恩田陸さん、『不連続の世界』

 恩田さんの新刊だぞ!それいっ!とばかりにダッシュしたのは、図書館のカウンター。一番乗りで取り寄せてもらいました。その割には、返却期限ぎりぎりで読んでいる…。  
 恩田さんの作品は購入することが多いですが、苦手な『月の裏側』に出てくる多聞が活躍する連作集と知り、いささか期待感が薄まってしまったことは否めないかも…。あ、どうして『月の裏側』が苦手かと言えば、生理的にどうにも気持ち悪かったから。ある意味作者の思う壺ですな…。 

 でも、これはなかなか面白かったです。“怖い話とおかしい話もほんの僅かな距離のところにある”という一文にぶつかったとき、「ああ!」と合点がいきました。
 『不連続の世界』、恩田陸を読みました。
 

  一話目の「木守り男」の初っ端から、“日本人と桜”考のようなものがあったりして、私は恩田さんの〇〇〇考(のようなもの?)を読むのが大好きなのでさっそくにんまり。

 8年間にわたりぽつぽつと発表された作品たちということで、その散りばめられ方具合が楽しめる。 
 『月の裏側』もそうだったように、独特な雰囲気を持つ町がそれぞれの話の舞台となり、例えば「悪魔を憐れむ歌」ならN市、「幻影キネマ」がH県O市、といった按配のトラベルミステリーになっている。この、イニシャル化された町が出てくるところが恩田さんらしくて、「あ、ここは限りなく奈良市に近いけれども実はどこにもない虚構の奈良市なんだなぁ…」と頷いたりしながら読んでいた。 
 地方の町がとても巧みに描かれていて、ほんのちょっとした、その町だけに特有な空気感の違いを捉えた筆致に、いつしか私までもその町の底によどむ澱の中に浸かっているみたいな心地にさせられた。すぐにでもその場所へと訪れて、その雰囲気を確かめてみたくなったりもする。

 とりわけ私が好きだったのは、「悪魔を憐れむ歌」や「幻影キネマ」。
 「悪魔を憐れむ歌」では、“その声を聴いて、何人もの人間が不審な死に方をした”という、ある歌をめぐる都市伝説のような話がまず出てくる。そして歌い手には、セイレンという通り名がつけられていた。ところが、その噂の立ち方にはいささか不自然なところがあり、噂が消えた頃に好奇心が湧いてきた多聞が調べ始めると、意外な展開が待っている。 
 前半から後半に入ったところで、さあっと目の前の景色の色合いが変わってしまった気がしたほど、鮮やかな切り返しに唸った作品。 

 「幻影キネマ」は、一番ぞくっとした話だ。特に、謎解きされて明かされたことの一部については、想像してしまうと背筋が凍りつきそうだった。
 ミュージッククリップのロケハンメンバーがO市に到着した時から、久し振りに郷里の地を踏んだはずなのに、沈んだ様子のメンバーが一人いた。実は彼の異様に見える表情は、根深い恐怖に縁取られているのであった。では、彼はいったい何をそんなに恐れているのか? 話を聴きだした多聞が、彼を救うために辿り着いた新事実とは…。

 多聞のキャラクターも興味深いなぁ…と思いながら読んでいたので、「夜明けのガスパール」の暗転にはのけ反りつつも感心した。恩田さんが描く人物が決して単純じゃないところに、いつも共感してしまう。 
 でもちょっと、分析好きな人が多過ぎるかなぁ…。やたらと他人を分析してわかったような気になるのは、相手に対して失礼だと思うのでひっかかるところである。もちろん読む分にはとても面白いので、文句は言えないのだけれど。

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