アンジェラ・カーター、『夜ごとのサーカス』

 これってどうなのかしら…?と途中でつまづきそうになったものの、結局存分に楽しめてしまった。 あ、読んだのは昨日。
 どんな物語もありのままに受け入れるのが信条なので私はあまり気にしていないけれど、この作品世界の抱え込んだ破天荒さは、或いは瑕なのだろうか? 荒唐無稽、奇想天外が大好物な私でさえもしばしば途方に暮れつつ、でもそれもひっくるめて面白かったなぁ。

『夜ごとのサーカス』、アンジェラ・カーターを読みました。 「MARC」データベースより
〔 19世紀末のロンドン。 翼をもった女空中ブランコ乗りフェヴァーズが語りはじめる。 卵からの誕生、売春宿での少女時代、秘密クラブでのフリークショー…。 やがて舞台は極寒のシベリアへ。 奇想天外でポップなファンタジー。 〕

 物語の出だしは19世紀のロンドン! 19世紀のロンドンというと、なんだか素敵ないかがわしさと、清濁を併せ呑んだ挙げ句に“濁”の方に傾いちゃったみたいな匂いが、ふんぷんと漂ってきそうなのところが大変に好きです。  そんないかがわしさが人の姿をとると、まさにこの物語のヒロインになるのやも知れず…。

 “翼をもった女空中ブランコ乗り”って、比喩でも修辞でもなんでもなかった。 本当にそのままその通り、14歳のある日フェバーズの背中には翼が生えてきたのであった…!のだそうな。 彼女の語るところによれば。
 しかしそれはまた、なんとあり得ない天使だったことか。 メルヘンの香なんぞ薬にもしたくないと言わんばかりに下世話でお下品で大柄な女が、文字通り翼のあるヒロイン“下町のヴィーナス”だなんて! …と思いつつ読んでいるうちに、そんな無茶な設定からどんどん拡がっていく彼女の物語に、すっかり魅了されひき込まれてしまっていたようだ。

 第一部「ロンドン」では、そんなフェバーズの波乱万丈な半生が、若い記者ジャック・ウォルサーに向かって語られる。 そして第二部「ペテルブルク」、第三部「シベリア」と、帝国巡回大サーカスの巡業とともに物語の舞台も移っていくこととなる。 そして、フェバーズの不可解な魅力の引力に抗えなくなってしまったかのように、記者のウォルサーもサーカス団に潜り込んでついてゆくのであった…。 
 サーカスで出会う愉快な仲間や不愉快な仲間たちとともに、不可思議なストーリーは思いがけない方へと雪崩れ込んでいくのである。

 時々物語が奇妙な展開を見せるたびに、この作品が風変りなファンタジーであることを思い出していた。 それを言うならば、ぺてん天使のようなヒロイン・フェバーズの存在そのものがばりばりのファンタジーであるのに、彼女の背中の翼にはすぐに慣れてしまって、当り前な存在でありるかのような錯覚に陥りかけていたらしい。 だって、熱帯の鳥に似せるためにけばけばしい色に染めている翼なんて、聖よりは余程俗な感じで、全然ファンタジーっぽくないのだもの。 でも、あえてそんな風に感じさせるように描いているところが、とても新鮮であったりもした。
 描かれているものが盛り沢山過ぎて書ききれないけれど、読み応えがあって満足でしたよう。   

 ほかの者たちは事の成行きに驚いていたけれど、リズとあたしに分かっていたのは、道化たちが混沌を呼び出してしまったということ、そして混沌はいつも人間世界に遍在しているものだから、合図一つで到来したのだということだけだった。 P.408
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )
« 大阪で讃岐♪ ... デヴィッド・... »