見タルトキ、
現時ノ國家ハ統一國家ニ非ズシテ經済的戰國時代タリ經濟的封建制タラントス。
米國ノ如キハ確實ニ經濟的諸侯政治ヲ築キ終レルモノナリ。
國家ハ、嘗テ家ノ子郎党又ハ武士等ノ私兵ヲ養ヒテ攻戰討伐セシ時代ヨリ現時ノ統一ニ至レリ。
國家ハ更ニ其ノ内容タル經濟的統一ヲナサンガ爲ニ、
經濟的私兵ヲ養ヒテ相殺傷シツツアル今ノ經濟的封建制ヲ廢止シ得ベシ。

註二。
無償ヲ以テ徴集スル所以ハ、
現時ノ大資本家大地主等ノ富ハ其實社會共同ノ進歩ト
共同ノ生産ニヨル富ガ悪制度ノ爲メ彼等少數者ニ停滞シ蓄積セラレタル者ニ係ハルヲ以テナリ。
理由ノ第二ハ、
公債ヲ以テ悉ク此等ヲ賠償セル時ハ、
彼等ハ公債ニ変形シタル依然タル巨富ヲ以テ國家ノ經濟的統一ヲ毀損シ得ベキ力ヲ有スルヲ以テナリ。
第三ノ理由ハ、
國家トシテ不合理ナル所有ニ對シテ賠償ヲナス能ハズ、
實ニ其資本ヲシテ有史未曾有ノ活用ヲナスベキ切迫セル當面ノ經綸ヲ有スレヲ以テナリ。

註三。
違反者ニ對シテ死刑ヲ以テセント云フハ必ズシモ希望スル所ニ非ズ。
又固ヨリ無産階級ノ復讐的騒亂ヲ是非スルニモ非ズ。
實ニ歸属ノ土地徴集ヲ決行スルニ、
大西郷ガ異議ヲ唱フル諸藩アラバ一擧討伐スベキ準備ヲナシタル先哲ノ深慮ニ學ブベシトスル者ナリ。
二三十人ノ死刑ヲ見バ天下悉ク服セン。

改造後ノ私有財産超過者。
國家改造後ノ將來、私有財産限度ヲ超過シタル富ヲ有スル者ハ其ノ超過額ヲ國家ニ納附スベシ。
國家ハ此ノ合理的勤労ニ對シテ其ノ納附金ヲ國家ニ對スル献金トシテ受ケ
明カニ其ノ功勞ヲ表彰スルノ道ヲ取ルベシ。
此ノ納附ヲ避クル目的ヲ以テ血族其他ニ分有セシメ又ハ贈与スルヲ得ズ。
造反者ノ罰則ハ、國家ノ根本法ヲ紊亂びんらんスル者ニ對スル立法精神ニ於テ、別ニ法律ヲ以テ定ム。

註一。
現時ノ致富ト改造後ノ致富トガ致富ノ原因ニスルヲ了解スベシ。

註二。
最小限度ノ生活基準ニ立脚セル諸多ノ社會改造説ニ對シテ、
最高限度ノ活動權域ヲ規定シタル根本精神ヲ了解スベシ。深甚ナル理論アリ。
　　
註三。
前世紀的社會主義ニ對スル一般且ツ有利ノ非難、則チ各人平等ノ分ニ移シ加フルヲ得ズ。
第一、私有財産權ヲ確認スルガ故ニ尠シモ平等共産主義ニ傾向セズ。
而シテ私有財産ニ限度アリト雖モ聊カモ勤勉ヲ傷ケズ。
壱百萬圓以上ノ富ハ國有タルベキガ故ニ、
工夫ハ多クノ賃銀ヲ要セズ商家ハ廣キ買客ヲ慾セズト思考スル者ナシ。

註四。
私人壱百萬圓ヲ有セバ物質的享楽及ビ活動ニ於テ至ラザル所ナシ。
國民ノ國家内ニ生活スル限リ神聖ナル人權ノ基礎トシテ國家ノ擁護スル所以。
数百萬数千萬数億萬ノ富ニ何等立法的制限ナキハ
國家ノ物質的統制ヲ現代見ル如キ無政府状態ニ放任スル者。
國家ガ國際間ニ生活スル限リ國家ノ至上權ニ於テ國家ノ所有ニ納附セシムル所以。

註五。
資産限度超過者ガ法律ヲ遵守セズシテ不可行ニ終ルベシト狐疑スル勿レ。
刑法ヲ遵守セズシテ放火殺人ヲ敢テスル者アルガ故ニ刑法ハ空想ナリト云フ者ナシ。
國憲ヲ紊亂スル者ニ課罰スル別個重大精密ナル法律ヲ制定スル所以ナリ。

在郷軍人團會議
天皇ハ戒嚴令施行中、在郷軍人團ヲ以テ改造内閣ニ直属シタル機關トシ、
以テ國家改造中ノ秩序ヲ維持スルト共ニ、各地方ノ私有財産限度超過者ヲ調査シ、其ノ徴集ニ當ラシム。
在郷軍人團ハ在郷軍人ノ平等普通ノ互選ニヨル在郷軍人團會議ヲ開キテ
此ノ調査徴集ニ當ル常設機關トナス。

註一。
在郷軍人ハ嘗テ兵役ニ服シタル点ニ於テ
國民タル義務ヲ最モ多大ニ果タシタルノミナラズ
其ノ間ノ愛國的常識ハ國民ノ完全ナル中堅タリ得ベシ。
且ツ其ノ大多數ハ農民ト労働者ナルガ故ニ、同時ニ國家ノ健全ナル勞働階級ナリ。
而シテ既ニ一糸紊レザル組織アルガ故ニ、
改造ノ斷行ニ於テ露獨ニ見ル如キ騒亂ナク眞ニ日本ノミ専ラニスベキ天佑ナリ。

註二。
露西亜ノ勞兵會及其レニ倣ヒタル獨乙其他ノ勞兵會ニ比スル時
在郷軍人團ノ如何ニ合理的ナルカヲ見ルベシ。
在郷軍人團ハ兵卒ノ素質ヲ有スル勞働者ナル点ニ於テ、
勞兵會ノ最モ組織立テル者トモ見ラレルベシ。

註三。
現役兵ヲ以テ現在勞働シツヽ者ト結合シテ、同族相屠フル彼等ハ悲シムベキ不幸ナリ。
且ツ日本ノ軍隊ハ外敵ニ備フル者ニシテ自己ノ國民ノ彈壓ニ用フベキニ非ズ。

註四。
國民ノ資産税等ニ關与スル各官廳ヲ用ヒザル所以ハ
其等ト大富豪トノ結託ハ既ニ脱税等ニ見ル如ク事々國家ヲ欺キテ止マザレバナリ。
第二ノ理由ハ 此ノ改造ガ官僚ノ力ニヨル改造ニ非ズシテ
國民自ラガ國民ノタメニスル改造ナル根本精神ニ基ク重大ナル眼目。

註五。
固ヨリ在郷軍人團ガ其ノ調査ト徴集ニ
一ノ過誤失當ナキヲ期スルタメニ必要ナル官廳ヲシテ必要ニ應ジテ鞏力補佐セシムルハ論ナシ。
而シテ又固ヨリ在郷軍人團會議ハ各種ノ勞働團體ニヨリテ協力補佐セレルヽハ論ナシ。

註六。
現在ノ在郷軍人會其者ニ非ズ。
平等普通ノ互選ト明示セルヲ見ヨ。　

次頁 (7) 巻三 土地処分三則 に 続く

日本改造法案大綱 (7) 巻三 土地處分三則

巻三　土地處分三則

私有地限度。
日本國民一家ノ所有シ得ベキ私有地限度ハ時価拾萬円トス。
此限度ヲ破ル目的ヲ以テ血族其他ニ贈与シ又ハ其他ノ手段ニヨリテ所有セシムルヲ得ズ。

註一。
國民ノ自由ヲ保護シ得ル國家ハ同時ニ國民ノ自由ヲ制限シ得ルハ論ナシ。
外國ノ侵略又ハ其他ノ暴力ヨリ完全ニ其土地ヲ私有シ得ル所以ハ凡テ國家ノ保護ニヨル。
資本的經濟組織ノ爲ニ國内ニ不法ナル土地兼併ガ行ハレテ、
大多數國民ガ其生活基礎タル土地ヲ奪取セラレツツアルヲ見ルトキ、
國家ハ當然ニ土地兼併者ノ自由ヲ制限スベシ。

註二。
時価拾萬圓トシテ小地主ト小作人トノ存立ヲ認ムル点ハ、
一切ノ地主ヲ廢止セント主張スル社會主義的思想ト根拠ヲ異ニス。
又 土地ハ神ノ人類ニ与ヘタル人權ナリト云フガ如キ愚論ノ価値ナキハ論ナシ。
凡テニ平等ナラサル個々人ハ其經濟的能力享楽及經濟的運命ニ於テモ劃一ナラズ。
故ニ小地主ト小作人ノ存在スルコトハ神意トモ云フベク、
且ツ社會ノ存立及發達ノ爲メニ必然的ニ經由シツツアル過程ナリ。

私有地限度ヲ超過セル土地ノ國納。
私有地限度以上ヲ超過セル土地ハ之ヲ國家ニ納附セシム。
國家ハ其賠償トシテ三分利付公債ヲ交附ス。
但シ私産限度以上ニ及バズ。
其ノ私有財産ト賠償公債トノ加算ガ私産限度ヲ超過スル者ハ其超過額丈賠償公債ヲ交附セズ。
違反者ノ罰則ハ戒嚴令施行中前掲ニ同ジ。

註一。
日本現時ノ大地主ハ其經濟的諸侯タル形ニ於テ中世貴族ノ土地ヲ所有セルニ似タルモ、
所有權ノ本質ニ於テ全ク近代的ノ者ナリ。
中世ノ所有權思想ハ其ノ所有ガ奪取ナルト否トヲ問ハズ鞏者ノ權利ノ上ニ立テル者ナリキ。
維新革命ハ所有權ノ思想ガ鞏力ニヨル占有ニ非ズシテ労働ニ基ク所有ニ一変スルト共ニ、
鞏力ガ其鞏力ヲ失ヒテ其所有權ヲ喪失シタル者。
之レニ反シテ此ノ私有地限度超過ヲ徴集スルコトハ近代的所有權思想ノ変更ニ非ズ。
單ニ國家ノ統一ト國民大多數ノ自由ノ爲ニ少數者ノ所有權ヲ制限スル者ニ過ギズ。
故ニ私有財産限度以下ニ於テ所有權ニ伴フ權利トシテ賠償ヲ得ル者ナリ。
　　
註二。
故ニ中世貴族ノ所有地ヲ現今ニ至ルモ解決スル能ハズシテ
終ニ獨立問題ニマデ破裂セシメタル愛蘭ノ土地問題ト、
此ノ私有地限度トハ其思想ニ於テモ進歩ノ程度ニ於テモ雲泥ノ差アルヲ知ルベシ。
又 現時 露西亜ノ土地没収ノ如キハ
明カニ維新革命ヲ五十年後ノ今ニ於テ拙劣ニ試ミツツアル者ニ過ギズ。
彼ガ多クノ点即チ軍事政治學術其他ノ思想ニ於テ遙カニ後進國ナルハ論ナシ。
土地問題ニ於テ英語ノ直譯ヤ 「 レニン 」 ノ崇拝ハ佳人ノ醜婦ヲ羡ムノ類。　　　

土地徴集機関。
在郷軍人團會議ハ在郷軍人團ノ監視ノ下ニ私有地限度超過者ノ土地ノ評価徴集ニ當ルベシ。

註。
前掲ノ如シ。

將來ノ私有地限度超過者。
將來其ノ所有地ガ私有地限度ヲ超過シタル者ハ
其ノ超過セル土地ヲ國家ニ納附シテ賠償ノ交附ヲ求ムベシ。
此ノ納附ヲ拒ム目的ヲ以テ血族其他ニ贈与シ又ハ其他ノ手段ニヨリテ所有セシムルコトを得ズ。
違反者ノ罰則ハ、國家ノ根本法ヲ紊亂スル者ニ對スル立法精神ニ於テ、別ニ法律ヲ以テ定ム。

徴集地ノ民有制。
國家ハ皇室下附ノ土地
及 私有地限度超過者ヨリ納附シタル土地ヲ分割シテ土地ヲ有セザル農業者ニ給附シ、
年賦金ヲ以テ其所所有タラシム。
年賦金額年賦期間等ハ別ニ法律ヲ以テ定ム。

註一。
社會主義的議論ノ多クガ大地主ノ土地兼併ヲ移シテ國家其者ヲ一大地主トナシ
以テ國民ハ國家ノ所有ノ土地ヲ借耕スル平等ノ小作人タルベシト云フハ原理トシテハ非難ナシ。
之ニ反對シテ露西亜ノ革命的思想家ノ多クハ
國民平等ノ土地分配ヲ主張シテ又 別個ノ理論ヲ土地民有制ニ築ク者多シ。
併シ乍ラ 斯ル物質的生活ノ問題ハ或ル劃一ノ原則ヲ餘斷シテ凡テヲ演繹スベキ者ニ非ズ。
若シ原則ト云フ者アラバ、
只國家ノ保護ニヨリテノミ各人ノ土地所有權ヲ享受セシムルガ故ニ、
最高ノ所有者タル國家ガ國有トミ民有トモ決定シ得ベシト云フコト是レノミ。
露西亜ニ民有論ノ起ルハ正當ナルト共ニ、愛蘭ノ貴族領ガ國有タルベキモ可能ナリ。
則チ 二者ノ孰レカヲ決シ得ル國家ハ其ノ國情ノ如何ヲ考ヘテ最善ノ處分ヲナセバ可ナリトス。
日本ガ大地主ノ土地ヲ徴集スルコトハ最高ノ所有者タル國家ノ權利ニシテ國有ナリ。
而シテ日本ガ小農法ノ國情ナルニ考ヘテ
之ヲ自作農ノ所有權ニ移シ以テ土地民有制ヲ取ルコトモ
日本トシテ物質生活ヨリ築カルベキ幾多ノ理論ヲ有ス。
且ツ　動カスベカラザル原理ハ都市ノ住宅地ト異ナリテ
農業者ノ土地ハ資本ト等シク其經濟生活ノ基本タルヲ以テ、
資本ガ限度以内ニ於テ各人ノ所有權ヲ認メラルル如ク、
土地亦其限度内ニ於テ確實ナル所有權ヲ設定サルルコトハ國民的人權ナリトス。

註二。
此ノ日本改造法案ヲ一貫スル原理ハ、國民ノ財産所有權ヲ否定スル者ニ非ズ。
全國民ニ其所有權ヲ保障シ享楽セシメントスルニ在リ。
熱心ナル音楽家ガ借用ノ樂器ニテ満足セザル如ク、
勤勉ナル農夫ハ借用地ヲ耕シテ其勤勉ヲ持続シ得ル者ニ非ズ。
人類ヲ公共的動物トノミ考フル革命論ノ偏局セルコトハ、
私利的欲望ヲ經濟生活ノ動機ナリト立論スル旧派經濟學ト同ジ。
共ニ兩極ノ誤謬ナリ。
人類ハ公共的ト私利的トノ慾望ヲ併有ス。
從テ 改造サルベキ社會組織亦人性ヲ無視シタル此等兩極ノ學究的臆説ニ誘導サルルコト能ハズ。

都市ノ土地市有制。
都市ノ土地ハ凡テ之ノ市有トス。
市ハ其ノ賠償トシテ三分利付市債ヲ交附ス。
賠償額ノ限度及ビ私有財産ト其加算ガ私有財産限度ヲ超過シタル者ハ前掲ニ同ジ。
土地徴集機關亦前掲ニ同ジ。

註一。
都市ト限リテ町村住宅地ヲ除外セル所以ハ、
公有トスベキ理由ガ町村ノ程度ニ於テハ完成セザルヲ以テナリ。

註二。
都市地価ノ騰貴スル理由ハ
農業地ノ如ク所有者ノ勞力ニ原因スル者ニ非ズシテ大部分都市ノ發達其者ニ依ル。
都市ハ其發達ヨリ結果セル利益ヲ單ナル占有者ニ奪ハルル能ハズ。
以テ之ヲ市有トスルモノナリ。

註三。
都市ハ其ノ借地料ノ莫大ナル収入ヲ以テ市ノ經濟ヲ遺憾ナカラシムルヲ得。
從テ　都市ノ積極的發達ハ此財源ニヨリテ自由ナルト共ニ、
其ノ發達ヨリ結果スル借地料ノ騰貴ハ亦循環的ニ市ノ財源ヲ豊カニス。

註四。
家屋ハ衣服ト等シク各人ノ趣味必要ニ基ク者ナリ。
三坪ノ邸宅ニ甘ズル者アルベク、数拾萬圓ノ高楼ヲ建ツルモノアルベシ。
或ル時代ノ社會主義者ノ市立ノ家屋ヲ考ヘシ如キハ
市民ノ全部ニ居常且終生劃一ナル兵隊服ヲ着用セムベシト云フト一般、愚論ナリ。

註五。
既ニ都市ノ私有地ヲ許サザルガ故ニ、設定セラレタル地上權ヨリ利得ヲ計ルコトヲ得ズ。
則チ借家ヲ以テ利得ヲ爲ス者ハ家屋其者ヨリノ利得ニシテ、地上權ニ伴フ利益ヲ計上スルヲ得ズ。
此ノ爲メニ市ハ五年目毎ニ借地料ノ評価ヲナス。

國有地タルベキ土地。
大森林又ハ大資本ヲ要スルベキ未開墾地
又ハ大農法ヲ利トスル土地ハ之ヲ國有トシ國家自ラ其經營ニ當ルベシ。

註一。
下掲大資本ノ國家統一ノ原則ニ依ル。

註二。
我ガ日本ニ於テハ國民生活ノ基礎タル土地ノ國際的分配ニ於テ
將來大領土ヲ取得セザルベカラザル運命ニ在リ。
從テ 國有トシテ國家ノ經營スベキ土地ノ莫大ナルヲ考フベシ。
要スルニ凡テヲ通ジテ公的所有ト私的所有ノ併立ヲ根本原則トス。

註三。
日本ノ土地問題ハ單ニ國内ノ地主對小作人ノミヲ解決シテ得ベカラズ。
土地ノ國際的分配ニ於テ
不法過多ナル所有者ノ存在スルコトニ革命的理論ヲ拡張セズシテハ、
言論行動一瞥ノ価値ナシ。( 「 國民ノ權利 」 参照 )

次頁 (8) 巻四 大資本の国家統一 に 続く

日本改造法案大綱 (8) 巻四 大資本ノ國家統一

巻四　大資本ノ國家統一

私人生産業限度。
私人生産業ノ限度ヲ資本壱千萬圓とす。
海外ニ於ケル國民ノ私人生産業亦同ジ。

註一。
私有財産限度ト私人生産限度トヲ同一視スベカラズ。
合資株式合名又ハ自己ノ財産ニ非ル借入金ヲ以テ生産ヲ榮ム後者ノ制限ハ
財産ノ制限タル前者ト全ク別事ナリ。

註二。
限度ヲ設ケテ私人生産業ヲ認ムル所以ハ前掲ノ諸註ヨリ推シテ明ナル如ク幾多ノ理由アリ。
人ノ經濟的活動ノ動機ノ一ガ私慾ニアリト云フモ其一。
新タナル試ガ公共的認識ヲ待ツ能ハズシテ常ニ個人ノ創造的活動ニ依ルト云フモ其二。
如何ニ發達スルモ公共的生産ガ國民生活ノ全部ヲ蔽フ能ハズシテ、
現實的將來ハ依然トシテ小資本ニヨル私人經濟ガ大部分ヲ占ムル者ナリト云フモ其三。
國民自由ノ人權ハ生産的活動ノ自由ニ於テ表ハレタル者ニツキテ保護助長スベキ者ナリト云フモ其四。
數フルニ盡キザル是等ノ理由ハ社會主義ガ其ノ建設的理論ニ於テ未ダ全ク世ノ首肯ヲ得ザル欠陥ヲ示ス者ナリ。
「 マルクス 」 と 「 クロボトキン 」 トハ未開ナル前世紀時代ノ先哲トシテ尊重スレバ可。

私人生産業限度ヲ超過セル生産業ノ國有。
私人生産業限度ヲ超過セル生産業ハ凡テ之ヲ國家ニ集中シ國家ノ統一的經營トス。
賠償金ハ三分利附公債ヲ以テ交附ス。
賠償ノ限度及私有財産トノ關係等凡テ私有財産限度ノ規定ニヨル。
違反者ノ罰則ハ戒嚴令施行中前掲ニ同ジ。

註一。
大資本ガ社會的生産ノ蓄積ナリト云フコトハ社會主義ノ原理ニシテ明白ナルコト説明ヲ要セズ。
然ラバ社會則チ國家ガ自己ノ蓄積セル者ヲ自己ニ収得シ得ルハ亦論ナシ。

註二。
現時ノ大資本ガ私人ノ利益ノ爲ニ私人ノ經營ニ委セラルルコトハ人命ヲ殺活シ得ベキ
軍隊ガ大名ノ利益ノ爲ニ大名ニ私用セラルルコトト同ジ。
國内ニ私兵ヲ養ヒテ私利私慾ノ爲メ攻伐シツツアル現代支那ガ政治的ニ統一セル者ト云フ能ハザル如ク、
鐡道電信ノ如キ明白ナル社會的機關ヲスラ私人ノ私有タラシメテ甘ンズル米國ハ金權督軍ノ内亂時代ナリ。
國民ノ安寧秩序ヲ保持スルコトガ國家ノ唯一任務ナリトセバ、
國民ノ死活榮辱ヲ日夜ニ亘リ終生ヲ通ジテ脅威シツツアル此等ヲ處分セズシテハ國家ナキニ同ジ。
無政府黨ハ怖ルルノ要ナシ。
國家ガ國家自ラノ義務ト權能トヲ無視スルコトヲ畏ルベシトナス。

註三。
積極的ニ見ルトキ大資本ノ國家的統一ニヨリ國家經營ハ米國ノ 「 ツラスト 」 獨逸 「 カルテル 」
ヲ更ニ合理的ニシテ國家ガ其ノ主體タル者ナリ。
「 ツラスト 」 「 カルテル 」 ガ分立的競爭ヨリ遙カニ有理ナル實證ト理論ニヨリテ國家的生産ノ將來ヲ推定スベシ。

註四。
大生産業ノ徴集ニ於テ其等ヲ有シ、更ニ土地徴集ニ於テモ各所ニ其等ヲ有スル大富豪等ハ、
要スルニ只壱百萬圓ヲ所有シ得るノミナリ。
之ト同時ニ壱百萬圓以下ノ株券ヲ有シ合資ヲ有スル者ハ、
其ノ干与セル株式会社合資會社ノ徴集セラルル時一ノ障害ナキ賠償ヲ受クル者ナリ。
即チ所謂上流階級ナル者ヲ除ケル中産以下ノ全國民ニハ寸毫ノ動揺ヲ与ヘズ。

資本徴集機関。
私人生産業限度を超過せる資本の徴集機關は在郷軍人團會議たること前掲に同じ。

註。
私有財産限度超過者ノ調査シ徴集ガ根本ナルヲ以テ土地超過者ト資本超過ノ處分ニ當ルコトハ
只根本ヲ収メテ枝葉ニ及ブ者ニ過ギズ。
在郷軍人團ヲ以テスル時、必ズシモ三年ノ戒嚴令ヲ要セズ。

改造後私人生産業限度ヲ超過セル者。
改造後ノ將來、事業ノ發達其他ノ理由ニヨリテ
資本ガ私人生産業限度ヲ超過シタル時ハ 凡テ國家ノ經營ニ移スベシ。
國家ハ賠償公債ヲ交附シ且ツ繼承シタル該事業ノ當事者ニ其人ヲ任ズルヲ原則トス。
違反者ノ罰則ハ國家ノ根本法ヲ紊亂スル者ニ對スル立法精神ニ於テ、別ニ法律ヲ以テ定ム。
其ノ事業ガ未ダ私人生産業限度ノ資本ニ達セザル時ト雖モ、其ノ性質上大資本ヲ利トシ
又國家經營ヲ合理ナリト認ムル時ハ、國家ニ中達シ双方協議ノ上國家ノ經營ニ移スコトヲ得。

註一。
壱千萬圓以上ノ生産業ガ國營タルベキ爲メ起ル疑惑ハ事業家ノ奮闘心ヲ挫折セシムベシト云フコトナリ。
是ニ對シテ人類ハ公共的動物ナリト云フ共産主義者ノ人生観ガ半面ヨリ最モ有力ニ説明シ盡シタルハ人ノ知ル如シ。
且ツ利己的慾望其者ヲ解剖スルモ、事業家ノ事業經營ニ於テハ其ノ手腕ノ發揮ヲ見ル自己満足、
其ノ經營的手腕ノ社會ニ認識セラルルヲ欲スル功名的動機ガ多大ニ含有セラルルヲ發見スベシ。
現代ノ將軍等ガ愛國心ノ外ニ之等功名的動機、
軍事的手腕ヲ發揮セントスル自己満足ノ動機ノ爲メ戰場ニ死戰スルヲ見ヨ。
彼ノ戰國時代ノ將軍等ガ一州ヲ略セバ一州ヲ領シ一城ヲ抜ケバ一城ノ主タリト云フ
私利的經濟慾望ヲ掲ゲタル爭闘ヨリ劣ル者ナシ。
固ヨリ敢テ凡テヲ事業家ノ公共的動機ニ要メズ。
其ノ利己的慾望中ニ含有サルル斯ル幾多ノ動機ハ、其ノ事業ヲ發展セシメタル國家的常識ト、
國家ニ移レル事業ヲ其人ニ經營セシムル手腕發揮ノ自己満足トニヨリテ、
實に爭ヒテ私人生産業限度ヲ超過セントスル奮闘心ヲ刺戟シ鞭撻スベシ。
況ヤ斯ル改造組織ノ後ニ於テハ、公共的動物タル人類ノ美性ハ之ヲ阻害スル惡制度ナキガ爲ニ、
著シク國民ノ心意行動ヲ支配スルニ至ルハ確定シタル理論ヲ有ス。

註二。
私人壱百萬圓ノ私的財産ヲ有スルニ至ラバ、
一切ノ私利的慾求ヲ斷ジテ只社會國家ノ爲ニ盡クスベキ慾望ニ生活セシムベシ。
私人壱千萬圓ノ私的産業ニ至ラバ其ノ事業ノ基礎及ビ範囲ニ於テ直接且ツ密接シテ
國家社會ノ便益福利以外一點ノ私的動機ヲ混在セシムベキ者ニ非ラズ。
故ニ此ノ二者ノ制限ハ現今マデ放任セラレタ道徳性ヲ國家ノ根本法トシテ法律化スルニ過ギザルナリ。

國家ノ生産的組織。
其一。銀行省。
私人生産業限度以上ノ各種大銀行ヨリ徴集セル資本、及ビ私有地限度超過者ヨリ徴集シタル財産ヲ以テ資本トス。
海外投資ニ於テ豊富ナル資本ト統一的活動。他ノ生産的各省ヘノ貸付。私人銀行ヘノ貸付。
通貨ト物価トノ合理的調整。絶對的安全ヲ保證スル國民貯金等。

註一。
現時ノ分立セル銀行ト此ノ銀行省トノ對外能力ヲ考フル時、
其ノ差等ハ殆ド支那ノ私兵ト日本ノ統一軍隊程ノ懸隔ヲ見ルベシ。
私兵ヲ糾合シテ對外利權ヲ爭フガ如キハ資本ノ乏シキ日本ニ取リテ必敗ナリ。

註二。
貿易順調ニシテ外國ヨリ貨幣ノ流入横溢シ爲ニ物価騰貴ニ至ル恐アル時、
銀行省ハ其ノ金塊ヲ貯蔵シテ國家非常ノ用ニ備フルト共ニ、物価ヲ合理的ニ調整スルヲ得ベシ。
經済界ノ好況ヲ却テ反對ニ國民生活ノ憂患トスル現下ノ大矛盾ハ一ニ國家ガ 「 金權 」 ヲ有セザルニ基ク。

註三。
國民骨血ノ貯金又ハ事業ノ運命ヲ決スベキ貯金等ガ
銀行ノ破産ニヨリテ消散スルコトハ國民生活ノ一大不安ナリ。
如何ニ岩下清周ニ重刑ヲ課スルモ幾萬人ノ被害者ニ何ノ補ヒタラズ。
大日本帝國ガ國民ト共ニ亡ビザル限リ銀行省ノ貯金ニ不安ナシ。

其二。航海省。
私人生産業限度以上ノ航海業者ヨリ徴集シタル船舶資本ヲ以テ遠洋航路を主トシ海上ノ優勝ヲ爭フベシ。
造船造鑑業ノ經營等。

註。
是レ上海ノ鐡道國有ニ過ギズ。
其ノ外國同業者トノ競爭能力等ハ 「 トラスト 」 「 カルテル 」 ヨリ推論シ得ベク、以下ノ各省皆同ジ。

其三。鉱業省。
資本又ハ価格ガ私人生産業限度以上ナル各種大鉱山ヲ徴集シテ經營ス。
銀行省ノ投資ニ伴フ海外鉱業ノ經營。
新領土取得ノ時私人鉱業ト併行シテ國有鉱山ノ積極的開發等。

註一。
資本ノミナラズ鉱山ノ価格ヲ明示セル所以。
機械其他ノ設備ヲ資本トシテ鉱山其者ノ価格ガ資本ナルコトヲ忘レントスル誤解ヲ防グ。

註二。
國民ノ屍山血河ニヨリテ獲得シタル鉱山 ( 例ヘバ撫順炭鉱ノ如キ ) ヲ少數者ニ
壟断シツツアル現時ノ状態ハ實ニ最惡ナル政治ト云フノ外ナシ。
愛國心ノ頽廢モ無政府黨ノ出現モ國家自ラガ招ク者。

其四。農業者。
國有地ノ經營。臺灣製糖業及ビ森林ノ經營。臺灣、北海道、樺太、朝鮮ノ開墾。
南北満洲、將來ノ新領土ニ於ケル開墾、又ハ大農法ノ耕地ヲ繼承セル時ノ營。

註。
臺灣ニ於ケル糖業及ビ森林ニ對スル富豪等ノ罪惡ガ國家ノ不任不義ニ歸セラルル如キハ
國家オヨビ國民ノ忍ビ得ベキ者ニ非ラズ。
將來灣ノ幾十倍ナル大領土ヲ南北満洲及ビ極東西比利亜ニ取得スベキ運命ニ於テ、
同一ナル罪惡ヲ國家國民ノ責任ニ嫁セラルルコトハ日本ノ國際的威嚴信用ヲ汚辱シ、
土地ノ國際的分配ノ公正ノ爲メニ特ニ日本ノ享有セル領土拡張ノ生活權利ヲ損傷し、
如何ナル大帝國建設モ百年ノ壽ヲ全ウスル能ハザルベシ。

其の五。工業省。
徴集シタル各種大工業ヲ調整シ統一シ拡張シテ眞ノ大工業組織トナシテ、
各種ノ工業悉ク外國ノ其等ト比肩スルヲ得ベシ。
私人ノ企テザル國家的欠陥タルベキ工業ノ經營。
海軍製鉄所、陸軍兵器廠ノ移管經營等。

註。
工業ノ 「 トラスト 」 的 「 カルテル 」 的組織ハ資本乏シク列鞏ヨリ後レタル日本ニハ特ニ急務ナリ。
又今回ノ大戰ニ暴露セラレタル如ク日本ハ自營自給スル能ハザル幾多ノ工業アリ。
自己ノ私利ヲ目的トスル資本制度ニ依頼シテ晏如タルコトハ、
今日及ビ今後日本ノ國際的危機ノ忍ブ能ハザル所ナリ。

其六。商業省。
國家生産又ハ私人産業ニヨル一切ノ農業的工業的貸物ヲ案配シ、
國内物価ノ調節ヲナシ、海外貿易ニ於ケル積極的活動ヲナス。
此ノ目的ノ爲ニ凡テ關税ハ此省ノ計算ニヨリテ内閣ニ提出ス。

註一。
己ニ私有財産限度アリ、私有地限度アリ、私人生産業限度アリ。
私人ハ惡用スベキ大資本ヲ奪ハレタルガ故ニ國家ノ物価調節ニ反抗シテ買占メ賣惜ミ等ヲナスコト能ハズ。
從テ國家ノ物価調節ハ一糸紊レズ整然トシテ行ハルベシ。
大地主ト騰貴商人トノ有スル大資本ガ米穀ノ買占メ賣惜ミヲ自由ナラシメテ
現時ノ米価騰貴ヲ現出シツツアルヲ見ヨ。
凡テノ物価問題悉ク玆ニ發ス。
彼等ノ大資本ヲ奪ハズシテ物価調節ヲ云フ如キハ抱腹スベキ空想政治ナリ。

註二。
國内ノ物価ガ世界的原因、則チ世界大戰中ノ如キ世界的物価騰貴ノ爲ニ騰貴スルトキハ、
國家ハ一般國民ノ購買能力ト世界市価トノ差額ヲ輸出税トシテ課税スベシ。
公私生産品一律課税サルルハ論ナシ。
斯クシテ國内物価ノ暴騰ヲ防グト同時ニ、貿易上ノ利益ヲ國庫ニ取得スルヲ得ベシ。
但シ此等ハ非常變態ノ經濟状態ニシテ輸出税ヲ課スル如キ原則ニ非ザルハ論ナシ。
而モ非常ニ遭遇シタル時國民ノ不安騒亂ヲ招クガ如キ國家組織ヲ以テシテ、
イカンゾ大日本帝國ノ世界的使命ヲ全ウスルヲ得ベキ。
將來一大戰爭ヲ覺悟スルナラバ特ニ非常時ニ安泰ナルベキ改造ヲ要ス。

其七。鉄道省。
今ノ鐡道院ニ代ヘ、朝鮮鐡道、南満鐡道等ノ統一。
將來新領土ノ鐡道ヲ繼承シ、更ニ布設經營ノ積極的活動等。
私人生産業限度以下ノ支線鐡道ハ之ヲ私人經營ニ開放スベシ。

註一。
鮮血ノ南満鐡道ガ富豪ニ壟断サルルノ不義ト危険トハ鉱業者ノ註ニ述ベタルガ如シ。
若シ將來ノ大領土ニ於ケル諸多ノ鐡道ヲ再ビ南満鐡道ニ學バシムルコトアラバ
國民ニ闘志ナキコト明白ナリ。

註二。
鐡道ノ國有ナルガ故ニ現時ノ如ク民間ノ鐡道布設ガ阻害セラルルハ、
第一國民ノ經濟的自由ヲ蹂躙スルノミナラズ、國有鐡道其者ノ利益ヲ滅殺スルモノナリ。
陸上ノ鐡道ナルガ故ニ山間僻村ノ支線ヲモ國有とし、
海上ノ鐡道ナルガ故ニ全世界ニ通ズル幹線ヲモ民有トスベシトハ道理ニ合セザルモ甚シ。
鐡道ノ國有タルベキ者ト民有タルベキ者ト、
亦實ニ私人生産業限度ノ原則及ビ大資本ノ國家統一ノ原則ノ下ニ律セラルベシ。
國家ノ大本ハ一ニシテ二ナシ。

莫大ナル國庫収入。
生産的各省ヨリノ莫大ナル収入ハ殆ド消費的各省及ビ下掲國民ノ生活保護ノ支出ニ應ズルヲ得ベシ。
從テ基本的租税以外各種ノ惡税ハ悉ク廢止スベシ。
生産的各省　ハ私人生産業者ト同一ニ課税セラルルハ論ナシ。
塩、煙草ノ専賣制ハ之ヲ廢止シ、國家生産ト私人生産トノ併立スル原則ニヨリテ、
私人生産業限度以下ノ生産ヲ私人ニ開放シテ公私一律ニ課税ス。
遺産相続税　ハ親子ノ權利ヲ犯ス者ナルヲ以テ單ニ手数料ノ徴収ニ止ム。

註一。
國家ノ徴集シ得ベキ資本ノ概算ハ推想スルヲ得ベキモ、
其實ヲ去ル甚ダ遠キコトハ在郷軍人團ノ調査徴集ヲ必要トスル所以ナリ。

註二。
國家ノ生産的収入ノ増大スルニ從ヒテ、
啻ニ惡税ノミナラズ多クノ租税ヲ廢止シ得ルノ時來ル可キハ推想シ得ベシ。

註三。
遺産相續ヲ機トシテ
國家ガ収得ヲ計ラントスル社會政策者流ノ人權的思想ニ不徹底ナル思考スベシ。

次頁 (9) 巻五 労働者の権利 に続く

日本改造法案大綱 (9) 巻五 勞働者ノ權利

巻五　労働者ノ權利

勞働省ノ任務。
内閣ニ勞働省ヲ設ケ
國家生産及ビ個人生産ニ雇傭サルル一切勞働者ノ權利ヲ保護スルヲ任務トス。
勞働爭議ハ別ニ法律ノ定ムル所ニヨリテ勞働省之ヲ裁決ス。
此裁決ハ生産的各省個人生産者及ビ勞働者ノ一律ニ服從スベキ者ナリ。

註一。
勞働者トハ力役又ハ智能ヲ以テ公私ノ生産業ニ雇傭セラレル者ヲ云フ。
從テ軍人官吏教師等ハ勞働者ニ非ズ。
例ヘバ巡査ガ生活權利ヲ主張スル時ハ其所属タル内務省ガ決定スベク、
教師ガ増給運動ヲナス時ハ文部省ガ解決スベシ。
勞働省ノ与カル所ニ非ズ。

註二。
同盟罷工ハ工場閉鎖ト共ニ此ノ立法ニ至ルベキ過程ノ階級闘爭時代ノ一時的現象ナリ。
永久的ニ認メラレルベキ勞働者ノ特權ニ非ザルト共ニ、
一躍此ノ改造組織ヲ確定シタル國家ニ取リテハ斷然禁止スベキ者ナリ。
但シ此ノ改造ヲ行ハズシテ而モ徒ラニ同盟罷業ヲ禁圧セントスルハ、
大多數國民ノ自衛權ヲ蹂躙スル重大ナル暴虐ナリトス。

勞働賃銀。
勞働賃銀ハ自由契約ヲ原則トス。
其爭議ハ前掲ノ法律ノ下ニ勞働者之ヲ決定ス。

註一。
自由契約トセル所以ハ
國民ノ自由ヲ凡テニ通ゼル原則トシテ國家ノ干渉ヲ背理ト認ムルニ依ル。
眞理ハ一社會主義ノ専有ニ非ズシテ自由主義經濟學ノ理想ニ亦犯スベカラザル者アリ。
等シク勞働者ト云フモ各人ノ能率ニ差等アリ。
特ニ將來日本領土内ニ居住シ又ハ國民權ヲ取得スル者多キ時、
國家ガ一々ノ異民族ニツキ其ノ能率ト賃銀トニ干渉シ得ベキニ非ズ。
現今ニ於テハ資本制度ノ壓迫ニヨリテ
勞働者ハ自由契約ノ名ノ下ニ全然自由ヲ拘束セラレタル賃銀契約ヲナシツツアリ。
而モ改造後ノ勞働者ハ眞個其ノ自由ヲ保持シテ些ノ損傷ナカルベキハ論ナシ。

註二。
自由 ( 則チ 差別観 ) ヲ 忘レテ只観念的平等ニ立脚シタル時代ノ社會主義的理想家ハ
國民ニ徴兵制ノ如ク勞働鞏制ヲ課セント考ヘシコトアリ。
人生ハ勞働ノミニヨリテ生クル者ニ非ズ。
又個々人ノ天才ハ勞働ノ餘暇ヲ以テ發揮シ得ベキ者にアラズ。
何人ガ大經世家タルカ大發明家大哲學者大藝術家タルカハ、
彼等ノ立案スル如ク社會ガ認メテ勞働ヲ免除スト云フ
事前ニ察知スベカラズシテ悉ク事後ノ認識セラルル者ナレバナリ。
社會主義ノ原理ガ實行時代ニ入レル今日トナリテハ
其レニ附帯セル空想的糟粕ハ一切棄却スベシ。　　　

勞働時間。
勞働時間ハ一律ニ八時間制トシ日曜祭日ヲ休業シテ賃銀ヲ支拂フベシ。
農業勞働者ハ農期繁忙中勞働時間ノ延長ニ應ジテ賃銀ヲ加算スベシ。

註。
説明ノ要ナシ。
但し 餘ノ時間ヲ以テ修養ニ享楽ニ自由ナル人權ニ基キテ家庭的勞働ヲナシ
又 他ノ營業ヲナスハ等シク個人ノ自由ナリ。

労働者ノ利益配當。
私人 生産ニ雇傭セラルル勞働者ハ其ノ純益ノ二分ノ一ヲ配當セラルベシ。
此ノ配當ハ智能的勞働者及ビ力役的勞働者ヲ總括シタル者ニシテ、
各自ノ俸給賃銀ニ比例シテ分配ス。
勞働者ハ其ノ代表ヲ選ビテ事業ノ經營計劃けいかく及ビ収支決算ニ干与ス。
農業勞働者ト地主トノ間亦之ニ同ジ。
國家的生産ニ雇傭セラルル勞働者ハ此ノ利益配當に代ハルベキ半期毎ノ給附ヲ得ベシ。
事業ノ經營収支決算ニ干与スル代リニ衆議院ヲ通ジテ國民トシテ國家ノ全生産ニ發言スベシ。

註一。
勞働者ハ其ノ勞働ヲ賣却スル者ナリトハ旧派經濟學ノ誤説ナリ。
企業家ガ其ノ企業的能力ヲ其ノ資本タル機械鉱山土地等ニ加ヘ利益ヲ計ルト同ジク、
勞働者ハ其等ノ資本ニ勞働ヲ加ヘテ利益ヲ計ル者ナリ。
機械其者ハ人類ガ知識ヲ結晶シタル祖先ノ遺産タリ、社會ノ教導的産物タリ。
鉱山土地等其者ハ全ク自然ノ存在ニシテ其レヲ所有セシムル凡テノ力ハ國家ナリ。
而シテ是等ノ資本ヨリ利益ヲ得ントシテ玆ニ各種ノ人力ヲ要ス。
企業家ハ企業的能力ヲ提供シ勞働者ハ智能的力役的能力ヲ提供ス。
勞働者ノ月給又ハ日給ハ企業家ノ年俸ト等シク作業中ノ生活費ノミ。
一方ノ提供者ニハ生活費ノミヲ与ヘテ其ノ提供ノタメニ生レタル利益ヲ与ヘズ
他方ノ提供者ノミ生活費ノ外ニ凡テノ利益ヲ専有スベシトハ、
其ノ不合理ニシテ無智ナルコト殆ド下等動物ノ社會組織ト云フノ外ナシ。
勞働者ガ經營計劃ニ參与スルノ權ハ此ノ一方ノ提供者トシテナリ。

註二。
國家生産ノ勞働者ニ利益配當を用ヒザル所以ハ、
國家ハ全生産ノ永遠的經營ヲ本旨トスルガ故ニ、
全國家ノ生産的活動ノ爲ニ或省ニハ殊更ニ投賣ヲ行ハシメテ損失ヲ顧ミザルコトアル如ク、
或ル省ヲ犠牲トシテ或省ノ對外競爭ヲ専ラナラシメムルコトモアルベキヲ以テナリ。
斯ル場合ニ於テ格別ニ利益配當ヲナス時ハ非常ナル不公平ヲ生ジ
甲省ノ勞働者ノ利益配當ヲ奪ヒテ乙省ノ其レニ与フルガ如キヲ生ズベシ。
從テ又 生産方針ニ干与スルノ權ハ國家全局ノ生産成績ヲ達観シ得ベキ
衆議院ニ於テセザルベカラザル所以トナル。

勞動的株主制ノ立法。
私人生産業中株式組織ノ事業ハ其レニ雇傭サルル肉體的精神的労働者ヲシテ、
自ラ其ノ株主タリ得ル權利ヲ設定スベシ。

註一。
是レ自己ノ勞働ト自己ノ資本トガ不可分的ニ活動スル者ナリ。
事業ニ對スル分担者トシテノ當然ナル權利ニ基キテ制定サルベシ。
別個生産能率ヲモ思考スベシ。

註二。
私人産業限度内ノ事業ニ於テ
將來半世紀一世紀間ハ現代ノ如キ腐敗破綻ヲ來ス怖レアル者ト推定スベシ。
從テ、勞動的株主ヲ併存セシムルコトハ内容的根本的ニ常ニ該事業ヲ健確ニ支持スベシ。

註三。
勞動的株主ノ發言權ハ勞働爭議ヲ株主會議内ニ於テ決定シ、一切ノ社會的不安ナカラシムベシ。

借地農業者ノ擁護。
私有地限度内ノ小自負シニ對シテ土地ヲ借耕スル小作人ヲ擁護スル爲メニ、
國家ハ別個國民人權ノ基本ニ立テル法律ヲ制定スベシ。

註一。
限度以上ノ土地ヲ分有セシムル大本ハ別ニ存セリ。
而モ小地主對小作人ノ間ヲ規定シテ一切ノ横暴脅威ヲ抜除スベキ細則ヲ要ス。

註二。
一切ノ地主ナカラシメント叫ブ前世紀ノ旧革命論ヲ、
私有限度内ノ小地主對小作人ノ間ニ巣ハシム可カラズ。
旧社會ノ情勢ヲ存セシムル凡テノ処ニ、旧世紀ノ革命論ハ繁殖スベシ。

幼年勞働ノ禁止。
満十六歳以下ノ幼年勞働ヲ禁止ス。
之ニ違反シテ雇傭シタル者ハ重大ナル罰金又ハ體刑ニ処ス。
尊属保護ノ下ニ尊属ノ家庭ニ於テ勞働スル者ハ此限リニ非ズ。

註。
國民人權ノ上ヨリ説明ヲ要セズ。
満十六歳以下トセルハ下掲ノ國民教育期間ナルヲ以テナリ。
體刑ヲ課スル所以ハ國家ノ児童ヲ保護スルニ最モ嚴励ナルベキヲ以テナリ。
實ニ國家ノ生産的利益ノ方面ヨリ見ルモ、
幼童ニシテ残賊スルヨリモ
其ノ天賦ヲ完全ニ啓發スベキ教育ヲ施シタル後ノ勞働ガ幾百倍ノ利益ナルハ論ナシ。
四海同胞ノ天道ヲ世界ニ宣布セントスル者ガ、
自ラノ國家内ニ於ケル幼少ナル同胞ヲ酷使シテ何ノ國民道徳ゾ。

婦人勞働。
婦人ノ勞働ハ男子ト共ニ自由ニシテ平等ナリ。
但シ改造後ノ大方針トシテ國家ハ
終ニ婦人ニ勞働ヲ負荷セシメザル國是ヲ決定シテ施設スベシ。
國家非常ノ際ニ処シ婦人ガ男子ノ勞働ニ代ハリ得ベキ爲ニ
男子ト平等ナル國民教育ヲ受ケシム。
( 「 國民ノ生活權利 」 参照 )。

註一。
現時ノ農業発達ノ程度ニ於テハ婦人ヲ炎天ニ晒ラシテ其ノ美ヲ破リ、
又ハ貧困者多キ將來ニ於テハ
婦人ヲ工場ニ駆使シテ其ノ楽ヲ奪フコトモ止ムヲ得ザル人間生活ナリ。
然シナガラ大多數婦人ノ使命ハ國民ノ母タルコトナリ。
妻トシテ男子ヲ助クル家政労働ノ外ニ、母トシテ保姆ノ勞働ヲナシ、
小學教師ニ劣ラザル教育的勞働ヲナシツツアル者ハ婦人ナリ。
婦人ハ己ニ男子ノノウハザル分科的勞働ヲ十二分ニ負荷シテ生レタル者。
是等ノ使命的勞働ヲ廃セシメテ全ク天性ニ合セザル勞働ヲ課スルハ、
啻ニ婦人其者ヲ残賊スルノミナラズ、直ニ其ノ夫ヲ残賊シ其子女ヲ残賊スル者ナリ。
此ノ改造ニヨリテ男子ノ勞働者ノ利得ガ優ニ妻子ノ生活ヲ保證スルニ至ラバ、
良妻賢母主義ノ國家思想ニヨリテ婦人勞働者ハ漸次的ニ労働界ヲ去ルベシ。

註二。
此ノ点ハ女子參政權問題ニ於ケルガ如ク、
日本ト欧米トガ全然發達ノ傾向ヲ異ニシ來リ且ツ異ニスベキ將來ヲ示ス者ナリ。
日本婦人ノ人格ハ欧米ノ如ク男子ノ職業ヲ爭ヒニ認メラルベキ將來ヲ仮想スルノ要ナシ。
國家組織ガ下掲ノ如ク母トシテ又妻トシテ婦人ノ生活ヲ保證シ、
婦人ガ男子ト平等ノ國民教育ヲ受クルナラバ、
其ノ妻トシテノ勞働、母トシテノ勞働ガ人格的尊敬ヲ以テ認識セラルルハ論ナシ。

註三。
婦人ハ家庭ノ光ニシテ人生ノ花ナリ。
婦人ガ妻タリ母タル勞働ノミトナラバ、夫タル勞働者ノ品性ヲ向上セシメ、
次代ノ國民タル子女ヲ益々優秀ナラシメ、
各家庭ノ集合タル國家ハ百花爛漫春光駘蕩タルベシ。
特ニ社會的婦人ノ天地トシテ、音楽美術文藝教育學術等ノ広漠タル未墾地アリ。
此ノ原野ハ六千年間婦人ニ耕ヤシ播カレズシテ残レリ。
婦人ガ男子ト等シク牛馬ノ勞働ニ服スベキ者ナラバ天ハ彼ノ心身ヲ優美繊弱ニ作ラズ。

次頁 (10) 巻六 国民の生活権利 に続く

日本改造法案大綱 (10) 巻六 國民ノ生活權利

巻六　國民ノ生活權利

児童ノ權利。
満十五歳未満ノ父母又ハ父ナキ児童ハ、
國家ノ児童タル權利ニ於テ、一律ニ國家ノ教育及ビ教育ヲ受クベシ。
國家ハ其ノ費用ヲ児童ノ保護者ヲ經テ給附ス。
父生存シテ而モ父ニ遺棄セラレタル児童亦同ジ。
但シ此ノ場合ニ於テ國家ハ別途其ノ父ニ對シテ賠償ヲ命ジ、
從ハザルモノハ勞働ヲ課シテ賠償ニ充テシム。
父母ノ遺産ヲ相續セル児童、又ハ母ノ資産 或ハ特種能力ニ於テ教養セラレ得ル児童ハ、
國家ト協議ノ上此ノ權利ヲ放棄セシメラルベシ。

註一。
人ノ居常且ツ終生ノ憂惧ハ子女ノ安全ナル生長ニアリ。
封建時代ノ武士ガ凡テ後顧ノ憂ナキガタメニ其ノ道義的奮進又ハ犠牲的冒険ヲ敢行シ得タル如ク、
國民ハ其ノ子女ノ國家的保障ノタメ戰場ニ於テモ平和ノ其レニ於テモ何等後顧ノ憂ナシ。
其ノ児童ノ權利トシテ児童其者ヲ權利主體トセルハ、父母ノ如何ニ係ラズ、
第二國民タル點ニ於テ國民的人權ヲ有スルヲ以テナリ。

註二。
父ナキ児童ガ孤児ト同一ナル權利ヲ有スル所以ハ、
婦人ハ男子タル父ト同一ナル勞働ヲ爲ス能ハザル原則ニ基ク。
慈悲深キ賢母ヲ勞働ノ苦役ニ駆リ貞節ナル良妻ヲ売淫ノ汚辱ニ投ズルハ、
夫タリ子女タル國民ノ忍ブ能ハザル所。
國家ハ夫ト子女ト婦人其者トノ爲ニ其ノ義務ヲ完ウセザル可ラズ。
但シ母其人ノ生活ハ母自身ノ維持スベキモノトス。

註三。
父生存シテ遺棄セラレタル児童亦同ジキハ凡テ此ノ理由ニ依ル。
結婚ト單ナル情交トヲ差別セズ、
而シテ賠償ヲ別途ニ命ジテ同居ヲ父ニ鞏ヒザル所以ハ、
遺棄シタル事情ガ背徳ニセヨ 又ハ積極的活動ノ爲ニセヨ干渉スベカラザル別事ナレバナリ。

註四。
父母共ニナキ児童ヲ孤児院ニ収容セザル所以ハ、孤児院ノ弊害甚ダシクト、
児童ノ保護者トシテ血族長者ノ保護ニ優ル者ナキヲ以テナリ。
全然保護者ナキ孤児ハ國家ノ収容スベキハ論ナシ。

註五。
以上児童ノ權利ハ自ラ同時ニ母性保護トナル。　　

國家扶養ノ義務。
貧困ニシテ實男子又養男子ナキ六十歳以上ノ男女、
及ビ 父又ハ男子ナクシテ貧困 且ツ勞働ニ堪ヘザル不具廢疾ハ 國家之レガ扶養ノ義務ヲ負フ。

註一。
實男子又ハ養男子トシテ婦人ニ扶養ノ義務ヲ負荷セシメザル所以ハ、
婦人ハ自己一人以上ヲ生活セシムル勞働力ナキ原則ニ依ル。
且ツ其ノ女ガ他家ニ嫁シテ餘力ウル者ト雖モ、
其老親ノ扶養ヲ夫ノ資産勞働ニ依頼セシムルコトハ、
父母ノ屈從不安ヲ招キ更ニ婦人ヲシテ夫ノ前ニ其ノ人格的尊重を傷クルニ至ラシム。
則チ婦人ニ老親ヲ負担セシメザルハ日本古來ノ不文律ニシテ同時ニ婦人々權ノ擁護ナリ。

註二。
實男子又ハ養男子ニ貧困ナル老親ヲ扶養セシムルハ欧米ノ贋的個人主義ト雲泥ノ差アル者。
彼ノ 「 ロイドヂョーヂ 」 氏ノ試ミタル養老年金法案ノ如キハ、
國民ノ大部分ガ扶養スベキ男子ヲ有スルガ故ニ、
日本ニ於テハ玆ニ掲グル例外的不幸ヲ除キテ無用ナル立法ナリトス。

註三。
不具廢疾者ヲ其ノ兄弟遺族又ハ慈善家ノ冷遇ニ委スルハ不幸ナル者ニ虐待ヲ加フルト同ジ。
其ノ母又ハ女子ニ負荷セシメザル所以ハ、愛情アリト雖モ扶養能力ナキガ故ニ、
結局其ノ兄弟又ハ娘ノ夫ノ負担トナリテ立法ノ精神ヲ殺ス者トナルヲ以テナリ。

註四。
兵役義務ノ爲メニ不具廢疾トナレル者ノ國家扶養ノ義務ハ別ニ法律ヲ以テ其ノ扶養ヲ完ウスベシ。
固ヨリ別個ノ問題ナリ。

國民教育ノ權利。
國民教育ノ機關ヲ、満六歳ヨリ万十六歳マデノ十ケ年間トシ、男女ヲ同一ニ教育ス。
学制ヲ基本的ニ改革シテ、十年間ヲ一貫セシメ、日本精華ニ基ク世界的常識ヲ養成し、
國民個々ノ心身ヲ充実具足セシメテ、各其ノ天賦ヲ發揮シ得ベキ基本ヲ作ル。
英語ヲ廃シテ國際語エスペラントヲ課シ第二國語とす。
女子ノ形式的又特殊科目ヲ廢止シ小学、高等小学、中学校ニ重複スルモノヲ廃シテ一貫ノ順序ヲ正シクス。
体育ハ男女一律ニ丹田ノ鍛冶ヨリ結果スル心身ノ充實具足ニ一變ス。
從テ從來ノ機械的直譯的運動及兵式訓練ヲ廢止スベシ。
男女ノ遊戯ハ銃剣柔道大弓薙刀鎌等ヲ個人又ハ團體的ニ興味付ケタル者トシ從來ノ直譯的遊戯ヲ廢止ス。
此ノ國民教育ハ國民ノ權利トシテ受ケタル者ナルヲ以テ無月謝教科書給附中食ノ学校支辦 しべん ヲ方針トス。
男生徒ニ無用ナル服装ノ劃一かくいつ ヲ鞏制セズ。
校舎ハ其前期ヲ各町村ニ存スル小學校舎トシ、後期ヲ高等小學校舎トシ、一切物質的設備ニ浪費セズ。

註一。
男女共中學程度終業ヲ以テ國民タル常道常識ヲ教育セラルル者。
漸ク文字ヲ解シ得ルカ得ザルカノ小學程度ヲ以テ
國民教育ノ終了トスルハ國民個々ノ不具ト國家ノ薄弱ヲ來ス者ナリ。
之レ教育スベキ國家ノ窮乏セルト、教育セラルベキ國民ニ餘裕ナカリシヲ以テナリ。
一貫シタル十年間ノ教育ハ、其ノ終了ト同時ニ完全具足シタル男女タルベク、
更ニ其ノ基本ヲ以テ各其ノ使命的啓發ニ向ツテ進ムヲ得ベシ。

註二。
女子ヲ男子ト同一ニ教育スル所以ハ、
國民教育ガ常識教育ニシテ或ル分科的専攻ヲ許スベキ年齢ニ非ルト共ニ、
満十六歳マデノ女子ハ男子ト差別スベキ必要モ理由モナキヲ以テナリ。
從テ女學校特有ノ形式的科目女礼式茶湯盛生花ノ如キ
又 女子ノ専科トセル裁縫料理育児等ノ特殊科目ハ全然廢止スベキモノトナル。
前者ヲ鞏制スルハ無用ニシテ有害ナリ。
後者ハ各家庭ニ於テ父母ノ助手トシテ自ラ修得スベシ。
女子ニ礼式作法ガ必須科目ナラバ男子ニモ男子ノ其レガ然ルベク、
茶ノ湯生花ガ然ルナラバ男子ニ謡曲ヲ課セザレバ不可。
車夫ノ娘ニ 「 ビフテキ 」 ノ焼方ヲ教授シ外交官ノ妹ニ袴ノ裁方ヲ説明シ、
月経ナキ少女ニ育児ヲ講義スル如キ、
今ノ女子教育ノ凡テハ亂暴愚劣眞ニ百鬼夜行ノ態ナリ。
學校ハ凡テニ非ズ。
各人ノ慾スル所ニ随ヒ各家ノ生活事情ニ應ジテ學ブベキ幾多ノ者ヲ有ス。

註三。
一切ニ亙リテ英語ヲ廢スル所以。
英語ハ國民教育トシテ必要ニモ非ズ、又義務ニモ非ラズ。
現代日本ノ進歩ニ於テ英語國民ガ世界的知識ノ供給者ニアラズ。
又日本ハ英語ヲ鞏制セラルル英領印度人ニ非ラズ。
英語ガ日本人ノ思想ニ与ヘツツアル害毒ハ英國人ガ支那人ヲ亡國民タラシメタル阿片輸入ト同ジ。
只 英語ホド普及セズンバシテ而モ英語思想以上ニ影響ヲ与ヘタル
獨逸語ニ依リテ其ノ害毒ノ緩和セラレタル天佑ヲ有スルノミ。
英語國民ノ浅薄ナル思想ヲ通ジテ空洞ナル會堂建築トシテ輸入サレタル基督教。
人格權ノ歴史的覺醒タル民主々義ガ哲學的根拠ヲ欠如シタル民本主義トナリテ輸入サレツツアル 「 デモクラシー 」。
英米人ノ持續セントスル國際的特權ノタメニ宣伝サレツツアル平和主義非軍國主義ガ、
其ノ特權ヲ打破センガ爲メニ存スル日本ノ軍備及ビ戰闘的精神ニ對スル非難トシテ
輸入サレツツアル内容皆無ノ文化運動。
單ニ是等ヲノミ視ルモ一利ニ對シテ千百害アルコト阿片輸入ノ支那ヲ思ハシム。
言語ハ直チニ思想トナリ思想ハ直チニ支配トナル。
一英語ノ能否ヲ以テ浮薄軽佻ナル智識階級ナル者ヲ作リ、
店頭ニ書冊ニ談話ニ其ノ單語ヲ挿入シテ得々恬々トシテ恥無キ國民ニ何ノ自主的人格アランヤ。
國民教育ニ於テ英語ヲ全廢スベキハ勿論、
特殊ノ必要アル専攻者ヲ除キテ全國ヨリ英語ヲ駆逐スルコトハ、
國家改造ガ國民精神ノ復活的躍動タル根本主義ニ於テ特ニ急務ナリトス。

註四。
國際語ヲ第二國語トシテ採用スル所以。
而シナガラ 實ニ他ノ欧米諸國ニ見ザル國字改良漢字廢止言文一致羅馬字採用等ノ議論百出ニ見ル如ク、
國民全部ノ大苦悩ハ日本ノ言語文字ノ甚ダシク劣悪ナルコトニアリ。
其ノ最モ急進的ナル羅馬字採用ヲ決行スルトキ、
幾分文字ノ不便ハ免ルベキモ言語ノ組織其者ガ思想ノ配列表現ニ於テ悉ク心理的法則ニ背反セルコトハ、
英語ヲ譯シ漢文ヲ讀ムニ凡テ日本文ガ顚倒シテ配列セラレタルヲ發見スベシ。
國語問題ハ文字又ハ單語ノミノ問題ニ非ズシテ言語ノ組織根柢ヨリノ革命ナラザルベカラズ。
而シテ不幸ナル幸ハ中學教育ニ英語ヲ課シ來レル慣習ノ爲ニ、
其ノ程度ノ教育者モ被教育者モ、何等カノ言語ヲ習得スベキコトヲ必須的ニ確信セルコトナリ。
國際語ノ合理的組織ト簡明正確ト短日月ノ修得トハ世人ノ知ル如シ。
青年者ガ三月又ハ半年ニテ足ル國際語ノ修得ガ、
中學程度ノ児童一二年ニシテ完成スベキコトハ、
英語ガ五年間没頭シテ尚何ノ實用ニ應ズル完成ヲ得ザル比ニアラズ。
児童ハ國際語ヲ以テ國民教育期間中ニ世界的常識ヲ得ベシ。
而シテ欧米ノ革命的團體ハ大戰ノ遙カニ以前此レヲ以テ國際語トセント決議セシ程ノ者。
最モ不便ナル國語ニ苦シム日本ハ其ノ苦痛ヲ逃ルルタメニ先ヅ第二國語トシテ併用スル時、
自然淘汰ノ理法ニヨリテ
五十年後ニハ國民全部ガ自ラ國際語ヲ第一國語トシテ使用スルニ至ルベシ。
從テ今日ノ日本語ハ特殊ノ研究者ニ取リテ梵語 「 ラテン 」 語ノ取扱ヲ受クベシ。

註五。
國際語ノ採用ガ特ニ當面ニ切迫セル必要アリト云フ積極的理由。
下掲國家ノ權利ニ説ク如ク、
日本ハ最モ近キ將來ニ於テ極東西比利亜豪州等ヲ其ノ主權下ニ置クトキ、
現在ノ欧米各國國語ヲ有スル者ノ外ニ新タニ印度人支那人朝鮮人ノ移住ヲ迎フルガ故ニ、
殆ド世界凡テノ言語ヲ我ガ新領土内ニ雑用セシメザルベカラズ。
此ニ對シテ朝鮮ニ日本語ヲ鞏制シタル如ク
我自ラ不便ニ苦シム國語ヲ比較的好良ナル國語ヲ有スル欧人ニ鞏制スル能ハズ。
印度人支那人ノ國語亦決シテ日本語ヨリ劣悪ナリト云フ能ハズ。
此ノ難問題ハ實ニ三五年ノ將來ニ迫レル者ナリ。
主權國民ガ西比利亜ニ於テ露語ヲ語リ豪州ニ於テ英語ヲ語ル顛倒事ヲナス能ハザルナラバ、
日本領土内ニ一律ナル公語ヲ決定シ彼等ガ日本人ト語ルトキノ彼等ノ公語タラシメザルベカラズ。
劣悪ナル者ガ亡ビテ優秀ナル者ガ残存スル自然淘汰ハ日本語ト國際語ノ存亡ヲ決スル如ク、
百年ヲ出デズシテ日本領土内ノ欧州各國語、支那、印度、朝鮮語ハ亦当然ニ國際語ノタメニ亡ブベシ。
言語ノ統一ナクシテ大領土ヲ有スルコトハ只瓦解ニ至ルマデノ槿花一朝ノ榮ノミ。

註六。
體育ヲ丹田本位ト決定スル所以は、只肉體ノ一面ノミヲ見ルモ根本的體育タルヲ以テナリ。
己ニ日本ノ各方面ニ先覺者ノ露出シテ實證ヲ示シツツアル所ナリ。
是等ニ示サルル如ク印度ニ起リタル亜細亜文明ハ世界ヨリ封鎖セラレタル日本ヲ選ビテ天ノ保存シタル者。
單ニ手足ヲ動カシ器具ニ依頼シ散歩遠足ヲ以テ肉體ノ鞏健ヲ求ムル直譯的體育ハ
實ニ根本ヲ忘レテ枝葉ニ走リタル彼等ノ惡模倣ナリ。
特ニ女子ヲシテ優美繊麗ノママニ發達シタル鞏健ヲ得セシムルニハ
丹田ノ根本ヲ整フル以外一ノ途ナシ。
變性男子ノ如キ醜キ手足ヲ作リテ而モ健康ノ根本ヲ培ハザル直譯體操ハ特ニ嚴禁ヲ要ス。

註七。
兵式體操ヲ廢止スル所以ハ、
其形式亦實ニ丹田ノ充實ヲ忘レタル外形的整頓ニ捉ハレタルニ依ルモ一理由ナリ。
且ツ下掲ノ如ク日本國民ハ永久ニ兵役ノ義務ヲ有シ、
且ツ一年志願兵特權ハ此等ノ訓練アルヲ一理由トナスヲ以テ其レヲモ廢止スルガ故ニ、
兵役ニ於テスベキコトハ總テ兵營ニ於テスベシ。
更ニ他ノ一理由ハ日本ノ將來ハ陸上ニアルト同一以上ノ程度ニ於テ海上ニ在ルガ故ニ、
國民教育ニ於テ只陸軍的模倣ヲナサシメテ海兵的訓育ヲ閑却スルコトノ矛盾ナルヲモッテナリ。
國民教育ノ要ハ根本ノ具足充實ニ在リ。
丹田本位ノ心身ヲ鍛治シ十年間一貫ノ常識教育ヲ施サバ以テ海兵ニ用フベク以テ陸兵ニ用フベシ。
兵ノ素質ニ於テ二等卒モ少尉級ニ劣ラズ。

註八。
單純ナル遊戯トシテ男子ガ撃剣柔道ニ遊ビ女子ガ長刀鎖鎌ヲ戯ルルハ
其興味ニ於テ 「 ベースボール 」 「 フートボール 」 等ト雲泥ノ相違アリ。
精神的価値等ヲ擧ゲテ遊戯ノ本旨ヲ傷キベカラズ。
コハ生徒ノ自由ニ一任スベシ。
現今ノ武器ノ前ニ立チテ此等ニ尚武的価値ヲ求ムルニ及バズ。
日本人ノ一般生活ニ没交渉ナル直譯的遊戯ヲ課スルノ滑稽サハ
床柱ヲ背ニシテ小猿ノ如ク跪座スル洋服姿ト同ジ。

註九。
國民教育ノ児童ニ對シテ無月謝教科書附中食ノ學校支弁トスル所以ハ、
國家ガ國家ノ児童ニ對スル父母トシテノ日常義務ヲ課スモノナリ。
現今ノ中學程度ニ於ケル月謝ト教科書トハ一般國民ニ對スル門戸閉鎖ナリ。
無月謝ヨリ生ズル負担ハ各市町村此レヲ負フベク、
教科書ハ國庫ノ經費ヲ以テ全國ノ學校ニ配布スベシ。
中食ノ學校支弁ノ理由ハ第一ニ登校児童ノタメニ毎朝母ヲ労苦セシメザルコトナリ。
第二ノ理由ハ其ノ中食ニ一塊の 「 パン 」 薩摩芋麦ノ握飯等ノ簡単ナル粗食ヲナサシメ。
以テ滋養価値等ヲ云々シテ眞ノ生活ヲ悟得セザル科學的迷信ヲ打破スルニアリ。
第三ノ理由ハ幼童ノ純白ナル頭脳ニ口腹ノ慾ニ過ギザル物質的差等ヲ以テ
一切ヲ髙下セントスル現代マデノ惡徳ヲ印象セシメザルニ在リ。
學校トシテハ簡單ナル事務ニシテ、
若シ児童ノ家庭ガ惡感化ニヨリテ食事ヲ肯シゼザル者アラバ
教師ノ權威ヲ以テ其ノ保護者ヲ召喚訓責スベシ。

註一〇。
今ノ中學程度ノ男生徒ニ制服トシテ靴洋服ヲ鞏制スルコトハ
實ニ門戸閉鎖ノ有力ナル一理由ナリ。
其不合理ナルコト恰モ現時ノ欧米ニ 「 キモノ 」 服ガ普及シタルヲ以テ
其レヲ室内ノ制服トシテ鞏制セント云フト一般ナリ。
和服ノ不便ナル裁方ナリト云フハ別問題ナリ。
居常ノ衣服ヲ登校ニ耀ルヲ得ザル大々的不便ヲ其ノ父母ノ經済ニ課シテ何ノ便不便ゾ。
實ニ今ノ日本教育ノ凡テハ教育ニ非ラズシテ唯外形ノ模倣ナリトス。

註一一。
校舎ニ巨費ヲ投ズルハ亦最悪ナル直譯的模倣ナリ。
此ノ國民教育ノ根本革命ハ戒嚴令施行中ヨリ實施スベキ者ナルヲ以テ、
現時ノ校舎ヲ直チニ使用スベキコトヲ明示シタリ。
器械的科目タル理化学ニ於テモ今ノ中學程度ニ於テ
別個ノ教室ヲ設備スル如キ模倣的浪費ノ一。

註一二.
以上ノ國民教育ノ説明ニヨリテ大學及ビ大學豫備校ノ方針、
又其レガ生徒ノ自費タルコト等ハ推想シ得ベシ。
而シテ不用ナルベキ各地ノ中學女学校舎ハ或ハ此レヲ取リ毀チ、
又ハ大學豫備校ノ校舎又ハ單科大學ノ校舎トナスヲ得。

婦人々權ノ擁護。
其ノ夫又ハ其子ガ自己ノ勞働ヲ重複シテ婦人ノ文科的勞働ヲ侮辱スル言動ハ之レヲ婦人々權ノ蹂躙ト認ム。
婦人ハ之レヲ告訴シテ其ノ權利ヲ保護セラルル法律ヲ得ベシ。
有婦ノ男子ニシテ蓄妾又ハ其ノ他ノ婦人ト姦シタル者ハ婦ノ訴ニヨリテ婦人ノ姦通罪ヲ可罰ス。
売淫婦ノ罰則ヲ廃止シ其レヲ買ウ有婦ノ男子ハ之ヲ拘留シ又ハ罰金ニ処ス。

註一。
現行法律ニ於ケル離婚ノ理由タル虐待云々ノ意味ニ非ズ。
且ツ此ノ訴ハ必ズシモ離婚ヲ目的トセズ。
實ニ婦人ガ男子ノ勞働ニ衣食スルカノ誤解アリテ、
男子ノ勞働ガ其實却ツテ
婦人ノ文科的勞働ノ助力アルガ故ニユキハルルヲ忘却スル横暴ナル行爲ヲ禁ジ、
特ニ法律ヲ以テ婦人ノ人權ヲ擁護スル者ナリ。
若シ此ノ立法ガ男子ノ道念ニヨリテ行ハレザルナラバ
忌ムベキ婦人勞働トナリ婦人參政權運動トナルベシ。

註二。
男子ノ姦通罪ヲ罰スルコトハ
第一ニ一夫一婦タル國民道徳ノ大本ヲ明カニスルガタメナリ。
國家ノ興廃ハ悉ク男女ノ大本ノ清濁ニ在リ。
現時ノ欧州諸國に 「 ノア 」 ノ洪水ガ來レル所以ヲ考ヘ、
同胞残害シテ地獄ヲ現世ニ示シツツアル露西亜ヲ考ヘヨ。
如何ニ早ク己ニ此ノ大本ガ腐爛シ盡シタルカヲ見ン。
日本國民ガ全亜細亜ノ盟主タル大使命アルナラバ、
人倫ノ大本ヲ嚴守励行スル立法ハ實ニ一日ヲ忘ルベカラズ。
第二ノ理由ハ國家ガ國家ノ児童ニ對シテ大父母タル立場ニ於テ
其ノ生ミノ父母ハ單ナル保姆ノ任ヲ負フモノナリ。
保姆ノ一方ガ残虐ナル苦痛ヲ他ノ一方ニ加ヘテ
横暴ト悲惨トヲ居常見聞セシメラルル児童ノ惡感化ニ對シテ、
國家ハ大父母ノ權利ニ於テ残虐ナル一方ヲ処罰スベシ。
第三ノ理由ハ婦人々權ノ擁護ナリ。

註三。
此ノ一夫一婦制ノ励行ハ
彼ノ自由戀愛論ノ直譯革命家ト人生ノ理解ヲ根本ヨリ異ニセルモノナリ。
彼レニ從ヘバ男子ノ姦通罪ヲ罰スル法律ノ代リニ
女子ノ姦通罪ヲ罰スル現行法律ヲ廢止セバ足レリト云フベシ。
自由戀愛論ノ価値ハ
戀愛ノ自由ヲ拘束スル現代ノ政治的經濟的宗教的阻害者ヲ打破セントスル點ニアリ。
之レヲ途方モナキ一夫一婦制ニ對スル叛逆ト考フルハ、
恰モ政治的特權者ニ向ツテ叫バレタル政治ノ自由ヲ平等ナル國民間ニ脱線セシメテ、
相犯サザル各自ノ自由ヲ蹂躙スルコトモ等シク政治ノ自由ナリト云フ低能者ノ昏迷ナリ。
國民平等ノ自由ガ特權ニ非ル如ク、一夫一婦制ハ妻ノ戀愛ヲ自由ナラシメンガ爲ニ
夫ノ濫用セントスル戀愛ノ自由ヲ拘束セントスルナリ。
彼等ノ昏迷セル自由ノ解釋ハ、
自由ヲ以テ放火ノ自由殺人ノ自由モ自由ナリト結論セシムルモノナリ。
凡テノ自由ガ社會ト個人其人ノ利益ノ爲メニ制限サルル如ク、
戀愛ノ自由亦國民道徳ト其ノ保護者トノ爲メニ制限セラルルハ論ナシ。
コノ一夫一婦制ハ理想的自由戀愛論ノ徹底シタル境地ナリ。
但シ今ハ之ヲ説クノ時期到來セズ。

註四。
現行法律ガ売淫婦人ヲノミ罰シテ買淫男子ヲ罰セザルハ
姦通罪ガ婦人ヲノミ罰シテ男子ニ及バザルト等シキ片務的横暴ナリ。
貞操ノ賈買ハ此ノ改造組織ノ後ニ於テハ漸次消滅スベキコトヲ信ズト共ニ、
暫クノ近キ將來ニ存在スベキ其等ニ對シテ、國家ハ両者共ニ法律ヲ以テ臨マザル方針ヲ取ルベシ。
但シ有婦ノ男子ガ淫ヲ買フハ
明カニ一夫一婦ノ大本ヲ紊ル者ナルヲ以テ別個ノ意味ニ於テ加罰スル者ナリ。
拘留罰金ヲ以テセルハ婦ノ訴ナキ場合ニ於テ姦通罪ヲ検擧セザル原則ニ依ル。
斯クシテ軽キ國家ノ制裁ヲ受クルコトニヨリテ、
男子ハ家族ニ對スル權威ヲ失シ交友ニ於ケル信用ヲ損スル重大ナル苦痛ヲ受クルヲ以テ
自ラ身ヲ慎ミ亦以テ婦人々權ノ擁護トナリ、全家族生活ノ保障ヲ加フルコトトナルベシ。

註五。
道徳的責務ナリ。
其ノ之レヲ罰セザル理由ハ、未婚婦人ガ純潔ヲ破ルモ
法律ノ干与セザルト等シク道徳的制裁ノ範囲ニ属スルヲ以テナリ。

國民人權ノ擁護。
日本國民ハ平等自由ノ國民タル人權ヲ保障セラル。
若シ此ノ人權ヲ侵害スル各種ノ官吏ハ別ニ法律ノ定ムル所ニヨリテ
半年以上三年以下ノ體刑ヲ課スベシ。
未収監ニアル刑事被告ノ人權ヲ損傷セザル制度ヲ定ムベシ。
又被告ハ弁護士ノ外ニ自己ヲ證明シ弁護シ得ベキ
知己友人其他ヲ弁護人タラシムベキ完全ノ人權ヲ有スベシ。

註一。
人權ヲ蹂躙シテ却テ得々タルコト我國ノ官吏ノ如キハ少ナシ。
此レ欧米諸國ヨリ一歩ヲ先ンゼントスル國民的覺醒ヲ裏切ル大汚濁ナリ。
體刑ト明示セル所以ハ其ノ弊風實ニ體刑ヲ以テセズンバ一掃スル能ハザル官吏横暴國ナルヲ以テナリ。
此ノ戰慄ヨリ來ル反省改過ハ鏡ニ掛ケテ見ルガ如シ。

註二。
未決監ニアル被告ヲ豫備囚徒トシテ待遇シツツアルコトハ純然タル封建ノ遺風ナリ。
之ヲ反對ニ無罪ナル者ト仮定スルトキ現時ノ如キ凌辱ナシ。
警察亦然リ。
要スルニ有罪ヲ仮定スルガ故ニ未決期ノ日数ヲ刑期ニ加算スル等ノコトアルニテ明カナリ。
此ノ根本ニシテ明白ナラバ未決監中ノ人權蹂躙ハ自ラニシテ跡ヲ絶ツベシ。

註三。
被告人ハ罪人ニ非ズ從テ弁護人ノ自由ヲ無視又ハ制限サルル理由ナシ。
特ニ職業弁護人ト限ラルルカ爲ニ被告ノ平常事件ノ眞相ニ通ズル者ヲ以テ直接ニ法官ト對セシムル能ハズ。
爲メニ事件ノ鑑察、法ノ適用ニ於テ遺憾多ク、
被告ノ不利及ビ延イテ法官ノ判斷ヲ誤リ法ノ威嚴ヲ損傷スル甚シキ現狀ナリ。

註四。
社會主義者ノ或者ノ如ク一切ノ犯罪ナキ理想郷ヲ改造後ノ翌日ヨリ期待スルハ空想ナリ。
固ヨリ現今ノ政治的經濟的組織ヨリ生ズル犯罪ノ大多數ハ直チニ跡ヲ絶ツベキハ論ナシ。
國家ノ改造トハ其ノ物質的生活ノ外包的部分ナリ。
終局ハ國民精神ノ神的革命ナラザルベカラズ。
十年一貫ノ國民教育ガ改造ノ根本的内容部分ナリ。

勲功者ノ權利。
國家ニ對シ又ハ世界ニ對シテ勲功アル者ハ、戰爭政治學術發明生産藝術ヲ差別セズ、
一律ニ勲位ヲ受ケ、審議院議員ノ互選資格ヲ得、著シク増額セラレタル年金ヲ給附セラルベシ。
婦人亦同一ナルハ論ナシ。
但シ政治ニ干与セザル原則ニヨリテ審議院議員ノ互選資格ヲ除ク。

註一。
國民ハ平等ナルト共ニ自由ナリ。
自由トハ則チ差別ノ義ナリ。
國民ガ平等ニ國家的保障ヲ得ルコトハ
益々國民ノ自由ヲ伸張シテ其ノ差別的能力ヲ發揮セシムル者ナリ。
彼ノ勲位ヲ忌ミ上院制ヲ否ム革命的思想家ハ、
人類ノ進化程度ヲ過上ニ評価セル神學者的要求ニ發足スル者ナリト見ルベシ。

註二。
勲功ニ伴フ年金ガ現時ノ如キ消極的ノ小額ナルハ不可ナリ。
凡テノ光榮ハ其レノ維持スベキ物質的条件ヲ欠クベカラズ。

私有財産ノ權利。
限度以下ノ私有財産ハ國家又ハ他ノ國民ノ犯スベカラザル國民ノ權利ナリ。
國家ハ將來益々國民ノ大多數ヲシテ數十万數万ノ私有財産ヲ有セシルコトヲ國策ノ基本トスルモノナリ。

註一。
社會主義共産主義ヲ誤解シテ其ノ私有財産ヲ分与スルモノナルカノ如ク考ヘ、
又ハ 國民ノ凡テニ其日暮シ其年暮シノ生活ヲナサシムル者ト考フルガ如キハ、
現實的改造ノ要求セラレツツアル現代社會革命説ノ躍進的進歩ヲ解セザル者ナリ。
從テ此ノ改造後ノ國民ニシテ如何ナル思想ニ導カルルニセヨ、國民ノ財産權ヲ犯ス者ハ、
人類社會ノ存スル限リ存スベキ法律ノ原則ニヨリテ、
鞏窃盗トシテ罰セラレ又ハ乞食トシテ待遇セラルルハ論ナシ。

註二。
年々多大ノ収益アリテ近ク私産限度ヲ超過スベク而シテ超過額ヲ國家ニ納附スルヲ慾セザル目的ヲ以テ、
限度以下ノ時ニ於テ、自己自身ノ慾望ニ從ヒテ消費セントスルハ亦國民ノ權利ナリ。
此ノ權利ハ國家ノ保障スル所有權ノ行使ニシテ其ノ消費ガ道徳的ナルト酒色遊蕩ナルトヲ問フノ要ナシ。
人ハ各々其人ヲ中心又ハ分子トシタル小社會ヲ國家内ニ有シ
或者ハ國境ヲ超過シタル大社會ノ中心又ハ分子タリ。
從テ其ノ消費セル所ヲ収得スル者ハ國家ノ手ヲ經由セザル國民ナリ。
私産限度制ハ國家ト國民ヲ害セザル程度ノ富ノ限度ヲ定ムル者ノミ。
之ヲ誤解シテ限度超過額ノ上納ヲ促ス者トシ
又ハ國民ノ獨自放胆ナル消費ヲ拘束スル者ト考フベカラズ。

平等分配ノ遺産相続制。
特定ノ意志ヲ表示セザル限リ、父ノ遺産ハ其ノ子女ニ平等ナル分配ヲ以テ相續セラル。
父ノ妻タル其ノ母亦同ジ。
母ノ遺産ハ夫タル父ニ於テ凡テ相續セラルベシ。

註一。
遺産相續ノ正義ヲ規定スルニ見ルモ、
合理的改造案ガ必ズ近代的個人主義ノ要求ヲ一基調トスルコトヲ知ルベシ。

註二。
現代日本ニノミ存スル長子相續制ハ家長的中世期ノ腐屍ノミ。
父母ノ愛ノ百千分ノ一ニ足ラザル長子ノ愛情利害ニ
一切弟妹ノ運命ヲ盲從セシムルハ没人情ノ極。
本然ノ人情其者ガ凡テノ法律道徳ノ根源ナルヲ忘ルベカラズ。

註三。
遺産相續ニ際シテ國家ガ課税ノ理由ナキコトハ、相續者則被相賊者ノ肉體的延長ナルヲ以テナリ。

次頁 (11) 巻七 朝鮮其他現在及び将来の領土の改造方針 に続く

日本改造法案大綱 (11) 巻七 朝鮮其他現在及び將來ノ領土ノ改造方針

巻七　朝鮮其他現在及ビ將來ノ領土ノ改造方針

朝鮮ノ郡県制。
朝鮮ヲ日本内地ト同一ナル行政法ノ下ニ置ク。
朝鮮ハ日本ノ属邦ニ非ズ又日本人ノ植民地ニ非ズ。
日韓合併ノ本旨ニ照シテ日本帝國ノ一部タリ一行政區タル大本ヲ明ラカニス。

註一。
朝鮮ヲシテ日本ノ愛蘭土タラシムル如キコトアラバ、
將來大羅馬帝国ヲ築カントスル日本ハ全然其ノ能力ナキコトヲ第一歩ニ於テ立證スルモノナリ。
由來 朝鮮人ト日本人トハ米國内ノ白人ト黒人トノ如キ人種的差別アル者ニ非ズ。
單ニ一人種中最モ近キ民族ニスギザルナリ。
從テ過般ノ暴動ト米國市中ノ黒白人爭闘トヲ比較スルトキ
其ノ耻辱ノ程度ニ於テ日本ハ幾百倍ヲ感ゼザルベカラズ。
朝鮮問題ハ同人種間ノ問題ナルガ故ニ所謂人種差別撤廢問題ノ中ニ入ラズ、
只一ニ統治國タル日本其者ノ能力問題タリ、責任問題タリ、道義問題タリトス。

註二。
朝鮮人ガ異民族タル點ハ其ノ言語ト風俗トノ一部ナリ。
國民生活ノ根本タル思想ニ於テハ
有史以來日本ノ文明交渉ガ朝鮮ヲ經由シタルニヨリテ明カナル如ク全然同一系統ニ属スル者ナリ。
而シテ現在吾人ノ血液ガ如何ニ多量ニ朝鮮人ノ其レヲ混ジタルカハ
人類學上 日本民族ハ朝鮮支那南洋及ビ土着人ノ化學的結晶ナリトセラルルニテモ明白ナリ。
特ニ純潔ノ朝鮮人ノ血液ヲ多量ニ引ケル者ハ彼ト文明交渉ノ密接セシ王朝時代ノ貴族ニ多ク、
現ニ公卿華族ト稱セラルル人々ノ面貌多ク朝鮮人ニ似タルハ凡て其ノ類型ヲ現スモノナリ。
既ニ王朝貴族ニ朝鮮人ノ血液ガ多量ナリト云フコトハ、
實ニ其ノ貴族ノ血液ガ皇室ニ入リ得ベキ特權階級タリシ點ニ於テ、
日本ノ元首其者ガ朝鮮人ト没交渉ニ非ズト云フコトナリ。
敢テ今次ノ朝鮮太子ト日本皇女トノ結合ヲ以テ日朝ノ融合ガ試ミラレルルニアラズ。
是レ決シテ人種問題ノ範囲ニ非ズ。

註三。
要スルニ凡テノ原因ハ
朝鮮ガ日本支那露西亜ノ三大國ニ介在シテ自立スル能ハザリシ地理的約束ト、
其ノ道義的廢頽ヨリ一切ノ政治産業學術思想ノ腐敗萎微ヲ來シテ内外相應ジテ亡ビタルモノナリ。
朝鮮其者ノ歴史ガ示ス如ク、又清國ガ此レヲ属國トセンガ爲ニ起リタル日清戰爭、
及ビ　満洲ニ來タレル露西亜ガ其ヲ侵略セントセシガタメニ破レタル日露戰爭ニ示ス如ク、
其ノ亡國タルベキ内外呼應ノ原因ハ統治者ガ日本タラザル時ハ露支兩國ノ焉レカナリシハ明白ナリ。
今次ノ大戰ニ於テ若シ白耳義ガ獨乙ト握手シ
而シテ英國ノ軍隊ガ其レヲ撃破シテ白耳義ニ滞陣セシトセヨ。
彼ハ講和會議ニ於テ其ノ獨立ヲ承認セザルノミナラズ明ニ其ノ領有ヲ主張スベキハ論ナシ。
朝鮮ノ亡國的腐敗ハ悉ク事大的國是トナリテ現ハレ、日清戰爭ニ於テハ清國ニ從ヒ、
日露戰爭ニ於テハ露西亜ヲ迎ヘ、
聊カモ英國と白耳義ノ結託ニ似タル者ナカリシハ開戰原因ヲ顧レバ明白ナリ。
此ノ間ニ於テ彼ノ革命黨ノミハ大局ヲ達観シ日本ト結ビテ獨立ヲ企劃シテ労苦止マザリシト雖モ、
終ニ日露開戰ニ至ル迄國政ヲ把リテ志ヲ行フ能ハザリキ。
而シテ戰爭中日本ノ朝鮮ニ於ケル立場ハ英國ノ白耳義ニ於ケル如クナラズ、
朝鮮全部ヲ掩有スルニ實力ヲ以テシタリ。
國内ノ革命黨ハ依然トシテ志ヲ得ズ、
露國又依然トシテ鞏大ヲ維持シ講和条約ハ單ナル休戰條約トシテ調印セラレタリ。
自立シ能ハザル地理的約束ト眞個契盟スル能ハザル亡國的腐敗ノ爲ニ、
日本ハ露國ノ復讐戰ニ對スル自衛的必要ニ基キテ獨立擁護ノ誓明ヲ取消シタル事實ガ眞相ナリ。
是レ侵略主義ニ非ズ、又謂フ所ノ軍國主義ニ非ズ。
朝鮮ヲ領有スル結果ヨリ見テ、恰モ百萬圓ヲ貯蓄シタル結果ヨリ見テ、
其レガ高利貸ニヨルト忠實ナル勞働ニヨルトヲ考査セズシテ
等シク守銭奴ト詈リ侵略者ト誣ユルハ昏迷者ノ狂言ナリ、重大ナル罪惡ナリ。
朝鮮ノ亡國史ヲ知リ露國ノ脅威ニ戰慄シタル危機ヲ顧ルナラバ、
愛蘭土獨立問題ヲ朝鮮ニ直譯シテ論及スルノ理ナシ。
空疎守旧ノ學説ト薄弱ナル意志ト衆愚ノ喝采ヲ足レリトスル虚榮ト、
實ニ通俗政治家ノ標本タル 「 ウヰルソン 」 輩ノ通弁ニ得々タリシ所謂學者ナル者ノ反省ヲ要ス。

註四。
故ニ日本存立ノ國防上ヨリ朝鮮ハ永久ニ獨立ヲ考フベキ者ニ非ズ。
露西亜ノ脅威ガ 「 ツアール 」 ノ亡ビタルヲ以テ去レリト考フル如キハ歯牙ニ足ラザル浅慮。
「 ツアール 」 ガ侵略シ來レルト 「 レニン 」 ガ幾多ノ謬妄ヲ附帯セル社會革命説ヲ奉ジテ殺到シ來ルベキト、
日本ガ國防上朝鮮ニ拠リテ戰フコトハ國家ノ國際的權利ナリ。
特ニ露西亜ノ脅威ハ過度時代ノ 「 レニン 」 ニ非ズシテ
「 レニン 」 無キ後眞ニ再建セラルベキ十年後ノ將來ニ存ス。
漸ク中世史ノ革命ヲ學ビツツアル未開後進ナル彼ニ對スルニハ現代的再建ヲ想像スルヨリモ、
反動ノ襲來又ハ眞乎ノ建國者ニヨリテ 「 ビーター 」 大帝ノ再現ヲモ打算外ニ置ク能ハズ。

註五。
此ノ國防上朝鮮ヲ獨立セシメズト云フコトハ、
英人ガ印度ヲ獨立セシメズ又阿弗利加植民地ヲ獨立セシメズト云フコトトハ全ク別事ナリ。
印度ガ英國ノ属邦タリ英領阿弗利加ガ植民地タルニ對シテ、
朝鮮ハ日本ノ属邦ニ非ズ
又植民地ニ非ズト明示セン所以ナリ。
印度又ハ阿弗利加ノ住民ガ全然英人ト人種ヲ異ニセルニ對シテ、
日鮮人ハ古來ノ混血融合ノミナラズ
同一人種中ノ最モ近キ異民族ナル點ニ於テ属邦タルベカラズ植民地タルベカラズ。
朝鮮ハ日本ノ一部タルコト北海道ト等シク正ニ 「 西海道 」 タルベシ。
日本皇室ト朝鮮王室トノ結合ハ
實ニ日鮮人ノ終ニ一民族タルベキ大本ヲ具體化トタル者ニシテ、
泣ク泣ク匈奴ニ皇女ヲ降嫁セシメタル攻略的ノ者ニ非ズ。
實ニ現時ノ對鮮策ナルモノハ甚ダシク英國ノ植民地政策ヲ模倣シタル故ニ、
根本精神よりして日韓合併の天道に反するものなり。
朝鮮ガ日本ノ西街道ナル所以ヲ明ニスルトキ
百般ノ施設悉ク日鮮人ノ融合統一ヲ來サザル者ナク、
獨立問題ノ如キ希フト雖モ生起セザルハ論ナシ。

註六。
「 コルシカ 」 島民ノ大皇帝ハ
「 コルシカ 」 獨立ノ戰陣ニ孚マレ獨立ノ憤ヲ抱キテ敵國ノ士官學校ニ學ベリ。
而モ革命佛蘭西ガ 「 コルシカ 」 ヲ佛蘭西ノ本國ト平等ナラシメ
「 コルシカ 」 島民ヲ佛蘭西人ノ自由ニ開放スルヤ、
獨立黨ノ青年士官ハ佛蘭西ニ對スル愛國心ヲ 「 エルバ 」 島ニ葬ルマデ變ゼザリキ。
日本海ヲ庭池トシテ南北満洲ト極東西比利亜トニ革命大帝國ヲ建ツル時、
朝鮮ハ特ニ其ノ心臓肺肝ノ重キヲナサントス。
日本々國ノ一部トシテ平等、日本人トシテノ自由ヲ對鮮策ノ眼目トナス。

朝鮮人ノ參政權。
約二十年後ヲ期シ朝鮮人ニ日本人ト同一ナル參政權ヲ得セシム。
此ノ準備ノ爲メニ約十年後ヨリ地方自治制ヲ實施シテ參政權ノ運用ニ慣習セシム。

註一。
是レ流行ノ所謂民族自決主義ニ非ルハ論ナシ。
朝鮮ガ日本ノ西海道タリ朝鮮人ガ日本人ト大差ナキ民族タル理由ニヨリテ、
日本國民タル國民權ヲ最初ニ且ツ完全ニ賦与セラルルヲ明カニスル者ナリ。

註二。
奈翁ノ世界統一主義ニ對シテ起レル民族主義ガ近世史ノ一大潮流ナリシハ言フノ要ナシ。
只之レガ彼ノ暗昧ナル　「 ウヰルソン 」 ノ口ヨリ民族自決主義ト呼バルルニ至リテ空想化シ滑稽化シタルナリ。
自決トハ抑々何ゾヤ。
或ル民族ガ其ノ國家組織ヲ失フ所以ハ
外部的壓迫ト内部的廢頽トニヨリテ自決スル力を欠ケルガタメナリ。
覺醒セル民族ガ内部的興奮ニヨリテ外部的壓迫ヲ排斥セントスル時、
是レ無用ナル自決ノ文字ヲ加ヘザル傳來ノ民族主義ナリ。
幾多ノ民族ノ中ニ於テ自決スルヲ得ル覺醒的民族ト然ラザル者トアルハ、
恰モ等シキ人間ノ中ニ於テ自決スル能ハザル八十歳ノ老婆アリ十歳ノ少女アルガ如シ。
民族主義ノ本旨ハ人道主義ト云フガ如キ合理的命題ナリ。
是レヲ民族自決主義ト名クルニ至リテハ
人道主義ノ命題ニ代ルニ人間自決主義ト云フガ如キ笑倒ノ沙汰。
老幼男女ヲ論ゼズ各人ノ人格ヲ認識スル人道主義ヲ滑稽化シテ
八十歳ノ老婆ニモ生活ヲ自決セシムベク十歳ノ少女ニモ恋愛ヲ自決セシム可シト云ハバ如何。
或ル民族ハ老婆ノ如ク或ル民族ハ少女ノ如シ。
此ノ國際間ニ於ケル民族ノ老幼ヲモアッパクシ虐遇セザルベキ人道主義ガ
則チ民族主義ノ終局理想タルベキ者ナリ。
現時ノ鞏国中各種老幼ノ民族ヲ包有セザル者ナキコト各家庭ニ於テ老婆少女ヲ有スルガ如シ。
是等ニ向ツテ自決ヲ迫ラバ各家庭ノ分散スベキ如ク一切ノ鞏國ハ分解スベシ。
鞏國ノ無用ヲ云フカ。
然ラバ 「 ウヰルソン 」 ハ 「 ヴエルサイユ 」 ニ行カズシテ端西ノ社會黨大會ニ列席スベカリシナリ。
而シテ其ノ主張ヲ堂々タル非國家主義世界統一主義ニ宣明スル彼等ハ
大ナル歓迎ヲ以テ噴飯スベキ此ノ命題ノ製造者ヲ嘲弄スベシ。

註三。
實ニ朝鮮ハ合併以前自決ノ力ナカリシコトハ八十歳ノ老婆ノ如ク、
合併以後未ダ自決ノ力ナキコト十歳ノ少女ノ如シ。
末節枝葉ニ於テ如何ナル非難アルニセヨ、
朝鮮ハ露西亜ノ玄関ニ老婆ノ如ク窮死スベカリシ者ヲ、
日本ノ懐ニ抱カレテ少女ノ如ク生長シツツアルハ之ヲ無視スル能ハズ。
己ニ日本ノ懐ニ眠レル以上、日本建國ノ天道ニヨリテ一點差別ナキ日本人ナリ。
日本人トシ日本人タル權利ニ於テ其ノ生長ト共ニ參政權ヲ取得スベキ者ナルハ論ナシ。

註四。
約十年ト云ヒ約二十年ト云フ年限ヲ予定シタルハ、
過去ノ専制政府等ガ民權運動ニ譲歩スルトキ
成ルベク長ク専制ヲ維持セント慾スル期間ノ留保ニ非ズ。
数百年間ノ半亡國史ハ實ニ朝鮮人ノ道念ヲモ生活ヲモ腐敗シ盡シタルヲ以テ、
眞ノ國家的覺醒アル鮮人ハ
之ヲ現在新精神ニヨリテ教育セラレツツアル人々ノ生長ニ待ツノ外ナキヲ以テナリ。
教育トハ必ズシモ 「サーベル 」 教師ニ非ズ。
必ズシモ日本語ノ教科書ニ非ズ。
愛國的暴動ノ如きニ係ラズ政治學ニ參政權ヲ神權視スルコトハ欧米ノ迷信ナリ。
票神權説ニ累セラレテ、鮮人ニ先ヅ參政權ヲ与ヘテ政治的訓練ヲナスベシト考フルハ、
其ノ權利ノ根本タル覺醒的生長ヲ閑却シタル愚人ノ云爲ナリトス。
日本ハ眞個父兄的愛情ヲ以テ、斯ル短時日間ニ此ノ道義的使命ヲ果タシ、
以テ 異民族ヲ利得ノ目的トセル白人ノ所謂植民地政策ナルモノニ鐡槌一下セザル可カラズ。

三原則ノ拡張。
私有財産限度 私有地限度 私人生産業限度ノ三大原則ハ
大日本帝國ノ根本組織ナルヲ以テ現在及ビ將來ノ帝國領土内ニ拡張セラルル者ナリ。

註一。
東洋拓殖会社ノ横暴ハ實ニ當年ノ東印度會社ニ學バントスル一大罪悪ナリ。
日本ノ亜細亜ニ与ヘラレタル使命ハ英人ノ罪惡ヲ再ビスルヲ許サズ。
拓殖會社ノ土地私有限度ニヨリテ一度國家ニ徴集スルト共ニ、
朝鮮ニ在ル内鮮人ハ平等ノ權利ニ於テ其ノ分配ヲ受クベシ。
日本建國ノ精神ハ内外人ニヨリテ正義ヲ二ニセザルコトヲ誇リトス。
朝鮮ニ於ケル所謂拓殖政策ナル者亦實ニ欧人ノ罪惡的制度ヲ直譯シタル者多シ。
日本ハ凡テニ於テ惡模倣ヨリ蝉脱シテ其ノ本ニ返ラザルベカラズ。

註二。
將來ノ帝國領土中、先住國民ノ大富豪大地主アリテ多大ノ土地ヲ獨占シ
又ハ生産業ヲ専有スル時是ヲ是認スル如キアラバ、
日本國家ハ只彼等ノ不義ナル財産ノ保護ヲ負担セシメラレ、
日本國民ハ只其ノ小作人タリ労働者タルニ過ギザル可シ。
是レ主權國民タル自負ト慾望ニ於テ忍ブ能ハザル所。
爲メニ遂ニ國家ノ法律ヲ抂ゲテ自國民ヲ保護シテ
彼等ノ財産ヲ奪ハントスル非違ヲ頻出シ不仁ノ名ヲ國家ニ冠セシムルニ至ル。
故ニ日本々國ニ於テ先ヅ此ノ三大原則ヲ確立シテ拡張セラレタル領土ニ臨ムトキ、
眞ノ公平無私ハ自ラニシテ得ベシ。
大領土ヲ有スル名實具足ノ大日本帝國ヲ考フル者
此ノ三大原則ヲ確立スル日本自ラノ改造ガ實ニ將來ノ建設ニ避ク可カラザル準備ナルヲ悟得スベシ。

現在領土ノ改造順序。
朝鮮臺灣樺太等ノ改造ハ此ノ三大原則ヲ決定スルニ止メ、漸ヲ追ヒテ其ノ餘ヲ施行シ、
十年乃至二十年後ニ於テ日本人ト同一ナル生活權利ノ各条ヲ得セシムルヲ方針トス。
但シ日本内地ノ改造ヲ終リ戒嚴令ヲ撤廢スルト同時ニ三大原則ノ施行ニ着手ス。
此等ノ領土内ニ在郷軍人團ナキヲ以テ、
國家任命ノ改造執行機關ヲシテ土地資本財産ノ調査徴集ニ當ラシム。
改造執行機關ハ日本内地ノ改造ニ經験ヲ得タル官吏又ハ同ジキ在郷軍人團中ヨリ任命ス。

註一。
日本ノ改造ヲ終リタル後ニ着手スル所以ハ、
無智ト事情不通トノ爲メニ日本内地ト同時ニ着手スルトキハ、
内地ノ紛囂ヲ誤傳シタル不安騒擾ヲ醸スベキヲ以テナリ。
第二ノ理由ハ在郷軍人團ナル好適ノ機關ナク、
今ノ植民政策的頭脳ノ總督府等ニ此ノ大任ニ當らシムルハ
明白ニ不正不義ヲ残シテ改造ノ精神ヲ傷クルノミナラズ、
或ハ意外ノ變ヲ招クベキヲ以テナリ。
第三ノ理由ハ三年間ノ日月ハ日本ノ整然タル改造組織ヲ傳聞セシムルニ十分ナルガ爲メニ、
日本大多數國民ノ歓喜ヲ傳ヘテ彼等ノ大多數國民亦速ニ其ノ福利恵澤ニ浴センコトヲ
慾スルニ至ルベキヲ以テナリ。

註二。
過般朝鮮ノ内亂ハ今ノ總督政治ガ一因ナラズトハ云ハズ。
而モ根本原因ハ日本資本家ノ侵略ガ官憲ト相結ビテ彼等ノ土地ヲ奪ヒ財産ヲ掠メテ
不安ヲ生活ニ加ヘ怨恨ヲ糊口ノ資ニ結ビタルコトニ存スルヲ知ラザルベカラズ。
「 ウヰルソン 」 輩ノ呼號何ノ影響アラン。
國家ノ内外ヲ毒シテ終ニ大羅馬ヲモ亡ボシタル者ノ金權政治ナリシコトヲ忘ルベカラズ。

改造組織ノ全部執行セラルベキ新領土。
將來取得スベキ新領土ノ住民ガ
其ノ文化ニ於テ日本人ト略等シキ程度ニアル者ニ對シテハ、
取得ト同時ニ此ノ改造組織ノ全部ヲ施行スベシ。
但シ日本々國ヨリ派遣セラレタル改造執行機關ニヨリテ改造セラルル者ナリ。
其ノ領土取得ノ後移住シ來レル異人種異民族ハ、
十年間居住ノ後國民権ヲ賦与セラレ日本國民ト同一無差別ナル權利ヲ有スベシ。
朝鮮人臺灣人等ノ未ダ日本人ト同一ナル國民權ヲ取得スベキ時期ニ達セザル者ト雖モ、
此ノ新領土ニ移住シタル者ハ居住三年ノ後右ニ同ジ。

註一。
例ヘバ濠洲ヲ取得シタル時其ノ住民ノ文化程度ハ直ニ此ノ改造組織ノ下ニ生活スルヲ得ベシ。
極東西比利亜ノ如キハ其程度先ヅ三大原則ヲ施行シ順ヲ追ヒテ施行スベキ者ナリ。

註二。
將來ノ新領土ハ異人種異民族ノ差別ヲ撤廢シテ日本自ラ其ノ範ヲ欧米ニ示スベキハ論ナシ。
濠洲ニ印度人種支那民族ヲ迎ヘ、
極東西比利亜ニ支那朝鮮民族ヲ迎ヘテ先住ノ白人種トヲ統一シ、
以テ東西文明ノ融合ヲ支配シ得ル者地球上只一ノ大日本帝國アルノミ。
從テ此ノ改造組織ヲ其等ノ領土ニ施行シテ主權國民自ラ私利横暴ヲ制スルト共ニ、
先住ノ白人富豪ヲ一掃シテ世界同胞のタメニ眞個楽園ノ根基ヲ築キ置クコトガ必要ナリ。
單ナル地圖上ノ彩色ヲ拡張スルコトハ児戯ナリ。
天道宣布ノ爲メニ選バレタル日本國民ハ將ニ天譴ニ亡ビントスル英國ノ二舞ヲ爲サザルハ論ナシ。

註三。
朝鮮人 臺灣人ガ其ノ故郷ニアリテ
未ダ取得スル時期ニ達セザル國民權ヲ此ノ領土ニ於テ三年後ニ取得シ得ベキ理由ハ、
既ニ移住シ居住スルホドノ者ハ大體ニ於テ優秀ナルヲ以テナリ。
第二ニ白人ノ新移住者印度人支那人ノ移住者ガ取得スル所ヲ、
己ニ早ク日本國民タリシ彼等ニ拒絶スベキ理由ナキヲ以テナリ。
第三ノ理由ハ東西文明ノ融合ヲ促進スルタメニ、
特ニ日本ノ思想制度ニ感化セラレタル彼等ノ移住ヲ急トスルガ故ナリ。
註三。
日本人ノ改造執行機關ヲ以テシテ
土着人ニ當ラシメザル所以ハ主權本來ノ性質トシテ説明ノ要ナシ。

次頁 (12) 巻八 国家の権利  に続く

日本改造法案大綱 (12) 巻八 國家ノ権利

巻八　國家ノ権利

徴兵制ノ維持。
國家ハ國際間ニ於ケル國家ノ生存及ビ發達ノ權利トシテ現時ノ徴兵制ヲ永久ニ亙わたリテ維持ス。
徴兵猶餘一年志願等ハ之ヲ廢止ス。
現役兵ニ對シテ國家ハ俸給ヲ給附ス。
兵営又ハ軍艦内ニ於テハ階級的表章以外ノ物質的生活ノ階級ヲ廢止ス。
現在オヨビ将來ノ領土内ニ於ケル異民族ニ對シテハ義勇兵制ヲ採用スル者アルベシ。

註一。
支那ニ於テ傭兵ト云フ物英米ニ於テ義勇兵ト名附ク。
則チ雇傭契約ニヨル兵士ナリ。
是レ彼等ノ國民精神ニ適合スル制度ナリ。
米國ノ建國ガ社會契約説ヲ理想トシテ植民セル者ノ契約綜合ナルハ前説ノ如シ。
英國又實ニ其ノ謬説ノ誕生地ナルヲ以テ、今尚 「 ジヨンブル、ソサイテー 」 ト名クル如ク
英帝國其者ヲ組合視シ 會社視シテ悉ク社會契約説ニ基ク立法ナラザルナシ。
從テ其ノ國防ニ於テモ組合ト組合員トノ間ニ雇傭契約ヲ締結スルハ、
米ノ建國トシテ 又英ノ國家組織トシテ少シモ不可ナシ。
而モ此ノ故ヲ以テ 「 ヴエルサイユ 」 會議ニ於テ英米ガ傭兵制度ヲ日本ニ鞏ヒタルハ 何タル迷妄ゾ。
日本ハ建國精神ヨリ、又現代國民思想ノ凡テニ於テ、日本帝國ヲ契約ニヨリテ組織シタル者ト一考セシコトモナシ。
日本國民ノ國家観ハ國家ハ有機的不可分ナル一大家族ナリト云フ近代ノ社會有機體説ヲ、
深遠博大ナル哲學的思想ト宗教的信仰トニヨリ發現セシメタル古來一貫ノ信念ナリ。
徴兵制度ノ形式ハ獨佛ニ學ビタルモ、徴兵制度ノ精神タル國民皆兵ノ義務ハ、
中世封建ノ期間ヲ除キテ、上世建國時代ニ發源シ 更ニ現代ニ復興シテ漲溢シツツアル國民的大信念ナリ。
日本ノ講話委員ハ何ガ故ニ英米ト日本トガ國民精神ノ根本、國家組織ノ信念ヨリ異ニスル所以ヲ指摘シテ、
日本國民本有ノ國家有機體的信仰ヲ彼等ニ訓ユルコトナカリシカ。
徴兵制其者ガ直ニ所謂軍國主義ニ非ザル事ハ、徴兵制ナリシガ故ニ辛ウジテ獨逸ヲ防止スルヲ得タル佛蘭西ガ、
會議ノ人々ヨリ軍國主義ナリシトシテ攻撃セラレザリシガ如シ。
日本ノ講話委員ハ何ガ故ニ、「 カイゼリスム 」 ト日本ノ國家有機體的信仰ヨリ結果セル
国民皆兵主義トヲ混同シテ臨ミシ無智ノ昏迷者ニ學バシムル所ナカリシカ。
軍國主義ナルカ否カハ傭兵トニヨリテ決セラルル者ニアラズ。
軍備ニ依頼シテ弱國ヲ併呑シ以テ私慾ヲ恣ニセントスル意味ノ者ガ軍國主義ナラバ
嘗テ陸上ニ於テ獨逸ガ然リシ如ク、海上ニ於テ英國ノナシツツアル者ハ實ニ遺憾ナク完成シタル海上軍國主義ナリ。
此ノ軍國主義ガ、單ニ自己ガ問題外ナル傭兵制ナリト云フノ理由ヲ以テ、
他ノ徴兵ニヨリテ斯ル軍國主義ガ者ノ侵害ヲ防衛セントスル者ニ己ノ冠ヲ冠セントセシハ惡ムベシ。
彼ノ愚昧ナル善人ガ斯ル惡魔ノ喇叭卒ニ使役セラレテ
其レヲ日本ニ向ツテ吹キシコトハ米國史上空前ノ恥辱ナリトス。

註二。
從テ傭兵ト徴兵トノ鞏弱ヲ論ズルコトハ無用ナル詮議ナリ。
英米ノ國情ニ於テハ必ズシモ鞏兵ヲ意味セズシテ、
日本ノ建國ト信念トニ於テハ傭兵ハ必ズ弱兵ナルハ論ナシ。
是レ徴兵制ヲ明確ニ永久ノ制度ナリトセル所以ナリ。
只獨逸ガ最後ニ破レタルガ故ニ徴兵制ノ価値ヲ疑フハ非常ナル妄断ナルコトヲ注意ス。
一人ト五人ト力角シテ己ニ三人ヲ倒シタル者ガ他ノ二人ヨリ足ヲ奪ハレタルヲ見テ
其ノ人ヲ弱者ナリト云フ能ハズ。
特ニ獨逸ノ實戰シタル軍隊ハ徴兵制ノ佛蘭西ト露西亜ニシテ、
甲ノ徴兵國ガ乙ノ徴兵國ニ破レタリト云ヒ得ベシ。
今次ノ大戰ニ於ケル英米ハ只海上封鎖ニヨリテ食料ト軍需品トヲ遮斷シタル任務ニ働キシ者。
英米ノ傭兵ト獨逸ノ徴兵トノ優劣ハ實戰ニヨリテ立証セラレタルモノニ非ズ。
只退却將軍ノ報告文トシテ古今獨歩ノ文豪 「 ヘーグ 」 元帥ニヨリテ英國傭兵ノ光榮ハ
十分ニ認知セラレタルハ周知ノ如シ。

註三。
或ル理想又ハ或ル信仰ニ基キテ徴兵ヲ拒否セントスル者ノ欧米ニ多キヲ以テ、
日本ガ國家ノ權利トシテ主張スルヲ非議スル者アラン。
而シナガラ政治ノ自由經濟ノ自由戀愛ノ自由ガ他ノ社會的生活ヲ犯サザル自由ノ意味ニ於テ、
思想ノ自由信仰ノ自由亦絶對的ノ者ニ非ルハ論ナシ。
自由ノ誤解セル解釋ヨリ來ル思想ノ自由信仰ノ自由ハ、
自由戀愛説ノ註ニ説明シタル所ヲ移シテ直ニ説明トスルヲ説クベシ。
思想又ハ信仰ノ点ヲ考フルトキ、
實ニ価値ナキ又ハ有害ナル者ヲ神ノ如ク裁決シ得ルノ大処ニ立ツヲ要ス。
印度人ガ生殖器ノ形像タル 「 リンガム 」 ヲ頸ニ掛ケ寡婦ガ自ラ薪ヲ抱テ夫ニ殉死スルコトヲ天國ニ行ク道ナリト信仰ストモ、
西蔵人蒙古人ガ諸神ト動物トノ生殖行爲ノ彫像圖画ヲ礼拝シテ極楽行ヲ信仰ストモ、
基督教徒中ノ旧教一派ガ一度結婚シタル者ハ離別ハ地獄ノ火ニ焼カルト信仰ストモ、
是等ノ信仰ガ信仰ナルガ故ニ自由ナリト認ムル能ハザルコトハ、
戀愛ナルガ故ニ自由ナリト認ムル能ハザルト同ジ意味ト程度ニ於テ然リ、
思想信仰ノ価値ハ其ノ民族精神又ハ世界思想ニ戰ヒテ凱歌ヲ擧ゲタル時ニ認メラルル者ナリ。
戰ノ中途ニ於テ又ハ退却或ハ降伏ノ狀態ニ於テ信仰ノ自由ヲ鳴合スル如キ信仰ハ、
終ニ十字架上 「 我レ勝テリ 」 トシテ國家ト世界ノ上ニ其自由ヲ建設スル価値ナキ者ナリ。
彼ノ兵役忌避ヲ本旨トスル 「 キエーカー」 宗ノ如キハ、小乗教ノ基督ニ於テスラ天國ノ戰ヲ指シ、
地上ニ於テ尚我レ刃ヲ出サンガ爲ニ來レリト宣シテ終ニ羅馬ヲ天火ニ亡シタル一面ヲ有スルニ係ラズ、
只其ノ殺ス勿レノ一項ヲ盾トシテ盲守スルニ過ギザル者。
同ジキ一神教ニ於テ 「 マホメツト 」 ハ刃ヲ出サンガ爲メニ來レルヲ明言シテ 「 殺スベシ 」 ト教フルニ非ズヤ。
「 コーラン」 ト共ニ劍ヲ示シテ殺スベシト云フ信仰ト殺ス勿レト云フ信仰トヲ兩立セシムルニ、
Liberty　ナル 「 アルアゥベット 」 七個ニ依頼セントスルガ如キ浅薄ナル信念ニテ何ノ信仰ゾ。
「 クエーカー」 宗ノ価値ハ天理教ヨリ遙カニ以下ニシテ 「 リンガム 」 礼拝ヨリ 聊カ以上ナル程度ノ者ナリ。
彼等ノ信仰ガ鞏固ニシテ犠牲ヲ甘ンズル事例ヲ擧ゲテ對抗スルナラバ
宗教ノ低級ナル者ニ於テ斯ル例ノ他ニ無數ナル者ヲ擧ゲ可ク、
更ニ斯ク頑迷移サザル者多キガ故ニ殺スベシト云フ回教ノ信仰ニヨリテ答ヘザルベカラズ。
神ハ全智ニシテ全能ナルガ故ニ、古ヘ 「 ノア 」 ノ洪水ヲ以テ大殺戮ヲナシ、
現時又六月二十八日ニ始マリテ六月二十八日ニ終レル五年間ノ屍山血河アリ。
神ヲ信ジテ而モ殺スコトヲ否ム 「 クエーカー」 宗徒ハ、神ノ能力ト智見ガ此ノ殺戮ヲ防グ
能ハザリシ完キ者ニ非ズト云フ信仰根本ノ矛盾ニ立ツ者。
基督其人スラ彼レノ弟子等ニ向ヒテ明カニ 「 我ガ神 」 「 汝ノ神 」　トシテ神其者ニ自他彼此大小高級ヲ差別しタリ。
日本國民ノ神ハ 「 クエーカー」 教徒ノ神ニ對シテ弥陀ノ利劍ヲ揮ツベキノミ。
生死ノ煩悶ヲ天空ニ求ムル如キ低級極マル小乗的信仰ヲ以テ將、
印度文明ノ密封セラレタル宝庫トシテ漸ク將ニ二十世紀ノ今日ヲ待チテ開カレントスル
日本民族ノ大乗的信仰ニ對セントスル如キハ、眞ニ竜車ニ向フ蟷螂ノ斧。
信仰既に然リ。況ヤ學者文士輩ノ口耳ヨリ濫造セラレタル思想ナル者ノ自由ヲヤ。
將來 「クエーカー」 宗ノ如キ又浅薄ナル非戰主義ノ如キヲ輸入シテ徴兵忌避ヲ企ツル者アラバ、
刑罰ハ斷々トシテ其ノ最モ重キ者ヲ課シテ可ナリ。

註四。
徴兵猶予一年志願兵等ハ現時ノ教育的差等ヨリ結果セル者ナルヲ以テ、
十年一貫ノ國民教育ニヨリテ此等ヲ存置スル善悪一切ノ理由ハ消失スベシ。
特ニ其ノ兵質ガ、前註説明ノ如ク今ノ少尉級ニ匹敵スベキヲ以テ自ラ現役年限ノ短縮トナルベク、
一年又ハ一年半ノ軍隊的軍艦的訓練ハ如何ナル専門的使命アル者モ
體心ノ根源ヲ培養シテ其ノ使命ノ大成ヲ準備セシムル者ナリ。
今ノ徴兵猶餘ハ速成學士ノ 「 ローズ 」 物ヲ官廳會社ニ賈出サントスル現經濟組織ヨリ來レル者。
特ニ彼等ノ殆ド凡テハ今ノ大學教育ナル高等職業紹介所ニ入ルコトヲ以テ一種ノ特權階級ノ如ク考ヘ、
心裏實ニ徴兵忌避ノ私ヲ包蔵シテ其ノ猶餘ヲ求ムル者ナラザルハナシ。
此ノ一点ヲ寛過スルハ實ニ國家ノ大綱ヲ紊ル者。
他ニ百利アリト仮想スルモ存置セシムベキ除外例ニ非ズ。

註五。
現役兵ニ俸給ヲ給附スベキハ國家ノ當然ナル義務ナリ。
俸給ガ傭兵ノ其レト全ク別個ノ義ナルハ論ナシ。
國民ノ義務ニセヨ、父母妻子ノ負担アル男子ヨリ其ノ勞働ヲ奪ヒテ何等ノ賠償ヲナサザルコトハ
國家ノ權利ヲ濫用スル者ナリ。
此ノ權利濫用ノ下ニ血涙ヲ呑ミシ爆発ハ眼前ニ見ル露西亜ノ勞兵會ノ蹶起ナリ。
軍隊ノ鞏盛ヲ念トスル軍事當局スラ此ノ鞏兵ヲナス根源ヲ提唱スル者無ク、
凡テノ國民ハ國民ノ義務ナル道念ニ忍ビテ一ニ只忘却ニ封ジツツアルトキ、
兵卒其者ガ憤恨ニ爆発スルノ日ハ則チ勞働者ト結合シタル勞兵會ノ出現ナラザルベカラズ。
「 ボルセヴイキ 」 ハ此ヲ防グベク、「 ボルセヴイキ 」 ヲ必然スル義務ノ忘却ハ可ナリト云フノ理ナシ。
或ハ國庫ノ負担堪ヘザルヲ云ハン。
然ラバ多大ナル俸給ニヨル傭兵ヲ以テ戰ヒシ英米ヲ見ヨ。
生産各省ノ収入優ニ餘リアリ。

註六。
兵營又ハ軍艦内ニ於ケル將校ト兵卒トノ物質的生活ヲ平等ニスル所以ハ自明ノ理ナリ。
古來將ハ卒伍ノ飲食ニ後レテ飲食スト云フガ如ク、
口腹ノ慾ニ過ぎザル飲食ニ差等ヲ設ケテ部下ノ反感ヲ平時ニ養成シ
戰時ニモ改メザル如キハ殆ド軍隊組織ノ大精神ヲ知ラザル者ナリ。
敗戰國又ハ亡國ノ將校ガ常ニ兵卒ノ粗食飢餓ヲ冷視シテ己レ獨リ美酒佳肴ヲ列ベシハ一ノ例外ナキ史實ナリ。
之ニ反シテ皇帝ニ堕落セザル以前ノ奈翁軍ノ聯勝セシ精神的原因ハ、
彼ノ無慾ト其ノ無質的生活ガ兵卒ト大差ナカリシ平等ノ理解ニ立チシガ故ナリ。
日本ノ最モ近キ將來ハ奈翁ﾅﾎﾟﾚｵﾝノ軍隊ヲ必要トス。
乃木將軍ガ軍事服ヨリ見テ許ス可カラザル大錯誤ヲナシテ彼ノ大犠牲ヲ來タセシニ係ラズ、
彼ガ旅順包囲軍ヨリ貫通サレン理由ノ一ハ己レ自ヲ兵卒ト同ジキ弁当ヲ食セシ平等ノ義務ヲ履行セシガ故ナリ。
士卒ヲ殺シテ士卒ニ赦サルル將軍ハ日本ノ最モ近キ將來ニ於テ千百人ト雖モ足レリトセザル必要アリ。
マサカニ兵卒ト同ジキ飲食ニテハ戰争ニ堪ヘズト云フ者アルマジ。
是レ其ノ飲食ヲナス兵卒ガ戰爭スル能ハズト云フモノ。
斯ル唾棄スベキ思ナリ。
勞兵會ヲ作ラシムベキ内應者ナリト云フベシ。
但シ家庭等ノ隊外生活ニ於テ物質的差別アルベキハ、
兵卒ガ等シク其ノ範位ニ於テ貧富ニ應ジタル自由アルガ如シ。

開戰ノ積極的權利。
國家ハ自己防衛ノ外に不義ノ鞏力ニ抑壓サルル他ノ國家
又ハ民族ノ爲メニ戰爭ヲ開始スルノ權利ヲ有ス。
( 即チ當面ノ現實問題トシテ印度ノ獨立及ビ支那ノ保全ノ爲メニ開戰スル如キハ國家ノ權利ナリ )。
國家ハ又國家自身ノ發達ノ結果 他ニ不法ノ大領土ヲ獨占シテ
人類共存ノ天道ヲ無視スル者ニ對シテ戰爭ヲ開始スルノ權利ヲ有ス。
( 即チ當面ノ現實問題トシテ豪州又ハ極東西比利亜ヲ取得センガタメニ
 其ノ領有者ニ向テ開戰スル如キハ國家ノ權利ナリ )。

註一。
近代ニ至テ世界列鞏ガ戰爭ヲ開始セントスルトキ悉ク自他ヲ欺ク旧道徳的名分ヲ掲ゲ、
又ハ之ヲ自己防衛ノ口實ニ求ムルハ國家生活ノ權利ヲ半解スルヨリ來ル卑怯ナリ。
眞ノ徹底的理解ハ自ラニシテ正々堂々タル宣布トナル者。
日本ガ積極的發展ノ爲メニ戰フコトノ單ナル我利私慾ニ非ザルコトハ、
他ノ民族ガ積極的覺醒ノ爲メニ占有者又ハ侵略者ヲ排除セントスル
現狀打破ノ自己的行動ガ正義視セラルル如ク正義ナリ。
自利ガ罪惡ニ非ザルコトハ自滅ガ道徳ニ非ザルト同ジ。
從テ利己其者ハ不義ニ非ズシテ他ノ正當ナル利己ヲ侵害シテ己ヲ利セントスルニ至テ正義ヲ逸ス。
正義トハ現在ノ狀態其者ニ非ザルハ論ナシ。
英國ガ印度ヲ牛馬視シテ己ヲ利シツツアル現狀ガ正義ニ非ザル如ク、
日本及ビ近接ノ亜細亜七億ノ民族ヨリ濠洲ヲ封鎖シツツアル現狀ハ同一ナル不義ナリ。
支那ヲ併呑シ朝鮮ヲ領有セントシタル 「 ツアール 」 ノ利己ガ當時ノ狀態ニ於テ不義ナリシ如ク、
広漠不毛ノ西比利亜ヲ獨占シテ他ノ利己ヲ無視セントスルナラバ 「 レニン 」 政府現在ノ狀態亦正義ニ非ズ。
正義トハ利己ト利己トノ間ヲ劃定セントスル者。
國家内ノ階級爭闘ガ此ノ劃定線ノ正義ニ反シタルガ爲メニ爭ハルル如ク、
國際間ノ開戰ガ正義ナル場合ハ現狀ノ不義ナル劃定線ヲ変改シテ正義ニ劃定セントスル時ナリ。
英國ハ全世界ニ誇ル大富豪ニシテ露國ハ地球北半ノ大地主ナリ。
散栗ノ島嶼ヲ劃定線トシテ國際間ニ於ケル無産者ノ地位ニアル日本ハ、
正義ノ名ニ於テ彼等ノ獨占ヨリ奪取スル開戰ノ權利ナキカ。
國内ニ於ル無産階級ノ闘爭ヲ認容シツツ獨リ國際的無産ノ戰爭ヲ
侵略主義ナリ軍國主義ナリト考フル欧米社會主義者ハ根本思想ノ自己矛盾ナリ。
「 ヒユーズ 」 ガ勞働者出身ナリトモ、「 レニン 」 ガ社會主義者ノ尊敬スベキ同志ナリトモ、
国際的對立ヨリ見テ彼等ガ大地主タルコトハ、昔時魚賈タリシ大倉喜八、
貧書生タリシ加藤高明ガ無産階級ヨリ見テ富豪タルト同ジ。
國内ノ無産階級ガ組織的結合ヲナシテ力ノ解決ヲ準備シ
又ハ流血ニ訴ヘテ不正義ナル現狀ヲ打破スルコトガ彼等ニ主張セラルルナラバ、
國際的無産者タル日本ガ力ノ組織的結合タル陸海軍ヲ充實シ、
更ニ戰爭開始ニ訴ヘテ國際的劃定線ノ不正義ヲ匡スコト亦無条件ニ是認セラルベシ。
若シ是レガ侵略主義軍國主義ナラバ日本ハ全世界無産階級ノ歓呼声裡ニ黄金ノ冠トシテ之ヲ頭上ニ加フベシ。
合理化セラレタル民主社會主義其者ノ名ニ於テモ日本ハ濠洲ト極東西比利亜トヲ要求ス。
如何ナル豊作ヲ以テストモ日本ハ數年ノ後ニ於テ食フベキ土地ヲ有セズ。
國内ノ分配ヨリモ國際間ノ分配ヲ決セザレバ日本ノ社會問題ハ永遠無窮ニ解決サレザルナリ。
只獨逸ノ社會主義ニ此ノ國際的理解ナク、
且ツ中世組織ノ 「 カイゼル 」 政府ニ支配セラレタルガ爲ニ、
英領分配ノ合理的要求ガ中世的組織ノ破滅ニ殉ジテ不義ノ名ヲ頒チタルコトヲ注意スベシ。
從テ今ノ軍閥ト財閥ノ日本ガ此ノ要求ヲ掲グルナラバ獨逸ノ轍ヲ踏ムベキハ天日ヲ指ス如シ。
改造セラレタル合理國家、革命的大帝國ガ國際的正義ヲ叫ブトキ之ニ對抗シ得ベキ一學説ナシ。

註二。
印度獨立問題ハ來ルベキ第二世界大戰ノ 「 サラエヴオ 」 ナ覺力援助トナリテ現ルベシ。
仮令英國ガ彼等ノ所謂自治ヲ許容シテ 「 ヂヨンブル、ソサイテー 」 ノ組合ヲ脱セシメザラント計ルトキモ、
彼ニシテ全然没交渉ナル獨立ヲ慾シテ蹶起スルナラバ固ヨリ然ルベキハ論ナシ。
大戰中ニ於ケル印度獨立運動ノ失敗ハ凡テ日本ガ日英同盟ノ忠義タリシガ爲メニシテ、
從テ英國ガ一時的全勝將軍タルガ爲ニ瞬時雌狀スルニ過ギズ。
而シテ日本ノ實力援助ニツキテ大方針トスベキハ海上ニ於テノミ彼ノ獨立ヲ援護スルコトナリ。
印度ノ獨立ハ尚米國ノ獨立ノ如し。
米國ノ十三洲獨立戰ハ其ノ始メ常ニ英兵ニ敗ラレツツ幾年ヲ經過シタル後、
最モ有力ナル實力援助ヲ与ヘタル佛蘭西海軍ガ英國海軍ヲ 「 メーン 」 岬ニ決定的ニ撃破シテ
陸兵輸送ヲ不可能ナラシメタルコトニ存ス。
外力ノ援助ナクシテ植民米人ガ戰フベキ武力ヲ有セザリシ如ク、
一切ノ武器ヲ奪ハレシ印度獨立軍ニ對シテ
恣ニ鎮圧軍ヲ輸送セシムルナラバ其ノ獨立ハ永久ニ期待スベカラザル者ナリ。
實ニ米國ノ獨立ヲ決定シタル者ガ佛蘭西海軍ナリシ如ク、
印度獨立ノ能否ヲ決定スル者ハ一ニ只英國海軍ヲ撃破シ得ベキ日本
及日本ノ同盟スベキ國家ノ海軍力如何ニ在リ。
日本ノ陸軍援助ハ多ク有用ナラズ。
却テ戰後ニ於ケル利權設定等ノ損因ヲ播キ、
印度其者ヨリハ何等ノ報謝ヲ求メザル天道宣布ノ本義ニ汚点ヲ印シ易キハ餘メ深ク戒ムベシ。
「 レニン 」 政府ノ尚存續シテ陸上ヨリノ援助ヲ仮想ストモ、決定的成否ハ己ニ海軍力ヲ喪失セル露國ニ非ズ。
日本ハ此ノ改造ニ基ク國家ノ大富力ヲ以テ海軍力ノ躍進的準備ヲ急グベシ。
日英兩國ハ中立的關係ニ立ツ能ハズシテ、
彼ノ從属的現狀ヲ維持スルカ 彼ノ分割ヲ結果スル征服者タルカノ二ナリ。
日本ガ永遠ニ政治的言語的思想的属邦トシテ印度ノ志士ヲ屠ラントセバ止ム。
國ヲ擧ゲテ道ニ殉ズル天道ノ使徒トシテ世界ニ臨マントセバ、
米國ノ海上軍國主義ヲ砕破スルニ足ルベキ軍國的組織ハ不可欠ナリ。
「 カイゼル 」 ハ海上ニアリ。
コレ佛蘭西ガ陸上ノ英國ニ對シテ軍國的組織ヲ放棄シ得ザリシ所以。
日本ニ加冠セラレタル軍國主義トハ印度獨立ノ 「 エホバ 」 ナリ。
此ノ萬軍ノ 「 エホバ 」 ヲ冒瀆シテ誣妄ヲ逞ウスル所謂平和主義ナル者ハ、
其ノ暴戻悪逆ヲ持續セントシテ 「 エホバ 」 ノ怒ヲ怖ルル惡魔ノ甘語ナリトス。
英人ヲ直譯スル輩ハ 「 レニン 」 ヲ宣傳スルヨリも百倍ノ有害ナリ。

註三。
支那ハ亦大戰ノ結果ニヨリテ急轉直下純然タル印度タラントス。
日本ガ印度ノ獨立ヲ慾スル如ク支那ノ保全ヲ希フナラバ、
眼前ニ迫レル支那ト英國トノ衝突ハ日英同盟ヲ存立セシメザル者ナリ。
英國ガ早ク己ニ支那ヲ財政的准保護國トセルコトハ説明ノ要ナシ。
仮令平家全滅ノ前ノ隆盛ノ如キニセヨ、英國ガ今次ノ大戰ニ於テ本國ヲ脅威せン獨逸ト、
印度ヲ脅威セシ露國トニ恐怖ナキニ至レルコトハ、
支那ニ於テ二國ガ亦同様ナル脅威ヲ満蒙ト青島ヨリ加ヘタル恐怖ヲ除去シタル者ナリ。
英國ハ日本ヲ外ニシテ支那ニ恐ルベキ實力ヲ見ズ。
而シテ日本ノ奴隷的臣從ハ大戰中ト講話會議トニ於テ彼ノ十分ニ安意シタル所。
則チ彼ハ西蔵獨立ノ交渉中ニ青海四川甘粛ノ一部ヲ包有スル要求ヲ加ヘ來レリ。
是レ日露戰爭ニヨリテ露西亜ガ南下ノ途ヲ日本ノ満洲ニ塞ガレタルガ故ニ、
直路中央亜細亜ヨリ中部支那ニ殺到セントセシ大道ノ繼承ヲ要求スル者。
印度ヲ其点トシテ己ニ阿富汗ニ及ビ波斯ニ及ビタル彼ガ中央亜細亜ニ進出スレハ論ナク、
極東海上ノ基点香港ト相應ジテ中部支那以南ノ割取ヲ考ヘ始メタルハ明白ナリ。
此レ往年露西亜ノ満洲ニ進出シタルヨリモ支那ノ一大危機。
而テ支那保全主義ヲ堅持スル日本ハ彼トノ衝突ニ於テ、
其ノ支那經略ノ根拠地香港ノ有害ナルコトハ、
日露戰爭ニ於ケル旅順浦塩斯徳ノ根拠地ニ優ルトモ劣ラズ。
彼ハ日本ノ口舌的抗議等ヲ眼中ニ置カズ天下無敵ノ全勝將軍トシテ支那ニ臨ムベシ。
是レ單ナル推定ニ非ズ。
事實ヲ以テ立証セレルルノ日ハ則チ日英両國ガ海上ニ見ユルノ日ナリ。
支那保全ニ於ケル日英開戰ハ己ニ論議時代ニ非ザルナリ。

註四。
日本ハ支那ニ於テ東洋ノ獨逸ヲ學バントスル野心國ナリト云フ世界ノ批評ニ對シテ
男子的ニ是認シ而テ男子的ニ反省シ改過スベシ。
周知ノ如ク英獨協商ハ香港ヲ根拠トセル英國ト青島ヲ根拠トセル獨逸トガ、
支那分割ノ阿弗利加大陸ノ如ク實現スベキコトヲ確信シテ、
北支那ヲ独逸ニ中央支那以南ヲ英國ニ妥協シタル者ナリ。
彼ノ津浦鐡道ガ南北ニ分割サレテ列車ヲ直通スル能ハズ。
南段ノ英資ニ對シテ北段ノ獨資ナルハ先ヅ投資的分割ニ現ハレタル者。
然ルニ今次ノ大戰中ニ於テ日本ハ獨逸ノ青島ヲ領有シテ支那ニ還附セザランコトヲ企ツルト共ニ、
獨逸ノ投資ヲ繼承シ更ニ北支那ニ投資的侵略ヲ學ビタルコト悉ク獨逸ノ跡ヲ追フ者ナラザルハナシ。
天道ハ甲國ノ罪惡ヲ罰トシテ乙國ノ同一ナル其レヲ助クル者ニ非ズ。
日本ガ東洋ノ獨逸ナリト云ハレ、獨逸ト等シキ軍國主義侵略主義ノ國ナリト云ハレ、
列國環視ノ間 「 ウヰルソン 」 輩ノ口舌ニ委縮シテ面上三斗ノ汗ヲ拭フノ耻晒シヲ爲セン者悉ク是レ天意。
敢テ軍閥内閣ト党閥内閣トニ差等ヲ附スルノ要ナシ。
明治大帝ナキ後ノ歴代内閣ノ爲ス所悉ク大帝降世ノ大因縁タル日露戰爭ノ精神ニ反逆セザル者ナシ。
一幸徳秋水ノミガ大逆罪ニ非ズ。
其ノ罪正ニ大帝ノ陵墓ヲ發クノ大逆政策ヲ改メズシテ支那ノ排日ヲ怒リ米國ノ排日ニ
憂ヘ尚且ツ茫々然トシテ天佑ヲ夢ム。
彼等ハ講和會議ニ於テ英國ノ保護ヲ蒙リテ獨逸ノ利權ヲ繼承スルコトヲ認容セラレタルトキ
相賀シテ 「 國難去レリ 」 ト去ヘリ。何ゾ然ラン。
英國ハ英獨協商ノ相手方ヲ日本ニ代ヘタルガ故ニ、
今ヤ該協商ノ目的タリシ中部支那以南ノ領有ヲ現實ナラシメントシテ
玆ニ青海四川甘粛ヲ包有セル西蔵獨立ノ要求トナリテ現レタレナリ。
早く己に揚子江流域は英國の勢力範囲なりと云はるる今日、
日本を相手方として英獨協商を日英協商として支那に臨む時、
明治大帝は何の爲めに日露大戰を戰ヒシカヲ解スベカラザラントス。
日本ハ 「 ヴエルサイユ 」 ニ救ハレタル同胞ノ誼ニヨリテ 英國ノ支那本部併合ニ報謝スベシト云フカ。
排日ノ聲ガ支那ト米國トニ一斉ニ擧レル所以ハ日露戰爭ニヨリテ保全サレタル支那ト、
日露戰爭ヲ有力ニ後援シテ日本ニ支那ヲ保全セシメタル米國トガ、
天ニ代リテ當年ノ保全者ニ脚下ノ陥穽ヲ警告スル者ナリ。
驕児 「 カイゼル 」 ハ世界的排斥ニ反省セズシテ陥穽ニ墜落シタリ。
米支両國ノ排日ニ省悟一番シテ日露戰爭ノ天道宣布ニ歸ル時、
日本ハ排日ノ實ニ天龍 限リナキヲ見ルベシ。
英國ノ恩恵ノ下ニ青島ニ租借地ヲ得ルヨリモ、英國其者ノ香港ヲ奪ヒテ日本ノ海軍根拠地トセヨ。
香港ニ根拠セバ青島ノ如キハ無用ノ長物ナリ。
山東苦力トシテ輸出セザルベカラザルホドニ人口漲溢セル支那ノ貧弱ナル一角ニ没頭スルヨリモ、
支那其ノ者ヨリ広大ニシテ豊饒ナル英國ノ濠洲ヲ併合セヨ。
日本ニ取リテ支那ハ只分割サレザレバ足ル。
四千年住ミ古シタル支那ヲ富源ナルカノ如ク垂涎スル小胆國民ニシテ、如何ゾ世界的大帝國ヲ築クヲ得ベキ。
日本ガ首ヲ擡ゲテ英領ヲ直視スル時、支那ノ排日ハ根本的ニ永久的ニ跡ヲ絶ツベシ。

註五。
此ノ支那保全主義ノ徹底ヨリ視ル時、日本ノ極東西比利亜領有ハ日本ノ積極的權利タルト同時ニ、
支那ヲ北方ヨリ脅威セル露西亜ノ伝統的國是ヲ打破スル者。
日本ガ東清鐡道ヲ取得シテ、極東西比利亜トヲ結合スル時、
内外蒙古ハ支那自ラノ力ヲ以テ露國ノ侵略ヲ防禦スルヲ得ベシ。
斯クシテ日本ハ北ニ大ナル円ヲ畫キテ支那ヲ保全シ、支那亦日本ノ前營タルベシ。
露西亜ノ外蒙古進出ニ押サレテ日本亦内蒙古ニ進出シテ防備ヲ試ミントスル軍閥ノ支那保全策ハ、
或ル程度ニ於テ支那ヲ保全シツツ 或ル程度ニ於テ支那ヲ分割スル者、
其ノ無策ト不徹底ト斷ジテ亜細亜聯盟ノ盟主タルベキ器ニ非ズ。
特ニ 「 セミヨノフ 」 輩ヲ用ヒテ内外蒙古ノ獨立ヲ策シツツアル如キハ誠ニ小策士陰険手段。
國家ノ有スル開戰ノ積極的權利ヲ心解セバ公々然日本及ビ支那ノ必要ヲ主張シテ
「 レニン 」 其人ニ向テ極東西比利亜ノ割譲ヲ要求スベシ。
「 チエツク、スローバツク 」 援助ノ口実ノ蔭ニ國家ノ當然ナル權利ヲ隠蔽スルガ故ニ
野心ヲ包蔵ストナシテ敵味方ノ警戒ヲ受クルナリ。
日本ノ對外行動ハ取ルベカラザル者ヨリ寸士ヲ得ザルト共ニ、
天日照覧ノ下旬モ奪フベクンバ全地球ヲモ大ナリトセザルベキ大丈夫ノ健脚ニ立ツベシ。

註六。
要スルニ日本ハ日本海朝鮮支那ノ確定的安全ノ爲メニ、則チ日露戰爭ノ結論ノ爲メニ、
極東西比利亜ヲ領有スベク露西亜ニ對スル大陸軍ヲ欠クベカラズ。
而テ印度獨立ノ援護、支那保全ノ確保、及ビ日本ノ南方領土ヲ取得スベキ運命ノ三大國是ニ於テ、
英國ト絶對的ニ兩立セザルガ故ニ實ニ大海軍ヲ急務トス。
若シ今次ノ大戰ニ際シテ大西郷アリ明治大帝アリシナラバ、
獨逸ノ陸軍ト東西呼應シテ一擧露國ヲ服從セシメ、
海軍亦東西ニ相分レテ英國艦隊ヲ本國と印度濠洲トニ防備ニ兩分セシメ
十分ナル優勢ヲ持シテ各々之レヲ撃破シ、朞年ナラズシテ早ク己ニ北露南濠ニ大帝國を築キタリシ筈。
獨逸ノ敗因實ニ其ノ始メニ於テ背後ニ迫レル露軍ノ爲メニ巴里占領ノ好機ヲ逸シ、
更ニ英國艦隊全部ヲ本國ニ集中セシメタルガ爲メニ一擧根本ヲ屠ル能ハザルノミナラズ、
却テ其ノ艦隊を 「 キール 」 軍港ニ封鎖セラレテ國内物質ノ空乏ヲ來シ僅カニ潜航艇戰ノ窮策ニ訴フルヤ、
又却テ米國ヲ脅威シテ之ヲ敵ニ駆リシニ基ク。
開戰當初ヨリ露ノ陸軍ト英ノ海軍トヲ兩分シ得ベキ日本一國ノ向背實ニ世界大戰ノ勝敗ヲ決シタルヲ見ルベシ。
日本ハ明カニ英獨ノ間ニ 「 キヤスチングヴオト 」 シテ其力ヲ以テ獨逸ヲ亡ボシ英國を活カセシ者。
然ルヲ擧國一致此ノ天龍ヲ逆用シテ却テ兩立スベカラザル敵國ノ犬馬ニ就キ、
救國ノ恩主 倒マニ其ノ脚下ニ俯伏シテ糞土ニ値セザル小群島ト一青島トヲ哀訴ス。
國政ヲ執ツテ國ヲ亡ボサントスル斯クノ如キ者ニ加フベキ大逆罪ノ法文ナキヲ如何セン。

註七。
只一大事因縁ヲ告グ。
「 ヴエルサイユ 」 ニ於ケル調印ハ獨逸ヲ目的トシテ聯合シタル列鞏ガ、
更ニ英國ヲ第二ノ獨逸トシテ新タナル聯合軍ヲ組織スベキ天与ノ一大轉機。
日本ハ英獨其ノ他ヲ糾合シテ世界大戰ノ眞個結論ヲ英國ニ對シテ求ムベシト云フコト是レナリ。
講和會議ハ印度洋ノ波濤ヲ 「 テーブル 」　トスベシ。
米國ノ恐怖タル日本移民。日本ノ脅威タル比利賓ノ米領。
對支投資ニ於ケル日米ノ紛爭。
一見兩立スベカラザルカノ如キ此等ガ、其實如何ニ日米兩國ヲ同盟的提携ニ導クベキ
天ノ計ラヒナルカノ如キ妙諦ハ今是レヲ云フノ 「 時 」 ニ非ズ。
一ニ只此ノ根本的改造後ニ出現スベキ偉器ニ待ツ者ナリ。
天皇ニ指揮セラレタル全日本國民ノ超法律的運動ヲ以テ
先ヅ今ノ政治的經済的特權階級ヲ切開シテ棄ツルヲ急トスル所以ノ者、
内憂ヲ痛ミ外患ニ悩マシムル凡テノ禍因只コノ一大腫物ニ發スルヲ以テナリ。
日本ハ今ヤ皆無カ全部カノ斷崖ニ立テリ。
國家改造ノ急迫ハ維新革命ニモ優レリ。
只天龍ハコノ切開手術ニ於テ日本ノ健康體ナルコトニ在リトス。

次頁 (13) 結言 に続く　

日本改造法案大綱 (13) 結言

結言

「 マルクス 」 と 「 クロポトキン」 トヲ墨守スル者ハ革命論ニ於テ羅馬法皇ヲ奉戴セントスル自己矛盾ナリ。
英米ノ自由主義ガ各其ノ民族思想ノ結ベル果實ナル如ク、
獨人タル 「 マルクス 」 ノ社會主義
露人タル 「 クロポトキン」 ノ共産主義ガ幾多ノ相異扞格セル理論ヲ以テ存立スルコトハ
各其ノ民族思想ノ開ケル花ナリ。
其ノ価値ノ相對的ノ者ニシテ絶對的ニ非ザルハ勿論ノ事。
故ニ鞏ヒテ此ノ日本改造法案大綱ヲ名ケテ日本民族ノ社會革命論ナリト云フ者アラバ甚ダシキ不可ナシ。
然シナガラ若シ此ノ日本改造法案大綱ニ示サレタル原理ガ國家ノ權利ヲ神聖化スルヲ見テ
「 マルクス 」 ノ階級闘爭説ヲ奉シテ對抗シ、
或ハ個人ノ財産權ヲ正義化スルヲ見テ 「 クロボトキン」 ノ相互扶助説ヲ戴キテ非議セント試ムル者アラバ、
其ハ疑問ナク 「 マルクス 」 ト 「 クロポトキン」 ノ智見到ラザルノミト考フベシ。
彼等ハ旧時代ニ生レ其ノ見ル所欧米ノ小天地ニ限ラレタルノミナラズ、
浅薄極マル哲學ニ立脚シタルガ故ニ、
躍進セル現代日本ヨリ視ル時 單ニ分科的価値を有スル一二先哲ニ過ギザルハ論ナシ。
過去ニ欧米ノ思想ガ日本ノ表面ヲ洗ヒシトモ
今後日本文明ノ大波濤だいはどう ガ欧米ヲ震撼スルノ日ナキヲ斷ズルハ何タル非科學的態度ゾ。
「 エヂプト 」 「 バビロン 」 ノ文明ニ代リテ希臘きろう文明アリ。
希臘文明ニ代リテ羅馬文明アリ。
羅馬文明ニ代リテ近世各國ノ文明アリ。
文明推移ノ歴史ヲ只過去ノ西洋史ニ認メテ
而モ二十世紀ニ至リテ漸ク眞ニ融合統一シタル全世界史ノ編纂へんさん ガ始マラントスル時、
獨り世界史と將來トニ於テノミ其ノ推移ヲ思考スル能ハズトスルカ。
印度文明ノ西シタル小乗的思想ガ西洋ノ宗教哲学トナリ、印度其者ニ跡ヲ絶チ、
經過シタル支那亦只形骸ヲ存シテ獨リ東海ノ栗島ニ大乗的宝蔵ヲ密封シタル者。
玆ニ日本化シ 更ニ近代化シ 世界化シテ
來ルベキ第二大戰ノ後ニ復興シテ全世界ヲ照ス時
往年ノ 「 ルネサンス 」 亜細亜思想ヲ以テ今ノ低級ナル所謂文明國民ヲ啓蒙スルコトニ存ス。
天行健ナリ。
國ハ興リ 國ハ亡ブ。
欧州諸國ガ数百年以上ニ 「 ジンキス 」 汗 「 オゴタイ 」 汗等蒙古民族ノ支配ヲ許サザリシ如ク、
「 アングロサクソン」 族ヲシテ地球ニ闊歩セシムル尚幾年カアル。
歴史ハ進歩ス。
進歩ニ階梯アリ。
東西ヲ通ジタル歴史的進歩ニ於テ各々其ノ戰国時代ニ亜ギテ封建國家ノ集合的統一ヲ見タル如ク、
現時マデノ國際的戰國時代ニ亜ギテ來ルベキ可能ナル世界ノ平和ハ、
必ズ世界ノ大小國家ノ上ニ君臨スル最鞏ナル國家ノ出現ニヨリテ維持サルル封建的平和ナラザルベカラズ。
國境ヲ撤去シタル世界ノ平和ヲ考フル各種ノ主義ハ其ノ理想ノ設定ニ於テ、
是レヲ可能ナラシムル幾多ノ根本的条件
則チ人類ガ更ニ重大ナル科學的發明ト神性的躍進トヲ得タル後ナルベキコトヲ無視シタル者。
全世界ニ与ヘラレタル現實ノ理想ハ何ノ國家何ノ民族ガ豊臣徳川タリ神聖皇帝タルカノ一事アルノミ。
日本民族ハ主權ノ原始的意義、統治權ノ上ノ最高ノ統治權ガ國際的ニ復活シテ、
「 各國家ヲ統治スル最高國家 」 ノ出現ヲ覺悟すベシ。
「 神ノ國ハ凡テ謎ヲ以テ語ラル。」
甞テ土耳古ノ弦月旗アリキ。
「 ヴエルサイユ 」 宮殿ノ會議ガ世界ノ暗夜ナリシコトハ其レヲ主裁シタル米國ノ星旗ガ黙示ス。
英國ヲ破リテ土古舌ヲ復活セシメ、印度ヲ獨立セシメ、支那ヲ自立セシメタル後ハ、
日本ノ旭日旗ガ全人類ニ天日ノ光ヲ与フベシ。
世界ノ各地ニ豫言サレツツアル其督ノ再現トハ實に 「 マホメット 」 ノ形ヲ以テスル日本民族ノ經典ト剣ナリ。
日本國民ハ速カニ此ノ日本改造法案大綱ニ基キテ國家ノ政治的經濟的組織ヲ改造シ
以テ來ルベキ史上未曽有ノ國難ニ面スベシ。
日本ハ亜細亜文明ノ希臘トシテ己ニ強露波斯ヲ 「 サラスミ 」 の海戰ニ砕破シタリ。
支那印度七億民ノ覺醒實ニ此ノ時ヲ以テ始マル。
戰ナキ平和ハ天國ノ道ニ非ズ。
大正八年八月稿於上海
北一輝
無数千万衆　　欲過此険道----時有一導師
鞏識有知慧　　明了心決定　　在険済衆難----
----慰衆言勿懼　　汝等入此城　　各可随所楽
( 妙法蓮華經化城喩品 )

次頁 (14) 普及版の刊行に際して に続く

日本改造法案大綱 (14) 普及版の刊行に際して

 西田税 
普及版の刊行に際して

日本改造法案の普及は吾等多年の期望であつたが、何事も思ふにまかせぬことばかりであつた。
斯の版は同志田中操君の努力によりて刊行せらるゝものである。
田中君は一下級船員である。
本書を天下に普及せんと慾するが爲めに
同君は五年間僅かなる賃銀を摘んで此度の出版費を提供された。
吾等は、君の深甚なる志願と不斷不屈の努力に對して無限の感激敬意を献ぐる者である。
三年前、編集者は著者の意をうけて第三回の公刊頒布をしたことがあるが、
田中君の普及版は其れに同じいものである。
只異なる悦ぶべき点は、六年前公判の時に當局から伏字にせられた改造行程の手段手法の部が、
此度其の大部分を解除されたことである。
この事は別に隠れたる同志増田一悦君の努力によるものである。
併せて玆に感謝の意を表する次第である。
昭和三年十月　　
編集者　西田税

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