デヴィッド・マドセン、『カニバリストの告白』

 何か気の利いた一皿でも用意して、それをつつきながら読んだのであったなら、相乗効果でより味わい深く堪能出来かも知れない…(しかし、はなはだ悪趣味だ)。

 タイトルを見て、ふらふらと吸い寄せられた。
 『カニバリストの告白』、デヴィッド・マドセンを読みました。


〔 “肉喰い”の哲学の核にあるのは、愛だ。それは激しく性急で、肉を喰う者は、勃起した少年が潤んだ少女を求めるように肉に恋い焦がれる。それは決して急がず辛抱強く、肉を喰う者は、神秘論者が神のくちづけを待ち望むように肉に思慕を寄せる。 〕 130頁

 このタイトルにこの表紙とくると、見ているだけで胸焼けがしてきそうな一冊である。が、ふふふ、面白かった!
 この悪趣味でおぞましい物語は、刑務所にいる受刑者オーランドーの回想による半生記の部分と、章毎に挿入される精神科医によるカウンセリングの報告書によって進められていく。 
 オーランドーの驚きに満ちた異様な独白は、“私はトログウィルを殺していない”という一言から始まるが、もちろんそれで本当に、彼が何の罪も犯していないということにはならない。駄菓子菓子、自分のしたことには何ら罪悪感がないという不遜で驚異的な意識のあり方も、万人に一人すら持ち得ないまさに天与(そう言ってしまっていいのか…?)の才能ゆえであろうか。
 “食”にひそむ禁断の欲望を飽くことなく追求した、いっそ異形と呼びたくなるほどに稀有で異常な天才の成した、その業とはいったい…?

 常軌を逸した亡き母親への崇拝と憧憬、そして凡庸な父親への憎悪と葛藤。ビストロの繁盛を支えながら彼の欲望を後押ししていく、不思議な男女の双子の存在…などなど、最後の最後まで大変に楽しめた。
 時折美味しそうなレシピが差し挟まれるけれど、食べてみたくなるかというとそれはちょっと…。うぷ。そして大好きなズッキー二を見る度に、思い出してしまいそうな光景が…。  

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