ぴか の観劇(芸術鑑賞)日記

宝塚から始まった観劇人生。ミュージカル、ストレートプレイ、歌舞伎、映画やTVドラマ等も書きます。

10/05/23 五月文楽第一部①大スペクタクルの「金閣寺」

2010-06-01 23:59:46 | 観劇

「祇園祭礼信仰記(ぎおんさいれいしんこうき)」は四段目の「金閣寺」のみが上演されている。これまで歌舞伎では雀右衛門→福助→玉三郎亀治郎の雪姫で観ている。
文楽では今回が初見のはず。爪先鼠のところは桜の花びらを下から上に撒き上げるのだが、TVの文楽入門で観た記憶だろうか。
Yahoo!百科事典の「祇園祭礼信仰記」の項はこちら
【祇園祭礼信仰記】金閣寺の段、爪先鼠の段
(主な人形役割)
雪姫=勘十郎 此下東吉実は真柴久吉=吉田玉女
松永大膳=吉田玉也 松永鬼藤太=吉田勘緑
狩野之介直信=桐竹勘壽
十河軍平実は佐藤正清=吉田玉輝
慶寿院尼=吉田勘彌(玉英さんが亡くなっての代演。テンプルさんに教えていただき感謝!)、ほか
<金閣寺の段>
  豊竹呂勢大夫・鶴澤清治
<爪先鼠の段>
  竹本津駒大夫・鶴澤寛治
後 竹本文字久大夫・野澤喜一朗

文楽では桜の樹は下手、金閣寺の滝の側にある。上手屋台から雪姫が赤い振袖で登場するのが新鮮。歌舞伎では雪姫が既婚者だということで姫役の赤い振袖ではなく、鴇色の振袖を着ることが多いのだという。

その雪姫に横恋慕して迫る松永大膳が歌舞伎よりも好色ぶりが強調されている。人質の慶寿院尼を押し込めている最上階の天井に墨絵の龍を描くか、我が意にそえと迫るのだが、家の秘伝の書が奪われたために龍は描けないと断られ、夫直信に操をたてると断られると、その直信を殺されたくなければ、色よい返事をと放置する。腰元たちに饗応させながら監視をさせる「布団の上の地獄責め」状態。平清盛に身を任せて子どもを救った常盤御膳に倣うつもりになってようやく決意を固める雪姫。
敵方を裏切って仕官してきた此下東吉の人物を試そうと、囲碁の勝負に夢中になり、雪姫の申し出にも気がつかない。久吉との勝負に負けるとカッとなり、井戸に碁笥を投げ込んで手を濡らさずにとれと無理難題。歌舞伎では座頭格がつとめる松永大膳だが、文楽ではかなり笑える人物になっている。
床の呂勢大夫と清治が、豪胆な久吉と笑える大膳をメリハリよく語るのが快感。

二者択一のはずだったのに、大膳は雪姫に龍の絵まで描けと迫り、手本はここにあるとばかりに刀を滝にかざすと龍の姿が浮かび上がる。ここで大膳こそ父雪村の敵と知った雪姫は、家伝の宝刀の倶梨伽羅丸を奪って斬りかかるがあえなく押さえ込まれ、踏みつけられる。雪姫の髪には短冊状の部分がついた銀の花簪までつけていて、それが痛ましい姿で揺れるのが被虐美を増すのかもしれない。

後ろ手にされて桜の樹に縛りつけられた雪姫を遣う勘十郎に集中。右手が不要なので袴に入れて左手一本で遣う姿に見入ってしまった。前を夫直信が引き立てられていき、なんとかこの場を逃れようと思案にくれる。柱に身を反らせてもたれかかって思案する姿がなんとも気丈で美しい。このポーズのアップが筋書の表紙になっている(表紙を携帯で撮影しているのが冒頭写真)。祖父雪舟の故事に倣い、爪先で桜の花びらをかき寄せて鼠の絵を描き、奇跡を起こす。その奇跡を起こす力がいかにもありそうな勘十郎の遣う雪姫だった。
逃亡を阻もうとした鬼藤太を久吉が仕留め、姫を船岡山に行かせるが、文楽では意図的に刀を抜いて髪を直す事も確認。色気というよりも、気丈な女が居住まいを正す感じだった。

さて、この段の後半が実にスペクタクルで感心した。歌舞伎でも金閣寺の大道具が大きく動いて慶寿院尼のいる最上階にいくのだが、文楽はしっかり三層になっていてびっくり!劇場が小さいだけに舞台転換はよりダイナミックにできるところが文楽の面白さだと痛感。
救出にきたことを慶寿院尼に納得させ、ひとまず二層の階に移動。二層の部分から竹の先端に慶寿院尼をくくりつけ、しなわせて自分の陣営に飛ばすのだから恐れ入る。まいりましたm(_ _)m

さらに一階に戻って大膳を探すと、上手の屋台に防衛用の鉄格子が入っていて大膳に手が出せないようになっていた。抜け穴でもつくってあって逃げるのだろうか?!歌舞伎ではこんな仕掛けはない。
大膳の本拠の信貴での決戦を約しての幕切れは一緒だが、大膳が格子の中にいるままというのがなんとも可笑しい。文楽での立役の主役はあくまでも此下東吉実は真柴久吉ということだと納得した。

まさに文楽ならでは、人形ならではの演出に大満足。これだから文楽観劇もやめられなくなっている。

写真は今公演の筋書の表紙を携帯で撮影したもの。
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