靑年將校の道
歩一 林八郎
一、人格生活・神
現今の人は余りにも卑俗だ
道に對する畏敬を知らない
「 朝に道を開けば 夕に死するも可なり 」
の 意氣は無論 其日其日を眞實へる武士の覺悟はおろか
自己の言動に對する確信すら持ち得ないのではないか
足盡大地上を踏みしめよ
よろけてはいけない
正念を持して失はざれ
死すべき時に後を見せて後で切腹間に合はない
俯仰天地に恥ちざれ
自ら反みて 縮なほくんば 千万人と雖も我行かん
是が人格生活だ
起きては寝 食しては排泄す
果して人世の意義があらうか
明皎々たる太陽の耀きに何を以て較くらぶべき露の命
悠久の生命大自在の宇宙
ここに憧れて
ここに求めて
然るが故に 古人に学び 先哲を慕ふ
況んや 古神道によれば吾人は神の子である
奉皇殉國の大道に安心立命の神境を打開しようてはないか
物欲紛々の此の身こそ 先づ齋戒沐浴し去らずばなるまい
二、社會
此に亦 吾人の懊悩がある
吾と此身の汚れたるが如く 世も亦濁る
此の世を救はんとせずして自ら正覺を成さんとするも
小乗の羅漢たるを免れず眞の道ではあるまい
食なきが故に無垢の心を傷はれ行く民人
衣食足つて礼節を知らざる禽獣人
私慾の文化を誇るもの
哀れなる被搾取の底に潜み行く民族
此を念ひ彼を眺むるとき
救世濟民の志 勃々禁ずる能はざるものがある
然あらざるべからず
純潔なる若人の血よ
三、反省と視野
然あれども若人よ みだりに躍る勿れ
世の中はもつと辛辣だ
世濟民にも道がある
或人は機構の改革を目指して改造運動の第一線に立つ
或人は精神の確立を目指して忠君愛國を説き 大慈大悲を叫び
或人は一村の繁榮を第一着手として進み
或人は精兵の練成に注ぐ赤心を以て一世を化かさんことを期す
何れも可なり 人自らを知れ
天の時あり 地の利り 自己のぶんり
のぼせあがらぬことは是非必要だ
然れども 時の流あり 天の流行あり 國運をして天日の道を歩ましめざるべからず
此に吾人は分を知り 分によつて奉皇を記すると共に
世界的視野に立つて時勢を大観しなければならぬ
四、明日の時代
亜細亜は眠つてゐる死せるが如くに
欧米は没落せんとして居る
絢爛けんらんの光を殘して個人主義を基調とする文明は行詰つた
人間性の代りに神の道が開かれねばならぬ
資本主義は自殺だ
共産主義はその終生でしかない
より根本の宇宙観の覺醒がなければならぬ
亜細亜の問題は 資本主義よりの防衛であり
欧米の問題は資本主義よりの離脱である
而して 日本の問題は兩者の問題を兼ね有するものであらう
農業國の文明 ( それこそ永遠の發展性を持つ正統の文明である ) を基調に持つ日本は
その眞面目に歸るべきである
而して 此問題は亜細亜の興起に聯なり 世界の革新に聯なる
世界は縮まつた
要約するに次の時代の問題は
欧州文明の超克 ( 生として用ふ )
創造主義 生産 ( 勤勞 ) を 重んずる農業中心
大亜細亜の建設 ( 共通の祈り )
五、皇軍の行手
右 「 明日の時代 」 に 示した 「 イデオロギー 」 は
一つの示唆に過ぎないが 時代は明白に動きつつある
「 戰爭は政治の延長なり 」 と
果して然りとせば 吾人は由つて以て燃えて立つべき皇軍の意識に進一進なかるべからず
そこに機構に 制度に 教育に改新のある筈である
振り返つて亦眼を國軍の現狀に注がう
國軍の中央部に派閥的抗爭があるとかないとか
それは知らぬとしておいて端的に慊あきた らず慊らず
慊らざりし士官學校教育に思を致せ
敎育者に熱誠なかりしか
否らず
敎育者に人情味なかりしか
然らず
鐡石の規則窮屈なりしか
然らず
我熱膓を鍛ふる好鐡鎚に不足を覺えたるがそれもある
然し それでもない
更に突つ込んで敎育綱領に不満ありしか
否否
敎育綱領こそは
吾人の尊奉して置かざりし所
寧ろ之を尊奉するが故にこそ現狀に慊らざりしものありしに非ずや
胸中一點の聖火ある人よ 心を明にして思へ
一刀兩斷に言はん
「 六十年の伝統の蔭に積り積つた殻だ 垢だ 」
之が新しき方向との間に作る 「 ギャップ 」 が 重苦しく吾人の心胸を壓しつつあつたのだ
おお今や知る
とりもなほさず 之が國軍の現狀ではないか
然らば問ふ
行軍の新しき行手は何処
國軍の殻とは何ぞや
それは血に燃ゆる皇國の靑年將校が今より前者を照し求め
後者を剔抉しようとして奮ひ立つて居るではないか
現代史資料23 国家主義運動3 から