辻原登さん、『マノンの肉体』

 電車で最寄り駅へ戻ってきたところで、自宅へ向かうだーさんに手を振って反対方向に歩きだす。すると、夕立に遭遇した。雷付きだったのでちょっと浮足立ったけれど、本当はわくわくした。晴雨兼用の日傘を持っていたので、濡れそびれちゃったな。

 お盆休みぐらいは実家に顔を出さねばと思ってはいるが、まあ久しぶりに顔を合わせると何やかんやあります。それでいささか疲れ気味になりつつ、少しずつ読んだのがこちらの作品集。 
 『マノンの肉体』、辻原登を読みました。
 

 この一冊に3つの作品が収められている。どの作品もしっかりとした読み応えがあり、嬉しかった。
 そしてその中でもとりわけ一番長い表題作は、面白くてとても好きな作品である。ちょっと、いやかなり不思議な話だったけれど、膠原病になって入院した主人公が娘に『マノン・レスコー』を朗読してもらうという妖しげな設定には、抗いがたく心惹かれるものがあった。そんなきわどい官能を危なげもなく知的に弄びあえる父娘関係なんて、なんとまあ非現実的な話かしら…とも思うが、この二人の距離感が全くべた付いていないので、妙な気持ち悪さは全くない。
 古典として有名な恋愛小説『マノン・レスコー』の中には、肝心な魔性の女マノンについて、その魅力を鮮明に読者に伝える為にはあってしかるべき容貌や肉体に関する描写が一切ない。いつしか“私”の胸裏に、それはいったい何故なのか…という疑問が湧き起こり、するとそれがもう気になって仕方なくなってしまうのだった。私は『マノン・レスコー』は学生の頃に一度読んだきりだが、この辺りはとても興味深く読んでいた。

 でも、この作品の中盤に差し掛かるところで、突然ふっと軸がぶれるように、主旋律がシフトしてしまったという印象を受けた。“私”が、従兄の法要で訪れた赤秀の地で昔の殺人事件のことを耳にすると、そのままその事件の真相究明の方へとのめり込んでいってしまうからである。まるで不意に、“私”がミステリの登場人物にでもなったみたいな展開でもあるが、私はそこも大変に面白かった。 
 もちろんちゃんと底流には、“マノンの肉体”という一貫した謎が横たわっている。そのことと昔の事件へのこだわりとが、どう繋がっていくのかという点にこそ、この作品の核心が隠されている。


 最後に収められている「戸外の紫」は、痛い作品だった。
 どうせ堕ちるならとことん堕ちてしまえ。二度と這い上がることの出来ない光の射さぬ場所まで堕ちて、取り返しがつかないほど泥にまみれてしまえ。どうせ汚れるなら、どうせ駄目になるなら、中途半端な場所に惨めにしがみつくよりも、いっそ何もかも壊してしまえ…。と、人の心の闇に潜む暗く歪んだ欲望がこごったような、怖い作品だった。多かれ少なかれ誰の心にも、崖っぷちに追い詰められたとき、自暴自棄へと向かわずにはいられない衝動の経路が潜んでいるのだろう…と、思えてしまうからこそ、相当に痛い。 
 特製かっぱラーメンとか缶詰ばかりの食事とか、ディテールがまたぞくっとするほど狂気を漂わせていて素晴らしいのだ。

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ひさびさオムライス♪ 「北極星」

8月13日、水曜日。晴れ。 
 だーさん、お盆休み。
 
 今日も昨日もその前も、蝉の死骸が散らばる道々を歩く。本当にこの辺りは蝉が多い。夕方になってから近くの分室まで赴き、一冊本を返して一冊受け取ってきた。  
 返却してきたのは、ジェフリー・フォードの『緑のヴェール』。復路の電車に揺られながら、わくわくと読み終えた。
 面白かったよう…!
 ちょっと時間がないので報告まで。『白い果実』から読んできて、とうとう結末まで読めたことに大満足。あのラストは、つまりこういうことなのかな…?と、希望的憶測交じりの余韻に浸ったことであるよ。

 
 そんな今日、お昼ご飯に向かったのは大阪ミナミ方面。 
 だーさん曰く「洋食にするかも…」。でも、どのお店へ行くのか教えてくれないので、私は黙って引導される人状態。すると…。
 なんば駅から歩き始めてしばらく、見えてきましたるはこんなお店。
 のれんには“オムライス発祥の店”とある。嬉しいよう。
 ここはかねてから行ってみたかった、「北極星」の本店。12時には少し早い到着で、並ばずにすんなり入れた。

 入り口でサンダルを脱いで、案内されたのは奥まった部屋。
 オムライスを頼む前に、とりあえずビール。沙漠のように沁みこむ沁みこむ。このジョッキは、持ち手が細くて握りやすかった。

 有名なお庭の眺められる個室ではなかったけれど、オムライス専門店で座敷ってのが新鮮だった。
 奥の部屋ではあるけれど、徐々に席が埋まっていく。近くの個室からは、楽しそうに盛り上がっている女の子たちの、賑やかな声が聞こえてくる。旅行中みたいな感じだった。

 こんなお庭が見えるとよかったな…(これは会計時に素早く撮ったお庭)。


 はい、こちらはだーさんのオムライス。“きのこオムライス”のオムライスセット。オムライスセットには、海老のフライとお味噌汁が付く。
 海老フライにはちゃんとタルタルソースが添えられていて、いいなぁ。 
 だーさん、開口一番に「この紅ショウガは何…?」。「う~ん、大阪だからかなぁ?」と適当に答えてしまった。

 私は“チキンライス”。 デフォよデフォ。
 ああ、この黄色…。  

 横からも撮っちゃう。なだらかで綺麗な山の形に、ぼってりと盛り上がっている。
 黒いお皿に映える、黄と赤。  

 断面も撮っちゃう。端の方の玉子が半熟で、美味しかったよう。
 中のご飯は意外とあっさりしているけれど、ソースと一緒に頂くとしっかりした味になる。

 オムライスはお腹がいっぱいになるだけじゃなく、ほっこり懐かしさで胸もふくらむ素敵な食べ物だ。今日は発祥のお店で頂けて、よかったなぁ。
 ご馳走さまでした。

 そしてこの後は、道頓堀あたりを散策したり(こんなに暑い日でも、人気のたこ焼きやには行列が…)、梅田に戻ってあちこちを冷やかしたりして出来るだけ歩く。
 それから休憩。
 これは二杯目。だーさんのハーフ&ハーフと、私のアンバサダー。

 ああ、明日は地元。準備して早く寝なければ。

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武田百合子、『富士日記(上)』

 今日はひねもす本読み。ふっと本から離れると、ぼんやり虚ろになってしまう。お盆には少し実家に寄らねばならないので、あれこれ考えそうになってしまう。やでやで。

 なかなか手が出せなかった百合子さんの日記、全三巻を一度に読むのは大変そうなので、一冊ずつを手に取っていくことに決めた。
 『富士日記(上)』、武田百合子を読みました。


 日記文学を読む楽しさというのは、小説のそれとはすこぶる当り前ながら全然違う。そうね、例えば、どんなに抜きん出た才能を持つ人であろうと、そこに“生活”がでんと構えている限り、ありきたりで瑣末な事柄に取り囲まれ、笑ったり怒ったり呆れたり悲しんだりしながら日々をやり過ごしている点では、そんなに他の人たちと変わらないなぁ…なんて、にやにやしながら読むのも楽しい。いかにも昭和らしい食事の内容を見る度に、そんな食卓を囲む3人の様子を想像してしまった。泰淳さんだけ違うメニューが多いのはどうしてなのかな…などと思ったりしつつ。
 そうして、そんな日々の繰り返しの中にこぼされる言葉の端々に、その人らしさや価値観や生き方の癖のようなものが隠しようもなく滲みだしているのを感じると、ますます好きになってしまうのだ。

 それにしてもこの日記の素晴らしさは、百合子さんご自身の放つ鮮やかな魅力に負うところが大きい。真夏の向日葵みたいと言うか、何と言うか…。 
 気難しい上に繊細そうな泰淳さんと、竹と言うよりは鋼をぱっかーん!と割りながら突き進んでいくような元気な個性を振りまく百合子さんという組み合わせは、夫婦の妙としか言いようがなくて感心してしまった。やー、面白かった。
 百合子さんを指した「全的肯定者」という呼び方(埴谷雄高による)にも頷きつつ読んでいて、ちょっと気になったのは、友人知人他人かつて愛読した作家…と、人が亡くなったという記述の多いことであった。淡々とした山の日記の中にこれまた淡々と、例えば近くで人が亡くなった事故のことなどが書き添えられていたりする。“死んだ”、と端的に。
 そんな中で心に残ったのは、こんな個所だった。

〔 今朝がた、湖の裏岸をまわって鳴沢へ戻るとき、河口湖にしては、大へん水が澄んでいて、釣をする人も絵のようにしずかに動かない、うっとりするような真夏の快晴だった。〈こんな日に病気の人は死ぬなあ〉と思いながら車を走らせていたら、梅崎さんが死んだ。涙が出て仕方がない。 〕 121頁

 “こんな日に病気の人は死ぬなあ”って、何だか深くて怖くて凄い。普通だったらむしろ、“何故こんな日にも人が死ぬの?”って思いそうな気がする。見据えているものが全然違うのだろう。

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近場で中華ランチ♪ 「吉芳」

8月10日、日曜日。晴れ。 
 今日もとても良い天気。でも、家での仕事が片付いていないだーさんと二人、ランチを済ませて帰宅した後は、部屋でまったり涼しく過ごしている午後であるよ。そう言えばもうすぐお盆休み…。気だるく夏休みの匂いがする。
 三日ほど前、郵便受けに、以前から少し気になっていたお店のチラシが入っていた。真ん中にでかでかと“生ビール半額”の文字が…。 
 そんな訳で今日のお昼ご飯は、歩いて20分ほどの中華料理のお店「吉芳 芦屋店」でいただくこととした。
 12時開店に合わせて出かけたので、お店にたどり着くのとほぼ同時に入口に暖簾がかけられた。一番乗りの客になるのもかなり久しぶし。

 もどかしく、ビールを頼む。真夏の空の下、日傘をかざしながら、てくてく歩いてたどり着いたのであるからして。
 ぐびびっと呑み干す。
 

 店員さんが半額券を、一杯に一枚ずつ持ってきてくれた。   おかわりを訊きにくるタイミングも素早い。

  アラカルトの黒板メニューが充実していて目移りしたけれど、基本のあたりを選んでみた。
 先に運ばれてきたのは、“餃子3種盛り合わせ〈にんにく入り・えびぷり・キムチ〉”。 
 卓上の酢醤油や胡麻だれでいただく。神戸に近いから味噌だれかと思いきや、特製の胡麻だれ。海老の餃子を胡麻だれにつけてみるといい感じに合うわー。あっという間になくなった。

 だーさんが選んだ“空心菜炒め”。空心菜があると、必ず頼む人である。
 私も好き。こちらのスーパーではなかなか見かけない空心菜。見かけたら買おうと思っているのに。

 ビールも充分頂いたので、そろそろちゃんと食事らしいものを。
 ここの“生湯葉あんかけラーメン”がとても気になっていたけれど、今季はまだ冷麺をいただけていないのが不満だったので、ここぞとばかりに冷麺にしてみた。しかも大好きな湯葉付きだもの。

 はい、これが「生ゆば冷麺」。酢醤油or胡麻だれなので、さっぱりしたくて酢醤油で頼んだ。夏はお酢よ。
 見た目も涼し気ね。

 だーさんが選んだのは、“きっぽう 熟玉ラーメン(しょうゆ味)”。  あっさりシンプルなスープだったそうな。曰く、〆には相応しかったとか。半熟玉子が美味しそうだったなぁ。

 冷麺とラーメンの麺は、同じものだったみたい。細めの平打ち麺でちゃんとこしがあって、私の好みだった。
 ちょっと甘めのタレだったので、お酢を追加してつるつる頂いた。お酢が沢山摂取できたような気がする…!

 そしてまた暑ーい帰り道。日傘の影がほぼ真下にあって、どうしても素足に陽があたってしまう。
 途中でコンビニにより、辛いもの特集の情報誌やらスナック菓子やらを買った。スナック菓子は、酒のツマミが足りなくなった時用のつもりだったのに、一袋はもう開けられて空けられてしまったよ(私もちょっと摘んだ)。そんな日曜日。

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ニューミュンヘン 神戸フラワーロード店

8月9日、土曜日。晴れ。 
 今日も夏らしいお天気。 
 車で所用を済ませてから、いつものように電車で三宮へと向かう。 駅のホームには、よい風が吹いていた。 

 最初に足を向けたのは、駅近くのお蕎麦屋さんだったけれど、店先にて、酒呑みには満足感が得られそうにないお店であることが判明したので(定食は充実しているが、素早く路線変更。

 前回はトアロード店だったが、今回はフラワーロード店の「ニューミュンヘン」へ。食べることより呑み重視の選択であるが、真夏の真昼、“ビール+唐揚げ”のヴィジョンが一旦浮かんでしまったらかき消すことは出来ません…。くふふ。
 通りを見下ろすテーブルに落ち着き、とりあえずビールと名物「丹波地鶏の唐揚げ」をオーダー。
 店内は空いていた。やっぱり夜がメインなのかな。

 でも私たちは今、今こそ!ビールを呑むのだー。
 サッポロビール、美味しい~。

 前回は知らなかった、「ミュンヘン」名物の地鶏唐揚げ。鶏ガラエキスを沁み込ませるために、あえて骨付きのままなのだそうな。
 なかなかのヴォリュームである。 
 鶏好きな私はうきうきしつつも、『カニバリストの告白』の内容をちらと思い出しながら(豚か牛の方が気分がでるけれど)頬張るのであった。

 流石、名物…。旨いよぅ。
 
 ビールを二杯ずつで、ワインに切り替える。
 呑みやすい赤である。

 うっかり忘れそうだったけれど、呑みではなく一応食事である。という訳で、ちゃんと食事になるものをオーダーする。だーさんが選んだ“ドイツウインナーとキャベツのペペロンチーノ”と、私が選んだ“手作りチヂミ”。
 どちらも美味しかった~。 
 特にチヂミはとても久しぶりで、モチモチ感を堪能いたしたわ。実はチヂミは自分で作ってみたこがあるけれど、やっぱり何かが違うのねー。

 一皿目の唐揚げでお腹が膨れそうだったので、後のお料理はゆっくりとしたためた。それで結局、お店をあとにしたのは3時近くである。 
 だーさんは一足先にいつもの二軒目へと向かい、一方私はちょっとジュンク堂などによってみてから(北村さんの新刊は、もちろん購入)、ぶらりぶらりと三宮の休憩所へと逍遥の足を向けてみたのであった。
 帰路にてはうつらうつらと乗り越しつつも、無事に帰宅して二人してうたた寝。そんな今日もまた、愛しき長閑な夏の一日…。

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デヴィッド・マドセン、『カニバリストの告白』

 何か気の利いた一皿でも用意して、それをつつきながら読んだのであったなら、相乗効果でより味わい深く堪能出来かも知れない…(しかし、はなはだ悪趣味だ)。

 タイトルを見て、ふらふらと吸い寄せられた。
 『カニバリストの告白』、デヴィッド・マドセンを読みました。


〔 “肉喰い”の哲学の核にあるのは、愛だ。それは激しく性急で、肉を喰う者は、勃起した少年が潤んだ少女を求めるように肉に恋い焦がれる。それは決して急がず辛抱強く、肉を喰う者は、神秘論者が神のくちづけを待ち望むように肉に思慕を寄せる。 〕 130頁

 このタイトルにこの表紙とくると、見ているだけで胸焼けがしてきそうな一冊である。が、ふふふ、面白かった!
 この悪趣味でおぞましい物語は、刑務所にいる受刑者オーランドーの回想による半生記の部分と、章毎に挿入される精神科医によるカウンセリングの報告書によって進められていく。 
 オーランドーの驚きに満ちた異様な独白は、“私はトログウィルを殺していない”という一言から始まるが、もちろんそれで本当に、彼が何の罪も犯していないということにはならない。駄菓子菓子、自分のしたことには何ら罪悪感がないという不遜で驚異的な意識のあり方も、万人に一人すら持ち得ないまさに天与(そう言ってしまっていいのか…?)の才能ゆえであろうか。
 “食”にひそむ禁断の欲望を飽くことなく追求した、いっそ異形と呼びたくなるほどに稀有で異常な天才の成した、その業とはいったい…?

 常軌を逸した亡き母親への崇拝と憧憬、そして凡庸な父親への憎悪と葛藤。ビストロの繁盛を支えながら彼の欲望を後押ししていく、不思議な男女の双子の存在…などなど、最後の最後まで大変に楽しめた。
 時折美味しそうなレシピが差し挟まれるけれど、食べてみたくなるかというとそれはちょっと…。うぷ。そして大好きなズッキー二を見る度に、思い出してしまいそうな光景が…。  

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アンジェラ・カーター、『夜ごとのサーカス』

 これってどうなのかしら…?と途中でつまづきそうになったものの、結局存分に楽しめてしまった。 あ、読んだのは昨日。
 どんな物語もありのままに受け入れるのが信条なので私はあまり気にしていないけれど、この作品世界の抱え込んだ破天荒さは、或いは瑕なのだろうか? 荒唐無稽、奇想天外が大好物な私でさえもしばしば途方に暮れつつ、でもそれもひっくるめて面白かったなぁ。

『夜ごとのサーカス』、アンジェラ・カーターを読みました。 「MARC」データベースより
〔 19世紀末のロンドン。 翼をもった女空中ブランコ乗りフェヴァーズが語りはじめる。 卵からの誕生、売春宿での少女時代、秘密クラブでのフリークショー…。 やがて舞台は極寒のシベリアへ。 奇想天外でポップなファンタジー。 〕

 物語の出だしは19世紀のロンドン! 19世紀のロンドンというと、なんだか素敵ないかがわしさと、清濁を併せ呑んだ挙げ句に“濁”の方に傾いちゃったみたいな匂いが、ふんぷんと漂ってきそうなのところが大変に好きです。  そんないかがわしさが人の姿をとると、まさにこの物語のヒロインになるのやも知れず…。

 “翼をもった女空中ブランコ乗り”って、比喩でも修辞でもなんでもなかった。 本当にそのままその通り、14歳のある日フェバーズの背中には翼が生えてきたのであった…!のだそうな。 彼女の語るところによれば。
 しかしそれはまた、なんとあり得ない天使だったことか。 メルヘンの香なんぞ薬にもしたくないと言わんばかりに下世話でお下品で大柄な女が、文字通り翼のあるヒロイン“下町のヴィーナス”だなんて! …と思いつつ読んでいるうちに、そんな無茶な設定からどんどん拡がっていく彼女の物語に、すっかり魅了されひき込まれてしまっていたようだ。

 第一部「ロンドン」では、そんなフェバーズの波乱万丈な半生が、若い記者ジャック・ウォルサーに向かって語られる。 そして第二部「ペテルブルク」、第三部「シベリア」と、帝国巡回大サーカスの巡業とともに物語の舞台も移っていくこととなる。 そして、フェバーズの不可解な魅力の引力に抗えなくなってしまったかのように、記者のウォルサーもサーカス団に潜り込んでついてゆくのであった…。 
 サーカスで出会う愉快な仲間や不愉快な仲間たちとともに、不可思議なストーリーは思いがけない方へと雪崩れ込んでいくのである。

 時々物語が奇妙な展開を見せるたびに、この作品が風変りなファンタジーであることを思い出していた。 それを言うならば、ぺてん天使のようなヒロイン・フェバーズの存在そのものがばりばりのファンタジーであるのに、彼女の背中の翼にはすぐに慣れてしまって、当り前な存在でありるかのような錯覚に陥りかけていたらしい。 だって、熱帯の鳥に似せるためにけばけばしい色に染めている翼なんて、聖よりは余程俗な感じで、全然ファンタジーっぽくないのだもの。 でも、あえてそんな風に感じさせるように描いているところが、とても新鮮であったりもした。
 描かれているものが盛り沢山過ぎて書ききれないけれど、読み応えがあって満足でしたよう。   

 ほかの者たちは事の成行きに驚いていたけれど、リズとあたしに分かっていたのは、道化たちが混沌を呼び出してしまったということ、そして混沌はいつも人間世界に遍在しているものだから、合図一つで到来したのだということだけだった。 P.408
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大阪で讃岐♪ 「釜たけうどん」

8月5日、火曜日。晴れ。 
 今日は健康診断の日。朝からちゃっちゃと支度して、だーさんの勤め先まで出向くのであった。お腹が空いてものどが渇いても、検査が終了するまでは何も口に出来ないので、早く終わらせる為には早く出かけるしかないのだっ…。と言いつつ、準急で本を読みながら梅田へ。 
 昔から病院やら検査やらが苦手だから(そーゆー場所で働いていたにも関わらず)、実は昨日からちょっと気が重くなっていた。でも、だーさんが半日休みを取ってくれて、健診が終わったら一緒にランチに行くことになったので、それを心の支えにしたのであったよ。
 
 色々調べてもらえるのはありがたいけれど、かつての勤め先の健診が如何にしょぼい内容であったかがまざまざとわかる項目の多さ。血圧測定、採血、婦人科(自分で採るだけ)、腹囲、聴力…とかとか。 
 そしてとどめは、胃部XPだ! え、こんなに元気なのにバリウム飲むの? てか私、初めてだし。噂に聞くバリウム、ううむ飲めるのかな…。と、頭の中がぐるぐるしていたが、いざとなったら飲むしかあるめえ。そして飲んだ後も大変だった。あり得ない動きを体験したわ。
 朝から何も食べていないのに、空腹感は霧消し食欲減退。何も食べたくない気持ちと、何かで口直しをしたい気持ちとがせめぎ合うのであった。ふう。

 ぐったりしつつも何とか終了したのでロビーでだーさんを待ち、落ち合ってから難波へと移動。平日であることを活かして、休日はいつもお客さんが長蛇の列を成している有名店に行ってみた!
 はいそこは、千日前の「釜たけうどん」でっす。“ちく玉天ぶっかけ”で有名な、讃岐うどんが頂けるお店ですよ。

 小さめな店内での客さばきは、どんどん相席で詰めていく大阪流である。四人がけのテーブルにだーさんと隣り合って座り、さっそくオーダーをしたら「量は普通でいいですか?」と訊かれたので、「少なめも出来るのですか?」と訊き返したら、「少なめはやってません…」と言われちゃった。
 いやそもそも、バリウムを飲んだ後でいただくような代物じゃありませんでしたぜ。

 こちらがだーさんの、“ちく玉天ぶっかけ”。半分くらいのお客さんはこれにしていたみたい。


 私は“ぶっかけ”+半熟玉子天。
 やっぱり多い…(300gくらいあるんだろうか…)。


 大好きなうどんだもの。久しぶりだもの。多くても頑張って頂きます~。と、まずはひと口。…ひゃああ、こしが強い! 聞きしに勝るとはこのことか。しかも麺が太くてごつくて、一本ずつしか食べられないです。だいたい割り箸の一番太いところの二倍ほどの太さなのだ。
 つやがあって、エッジも美しいわ。  玉子のとろとろ具合もよかった。 
 
 はっきり言って、仕舞いには顎が疲れてきた。でも美味しかったので完食出来た。ちょっとそのぉ…食べ終わって数秒間の満腹感が危険なほどだったけれど、食後は難波を歩いて腹ごなしをしたのであった。
 ここは宿題店(なはは…)だったので、一つこなしたぞ~という気分。 

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梅田でたこ焼き♪ 「たこ焼処 蛸之徹」

8月3日、日曜日。晴れ。 
 今日は早めに家を出る。蝉の声が振りかぶる緑の並木道を歩いて最寄駅へ、電車に揺られて梅田方面へ。 
 
 だーさんが観たい映画に合わせ、素早くお昼ご飯を…という段取りだったが、行列と満席の壁に阻まれて予定変更。よく行く地下街へと足を向けた。
 いつも人が並んでいるお店にすんなり入れそうだったのが、だーさんの気を惹いたらしい。「たこ焼きがいいな…」と呟いたので、今日はたこ焼き。

 かなり昔のことだけれど、勤め先の仲間たちと大阪に遊びにきた際にこんなお店に入ったなぁ。大阪の人は家でたこ焼きを作るって聞くから、案外観光客の方に人気があったりして?
 私たちが漂着したその店は、「たこ焼処 蛸之徹」。1979年創業の、元祖“自分で焼くたこ焼屋さん”なのだそうな。
 若い店員さんがぼそぼそと、「油をひいておいてください」などと説明してくれた。どうでもいいが、もちっとはきはきしゃべって下さい。ぶつぶつ…。

 卓上には、タレやソースが3種類も。 

 呑みながら待つことに。

 左が“シソたこ焼”で右がデフォのたこ焼。他にも“カレーたこ焼”やら、えび入り、肉入り、野菜入り…などなどメニュー豊富であった。
 ネギのトッピングまでは店員さんがしてくれるので、紅生姜と天カスを自分たちの好みで追加する。湯気がたち始めると同時に、美味しそうな匂いも漂いだす。ああ、早く早く…。

 時々店員さんが見に来てくれて、ちゃんと助っ人してくれるので心配は要らないようだ。
 でも私、基本お姫さま気質だから、どうしてわざわざ自分で焼かなければいけないのかよくわからないわ…。お店なのに。
 と言いつつも、クルクル回し始めるとまあ楽しい。

 出来あがり♪ さあ食べよ~。


 特製ソースは見るからに濃厚なので使わなかった。二人が一致して気に入ったのは、⑤のソー酢。


 流石に美味しいよ。外側がしっかり焼けていても中はトロトロなままで、それが熱いことと言ったら! 
 一口でいただく勇気はなかったわ…。

 時間が気になっていたので、とりあえずこれでお昼ご飯はおしまい。映画を観にいくだーさんとは一旦別行動にして、私は本屋さんへと向かった。
 そ、そして…。 
 心ゆくまで本屋さんを彷徨った後、待ち合わせの店の近くまで行こうと思い移動をしてみたものの、たどり着けずに2時間近くもうろつき回る破目に陥ってしまった…! とほっ。
 へとへとになっていつもの場所で休憩し、だーさんに迎えに来てもらったのであったよ。梅田、ずいぶん慣れたつもりでいたのににゃ。

 たこ焼きの食事が軽過ぎたので、「Kirin・City」で仕切り直し。マルゲリータと、枝豆入りの棒餃子。

 〆にカクテルを頼んだのだが、名前を覚えていないわ。確かテキーラベースだったような…。
 どうもちょっと酔っ払っちゃって、だーさんが「ついでにラーメンも食べていくかぁ」とかのたまうのに合わせて、「いいよいいよ~」とか言っていたら、「判断力がなくなっている!」と指摘されていた記憶が。そして帰宅後、二人してひと眠り。そんな日曜日。

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タイの屋台料理♪ 「六番」

8月2日、土曜日。くもり。 
 いよいよ8月。特に何をするわけでもありませんが、夏は好きです。ビールが旨いから…だけではないと思うけれど。 
 あ、薄着が好きです。今日は薄いグレーに黄色の入った、不規則な水玉模様のミニワンピースです。レギンスは、履く気になれなくて履きません(だって、折角の薄着感がなくなりませんか?)。

 いつものように所用を済ませて、阪神電車で出かけました。ランチには、私がリクエストしたお店へお邪魔してみることになりました。
 元町駅から歩いてすぐの、タイ料理のお店です。屋台の味が頂けるのだとか。
 はい、そこは「六番」というお店でっす。なぜ“六番”なのか、私も知りたい…。

 細長い店内は生憎満席でしたが、手前のお客さんが食事を済ませたところだったらしく、ささっとテーブルを空けて頂けました。ありがたや。
 お店の中の雰囲気は、なるほどここだったら屋台の味に出会えるかも…と思わせてくれる、ほど良いカジュアルさに満たされていましたよ。そして女の子の店員さんも含め、働いているのは現地出身の方たちのようでした。シェフもタイ人ということなので、期待がますます高まりますね。

 兎に角、ビールビール。


 さてさて、ここからが長かったです…。
 ビールのお次はタイ焼酎のロックにしたので、「玉子焼きが先だといいね…」と話していたのだけれど、なかなか希望通りにはいきません。

 まずはだーさんオーダーの、“トムヤンクンラーメン”が運ばれてきました。美味しそう♪
 ラーメンと言ってもつまりフォーですね。味見を貰ったら大好きな味でした。パクチーが香って、すっぱ辛くって美味ですー。

 だーさんがラーメンを食べ終わってから、こちらが運ばれてきました。“カイチアウムーサップ”です。タイ風玉子焼きという説明でしたが、むしろ揚げてあるような具合です。
 周りがパリパリしていて中はフワッ。チリソースをつけてもいけます。

 お皿を下げに来てくれた女の子が、「すみません、まだご飯を炊いているのでもう少し待って下さい」。おお、私のオーダーは時間がかかるものでしたのね。でも、特別な感じがするのでそれも嬉しいです。ふふふ、まだかなまだかな…。

 来店から1時間近く経っていましたけれど、やっと私のお目当てが出来上がりました。これこれ、“カオマンガイ”です。説明は蒸し鶏ご飯となっています。鶏好きには素通りできない一皿です。わ~い♪
 そう言えばお腹がペコペコだった…!
 ビールと玉子焼きで騙していたものの、全然満たされていたかったのだ…! と、嬉しく頬張りつつ、しつこくだーさんに勧める私。だって、「チキンスープでご飯を炊くんだよ」と説明したら、もの凄く疑り深い目をしたのですもの。


 結局ほぼ一人でいただきました。だーさんにはご飯を少し手伝ってもらっただけで、結構ぺろりといけちゃいました。ほろりと柔らかな蒸し鶏は、甘辛いたれをかけてもかけなくってもグーよ♪
 タイ料理をいただく度に、パクチーぶらぼ!と叫びたい私でした。ニンニクの風味も良かったですし、大満足ですわ。ごちそうさまでした♪

 この後三宮の方へと移動をし、私はちょっとランジェリーの購入など。おほほ。下着類の買い物は心弾みますね。さり気ない顔で選びながら、内心るんるん♪

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