あを雲の涯

「 二、二六事件て何や 」
親友・長野が問う
「 世直しや 」
私はそう答えた

兵に後顧の憂いがある

2017年12月27日 10時28分27秒 | 靑年將校運動

靑年將校がみていた
當時の社會

 ・
一、山口一太郎  
靑年將校は戦時において下級指揮官として、貧しい靑年と共に、
敵の鉄砲火の中に飛び込む役である
と 同時に、平時においても軍隊教育者として、
兵隊を仕込む役でもある。
熱心な教育者であればある程、被教育者たる兵隊の困窮に深い同情を持つ。
この困窮をなんとか救ってやりたいと思い、その困窮の原因となっている社会悪に対し、
激しい憤激を覚えてくる。

第一に
この国は国民大衆の幸福のために運営されていない。
天皇様は国民が幸福であるように、お情け深くあられるが、
牧野伸顕とか鈴木貫太郎とか斎藤実とかいう君側の肝が、
特権階級に都合のよいように虚を申し上げるから政治が悪くなるのだ。
高橋是清蔵相は財閥の味方ばかりして貧乏人を苦しめている。
第二に、
戦争で死ぬのは青年将校と兵隊とであり、
参謀本部や陸軍省の連中は、待合で兵器工業社の重役と飲み食いし、
戦争になっても自分たちの生命は安泰で、その上勲章や褒美の金がもらえるのだ。
第三に、
二十歳から二十三歳位の働き盛りの青年を兵隊にとられ、
どん底生活におちいった家庭の数は数えきれない。
それなのに、
それらの家庭に邦から与えられる軍事救護金は、家の涙ぐらいしかない。
ために苦界に身を沈めた兵隊の妹もおびただしい数にのぼる。
国を思い兵隊の家庭を通じて国民大衆の苦悩を、
ひしひしと体得している純真な青年将校は、
純真であればあるほど、
時の政府、時の軍当局、特に財閥が憎くてたまらなかったのである。
国民を兵隊として召集する仕事をかる役所は連隊区司令部である。
兵隊に後顧の憂いがある。
これでは天皇陛下萬才を心から叫んで死んでいけない。
今日の政治はだめだ 
という青年将校の声は、連隊区司令官を通じて陸軍省にとりつがれ、
閣議の席上陸軍大臣からしばしば政府に申し立てられた。
これは国民大衆の声が、
為政者に強く勧告される ひじょうに都合のよいルートであったのである。
しかし、政治はいっこうによくならなかった。
純真な人たちが自己を忘れて国民大衆の幸福になる道をかんがえるとき、
正当な意志通達のルートが閉ざされていると、
その動きはおのずから危険性を帯びてくる
・・・『 青年将校 』 山口一太郎
・・日本週報 「 天皇と反乱軍 」 所載
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靑年將校は兵の身上から社會をのぞき、
そこから 政治惡を感じとっていた。


二、高橋太郎
「姉は・・・」 
ポツリポツリ家庭の事情について物語っていた彼は、ここではたと口をつぐんだ。
そしてチラッと自分の顔を見上げたが、すぐに伏せてしまった。
見あげたとき彼の眼には一ぱいの涙がたまっていた。
固く膝の上にすえられた両こぶしはの上には、二つ三つの涙が光っている。
もうよい、これ以上聞く必要はない。

暗然拱手歎息、
初年兵身上調査にくりかえされる情景、
世俗と断った台上五年の武窓生活、
この純情そのものの青年に、実社会の荒波は、あまりに深刻だった。
はぐくまれた国体観と社会の実相との大矛盾、疑惑、煩悶はんもん、
初年兵教育にたずさわる青年将校の胸には、こうした煩悶がたえずくりかえされて行く。
しかもこの矛盾はいよいよ深刻化して行く。
こうして彼等の腸は九回し、眼は義憤の涙に光るのだ。

ともに国家の現状に泣いた可憐な兵は今、北満第一線の重圧にいそしんでおることだろう。
雨降る夜半、ただ彼らの幸を祈る。
食うや食わずの家族を後に、国防の第一線に命を致すつわもの、
その心中は如何ばかりか、この心情に泣く人幾人かある。
この人々に注ぐ涙があったならば、国家の現状をこのままにして置けないはずだ。
ことに為政の重職に立つ人は。

国防の第一線、日夜生死の境にありながら
戦友の金を盗って故郷の母に送った兵がある。
これを発見した上官は、ただ彼を抱いて声をあげて泣いたという。
神は人をやすくするを本誓とす。
天下の万民は皆神物なり、
赤子万物を苦しむる輩はこれ神の的なり、許すべからず
・・・『 感想録 』
死刑判決三日前の七月二日に書き残したもの、
若い隊付将校の革新の意向が切々と訴えられている。


三、磯部浅一
青年将校の改造思想はその本源は改造方案や、北、西田氏ではありません。
大正の思想国難時代にこれではいけない、
日本の姿を失ってしまうという憂国の情が、忠君愛国の思想をたたきこまれている、
士官学校、兵学校、幼年学校の生徒の間に、勃然として起ったのです。
そしてこの憂国の武学生が任官して兵の教育にあたってみると、
兵の家庭の情況は全く目もあてられない惨但たるものがあったのです。
何とかせねばと真面目に考え出して、日本の状態を見ると意外にひどい有様です。
政党、財閥のかぎりなき狼藉のために、国家はひどく喰い荒されている。
これは大変だ、国を根本的に立て直さねば駄目だと気がついて、
一心に求めているとき、日本改造方案と北、西田氏があったのです。
・・・『獄中手記』・・磯部浅一
リンク→ 獄中手記 (三) の三 ・ 北、西田両氏と青年将校との関係

これも青年将校の国家革新への志向を描いたものだが、
けっきょく青年将校は、いずれも 「 国家悪 」 を そこにみたわけであるが、
では
彼らは国家の現状を、何に照らして悪とみたのか、
彼らが日本の現状を見る眼は なんだったのか


四、村中孝次
明治末年以降、
人心の荒怠と外国思想の無批判的流入とにより、
三千年一貫の尊厳秀絶なるこの皇国体に、
社会理想を発見し得ざるの徒、
相率いて自由主義に奔りデモクラシーを讃歌し、
再転して社会主義、共産主義に狂奔し、
玆に天皇機関説思想者流の乗じて以て議会中心主義、
憲法常道なる国体背反の主張を公然高唱強調して、
隠然幕府再現の事態を醸せり。
之れ
一に明治大帝によりて確立復古せられたる
国体理想に対する国民的信認悟得なきによる
・・・『続丹心録』
リンク→ 昭和維新・村中孝次 (三) 丹心録


国家の現状、
それは村中によれば、国体理想に背反せるものであった。
彼らのもの見る眼はそのすべてが 国体観念、国体の理想にあった。
この理想にてらされる邦の姿は 「 国体破壊 」の 現状であったのである。


大谷啓二郎著 
軍閥